【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(I)実施例及び比較例の電極用触媒の準備
【0069】
(実施例1)
<電極用触媒の製造>
【0070】
[Pd/W/C上にPtからなる第2シェル部を形成した「Pt/Pd/W/C」粉末]
下記の「Pd/W/C」粉末の粒子のPd上にPtからなる第2シェル部が形成された「Pt/Pd/W/C」粉末{商品名「NE−F12W10−AAA」、N.E.CHEMCAT社製)}を実施例1の電極触媒として製造した。
このPt/Pd/W/C粉末は、下記のPd/W/C粉末と、塩化白金酸カリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でPtイオンを還元処理することにより得られた。
【0071】
[W/C上にPdからなる第1シェル部を形成した「Pd/W/C」粉末]
下記の「W/C」粉末の粒子のW上にPdからなる第1シェル部が形成された「Pd/W/C」粉末{商品名「NE−F02W00−AA」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このPd/W/C粉末は、下記のW/C粉末と、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でパラジウムイオンを還元処理することにより得られる。
【0072】
[コア粒子担持カーボン「W/C」粉末]
W炭化物とW酸化物とからなるコア粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたW/C粉末{商品名「NE−F00W00−A」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
なお、後述するようにこのW/C粉末は、XPS分析の結果、W炭化物とW酸化物とを表1に示す比[R0
WC/(R0
WC+R0
WO)]で含んでいることを確認した。
このW/C粉末は、市販のカーボンブラック粉末(比表面積750〜850m
2/g)と、市販のタングステン酸塩と、市販の水溶性ポリマー(炭素源)とを含む粉末を、還元雰囲気下で熱処理して調整したものである。
また、XRD分析結果より、このW/C粉末のコア粒子は以下のW炭化物とW酸化物から構成されていることが確認された。すなわち、W炭化物は、WC、W
2C、WC
1-x(0<x<1)であり、W酸化物はWO
3であった。
【0073】
<X線光電子分光分析(XPS:X−ray photoelectron spectroscopy)による電極用触媒の表面分析>
実施例1の電極用触媒についてXPSによる表面分析を実施し、Pt単体の割合R1
Pt(atom%)と、Pd単体の割合R1
Pd(atom%)と、W化合物(上述のW炭化物とW酸化物)に由来するWの割合R1
W(atom%)を測定した。
具体的には、XPS装置として「Quantera SXM」(アルバック・ファイ社製)を使用し、以下の分析条件で実施した。
(A1)X線源:単色化AlKα
(A2)光電子取出確度:θ=75℃(
図3参照)
(A3)帯電補正:R1sピークエネルギーを284.8eVとして補正
(A4)分析領域:200μm
(A5)分析時のチャンバ圧力:約1×10
-6Pa
(A6)測定深さ(脱出深さ):約5nm以下
分析結果を表1に示す。なお、表1に示すPt単体の割合R1
Pt(atom%)、Pd単体の割合R1
Pd(atom%)、および、W化合物に由来するWの割合R1
W(atom%)、については、これらの3成分で100%となるように算出した。すなわち、電極用触媒の表面近傍の分析領域において、Pt単体、Pd単体及びW化合物の他に検出される炭素の割合(atom%)は計算から外した数値となる。
【0074】
<担持率の測定(ICP分析)>
実施例1の電極用触媒について、Pt担持率L
Pt(wt%)と、Pd担持率L
Pd(wt%)、Wの担持率L
W(wt%)を以下の方法で測定した。
実施例1の電極用触媒を王水に浸し、金属を溶解させた。次に、王水から不溶成分のカーボンを除去した。次に、カーボンを除いた王水をICP分析した。
ICP分析の結果を表1に示す。
【0075】
<X線光電子分光分析(XPS:X−ray photoelectron spectroscopy)によるコア粒子の表面分析>
実施例1の電極用触媒の原料となったコア粒子についてXPSによる表面分析を実施し、W炭化物の割合R0
WC(atom%)と、W酸化物の割合R0
WO(atom%)とを測定した。
