特許第5887427号(P5887427)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887427
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】自動変速機のクラッチ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20160303BHJP
   F16D 25/063 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   F16D48/02 640Q
   F16D48/02 640K
   F16D25/063 G
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-553048(P2014-553048)
(86)(22)【出願日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2013081999
(87)【国際公開番号】WO2014097842
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2015年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-278946(P2012-278946)
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小林 克也
(72)【発明者】
【氏名】勝又 哲史
(72)【発明者】
【氏名】三宅 昌夫
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−197851(JP,A)
【文献】 特開2010−242852(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0179026(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02
F16D 25/063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレクタの操作による所定の走行ポジション選択時にクラッチ締結圧を出力するマニュアル・バルブと、
前記クラッチ締結圧の供給によりクラッチ・ピストンを移動させてクラッチ締結状態にすることが可能なクラッチと、
前記マニュアル・バルブをバイパスしてクラッチ解放油圧を出力可能なクラッチ解放バルブと、
前記クラッチが前記クラッチ締結圧の供給によりクラッチ締結状態になったときの前記クラッチ・ピストンの位置を、前記クラッチ締結圧を低減した状態で機械的にロック可能とする一方、前記クラッチ解放バルブが出力したクラッチ解放圧で前記ロックを解除するロック機構と、
該ロック機構を解放する前記クラッチ解放圧がコントロール不能となる異常状況を検知する異常検出センサと、
前記所定の走行ポジションのセレクト中に前記異常検出センサが前記異常状況を検出した場合に、前記マニュアル・バルブが前記所定の走行ポジションの位置を維持している状態で、クラッチ解放バルブが前記ロック機構へ前記クラッチ解放油圧を供給する油路とは別の油路を通じてロック強制解除圧を前記ロック機構へ供給して前記ロック機構のロックを強制的に解除するロック強制解除手段と、
前記ロック強制解除手段で前記ロック機構のロックが強制的に解除された後、前記異常検出センサによる異常の検出がされている場合には前記ロック機構の再ロックを阻止する再ロック阻止手段と、を備えた自動変速機のクラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機のクラッチ制御装置において、
前記異常状況の検出時には、
前記マニュアル・バルブが、前記クラッチ締結圧より低い圧に調圧した異常時クラッチ締結圧を前記クラッチに供給して、前記クラッチ・ピストンをクラッチ締結方向に、また前記ロック機構をロック方向へそれぞれ付勢するとともに、
前記ロック強制解除手段が出力する前記ロック強制解除圧を前記異常時クラッチ締結圧より高圧にして前記ロック機構に前記異常時クラッチ締結圧と同時に供給することで、
前記ロック強制解除手段のロックを強制的に解除し、
該ロックの強制解除が検知され、車両の所定の走行状態が検知された場合には、前記異常時クラッチ締結圧のみが前記クラッチに供給されて該クラッチを締結状態にするようにした自動変速機のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記請求項2の自動変速機のクラッチ制御装置において、
前記所定の走行状態は、車両が停止した場合からの再発進時である自動変速機のクラッチ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載され、クラッチの締結後の締結保持をクラッチ締結圧なしで行うことができるようにした自動変速機のクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多板式油圧クラッチは、周知であり、たとえば特許文献1に記載のものが知られている。このクラッチは、クラッチ・ドラムの内周面にスプライン嵌合された摩擦プレートとクラッチ・ドラムの内側に配置されたクラッチ・ハブの外周面にスプライン嵌合した摩擦プレートと、油圧で作動するクラッチ・ピストンと、クラッチ・ピストンをクラッチ解放位置に押し戻すリターン・スプリングと、を備えている。クラッチを締結するには、クラッチ締結圧油を供給してクラッチ・ピストンをこの軸方向へリターン・スプリングの弾性力に対抗しながら移動させ、上記摩擦プレート同士を押圧することでクラッチ・ドラムとクラッチ・ハブとの間でトルクを伝達可能なクラッチ締結状態とする。クラッチを解放するには、クラッチ締結圧油を排出してクラッチ・ピストンをリターン・スプリングで押し戻し、摩擦プレートへの押圧力をなくすことで上記トルクを伝えないクラッチ解放状態にする。
【0003】
しかしながら、上記従来のクラッチにあっては、以下の問題がある。すなわち、従来のクラッチ装置では、クラッチ締結中は、リターン・スプリングのリターン力に打ち勝ちながら摩擦プレートに必要な押圧力を確保するため、クラッチ・ピストンに絶えず高圧のクラッチ締結油圧を付与し続けなければならず、その分、オイル・ポンプに負荷がかかり燃費が悪化するのを避けることができない。また、クラッチにあっては、このクラッチの締結中には、相対回転する部材間の油の受け渡しを行う部位に設けられたシール・リングによりクラッチ締結用油の通路からの油漏れを防ぐようにしているが、クラッチ締結中は、シール・リングに高圧のクラッチ締結圧が作用してシール・リングを上記相対回転側部材の一方に押し付けながら回転するので、これらの間にシール・リングによるフリクション・ロスが発生し、その分、燃費が悪化してしまう。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、クラッチ締結油圧に起因した、クラッチ締結中に発生するエネルギ・ロスを低減することができ、その場合、クラッチの安全度およびその利用度を向上させることができるようにしたクラッチ装置を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−12221号公報
【発明の概要】
【0006】
この目的のため、本発明による自動変速機のクラッチ制御装置は、マニュアル・バルブと、クラッチと、クラッチ解放バルブと、ロック機構と、異常検出センサと、ロック強制解除手段と、再ロック阻止手段とを備える。マニュアル・バルブは、セレクタの操作による所定の走行ポジション選択時にクラッチ締結圧を出力する。クラッチは、クラッチ締結圧の供給によりクラッチ・ピストンを移動させてクラッチ締結状態にすることが可能である。クラッチ解放バルブは、クラッチ解放油圧を、マニュアル・バルブをバイパスして出力可能である。ロック機構は、クラッチがクラッチ締結圧の供給によりクラッチ締結状態になったときのクラッチ・ピストンの位置を、クラッチ締結圧を低減した状態で機械的にロック可能とする一方、クラッチ解放バルブが出力したクラッチ解放圧でロックを解除する。異常検出センサは、ロック機構を解放するクラッチ解放圧がコントロール不能となる異常状況を検知する。ロック強制解除手段は、上記所定の走行ポジションのセレクト中に異常検出センサが異常状況を検出した場合に、マニュアル・バルブが上記所定の走行ポジションの位置を維持している状態で、クラッチ解放バルブがロック機構へクラッチ解放油圧を供給する油路とは別の油路を通じてロック強制解除圧をロック機構へ供給してロック機構のロックを強制的に解除する。再ロック阻止手段は、ロック強制解除手段でロック機構のロックが強制的に解除された後、異常検出センサによる異常の検出がされている場合にはロック機構の再ロックを阻止する。
