(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5887452
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】水返し構造体及びこれを用いた換気棟構造体
(51)【国際特許分類】
E04D 13/16 20060101AFI20160303BHJP
E04D 1/30 20060101ALI20160303BHJP
E04D 3/40 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
E04D13/16 G
E04D1/30 601E
E04D1/30 601P
E04D3/40 F
E04D3/40 C
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-162622(P2015-162622)
(22)【出願日】2015年8月20日
【審査請求日】2015年8月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592114080
【氏名又は名称】株式会社ハウゼコ
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【弁理士】
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100175385
【弁理士】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(72)【発明者】
【氏名】神戸 睦史
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特表昭59−501372(JP,A)
【文献】
実開平03−086929(JP,U)
【文献】
特開2003−147910(JP,A)
【文献】
特開平07−119260(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0202093(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0209423(US,A1)
【文献】
国際公開第99/001627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 13/16
E04D 1/30
E04D 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隅棟に架設される換気棟と、前記隅棟に沿ってその端部同士を通気スペースとして一定間隔を離して設置される一対の屋根材の各々との間に取り付けられる一対の水返し構造体であって、
前記水返し構造体の各々は、水密材料により構成され、
前記屋根材の一方の前記端部側の下面にその一部が配置される下方板と、
前記下方板の上方に配置されており、前記換気棟の一部が載置される上方板と、
前記下方板と前記上方板とに水密状態で接続されている立設板とを備え、
前記上方板は、前記換気棟の一部を載置するために前記立設板との接続位置から少なくとも前記隅棟の中央側に向かって延びると共に、前記接続位置から前記下方板の上面が含まれる仮想平面への垂直長さは、前記屋根材の前記端部側における最大厚さより大きく設定され、
前記上方板は、更に、前記立設板との接続位置よりも前記屋根材側に突出している突出部を有し、前記突出部を除いた前記上方板の上面と前記突出部の上面とによって形成される角度が180度から90度の範囲内にある、水返し構造体。
【請求項2】
前記下方板と前記立設板とによって形成される角度が90度であり、前記立設板と前記上方板とによって形成される角度が90度であり、前記突出部の突出長さが前記垂直長さと同一である、請求項1記載の水返し構造体。
【請求項3】
1枚の鋼板を曲げ加工してなる、請求項1又は請求項2記載の水返し構造体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の水返し構造体を用いた、隅棟に架設される換気棟構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は水返し構造体及びこれを用いた換気棟構造体に関し、特に、家屋の隅棟部における小屋裏空間の自然換気を目的として隅棟に換気棟を設置するために用いられる水返し構造体及びこれを用いた換気棟構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、家屋における小屋裏空間の自然換気を行うため、水平な大棟部に設置される換気棟が存在する。
【0003】