具体的には、XPS装置として「Quantera SXM」(アルバック・ファイ社製)を使用し、上述の触媒粒子のXPS分析と同一の分析条件(A1)〜(A6)で実施した。
分析結果を表1に示す。
【0076】
<電極用触媒の表面観察・構造観察>
実施例1の電極用触媒について、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、W炭化物とW酸化物とからなるコア部の粒子の表面の少なくとも一部に、Pdからなる第1シェル部の層が形成され、更に、第1シェル部の層の少なくとも一部にPtからなる第2シェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成(
図1、
図2参照)を有していることが確認できた。
【0077】
(実施例2〜実施例5)
表1に示した電極用触媒の表面のXPS分析結果(R1
Pt、R1
Pd、R1
W)、触媒粒子全体のICP分析結果(L
Pt、L
Pd、L
W)、コア粒子の表面のXPS分析結果{R0
WC/(R0
WC+R0
WO)}を有するように原料の仕込み量、反応条件等を微調整したこと以外は同様の調製条件、同一の原料を使用して、実施例2〜実施例5の電極用触媒を製造した。
また、XPS分析、ICP分析も実施例1と同一の条件で実施した。
更に、実施例2〜5の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、W炭化物とW酸化物とからなるコア部の粒子の表面の少なくとも一部に、Pdからなる第1シェル部の層が形成され、更に、第1シェル部の層の少なくとも一部にPtからなる第2シェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成(
図1、
図2参照)を有していることが確認できた。
【0078】
(実施例6)
<電極用触媒の製造>
【0079】
[Pd/W/C上にPtからなる第2シェル部を形成した「Pt/Pd/W/C」粉末]
下記の「Pd/W/C」粉末の粒子のPd上にPtからなる第2シェル部が形成された「Pt/Pd/W/C」粉末{商品名「NE−G12W10−AAA」、N.E.CHEMCAT社製)}を実施例6の電極触媒として製造した。
このPt/Pd/W/C粉末は、下記のPd/W/C粉末と、塩化白金酸カリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でPtイオンを還元処理することにより得られた。
【0080】
[W/C上にPdからなる第1シェル部を形成した「Pd/W/C」粉末]
下記の「W/C」粉末の粒子のW上にPdからなる第1シェル部が形成された「Pd/W/C」粉末{商品名「NE−G02W00−AA」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このPd/W/C粉末は、下記のW/C粉末と、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でパラジウムイオンを還元処理することにより得られる。
【0081】
[コア粒子担持カーボン「W/C」粉末]
W炭化物とW酸化物とからなるコア粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたW/C粉末{商品名「NE−G00W00−A」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
なお、後述するようにこのW/C粉末は、XPS分析の結果、W炭化物とW酸化物とを表2に示す比[R0
WC/(R0
WC+R0
WO)]で含んでいることを確認した。
このW/C粉末は、市販のカーボンブラック粉末(比表面積200〜300m
2/g)と、市販のタングステン酸塩と、市販の水溶性ポリマー(炭素源)とを含む粉末を、還元雰囲気下で熱処理して調整したものである。
また、XRD分析結果より、このW/C粉末のコア粒子は以下のW炭化物とW酸化物から構成されていることが確認された。すなわち、W炭化物は、WC、W
2C、WC
1-x(0<x<1)であり、W酸化物はWO
3であった。
実施例6の電極用触媒について、実施例1の電極用触媒と同一の条件で、電極用触媒の表面のXPS分析、ICP分析、コア粒子のXPS分析を行った。それぞれの分析結果を表2に示す。
次に、実施例6の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、W炭化物とW酸化物とからなるコア部の粒子の表面の少なくとも一部に、Pdからなる第1シェル部の層が形成され、更に、第1シェル部の層の少なくとも一部にPtからなる第2シェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成(