【0007】
本発明による自動変速機のクラッチ制御装置にあっては、クラッチ締結継続中におけるクラッチ締結油圧の保持を不要とし、またこのときクラッチ締結圧で相対回転する部材間に配置されたシール・リングにフリクション・ロスの原因となる高圧のクラッチ油圧が作用しないようにして、クラッチ締結中にクラッチ締結油圧に起因したエネルギ・ロスを低減することができる。この場合、ロック機構のロックを解除するクラッチ解放圧がコントロール不能となった場合でも、ロック強制解除手段にて確実にクラッチを解放することができ、安全性、信頼性を確保することができる。しかも、ロック機構のロックを強制的に解除した後も、走行可能にしたいわゆるリンプ・ホーム機能を持たせることでクラッチの利用度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例1の自動変速機のクラッチ制御装置でコントロールするクラッチ装置を備えたベルト式無段変速機の前後進切り替え装置周りの断面図である。
図2図1のクラッチ装置で用いるロック機構の拡大断面図である。
図3】上記クラッチ装置においてフォワード・クラッチ・ピストンがサブピストンを押圧するときの力関係を表した模式図である。
図4】上記クラッチ装置においてサブピストンがフォワード・クラッチ・ピストンを押圧するときの力関係を表した模式図である。
図5】上記クラッチ装置がスリップしている半クラッチ状態を示す図である。
図6】上記クラッチ装置が締結している状態を示す図である。
図7】クラッチ装置およびこのロック機構等への油の供給・排出を行うコントロールを実行するための、実施例1の自動変速機のクラッチ制御装置の油圧回路図である。
図8図7の油圧回路において、通常時、クラッチを締結する時の油の流れを説明する図である。
図9図7の油圧回路において、通常時、ロック機構をロックしている時の油の流れを説明する図である。
図10図7の油圧回路において、通常時、クラッチを解放する時の油の流れを説明する図である。
図11図7の油圧回路において、走行中、ATCUがダウンした時、クラッチ締結圧時の油の流れを説明する図である。
図12図7の油圧回路において、ロック機構のロック強制解除が行われた後のリンプ・ホーム機能を確保するための油の流れを説明する図である。
図13図7の油圧をコントロールするためコントロール装置で実行されるフロー・チャートを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、実施例1の自動変速機のクラッチ制御装置で用いるクラッチ装置の全体構成を説明する。このクラッチ装置は、車両用ベルト式無段変速機の前後進切り替え装置を切り替えるのに用いられる。
【0011】
まず、前後進切り替え装置について説明する。図1は、入力軸24の上半部のみを描いてある。同図示すように、前後進切り替え装置1は、シングル・ピニオン式遊星歯車組で構成される。この遊星歯車組は、サン・ギヤ2と、この外周に配置したリング・ギヤ3と、サン・ギヤ2とリング・ギヤ3とにそれぞれ常時噛み合う複数のピニオン4を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ5と、を備えている。
【0012】
サン・ギヤ2は、この内周側端部がプライマリ・プーリーの固定側シーブ6の軸方向に突出した円筒部分にスプライン係合されて前後進切り替え装置1の出力部材として機能するとともに、サン・ギヤ2のシーブ6とは反対側の側面がフォワード・クラッチ・ハブ15の内周側部分に連結されて駆動力の入力部材として機能可能である。リング・ギヤ3はフォワード・クラッチ・ドラム7の外側円筒部分7aの内周面に形成されたスプラインに噛み合わされて前後進切り替え装置1の入力部材として機能する。ピニオン・キャリヤ5は、この外周部分にブレーキ・ドラム8が連結されて前後進切り替え装置1の固定部材として機能している。
【0013】
すなわち、ピニオン・キャリヤ5に連結されたブレーキ・ドラム8の外側円筒部分8aの外周面側と変速機ケースに固定された円筒状のケース側部材9Aの内周面との間には、それら両者の一方、他方にそれぞれ分けられて係合された複数の摩擦プレート10a.10bが配置されて、ブレーキ油室11へのブレーキ圧油の供給・排出に応じてブレーキ・ピストン12が進退することで、ブレーキ・ドラム7とケース側部材9Aとを締結・解放するリバース・ブレーキ13が設けられる。なお、ブレーキ・ピストン12の先端部分と摩擦プレート10との間には、リターン・スプリング14が配設される。したがって、リバース・ブレーキ13が締結すると、ピニオン・キャリヤ5はケース側に固定されて静止する。
【0014】
一方、リング・ギヤ3に連結されたフォワード・クラッチ・ドラム7とサン・ギヤ2に連結されたフォワード・クラッチ・ハブ15との間には、フォワード・クラッチ16が設けられる。このフォワード・クラッチ16の詳細な構造については、後で説明する。
【0015】
フォワード・クラッチ・ドラム7に後述するように図外のエンジン等から駆動力が入力軸24等を介して入力されると、リバース・ブレーキ13が解放された状態でフォワード・クラッチ16が締結されているときは、前後進切り替え装置1は、この遊星歯車組の各回転要素が一体となって回転する。この結果、サン・ギヤ2は、直結(変速比1)となって回転駆動するので、このサン・ギヤ2に連結されたシーブ6も駆動入力と同じ回転速度、同じトルクで回転する。このとき、車両は、プーリ比に応じた変速比で前進駆動される。
【0016】
一方、フォワード・クラッチ・ドラム7に駆動力が入力されている場合、上記とは逆に、フォワード・クラッチ16が解放された状態でリバース・ブレーキ13が締結すれているときは、サン・ギヤ2は逆方向に減速回転する。このとき、車両は、プーリ比に応じた変速比で後進駆動される。なお、フォワード・クラッチ16およびリバース・ブレーキ13の両方が解放されているときは、前後進切り替え装置1は中立状態となり、フォワード・クラッチ・ドラム7に駆動力が入力されていても、プーリのシーブ6には駆動力が伝わらない。
【0017】
次に、フォワード・クラッチ16の詳細構造について以下に説明する。フォワード・クラッチ16は、上述したように、フォワード・クラッチ・ドラム7の内周面側のスプラインに嵌合されて軸方向へ移動可能な複数のドライブ・プレート17と、フォワード・クラッチ・ハブ15の外周面のスプラインに嵌合されて軸方向へ移動可能な複数のドリブン・プレート18とが、軸方向に互い違いに配設されて、それらの摩擦面同士が押圧可能に重ね合わされている。
【0018】
上記ドライブ・プレート17のうち最も前後進切り替え装置1に近い(図1中の最左端側の)ドライブ・プレート17とフォワード・クラッチ・ドラム7に固定されたスナップ・リング19との間には、ダイヤフラム・スプリング20が配設される。ダイヤフラム・スプリング20は、ここでは、クラッチ締結時には、完全に圧縮されるように設定してある。なお、ダイヤフラム・スプリング20は、本発明の弾性部材に相当する。スナップ・リング19は、リング・ギヤ3の側端面に当接することで軸方向の荷重を受けることができるように構成している。
【0019】
フォワード・クラッチ・ピストン21は、フォワード・クラッチ・ドラム7の外側円筒部分7aと内側円筒部分7bとの間の筒状の空間内に挿入され、その軸方向に移動可能とされている。フォワード・クラッチ・ピストン21の外側円筒部分21aは、半径方向外側に向けて折り曲げられて図1中の右端のドライブ・プレート17に当接可能である。また、その内側円筒部分21bはこの先端部分がフォワード・クラッチ・ドラム7の内側円筒部分7bの外周面に支持される。また、内側円筒部分21bと内側円筒部分7bと間にはシール部材22が設けられる。
【0020】
フォワード・クラッチ・ドラム7の内側円筒部分7bの図1中の右側部分は、ケース側部材9Bの内側のボス部分9aに回転可能に支持されたフォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aの図1中の右側端部分から半径方向外側へ立ち上がった外側フランジ部分23bの外周端に連結される。フォワード・サポート・ドラム23の図1中の左端側は、半径方向内側へ折り曲げられた内側フランジ部分23cの内側端部分に形成されたボス部分23dが入力軸24にスプライン嵌合される。フォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aは、ケース側部材9Bの円筒状のボス部9aの外周面上に回転自在に支持される。なお、円筒部分23aとボス部9aの間に3個のシール部材25a、25b、25cが配設される。
