特許第5887451号(P5887451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5887451
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】面状発熱体
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/03 20060101AFI20160303BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20160303BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   H05B3/03
   H05B3/14 F
   H05B3/20 361
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-141845(P2015-141845)
(22)【出願日】2015年7月16日
【審査請求日】2015年7月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598007263
【氏名又は名称】茶久染色株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蜂矢 雅明
【審査官】 礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−004936(JP,A)
【文献】 実開平02−084296(JP,U)
【文献】 特公昭51−007326(JP,B2)
【文献】 特開昭58−186191(JP,A)
【文献】 特開2014−096240(JP,A)
【文献】 特開2010−225365(JP,A)
【文献】 実公昭60−035190(JP,Y2)
【文献】 特公昭49−018298(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02 − 3/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸および経糸の一方が導電性繊維であり、他方が非導電性繊維である織物より構成される発熱部と、該発熱部における上記導電性繊維方向の両端部にそれぞれ形成されており、上記非導電性繊維方向に延びる電極部と、該電極部側の面を覆う樹脂よりなる第1保護層とを備え、
該電極部は、
上記発熱部の片側表面に配置された導体線と、
該導体線を上記発熱部に固定する固定糸と、
上記発熱部における上記導体線の配置部分に付着された導電材料より形成されており、複数の上記導電性繊維同士を電気的に接続する導電層と
紙または布製の基材と該基材の片面に形成された粘着層とを備え、上記導体線よりも幅広であり、上記導体線を覆うように貼り付けられたテープ材と、を有しており、かつ、
該導電層と上記導体線とが接している、面状発熱体。
【請求項2】
上記導電性繊維は、有機繊維と、該有機繊維の表面を被覆し、かつ、カーボンナノチューブを含有する被覆層とを有しており、
上記導電材料は、カーボンナノチューブを含有している、請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
質量%で、上記導電材料に含まれるカーボンナノチューブの含有量は、上記被覆層の形成材料に含まれるカーボンナノチューブの含有量以上である、請求項2に記載の面状発熱体。
【請求項4】
上記導体線が平編組線であり、上記導電材料の一部が上記導体線内に入り込んでいる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の面状発熱体。
【請求項5】
電気抵抗がR1≦R2の関係を満たす、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
但し、R1:上記発熱部における上記電極部が形成されている部分の電気抵抗
R2:上記発熱部における上記電極部が形成されていない部分の電気抵抗
【請求項6】
上記電極部が、
上記導体線表面および上記導体線周辺の上記発熱部表面に付着した上記導電材料をさらに有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
【請求項7】
