特許第5887413号(P5887413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュートの特許一覧

特許5887413非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法
<>
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000002
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000003
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000004
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000005
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000006
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000007
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000008
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000009
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000010
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000011
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000012
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000013
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000014
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000015
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000016
  • 特許5887413-非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887413
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】非小細胞肺癌におけるTM4SF4の発現または活性を調節することによって癌細胞の放射線耐性ならびに増殖、転移および浸潤を低減させる方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20160303BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20160303BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160303BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160303BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160303BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20160303BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20160303BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   A61K31/7088
   A61K31/713
   A61K39/395 D
   A61K48/00
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   C12N15/00 AZNA
   C12N15/00 G
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-531696(P2014-531696)
(86)(22)【出願日】2011年10月21日
(65)【公表番号】特表2014-528944(P2014-528944A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】KR2011007900
(87)【国際公開番号】WO2013047941
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2014年5月16日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0096918
(32)【優先日】2011年9月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】597060645
【氏名又は名称】コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100171505
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 由美
(72)【発明者】
【氏名】キム,イン−ギュ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ソー イム
(72)【発明者】
【氏名】シン,ビュン−チュル
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01498424(EP,A1)
【文献】 国際公開第2004/073657(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2008−0058022(KR,A)
【文献】 特開2008−283945(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101748122(CN,A)
【文献】 Oncogene,2006年,Vol.25,p.4245-4255
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7088
A61K 31/713
A61K 39/395
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、TM4SF4(4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)の発現もしくは活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するための医薬組成物であって、該TM4SF4の発現もしくは活性の阻害剤がTM4SF4 mRNAに相補的に結合するアンチセンスヌクレオチドまたは低分子干渉RNA、またはTM4SF4タンパク質に相補的に結合する抗体である、上記組成物。
【請求項2】
TM4SF4が配列番号1で表されるアミノ酸配列から成る、請求項1記載の非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するための医薬組成物。
【請求項3】
有効成分として、TM4SF4の発現もしくは活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌のうち腺癌のための抗癌剤であって、該TM4SF4の発現もしくは活性の阻害剤がTM4SF4 mRNAに相補的に結合するアンチセンスヌクレオチドまたは低分子干渉RNA、またはTM4SF4タンパク質に相補的に結合する抗体である、上記抗癌剤。
【請求項4】
抗癌剤が非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させることを特徴とする、請求項3記載の非小細胞肺癌のうち腺癌のための抗癌剤。
【請求項5】
有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、非小細胞肺癌のうち大細胞癌を予防および治療するための医薬組成物。
【請求項6】
TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子が配列番号2で表される遺伝子配列を有する、請求項5記載の非小細胞肺癌のうち大細胞癌を予防および治療するための医薬組成物。
【請求項7】
有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、非小細胞肺癌のうち大細胞癌のための抗癌剤。
【請求項8】
抗癌剤が大細胞癌細胞の放射線感受性を増加させることを特徴とする、請求項7記載の非小細胞肺癌のうち大細胞癌のための抗癌剤。
【請求項9】
非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させる抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングする方法であって、以下の段階:
1)TM4SF4タンパク質を発現する細胞株を試験物質で処理する段階;
2)該細胞株におけるTM4SF4タンパク質の発現もしくは活性を測定する段階;および
3)試験物質で処理しなかった対照よりも低いTM4SF4タンパク質の発現もしくは活性を示す試験物質を選択する段階;
を含んでなる方法。
【請求項10】
非小細胞肺癌のうち大細胞癌細胞の放射線感受性を増加させる抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングする方法であって、以下の段階:
1)TM4SF4タンパク質を発現する細胞株を試験物質で処理する段階;
2)該細胞株におけるTM4SF4タンパク質の発現もしくは活性を測定する段階;および
3)試験物質で処理しなかった対照よりも高いTM4SF4タンパク質の発現もしくは活性を示す試験物質を選択する段階;
を含んでなる方法。
【請求項11】
段階2)におけるTM4SF4タンパク質の発現が、免疫沈降、RIA、ELISA、免疫組織化学、RT-PCR、ウェスタンブロッティング、およびFACSからなる群より選択される方法のいずれかにより測定される、請求項9または10記載の抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングする方法。
【請求項12】
段階2)におけるTM4SF4タンパク質の活性が、SDS-PAGE、免疫蛍光、ELISA、質量分析、およびタンパク質チップからなる群より選択される方法のいずれかにより測定される、請求項9または10記載の抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングする方法。
【請求項13】