【0021】
フォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aの図1中の左端側部分の外周面上には、仕切りプレート26が取り付けられる。仕切りプレート26は、内周端部分がスナップ・リング27により図1中で軸方向左側への移動が規制されるとともに、その外周側端部分に取り付けられたシール部材44が、フォワード・クラッチ・ピストン21の外側円筒部分21aの内周面に接触させられる。仕切りプレート26とフォワード・クラッチ・ピストン21との間には、環状のリターン・スプリング29が設けられ、この弾性力でフォワード・クラッチ・ピストン21を解放位置(図1の位置)、すなわち、フォワード・クラッチ・ドラム7の側壁7cへ付勢して押し付け、クラッチ解放時にフォワード・クラッチ・ピストン21がドライブ・プレート17とドリブン・プレート18とを圧接することがないようにしている。
【0022】
ここで、フォワード・クラッチ・ドラム7の側壁7cとフォワード・クラッチ・ピストン21との間には、クラッチ締結圧室30が画成される一方、仕切りプレート26とフォワード・クラッチ・ピストン21との間には、クラッチ解放圧室31が画成される。なお、クラッチ締結圧室30は、本発明のクラッチ締結圧部に相当する。
【0023】
以上のような構成にあって、フォワード・クラッチ・ピストン21の内側円筒状部分21bとフォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aとの間には、これらの一部を含んで構成されるロック機構32が設けられる。このロック機構32は、クラッチ締結圧を低減あるいはなくしても、フォワード・クラッチ・ピストン21の締結位置を機械的に保持してフォワード・クラッチ・クラッチ16を締結状態に維持するものである。ロック機構32は、フォワード・クラッチ・ピストン21の内側円筒部分21bやフォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aを含め、サブピストン33、ボール34、押圧スプリング35、およびシール部材22、28、39を備えており、以下に説明するように構成される。
【0024】
すなわち、図1および図1中のロック機構32周辺を拡大した図2に示すように、フォワード・クラッチ・ピストン21の内側円筒状部分21bには、フォワード・クラッチ・ドラム7の側壁7cへ向かうにしたがって拡径する第1テーパ面21cが形成される。この第1テーパ面21cは、その中心軸に対し角度θ(図3、を参照)で傾斜する。本実施例では、たとえばθ=10°に設定する。後述するように、第1テーパ面21cは、クラッチ解放位置からクラッチ締結位置まで伸びており、常にボール34に接触する。
【0025】
一方、フォワード・クラッチ・ピストン21の内側円筒状部分21bを支持するフォワード・クラッチ・ドラム7の内側円筒部分7bには、周方向に配置されそれぞれボール34を挿通可能な複数のボール保持孔36と、これらより図2中右側の位置にクラッチ締結圧油を通すクラッチ締結圧用孔7dと、これらとは逆の先端側にシール部材28を挿入する環状のシール溝7eがそれぞれ形成してある。
【0026】
ここで、ボール34は、常にボール保持孔36内にあって、フォワード・クラッチ・ピストン21およびサブピストン33の位置に応じてボール保持孔36 内を半径方向に沿って移動する。ただし、サブピストン33がどの位置にあっても、ボール34は、常にボール保持孔36から半径方向内側と外側へ突出した状態にあって、フォワード・クラッチ・ピストン21の第1テーパ面21cと後述するサブピストン33の第2テーパ面33dに接触するように構成されている。なお、ボール34を挿入したボール保持孔36の個数は、フォワード・クラッチ16での伝達可能な最大伝達トルクによって決定すればよい。
【0027】
サブピストン33は、環状の部材であり、フォワード・クラッチ・ドラム7の内側円筒部分7bとフォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aとの間にクラッチの軸方向に移動可能に設けられる。サブピストン33は、この外周面側にボール34の半径方向内側部分に接触し、サブピストン33の位置に応じてボール34を半径方向に沿って移動させることが可能なボール進退傾斜部33bが形成されている。このボール進退傾斜部33bは、サブピストン33の外周の一部を窪ませて形成されている。
【0028】
ボール進退傾斜部33bの底部は、図2中右側に行くにしたがって深さが浅くなって行く第2テーパ面33dを有する。この第2テーパ面33dが、サブピストン33の中心軸となす角度ψは、フォワード・クラッチ・ピストン21の内側円筒状部分21bの第1テーパ面21cがなす角度θより大きい角度に設定される。本実施例では、たとえばψ=25°に設定される。
【0029】
サブピストン33の外周面でボール進退傾斜部33bより図2中左側の部分の環状のシール溝33cに挿入されたシール部材22は、フォワード・クラッチ・ドラム7の内側円筒部分7bの内周面に接触してクラッチ締結圧室30とクラッチ解放圧室31とが連通しないようにしている。また、サブピストン33の図2中の左側先端部には複数の連通溝33eが形成されて、サブピストン33が仕切りプレート26に当接した状態にあっても連通路を確保し、クラッチ解放圧室31内にクラッチ解放圧油を供給可能としている。
【0030】
サブピストン33の図2中の右側端側面とフォワード・サポート・ドラム23の外側フランジ部23bとの間には、押圧スプリング35が配設されてサブピストン33を図2中左側へ付勢する。このとき、サブピストン33は、押圧スプリング35に図2中左側へ付勢されると、ボール進退傾斜部33bの第2テーパ面33dがボール34をフォワード・クラッチ・ドラム7の内側円筒部分7bのボール保持孔36を形成する側壁およびフォワード・クラッチ・ピストン21の内側円筒状部分21bの第1テーパ面21cに押し付ける。しかしながら、リターン・スプリング29のリターン力は強く、フォワード・クラッチ・ピストン21は動かず、したがってボール34も動かない。この結果、サブピストン33は、フォワード・クラッチ・ピストン21の位置より規制されて、図2中左側へ過度に移動しないように、ボール33を介してその軸方向への移動が規制されている。
【0031】
環状のサブピストン33の内側に配置されたフォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aには、押圧スプリング35を配置した空間を通じてクラッチ締結圧室30へクラッチ締結圧油を供給・排出するクラッチ締結圧用連通孔37が形成されるとともに、クラッチ解放圧油室31へクラッチ解放圧油を供給・排出可能なクラッチ解放圧用連通孔38が形成される。クラッチ締結圧用連通孔37とクラッチ解放圧用連通孔38とは、フォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aとサブピストン33との間に設けたシール部材39により互いに連通しないように構成される。
【0032】
また、ケース側部材9Bのボス部分9aには、フォワード・サポート・ドラム23の円筒部分23aに形成したクラッチ締結圧用連通孔37、クラッチ解放圧用連通孔38にそれぞれ連通可能にされたクラッチ締結圧用連通路40、クラッチ解放圧用連通路41が形成される。
【0033】
なお、クラッチ締結圧用連通路40、クラッチ解放圧用連通路41は、コントロール装置42に接続される。コントロール装置42では、クラッチ締結圧、クラッチ解放圧を最適値に設定するとともに、それらの供給・排出のタイミングを決める。したがって、フォワード・クラッチ16の締結によりロック機構32がロックした後、クラッチ締結圧室30のクラッチ締結圧油を抜く機能もここで行われる。
【0034】
ここで、上記ロック機構32の原理について以下に詳しく説明する。図3(a)は、クラッチ締結状態にあって完全圧縮されたダイヤフラム・スプリング20から弾性力(リターン力)Fで付勢されたフォワード・クラッチ・ピストン21が、ボール34