上記電極部側と反対側の面を覆う第2保護層を有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性繊維を含む織物で形成された発熱部と、導電性ペーストからなる電極部とを有する面状発熱体が知られている。他にも例えば、特許文献1には、導電性織編物で形成された発熱部と、発熱部の両側部に形成された電極部とを有する面状発熱体が開示されている。この面状発熱体における電極部は、袋構造を有する挿通部と、挿通部内に挿通されたリード線等の導電性棒状体とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−96240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、長尺な面状発熱体に関するニーズが高まっている。長尺な面状発熱体を実現するためには、電極部を長尺に形成する必要がある。しかしながら、導電性ペーストからなる長尺な電極部は、長手方向で電圧降下が生じやすい。そのため、均一に発熱できる長尺な面状発熱体を得ることが難しいという問題がある。なお、袋構造の挿通部内に導電性棒状体が挿通されてなる電極部は、導電性棒状体と発熱部の導電性繊維との密着性が不十分であり、接点不良が生じやすい。
【0005】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、長尺に形成された場合でも均一に発熱することができ、電極部における接点不良を抑制しやすい面状発熱体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、緯糸および経糸の一方が導電性繊維であり、他方が非導電性繊維である織物より構成される発熱部と、該発熱部における上記導電性繊維方向の両端部にそれぞれ形成されており、上記非導電性繊維方向に延びる電極部と、該電極部側の面を覆う樹脂よりなる第1保護層とを備え、
該電極部は、
上記発熱部の片側表面に配置された導体線と、
該導体線を上記発熱部に固定する固定糸と、
上記発熱部における上記導体線の配置部分に付着された導電材料より形成されており、複数の上記導電性繊維同士を電気的に接続する導電層と
紙または布製の基材と該基材の片面に形成された粘着層とを備え、上記導体線よりも幅広であり、上記導体線を覆うように貼り付けられたテープ材と、を有しており、かつ、
該導電層と上記導体線とが接している、面状発熱体にある。
【発明の効果】
【0007】
上記面状発熱体は、上述した構成の電極部を有している。この電極部は、導電性繊維と導体線とを直接接触させる場合に比べ、導電層と導体線との密着性を確保しやすい。そのため、上記面状発熱体は、導電層が有する導電性繊維と導体線との電気的な接続を確実なものとすることができる。それ故、上記面状発熱体は、長尺に形成されることによって長尺な電極部とされた場合でも、長手方向で電圧降下が生じ難く、均一に発熱することができる。また、上記面状発熱体は、導電層と導体線との密着性が高いため、電極部における接点不良も抑制しやすい。とりわけ、上記面状発熱体は、電極部が、導体線よりも幅広であり、導体線を覆うように貼り付けられたテープ材を有している。そのため、導体線がテープ材によって発熱部に押えつけられる。それ故、上記面状発熱体は、導電層と導体線との密着性を向上させやすく、電極部における接点不良をより一層抑制しやすい。また、上記面状発熱体は、テープ材の基材が紙または布製である。そのため、第1保護層を樹脂コーティングにて形成する際、コーティング時に樹脂を基材中に浸透させることが可能となる。それ故、上記面状発熱体は、導体線および発熱部とテープ材との密着性が向上し、剥離等を抑制しやすい。また、上記面状発熱体は、最表層に位置する第1保護層によって下方の電極部および発熱部の導電性繊維が保護される。また、上記面状発熱体は、第1保護層によって発熱部から電極部が脱落するのを抑制しやすい。また、上記面状発熱体は、第1保護層によって電極部の防水性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1参考例1の面状発熱体を、導体線側の面を上向きにして模式的に示した説明図である。
図2図1におけるII−II線断面を模式的に示した断面図である。
図3図1におけるIII−III線断面を模式的に示した断面図である。
図4】実施例2の面状発熱体における、図2に対応する断面図である。
図5】実施例2の面状発熱体における、図3に対応する断面図である。
図6】試料1の面状発熱体における発熱時の温度分布を示した図である。