放射線感受性がγ線感受性である、請求項9または10記載のスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、有効成分として、TM4SF4(transmembrane 4 L six family member 4:4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)の発現または活性を調節する物質を含む、非小細胞肺癌を予防および治療するための抗癌剤または抗癌物質に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
肺癌は、男女共に2番目に発生頻度の高い癌であり、すべての癌の15%を占める。2011年にアメリカ癌協会によって行われた最近の報告によると、少なくとも22万症例の癌が毎年肺癌と診断されており、そのうち約70%の患者が死亡し、これは癌全体の死亡の27%を占める。特に、非小細胞肺癌は、一般的に小細胞肺癌を除くすべての上皮性肺癌を含む癌腫の一種である。非小細胞肺癌は肺癌全体の約85〜90%を占める。非小細胞肺癌は、小細胞肺癌よりも化学療法に対する感受性が比較的低い。この癌のステージ(病期)は、腫瘍の大きさ、局所リンパ節への拡散、および転移などを考慮するTNM分類によって分けられる。非小細胞肺癌の治療において、初期の非転移性の非小細胞肺癌は化学療法および放射線療法に対して非常に低い感受性を示し、そのため、白金を含むシスプラチンを用いた補助化学療法が一般に外科手術と共に施される。しかし、癌が初期を通り越して転移性の非小細胞肺癌に進行する場合には、さまざまな化学療法と放射線療法が用いられる。非小細胞肺癌の症状は、絶えず続く咳、胸痛、体重減少、爪の損傷、関節痛、息切れなどである。一般に、非小細胞肺癌は徐々に進行し、したがって、その初期段階では症状がほとんど観察されない。それゆえ、この非小細胞肺癌に気づくことは、それを治療するほどに困難である。たいていの場合は、それが全身に、例えば、骨、肝臓、小腸、および脳に転移した時点で、初めて診断が下される。高い発症率および高い死亡率にもかかわらず、非小細胞肺癌を克服するための有効な薬物または治療法は、その必要性が強調されながらも、まだ開発されていない。非小細胞肺癌は、その大きさ、形状、および癌細胞の化学組成に従っていくつかのサブグループに分割され、それは腺癌、扁平上皮癌、および大細胞癌によって代表される。腺癌は、最も頻繁に観察される肺癌の一種であり、肺癌全体の少なくとも40%を占める。腺癌は通常、肺の外側領域に発症し、他の肺癌よりもゆっくりと進行する。しかし、腺癌は初期に転移する傾向が高く、かつ高い放射線耐性を示す。扁平上皮癌は、肺癌全体の25〜30%を占める非小細胞肺癌の一種である。これは気道を形成する細胞の初期バージョンにおいて始まる。この癌は喫煙者に多く発症する。大細胞癌は肺のどの領域にも発生することがあり、肺癌全体の10〜15%を占める。この癌の進行速度は小細胞肺癌のそれと同程度に速く、このことがその治療を依然として困難にしている。
【0003】
癌の発症は異常な細胞増殖から始まる。何らかの遺伝子、例えば、細胞周期において特定の役割を果たす遺伝子、または変異の自己排除のためのDNA修復機構に関与する遺伝子が変異している場合には、腫瘍抑制遺伝子が不活性化されるか、または癌遺伝子が活性化され、結果として異常な細胞成長または異常な細胞増殖をもたらす。例えば、非小細胞肺癌はEGFR(上皮成長因子受容体)の変異で始まり、次にそのリガンドEGF(上皮成長因子)なしに活性化され続け、これが異常な増殖または成長である(非特許文献1)。PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)-Akt(プロテインキナーゼB)経路は、細胞増殖および遊走のための重要な細胞内シグナル伝達経路である。癌細胞では、PI3K-Aktシグナル伝達経路は、正常細胞と異なり、常に活性化されている。癌細胞の最も特徴的な要因は、MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)の過剰発現である。MMPは細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼであり、その活性は、細胞遊走、内向性(intravasion)、外向性(extravasion)、血管形成、および転移に必須である。MMPは一般的には、組織改造または創傷治癒のために必要なときにだけ、発現される。しかし、癌細胞では、MMPは過剰発現して癌細胞遊走、癌細胞増殖、および転移を媒介する(非特許文献2)。したがって、正常細胞とは異なり、癌細胞は過度に増殖して他の臓器に伝播され、このことは、癌細胞が全身に広がって、治療しない限り正常な組織を破壊することを意味する。
【0004】
TM4SF4(4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)は、L6の4回膜貫通型スーパーファミリーのメンバーである、テトラスパニン(tetraspanin)と呼ばれる細胞膜タンパク質の一種である(非特許文献3)。テトラスパニンスーパーファミリーに属する細胞膜タンパク質は、癌などの疾患に関連する多くの生物学的系に関与し、以前の報告によれば、それは細胞内で起こる広範囲のさまざまなプロセスに関与することが示唆される。これまでの研究の大半は、テトラスパニンの発現が発癌マーカーの調節に関与しており、かつ少なくとも癌細胞の悪性度に関わると考えられる、としている(非特許文献4)。4回膜貫通型L6スーパーファミリーとしては、L6、L6D、TM4SF4、およびTM4SF5が挙げられる。それらの全体構造は類似しており、異なるのはC末端のみである。TM4SF5は腫瘍形成と転移に密接に関係している(非特許文献5-6)。また、TM4SF4は発生段階でラット膵臓の分化および肝細胞の再生に関与していることが報告されている(非特許文献7〜8)。TM4SF4はまた、正常な細胞では低発現を示すが、腺癌細胞では高発現を示す候補遺伝子群に属することが報告されている(非特許文献9)。それにもかかわらず、TM4SF4の正確な機能に関しての報告はまだない。特に、TM4SF4の特定の機能を開示するためにヒト細胞および癌細胞を用いて行った研究は、これまでに存在しない。
【0005】
したがって、本発明者らは、癌細胞におけるTM4SF4の機能を明らかにしようと試みた。その結果、本発明者らは、TM4SF4の発現が非小細胞肺癌のタイプによって異なること、そしてTM4SF4発現の制御が非小細胞肺癌細胞の放射線耐性、細胞増殖、転移、および浸潤に影響を与える可能性があることを確認した。特に、腺癌細胞株(A549、Calu-3)は、非小細胞肺癌の他の細胞株と比較して、より高いTM4SF4発現を示した。TM4SF4の発現または活性がTM4SF4抗体またはsiRNAを用いて抑制されたとき、癌の進行、細胞増殖、転移および浸潤だけでなく放射線耐性も、すべて低減された。その一方で、比較的低いTM4SF4発現を示す、腺癌を除く他の非小細胞肺癌の細胞株では、TM4SF4発現ベクターを用いてTM4SF4の発現を増加させたとき、細胞増殖および放射線耐性が低減された。本発明者らはさらに、TM4SF4発現および活性の調節が、癌細胞におけるIGF1R/PI3K-Akt/NK-κBの活性およびMMPの発現を調節することによって、上記の効果をもたらすことを確認した。その結果、本発明者らは、TM4SF4の発現を低減させることができる医薬組成物は、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するのに有効であり、また、TM4SF4の発現を増加させることができる医薬組成物は、腺癌を除く非小細胞肺癌を予防および治療するのに有効であり、かつ放射線療法と併用した場合にはより効果的である、ことを確認することによって本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fresno Vara JA. et al., Cancer Treat Rev. 2004 Apr;30(2):193-204.
【非特許文献2】Joyce E. Rundhaug., Clin Cancer Res 2003;9(2):551-4.
【非特許文献3】Wright MD et al., Protein Sci 2000;9(8):1594-1600.
【非特許文献4】Zevian S et al., J. Biol. Chem. 2001;286(9):7496-7506.
【非特許文献5】Lee SA et al., J. Clin. Invest. 2008;118(4):1354-66.
【非特許文献6】Lee SA et al., Blood. 2009;113(8):1845-55.
【非特許文献7】Liu Z et al., Biochim. Biophys. Acta 2001;1518(1- 2):183-9.
【非特許文献8】Anderson KR et al., Development 2011;138(15):3213-24.
【非特許文献9】Nakamura N et al., Oncogene 2006 28;4245-4255.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、TM4SF4(4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)の発現または活性を調節するための物質を用いることによって、非小細胞肺癌細胞の増殖、転移、および浸潤を抑制し、ならびに放射線感受性を増加させるのに有効である、非小細胞肺癌を予防および治療するための抗癌剤または抗癌物質を提供することである。
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、有効成分として、TM4SF4(4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)の発現または活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するための医薬組成物を提供する。
【0009】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4の発現または活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌のうち腺癌のための抗癌剤を提供する。
【0010】
本発明はさらに、有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、腺癌を除く非小細胞肺癌を予防および治療するための医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、腺癌を除く非小細胞肺癌のための抗癌剤を提供する。
【0012】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4の発現または活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させるための組成物を提供する。