を介してサブピストン33を軸方向に押圧する場合を模式的に表す。なお、リターン・スプリング29が設けられている場合には、ダイヤフラム・スプリング20の弾性力にリターン・スプリング29の荷重をさらに加味すればよい。
【0035】
図3(b)は、そのときのフォワード・クラッチ・ピストン21の第1テーパ面21cがボール34を押圧するときの分力の関係を示す。第1テーパ面21cの角度はθであるから、リターン力Fの第1テーパ面21cに沿う方向の分力は、Fcosθ、第1テーパ面21cに垂直な方向の分力はFsinθとなる。
【0036】
図3(c)は、ボール34に作用する分力の関係を示す。ボール34には、第1テーパ面21cからこれに垂直にFsinθの分力が作用するので、これをクラッチの軸方向の分力とその半径方向の分力とに分けると、それぞれFsin2θ、Fsinθcosθとなる。
【0037】
図3(d)には、サブピストン33の第2テーパ面33dを押圧する分力の関係を示す。ボール34から半径方向内側に第2テーパ面33dへ作用する力はFsinθcosθであるから、第2テーパ面33dに沿う方向の分力、第2テーパ面33dに垂直な方向の分力は、第2テーパ面33dの角度ψを用いて、それぞれFsinθcosθsinψ、Fsinθcosθcosψとなる。
【0038】
図3(e)は、サブピストン33の第2テーパ面33dに作用するクラッチの半径方向および軸方向の分力の関係を示す。ボール34からサブピストン33の第2テーパ面33dの垂直方向に作用する力は、Fsinθcosθcosψであるから、この力の半径方向の分力、軸方向の分力は、それぞれFsinθcosθcos2ψ、Fsinθsinψcosψとなる。
【0039】
以上から、ダイヤフラム・スプリング20のリターン力Fによりフォワード・クラッチ・ピストン21がボール34を介してサブピストン33を軸方向へ押す力は、上記軸方向の分力Fsinθsinψcosψとなる。したがって、θを10°、ψを25°に設定した本実施例の場合では、ダイヤフラム・スプリング20のリターン力Fの約15%の力でサブピストン33を保持可能であることが分かる。
【0040】
次に、図4(a)は、上記の場合とは逆に押圧スプリング35の付勢力Pによりサブピストン33がフォワード・クラッチ・ピストン21を軸方向に押圧する場合の力の関係を模式的に表す。
【0041】
図4(b)は、サブピストン33の第2テーパ面33dがボール34を軸方向に押す付勢力Pで押すときの第2テーパ面33dでの分力の関係を示す。第2テーパ面33dに沿う方向の分力、第2のテーパ面33dに垂直な方向の分力は、それぞれPcosψ、Psinψとなる。
【0042】
図4(c)は、第2テーパ面33dからボール34に作用する分力の関係を示す。そのクラッチの軸方向の分力、径方向の分力は、それぞれPsin2ψ、Psinψcosψとなる。
【0043】
図4(d)は、ボール34がフォワード・クラッチ・ピストン21の第1テーパ面21cを垂直方向に押す力Psinψcosψの分力の関係を示す。第1のテーパ面21cに沿う方向の分力、第1テーパ面21cに垂直な方向の分力は、それぞれPsinθsinψcosψ、Pcosθsinψcosψとなる。
【0044】
図4(e)は、ボール34からフォワード・クラッチ・ピストン21の第1テーパ面21cに垂直に作用するに作用する分力の関係を示す。この場合の径方向の分力、軸方向の分力は、それぞれPcos2θsinψcosψ、Psinθcosθsinψcosψとなる。したがって、押圧スプリング35がフォワード・クラッチ・ピストン21を軸方向に押す力は、Psinθcosθsinψcosψである。θを10°、ψを25°に設定した本実施例の場合では、押圧力Pの約6.55%でフォワード・クラッチ・ピストン21を軸方向に押圧することになる。したがって、その押圧力は、ダイヤフラム・スプリング20の付勢力の約1%、リターン・スプリング29の荷重の約7%に相当する。
【0045】
次に上記クラッチ装置の作用につき説明する。図1は、動力伝達がない中立状態を示す。このとき、クラッチ締結圧、クラッチ解放圧のいずれも、クラッチ締結圧室30、クラッチ解放圧室31に供給されていない。したがって、ダイヤフラム・スプリング20はフリーの状態となっており、ドライブ・プレート17とドリブン・プレート18とが押し付けられることもないので、これらの間で伝達可能なトルクは実質的にゼロである。フォワード・クラッチ・ピストン21は、リターン・スプリング29でフォワード・クラッチ・ドラム7の内側の側壁7cに押し付けられるクラッチ解放位置に確実に戻されその位置を維持している。
【0046】
ロック機構32では、フォワード・クラッチ・ピストン21がクラッチ解放位値、すなわち、図1図2中で最も右寄りの位置にあるので、その第1テーパ面21cの中で図1中最も左側にある部分がボール34に接触して、これを図1中、右下方向に向けて押圧している。この結果、ボール34は、半径方向の最も内側にあって、そのボール34の半径方向内側部分がフォワード・クラッチ・ドラム7のボール保持孔36から半径方向内側へ突出して、サブピストン33のボール保持部33bの第2テーパ面33dに接触している。
【0047】
したがって、サブピストン33は、押圧スプリング35でクラッチ締結方向(図1中の左方向)へ付勢されているにもかかわらず、サブピストン33が上記ボール34を介して図1において右向きの軸方向へ付勢する力(ロック力)の方が押圧スプリング35の逆方向の押圧力より強い。この結果、サブピストン33は、図1の位置に保持される。
【0048】
今、ドライバがエンジンを稼働させた状態で、セレクト・レバーを前進ポジションへ入れると、コントロール装置42からクラッチ締結圧油がクラッチ締結圧用連通路40、クラッチ締結圧用孔37、押圧スプリング35が挿入されている空間等を通ってクラッチ締結室30へ向かう。クラッチ締結室30がクラッチ締結圧油で満たされると、その内部の圧が高まって行き、フォワード・クラッチ・ピストン21はリターン・スプリング29のリターン力に抗して図1中左側へ移動し始め、次いでドライブ・プレート17、ドリブン・プレート18を押し付けながらダイヤフラム・スプリング20を圧縮し始める。
【0049】
ロック機構32のボール34は、サブピストン33の第2テーパ面33dを介して押圧スプリング35から図1中左側に向けて押圧力を常に受けているが、今回はさらにサブピストン33の後面(図1中の右端側の面)に作用するクラッチ締結圧からもサブピストン33が図1中左側へ押圧されるので、クラッチ解放時よりもさらに強い力でボール34を半径方向外側へ押し出そうとする。
【0050】
一方、このときフォワード・クラッチ・ピストン21の上記前進移動に伴い、ボール34の半径方向外側への移動を抑えていたフォワード・クラッチ・ピストン21の第1テーパ面21cも前進する結果、第1テーパ面21cとボール34との接触点も半径方向外側へ移動することとなる。すなわち、ボール34は、半径方向外側へ移動し始める。
【0051】
このボール34の半径方向外側への移動により、ボール34に第2テーパ面33dが常に接触するように押圧スプリング35で押圧されていたサブピストン33も図1中左側へ向けて移動し始める。
【0052】
このように、クラッチ圧の高まりに応じてダイヤフラム・スプリング20が圧縮されて行き、この圧縮による弾性力でドライブ・プレート17とドリブン・プレート18を押圧する。この結果、これら間に摩擦トルクが発生し、ドライブ・プレート17とドリブン・プレート18、したがってフォワード・クラッチ・ドラム7とフォワード・クラッチ・ハブ15とはスリップしながら入力されたトルクの一部を伝える、図5に示す半クラッチ状態となる。
【0053】
クラッチ締結圧がさらに高まって行くと、ダイヤフラム・スプリング20が完全に圧縮され図6の状態(最大弾性変形位置にある状態)になる。この状態は、上記スリップが発せず入力された全トルクを伝達可能なクラッチ完全締結状態である。この状態では、フォワード・クラッチ・ピストン21はもはや前進できず、したがって、この時の位置でサブピストン33やボール34の最前進位置が決まり、この位置がロック位置となる。
【0054】
この後、所定時間後に、コントロール装置42にてクラッチ締結室30からクラッチ締結圧油を抜く。このときフォワード・クラッチ・ピストン21をクラッチ締結方向に押圧する油圧は無くなるが、ロック機構32が上記ロック位置で機械的にロックした状態を維持するので、フォワード・クラッチ・ピストン21も、その位置を維持する。したがって、フォワード・クラッチ16は締結状態を保ち、フォワード・クラッチ・ドラム7とフォワード・クラッチ・ハブ15とは一体となって入力された全トルクを伝えながら回転する。