図7】試料1Cの面状発熱体における発熱時の温度分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記面状発熱体において、発熱部は、緯糸が導電性繊維であり、経糸が非導電性繊維である織物より構成されていてもよいし、緯糸が非導電性繊維であり、経糸が導電性繊維である織物より構成されていてもよい。好ましくは、発熱部を構成する織物の製造性が良好である等の観点から、発熱部は、前者の織物より構成されているとよい。また、織物の織組織としては、例えば、タフタ織等の平織、綾織または斜紋織(ツイル織)、朱子織、パイル織などを例示することができる。これら織組織としては、高密度の織物を形成しやすく、発熱効率を向上させやすいなどの観点から、ツイル織、平織などが好ましい。
【0010】
上記面状発熱体において、導電性繊維は、例えば、有機繊維と、有機繊維の表面を被覆し、かつ、炭素材料を含有する被覆層とを有する構成とすることができる。この場合には、薄くて軽量であり、発熱効率の高い面状発熱体が得られる。
【0011】
有機繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、有機繊維は、例えば、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、紡績糸などより構成することができる。なお、導電性繊維において、有機繊維がマルチフィラメント糸や紡績糸などより構成される場合、被覆層は、糸の表面に位置する繊維の表面に形成されていてもよいし、糸の表面に位置する繊維の表面だけでなく、糸の内部に位置する繊維の表面に形成されていてもよい。後者の場合には、発熱部の発熱性能を向上させやすくなる。
【0012】
炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラックなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。炭素材料は、少なくともカーボンナノチューブを含んでいることが好ましい。カーボンナノチューブは、導電性が良好であるため、電気抵抗値を下げやすく、所望の電気抵抗を得るために必要な量を少なくしやすいなどの利点がある。なお、カーボンナノチューブは、シングルウォール型、マルチウォール型のいずれでも用いることができる。好ましくは、導電性を確保しやすいなどの観点から、マルチウォール型のカーボンナノチューブを好適に用いることができる。また、被覆層は、他にも、バインダーを含むことができる。この場合には、有機繊維と被覆層との密着性を向上させやすくなる。バインダーとしては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂などを例示することができる。
【0013】
上記面状発熱体において、非導電性繊維としては、例えば、上述した有機繊維などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0014】
上記面状発熱体において、電極部は、導体線と、固定糸と、導電層とを有しており、導電層と導体線とが接している。導電層および導体線は、密着性向上の観点から、導電層に導体線が接した状態で一体化されているとよい。
【0015】
導体線としては、例えば、平編組線、中実の金属線などを例示することができる。平編組線は、例えば、金属素線が管状に編み込まれて形成された管状編組線を平らに潰すことにより構成することができる。また、中実の金属線は、例えば、棒状、平角状などの形状を呈することができる。導体線は、好ましくは、平編組線であるとよい。この場合には、面状発熱体が曲げられた際における導体線の追従性に優れる。そのため、電極部の長手方向における接点不良をより一層抑制しやすい面状発熱体が得られる。また、面状発熱体の耐屈曲性も向上する。また、平編組線の隙間に導電材料を存在させやすくなるため、導電層と導体線との密着性の向上に有利である。また、導体線が棒状である場合と比較して、導体線の外方への突出が少ない面状発熱体が得られる。
【0016】
固定糸は、導体線を発熱部に固定するためのものである。固定糸による導体線の固定方法としては、例えば、固定糸によって導体線を発熱部に縫い付ける方法、固定糸を発熱部に縫い付け、固定糸と発熱部とにより導体線を挟持する方法、これらを組み合わせた方法などを例示することができる。
【0017】
上記面状発熱体において、導電層を形成する導電材料は、発熱部における導体線の配置部分に付着されている。導電材料は、複数本の導電性繊維を一体化できるように発熱部に付着されておれば、発熱部内だけでなく、発熱部の表面に存在していてもよい。
