特許第5887386号(P5887386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887386
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】電動自転車用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/70 20100101AFI20160303BHJP
   B62M 6/50 20100101ALI20160303BHJP
【FI】
   B62M6/70
   B62M6/50
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-157287(P2014-157287)
(22)【出願日】2014年8月1日
(62)【分割の表示】特願2013-166746(P2013-166746)の分割
【原出願日】2008年3月6日
(65)【公開番号】特開2014-198567(P2014-198567A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2014年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100112715
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 桂子
(74)【代理人】
【識別番号】100171767
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 元貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀之
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 雅之
【審査官】 岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−335474(JP,A)
【文献】 特開2002−139390(JP,A)
【文献】 特開平9−105686(JP,A)
【文献】 特開2001−63678(JP,A)
【文献】 特開平9−267790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/70
B62M 6/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動自転車に用いられる駆動装置であって、
ハウジングと、
前記ハウジングを貫通して配置されるペダルクランク軸と、
前記ペダルクランク軸の回転を検出する回転検出センサと、
前記ペダルクランク軸と同軸上に配置され、前記ペダルクランク軸の軸方向一端側に結合されるクランク回転入力軸と、
前記クランク回転入力軸とともに回転し、前記回転検出センサによって検出される被検出部と、
前記クランク回転入力軸に配置され、前記ペダルクランク軸に発生するトルクを検出する磁歪式のトルクセンサと、
前記ペダルクランク軸と同軸上に配置され且つ前記クランク回転入力軸よりも前記ペダルクランク軸の軸方向他端側に位置し、チェーンスプロケットが取り付けられるクランク回転出力軸と、
前記トルクセンサよりも前記チェーンスプロケット側に配置され、前記チェーンスプロケットが前記ペダルクランク軸の中心軸線周りで前記ペダルクランク軸に対して一方向に回転することを許容し、且つ、前記チェーンスプロケットが前記一方向とは反対の方向に回転することを阻止する一方向クラッチとを備え、
前記被検出部は、前記ハウジング内であって、且つ、前記トルクセンサよりも前記ペダルクランク軸の軸方向他端側に配置され、
前記一方向クラッチは、
前記ペダルクランク軸と同軸上に配置され、前記クランク回転入力軸とともに回転する第1の部材と、
前記ペダルクランク軸と同軸上に配置され、且つ、爪部材を介して前記第1の部材に接続され、前記チェーンスプロケットとともに回転する第2の部材とを含み、
前記第1の部材は、前記クランク回転入力軸とは別に形成され、前記クランク回転入力軸と結合されることにより、前記クランク回転入力軸とともに回転し、
前記第2の部材は、前記クランク回転出力軸を含み、
前記トルクセンサは、
前記クランク回転入力軸の径方向外側に設けられたコイルボビンに巻回されているコイルを含み、
前記ペダルクランク軸は、
外周面に形成された第1の結合部を含み、
前記クランク回転入力軸は、
内周面に形成され、前記第1の結合部に結合される第2の結合部を含み、
前記駆動装置は、さらに、
前記コイルボビンを保持し、前記ハウジングに支持される保持部材を備え、
前記保持部材の一部は、前記ペダルクランク軸の径方向から見て、前記第2の結合部に重なる、駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置であって、