【0055】
なお、この完全締結状態にあっては、ダイヤフラム・スプリング20は完全圧縮された状態になり、そのとき発生する弾性力はドライブ・プレート17とドリブン・プレート18との間で入力された全トルクを伝えるのに必要な大きさであればよい。また、上記完全締結状態にするにあたっては、ダイヤフラム・スプリング20を完全圧縮した状態でロック機構32のロック位置が自動的に決まるので、ダイヤフラム・スプリング20のばらつきやド経時変化によるライブ・プレート17とドリブン・プレート18の摩耗にも関わらず、常に最適なロック位置が確保される。
【0056】
上記締結状態にあるフォワード・クラッチ16を解放するには、コントロール装置42からクラッチ解放圧油をクラッチ解放圧用連通路41、クラッチ解放圧用連通孔38等を通ってクラッチ解放圧室31に供給する。クラッチ解放圧室31がクラッチ解放圧油で充満され、解放圧が高まって行くと、フォワード・クラッチ・ピストン21を図1中右側に直接押す圧力も高まるとともに、サブピストン33の図1中の左端部も解放圧で図1中右側へ押圧されるようになる。
【0057】
この結果、上記解放圧によりサブピストン33は、図1中右側へ押圧されて移動し、フォワード・クラッチ・ピストン21も上記解放油圧とダイヤフラム・スプリング20およびリターン・スプリング29の弾性力により図1中右側へ移動する。したがって、ボール34は、後退するサブピストン33の第2テーパ面33dに接触しながら、フォワード・クラッチ・ピストン21の後退にしたがって第1テーパ面21cにより半径方向内側へ押し込まれて行き、ロック機構32のロックが解除される。
【0058】
ダイヤフラム・スプリング20は、圧縮弾性変形状態から元の状態に戻る結果、ドライブ・プレート17とドリブン・プレート18への押圧力はなくなり、フォワード・クラッチ・ハブ15はフォワード・クラッチ・ドラム7からフリーとなる。また、フォワード・クラッチ・ピストン21は、リターン・スプリング29によりフォワード・クラッチ・ドラム7の側壁7cに押し付けられ、その位置を維持する。フォワード・クラッチ16の解放が確実に終えた時間が経ったら、コントロール装置42がクラッチ解放圧室31からクラッチ解放圧油を抜いて、図1に示す状態になる。
【0059】
次に、上記クラッチ装置の作動をコントロールするクラッチ制御装置について説明する。クラッチ制御装置は、図2に示すように、上記のコントロール装置42と異常検出センサ43とを備えている。コントロール装置42は、マイクロコンピュータや、コントロール・バルブ等を備えた油圧回路を有しており、その油圧回路の一部を図7に示す。
【0060】
図7に示すように、コントロール装置42の油圧回路には、プレッシャ・レギュレータ・バルブ50と、第1パイロット・バルブ51と、第2パイロット・バルブ52と、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53と、クラッチ圧・コントロール・バルブ54と、スイッチ・バルブ55と、マニュアル・バルブ56と、ホールド・バルブ57と、オン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58と、解放圧スイッチ・バルブ59と、ロックアップ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ60と、ロックアップ制御バルブ61と、フェイル・セーフ・バルブ62と、を備え、同図に示すように接続されている。
【0061】
プレッシャ・レギュレータ・バルブ50は、図示しないポンプから供給された油を所定の圧に減圧してライン圧を第1パイロット・バルブ51に出力する。第1パイロット・バルブ51は、プレッシャ・レギュレータ・バルブ50から供給されたライン圧を減圧して第1パイロット圧を作り出す。この第1パイロット圧は、第2パイロット・バルブ52と、クラッチ圧コントロール・バルブ54と、スイッチ・バルブ55と、ホールド・バルブ57とにそれぞれ供給される。
【0062】
第2パイロット・バルブ52は、第1パイロット・バルブ51から供給された第1パイロット圧をさらに減圧して第2パイロット圧を作りだす。この第2パイロット圧は、スイッチ・バルブ55と、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53と、オン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58と、ロックアップ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ60とにそれぞれ供給される。
【0063】
クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53は、第2パイロット・バルブ52から入力ポート53aに入力された第2パイロット圧をリニア・ソレノイドで移動させたスプールの位置に応じて第2パイロット圧の一部をドレーン・ポート53cから排出することで第1ソレノイド圧を得る。この第1ソレノイド圧は、出力ポート53bからクラッチ圧コントロール・バルブ54と、スイッチ・バルブ55と、ホールド・バルブ57とにそれぞれ供給され、第1ソレノイド圧の大きさに応じてそれらのバルブの切り替えが制御される。なお、ソレノイドに電流を印加しない場合には、入力ポート53aがドレーン・ポート53cに接続され、印加する電流の大きさを大きくすると、入力ポート53aはドレーン・ポート53cとの接続の流路面積を狭めながら、出力ポート53に接続されこの流路面積を大きくする。なお、以下の油圧回路を示す図にあっては、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53の出力は、高い油圧のときを実線の矢印で、また低い油圧のときを点線の矢印で示す。
【0064】
クラッチ圧コントロール・バルブ54は、スプリング54aの弾性力とクラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53からの第1ソレノイド圧とを対抗させて、油の流れを切り替える。クラッチ圧コントロール・バルブ54は、これに作用するクラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53からの第1ソレノイド圧が所定値(最大値)より小さい場合にはそのスプールが第1位置(図8中の下側位置)にあって、出力ポート54dが入力ポート54bからブロックされてドレーン・ポート54cに接続される。一方、第1ソレノイド圧が所定値であるときは、スプールが第2位置(図8中の上側位置)にあって、出力ポート54dがドレーン・ポート54cからブロックされて入力ポート54bに接続される。この結果、第1パイロット圧が出力ポート54dからスイッチ・バルブ55の第1入力ポート55bに供給される。
【0065】
スイッチ・バルブ55も、スプリング55aの弾性力とクラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53からの第1ソレノイド圧とが対抗して、これらの力関係で油の流れを切り替える。第1ソレノイド圧が出力されていないときは、このスプールが第1位置(図8中の下側位置)にあって、第1出力ポート55dが第1入力ポート55bからはブロックされて第2入口ポート55cに接続されるので、第1出力ポート55dから第2パイロット圧がマニュアル・バルブ56の入力ポート56aに供給される。また、これと同時に第3入力ポート55eが第2出力ポート55fに接続されるので、第1パイロット圧がホールド・バルブ57の入力ポート57bに供給される。一方、第1ソレノイド圧が出力されているときは、スイッチ・バルブ55のスプールが第2位置(図8中の上側位置)にあって、第1出力ポート55dが第2入口ポート55cからブロックされて第1入力ポート55bに接続されるので、第1出力ポート55dからクラッチ圧コントロール・バルブ54で調圧したクラッチ圧が、マニュアル・バルブ56の入力ポート56aに供給される。また、これと同時に、第2出力ポート55fがドレーン・ポート55gに接続されるので、ホールド・バルブ57の入力ポート57bには圧油は供給されない。
【0066】