【0018】
上記面状発熱体において、導電材料の一部は、導体線内に入り込んでいる構成とすることができる。この場合には、導電層と導体線との密着性がより一層向上する。そのため、上記面状発熱体が曲げられた場合でも、導電層と導体線との密着性を維持しやすく、導電性繊維と導体線との電気的な接続をより一層確実なものとすることができる。それ故、この場合には、長手方向で電圧降下が生じ難く、均一に発熱することができ、電極部における接点不良をより一層抑制しやすい面状発熱体が得られる。
【0019】
上記面状発熱体において、電極部は、導体線表面および導体線周辺の発熱部表面に付着した導電材料をさらに有する構成とすることができる。この場合には、導体線表面および導体線周辺の発熱部表面が導電材料によって覆われる。そのため、導電層と導体線との密着性を向上させやすくなり、電極部における接点不良をより一層抑制しやすい面状発熱体が得られる。
【0020】
上記面状発熱体において、導電材料は、例えば、炭素材料、金属材料等を含むことができる。炭素材料としては、具体的には、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラックなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。炭素材料は、少なくともカーボンナノチューブを含んでいることが好ましい。カーボンナノチューブは、導電性が良好であるため、電気抵抗値を下げやすく、所望の電気抵抗を得るために必要な量を少なくしやすいなどの利点がある。また、導電材料は、他にも、バインダーを含むことができる。この場合には、導電層に導体線が接した状態で導電層および導体線が一体化されやすくなる。そのため、電極部における接点不良をより一層抑制しやすい面状発熱体が得られる。バインダーとしては、具体的には、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂などを例示することができる。
【0021】
上記面状発熱体において、テープ材は、導体線と直接接触していてもよいし、導体線表面および導体線周辺の発熱部表面に付着した導電材料をさらに有する場合には、導電材料と接触していてもよい。
【0022】
テープ材は、具体的には、基材と、基材の片面に形成された粘着層とを有する構成とされる。基材としては、紙または布が用いられる。
【0023】
上記面状発熱体は、電気抵抗がR1≦R2の関係を満たしていることが好ましい。より好ましくは、電気抵抗がR1<R2の関係を満たしているとよい。但し、R1は発熱部における電極部が形成されている部分の電気抵抗であり、R2は、発熱部における電極部が形成されていない部分の電気抵抗である。この場合には、電極部における発熱が生じ難くなり、発熱部における均一な発熱を促進させることができる。
【0024】
記面状発熱体は、電極部側と反対側の面を覆う第2保護層を有することもできる。この場合には、発熱部の導電性繊維の保護をより一層確実なものとすることができる。第1保護層、第2保護層は、具体的には、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂等による樹脂層より構成することができる。
【0025】
上記面状発熱体は、例えば、道路等の屋外設備のための用途(例えば、ロードヒーティング、融雪装置、凍結防止装置など)、農業用途(例えば、園芸用マットなど)、建造物の構成要素としての用途(例えば、結露防止や防曇装置、床暖房、壁願望など)、乗り物の内部構成要素としての用途(例えば、自動車、電車などの車両、航空機などの座席シートなど)、防寒のための身飾品のための用途(例えば、ジャケット、ベスト、ひざ掛けなどの衣料、寝具、カイロ、ホットカーペットなど)などに利用可能である。上記面状発熱体は、長尺に形成された場合でも均一に発熱することができるため、例えば、配管等の長尺物の加熱に特に好適に用いることができる。
【0026】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例の面状発熱体について、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0028】
参考例1)
参考例1の面状発熱体について、図1図3を用いて説明する。図1図3に示されるように、本例の面状発熱体1は、発熱部2と、電極部3とを備えている。
【0029】