図1、
図2参照)を有していることが確認できた。
【0082】
(実施例7〜実施例11)
表2に示した電極用触媒の表面のXPS分析結果(R1
Pt、R1
Pd、R1
W)、触媒粒子全体のICP分析結果(L
Pt、L
Pd、L
W)、コア粒子の表面のXPS分析結果{R0
WC/(R0
WC+R0
WO)}を有するように原料の仕込み量、反応条件等を微調整したこと以外は同様の調製条件、同一の原料を使用して、実施例7〜実施例11の電極用触媒を製造した。
また、XPS分析、ICP分析も実施例1と同一の条件で実施した。
更に、実施例7〜実施例11の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、W炭化物とW酸化物とからなるコア部の粒子の表面の少なくとも一部に、Pdからなる第1シェル部の層が形成され、更に、第1シェル部の層の少なくとも一部にPtからなる第2シェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成(
図1、
図2参照)を有していることが確認できた。
【0083】
(実施例12)
<電極用触媒の製造>
【0084】
[Pd/W/C上にPtからなる第2シェル部を形成した「Pt/Pd/W/C」粉末]
下記の「Pd/W/C」粉末の粒子のPd上にPtからなる第2シェル部が形成された「Pt/Pd/W/C」粉末{商品名「NE−G12W09−ADB」、N.E.CHEMCAT社製)}を実施例12の電極触媒として用意した。
このPt/Pd/W/C粉末は、下記のPd/W/C粉末と、塩化白金酸カリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でPtイオンを還元処理することにより得られる。
【0085】
[W/C上にPdからなる第1シェル部を形成した「Pd/W/C」粉末]
下記の「W/C」粉末の粒子のW上にPdからなる第1シェル部が形成された「Pd/W/C」粉末{商品名「NE−G02W00−DB」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このPd/W/C粉末は、下記のW/C粉末と、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でパラジウムイオンを還元処理することにより得られる。
【0086】
[コア粒子担持カーボン「W/C」粉末]
W炭化物とW酸化物とからなるコア粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたW/C粉末{商品名「NE−G00W00−B」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このW/C粉末は、市販のカーボンブラック粉末(比表面積200〜300m
2/g)と、市販のタングステン酸塩とを含む粉末を、炭化水素ガス(炭素源)を含む還元雰囲気下で熱処理して調整したものである。
また、XRD分析結果より、このW/C粉末のコア粒子は以下のW単体と、W炭化物と、W酸化物とから構成されていることが確認された。ここで、W炭化物はWCであり、W酸化物はWO
3であった。
この実施例12の電極用触媒についても実施例1の電極触媒と同一の条件でXPS分析、ICP分析を実施した。その結果を表3に示す。
また、実施例12の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、構成(
図1、
図2参照)を有していることが確認できた。
【0087】
(実施例13〜実施例21)
表3に示した電極用触媒の表面のXPS分析結果(R1
Pt、R1
Pd、R1
W)、触媒粒子全体のICP分析結果(L
Pt、L
Pd、L
W)、コア粒子の表面のXPS分析結果{R0
WC/(R0
WC+R0
WO)}を有するように原料の仕込み量、反応条件等を微調整したこと以外は同様の調製条件、同一の原料を使用して、実施例13〜実施例21の電極用触媒を製造した。
また、XPS分析、ICP分析も実施例12と同一の条件で実施した。
更に、実施例13〜実施例21の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、W炭化物とW酸化物とからなるコア部の粒子の表面の少なくとも一部に、Pdからなる第1シェル部の層が形成され、更に、第1シェル部の層の少なくとも一部にPtからなる第2シェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成(