マニュアル・バルブ56は、ドライバにより切り替えられる図示しないセレクト・レバーにスプールが連動して移動し、前進ポジションであるDポジションをセレクトしたときは入力ポート56aが第1出力ポート56bに接続されて、入力されたクラッチ圧油をクラッチ締結圧としてクラッチ締結圧室30に供給する。これにより、フォワード・クラッチ16は締結状態となる。なお、このとき、第2出力ポート56cは、第1ドレーン・ポート56dに接続される。また、後進ポジションであるRポジションをセレクトしたときは、入力ポート56aが第2力ポート56cに接続されて、入力されたクラッチ圧油をブレーキ締結圧としてブレーキ圧室11に供給する。これにより、リバース・ブレーキ13は締結状態となる。なお、このとき、第1出力ポート56bは、第2ドレーン・ポート56eに接続される。また、PポジションおよびNポジションでは、マニュアル・バルブ56は、入力ポート56aを第1出力ポート56bおよび第2力ポート56cからブロックするとともに、第1出力ポート56bおよび第2力ポート56cを第1ドレーン・ポート56dと第2ドレーン・ポート56eにそれぞれ接続して、フォワード・クラッチ16やリバース・ブレーキ13に油圧が作用しないようにする。なお、マニュアル・バルブ56では、多位置で切り替わるため、図7〜11では、第1ドレーン・ポート56dと第2ドレーン・ポート56eへの接続は図示が複雑となるので、点線で代表して個々のケースの詳細は省略してある。
【0067】
ホールド・バルブ57は、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53からの第1ソレノイド圧とスプリング57aの弾性力とを対抗させて、これらの力関係で切り替わる。第1ソレノイド圧が作用していないときは、このスプールが第1位置(図8中の下側位置)にあって、出力ポート57cがドレーン・ポート57dに接続されるので、スイッチ・バルブ55の第2出力ポート55fからの第1パイロット圧(ロック強制解除圧として利用)はホールド・バルブ57からは出力されない。第1ソレノイド圧が作用したときは、スプールが第2位置(図8中の上側位置)にあって、出力ポート57cが入力ポート57bに接続されるので、スイッチ・バルブ55の第2出力ポート55fから第1パイロット圧がフェイル・セーフ・バルブ62を介してクラッチ解放圧室31およびロック機構32のロック解除側に供給され、これらを解放、解除する。
【0068】
なお、ホールド・バルブ57が第2位置に切り替えられると、第1パイロット・バルブ51からの第1パイロット圧が新たに導入されてスプリング57aに対抗してこれを圧縮状態に保持する。したがって、第1ソレノイド圧が低下しても、ホールド・バルブ57は第2位置に保持され続ける。これは、後で説明する異常時に、高圧の第1パイロット圧をロック強制解除圧として出力して、ロック機構32のロックを強制的に解除するために用いられる。ホールド・バルブ57は、本発明のロック強制解除手段に相当する。
【0069】
オン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58は、ソレノイドで切り替えられ、ソレノイドへ電流を印加しないときは、このスプールが第1位置(図8中の下側位置)にあって、入力ポート58aが出力ポート58bに接続されないので、解放圧スイッチ・バルブ59には第2パイロット圧は供給されない。ソレノイドへ電流を印加したときは、スプールが第2位置(図8中の上側位置)にあって、入力ポート58aが出力ポート58bに接続されるので、解放圧スイッチ・バルブ59に第2パイロット圧が供給される。
【0070】
解放圧スイッチ・バルブ59は、オン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58からの第2パイロット圧とスプリング59aの弾性力とを対抗させて、この力関係で切り替わる。第2パイロット圧が作用してないときは、このスプールが第1位置(図8中の左側位置)にあって、出力ポート59dが入力ポート59bからブロックされてドレーン・ポート59cに接続されるので、出力ポート59dに接続されているクラッチ解放圧室31やロック機構32のロック解除側には、第2パイロット圧は供給されない。第2パイロット圧が作用しているときは、スプールが第2位置(図8中の右側位置)にあって、入力ポート59bがドレーン・ポート59cからブロックされて出力ポート59dに接続されるので、クラッチ解放圧室31やロック機構32のロック解除側に第2パイロット圧がフェイル・セーフ・バルブ62を介してクラッチ解除油圧として供給される。
【0071】
フェイル・セーフ・バルブ62は、スプリング62aの弾性力とホールド・バルブ57の出力ポート57cからの第1パイロット圧とが対向して、これらの力関係で油の流れを切り替え、第1パイロット圧と第2パイロット圧を選択的に切り替えてクラッチ解除圧として出力する。すなわち、通常時は、そのスプールが第1位置(同図中左側の位置)にあって、第1入力ポート62bを出力ポート62dに接続して、解放圧スイッチ・バルブ59の出力ポート59dから供給されると、この圧を、第2パイロットをクラッチ解除圧として出力ポート62dから出力する。これによりロック機構32のロックが解除される。一方、異常時は、ホールド・バルブ57cの出力ポート57cから出力された第1パイロット圧がフェイル・セーフ・バルブ62の同図中左端部に作用してスプールを第2位置(同図中右側の位置)に移動させる。これにより、出力ポート62dが第2入力ポート62cに接続されて、ホールド・バルブ57cの出力ポート57cから供給された第1パイロット圧が、ロック強制解除圧として出力ポート57cから出される。これにより、ロック機構32のロックが強制的に解除される。
【0072】
ロックアップ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ60は、このソレノイドに運転状況に応じて大きさが可変にされる電流が印加され、この電流の大きさに応じて、第2パイロット・バルブ52から入力ポート60aに入力してきた第2パイロット圧油の一部をドレーン・ポート60bから抜いてロックアップ制御圧が作られ、この圧が出力ポート60cからロックアップ制御バルブ61へ作用する。
【0073】
ロックアップ制御バルブ61は、ロックアップ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ60から入力されたロックアップ制御圧の大きさに応じて、入力ポート61bから入力される図示しないトルク・コンバータ圧が、ロックアップ・リリース室へ通じる第1出力ポート61cとロックアップ・アプライ室へ通じる第2出力ポート61dとに振り分けることで、ロックアップ装置がロックアップ解放、スリップ・ロックアップ、完全ロックアップといった状態になるようにする。
【0074】
以上のように構成された油圧回路の作動について、図8図11基づいて説明する。なお、以下のいずれの場合にあっても、第1パイロット・バルブ51がライン圧を減圧して第1パイロット圧を作って出力し、また第2パイロット・バルブ52が第1パイロット圧をさらに減圧して第2パイロット圧を作って出力する。
【0075】
図8には、コントロール装置42等に異常がない通常時に車両を前進させるため、セレクト・レバーをDポジションにセレクトした場合の油の流れを示している。同図に示すように、このとき、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53のソレノイドには電流が印加されるため、入力された第2パイロット圧は、そのままの大きさで第1ソレノイド圧としてクラッチ圧コントロール・バルブ54と、スイッチ・バルブ55と、ホールド・バルブ57とに供給されて、これらのスプリング54a、55a、57aを圧縮して、これらのスプールを図8の上方(第2位置)へ移動させる。そうすると、第1パイロット・バルブ51から入力された第1パイロット圧油は、クラッチ圧コントロール・バルブ54で第1ソレノイド圧の大きさに応じて減圧されてクラッチ締結圧油が作られる。
【0076】
このクラッチ締結圧油は、スイッチ・バルブ55の第1入力ポート55bに供給され、このバルブが第2位置にあることから、そのまま第1出力ポート55cからマニュアル・バルブ56の入力ポート56aへ供給される。マニュアル・バルブ56は、ドライバのセレクト・レバーの操作によりDポジションにされているので、入力ポート56aに供給されたクラッチ締結圧油は、入力ポート56aに接続された出力ポート56bから図示しない油路を通ってフォワード・クラッチ16のクラッチ締結圧室30に流れ込む。このクラッチ締結圧油の供給でフォワード・クラッチ・ピストン21が前進し、フォワード・クラッチ16を締結する。このとき、フォワード・クラッチ・ピストン21に連動してロック機構32のボール34が半径方向外側へ移動し、フォワード・クラッチ・ピストン21の前進停止位置でこれをロックする。