面状発熱体1において、発熱部2は、緯糸および経糸の一方が導電性繊維21であり、他方が非導電性繊維22である織物20より構成されている。各図では、面状発熱体1の長手方向に経糸が配置されており、面状発熱体1の幅方向に緯糸が配置されている例を示している。また、発熱部2を構成する織物20の織組織としては、平織組織が例示されている。
【0030】
本例では、緯糸が導電性繊維21とされており、経糸が非導電性繊維22とされている。導電性繊維21は、具体的には、有機繊維211と、有機繊維211の表面を被覆し、かつ、炭素材料を含有する被覆層212とを有している。有機繊維211は、より具体的には、マルチフィラメント糸構造を有するポリエステル系繊維であり、糸の表面に位置する繊維の表面だけでなく、糸の内部に位置する繊維の表面にも被覆層212が形成されている。なお、各図では、糸の内部に存在する被覆層212は省略されている。また、被複層212は、具体的には、炭素材料と、バインダーとを含有している。より具体的には、炭素材料は、カーボンナノチューブであり、バインダーは、ポリウレタン系樹脂である。
【0031】
面状発熱体1において、電極部3は、発熱部2における導電性繊維21方向の両端部にそれぞれ形成されており、非導電性繊維22方向に延びている。つまり、本例では、電極部3は、発熱部2の幅方向の両端部にそれぞれ形成されており、発熱部2の長手方向に延びている。電極部3は、導体線31と、固定糸32と、導電層33とを有している。
【0032】
導体線31は、発熱部2の片側表面に配置されている。本例では、導体線31は、平編組線である。平編組線は、具体的には、金属素線が管状に編み込まれて形成された管状編組線が平らに潰されることによって構成されている。したがって、平編組線は、編み込まれた金属素線の間に多くの隙間を有している。
【0033】
固定糸32は、導体線31を発熱部2に固定している。本例では、固定糸32は、第1固定糸321と、第2固定糸322とを有している。第1固定糸321は、導体線31の長手方向に沿って導体線31の中央部を縫い止めている。第2固定糸322は、導体線31の幅方向両側縁の外側における発熱部2を、導体線31の長手方向にジグザグ状に縫い止めている。固定糸32は、具体的には、ポリエステル系糸である。なお、図2および図3において、固定糸32は省略されている。
【0034】
導電層33は、発熱部2における導体線31の配置部分に付着された導電材料より形成されており、複数の導電性繊維21同士を電気的に接続している。つまり、導電層33において、複数の導電性繊維21同士は導電材料によって一体化されている。本例では、導電材料は、具体的には、炭素材料と、バインダーとを含有している。より具体的には、炭素材料は、カーボンナノチューブであり、バインダーは、ポリウレタン系樹脂である。
【0035】
電極部3において、導電層33と導体線31とは接している。具体的には、導電層33および導体線31は、導電層33に導体線31が接した状態で一体化されている。電極部3は、導電層33と導体線31とが接することによって、複数の導電性繊維21と導体線31とが導通可能とされている。
【0036】
本例では、導電層33を形成する導電材料の一部が導体線31内に入り込んでいる(不図示)。具体的には、導電材料の一部は、導体線31としての平編組線の表面にある隙間から内部に入り込んでいる。また、導電材料の一部は、導体線31側と反対側の発熱部2の表面にも付着している。
【0037】
本例では、面状発熱体1は、電気抵抗がR1≦R2の関係を満たしている。但し、R1は、発熱部2における電極部3が形成されている部分の電気抵抗であり、R2は、発熱部2における電極部3が形成されていない部分の電気抵抗である。図1に示されるように、R1は、具体的には、導体線31の幅よりも大きな角形状の小片S1を切り出し、導体線31を除いた小片S1について、導電性繊維21と垂直な方向の電気抵抗を測定することにより求められる。また、R2は、具体的には、R1の測定時と同じ大きさの小片S2を、発熱部2における電極部3が形成されていない部分から切り出し、小片S2について、導電性繊維21と垂直な方向の電気抵抗を測定することにより求められる。なお、R1≦R2の関係は、具体的には、導電層212を形成する導電材料に含まれる炭素材料の含有量≧導電性繊維21における被覆層形成材料に含まれる炭素材料の含有量の関係を満たすよう構成することによって調整されている。
【0038】
次に、本例の面状発熱体の作用効果について説明する。
【0039】