図1、
図2参照)を有していることが確認できた。
【0088】
(実施例22)
<電極用触媒の製造>
【0089】
[Pd/W/C上にPtからなる第2シェル部を形成した「Pt/Pd/W/C」粉末]
下記の「Pd/W/C」粉末の粒子のPd上にPtからなる第2シェル部が形成された「Pt/Pd/W/C」粉末{商品名「NE−G12W09−ACB」、N.E.CHEMCAT社製)}を実施例22の電極触媒として用意した。
このPt/Pd/W/C粉末は、下記のPd/W/C粉末と、塩化白金酸カリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でPtイオンを還元処理することにより得られる。
【0090】
[W/C上にPdからなる第1シェル部を形成した「Pd/W/C」粉末]
下記の「W/C」粉末の粒子のW上にPdからなる第1シェル部が形成された「Pd/W/C」粉末{商品名「NE−G02W00−CB」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このPd/W/C粉末は、下記のW/C粉末と、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムと、水との混合液を調製し、これに実施例1〜実施例21で添加した還元剤とは異なる還元剤を添加して得られる液中でパラジウムイオンを還元処理することにより得られる。
【0091】
[コア粒子担持カーボン「W/C」粉末]
W炭化物とW酸化物とからなるコア粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたW/C粉末{商品名「NE−G00W00−B」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このW/C粉末は、市販のカーボンブラック粉末(比表面積200〜300m
2/g)と、市販のタングステン酸塩とを含む粉末を、炭化水素ガス(炭素源)を含む還元雰囲気下で熱処理して調整したものである。
また、XRD分析結果より、このW/C粉末のコア粒子は以下のW単体と、W炭化物と、W酸化物とから構成されていることが確認された。ここで、W炭化物はWCであり、W酸化物はWO
3であった。
この実施例22の電極用触媒についても実施例1の電極触媒と同一の条件でXPS分析、ICP分析を実施した。その結果を表3に示す。
また、実施例22の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、構成(
図1、
図2参照)を有していることが確認できた。
【0092】
(比較例1)
Pt/C触媒として、N.E.CHEMCAT社製のPt担持率50wt%のPt/C触媒(商品名:「NE−F50」)を用意した。この触媒は、実施例1の電極用触媒と同一の担体を原料とするものである。
この比較例1の電極用触媒についても実施例1の電極触媒と同一の条件でXPS分析、ICP分析を実施した。その結果を表1に示す。
【0093】
(比較例2)
<電極用触媒の製造>
[Pd/C上にPtからなるシェル部を形成した「Pt/Pd/C」粉末]
下記の「Pd/C」粉末の粒子のPd上にPtからなるシェル部が形成された「Pt/Pd/C」粉末{商品名「NE−F01215−BC」、N.E.CHEMCAT社製)}を比較例2の電極触媒として用意した。
このPt/Pd/C粉末は、下記のPd/C粉末と、塩化白金酸カリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でPtイオンを還元処理することにより得られる。
[コア粒子担持カーボン「Pd/C」粉末]
Pdからなるコア粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたPd/C粉末{商品名「NE−F00200−C」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このPd/C粉末は、市販のカーボンブラック粉末(比表面積750〜850m
2/g)と、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でパラジウムイオンを還元処理することにより得られる。
この比較例2の電極用触媒についても実施例1の電極触媒と同一の条件でXPS分析、ICP分析を実施した。その結果を表1に示す。
また、実施例12の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、Pdからなるコア部の粒子の表面の少なくとも1部に、Ptからなるシェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成を有していることが確認できた。