【0077】
このとき、オン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58のソレノイドには電流が印加されないので、そのスプールが第1位置にあって、入力ポート58aが出力ポート58bからブロックされている。この結果、第2パイロット圧油は解放圧スイッチ・バルブ59の図中左端部に作用しないため、このバルブ59は、第1位置にあって、入力ポート59bが出力ポート59dからブロックされるとともに、出力ポート59dがドレーン・ポート59cに接続される。フェイル・セーフ・バルブ62もホールド・バルブ57から第1パイロット圧が出力されないので、第1位置にあって、フォワード・クラッチ16のクラッチ解放圧室31やロック機構32のロック解放側を解放圧スイッチ・バルブ59のドレーン・ポート59cに接続している。このため、フォワード・クラッチ16のクラッチ解放圧室31やロック機構32のロック解放側にクラッチ解放圧油が供給されることはない。
【0078】
また、クラッチ締結圧の上記チャージ中は、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53からの第1ソレノイド圧油がホールド・バルブ57にも供給されている。したがって、ホールド・バルブ57は、第2位置の状態であり、入力ポート57bと出力ポート75cが接続されているものの、この上流にあるスイッチ・バルブ55が第2位置にあって、第1パイロット圧油をドレーン・ポート55gから排出しているため、ホールド・バルブ57の入力ポート57bには圧油が供給されない。したがって、ロック強制解除圧油(第1パイロット圧油)は、ホールド・バルブ57から出力されることはない。
【0079】
なお、ロックアップ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ60は、第2パイロット圧油をドレーンするようにソレノイドを制御しているので、ロックアップ・コントロール・バルブ61は、リリース側ポートが入力ポートに接続され、ロックアップ機構は解放されている。
【0080】
上記クラッチ締結圧の供給で、フォワード・クッチ16が締結し、ロック機構32のボール34もクラッチ締結でのロック位置に保持され、同時にクラッチ締結圧油がクラッチ締結圧室30から排出されるようになるが、このときの油の流れを図9に示す。同図に示すように、クラッチ締結圧の供給から所定時間が経過しロックが確実になされたと判断されると、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53のソレノイドにはより弱い電流が印加される。これにより、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53は、第2パイロット圧油の一部をドレーン・ポート53cから排出することで第1ソレノイド圧をより小さくした圧を出力し、クラッチ圧コントロール・バルブ54のみを第1位置(図8中の下側位置)に切り替える。
【0081】
これにより、クラッチ圧コントロール・バルブ54では、この入力ポート54bがブロックされて出力ポート54dがドレーン・ポート54cに接続されるので、もはやクラッチ締結圧の供給はなくなる。また、このとき、出力ポート54dもドレーン・ポート54cに接続されるので、クラッチ締結圧室30およびロック機構32内にあった油は、マニュアル・バルブ56、第2位置にあるスイッチ・バルブ55を介してクラッチ圧コントロール・バルブ54のドレーン・ポート54cから排出される。この結果、フォワード・クラッチ16は、クラッチ締結圧の供給なしの状態で、ロック機構32によりクラッチ締結状態が維持される。なお、ホールド・バルブ57は、そのままの状態であり、ロック強制解除圧油(第1パイロット圧油)が出力されることはない。一方、ロックアップ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ60は、車両の走行状態に応じてロックアップ、スリップ・ロックアップ、ロックアップ解除を行うようにロックアップ・コントロール・バルブ61を制御する。
【0082】
次に、コントロール装置等に異常がない通常時であって、前進走行から車両を停止するなどの場合に、フォワード・クラッチ16をクラッチ締結圧の供給なしのロック機構32による締結状態からロック機構3を解除する際の油の流れを図10に示す。この通常時の解除には、以下に説明するように、解放圧スイッチ・バルブ59を使う。
【0083】
この場合、図10に示すように、図9の状態から、オン・オフ・ソレノイド・バルブ58のソレノイドに電流が印加されてオン・オフ・ソレノイド・バルブ58は、第2位置となって入力ポート58aが出力ポート58cに接続される。この結果、オン・オフ・ソレノイド・バルブ58では、第2パイロット圧を解放圧スイッチ・バルブ59の図中左端部に作用させてこのスプリング59aを圧縮し、このバルブ59を第2位置に切り替える。したがって、第2パイロット圧が入力ポート59bから出力ポート59dを経て、クラッチ解放圧として、第1位置にあるフェイル・セーフ・バルブ62を介し、フォワード・クラッチ16のクラッチ解放圧室31とロック機構32のロック解除側に作用することで、ロックを解除してフォワード・クラッチ・ピストン21を押し戻す。これにより、フォワード・クラッチ16は解除状態となる。ロック解除が確実に終了したら、オン・オフ・ソレノイド・バルブ58のソレノイドへの通電が停止されてこのバルブが第1位置に切り替わることで、クラッチ解放圧室31に供給されたクラッチ解放圧油は、フェイル・セーフ・バルブ62を介して、ドレーン・ポート59cから排出される。
【0084】
次に、フォワード・クラッチ16を締結した前進走行中等に、コントロール装置42のマイクロコンピュータへの供給電圧が低下した場合やロック機構32を解除するクラッチ解放圧を作るオン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58に機能不全が生じたりした場合の油の流れを図11に示す。この場合、ロック機構32のロックの強制解除やフォワード・クラッチ16の解放には、ホールド・バルブ57を使う。
【0085】
上記のような異常事態を異常検出センサ43が検知すると、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53への電流印加を停止する。そうすると、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53の出力ポート53bからの第1ソレノイド圧の出力は無くなり、クラッチ圧コントロール・バルブ54およびスイッチ・バルブ55は第1位置の状態になる。一方、ホールド・バルブ57は、上述したように、第1ソレノイド圧の出力がない状態でも、第1パイロット圧により第2位置を保持している。
【0086】
したがって、スイッチ・バルブ55は、第2入力ポート55cから出力ポート55dを経て第2パイロット圧がマニュアル・バルブ56の入力ポート56aに供給される。この第2パイロット圧は、通常の締結時より減圧されたクラッチ締結圧としてフォワード・クラッチ16のクラッチ締結室30およびロック機構32のロック側に供給される。
【0087】
また、これと同時にスイッチ・バルブ55が第1位置にあって第3入力ポート55eが出力ポート55fに接続されるので、第1パイロット圧がホールド・バルブ57の入力ポート57bに供給される。ホールド・バルブ57は、第2位置にあって入力ポート57bと出力ポート57cが接続しているので、この出力ポート57cから出力された第1パイロット圧は、フェイル・セーフ・バルブ62の図中左端部およびこの第2入力ポート62cに供給される。この結果、フェイル・セーフ・バルブ62は、スプリング62aが圧縮されて第2位置(図11中右側)に切り替わって、第2入力ポート62cが出力ポート62dに接続される。したがって、第1パイロット圧が、ロック強制解除圧として、フェイル・セーフ・バルブ62からフォワード・クラッチ16のクラッチ解放圧室31およびロック機構32のロック解除側に供給され、このロックを強制解除する。
【0088】