本例の面状発熱体1における電極部3は、導電性繊維21と導体線31とを直接接触させる場合に比べ、導電層33と導体線31との密着性を確保しやすい。そのため、面状発熱体1は、導電層33が有する導電性繊維21と導体線31との電気的な接続を確実なものとすることができる。それ故、面状発熱体1は、長尺に形成されることによって長尺な電極部3とされた場合でも、長手方向で電圧降下が生じ難く、均一に発熱することができる。また、面状発熱体1は、導電層33と導体線31との密着性が高いため、電極部3における接点不良も抑制しやすい。
【0040】
(実施例2)
実施例2の面状発熱体について、図4図5を用いて説明する。図4図5に示されるように、本例の面状発熱体1では、電極部3が、導体線31表面および導体線31周辺の発熱部2表面に付着した導電材料34を有している。また、電極部3は、導体線31よりも幅広であり、かつ、導体線31を覆うように貼り付けられたテープ材4を有している。なお、テープ材4は、導体線31の長手方向に沿って貼り付けられている。テープ材4は、具体的には、基材(不図示)と、基材の片面に形成された粘着層(不図示)とを有している。テープ材4は、粘着層側の面が導体線31側となるように配置されている。本例では、基材の材質は紙である。また、本例の面状発熱体1は、電極部3側の面を覆う第1保護層51と、電極部3側と反対側の面を覆う第2保護層52とを有している。第1保護層51、第2保護層52は、いずれも樹脂層であり、アクリルウレタン樹脂を含んでいる。なお、その他の構成は、参考例1と同様である。
【0041】
本例の面状発熱体1も、参考例1と同様の作用効果を得ることができる。また、本例の面状発熱体1は、電極部3が、導体線31表面および導体線31周辺の発熱部2表面に付着した導電材料34を有している。そのため、導体線31表面および導体線31周辺の発熱部2表面が導電材料34によって覆われる。それ故、本例の面状発熱体1は、導電層33と導体線31との密着性を向上させやすくなり、電極部3における接点不良をより一層抑制しやすい。
【0042】
また、本例の面状発熱体1は、電極部3が、テープ材4を有している。そのため、導体線31がテープ材4によって発熱部2に押えつけられる。それ故、本例の面状発熱体1は、導電層33と導体線31との密着性を向上させやすくなり、電極部3における接点不良をより一層抑制しやすい。また、第1保護層51を樹脂コーティングにて形成する際に、樹脂を基材中に浸透させることができる。そのため、導体線31および発熱部2とテープ材4との密着性が向上し、剥離を抑制しやすい。
【0043】
また、本例の面状発熱体1は、電極部3側の面を覆う第1保護層51を有している。そのため、本例の面状発熱体1は、最表層に位置する第1保護層51によって下方の電極部3および発熱部2の導電性繊維21が保護される。また、本例の面状発熱体1は、第1保護層51によって発熱部2から電極部3が脱落するのを抑制しやすくなる。また、本例の面状発熱体1は、第1保護層51によって電極部3の防水性が向上する。また、本例の面状発熱体1は、電極部3側と反対側の面にも第2保護層52を有している。そのため、本例の面状発熱体1は、発熱部2の導電性繊維21の保護をより一層確実なものとすることができる。
【0044】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
【0045】
(試料1の面状発熱体の作製)
−発熱部を構成するための織物の作製−
導電材料としてマルチウォール型のカーボンナノチューブ(CNT)4質量%と、バインダーとしてポリウレタン樹脂5質量%と、を含有する水性のCNT分散液A(パーカーコーポレーション社製)を準備した。
【0046】
次いで、ポリエステル系繊維(クラレ社製、「FD84T48」、84dtex/48フィラメント)に対して、CNT分散液Aを用い、サイジング糊付け手法にてカーボンナノチューブを付着させた。具体的には、ポリエステル系繊維をCNT分散液Aに浸漬する際に、微振動させた糸ガイドを通して、200Hzの微振動を糸に与え、170℃で2分間乾燥させた。これにより、ポリエステル系繊維と、ポリエステル系繊維の表面を被覆し、かつ、カーボンナノチューブを含有する被覆層とを有する、導電性繊維を得た。
【0047】
次いで、この導電性繊維を緯糸に配置し、レギュラーポリエステル糸(56dtex/36フィラメント)を経糸として用い、5/1ツイル組織にて織物を作製した。なお、緯糸の内込本数は、112本/インチであった。
【0048】
−電極部の形成−
導電材料としてマルチウォール型のカーボンナノチューブ(CNT)6質量%と、バインダーとしてポリウレタン樹脂5質量%と、を含有する水性のCNT分散液B(パーカーコーポレーション社製)を準備した。