【0013】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させるための組成物を提供する。
【0014】
本発明はまた、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞にTM4SF4の発現または活性の阻害剤を投与する段階を含んでなる、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させるための方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞にTM4SF4遺伝子を含むベクターを投与する段階を含んでなる、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させるための方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させる抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングするための方法を提供し、この方法は、以下の段階:
1)TM4SF4タンパク質を発現する細胞株を試験物質で処理する段階;
2)該細胞株におけるTM4SF4タンパク質の発現または活性を測定する段階;および
3)試験物質で処理しなかった対照よりも低いTM4SF4タンパク質の発現または活性を示す試験物質を選択する段階;
を含んでなる。
【0017】
本発明はまた、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させる抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングするための方法を提供し、この方法は、以下の段階:
1)TM4SF4タンパク質を発現する細胞株を試験物質で処理する段階;
2)該細胞株におけるTM4SF4タンパク質の発現または活性を測定する段階;および
3)試験物質で処理しなかった対照よりも高いTM4SF4タンパク質の発現または活性を示す試験物質を選択する段階;
を含んでなる。
【0018】
本発明はまた、腺癌を有する被験者に、TM4SF4発現または活性の阻害剤の薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、非小細胞肺癌のうち腺癌を治療するための方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、被験者に、TM4SF4発現または活性の阻害剤の薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防するための方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、腺癌を除く非小細胞肺癌を有する被験者に、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、腺癌を除く非小細胞肺癌を治療するための方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、被験者に、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、腺癌を除く非小細胞肺癌を予防するための方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するための医薬組成物としての、TM4SF4発現または活性の阻害剤の使用を提供する。
【0023】
本発明はまた、非小細胞肺癌のうち腺癌のための抗癌剤としての、TM4SF4発現または活性の阻害剤の使用を提供する。
【0024】
本発明はまた、腺癌を除く非小細胞肺癌を予防および治療するための医薬組成物としての、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの使用を提供する。
【0025】
本発明はまた、腺癌を除く非小細胞肺癌のための抗癌剤としての、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの使用を提供する。
【0026】
本発明はまた、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性の増強剤としての、TM4SF4発現または活性の阻害剤の使用を提供する。
【0027】
さらに、本発明はまた、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性の増強剤としての、TM4SF4をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの使用を提供する。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明は、癌細胞の増殖、転移、浸潤、および放射線耐性が、非小細胞肺癌細胞株におけるTM4SF4(4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)の発現および活性を調節することによって低減されることを証明した。特に、TM4SF4の発現または活性を非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞において抑制した場合、癌細胞の増殖、転移および浸潤がすべて低減されたものの、放射線感受性は顕著に増加した。一方、腺癌細胞を除く他の非小細胞肺癌細胞においてTM4SF4の発現を増加させた場合には、細胞増殖および放射線耐性が低下した。したがって、TM4SF4の発現または活性を調節する医薬組成物は、癌の予防および治療のために有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の好ましい実施形態の適用は、以下の添付図面を参照することにより最も良く理解される:
図1図1は、トランスフェクションを介してTM4SF4の過剰発現を誘導するために、種々の肺癌細胞株に発現ベクターTM4SF4/pcDNA3.1をクローニングする過程を示す図である。
図2図2は、RT-PCRおよびウェスタンブロッティング(WB)によって確認された、種々の肺癌細胞株(A549/H460/A431/H23/H1299/H2009/H358/Calu-3)におけるTM4SF4(4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)の発現を示す図である。
図3図3は、多くの非小細胞肺癌細胞株のうち大細胞癌細胞株H1299およびH460におけるTM4SF4の過剰発現に応じた細胞増殖を検討するために実施されたコロニー形成分析の結果を示す図である。
図4図4は、多くの非小細胞肺癌細胞株のうち大細胞癌細胞株H1299およびH460におけるTM4SF4の過剰発現に応じた放射線感受性を検討するために実施されたコロニー形成分析の結果を示す図である。
図5図5は、H460細胞におけるTM4SF4のダウンレギュレーションに応じた細胞増殖および放射線感受性を検討するために実施されたコロニー形成分析の結果を示す図である。
図6図6は、多くの肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549におけるTM4SF4のダウンレギュレーションに応じた細胞増殖および放射線感受性を検討するために実施されたコロニー形成分析の結果を示す図である。
図7図7は、TM4SF4を抑制させたA549細胞と対照A549細胞の両方における、細胞増殖および耐性に関連した細胞内シグナル(IGF1R/PI3K/Akt/NF-κB、EGFR、ERK)のリン酸化を検討するために実施されたウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
図8図8は、創傷治癒法を介して、TM4SF4を抑制させたA549細胞と対照A549細胞の両方における時間依存的遊走を観察した結果を示す図である。
図9図9は、TM4SF4を抑制させたA549細胞と対照A549細胞との間の遊走および浸潤の比較を示す図である。
図10図10は、A549細胞においてTM4SF4の抑制とMMP-2、7、9との相関を検討するために実施されたウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
図11図11は、A549細胞におけるTM4SF4の過剰発現に応じた細胞増殖および放射線耐性を検討するために実施されたコロニー形成分析の結果を示す図である。
図12図12は、TM4SF4を過剰発現させたA549細胞において細胞増殖および耐性に関連するマーカーを検討するために実施された、IGF1R、PI3K/PTEN/Akt、NF-κB、ERK、およびEGFRのウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
図13図13は、A549細胞においてTM4SF4の過剰発現により誘導される細胞遊走を検討するために実施された、創傷治癒の観察の結果を示す図である。
図14図14は、A549細胞においてTM4SF4の過剰発現により誘導される細胞遊走および浸潤を検討するために実施された、H&E(ヘマトキシリン&エオシン)染色の結果を示す図である。
図15図15は、A549細胞においてTM4SF4の過剰発現とMMP-2、7、9との相関を検討するために実施されたウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
図16図16は、TM4SF4を過剰発現させたA549細胞においてTM4SF4抗体量-依存的細胞増殖を検討するために実施されたコロニー形成分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好ましい実施形態の説明
以下、本発明を詳細に説明する。
【0031】
本発明は、有効成分として、TM4SF4(4回膜貫通型L6ファミリーメンバー4)の発現または活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するための医薬組成物を提供する。
【0032】
TM4SF4タンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るが、必ずしもこれに限定されない。この配列には、前記アミノ酸配列中のアミノ酸の一部が欠失、付加、または置換されているようなアミノ酸配列を含めることができ、そして好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有する配列をも含めることができる。
【0033】
本明細書におけるTM4SF4発現の有効な阻害剤は、mRNAに相補的に結合するアンチセンスヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(siRNA)であるが、必ずしもこれに限定されない。