図6は従来の換気棟が設置された家屋の、特に屋根周りの外観形状を示す概略斜視図である。
【0004】
図を参照して、寄棟屋根である家屋50の水平な大棟部51には換気棟55が設置され、小屋裏空間の大棟部に上昇した空気の換気を行っている。
【0005】
図7は
図6で示したVII−VIIラインの概略端面図であり、特許文献1で開示されている従来の換気棟の断面構造を示すものである。
【0006】
図を参照して、換気棟55は、ほぼ山形形状でその中央部が開口された形状を有している一対の屋根材35a、35b及び一対の屋根下地28a、28bの上に設置されており、鋼板のプレス加工によって形成された換気棟カバー15と、換気棟カバー15の下面に取り付けられた一対の換気部材39a、39bとによって主に構成されている。
【0007】
まず、換気棟カバー15は、頂点16から幅方向に向かって斜め下方に延びる板形状の一対の傾斜部17a、17bと、傾斜部17a、17bの各々の下方端部に接続され、ほぼ垂直下方に延びる一対の垂直部18a、18bと、垂直部18a、18bの各々の下方端部に接続され、傾斜部17a、17bとほぼ平行に外方に延びる一対のフランジ部19a、19bとから構成されている。又、傾斜部17a、17bの各々には、その長手方向に平行に延びる換気口14が複数列形成されている。そして、傾斜部17a、17bの下面であって、頂点16と隣接する換気口14同士の間のスペースには断熱材20が取り付けられており、断熱材20の下面の一部には一対の換気部材39a、39bが取り付けられている。尚、断熱材20によって本体カバー15からの結露が防止されるため、換気棟55の屋根材35a、35b間の中央部を介しての小屋裏空間への水滴の落下が阻止される。
【0008】
次に、換気部材39は、幅方向の断面が台形形状を有し、長手方向に対しては傾斜部17a、17bの各々の長手方向の長さとほぼ同一長さを有する棒形状を有している。具体的には換気部材39は、各々が凹凸断面形状を有する合成樹脂シートを複数積層した状態で切断加工時の熱融着によって相互に接続されて一体化されている。そして一方の側壁から他方の側壁へ貫通する通気孔が多数形成されている。この構造により、換気部材39は、通気孔を介しての通気を可能とすると共に通気孔を介しての雨水の浸入を阻止する通気機能及び防水機能を発揮するものである。
【0009】
このように、この換気棟は換気棟カバーと換気部材とを一体化し、通気機能及び防水機能を発揮するものである。
【0010】
通気状態にあっては、矢印で示されているように屋根材35a、35b間の中央部において捨水切33a、33bの間から上昇した空気は、換気部材39a、39bの各々の通気孔を介して内方側から外方側へと通過する。通過した空気は傾斜部17a、17bの各々に形成されている複数の換気口14を介して外方に排出される。
【0011】
一方、上方からの雨水は主に複数の換気口14の各々を介して傾斜部17a、17bの下方に浸入する。浸入した雨水は上述のように換気部材39a、39bの各々の通気孔を介して内方側に移動することはできない。従って、浸入した雨水は、フランジ部19a、19bの各々の下面と屋根材35a、35bの各々の上面との間の隙間から外方に流れ出ることとなる。
【0012】
又、換気部材39a、39bの各々の下面と屋根材35a、35bの上面との間の隙間はほとんど無いため、その部分からの雨水の浸入の虞も無い。仮にこの隙間から雨水が浸入した場合があっても、その量は僅かであり、その雨水は
図7で示した捨水切33a、33b及び防水紙30a、30bによって内方への浸入は確実に阻止されることとなる。
【0013】
更に、換気棟55は水平な大棟部に設置されているため、換気棟55の幅方向から雨水が浸入する虞も無い。これについて説明する。
【0014】
図8は
図7で示したVIII−VIIIラインの概略断面図であり、換気棟と屋根材及び屋根下地の断面を換気棟の幅方向から見た状態を示している。
【0015】
図を参照して、換気棟55の下面と屋根材35の上面との隙間はほとんど無く、上空からの雨水はそのほとんどが屋根材35の上面に沿って図示しない屋根の下方に向かって流れ落ちるため、水平な大棟部に設置されている換気棟55の内方に浸入する虞は無い。
【0016】
次に、
図7で示した換気棟の取り付けについて説明する。
【0017】
図9は
図7で示した換気棟を屋根材に取り付ける前の状態を示した概略端面図である。
【0018】