【0094】
(比較例3)
Pt/C触媒として、N.E.CHEMCAT社製のPt担持率30wt%のPt/C触媒(商品名:「NE−G30」)を用意した。
この触媒は、実施例6〜22の電極用触媒と同一の担体を原料とするものである。
【0095】
(比較例4)
<電極用触媒の製造>
[W/C上にPtからなるシェル部を形成した「Pt/W/C」粉末]
下記の「W/C」粉末の粒子のW上にPdからなる第1シェル部が形成された「Pd/W/C」粉末{商品名「NE−G01W10−AA」、N.E.CHEMCAT社製)}を比較例4の電極触媒として用意した。
このPt/W/C粉末は、下記のW/C粉末と、塩化白金酸カリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でPtイオンを還元処理することにより得られる。
[コア粒子担持カーボン「W/C」粉末]
W炭化物とW酸化物とからなるコア粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたW/C粉末{商品名「NE−G00W00−A」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
なお、後述するようにこのW/C粉末は、XPS分析の結果、W炭化物とW酸化物とを表1に示す比[R0
WC/(R0
WC+R0
WO)]で含んでいることを確認した。
このW/C粉末は、市販のカーボンブラック粉末(比表面積200〜300m
2/g)と、市販のタングステン酸塩と、市販の水溶性ポリマー(炭素源)とを含む粉末を、還元雰囲気下で熱処理して調整したものである。
また、XRD分析結果より、このW/C粉末のコア粒子は以下のW炭化物とW酸化物から構成されていることが確認された。すなわち、W炭化物は、WC、W
2C、WC
1-x(0<x<1)であり、W酸化物はWO
3であった。
比較例4の電極用触媒について、実施例1の電極用触媒と同一の条件で、電極用触媒の表面のXPS分析、ICP分析、コア粒子のXPS分析を行った。それぞれの分析結果を表2及び表3に示す。
次に、比較例4の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、W炭化物とW酸化物とからなるコア部の粒子の表面の少なくとも一部に、Ptからなるシェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成を有していることが確認できた。
【0096】
(比較例5)
<電極用触媒の製造>
[Pd/C上にPtからなるシェル部を形成した「Pt/Pd/C」粉末]
下記の「Pd/C」粉末の粒子のPd上にPtからなるシェル部が形成された「Pt/Pd/C」粉末{商品名「NE−G01215−BC」、N.E.CHEMCAT社製)}を比較例5の電極触媒として用意した。
このPt/Pd/C粉末は、下記のPd/C粉末と、塩化白金酸カリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でPtイオンを還元処理することにより得られる。
[コア粒子担持カーボン「Pd/C」粉末]
Pdからなるコア粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたPd/C粉末{商品名「NE−G00200−D」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このPd/C粉末は、市販のカーボンブラック粉末(比表面積200〜300m
2/g)と、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムと、水との混合液を調製し、これに還元剤を添加して得られる液中でパラジウムイオンを還元処理することにより得られる。
この比較例5の電極用触媒についても実施例1の電極触媒と同一の条件でXPS分析、ICP分析を実施した。その結果を表3に示す。
また、比較例5の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、Pdからなるコア部の粒子の表面の少なくとも1部に、Ptからなるシェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成を有していることが確認できた。
【0097】
(II)ガス拡散電極形成用組成物の製造
