特許第5887214号(P5887214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887214
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】光電変換層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/18 20060101AFI20160303BHJP
   H01L 31/072 20120101ALI20160303BHJP
   H01L 31/0749 20120101ALI20160303BHJP
【FI】
   H01L31/04 422
   H01L31/06 400
   H01L31/06 460
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-125224(P2012-125224)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-251403(P2013-251403A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓
【審査官】 清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−028380(JP,A)
【文献】 特表2011−515833(JP,A)
【文献】 特開2010−225829(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0021559(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/18 − 31/20
H01L 31/072 − 31/0749
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機P型半導体化合物粒子を含有する無機P型半導体化合物粒子分散液を塗工する工程、及び、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液に対して、照射強度が10〜25J/cmパルス幅が0.1〜2msパルス光である白色光を照射することにより、光電変換層を形成する工程を有し、
前記無機P型半導体化合物粒子は、平均粒子径が1〜50nmである
ことを特徴とする光電変換層の製造方法。
【請求項2】
無機P型半導体化合物は、ZTSであることを特徴とする請求項1記載の光電変換層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜性に優れ、所望の組成を有する光電変換層を形成することが可能な光電変換層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、化石燃料の枯渇問題や地球温暖化問題を背景に、クリーンエネルギー源として近年大変注目されてきており、研究開発が盛んに行なわれるようになってきている。
従来、実用化されてきたのは、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi等に代表されるシリコン系太陽電池であるが、高価であることや原料Siの不足問題等が表面化するにつれて、次世代太陽電池への要求が高まりつつある。
【0003】
これに対応する太陽電池として、近年CIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)、CZTS(銅、亜鉛、錫、硫黄、あるいはセレン+硫黄)等の無機P型半導体化合物を光電変換層に用いた化合物系太陽電池が注目を浴びている。化合物系太陽電池は一般的にシリコン系太陽電池と比べて光吸収係数が高く、材料自体が安価であることに加え、薄膜状でも充分な変換効率を得ることが出来ることから、シリコン系太陽電池に次ぐ次世代の太陽電池として大変注目を集めている。
このような化合物系太陽電池では、所望の性能を実現する上で、光電変換層の形状や組成等が極めて重要となるが、光電変換層を形成する有用な方法は確立されていない。現状は、各金属元素をスパッタ法等に代表される真空法にて成膜し、更にセレンや硫黄ガス雰囲気下において高温で焼成するといった複雑なプロセスを経て形成されているが、このプロセスでは真空化に要する時間が必要となり、また、装置を厳密に制御する必要があった。更に特殊な加熱装置等が必要となり、複雑で大型の製造装置を要していた。従って、大規模な製造施設を要することなく、量産性に優れた生産効率の良い代替方法が望まれていた。
【0004】
これらに対して、量産性に優れた代替方法として、無機P型半導体化合物ナノ粒子を含有するナノ粒子分散液を用いて、光電変換層を形成する方法が検討されている(例えば、特許文献1等)。この方法では、低コストで簡便に光電変換層を製造することができる。
しかしながら、更なる低コスト化のためにガラス基板ではなく、樹脂基板を用いて、低温成膜を行う場合においては、粒子間の融合が不充分となるため、所望の性能を有する光電変換層を安定して製造することは困難であった。加えて、セレンや硫黄といった元素は低温加熱時おいても分解しやすく、各金属やその酸化物の薄膜となってしまい、光電変換層として機能しなくなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−129564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、成膜性に優れ、所望の組成を有する光電変換層を形成することが可能な光電変換層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、無機P型半導体化合物粒子を含有する無機P型半導体化合物粒子分散液を塗工する工程、及び、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液に対して、照射強度が10〜25J/cmパルス幅が0.1〜2msパルス光である白色光を照射することにより、光電変換層を形成する工程を有し、前記無機P型半導体化合物粒子は、平均粒子径が1〜50nmである光電変換層の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、無機P型半導体化合物粒子を含有する無機P型半導体化合物粒子分散液を用いて光電変換層を形成する方法において、加熱乾燥を行う工程に代えて、所定の照射強度及びパルス幅を有するパルス光を照射する工程を行うことで、成膜性に優れ、無機P型半導体化合物として光吸収係数の高い所望の組成を有する光電変換層を形成することができ、例えば、化合物系太陽電池等に使用した場合に、光電流値が増加して、変換効率を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の光電変換層の製造方法では、まず、無機P型半導体化合物粒子を含有する無機P型半導体化合物粒子分散液を塗工する工程を行う。