すなわち、フォワード・クラッチ16のクラッチ締結室30およびロック機構32のロック側には第2パイロット圧が減圧されたクラッチ締結圧として供給され、フォワード・クラッチ16のクラッチ解放圧室31およびロック機構32のロック解除側には第1パイロット圧がロック強制解除圧(同時に、通常解放時より増大されたクラッチ解放圧でもあるが)供給されて、お互い対抗する。この場合、第1パイロット圧の方が第2パイロット圧よりはるかに大きく設定してあるので、ロック機構32のロックは強制解除され、フォワード・クラッチ21が押し戻されて、フォワード・クラッチ16は解放される。なお、この異常時の間、ロック強制解除圧は供給され続けるが、イグニッション・キーをOFFにすると、ホールド・バルブ57が第1位置に戻るため、クラッチ解放圧室31およびロック機構32のロック解除側に供給された油はそのドレーン・ポート57dから排出される。
【0089】
次に、上記フェール時にロック機構32のロックが強制解除された場合、車両を走行させて、いわゆるリンプ・ホーム機能を発揮できるようにした場合の油の流れを図12に示す。上記フェールが生じ、ロック機構32のロックが強制解除されると、フォワード・クラッチ16では動力伝達不可となって、車両の駆動力および車速が低下するため、ドライバは車両を停止することになる。その場合、元の通常状態にもどらないか、という考えでドライバはセレレクト・レバーを一旦、非走行ポジションにセレクトしてみたり、あるいはキー・オフしたりすることが予想される。
【0090】
この場合、エンジンを回したままで非走行ポジションにしても、図示しないオイル・ポンプからは油が供給され第1パイロット圧も発生するので、ホールド・バルブ57は第2位置を保ち、第1パイロット圧をロック機構32のロック解除側に供給し続けるので、ロックは強制解除され、フォワード・クラッチ16も解放されたままで動力伝達不能である。そこで、ドライバは一旦キー・オフにすると予想される。そうすると、エンジンが停止し、オイル・ポンプも停止するので、油圧回路には圧油は供給されなくなる。したがって、それまで第1パイロット圧の導入で第2位置に保持され続けていたホールド・バルブ57は、スプリング57aの弾性力で第1位置に押し戻される。
【0091】
続いて、ドライバがキー・オンしてエンジンを再始動すると、オイル・ポンプが稼働し圧油を油圧回路に送り出す。また、このとき、異常検出センサ43が異常を検出したときは、マイクロコンピュータはクラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53のソレノイドには電流を印加しない。この場合、クラッチ圧コントロール・バルブ54も、スイッチ・バルブ55も、ホールド・バルブ56も第1ソレノイド圧が導入されないので、すべて第1位置にスプリング54a、55a、57aで保持される。なお、スイッチ・バルブ55とホールド・バルブ56は、本発明の再ロック阻止手段に相当する。
【0092】
クラッチ圧コントロール・バルブ54は、第1位置で、出力ポート54dを入力ポート54bからブロックするため、第1パイロット圧油はスイッチ・バルブ55の第1入力ポート55bへ供給されることはない。しかしながら、スイッチ・バルブ55の第2入力ポート55dは、第1出力ポート55cに接続されるので、第2パイロット・バルブ52から導入された第2パイロット圧油がマニュアル・バルブ56の入力ポート56aへ供給される。したがって、セレクト・レバーをDレンジにセレクトすれば、フォワード・クラッチ16のクラッチ締結圧室30に第2パイロット圧油がクラッチ締結圧として供給され、フォワード・クラッチ16を締結状態にして車両を前進走行させることができるようになり、リンプ・ホーム機能を発揮することができる。この場合、クラッチ締結圧には第2パイロット圧を用いているので、伝達可能トルク容量は小さくなる。このため、この場合にも、ドライバや周囲の他車へ警報を発するようにする。なお、第2パイロット圧は、ロック機構32をロックさせることのない大きさに設定してある。
【0093】
この場合、第1パイロット圧がスイッチ・バルブ55を介してホールド・バルブ57の入力ポート57bに供給されているが、ホールド・バルブ57が第1位置を保持しているため、もはやロック強制解除圧として出力されることはない。このリンプ・ホーム機能での走行後に車両停止などでフォワード・クラッチ16を解放状態にするには、セレクト・レバーを非走行ポジションにセレクトすれば、クラッチ締結圧油はクラッチ締結圧室30からマニュアル・バルブ56のドレーン・ポート56dから排出される。この結果、フォワード・クラッチ16は解放状態となる。
【0094】
ここで、上記バルブ類をマイクロコンピュータが制御するが、この制御は図13に示すフロー・チャートにしたがって実行される。なお、下記処理では、マイクロコンピュータが作動中は処理が繰り返される。ステップS1では、異常検出センサ43が異常状況を検出したか否かをマイクロコンピュータが判断する。YESであればステップS2へ進み、NOであれば、本処理を終了する。なお、上記以上状況は、コントロール装置41への供給電圧が所定値以下となった場合、およびオン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58の断線や、オン・オフ切り替えソレノイド・バルブ58からの油圧出力不能など、ソレノイド・バルブの異常が検知された場合である。
【0095】
ステップS2では、図示しないインヒビタ・スイッチからの信号でセレクト・レバーのセレクト位置を検出したか否かを判断する。YESであればステップS3へ進み、NOであれば、本処理を終了する。
【0096】
ステップS3では、ロック機構32が締結しているか否かを判断する。YESであればステップS4に進み、NOであれば本処理を終了する。この判断は、たとえばクラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53のソレノイドに印加する電流の大きさに基づいて判断する。
【0097】
ステップS4では、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド53のソレノイドへの
印加する電流を停止して、ホールド・バルブ57からロック強制解除圧(第1パイロット圧)を出力させることで、ロック機構32のロックを強制的に解除する。この解除後、本処理を終了する。なお、異常検出時にはドライバや後続他車等に警報を発するようにしてもよい。
【0098】
以上に説明した実施例1の自動変速機のクラッチ制御装置の効果について以下に説明する。実施例1の自動変速機のクラッチ制御装置では、フォワード・クラッチ16を、フォワード・クラッチ・ピストン21に連動してこれをクラッチ締結位置でロックし、このロック後のクラッチ締結継続中はフォワード・クラッチ16のクラッチ締結圧室30からクラッチ締結圧油を排出するロック機構32を設けたので、このクラッチ油圧の保持を不要になる分、またこのときクラッチ締結圧で相対回転する部材間に配置されたシール部材25a〜25c等にフリクション・ロスの原因となる高圧のクラッチ油圧が作用しない分、エネルギ・ロスを低減して燃費を向上することができる。特に、クラッチ装置がフォワード・クラッチ16であり、走行中長時間締結状態を保つので、上記効果は大きい。
【0099】
また、異常検出センサ43が異常を検知したときは、クラッチ用2方向リニア・ソレノイド・バルブ53のソレノイドへの電流の印加を停止し、ホールド・バルブ57からロック強制解除圧をロック機構32のロック解除側に作用させてロックを強制的に解除するようにした。したがって、異常時にあっても、フォワード・クラッチ16のロック機構32のロックを確実に解除して、フォワード・クラッチ16を解放することができる。
【0100】
なお、このロックの強制解除は、走行中でも実行でき、動力伝達を遮断して安全性を確保することができる。また、故障検知状態から停車し、一旦キー・オフさせ、非走行レンジでエンジンを再始動した場合であっても、ロック機構32のロックが解除されているため、動力伝達が行われて車両が動くといったことを防ぐことができる。
【0101】
以上、本発明を上記実施例に基づき説明してきたが、本発明は上記実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0102】
たとえば、ロック機構32も実施例のものと異なるものでもよい。例えば、本出願人が出願した特願2012―123864号に記載の構成を用いてもよい。
【0103】
また、本発明のクラッチ装置は、無段変速機に限られず、他の装置に用いてもよく、またフォワード・クラッチ以外の他のクラッチ装置に適用するようにしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13