図を参照して、一対の屋根下地28a、28b及び一対の屋根材35a、35bはほぼ山形形状でその中央部が開口された形状を有している。具体的には、屋根下地28a、28bは、図示しない垂木の上に設置された一対の野地板29a、29bと、野地板29a、29bの各々の上面に布設された一対の防水紙30a、30bとで構成されている。又、屋根材35a、35bは、防水紙30a、30bの各々の上に設置された一対の下葺材32a、32bと、下葺材32a、32bの各々の上に設置された一対の平板瓦34a、34bとから構成されている。尚、捨水切33a、33bの各々は、防水紙30a、30bの各々の上に取り付けられ、その状態で下葺材32a、32bの各々が設置されるものである。
【0019】
このように構成された屋根材35に換気棟55を上方から降下させる。このとき換気部材39a、39bは、各々の台形断面形状の上底に対応する面は傾斜部17a、17bの各々の下面側に面し、下底に対応する面は平板瓦34a、34bの各々の上面側に面することとなる。
【0020】
そして、換気棟55の屋根材35及び屋根下地28に対する位置合わせが終了すると、その位置で
図7で示した防水パッキン37a、37bを取り付けた固定釘36a、36bを打ち込むことによって、換気棟55は屋根材35及び屋根下地28に固定される。
【0021】
このようにして設置された従来の換気棟は、上述のように水平な大棟部において通気機能及び防水機能を発揮している。
【0022】
ここで、小屋裏空間においては、隅棟部にも上昇した空気の滞留という問題が存在する。
【0023】
図10は
図6で示した屋根を上方視し一部破断して描いた平面図であって、(1)は隅棟部に換気棟を設置していない屋根の小屋裏空間を示すものであり、(2)は従来の換気棟を設置した隅棟部の外観を示すものである。
【0024】
まず(1)を参照して、下方に傾斜した隅棟部52においては、その隅棟部52に設けられた棒形状の木材からなる隅棟53の長手方向に沿って一定間隔ごとに複数列の垂木54a、54bが、隅棟53を対称軸として屋根の縦横方向に平行に配置されて一対に落とし込みで取り付けられている。即ち、垂木54a、54bの各々は屋根の下方に向かって図示しない屋根面に沿って延びている。
【0025】
そして、屋根の下方に存在する換気材58を介して小屋裏空間を上昇してきた空気のうち、実線で描いた矢印で示した空気の流れのように、隅棟53や垂木54a、54bが障害とならない部分においては空気は大棟部51に到達し、従来の換気棟55を介して換気が行われる。一方、隅棟部52においては隅棟53に垂木54a、54bが落とし込みで取り付けられているため、隅棟53と屋根下地(図示せず)、及び垂木54a、54bと屋根下地が密着している。そのため、小屋裏空間を上昇してきた空気のうち、破線で描いた矢印で示した空気の流れのように、隅棟53や垂木54a、54bが障害となる部分においては、空気はその隅棟53や垂木54a、54bの上方を通過することはできず、大棟部51まで空気が行きにくく隅棟部52に空気が滞留しやすい。
【0026】
このように、小屋裏空間における隅棟部も空気が滞留しやすいため換気の必要性が高い。
【0027】
又、大棟部51に設置した換気棟55にあっては、上述したように大棟部51が水平であるため雨水が主に上方から浸入しようとするが、隅棟部52に設置した換気棟55にあっては、隅棟部52が下方に傾斜しているため、(2)の実線で描いた矢印で示すように、風雨が換気棟55の横(幅方向)から吹き込む場合や、雨水が屋根材35の流れに沿って換気棟55の横から浸入しようとする場合がある。この際に発生し得る問題について説明する。
【0028】
図11は従来の換気棟を直接設置することを想定した隅棟部の状態を示す断面図であり、
図8に対応するものである。
【0029】
図を参照して、隅棟部52においては、屋根材35同士が各々の一部を重ね合わせた階段状となるように設置されている。そのため、一点鎖線で示すように、載置面がほぼ直線状である換気棟55を階段状に設置された屋根材35の上に直接設置することを想定すると、幅方向から換気棟内部に浸入可能である空洞部分41(図の細かい網掛け部分)が発生する。この空洞部分41に対して、上述したような換気棟55の幅方向から浸入しようとする雨水が発生すると、換気棟55内部あるいは隅棟部52内部に水が浸入してしまう。そこで空洞部分41を塞ぐためにパテ施工等でシールすることは可能であるが、経年変化による隙間等が生じるため信頼性に欠ける。このような隅棟部特有の問題が存在するため、従来の換気棟55を隅棟部52に直接設置することは防水性の観点から問題がある。
【0030】
このような隅棟部の内部の空気の滞留状態を改善するために、特許文献2や特許文献3で開示された手段がある。
【0031】
特許文献2に開示された手段は、従来の換気棟のような構造は用いず、空気の滞留する箇所である、隣接する垂木間の屋根面に開口を形成して空気流通孔とし、その空気流通孔には雨水が浸入しないようカバーを設けたものである。
【0032】