【0034】
本明細書におけるTM4SF4発現の阻害剤は、TM4SF4遺伝子の転写、転写後、翻訳、または翻訳後プロセスに干渉することによって、通常の活性タンパク質としてのTM4SF4の発現を抑制する。より正確には、前記阻害剤は、好ましくは、TM4SF4 mRNAに相補的に結合するアンチセンスヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(siRNA)であるが、必ずしもこれに限定されない。本明細書におけるアンチセンスヌクレオチドは、ワトソン-クリック塩基対による定義に従って、DNA、未成熟mRNAまたは成熟mRNAに結合することによってタンパク質の発現を阻害する。標的配列に特異的なアンチセンスヌクレオチドは多機能により特徴づけられる。アンチセンスヌクレオチドは長鎖モノマーであり、そのため標的RNA配列を用いて容易に合成することができる。前記siRNAは、ヒトTM4SF4タンパク質をコードする遺伝子(配列番号2)のmRNAのヌクレオチド配列から選択される15〜30mer、より好ましくは20〜25merであるが、必ずしもこれに限定されず、センス配列に相補的に結合することが可能な任意のアンチセンス配列であり得る。現時点では、センス配列は特定のものに限定されるものではなく、19ヌクレオチドから成ることができるが、必ずしもこれに限定されない。多くの最近の研究では、アンチセンスヌクレオチドの有用性、特にmRNAを標的とするsiRNAの有用性は、標的タンパク質を研究するための生化学的ツールとして証明されている(Rothenberg et al., J. Natl. Cancer Inst., 81:1539-1544, 1999)。オリゴヌクレオチド化学およびヌクレオチド合成の分野では大きな進歩を成し遂げており、改善された細胞接着、標的結合親和性、およびヌクレアーゼ耐性などを実証している。したがって、アンチセンスヌクレオチドは新規な阻害剤とみなすことができる。
【0035】
本発明におけるTM4SF4活性の有効な阻害剤は、TM4SF4タンパク質の活性を抑制するように機能し、TM4SF4タンパク質と相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチド模倣体、および抗体からなる群より選択することができるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0036】
前記ペプチド模倣体は、TM4SF4の活性を抑制するためにTM4SF4タンパク質の結合ドメインを阻害するペプチドまたは非ペプチドである。非加水分解性のペプチド類似体の主要な残基は、以下を用いることによって生成することができる:βターンジペプチドコア(Nagai et al. Tetrahedron Lett 26:647, 1985)、ケト-メチレン擬ペプチド(Ewenson et al. J Med Chem 29:295, 1986; およびEwenson et al., Peptides: Structure and Function (第9回アメリカペプチドシンポジウム会報(Proceedings of the 9th American Peptide Symposium)) Pierce Chemical Co. Rockland, IL, 1985)、アゼピン(Huffman et al., Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall編, ESCOM Publisher: ライデン, オランダ, 1988)、ベンゾジアゼピン(Freidinger et al., Peptides; Chemistry and Biology, G.R. Marshall編, ESCOM Publisher: ライデン, オランダ, 1988)、β-アミノアルコール(Gordon et al. Biochem Biophys Res Commun 126:419 1985)、および置換γラクタム環(Garvey et al., Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshell編, ESCOM Publisher: ライデン, オランダ, 1988)。
【0037】
本発明者らは、他の非小細胞肺癌細胞株に比べて、TM4SF4の発現が腺癌細胞株(A549、およびCalu-3)において高いことを、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)およびウェスタンブロッティングにより確認した。また、TM4SF4の発現をsiRNAによって抑制した場合には、細胞増殖が阻害されることが、コロニー形成分析によって確認された。さらに、TM4SF4の発現を抑制した場合には、前記癌細胞株の遊走および浸潤が減少することが、トランスウェルおよび創傷治癒実験によって確認された。本発明者らはさらに、TM4SF4抗体で処理することによって前記タンパク質の活性を中和した。その結果、細胞増殖は抗TM4SF4抗体での処理により用量依存的に抑制され、これはコロニー形成アッセイによって確認された。TM4SF4をダウンレギュレートさせた場合には、細胞増殖を引き起こすIGF1Rβ/PI3K-Akt/NK-κB活性が低下した。その一方で、TM4SF4発現ベクターを用いてTM4SF4を過剰発現させた場合には、前記シグナル伝達経路がより活性化した。本発明者らはまた、TM4SF4をダウンレギュレートさせたとき、転移に不可欠な血管形成の必要因子であるMMP(マトリックスメタロプロテイナーゼ)-2、7、および9の発現が低下することを観察した。反対に、TM4SF4をアップレギュレートさせたときには、MMP-2、7、および9の発現がすべて増加した。したがって、TM4SF4の発現および活性を阻害する物質を含む医薬組成物は、IGF1Rβ/PI3K-Akt/NK-κBおよびMMPの活性化を抑制することにより腺癌細胞の細胞増殖、転移、および浸潤を低減させることによって、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するために効果的に使用することができる。
【0038】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4の発現または活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌のうち腺癌のための抗癌剤を提供する。
【0039】
本明細書における抗癌剤は、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させることができる。
【0040】
本明細書における放射線は、γ線、X線、または電子線、好ましくはγ線、より好ましくは60Coのγ線であり得るが、必ずしもこれらに限定されない。
【0041】
本明細書における放射線量は、0.2〜20Gy、好ましくは0.5〜10Gy、最も好ましくは2Gyであるが、必ずしもこれらに限定されない。本明細書における照射速度は、0.02〜2Gy/分、好ましくは0.05〜1Gy/分、より好ましくは0.2Gy/分であるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0042】
TM4SF4発現の抑制が細胞の放射線感受性に影響を与えることができるか否かを検討するために、本発明者らは、TM4SF4 mRNAに相補的なsiRNAを用いて、非小細胞肺癌細胞株のうち腺癌細胞株(A549)におけるTM4SF4の発現を抑制した。次に、該細胞株の放射線耐性、特にγ線に対する該細胞株の耐性を調べるために、コロニー形成分析を実施した。その結果、TM4SF4の低発現を示すA549細胞株では、コロニー形成が顕著に増加し、このことは、該細胞株の放射線耐性がTM4SF4のダウンレギュレーションにより低下した、言い換えれば、該細胞株の放射線感受性が増加した、ことを示唆している。したがって、TM4SF4の発現または活性の阻害剤は、TM4SF4タンパク質の発現または活性を抑制することにより癌細胞の放射線感受性を高めることができるので、放射線療法を伴う抗癌剤として効果的に使用することができる。
【0043】
TM4SF4の発現または活性の阻害剤を有効成分として含む本発明の組成物は、該有効成分を、該組成物の全重量に対して0.0001〜50重量%の濃度で含むことができる。
【0044】
本発明の組成物は、TM4SF4の発現または活性の阻害剤に加えて、TM4SF4の発現または活性の阻害剤と同一または同様の機能を有する1種以上の有効成分を含むことができる。
【0045】
本発明の組成物はまた、上記の有効成分に加えて、投与のための1種以上の薬学的に許容される担体を含むことができる。薬学的に許容される担体は、生理食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、およびリポソームからなる群より選択されるか、または2種以上の前記成分を混合することによって調製することができる。抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の一般的な添加剤を添加してもよい。本発明の組成物は、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および滑沢剤と混合することによって、注射用の水性溶液剤、懸濁液剤および乳濁液剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤または錠剤を含めて、さまざまな剤形に製剤化することができる。標的器官に送達させるために、標的器官特異的抗体または他のリガンドを前記担体のいずれかと混合することができる。前記組成物はさらに、Remington's Pharmaceutical Science(最新版), Mack Publishing社, Easton PAに記載の方法に従って、成分に応じて適切な剤形で調製することができる。
【0046】
本発明で使用されるヌクレオチドまたは核酸は、経口、局所、非経口、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下、眼内または経皮投与などの投与用に製剤化することができる。核酸またはベクターは、注射用に製剤化することがより好適である。直接注射用の組成物を調製するために、該組成物は任意の薬学的に許容される媒体と混合することができる。本発明の組成物は、滅菌等張液、滅菌水、または生理食塩水を含めることによって注射剤を調製するのに適した、凍結乾燥組成物の形で製剤化することができる。患者の腫瘍への核酸の直接注射は、治療効果が患部にのみ向けられるので、好ましい。核酸の用量は、例えば、遺伝子、ベクター、投与方法、疾患、および必要な治療期間などの各種パラメータによって調整され得る。さらに、体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与頻度、投与方法、排泄、および疾患の重症度もまた、用量を調整するために考慮される。有効量は約0.001〜100mg/kg/日、好ましくは0.01〜10mg/kg/日であり、1日1回〜1日数回投与される。