【0010】
上記無機P型半導体化合物粒子としては、例えば、CIS(銅、インジウム、セレン)、CIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)等のカルコパイライト系化合物、CZTS(銅、亜鉛、錫、硫黄、又は、銅、亜鉛、錫、セレン、硫黄)等の半導体の一種または二種以上を用いることができる。なかでも、稀少元素を用いないCZTSが好ましい。
なお、上記カルコパイライト系化合物とは、Cu,Ag等の元素周期律表Ib族金属及びAl,Ga,In等の元素周期律表IIIb族金属並びにS,Se,Te等のカルコゲン元素からなり、カルコパイライト(黄銅鉱)型構造をとる化合物を総称したものである。
【0011】
上記無機P型半導体化合物粒子は、平均粒子径の好ましい下限が1nm、好ましい上限が50nmである。上記無機P型半導体化合物粒子の平均粒子径が1nm未満であると分散状態を制御するのが困難となり、印刷プロセスによる形成時に均一且つ平滑な層を得ることが困難となる。上記無機P型半導体化合物粒子の平均粒子径が50nmを超えると、焼結性が低下することから高温での焼成プロセスが必要となり、熱分解の影響を強く受けることとなる。上記無機P型半導体化合物粒子の平均粒子径の更に好ましい下限は2nm、更に好ましい上限は25nmである。
【0012】
上記無機P型半導体化合物粒子分散液全体に対する上記無機P型半導体化合物粒子の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は50重量%である。上記無機P型半導体化合物粒子の含有量が1重量%未満であると、成膜時に得られる膜厚が薄く不均一なものとなり、電荷の輸送に必要な無機P型半導体化合物粒子同士の接続や、電極との接続に乏しく、充分なエネルギー変換効率を得ることができないことがあり、50重量%を超えると、分散液中での分散安定性が低下し、均一な成膜が出来なくなることから、化合物系太陽電池としての積層構造を構築できないことがある。
【0013】
上記無機P型半導体化合物粒子を製造する方法としては、例えば、CZTSからなる無機P型半導体化合物粒子を製造する場合は、有機溶剤に亜鉛、銅、錫の金属塩を添加した後、湯浴中で攪拌しながら、硫黄化合物を添加、撹拌することにより、無機P型半導体化合物粒子分散液を得る方法等を用いることができる。
なお、上記方法を用いる場合は、反応条件を変更することにより、平均粒子径の範囲を調整することができる。
また、上記無機P型半導体化合物粒子を製造する方法として、CVD法、PVD法、粉砕法等の乾式法や、マイクロエマルション法等の湿式法等が適用可能である。
【0014】
上記無機P型半導体化合物粒子分散液は、分散媒として有機溶剤を含有することが好ましい。
上記有機溶剤としては例えば、クロロホルム、クロロベンゼン、オルト−ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記有機溶剤の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は50重量%、好ましい上限は99重量%である。上記有機溶剤の含有量が50重量%未満であると、インクの粘度が高くなりすぎることがある。上記有機溶剤の含有量が99重量%を超えると、充分な厚みの光電変換層が得られないことがある。
【0016】
上記無機P型半導体化合物粒子分散液の塗工方法としては特に限定されず、例えば、ダイコート法、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法、スピンコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0017】
本発明の光電変換層の製造方法では、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液に対して、照射強度が10J/cm以上、パルス幅が2ms以下のパルス光である白色光を照射することにより、光電変換層を形成する工程を行う。
このような工程では、加熱を行わずに光電変換層を形成することが可能となることから、無機P型半導体化合物粒子の熱分解を引き起こすことがなく、所望の組成を有する光電変換層を形成することができる。また、得られる光電変換層の焼結状態も適度なものとなり、成膜性に優れた製法を実現することができる。
【0018】
上記白色光は、パルス幅の小さい白色光パルス(パルス光)である。本発明ではこのようなパルス光を用いることで、連続照射による被照射面への蓄熱を防止することができる。
【0019】
上記パルス光は、パルス幅が2ms以下である。これにより、瞬間的に強力な光エネルギーを照射することが出来、尚且つ、蓄熱による熱分解を防ぐことが出来る。好ましくは、0.1〜2msである。
【0020】
上記白色光の照射強度としては特に限定されないが、10J/cm以上である。これにより、加熱乾燥に代わる粒子間の融合に充分なエネルギーを加えることが出来る。好ましくは、15〜25J/cmである。また、照射時間及び回数は、量産性及び蓄熱による熱分解防止の観点から、1時間以内で且つ100回以内の照射であることが望ましい。
【0021】
上記白色光を照射するための手段としては、ハロゲンフラッシュランプ、キセノンフラッシュランプ、LEDフラッシュランプ等が挙げられるが、特にキセノンフラッシュランプを用いることが好ましい。