実施例1〜実施例22、比較例1〜比較例5の電極用触媒の粉末を約8.0mg秤取り、超純水2.5mLとともにサンプル瓶に入れて超音波を照射しながら混合して電極用触媒のスラリー(懸濁液)を作製した。
次に、別の容器に超純水10.0mLと10wt%ナフィオン(登録商標)分散水溶液((株)ワコーケミカル製、商品名「DE1020CS」)20μLを混合して、ナフィオン−超純水溶液を作製した。
このナフィオン−超純水溶液2.5mLを電極用触媒のスラリー(懸濁液)が入ったサンプル瓶に投入し、室温にて15分間、超音波を照射し、十分に撹拌して、ガス拡散電極形成用組成物とした。
【0098】
(III)評価試験用の電極への触媒層の形成
後述する回転ディスク電極法(RDE法)による電極触媒の評価試験の準備として、回転ディスク電極WE(
図5参照)の電極面上に、実施例1の電極用触媒の粉末を含む触媒層CL(
図5参照)、実施例2の電極用触媒の粉末を含む触媒層CL(
図5参照)、比較例1の電極用触媒の粉末を含む触媒層CL(
図5参照)、比較例2の電極用触媒の粉末を含む触媒層CL(
図5参照)を以下の手順で形成した。
すなわち、ガス拡散電極形成用組成物を10μL分取して、回転ディスク電極WEの清浄な表面に滴下した。その後、回転ディスク電極WEの電極面全体に当該組成物を塗布し、塗布膜を形成した。このガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜を温度23℃、湿度50%RHにて、2.5時間乾燥処理し、回転ディスク電極WEの表面に触媒層CLを形成した。
【0099】
(IV)電極用触媒の触媒活性の評価試験
次に、実施例1〜実施例22の電極触媒を含む触媒層CLが形成された回転ディスク電極WEと、比較例1〜比較例5の電極触媒を含む触媒層CLが形成された回転ディスク電極WEとを使用し、触媒活性の評価試験、耐久性の評価試験を以下の手順で実施した。
また、回転ディスク電極法(RDE法)により、以下の手順で+0.9V(vsRHE)での白金質量活性(Mass Act、mA/g-Pt)を測定した。
【0100】
[回転ディスク電極測定装置の構成]
図5は、回転ディスク電極法(RDE法)に用いる回転ディスク電極測定装置50の概略構成を示す模式図である。
図5に示すように、回転ディスク電極測定装置50は、主として、測定セル51と、参照電極REと、対極CEと、回転ディスク電極WEとから構成されている。更に、触媒の評価を実施する場合には、測定セル51中に電解液ESが入れられる。
測定セル51は上面に開口部を有する略円柱状の形状を有しており、開口部には、ガスシール可能な蓋を兼ねた回転ディスク電極WEの固定部材52が配置されている。固定部材52の中央部には回転ディスク電極WEの電極本体部分を測定セル51内に挿入しつつ固定するためのガスシール可能な開口部が設けられている。
測定セル51の隣には、略L字状のルギン管53が配置されている。更にルギン管53の一方の先端部分はルギン毛細管の構造を有し、測定セル51の内部に挿入されており、測定セル51の電解液ESがルギン管53内部にも入るように構成されている。ルギン管53の他方に先端には開口部があり、当該開口部から参照電極REがルギン管53内に挿入される構成となっている。
なお、回転ディスク電極測定装置50としては、北斗電工株式会社製「モデルHSV110」を使用した。また、参照電極REとしてはAg/AgCl飽和電極、対極CEとしてはPt黒付Ptメッシュ、回転ディスク電極WEとしてはグラッシーカーボン社製、径5.0mmφ、面積19.6mm
2の電極をそれぞれ使用した。更に、電解液ESとして0.1MのHCl0
4を用いた。
【0101】
[回転ディスク電極WEのクリーニング]
図5に示すように、上記回転ディスク電極測定装置50内において、HClO
4電解液ES中に回転ディスク電極WEを浸した後、測定セル51の側面に連結されたガス導入管54からアルゴンガスを測定セル51中に導入することにより、アルゴンガスで電解液ES中の酸素を30分以上パージした。
その後、参照電極REに対する回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、+85mV〜+1085mV、走査速度50mv/secとする、いわゆる「三角波の電位掃引モード」で20サイクル、掃引した。
【0102】
[初期の電気化学表面積(ECSA)の評価]
次に、参照電極REに対する回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、
図6に示すいわゆる「矩形波の電位掃引モード」で掃引した。
より詳しくは、以下(A)〜(D)で示す操作を1サイクルとした電位掃引を6サイクル行った。