【0047】
本発明はさらに、有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、腺癌を除く非小細胞肺癌を予防および治療するための医薬組成物を提供する。
【0048】
本明細書におけるTM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターは、配列番号2で表される遺伝子配列から成るが、必ずしもこれに限定されない。1つ以上のDNAの欠失、付加、または置換によって修飾された遺伝子配列はどれも含めることができ、現時点では、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有する遺伝子配列が好適である。
【0049】
本明細書におけるベクターは、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターのいずれかを含むことができる。本明細書における非ウイルスベクターとしては、線状DNA、プラスミドDNA、およびリポソームが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。本明細書におけるウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびヘルペスウイルスが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0050】
本発明者らは、TM4SF4の発現が、腺癌細胞株(A549およびCalu-3)においてよりも、腺癌細胞株を除く非小細胞肺癌細胞株(H460、A431、H23、H1299、H2009およびH358)において低いことを、RT-PCRおよびウェスタンブロッティングにより確認した。細胞増殖に対するTM4SF4の発現の影響をさらに調べるため、本発明者らは、腺癌を除く非小細胞肺癌細胞株を用いるコロニー形成分析を実施した。具体的には、本発明者らは、TM4SF4発現ベクターであるpcDNA3.1を用いて、TM4SF4の過剰発現を誘導した。その結果、TM4SF4を過剰発現する、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞株において、細胞増殖が阻害されることが確認された。したがって、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞におけるTM4SF4の発現を増加させることが可能な物質を含む医薬組成物は、そこにおける細胞増殖を低減させると結論づけられ、該組成物が腺癌を除く非小細胞肺癌の予防および治療のために効果的に使用され得ることを示している。
【0051】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、腺癌を除く非小細胞肺癌のための抗癌剤を提供する。
【0052】
本明細書における抗癌剤は、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させることができる。適用可能な放射線の特性と照射方法および線量は上記と同様である。
【0053】
本明細書における腺癌を除く非小細胞肺癌とは、腺癌が除外されることを示している。より具体的には、その非小細胞肺癌は扁平上皮癌および大細胞癌を含み、より好ましくは、それは大細胞癌を示すが、必ずしもこれに限定されない。
【0054】
有効成分である配列番号2で表されるTM4SF4遺伝子を発現する組換え発現ベクターの抗癌剤中の濃度は、好ましくは、抗癌剤組成物の全重量に対して0.01〜50重量%であるが、必ずしもこれに限定されない。前記抗癌剤はまた、TM4SF4を発現する組換え発現ベクターに加えて、精製水、賦形剤、安定剤、または防腐剤などの添加剤を含むことができる。
【0055】
本発明のTM4SF4遺伝子を発現する組換え発現ベクターを含む抗癌剤は、経口投与、注射、局所治療、または塗布用に、錠剤、カプセル剤、注射剤、顆粒剤、および丸剤などの種々の剤形で調製することができる。
【0056】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4の発現または活性の阻害剤を含む、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させるための組成物を提供する。
【0057】
本発明はまた、有効成分として、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターを含む、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させるための組成物を提供する。
【0058】
本発明はまた、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞にTM4SF4の発現または活性の阻害剤を投与する段階を含んでなる、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させるための方法を提供する。
【0059】
本発明はまた、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞にTM4SF4遺伝子を含む発現ベクターを投与する段階を含んでなる、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させるための方法を提供する。
【0060】
本明細書における放射線は、γ線、X線、または電子線、好ましくはγ線、より好ましくは60Coのγ線であり得るが、必ずしもこれらに限定されない。
【0061】
本明細書における放射線量は、0.2〜20Gy、好ましくは0.5〜10Gy、最も好ましくは2Gyであるが、必ずしもこれらに限定されない。本明細書における照射速度は、0.02〜2Gy/分、好ましくは0.05〜1Gy/分、より好ましくは0.2Gy/分であるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0062】
本発明はまた、非小細胞肺癌のための抗癌剤または抗癌物質をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、以下の段階:
1)TM4SF4タンパク質を発現する細胞株を試験物質で処理する段階;および
2)該細胞株においてTM4SF4タンパク質の発現または活性を調節することができる物質を選択する段階;
を含んでなる。
【0063】
特に、本発明は、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性を増加させる抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、以下の段階:
1)TM4SF4タンパク質を発現する細胞株を試験物質で処理する段階;
2)該細胞株におけるTM4SF4タンパク質の発現または活性を測定する段階;および
3)試験物質で処理しなかった対照よりも低いTM4SF4タンパク質の発現または活性を示す試験物質を選択する段階;
を含んでなる。
【0064】
特に、本発明は、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させる抗癌剤または増強剤候補をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、以下の段階:
1)TM4SF4タンパク質を発現する細胞株を試験物質で処理する段階;
2)該細胞株におけるTM4SF4タンパク質の発現または活性を測定する段階;および
3)試験物質で処理しなかった対照よりも高いTM4SF4タンパク質の発現または活性を示す試験物質を選択する段階;
を含んでなる。
【0065】
上記2つのスクリーニング方法において、段階1)のTM4SF4タンパク質は配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るが、必ずしもこれに限定されない。
【0066】
上記2つのスクリーニング方法において、段階2)の前記タンパク質の発現は、転写産物またはそれからコードされるタンパク質を測定するために用いられる、当業者に公知の任意の方法によって測定することができ、こうした方法は、好ましくは、免疫沈降、RIA、ELISA、免疫組織化学、RT-PCR、ウェスタンブロッティング、およびFACSからなる群より選択されるが、必ずしもこれらに限定されない。段階2)の前記タンパク質の活性はまた、SDS-PAGE、免疫蛍光、ELISA、質量分析、およびタンパク質チップからなる群より選択されるが、必ずしもこれらに限定されない、方法のいずれかによって測定することができる。
【0067】
上記2つのスクリーニング方法において、段階3)の放射線は、γ線、X線、または電子線、好ましくはγ線であり得るが、必ずしもこれらに限定されない。
【0068】
本発明では、細胞増殖、転移、浸潤、および放射線感受性は、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞、および他の非小細胞肺癌細胞におけるTM4SF4の発現を調節することによって、変化することが確認された。また、上記の変化は腺癌細胞と他の非小細胞肺癌細胞の間で相反することが本発明において確認された。より正確には、TM4SF4の発現が腺癌細胞でダウンレギュレートされた場合、細胞増殖、転移、浸潤、および放射線耐性がすべて低下した。これに対して、TM4SF4の発現が腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞でアップレギュレートされた場合には、細胞増殖および放射線耐性が低下した。したがって、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞または腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性を増加させる効果をもたらす抗癌剤または抗癌物質は、TM4SF4の発現を制御することができる試験物質をスクリーニングすることで選択され得る。
【0069】
本発明はまた、腺癌を有する被験者に、TM4SF4発現または活性の阻害剤の薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、非小細胞肺癌のうち腺癌を治療するための方法を提供する。
【0070】
本発明はまた、被験者に、TM4SF4発現または活性の阻害剤の薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防するための方法を提供する。
【0071】
本発明はまた、腺癌を除く非小細胞肺癌を有する被験者に、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、腺癌を除く非小細胞肺癌を治療するための方法を提供する。