前記被検出部は、前記第1の部材に設けられる、駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の駆動装置であって、
前記クランク回転入力軸は、
外周面に形成された傾斜溝を含み、
前記傾斜溝の前記ペダルクランク軸の軸方向一端は、前記第1の結合部よりも前記ペダルクランク軸の軸方向他端側に位置し、且つ、前記ペダルクランク軸の径方向から見て、前記第2の結合部に重なる、駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の駆動装置であって、
前記コイルボビンのうち、前記コイルよりも前記ペダルクランク軸の軸方向一端側に位置する部分の一部は、前記ペダルクランク軸の径方向から見て、前記第2の結合部に重なる、駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜の何れか1項に記載の駆動装置であって、さらに
モータの動力は、前記ハウジング内で前記第2の部材に伝達される、駆動装置。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の駆動装置を備える電動自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダルクランク軸と後輪駆動用チェーンスプロケットとの間の人力駆動系に一方向クラッチを備えた電動自転車用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の電動自転車用駆動装置としては、たとえば特許文献1に記載されているものがある。この特許文献1に開示された電動自転車用駆動装置は、乗員がペダルを踏み込む力(人力)と、この人力の大きさに対応したモータの動力との両方を後輪駆動用チェーンに伝達できるように構成されている。この駆動装置は、人力駆動系を収容した第1のケーシングと、モータ駆動系を収容した第2のケーシングとから構成されている。この駆動装置において、前記人力は、ペダルからペダルクランク軸、一方向クラッチおよびチェーンスプロケットを介して前記チェーンに伝達される。
【0003】
前記一方向クラッチは、ペダルクランク軸を逆回転させたときにモータを逆方向に回転させることがないようにするためと、走行中にペダルクランク軸を停止させたときにモータの動力または慣性力がペダルクランク軸に伝達されることを防ぐために装備されている。
特許文献1に開示されている人力駆動系の一方向クラッチは、ペダルクランク軸に結合されたインナー部と、このインナー部を径方向の外側から囲むアウター部とから構成されている。
【0004】
前記アウター部は、人力駆動系を収容する第1のケーシングの車体右側を貫通するように形成されており、前記ケーシングの外側において前記チェーンスプロケットが固定されている。すなわち、従来の一方向クラッチの出力部材は、このアウター部によって構成されている。
前記アウター部における前記ケーシングを貫通する部分は、前記ケーシングに軸受によって回転自在に支持されている。また、このアウター部の内周部は、軸受によってペダルクランク軸を回転自在に支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−53069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電動自転車用駆動装置においては、さらにコストダウンを図ることが要請されている。しかしながら、特許文献1に開示されている電動自転車用駆動装置では、コストダウンを図るにも限界があった。これは、従来の電動自転車用駆動装置においては、人力駆動系の一方向クラッチの製造コストが高くなるからである。
【0007】
一方向クラッチの製造コストが高くなる原因としては、アウター部の製造工数が多くかつ歩留まりが低いことと、アウター部の材料費が高くなることとの二つの理由が考えられる。以下、これらの二つの理由についてそれぞれ説明する。
(1)アウター部の製造工数が多く材料の無駄が多い点について;
前記アウター部は、インナー部を径方向の外側から囲む部分の外径が相対的に大きくなるように形成されている。一方、アウター部におけるチェーンスプロケットを固定する部分は、小型化を図るためにペダルクランク軸に可及的接近させて外径が相対的に小さくなるように形成することが望ましい。このため、このアウター部は、外径が中間部分で大きく変化する段付部品になる。
【0008】
しかも、このアウター部は、インナー部に支持された爪部材によって内側から外側へ拡げるような力を受けるために高い強度が要求される。このアウター部のように、高い強度が必要な部品は、一般的には、鍛造や焼結などによって形成されている。
鍛造や焼結によってアウター部を概略の形状に成形した場合、その外周部と内周部とに前記軸受を嵌合できるように機械加工が施される。