特許文献3に開示された手段は、換気棟内部の換気部材の換気口側に所定の長さの遮蔽板を形成し、その遮蔽板によって、通気方向である短尺方向からの風雨のみならず、長尺方向からの風雨に対しても対処したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開2006−9293号公報
【特許文献2】特開2015−34447号公報
【特許文献3】特開2013−249696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
しかし、特許文献2に開示された手段では、上述したように隅棟部には横からの風雨の吹き込みや屋根材の流れに沿った雨水の浸入といった特有の問題があるため、屋根面に形成された空気流通孔に対する防水性が完全ではなかった。
【0035】
又、特許文献3に開示された手段では、屋根材同士がフラットに設置されていれば開示された換気棟を隅棟部に置くことができ、換気性能と防水性能を満たすことができるが、実際は
図11で示したように屋根材同士が階段状に設置されている場合も多く、その場合は従来の換気棟と同様に、隅棟部に開示された換気棟を直接置くことは防水性の観点では不十分であった。
【0036】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、屋根材同士が階段状に設置されている隅棟部であっても換気棟を設置することを可能とし、隅棟部特有の横からの雨水の浸入に対しても防水機能を発揮する隅棟部の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、隅棟に架設される換気棟と、隅棟に沿ってその端部同士を通気スペースとして一定間隔を離して設置される一対の屋根材の各々との間に取り付けられる一対の水返し構造体であって、水返し構造体の各々は、水密材料により構成され、屋根材の一方の端部側の下面にその一部が配置される下方板と、下方板の上方に配置されており、換気棟の一部が載置される上方板と、下方板と上方板とに水密状態で接続されている立設板とを備え、
上方板は、換気棟の一部を載置するために立設板との接続位置から少なくとも隅棟の中央側に向かって延びると共に、接続位置から下方板の上面が含まれる仮想平面への垂直長さは、屋根材の端部側における最大厚さより大きく設定され
、上方板は、更に立設板との接続位置よりも屋根材側に突出している突出部を有し、突出部を除いた上方板の上面と突出部の上面とによって形成される角度が180度から90度の範囲内にあるものである。
【0038】
このように構成すると、換気棟は屋根材の上に直接載置されず、又、屋根材の上面が水返し構造体の上方板の上面を超えることがない。
更に、上方板の突出部を除いた部分は換気棟を載置し、突出部は雨水の侵入を効率的に阻止する。
【0041】
請求項
2記載の発明は、請求項
1記載の発明の構成において、下方板と立設板とによって形成される角度が90度であり、立設板と上方板とによって形成される角度が90度であり、突出部の突出長さが上記垂直長さと同一であるものである。
【0042】
このように構成すると、上方板が下方板に対して平行に延び、又、突出部が一定の長さとなる。
【0043】
請求項
3記載の発明は、請求項1
又は請求項
2記載の発明の構成において、1枚の鋼板を曲げ加工してなるものである。
【0044】
このように構成すると、各部材が一体化する。
【0045】
請求項
4記載の発明は、請求項1から請求項
3のいずれかに記載の水返し構造体を用いた、隅棟に架設される換気棟構造体である。
【0046】
このように構成すると、換気棟構造体全体で換気機能及び防水機能を発揮する。
【発明の効果】
【0047】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、換気棟は屋根材の上に直接載置されず、又、屋根材の上面が水返し構造体の上方板の上面を超えることが無いため、換気棟の設置状態が安定し、又、雨水の浸入に対する防水効果が向上する。
更に、上方板の突出部を除いた部分は換気棟を載置し、突出部は雨水の侵入を効率的に阻止するので各部分の役割分担が可能となり、設置状態の信頼性がより向上する。
【0049】
請求項
2記載の発明は、請求項
1記載の発明の効果に加えて、上方板が下方板に対して平行に延び、又、突出部が一定の長さとなるため、換気棟の設置状態が更に安定する。又、突出部を効率的な長さにできる。
【0050】
請求項
3記載の発明は、請求項1
又は請求項
2記載の発明の効果に加えて、各部材が一体化するため、コスト的に有利であり、且つ水返し構造体の水密性が確実なものとなる。
【0051】
請求項
4記載の発明は、請求項1から請求項
