【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、無機P型半導体化合物粒子を含有する無機P型半導体化合物粒子分散液を塗工する工程、及び、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液に対して、照射強度が10
〜25J/cm
2、パルス幅が
0.1〜2ms
のパルス光である白色光を照射することにより、光電変換層を形成する工程を有
し、前記無機P型半導体化合物粒子は、平均粒子径が1〜50nmである光電変換層の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、無機P型半導体化合物粒子を含有する無機P型半導体化合物粒子分散液を用いて光電変換層を形成する方法において、加熱乾燥を行う工程に代えて、所定の照射強度及びパルス幅を有するパルス光を照射する工程を行うことで、成膜性に優れ、無機P型半導体化合物として光吸収係数の高い所望の組成を有する光電変換層を形成することができ、例えば、化合物系太陽電池等に使用した場合に、光電流値が増加して、変換効率を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の光電変換層の製造方法では、まず、無機P型半導体化合物粒子を含有する無機P型半導体化合物粒子分散液を塗工する工程を行う。
【0010】
上記無機P型半導体化合物粒子としては、例えば、CIS(銅、インジウム、セレン)、CIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)等のカルコパイライト系化合物、CZTS(銅、亜鉛、錫、硫黄、又は、銅、亜鉛、錫、セレン、硫黄)等の半導体の一種または二種以上を用いることができる。なかでも、稀少元素を用いないCZTSが好ましい。
なお、上記カルコパイライト系化合物とは、Cu,Ag等の元素周期律表Ib族金属及びAl,Ga,In等の元素周期律表IIIb族金属並びにS,Se,Te等のカルコゲン元素からなり、カルコパイライト(黄銅鉱)型構造をとる化合物を総称したものである。
【0011】
上記無機P型半導体化合物粒子は、平均粒子径の好ましい下限が1nm、好ましい上限が50nmである。上記無機P型半導体化合物粒子の平均粒子径が1nm未満であると分散状態を制御するのが困難となり、印刷プロセスによる形成時に均一且つ平滑な層を得ることが困難となる。上記無機P型半導体化合物粒子の平均粒子径が50nmを超えると、焼結性が低下することから高温での焼成プロセスが必要となり、熱分解の影響を強く受けることとなる。上記無機P型半導体化合物粒子の平均粒子径の更に好ましい下限は2nm、更に好ましい上限は25nmである。
【0012】
上記無機P型半導体化合物粒子分散液全体に対する上記無機P型半導体化合物粒子の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は50重量%である。上記無機P型半導体化合物粒子の含有量が1重量%未満であると、成膜時に得られる膜厚が薄く不均一なものとなり、電荷の輸送に必要な無機P型半導体化合物粒子同士の接続や、電極との接続に乏しく、充分なエネルギー変換効率を得ることができないことがあり、50重量%を超えると、分散液中での分散安定性が低下し、均一な成膜が出来なくなることから、化合物系太陽電池としての積層構造を構築できないことがある。
【0013】
上記無機P型半導体化合物粒子を製造する方法としては、例えば、CZTSからなる無機P型半導体化合物粒子を製造する場合は、有機溶剤に亜鉛、銅、錫の金属塩を添加した後、湯浴中で攪拌しながら、硫黄化合物を添加、撹拌することにより、無機P型半導体化合物粒子分散液を得る方法等を用いることができる。
なお、上記方法を用いる場合は、反応条件を変更することにより、平均粒子径の範囲を調整することができる。
また、上記無機P型半導体化合物粒子を製造する方法として、CVD法、PVD法、粉砕法等の乾式法や、マイクロエマルション法等の湿式法等が適用可能である。
【0014】
上記無機P型半導体化合物粒子分散液は、分散媒として有機溶剤を含有することが好ましい。
上記有機溶剤としては例えば、クロロホルム、クロロベンゼン、オルト−ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記有機溶剤の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は50重量%、好ましい上限は99重量%である。上記有機溶剤の含有量が50重量%未満であると、インクの粘度が高くなりすぎることがある。上記有機溶剤の含有量が99重量%を超えると、充分な厚みの光電変換層が得られないことがある。
【0016】
上記無機P型半導体化合物粒子分散液の塗工方法としては特に限定されず、例えば、ダイコート法、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法、スピンコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0017】
本発明の光電変換層の製造方法では、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液に対して、照射強度が10J/cm
2以上、パルス幅が2ms以下のパルス光である白色光を照射することにより、光電変換層を形成する工程を行う。
このような工程では、加熱を行わずに光電変換層を形成することが可能となることから、無機P型半導体化合物粒子の熱分解を引き起こすことがなく、所望の組成を有する光電変換層を形成することができる。また、得られる光電変換層の焼結状態も適度なものとなり、成膜性に優れた製法を実現することができる。
【0018】
上記白色光は、パルス幅の小さい白色光パルス(パルス光)である。本発明ではこのようなパルス光を用いることで、連続照射による被照射面への蓄熱を防止することができる。
【0019】
上記パルス光は、パルス幅が2ms以下である。これにより、瞬間的に強力な光エネルギーを照射することが出来、尚且つ、蓄熱による熱分解を防ぐことが出来る。好ましくは、0.1〜2msである。
【0020】
上記白色光の照射強度としては特に限定されないが、10J/cm
2以上である。これにより、加熱乾燥に代わる粒子間の融合に充分なエネルギーを加えることが出来る。好ましくは、15〜25J/cm
2である。また、照射時間及び回数は、量産性及び蓄熱による熱分解防止の観点から、1時間以内で且つ100回以内の照射であることが望ましい。
【0021】
上記白色光を照射するための手段としては、ハロゲンフラッシュランプ、キセノンフラッシュランプ、LEDフラッシュランプ等が挙げられるが、特にキセノンフラッシュランプを用いることが好ましい。
【0022】
本発明の光電変換層の製造方法では、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液に白色光を照射する際に、塗工した無機P型半導体化合物粒子分散液の厚みを0.01〜50μmとすることが好ましい。
上記範囲内とすることで、面内及び膜厚方向のどちらにも一様に粒子間焼結した光電変換層を得ることが出来る。
【0023】
本発明の光電変換層の製造方法を用いることで、成膜性に優れ、所望の組成を有する光電変換層を形成することができる。また、得られた光電変換層は、化合物系太陽電池等に好適に使用することができる。