【0009】
たとえば、段付部品からなる前記アウター部を鍛造によって成形した場合、小径部と段部との角が丸く成形されるから、小径部に軸受を圧入して前記段部に当接させるためには、小径部と段部との境界部分に機械加工によって直角の角を形成する必要がある。また、このアウター部を焼結によって成形するためには、大径部と小径部との段差が大きいときには、小径部と大径部との境界部分の外周部に中間高さの段部を余分に成形して粒子の密度分布を整えることから、小径部に軸受を圧入して大径部の段部に当接させるためには、この外周部の不要な段部を焼結後に機械加工によって削除する必要がある。すなわち、従来の一方向クラッチにおいては、アウター部を鍛造や焼結などによって概略の形状に成形した後、軸受を嵌合できるようにするための機械加工が必要であるから、アウター部の製造工数が多くなっていた。しかも、この一方向クラッチにおいては、アウター部に施す機械加工の加工代だけ材料の無駄が生じ、歩留まりが低くなる。
【0010】
(2)アウター部の材料費が高くなる点について;
前述のように一方向クラッチのアウター部は、インナー部に支持された爪部材によって内側から径方向の外側に向けて拡げるような大きな力が加えられるために、高強度の材料によって形成されている。一般的に、高強度の材料は価格も高くなる。特許文献1に記載されているアウター部は、チェーンスプロケットが固定される小径部(大径部ほど強度が要求されない部分)も大径部同様高価な材料によって一体に形成されているために、材料費が不必要に高くなる。
【0011】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、人力駆動系の一方向クラッチの構造を簡単にして製造を容易に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、本発明に係る電動自転車用駆動装置は、ペダルが接続されたペダルクランク軸と、このペダルクランク軸と同一軸線上に位置付けられて後輪駆動用チェーンが巻き掛けられたチェーンスプロケットと、前記ペダルクランク軸が貫通するインナー部およびアウター部を有しかつ前記ペダルクランク軸と前記チェーンスプロケットとの間の人力駆動系に介装された人力駆動用一方向クラッチとを備え、前記ペダルに加えられる人力と、モータの動力の両方を前記後輪駆動用チェーンに伝達する電動自転車用駆動装置において、前記一方向クラッチのインナー部を前記チェーンスプロケットに接続し、この一方向クラッチのアウター部を前記ペダルクランク軸に結合したものである。
【0013】
請求項2に記載した発明に係る電動自転車用駆動装置は、請求項1に記載した電動自転車用駆動装置において、前記一方向クラッチのアウター部を、前記インナー部と対向する円筒と、この円筒の軸線方向の一端部から径方向の内側に延在する内フランジとから構成したものである。
【0014】
請求項3に記載した発明に係る電動自転車用駆動装置は、請求項1に記載した電動自転車用駆動装置において、前記一方向クラッチのアウター部に回転検出用センサの被検出部を設けたものである。
【0015】
請求項4に記載した発明に係る電動自転車用駆動装置は、請求項1に記載した電動自転車用駆動装置において、前記一方向クラッチのアウター部に、このアウター部から前記チェーンスプロケットとは反対側に延在しかつ延在方向の端部においてペダルクランク軸に結合するクランク回転入力軸を結合させ、前記モータの動力は、人力の大きさに対応した大きさに制御され、前記人力の大きさを検出するセンサを、前記クランク回転入力軸に設けられた被検出部と、この被検出部を囲む検出用コイルとを有する磁歪式トルクセンサによって構成したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記インナー部によって一方向クラッチの出力部材が構成される。このインナー部は、アウター部と対向する部分と、チェーンスプロケットを支持する部分との外径差が小さくなる円筒状に形成することができる。
このため、このインナー部は、アウター部を出力部材とする場合に較べて外周部に段差が形成されることがないか、形成されたとしても小さくなるから、鍛造や焼結によって形成する場合でも容易に製造することができる。特に、インナー部の外径を軸線方向の全域にわたって相対的に小さく形成することができるために、インナー部を焼結によって成形する場合、成型プレス時に加える荷重を低減することができる。
【0017】
また、インナー部は、アウター部に較べて強度が低く安価な材料によって形成することができる。そのうえ、インナー部の外周部に軸受嵌合部を形成するために機械加工を施す場合であっても、加工代が少なくてよいから、材料の無駄を省くことができる。
【0018】