【0072】
本発明はまた、被験者に、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの薬学的有効量を投与する段階を含んでなる、腺癌を除く非小細胞肺癌を予防するための方法を提供する。
【0073】
本発明はまた、非小細胞肺癌のうち腺癌を予防および治療するための医薬組成物としての、TM4SF4発現または活性の阻害剤の使用を提供する。
【0074】
本発明はまた、非小細胞肺癌のうち腺癌のための抗癌剤としての、TM4SF4発現または活性の阻害剤の使用を提供する。
【0075】
本発明はまた、腺癌を除く非小細胞肺癌を予防および治療するための医薬組成物としての、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの使用を提供する。
【0076】
本発明はまた、腺癌を除く非小細胞肺癌のための抗癌剤としての、TM4SF4タンパク質をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの使用を提供する。
【0077】
本発明はまた、非小細胞肺癌細胞のうち腺癌細胞の放射線感受性の増強剤としての、TM4SF4発現または活性の阻害剤の使用を提供する。
【0078】
さらに、本発明はまた、腺癌細胞を除く非小細胞肺癌細胞の放射線感受性の増強剤としての、TM4SF4をコードする遺伝子を保有する発現ベクターの使用を提供する。
【0079】
本発明の実用的かつ現在好ましい実施形態を以下の実施例、実験例および製造例に例示的に示す。
【0080】
しかし、当業者であれば、本開示を考慮して、本発明の精神および範囲内でさまざまな修飾および改良を行うことができることが理解されるであろう。
【実施例1】
【0081】
トランスフェクションのためのTM4SF4発現ベクターの構築
ヒトTM4SF4遺伝子の発現ベクターを構築するために、TM4SF4を過剰発現するA549細胞のゲノムDNAに対してプライマー[EcoRI/フォワード: 5'-CCACGAATTCATGTGCACTGGGGGC-3' (配列番号3);XhoI/リバース: 5'-TCCTCGAGTTAAACGGGTCCATCTCCC-3' (配列番号4)]を用いてPCRを実施した。このとき、サーマルサイクラー(APOLLO社, San Diego, USA)を使用した。その結果として、626bpの大きさのTM4SF4が得られた。PCRは、1μgのゲノムDNA、それぞれ1μlの10pmolプライマー、およびPCRプレミックス(Maxim(商標) PCR PreMix, i-Taq) (iNtRON Biotechnology社, Sungnam, 韓国)を用いて誘導した。PCRを次のように実施した:変性94℃で1分、アニーリング58.9℃で30秒、伸長72℃で1分、変性から伸長までを30サイクル、および後伸長(post-elongation)72℃で5分。
【0082】
発現ベクターpcDNA3.1(+)を、それぞれ1μlの制限酵素EcoRIおよびXhoI(Invitrogen社)、ならびにバッファーと混合し、次に37℃で少なくとも2時間反応させた。前記発現ベクター、上記PCRから得られたTM4SF4 DNA、T4リガーゼ、およびT4バッファーを混合して、16℃で少なくとも2時間反応させた。前記発現ベクターの構築を示す略図が図1に示される。宿主としてのDH5α(iNtRON biotechnology社, Sungnam, 韓国)大腸菌(E. coli)および構築した発現ベクターを混合し、4℃で30分間放置した。次いで、この混合物に42℃で90秒間の熱ショックを与えた。この混合物をSOC培地に接種して、37℃の振盪インキュベーター内で1時間培養した。この培養混合物を抗生物質マーカーとしてアンピシリンを添加したLB固体培地になすりつけ、37℃のインキュベーター内で16時間さらに培養した。得られたコロニーを制限酵素EcoRIおよびXhoI(Invitrogen社)で処理して、配列決定により前記DNAの挿入を確認した。100%マッチすることが確認されたコロニーを、アンピシリンを添加したLBブロス中で一晩培養した。その後、DNA-spinプラスミドDNA抽出キット(iNtRON biotechnology社, Sungnam, 韓国)を用いて、プラスミドDNAをそこから抽出した。A549、H460、A431、H23、H1299、H2009、H358、またはCalu-3細胞を6ウェルプレートに4×105個/ウェルの密度でロードした。効率的なトランスフェクションのために、培地をopti-MEMと交換した。4μgの抽出されたTM4SF4/pcDNA3.1 DNAを10μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen社)と20分間混合して、上記の細胞に添加した。5時間後、一時的にトランスフェクトされた細胞を増殖させるために、培地をRPMI 1640と交換した。次の実験は72時間後に実施した。TM4SF4発現ベクターによって媒介される細胞内でのTM4SF4の発現は、RT-PCRにより確認した。
【実施例2】
【0083】
RT-PCRおよびウェスタンブロッティングによる、腺癌細胞株A549およびCalu-3におけるTM4SF4の過剰発現の確認
腺癌細胞株を含む各種肺癌細胞株におけるTM4SF4の発現を調べるために、RT-PCRとウェスタンブロッティングを行ってTM4SF4 mRNAおよびタンパク質を定量化した。
【0084】
RT-PCRでは、1μgの全RNAおよびMaxim(商標)RTプレミックス-オリゴ(dT)15プライマー(iNtRON biotechnology社, Sungnam, 韓国)を含む反応混合物を全量20μlで調製した。次いで、反応を45℃で60分間および95℃で5分間誘導したところ、結果としてRT-PCR産物cDNAが合成された。鋳型としての合成cDNA、1μlのTM4SF4プライマー[フォワード: 5'-CCACGAATTCATGTGCACTGGGGGC-3' (配列番号3);リバース: 5'-TCCTCGAGTTAAACGGGTCCATCTCCC-3' (配列番号4)]またはβ-アクチンプライマー[フォワード: 5'-CATCCTCACCCTGAAGTACCC-3' (配列番号5);リバース: 5'-AGCCTGGATAGCAACGTACATG-3' (配列番号6)]、16μlの滅菌水、およびPCRプレミックス(Maxim(商標)PCR PreMix, i-Taq) (iNtRON biotechnology社, Sungnam, 韓国)を混合することによって反応混合物を全量20μlで調製した。PCRはサーマルサイクラー(APOLLO社, San Diego, USA)を用いて次のように実施した:変性94℃で1分、アニーリング58.9℃で30秒、伸長72℃で1分、変性から伸長までを30サイクル、および後伸長72℃で5分。PCR産物は1%アガロースゲル上で電気泳動し、続いて観察のためEtBr(臭化エチジウム)で染色した。
【0085】
細胞培養は、10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone社)と抗生物質(100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン、Hyclone社)を補充したRPMI 1640中にて37℃の5%CO2インキュベーター内で実施した。1×107個のA549、H460、A431、H23、Calu-3、H1299、H2009、またはH358細胞を取得し、PBSで2回洗浄した。この細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(2mM AEBSF、1mM EDTA、130μM ベスタチン、1μM ロイペプチン、14μM E-64、および0.3μM アプロチニン)とホスファターゼ阻害剤を含むRIPAバッファー中に懸濁し、氷中に20分間放置し、その後クイックボルテックスを3回かけた。次に、遠心分離を12,000rpm、4℃で20分間行って、上清を得た。遠心分離を再度12,000rpm、4℃で20分間行った。その結果、純粋な上清が得られた。上清に含まれるタンパク質をローリー(Lowry)法により定量した。電気泳動は、40μgの全細胞溶解物を用いて、7.5〜12%アクリルアミドゲル(Bio-rad社, 日本)上で80Vにて1時間、次に100Vにて90分間実施した。上記電気泳動により単離されたタンパク質は、100%メタノール中に10秒間浸漬した後に蒸留水で十分に水和させたPVDF膜(ポリフッ化ビニリデン膜) (Bio-Rad社, USA)に、セミドライトランスファー(semi-dry transfer) (Bio-Rad社, USA)を用いて20Vで1時間転写した。非特異的結合を除くために、この膜をブロッキングバッファー(5% BSA、0.1% Tween-20/TBS)と室温で1時間反応させた。次いで、コンジュゲーションのために、この膜を一次抗体の抗TM4SF4抗体(abcam社, #ab102946)、および抗β-アクチン抗体(Sigma-Aldrich社, #A3854)と4℃で一晩反応させた。その膜をさらに二次抗体のペルオキシダーゼ結合抗IgG抗体(Cell-signaling社, #7076および#7074)と室温で1時間反応させた。TM4SF4の発現を調べるためにECL検出キット(Amersham社, UK)を用いて発色を検査し、その結果を図1に示す。ローディング対照としてβ-アクチンを用いた。等量のβ-アクチンは、等量のタンパク質がロードされたことを示している。
【0086】
RT-PCRおよびウェスタンブロッティングの結果はすべて、腺癌細胞株A549およびCalu-3において、TM4SF4がmRNAレベルでもタンパク質レベルでもアップレギュレートされたことを実証した。一方、TM4SF4は、他の肺癌細胞株(H460、A431、H23、1299、H2009、およびH358)では、mRNAレベルでもタンパク質レベルでも比較的ダウンレギュレートされた(図2)。
【実施例3】
【0087】
コロニー形成アッセイにより確認された、肺癌細胞株のうち大細胞癌細胞株H1299およびH460におけるTM4SF4の過剰発現による細胞増殖と放射線耐性の低下
実施例2の結果によれば、腺癌細胞株と非腺癌細胞株は、それらがすべて肺癌細胞株であるにもかかわらず、異なるTM4SF4発現パターンを示した。そのため、多くの肺癌細胞株のうち大細胞癌細胞株H1299およびH460における細胞増殖と放射線耐性を最初に観察して、それらがTM4SF4発現とどのように関係しているかを検討し、かつTM4SF4の機能を調べた。より具体的には、siRNA技術を用いてTM4SF4をダウンレギュレートさせたとき、およびTM4SF4/pcDNA3.1トランスフェクションによりTM4SF4を過剰発現させたとき、大細胞癌細胞の細胞増殖および放射線感受性がどのように変化するかをコロニー形成アッセイによって調べた。コロニーの数をカウントして、対照に対するコロニー生存率(%)として表した。