3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、換気棟構造体全体で換気機能及び防水機能を発揮するため、家屋の隅棟部における換気状態の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】この発明の実施の形態による水返し構造体を用いて隅棟部に換気棟を設置した家屋の、特に屋根周りの外観形状を示す概略斜視図である。
【
図2】
図1で示したII−IIラインの概略端面図であり、この発明の実施の形態による水返し構造体を用いた換気棟の断面構造を示すものである。
【
図3】
図2で示した水返し構造体周辺の拡大端面図である。
【
図4】
図2で示したIV−IVラインの概略断面図であり、換気棟の設置状態について示したものである。
【
図5】
図2で示した換気棟の取り付け工程を示した概略端面図である。
【
図6】従来の換気棟が設置された家屋の、特に屋根周りの外観形状を示す概略斜視図である。
【
図7】
図6で示したVII−VIIラインの概略端面図であり、特許文献1で開示されている従来の換気棟の断面構造を示すものである。
【
図8】
図7で示したVIII−VIIIラインの概略断面図であり、換気棟と屋根材及び屋根下地の断面を換気棟の幅方向から見た状態を示している。
【
図9】
図7で示した換気棟を屋根材に取り付ける前の状態を示した概略端面図である。
【
図10】
図6で示した屋根を上方視し一部破断して描いた平面図であって、(1)は隅棟部に換気棟を設置していない屋根の小屋裏空間を示すものであり、(2)は従来の換気棟を設置した隅棟部の外観を示すものである。
【
図11】従来の換気棟を直接設置することを想定した隅棟部の状態を示す概略断面図であり、
図8に対応するものである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1はこの発明の実施の形態による水返し構造体を用いて隅棟部に換気棟を設置した家屋の、特に屋根周りの外観形状を示す概略斜視図である。
【0054】
図を参照して、家屋50には大棟部51に従来の換気棟55が設置されているのに加え、隅棟部52にこの発明による水返し構造体1を用いて換気棟11が設置され、換気棟構造体を構成している。
【0055】
次に、この隅棟部52における換気棟11周辺の構造(換気構造)について説明する。
【0056】
図2は
図1で示したII−IIラインの概略端面図であり、この発明の実施の形態による水返し構造体を用いた換気構造を示すものである。
【0057】
図を参照して、換気構造10は、隅棟53に沿ってその端部同士を通気スペースとして一定間隔を離して設置される一対の屋根材35a、35b及び屋根下地28a、28bの各々に取り付けられる一対の水返し構造体1a、1bと、屋根下地28a、28bの各々の上面の一部に設置され水返し構造体1a、1bの各々と係合し木材からなる一対の下地材8a、8bと、一対の水返し構造体1a、1b及び一対の下地材8a、8bの上に載置されるように隅棟53に架設されている換気棟11とで主に構成されている。尚、換気棟11は従来の換気棟と基本的に同様の構造である。
【0058】
通気状態にあっては、矢印で示されているように隅棟53と屋根材35a、35bの各々との間の通気スペースから上昇した隅棟部内部の空気は、捨水切33a、33bの間を通過し、換気部材39a、39bの各々の通気孔を介して内方側から外方側へと通過する。通過した空気は傾斜部17a、17bの各々に形成されている複数の換気口14を介して外方に排出される。
【0059】
次に、水返し構造体1a、1bの各々は、水密材料である1枚の鋼板をフォーミング加工等の曲げ加工してなり、屋根材35a、35bの各々の一方の隅棟53方向端部側の下面にその一部が配置される一対の下方板5a、5bと、下方板5a、5bの各々の上方に配置されており、換気棟11の一部が載置される一対の上方板2a、2bと、下方板5a、5bの各々と上方板2a、2bの各々とに水密状態で接続する立設板4a、4bとを備えている。又、上方板2a、2bの各々は、立設板4a、4bの各々との接続位置よりも屋根材35a、35bの各々側に突出している一対の突出部3a、3bを有している。
【0060】
次に、この水返し構造体1の構造及び効果について説明する。
【0061】
図3は
図2に示した水返し構造体周辺の拡大端面図である。
【0062】
図を参照して、立設板4と上方板2との接続位置24から下方板5の上面が含まれる仮想平面25への垂直長さをHとおき、屋根材35の隅棟(図示せず)方向端部側における最大厚さをTとおくと、HはTより大きく設定されている。そのため、図の矢印で示すような、換気棟11の幅方向から浸入しようとする雨水の流れが発生しても、立設板4によって阻止され、換気棟11内部あるいは隅棟内部に雨水が浸入する虞が無い。尚、この実施の形態による水返し構造体1にあっては、下方板5と立設板4とによって形成される角度が90度であるため、下方板5と平行状態にある屋根材35と立設板4とは垂直状態にあることになり、屋根材35の流れに沿って換気棟11の幅方向から浸入しようとする雨水の流れに対して立設板4は効率的に浸入を阻止することができる。