一方、アウター部は、従来の一方向クラッチのアウター部に較べてチェーンスプロケットを支持するための円筒部分が不要になるから高価な高強度材料の使用量を低減できるとともに、外周部に軸受を嵌合させる必要がないから、機械加工により削除される無駄な材料を最小限にとどめることができる。
したがって、本発明によれば、人力駆動系の一方向クラッチの製造コストを低く抑えることができるから、電動自転車用駆動装置を安価に提供することができる。
【0019】
請求項2に記載した発明によれば、アウター部を鍛造や焼結によって最終的な形状に近い形状に成形することができる。このため、アウター部に機械加工を施さなくてもよいか、機械加工を施したとしても加工量を少なくすることができるから、一方向クラッチの製造コストをさらに低減することができる。
【0020】
請求項3に記載した発明によれば、一方向クラッチのアウター部は、ペダルクランク軸と一体に回転し、ペダルクランク軸の回転が停止することにより、チェーンスプロケットが回転を継続するような場合であっても停止する。このため、この発明によれば、アウター部に回転検出用の歯や永久磁石を設けることにより、駆動装置のハウジング側に設けた簡単な構造の回転検出用センサによってペダルクランク軸の回転速度・回転方向を正確に検出することができる。
【0021】
したがって、この発明によれば、たとえば乗員がペダルを停止させたときにはモータによる駆動を停止させるなど、乗員の意図に対応させてモータの運転・停止を切り換えることができるようになる。なお、従来の電動自転車用駆動装置では、人力駆動系の一方向クラッチのアウター部をペダルクランク軸とともに逆転させることはできないし、ペダルクランク軸が停止してもチェーンスプロケットと一体に回転することがある。このため、従来の駆動装置では、アウター部の回転を検出したとしてもペダルクランク軸の回転を正確に検出することはできず、この結果、ペダルクランク軸の回転速度・回転方向を検出するためには、特殊な構造で高価なセンサを使わざるを得なかった。
【0022】
請求項4に記載した発明によれば、人力駆動用一方向クラッチと軸線方向に隣接する位置に磁歪式トルクセンサを設けることができる。このため、この発明によれば、人力の大きさに対応してモータの出力が増減する電動アシスト式の電動自転車用駆動装置を、径方向に大型化することがないように形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る駆動装置を装備した電動自転車の側面図である。
図2】本発明に係る電動自転車用駆動装置の側面図である。
図3図2におけるIII−III線断面図である。
図4】要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る電動自転車用駆動装置の一実施例を図1図4によって詳細に説明する。
図1に示す電動自転車1は、車体フレーム2のハンガー部3に駆動装置4を備えており、この駆動装置4から動力が後輪駆動用チェーン5と後輪6のフリーホイール(図示せず)とを介して後輪6に伝達されることによって走行するものである。前記駆動装置4は、人力のみによって走行する形態(人力走行モード)と、人力とモータ7(図3参照)の動力との合力によって走行する形態(電動アシストモード)とを切り換えて走行することができるように構成されている。車体フレーム2のシートチューブ8と後輪6との間には、モータ7に給電するためのバッテリー9が着脱可能に装着されている。
【0025】
前記駆動装置4は、図1および図2に示すように、前記車体フレーム2にブラケット2aを介して固定されている。この駆動装置4は、図3に示すように、車幅方向に分割可能に形成された駆動装置ハウジング11と、この駆動装置ハウジング11の後部であって車体左側に取付けられたモータ7と、前記駆動装置ハウジング11の前部に設けられた人力駆動系のペダルクランク軸12、一方向クラッチ13、チェーンスプロケット14および磁歪式トルクセンサ15と、駆動装置ハウジング11の後部に設けられたモータ駆動系のモータ出力軸16などを備えている。
【0026】
前記駆動装置ハウジング11は、車体左側の半部(以下、単に左側ハウジング21という)と、車体右側の半部(以下、単に右側ハウジング22という)とに分割可能に形成されている。左側ハウジング21と右側ハウジング22とは、結合用ボルト23(図2および図3参照)によって互いに結合している。また、駆動装置ハウジング11は、図2に示すように、3本の固定用ボルト24によって前記ブラケット2aに取付けられている。
【0027】
前記モータ7は、ブラシレス直流モータからなり、図3に示すように、モータハウジング25の内部に固定されたステータ26と、このステータ26の内部に設けられたロータ27とを備えている。ロータ27は、軸線が車幅方向と平行になる状態でモータハウジング25と前記左側ハウジング21とに軸受28,29によって回転自在に支持されている。
【0028】