【0088】
<3-1> H1299およびH460におけるTM4SF4の過剰発現による細胞増殖阻害の確認
2×103個のH1299またはH460細胞を35mm細胞培養容器内で培養し、続いて実施例1で得られた4μgの発現ベクターTM4SF4/pcDNA3.1およびリポフェクタミン2000を用いて、実施例1と同様の方法により一時的にトランスフェクションした。8日後、生細胞を0.5%(w/v)クリスタルバイオレット溶液で染色して、観察した。空ベクターを対照に用いた。
【0089】
その結果、TM4SF4を大細胞癌細胞株H1299およびH460において過剰発現させた場合には、H1299およびH460のコロニーが対照のそれと比較して顕著に減少した(図3)。すなわち、細胞増殖はTM4SF4の過剰発現によって阻害された。
【0090】
<3-2> H460細胞におけるTM4SF4の過剰発現による細胞増殖の減少と放射線感受性の増加の確認
H460細胞においてTM4SF4を過剰発現させるために、この実験は実施例3-1と同様の方法で行った。放射線感受性を調べるため、実施例3-1に記載した方法と同様にしてTM4SF4を過剰発現させた。72時間後、細胞を回収し、続いて照射した。照射は60Coのγ線を用いて0.2Gy/分(合計2Gy)で実施した。その細胞を36℃の5%CO2インキュベーター内で8日間培養した。その後、生細胞を0.5%(w/v)クリスタルバイオレット溶液で染色して、観察した。
【0091】
その結果、実施例3-1で確認されたように、H460細胞においてTM4SF4を過剰発現させた場合には、細胞増殖が阻害された(図4、上)。TM4SF4を過剰発現するH460細胞に2Gyの60Co γ線を照射した場合には、コロニーの数が対照のそれと比較して顕著に減少した(図4、下)。したがって、H460細胞においてTM4SF4を過剰発現させた場合には、細胞増殖が阻害されたが、放射線感受性は増加した(放射線耐性が低下したことを意味する)と結論づけることができる。
【0092】
<3-3> H460細胞におけるTM4SF4の低発現による細胞増殖の増加と放射線感受性の低下の確認
TM4SF4をダウンレギュレートするために、TM4SF4遺伝子の発現を抑制することが可能なTM4SF4-siRNA二重鎖オリゴリボヌクレオチドプライマーを構築した:5'-gccucucaaugugguucccuggaau-3'(配列番号7:センス)/5'-auuccagggaaccacauugagaggc-3'(配列番号8:アンチセンス)。これらはTM4SF4遺伝子の一部(配列番号9)を標的化することによって遺伝子発現を抑制するように機能した。TM4SF4を標的とするStealth(商標)RNA(Invitrogen社)を、実施例1に記載した方法と同様にしてリポフェクタミン(lipofectamine(商標))RNAi MAX試薬(Invitrogen社)を用いて、細胞に一過性にトランスフェクトした。72時間後、細胞を回収して照射した。照射とその後のコロニー形成アッセイは、実施例3-2に記載した方法と同様にして行った。対照細胞はリポフェクタミン(商標)RNAi MAX試薬のみでトランスフェクトした。
【0093】
その結果、H460細胞においてTM4SF4をダウンレギュレートした場合には、増殖したコロニーの数が対照のそれと比較して増加した(図5、上)。2Gyの60Co γ線を照射した場合には、コロニーの数が増加した(図5、下)。すなわち、前記細胞においてTM4SF4をダウンレギュレートした場合には、細胞増殖だけでなく、放射線耐性も増加し、言い換えれば、放射線感受性が低下した。
【実施例4】
【0094】
コロニー形成アッセイにより確認された、肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の低発現による細胞増殖と放射線耐性の増加の確認
他の肺癌細胞株に比べて、比較的低いTM4SF4発現を示す腺癌細胞株A549において、以下の実験により、細胞増殖および放射線感受性を、TM4SF4発現の変化に応じて検討した。
【0095】
TM4SF4 siRNAを用いてA549細胞におけるTM4SF4の発現を低下させる方法、細胞増殖および放射線感受性を測定するためのコロニー形成アッセイ、ならびに結果を生存率(%)で表すための方法は、実施例3-3に記載したものとすべて同様であった。
【0096】
その結果、多くのタイプの肺癌のうち、大細胞癌において実証された結果とは異なり、腺癌細胞株A549においてTM4SF4をダウンレギュレートした場合には、照射後に培養したコロニーの数が減少した(図6)。この結果は、腺癌細胞株A549において過剰発現されたTM4SF4を抑制した場合には、細胞増殖が阻害されかつ放射線耐性が低下し、言い換えれば、放射線感受性が増加した、ことを示している。
【実施例5】
【0097】
ウェスタンブロッティングにより確認された、肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の低発現による細胞内シグナル伝達経路の活性の減少
TM4SF4のダウンレギュレーションは、腺癌細胞株A549において細胞増殖を阻害するが、放射線感受性を増大させることができるという上記で確認された結果に基づいて、細胞増殖を媒介する細胞内シグナル伝達経路の活性化がTM4SF4の発現によって影響を受ける可能性があるか否かを調べるために、以下の実験を行った。細胞内シグナル伝達経路は段階的にリンクされた多くのタンパク質から構成されており、それらの活性化は一般的にセリン、トレオニンおよびチロシン残基のリン酸化により媒介される。それゆえ、リン酸化のレベルはそれらの活性化のレベルを意味する。この実施例では、TM4SF4を過剰発現させたときと、ダウンレギュレートさせたときに、さまざまな細胞内シグナル伝達経路を媒介するタンパク質のリン酸化をウェスタンブロッティングによって測定した。
【0098】
実施例3-3に記載されるように、siRNAを用いることによってTM4SF4をダウンレギュレートさせた。次に、癌細胞において過剰発現されるいくつかの細胞内シグナル伝達経路の活性を調べた。例えば、以下のリン酸化が検討された:DNA合成、細胞表現型(増殖、遊走および接着など)を調節することが知られているEGFR(上皮成長因子受容体)、抗アポトーシス特性を有し、細胞の生存、増殖および遊走に影響を与え、かつ抗癌化学療法および放射線療法に対する感受性を高めることが知られているIGF1Rβ(インスリン様成長因子1受容体β)、上記の細胞内シグナル伝達システムを形成するPI3K(ホスファチジルイノシトール3キナーゼ) (例えば、PTEN、Akt)、ならびに転写因子NK-κBおよびERK。各シグナル伝達経路のリン酸化は、実施例2に記載した方法と同様にしてウェスタンブロッティングにより調べた。TM4SF4が豊富なもしくは不足した、または刺激のまったくない、各細胞におけるEGFR、IGF1Rβ、PI3K、NK-κB、またはERKのリン酸化の結果は、それぞれの抗体(Cell signaling社, USA)を用いたウェスタンブロッティングで確認して、図5に示した。
【0099】
その結果、細胞増殖と放射線感受性にとって重要なシグナル伝達経路を媒介するEGFR、IGF1Rβ、およびPI3Kの活性化は、TM4SF4のダウンレギュレーションによって阻害されることが確認された(図7)。上記の結果と一致して、PI3Kの脱リン酸化に関与するPTENはTM4SF4のダウンレギュレーションにより活性化された(図7)。しかし、ERKの活性化はTM4SF4発現の変化によってあまり影響を受けなかった(図7)。すなわち、TM4SF4の低発現はEGFR、IGF1R、およびPI3Kのリン酸化を阻害することができ、結果的に、細胞増殖などに関連する細胞内シグナル伝達経路の活性化に関与する細胞事象を制御することができる。
【実施例6】
【0100】
創傷治癒試験によって確認された、肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の低発現による細胞遊走の減少
以下の実験は、TM4SF4の発現が細胞増殖または遊走を変えることができるか否かを調べるために実施された。
【0101】
実施例3-3に記載されるように、siRNAを用いることによってTM4SF4の低発現をA549細胞において誘導した。72時間後、細胞を35mm細胞培養容器に移して、細胞の集密度が少なくとも90%に達するまで培養した。細胞をPBSで十分に洗浄し、培養培地を、0.5%FBSを補充したRPMI 1640と交換し、その後5%CO2、37℃インキュベーター内で一晩さらに培養したが、これは細胞を飢餓状態にした。200μlのチップを用いて容器の底に細胞をかき集めた後、PBSを注いでそれを洗浄し、その中に細胞培養液をさらなる培養のために満たした。その後、細胞間の距離を0時間、24時間、および36時間の時点で測定した。その距離を対照に対する%として表した。
【0102】
その結果、TM4SF4を抑制させたA549細胞の遊走は、24時間の時点まで対照のそれと同様であったが、それ以後は時間の経過とともに遊走が顕著に減少し、遊走が36時間の時点まで連続的に増加した対照とは異なっていた(図8)。したがって、TM4SF4の発現は腺癌細胞株であるA549細胞の連続的遊走において重要な役割を果たすことが、本発明において確認された。
【実施例7】
【0103】
トランスウェル検査によって確認された、TM4SF4の低発現による肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549の遊走および浸潤の減少
実施例6で得られた結果に基づいて、細胞遊走がTM4SF4の発現によってどのような影響を受けるかを、トランスウェルを用いることにより検証した。また、浸潤がTM4SF4の発現に応じて変化するか否かを、トランスウェルを用いることにより検証した。細胞の遊走および浸潤は癌細胞の転移のために必要な因子である。したがって、この実験は、TM4SF4の発現が細胞遊走だけでなく癌細胞の転移にどのような影響を及ぼすかを開示することであった。
【0104】
<7-1> A549細胞におけるTM4SF4の低発現による細胞遊走の減少の確認
細胞遊走を観察するために、実施例3-3に記載した方法と同様にして、A549細胞においてsiRNAを用いることによりTM4SF4の発現を最初にダウンレギュレートさせた。72時間後、細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone社)および抗生物質(100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン、Hyclone社)を補充したRPMI 1640中で培養し、トランスウェル(Cell biolabs社)のチャンバー内に2×105個/300μlの密度でロードした。下部チャンバーにFBSフリーのRPMI 1640(500μl)を満たし、続いて5%CO2、37℃インキュベーター内で24時間培養した。培養が完了した時点で、トランスウェルの下部チャンバーまでの細胞遊走を観察するために、細胞をCyQuant(登録商標)GRで染色した。視野内に観察された細胞の数をカウントして、対照に対する%として表した。