【0063】
又、この実施の形態にあっては上方板2が突出部3を有しているため、上述したような雨水の流れが立設板4に当たった後に、更に突出部3によって撥ね返される。それによって確実に雨水の浸入を阻止することができる。
【0064】
更に、突出部3を除いた上方板2と突出部3とによって形成される角度をθとおくと、この実施の形態にあってはθが180度に設定されている。θが180度から90度の範囲内にあれば、突出部3が上述したような雨水の流れを撥ね返す効果を発揮した後に、その撥ね返された雨水が上方板2の上面に向かうことが無いため、防水効果を更に確実なものとすることができる。尚、θが90度に設定されているというのは、突出部3が突出部3を除いた上方板2に対して垂直上方に延びている場合である。
【0065】
更に、突出部3の突出長さ(接続位置24から突出部3の屋根材35方向への最大直線長さ)をLとおくと、LはHと同一となるように突出部3が形成されている。Lが短すぎると上述したような雨水の流れを撥ね返す効果が小さくなってしまうが、逆にLが長すぎてもその効果が飛躍的に伸びるわけではない。そこで、突出部3のLをHと同一に設定することで、効率的に撥ね返す効果を発揮させることを可能としたものである。
【0066】
更に、水返し構造体1は1枚の鋼板を曲げ加工してなるため、下方板5と立設板4と、及び立設板4と突出部3とは折り曲げた状態で一体的に接続されており、又、突出部3は折り返した状態で上方板2と一体的に接続されている。そのため、この水返し構造体1の水密性は確実なものとなっており、水返し構造体1の各部分や接続位置から雨水が浸入する虞は無い。
【0067】
そして、水返し構造体1の上方板2と立設板4と屋根下地28とからなる空間には下地材8が設置されている。下地材8は上方板2と立設板4と屋根下地28とにそれぞれ当接するように固定されている。このとき、屋根下地28の上面と立設板4、及び立設板4と上方板2とによって形成される角度がそれぞれ90度であるため、下地材8は特別な加工が不要な矩形断面のものを用いることができる。そして、下地材8の上面と水返し構造体1の上方板2とからなる平面はフラットになる。そのため、
図2で示したように一対の水返し構造体1a、1b及び一対の下地材8a、8bの上に従来の換気棟と基本的に同様の構造である換気棟11を安定的に設置することが可能である。又、この実施の形態による水返し構造体1にあっては、上述した構造によって換気棟11の載置面(下地材8の上面と上方板2とからなる平面)が屋根材35と平行状態になるため、換気棟11の設置状態が極めて安定する。
【0068】
図4は
図2で示したIV−IVラインの概略断面図であり、換気棟の設置状態について示したものである。
【0069】
図を参照して、水返し構造体1の下方板5が屋根材35と屋根下地28との間に挿し込まれており、フラットである上方板2の上には換気棟11が安定的に設置されている。
【0070】
又、屋根材35同士が階段状に設置されていても、上述したように上方板2と下方板5とに水密状態で接続する立設板4が存在するため、
図11で示した空洞部分41は発生せず、換気棟11の幅方向から浸入しようとする風雨が発生しても、換気棟11内部あるいは隅棟部内部に水が浸入する虞が無い。
【0071】
このように、この発明の実施の形態による水返し構造体は、屋根材同士が階段状に設置されている隅棟部であっても換気棟を設置することを可能とし、隅棟部特有の横からの雨水の浸入に対して確実な防水機能を発揮するものである。
【0072】
次に、水返し構造体を用いて換気棟を隅棟に取り付ける工程について説明する。
【0073】
図5は
図2で示した換気棟の取り付け工程を示した概略端面図である。
【0074】
図を参照して、一対の屋根下地28a、28b及び一対の屋根材35a、35bはほぼ山形形状で隅棟53に沿ってその端部同士を通気スペースとして一定間隔を離して設置されている。
【0075】
まず、水返し構造体1a、1bの各々を取り付ける。下方板5a、5bの各々を屋根材35a、35bの各々及び屋根下地28a、28bの各々の間に挿し込み、下方板5a、5bの各々と立設板4a、4bの各々と突出部3a、3bの各々とからなる空間に屋根材35a、35bの各々の隅棟53方向端部側が入り込む状態で固定する。そして、下地材8a、8bの各々を、屋根下地28a、28bの各々と立設板4a、4bの各々と上方板