前記ロータ27の回転軸31は、左側ハウジング21を貫通して駆動装置ハウジング11内に挿入されている。回転軸31の先端部は、歯車を構成しており、従動歯車32に噛合している。この従動歯車32は、前記回転軸31と隣接するモータ出力軸16にモータ駆動系の一方向クラッチ33を介して支持されている。この一方向クラッチ33は、前記回転軸31からモータ出力軸16にのみ動力が伝達されるように構成されている。
【0029】
前記回転軸31からなる歯車と従動歯車32とは、回転軸31の回転が減速されてモータ出力軸16に伝達されるように歯車減速機を構成している。
モータ出力軸16は、前記回転軸31より車体後側に回転軸31と平行になるように位置付けられている。このモータ出力軸16の車体左側の端部は、左側ハウジング21に軸受34によって回転自在に支持され、モータ出力軸16の車体右側の端部は、右側ハウジング22に軸受35によって回転自在に支持されている。
【0030】
また、モータ出力軸16の車体右側の端部は、右側ハウジング22を貫通して駆動装置4より車体右側に突出するように形成されている。この突出部には、図2に示すように、後輪駆動用チェーン5にモータ7の動力を伝達するためにモータ駆動用スプロケット36が取付けられている。すなわち、モータ7の動力は、前記回転軸31から従動歯車32、モータ駆動系の一方向クラッチ33、モータ出力軸16およびモータ駆動用スプロケット36を介して後輪駆動用チェーン5に伝達される。このチェーン5は、モータ駆動用スプロケット36の上側を通されており、このスプロケット36の下方近傍に位置するチェーンテンショナ37により下方に押し下げられることによって、前記スプロケット36に巻き掛け角度が所定の角度になるように巻き掛けられている。
【0031】
駆動装置ハウジング11の前部に設けられた前記ペダルクランク軸12は、図3および図4に示すように、駆動装置ハウジング11を車幅方向に貫通する長さに形成されており、その軸線が車幅方向と並行になる状態で駆動装置ハウジング11に装着されている。このペダルクランク軸12の両端部には、図1および図3に示すように、ペダル12aを有するクランク12bがそれぞれ取付けられている。
【0032】
ペダルクランク軸12の車体左側の端部は、左側ハウジング21に軸受41によって回転自在に支持されている。
ペダルクランク軸12の車体右側の端部は、軸受メタル42によって後述する人力駆動用一方向クラッチ13の内周部に回転自在に支持されている。この一方向クラッチ13は、ラチェットタイプのもので、車幅方向に延在する円筒状に形成されてペダルクランク軸12が貫通するインナー部43と、このインナー部43の外周部に爪部材44を介して接続されたアウター部45とによって構成されている。
【0033】
前記インナー部43は、図4に示すように、後述するアウター部45と対向するように車体左側の端部に位置する爪保持部46と、この爪保持部46から車体右側に延在するクランク回転出力軸47とから構成されている。前記爪保持部46は、周方向に形成された複数の円弧状凹部により前記爪部材44を一体に回転するように枢止している。
【0034】
前記クランク回転出力軸47は、右側ハウジング22を貫通して右側ハウジング22より車体右側に突出するように形成されており、右側ハウジング22に軸受48によって回転自在に支持されている。すなわち、前記ペダルクランク軸12の車体右側の端部は、前記軸受メタル42、前記インナー部43および前記軸受48を介して右側ハウジング22に回転自在に支持されている。
【0035】
前記クランク回転出力軸47の車体右側の端部には、スプライン49が形成されているとともに、チェーンスプロケット14が前記スプライン49に嵌合した状態で取付けられている。このチェーンスプロケット14は、図2に示すように、前記後輪駆動用チェーン5が巻掛けられている。
【0036】
一方向クラッチ13の前記爪部材44は、前記インナー部43に対して傾動できるようにインナー部43の爪保持部46に保持され、ばね44aにより起立方向に付勢されている。この爪部材44の先端部は、前記アウター部45の内周部分(外側係合部)に形成された歯50(図4参照)に係合している。
これらの爪部材44とアウター部45の歯50とは、アウター部45がペダルクランク軸12と同じ方向に回転するときのみに動力がアウター部45から爪部材44を介してインナー部43に伝達されるように形成されている。
アウター部45は、前記歯50を有しかつ前記インナー部43と対向する円筒51と、この円筒51の軸線方向の一端部(車体左側の端部)から径方向の内側に延在する内フランジ52とによって構成されている。
【0037】
アウター部45は、爪部材44によって径方向の外側に拡げる方向に力が加えられるものであり、インナー部43に較べて強度が高くなるように形成する必要がある。この実施例によるアウター部45は、インナー部43に較べて強度が高くなるように、相対的に強度が高い材料を用いて鍛造や焼結によって所定の形状に形成されている。なお、前記インナー部43も鍛造や焼結によって形成することができる。