【0022】
本発明の光電変換層の製造方法では、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液に白色光を照射する際に、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液の厚みを0.01〜50μmとすることが好ましい。
上記範囲内とすることで、面内及び膜厚方向のどちらにも一様に粒子間焼結した光電変換層を得ることが出来る。
【0023】
本発明の光電変換層の製造方法を用いることで、成膜性に優れ、所望の組成を有する光電変換層を形成することができる。また、得られた光電変換層は、化合物系太陽電池等に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、成膜性に優れ、無機P型半導体化合物として光吸収係数の高い所望の組成を有する光電変換層を形成することが可能な光電変換層の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1で得られた光電変換層の断面を、FE−TEMを用いて観察した顕微鏡像である。
図2】比較例2で得られた光電変換層の断面を、FE−TEMを用いて観察した顕微鏡像である。
図3】実施例及び比較例で得られた無機P型半導体化合物粒子のX線回折の測定結果である。
図4】比較例1で得られた光電変換層のX線回折の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0027】
(実施例1)
(無機P型半導体化合物粒子分散液の作製)
酢酸銅1.0重量部と酢酸亜鉛0.5重量部と酢酸スズ0.7重量部とをオレイルアミン100重量部に溶解し、攪拌しながら硫黄粉末0.4重量部をオレイルアミン50重量部に溶解した液を滴下し、その後250℃で1時間加熱攪拌を続けることにより、無機P型半導体化合物粒子(平均粒子径10nm)を得た。
次いで、遠心分離及び上澄み除去し、沈殿物を回収することによって無機P型半導体化合物粒子の洗浄回収を行った。その後、無機P型半導体化合物粒子1.00重量部をクロロホルム49.0重量部に分散させることで、無機P型半導体化合物粒子分散液を調製した。
【0028】
(光電変換層の形成)
得られた無機P型半導体化合物粒子分散液を基板表面にスピンコート法により1μmの厚みに塗工し、キセノンフラッシュランプ(ウシオ電機社製、FUV−201)を用いて照射強度20J/cm、パルス幅2msの条件において5回照射することによって光電変換層を形成した。
【0029】
(実施例2)
実施例1の(光電変換層の形成)において、照射強度を10J/cmとした以外は実施例1と同様にして光電変換層を形成した。
【0030】
(実施例3)
実施例1の(無機P型半導体化合物粒子分散液の作製)において、酢酸銅1.0重量部と酢酸インジウム1.6重量部をオレイルアミン100重量部に溶解し、攪拌しながらセレン粉末0.9重量部をオレイルアミン50重量部に溶解した液を滴下し、その後250℃で1時間加熱攪拌を続けることにより、無機P型半導体化合物粒子(平均粒子径10nm)を得たこと以外は実施例1と同様にして光電変換層を形成した。
【0031】
(比較例1)
実施例1の(光電変換層の形成)において、得られた無機P型半導体化合物粒子分散液を基板表面にスピンコート法により1μmの厚みに塗工し、300℃、1時間の条件において加熱した以外は実施例1と同様にして光電変換層を形成した。
【0032】
(比較例2)
実施例1の(光電変換層の形成)において、得られた無機P型半導体化合物粒子分散液を基板表面にスピンコート法により1μmの厚みに塗工し、150℃、1時間の条件において加熱した以外は実施例1と同様にして光電変換層を形成した。
【0033】
(比較例3)
実施例1の(光電変換層の形成)において、照射強度を7.5J/cmとした以外は実施例1と同様にして光電変換層を形成した。
【0034】
(比較例4)
実施例1の(光電変換層の形成)において、パルス幅を2.5msとした以外は実施例1と同様にして光電変換層を形成した。
【0035】
<評価>
実施例及び比較例で得られた光電変換層について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0036】
(1)焼結状態の確認
得られた光電変換層の断面をFE−TEMを用いて観察し、その中において粒子形状のものを100個抽出し、その平均粒子径を求めた。平均粒子径が20nm以上のもの(即ち粒子同士が焼結しているもの)を「○」、平均粒子径が20nm未満のもの(即ち粒子同士が焼結していないもの)を「×」として評価した。
また、実施例1及び比較例2で得られた光電変換層の断面を、FE−TEMを用いて観察した場合の顕微鏡像を図1、2に示す。
【0037】
(2)組成変化の確認
得られた無機P型半導体化合物粒子及び光電変換層をX線回折装置(リガク社製、Ultima III)を用いて分析を行い、無機P型半導体化合物粒子と同様のピークのもの(即ちCIS及びCZTS組成のもの)を「○」、異なるピークのもの(即ち分解したセレン化物及び硫化物や金属単体のピークが検出されているもの)を「×」として評価した。
また、実施例1、2及び比較例1、2、3、4で得られた無機P型半導体化合物粒子(CZTS)をX線回折で評価した場合のチャートを図3に、比較例1で得られた光電変換層をX線回折で評価した場合のチャートを図4に示す。
横軸は回折角、縦軸は強度を表し、CZTSの場合、図3の直線ピークのある2θの位置に、直線の強度比と同様のピークが得られることが知られており、図3から、得られた無機P型半導体化合物粒子は確かにCZTSであり、図3図4とを比較すると、成膜の前後で無機P型半導体化合物の組成が変化しており、CZTSを構成する元素の化合物の集合体であるため、比較例1の光電変換層は熱分解していることが分かる。
【0038】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、成膜性に優れ、無機P型半導体化合物として光吸収係数の高い所望の組成を有する光電変換層を形成することが可能な光電変換層の製造方法を提供できる。
図4
図1
図2
図3