2a、2bの各々とのそれぞれに当接するように設置する。
【0076】
次に、捨水切33a、33bの各々を下地材8a、8bの各々の隅棟53方向端部の上に取り付けた後、換気棟11を一対の水返し構造体1a、1bと一対の下地材8a、8bとからなる平面上に取り付ける。
【0077】
そして、換気棟11の一対の水返し構造体1a、1bと一対の下地材8a、8bに対する位置合わせが終了すると、その位置で図示しない固定釘を打ち込むことによって、換気棟11は一対の下地材8a、8b及び一対の屋根下地28a、28bに固定される。
【0078】
このようにして隅棟52に架設された換気棟11にあっては、隅棟部において、従来の換気棟が有する通気機能及び防水機能ばかりでなく、隅棟部特有の横からの雨水の浸入に対しての防水機能をも発揮するものである。
【0079】
尚、上記の実施の形態では、家屋が寄棟屋根でありその隅棟のうちの1つにこの発明の水返し構造体及び換気棟を取り付けているが、寄棟屋根以外の家屋における隅棟に取り付けても良いし、全ての隅棟に取り付けても良い。
【0080】
又、上記の実施の形態では、一対の水返し構造体は同一の形状である2つのものを用いているが、屋根材その他の周辺構造に対応する等して互いに異なる形状であっても良い。
【0081】
更に、上記の実施の形態では、水返し構造体の素材を鋼板としているが、水密材料であれば他の素材でも良い。
【0082】
更に、上記の実施の形態では、水返し構造体の上方板が突出部を有しているが、突出部は無くとも良い。
【0083】
更に、上記の実施の形態では、突出部と立設板とによって形成される角度が90度であるが、90度から180度の範囲内にあれば、同様の効果を奏することができる。
【0084】
更に、上記の実施の形態では、下方板と立設板とによって形成される角度が90度であるが、上述した
図3で示したようにHがTよりも大きく設定されるならばその他の角度であっても良い。
【0085】
更に、上記の実施の形態では、立設板と上方板とによって形成される角度が90度であるが、換気棟その他の周辺構造に対応する等してその他の角度であっても良い。
【0086】
更に、上記の実施の形態では、立設板は平板状であり上方板と接しているが、立設板は、水返し構造体における換気棟の幅方向からの雨水の浸入を阻止する機能を有する部分であれば、丸みを帯びていて上方板との外観上の明確な区分けができないもの等その他の形状であっても良い。立設板と上方板との接続位置が明確に判別できない場合のHは、
図4で示すような換気棟の幅方向視における上方板の下面から下方板の上面までの垂直長さとする。
【0087】
更に、上記の実施の形態では、突出部の突出長さLがHと同一であるが、その他の長さでも良い。
【0088】
更に、上記の実施の形態では、隅棟に架設される換気棟を従来の水平である大棟に設置される換気棟と基本的に同様のものを用いたが、隅棟の形状に対応する等してその他の換気棟を用いても良い。
【0089】
更に、上記の実施の形態では、下方板は突出部を有していないが、下方板が立設板との接続位置よりも内方側に延びる突出部を有していても良い。その場合、下地材の固定性が向上する等して、換気棟の設置状態の安定性を更に向上させる効果がある。
【0090】
更に、上記の実施の形態では、換気棟構造体は、屋根材同士が各々の一部を重ね合わせた階段状に設置された隅棟に架設されているが、屋根材同士がフラットに設置された隅棟においても使用することができる。
【0091】
更に、上記の実施の形態では、下地材を用いているが、下地材が無くても良い。
【符号の説明】
【0092】
1…水返し構造体
2…上方板
3…突出部
4…立設板
5…下方板
11…換気棟
24…接続位置
25…仮想平面
35…屋根材
53…隅棟
55…換気棟
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
【要約】
【課題】 屋根材同士が階段状に設置されている隅棟部であっても換気棟を設置することを可能とし、隅棟部特有の横からの雨水の浸入に対しても防水機能を発揮する隅棟部の構造を提供する。
【解決手段】 換気構造体10は、隅棟53に沿ってその端部同士を通気スペースとして一定間隔を離して設置される一対の屋根材35に取り付けられる一対の水返し構造体1と、屋根下地28の上面の一部に設置され水返し構造体1と係合する一対の下地材8と、一対の水返し構造体1及び一対の下地材8の上に載置されるように隅棟53に架設されている換気棟11とで主に構成されている。水返し構造体1は、屋根材35の一方の隅棟53方向端部側の下面にその一部が配置される下方板5と、下方板5の上方に配置されており、換気棟11の一部が載置される上方板2と、下方板5と上方板2とに水密状態で接続する立設板4とを備えている。
【選択図】
図2