【0038】
アウター部45の外周部には、駆動装置ハウジング11に取付けられた回転検出用センサ53によって検出される被検出部54を設けることができる。この被検出部54としては、たとえばアウター部45の外周部に形成された回転検出用の歯や、アウター部45の外周部に固着された永久磁石などがある。回転検出用センサ53は、駆動装置ハウジング11における円筒51または内フランジ52の外周面と対向する部位に取付けることができる。
【0039】
前記内フランジ52は、前記円筒51の周方向の全域から径方向の内側に延在するように、軸線方向から見て円環状に形成されている。
この内フランジ52の内周部には、後述するクランク回転入力軸55が一体に回転するように結合されている。
【0040】
クランク回転入力軸55は、図3および図4に示すように、円筒状に形成され、ペダルクランク軸12が貫通する状態でペダルクランク軸12に支持されている。詳述すると、このクランク回転入力軸55の車体左側の端部は、ペダルクランク軸12の外周部に形成されたスプライン56に嵌合するスプライン57が形成されており、ペダルクランク軸12に一体に回転するように結合されている。一方、クランク回転入力軸55の車体右側の端部は、前記内フランジ52の内周部に形成されたスプライン58に嵌合するスプライン59が形成されており、内フランジ52に一体に回転するように結合されている。
【0041】
また、クランク回転入力軸55の内周部は、軸受メタル60によってペダルクランク軸12に回転自在に支持されている。
すなわち、ペダルクランク軸12の回転は、前記クランク回転入力軸55から一方向クラッチ13のアウター部45、爪部材44、インナー部43を介してチェーンスプロケット14に伝達される。
【0042】
クランク回転入力軸55の外周部には、図4に示すように、磁歪式トルクセンサ15の被検出部を構成する多数の傾斜溝61が設けられている。
磁歪式トルクセンサ15は、従来の電動アシスト自転車に用いられているものと同じ構造のもので、クランク回転入力軸55がトルクを伝達するときに生じる透磁率の変化を検出し、検出信号として図示していない制御装置に送るように構成されている。
【0043】
すなわち、このトルクセンサ15は、クランク回転入力軸55におけるペダルクランク軸12との連結点と、アウター部45との連結点との間となる部分の外周面に刻設した螺旋状の傾斜溝61,61…と、この傾斜溝61の周囲を覆うように設けた励磁コイルおよび検出コイルなどから構成されている。図4においては、前記励磁コイルと前記検出コイルとを一つのコイル62として描いてある。前記傾斜溝61は、ペダルクランク軸12の周方向に多数並設され、ペダルクランク軸12の軸線方向に傾斜溝群が並設されるように形成されている。また、これら二箇所の傾斜溝群の傾斜溝61は、傾斜方向が前記軸線に対して対称になるように形成されている。
前記励磁コイルと検出コイルとは、コイルボビン63に巻回されており、このコイルボビン63を有する保持部材64を介して左側ハウジング21に支持されている。
【0044】
前記制御装置は、モータ7の動力を補助動力として使用するアシストモードにあるときは、前記トルクセンサ15の検出データに基づいてペダルクランク軸12の回転トルク、すなわち人力の大きさを演算によって求め、この人力の大きさに比例する大きさのアシスト力が発生するようにモータ7の出力を制御する。
【0045】
このように構成された駆動装置4を備えた電動自転車1は、人力走行モードでは、乗員がペダル12aを踏み込むことによって走行する。このときには、ペダル12aに加えられた踏力がペダルクランク軸12からクランク回転入力軸55、一方向クラッチ13のアウター部45、爪部材44、インナー部43、チェーンスプロケット14および後輪駆動用チェーン5を介して後輪6に伝達される。
【0046】
一方、この電動自転車1において、モータ7の動力を補助動力として使うアシストモードでは、ペダルクランク軸12に加えられた人力の大きさをクランク回転入力軸55の透磁率の変化として前記磁歪式トルクセンサ15が検出し、人力の大きさに対応した大きさのモータ7の動力がモータ出力軸16から後輪駆動用チェーン5に加えられる。この場合は、チェーンスプロケット14から後輪駆動用チェーン5に加えられた人力と、モータ出力軸16から後輪駆動用チェーン5に加えられたモータ7の動力との合力によって後輪6を駆動する。
【0047】
この駆動装置4においては、ペダルクランク軸12を逆方向に回転させたり、チェーンスプロケット14がペダルクランク軸12より速く前進方向に回転するようなことがあったとしても、人力駆動用一方向クラッチ13のアウター部45が爪部材44から外れ、一方向クラッチ13において動力伝達が遮断されるために、モータ7を逆回転させたり、ペダル12aにチェーン5側から駆動力が伝達されることはない。