【0049】
次いで、幅30cm、長さ2mに形成した織物の片側表面における緯糸方向(幅方向)の一端部に、幅2mm、長さ2mの平編組線(双葉電線社製)を経糸方向(長手方向)に沿って配置した。なお、平編組線は、スズめっき銅素線を用いて形成されおり、公称断面積0.38mm、素線径0.1mm、素線数48本である。次いで、ミシンを用いて、ポリエステル系糸により平編組線の中央部を経糸方向に縫い止めた。次いで、同様に、ミシンを用いて、ポリエステル系糸により、平編組線の幅方向両側縁の外側における織物部分を、経糸方向にジグザグ状に縫い止めた。これにより、織物の片側表面における緯糸方向の一端部に、平編組線を糸にて固定した。織物の片側表面における緯糸方向の他端部にも、同様にして、平編組線を糸にて固定した。以下、平編組線を固定した側の織物面をおもて面とし、その反対側の織物面をうら面とする。
【0050】
次いで、織物のおもて面の平編組線に沿うように、織物のうら面にCNT分散液Bを塗布し、CNT分散液Bを織物内に含浸させ、乾燥させた。これにより、織物における平編組線の配置部分にカーボンナノチューブおよびバインダーを付着させ、平編組線と接する導電層を形成した。また、織物のおもて面における平編組線表面および平編組線周辺に、CNT分散液Bを塗布し、乾燥させた。これにより、織物のおもて面における平編組線表面および平編組線周辺にも、カーボンナノチューブおよびバインダーを付着させた。なお、カーボンナノチューブおよびバインダーは、平編組線の内部にも入り込んでいた。
【0051】
次いで、織物のおもて面におけるCNT分散液Bの塗布部分を覆うように、紙製の基材を有するマスキングテープを貼り付けた。また、織物のうら面におけるCNT分散液Bの塗布部分を覆うように、上記マスキングテープを貼り付けた。次いで、織物のおもて面およびうら面の両方にアクリルウレタン系樹脂をコーティングすることにより、第1保護層および第2保護層をそれぞれ形成した。
【0052】
以上により、試料1の面状発熱体を作製した。
【0053】
(試料1Cの面状発熱体の作製)
試料1の面状発熱体の作製時に準備した織物の片側表面における緯糸方向の両端部に、銅ペーストを用いて、経糸方向に延びる一対の電極部(幅300mm、長さ2m)を形成した。これにより、試料1Cの面状発熱体を作製した。
【0054】
(発熱試験)
一対の電極部の一方端部に、電圧印加装置を接続し、50Vの交流電圧を印加した。そして、赤外線サーモグラフィ(フリアーシステムズジャパン社製、「FLIRi5j」)を用いて、サーモ画像を撮影した。その結果を、図6図7に示す。なお、各図において、手前側の電極部に電圧印加装置が接続されている。
【0055】
図7に示されるように、試料1Cの面状発熱体は、手前側から奥側に向かうにつれ、電極部に電圧降下が発生し、発熱にムラが生じて均一な発熱ができていないことがわかる。
【0056】
これに対して、図6に示されるように、試料1の面状発熱体は、電極部に電圧降下が発生せず、長手方向で均一に発熱できていることがわかる。また、試料1の面状発熱体は、電極部における接点不良も見られなかった。
【0057】
以上、本発明の実施例、実験例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例、実験例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 面状発熱体
2 発熱部
20 織物
21 導電性繊維
22 非導電性繊維
3 電極部
31 導体線
32 固定糸
33 導電層
【要約】      (修正有)
【課題】長尺に形成された場合でも均一に発熱することができ、電極部における接点不良を抑制しやすい面状発熱体を提供する。
【解決手段】面状発熱体1は、緯糸および経糸の一方が導電性繊維であり、他方が非導電性繊維である織物20より構成される発熱部2と、発熱部2における導電性繊維方向の両端部にそれぞれ形成されており、非導電性繊維方向に延びる電極部3とを備える。電極部3は、発熱部2の片側表面に配置された導体線31と、導体線31を発熱部2に固定する固定糸32と、発熱部2における導体線31の配置部分に付着された導電材料より形成されており、複数の導電性繊維同士を電気的に接続する導電層33とを有している。導電層33と導体線31とは、接している。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7