【0105】
その結果、対照と比較して、腺癌細胞株A549の細胞遊走はTM4SF4の低発現によって約30%減少した(図9、上)。この結果は実施例6の結果と一致する。
【0106】
<7-2> A549細胞におけるTM4SF4の低発現による細胞浸潤の減少の確認
細胞浸潤を測定するために、実施例3-3に記載した方法と同様にして、A549細胞においてsiRNAを用いることによりTM4SF4の発現を最初にダウンレギュレートさせた。72時間後、5×105個のA549細胞を、10μlのMatrigel(商標)で被覆して乾燥させた上部トランスウェルに分配した。この細胞をFBSフリーのRPMI 1640中で室温にて30分間培養した。次いで、上記実施例7-1で細胞遊走を測定するために使用した方法と同様にして、トランスウェルを用いる実験を行った。培養が完了した時点で、各ウェルの上面を綿棒で取り除き、細胞浸潤を観察するために細胞をCyQuant(登録商標)GRで染色した。視野内に示された細胞の数をカウントして、対照に対する%として表した。
【0107】
その結果、腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の低発現によって、細胞浸潤は約40%減少した(図9、下)。したがって、この実施例では、腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の発現は細胞遊走および浸潤を増加させることが確認されたが、これは、TM4SF4の発現が癌細胞の転移を促進する上で重要な役割を果たすことを示唆している。
【実施例8】
【0108】
ウェスタンブロッティングにより確認された、肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の低発現によるMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)発現の減少
TM4SF4の発現が転移に不可欠な血管新生にどのような影響を与えるかを試験するために、MMPの発現を調べた。MMPは、細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼの1種であり、血管形成に必須の因子の1つとして知られている。
【0109】
最初に、実施例3-3に記載した方法と同様にして、A549細胞においてsiRNAを用いることによりTM4SF4の発現をダウンレギュレートさせた。72時間後、実施例2に記載した方法と同様にして、何の刺激もない全細胞溶解物を得て、MMP-2、7、および9の発現を測定するために、各々の対応する抗体(R&D system社, USA)を用いるウェスタンブロッティングへと進めた。ローディング対照としてβ-アクチンを用いた。
【0110】
その結果、MMP-2、7、および9の発現は、TM4SF4発現の抑制によって大幅に減少した(図10)。すなわち、TM4SF4は細胞内MMP-2、7、および9の発現を制御することが可能である。
【実施例9】
【0111】
TM4SF4の過剰発現による肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549の細胞増殖および放射線耐性の低下の確認
A549細胞においてTM4SF4を過剰発現させるために、TM4SF4/pcDNA3.1発現ベクターを用いる方法、細胞増殖および放射線感受性を測定するためのコロニー形成アッセイ、ならびに生存率(%)として結果を表すための方法を、実施例3-2に記載した方法と同様にして行った。
【0112】
その結果、大細胞癌において示された結果とは異なり、コロニーの数は、TM4SF4の過剰発現によっても照射によっても増加した(図11)。この結果は実施例4の結果と一致した。すなわち、腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の過剰発現は、細胞増殖および放射線耐性の増加をもたらした。
【実施例10】
【0113】
ウェスタンブロッティングにより確認された、腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の過剰発現による細胞内シグナル伝達経路の活性化の増加
実施例4および5に示したように、TM4SF4の低発現は、細胞増殖および放射線耐性に関与する細胞内シグナル伝達経路の活性化を抑制する効果をもたらし、このことは、TM4SF4の低発現が結果的に細胞増殖および放射線耐性の減少をもたらしたことを意味している。この実施例では、TM4SF4の過剰発現が細胞内シグナル伝達経路(EGFR、IGF1Rβ、PI3K、NK-κB、およびERK)の活性化に影響を与えることができるか否かを検証した。
【0114】
TM4SF4の過剰発現は、実施例3-2に記載した方法と同様にして、A549細胞において誘導した。細胞内シグナル伝達経路の活性化は、実施例5に記載した方法と同様にして調べた。
【0115】
その結果、腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の過剰発現は、IGF1Rβ、PI3K、およびNK-κBのリン酸化の増加をもたらしたが、EGFRおよびERKの活性化には影響を与えなかった(図12)。結論として、TM4SF4の過剰発現は、IGF1Rβ、PI3K、およびNK-κBの活性化を増加させ、実施例9に示したように、細胞増殖および放射線耐性の増加をもたらした。
【実施例11】
【0116】
創傷治癒試験によって確認された、肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の過剰発現による細胞遊走の増加
実施例6に示したように、A549細胞におけるTM4SF4の低発現は細胞遊走の減少をもたらした。上記の結果を再度確認するために、この実施例では、細胞遊走が同じ細胞株である腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の過剰発現によって変化され得るか否かを検証した。
【0117】
A549細胞におけるTM4SF4の過剰発現を誘導するための方法は、実施例3-2で用いたものと同じであった。創傷治癒過程を通して細胞遊走を観察するために、実施例6に記載した方法と同様にして細胞遊走を測定した。
【0118】
その結果、TM4SF4を腺癌細胞株A549において過剰発現させた場合、損傷細胞間の距離は、対照のそれと比較して、24時間後に狭まった(図13)。したがって、A549細胞におけるTM4SF4の過剰発現は細胞遊走を増加させることが確認された。
【実施例12】
【0119】
トランスウェルを用いる実験によって確認された、TM4SF4の過剰発現による肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549における細胞遊走および浸潤の増加
この実施例では、細胞遊走および浸潤がTM4SF4の過剰発現によってどのように影響されるかを調べるためにトランスウェルが用いられた。
【0120】
<12-1> A549細胞におけるTM4SF4の過剰発現による細胞遊走の増加
TM4SF4の過剰発現は、実施例3-2に記載した方法と同様にして、発現ベクターTM4SF4/pcDNA3.1を用いることによりA549細胞において誘導した。次いで、細胞遊走を、実施例7-1に記載した方法と同様にして、トランスウェルを用いて観察した。
【0121】
その結果、TM4SF4を腺癌細胞株A549において過剰発現させた場合、細胞遊走は、対照のそれと比較して、約30%増加した(図14、上)。
【0122】
<12-2> A549細胞におけるTM4SF4の過剰発現による細胞浸潤の増加
TM4SF4の過剰発現は、実施例3-2に記載した方法と同様にして、発現ベクターTM4SF4/pcDNA3.1を用いることによりA549細胞において誘導した。次いで、細胞浸潤を、実施例7-2に記載した方法と同様にして、トランスウェルを用いて観察した。
【0123】
その結果、TM4SF4を腺癌細胞株A549において過剰発現させた場合、細胞浸潤は、対照のそれと比較して、約40%増加した(図14、下)。
【実施例13】
【0124】
ウェスタンブロッティングにより確認された、肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の過剰発現によるMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)発現の増加
実施例6〜8に示したように、A549細胞におけるTM4SF4の低発現はMMP-2、7、および9の低発現を誘導した。上記の結果を確認するために、この実施例ではウェスタンブロッティングを用いて、TM4SF4の過剰発現がMMP-2、7、および9の過剰発現を誘導することができるか否かを調べた。
【0125】
TM4SF4の過剰発現は、実施例3-2に記載した方法と同様にして、A549細胞において誘導した。次いで、実施例2に記載した方法と同様にして全細胞溶解物を得て、ウェスタンブロッティングによりMMP-2、7、および9の発現を調べた。
【0126】
その結果、腺癌細胞株A549におけるTM4SF4の過剰発現は、MMP-2、7、および9の発現を増加させた(図15)。
【実施例14】
【0127】
肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549における抗TM4SF4抗体処理による細胞増殖の減少
2×103個のA549細胞を60mm細胞培養皿にロードし、続いて培養した。そこに1μg/mlまたは3μg/mlの中和抗TM4SF4抗体(Abcam社)を添加して処理した。処理から5日後、細胞を0.5%(w/v)クリスタルバイオレット溶液で染色し、その後観察した。コロニーの数をカウントし、コロニーの生存率を対照に対する%として表した。
【0128】
その結果、コロニーの数は抗体量に依存して減少し、これは、siRNAを用いてTM4SF4の発現を抑制した場合に得られた結果と一致した(図16)。上記の結果は、膜タンパク質TM4SF4が非小細胞肺癌細胞株のうち腺癌細胞株A549の細胞増殖において重要な役割を果たすことを示しており、該膜タンパク質が抗体によって中和された場合には、該タンパク質の発現がsiRNAによって抑制されたときのように、細胞増殖が大幅に抑制された。
【0129】
当業者は、前述の説明に開示された概念および特定の実施形態が、本発明の同じ目的を実施するための他の実施形態を改変または設計するための基礎として容易に利用され得る、ことを理解するであろう。当業者はまた、そのような等価な実施形態が、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の精神および範囲から逸脱しない、ことを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]