【0048】
前記駆動装置4に設けられている人力駆動用一方向クラッチ13は、人力がアウター部45から入力されてインナー部43から出力されるように構成されている。すなわち、この一方向クラッチ13においては、前記インナー部43によって出力部材が構成されている。このインナー部43は、前記アウター部45と対向する部分(爪保持部46)と、チェーンスプロケット14を支持する部分(クランク回転出力軸47)との外径差が小さくなる円筒状に形成されている。
このため、このインナー部43は、アウター部45を一方向クラッチの出力部材とする場合に較べると、外周部に段差が形成されることがないか、段差が形成されたとしても小さくなるから、鍛造や焼結によって形成する場合でも容易に製造することができる。
【0049】
この実施例においては、インナー部43は、爪部材44を保持できるともにチェーンスプロケット14を取付けることができる厚みに形成すればよいから、インナー部43の外径を軸線方向の全域にわたって相対的に小さく形成することができる。このため、インナー部43を焼結によって成形する場合は、成型プレス時に加える荷重を低減することができる。
【0050】
また、インナー部43は、アウター部45に較べて強度が低く安価な材料によって形成することができる。そのうえ、インナー部43の外周部に軸受48が嵌合する円筒面(軸受嵌合面)を形成するために機械加工を施す場合であっても、上述したようにインナー部43の外周部には段差がなく、加工代が少なくてよいから、材料の無駄を省くことができる。
【0051】
一方、アウター部45は、従来の一方向クラッチのアウター部に較べてチェーンスプロケットを支持するための円筒部分が不要になる。このため、この実施例においては、高価な高強度材料の使用量を低減することができる。さらに、この実施例によるアウター部45は、外周部に軸受を嵌合させる必要がない。このため、この実施例によれば、アウター部45から機械加工により削除される無駄な材料を最小限にとどめることができる。
したがって、この実施例によれば、人力駆動用一方向クラッチ13の製造コストを低く抑えることができるから、電動自転車用駆動装置4を安価に製造することができる。
【0052】
また、この実施例によれば、アウター部45が円筒51と内フランジ52とによって構成されているから、段差がなく形状が簡単なためアウター部45を鍛造や焼結によって容易に成形することができる。このため、アウター部45に切削や研削などの機械加工を施したとしても加工量を少なくすることができるから、一方向クラッチ13の製造コストをさらに低減することができる。
【0053】
この実施例によれば、人力駆動用一方向クラッチ13のアウター部45は、ペダルクランク軸12と常に一体に回転する。また、アウター部45は、ペダルクランク軸12の回転が停止することにより、チェーンスプロケット14が回転を継続するような場合であっても停止する。このため、この実施例によれば、アウター部45に回転検出用の歯を設けたり、アウター部45に永久磁石(被検出部54)を設けることにより、駆動装置ハウジング11側に設けた簡単な構造の回転検出用センサ53によってペダルクランク軸12の回転速度・回転方向を正確に検出することができる。
【0054】
したがって、この実施例によれば、たとえば乗員がペダル12aを踏込む動作を止めたときにただちにモータ7を停止させるなど、乗員の意図に対応させてモータ7の運転・停止を切り換えることができるようになる。
【0055】
この実施例による電動自転車用駆動装置4においては、人力駆動用一方向クラッチ13と軸線方向に隣接する位置に磁歪式トルクセンサ15が設けられている。このため、この実施例によれば、人力の大きさに対応してモータ7の出力が増減する電動アシスト式の電動自転車用駆動装置4を、径方向に大型化することがないように形成することができる。
【0056】
上述した実施例では電動アシスト式の電動自転車に本発明を適用する例を示したが、本発明は、モータの動力を人力駆動系とは無関係に発生させて走行する自走式電動自転車にも適用することができる。
また、この実施例による駆動装置4は、モータ7の動力をモータ駆動用スプロケット36から後輪駆動用チェーン5に伝達する構成を採っているが、モータ7の動力を駆動装置4内で人力駆動系の回転部品に伝達する構成を採ることもできる。この場合、モータ7の動力を人力駆動用一方向クラッチ13のインナー部43に歯車などによって伝達する。
【符号の説明】
【0057】
1…電動自転車、4…電動自転車用駆動装置、5…後輪駆動用チェーン、7…モータ、11…駆動装置ハウジング、12…ペダルクランク軸、13…一方向クラッチ、15…磁歪式トルクセンサ、43…インナー部、45…アウター部、51…円筒、52…内フランジ、55…クランク回転入力軸、62…検出用コイル。
図1
図2
図3
図4