(A)掃引開始時の電位:+600mV、(B)+600mVから+1000mVへの掃引、(C)+1000mVでの電位保持3秒、(D)+1000mVから+600mVへの掃引、(E)+600mVでの電位保持3秒。
次に、回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、測定開始の電位+119mV、+50mV〜1200mV、走査速度20mV/secとする「三角波の電位掃引モード」にて3サイクル、CV測定を行った。なお、回転ディスク電極WEの回転速度は1600rpmとした。
【0103】
次に、酸素ガスで測定セル51の電解液ESを15分以上バブリングした後、走査電位を135〜1085mV vsRHE、走査速度10mV/secの「三角波の電位掃引モード」にて10サイクル、回転ディスク電極WEの回転速度を1600rpmの条件でCV測定を行った。
回転ディスク電極WEの電位+900mV vsRHEにおける電流値を記録した。
さらに、回転ディスク電極WEの回転速度をそれぞれ400rpm、625rpm、900rpm、1225rpm、2025rpm、2500rpm、3025rpmに設定して、1サイクルごとに酸素還元(ORR)電流測定を行った。
CV測定から得られた結果を利用して、Pt質量活性(Mass Act)(mA/ μg−Pt@0.9V)を算出した。
実施例1〜実施例5、比較例1及び比較例2について得られた結果を表1に示す。
実施例6〜実施例11、比較例3及び比較例4について得られた結果を表2に示す。
実施例12〜実施例22、比較例3〜比較例5について得られた結果を表3に示す。
なお、表1においては、比較例1(Pt/C触媒)のPt質量活性(Mass Act)を1.00とした場合における、実施例1〜実施例5、比較例2のPt質量活性(Mass Act)の相対値を示した。
また、表2においては、比較例3(Pt/C触媒)のPt質量活性(Mass Act)を1.00とした場合における、実施例6〜実施例11、比較例4のPt質量活性(Mass Act)の相対値を示した。
更に、表3においては、比較例3(Pt/C触媒)のPt質量活性(Mass Act)を1.00とした場合における、実施例12〜実施例22、比較例4及び比較例5のPt質量活性(Mass Act)の相対値を示した。
【0104】
(V)電極用触媒の耐久性の評価試験
触媒活性の評価試験に使用したものとは別の実施例1〜実施例22の電極触媒を含む触媒層CLが形成された回転ディスク電極WEと、比較例1〜比較例5の電極触媒を含む触媒層CLが形成された回転ディスク電極WEとをそれぞれ用意し、RDE法により、以下の手順でECSAの測定を行い、耐久性の評価を行った。
【0105】
[クリーニング]
先に述べた触媒活性の評価試験で実施したクリーニングと同一の電気化学的処理を行った。
【0106】
(V−1)[初期のECSAの測定]
(i)電位掃引処理
参照電極REに対する回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、
図6に示すいわゆる「矩形波の電位掃引モード」で掃引した。
より詳しくは、以下(A)〜(D)で示す操作を1サイクルとした電位掃引を6サイクル行った。
(A)掃引開始時の電位:+600mV、(B)+600mVから+1000mVへの掃引、(C)+1000mVでの電位保持3秒、(D)+1000mVから+600mVへの掃引、(E)+600mVでの電位保持3秒。
(ii)CV測定
次に、回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、測定開始の電位+119mV、+50mV〜1200mV、走査速度50mV/secとする「三角波の電位掃引モード」にて2サイクル、CV測定を行った。なお、回転ディスク電極WEの回転速度は1600rpmとした。
2サイクル目のCV測定結果から、水素脱着波に基づく初期のECSAの値を算出した。結果を表1に示す。
【0107】
(V−2)[電位掃引回数12420サイクル後のECSAの測定]
初期のECSAの測定に引き続き、上述の「(i)電位掃引処理」を、電位掃引回数を12サイクルとしたこと以外は同一の条件で実施した。次に、上述の「(ii)CV測定」を同一の条件で実施した。
このようにして、電位掃引回数を順次変化させて「(i)電位掃引処理」を実施し、その都度上述の「(ii)CV測定」を同一の条件で実施した。電位掃引回数は、22、40、80、160、300、600、800、1000、1000、8400サイクルと順次変化させた。
これにより、最後の「(ii)CV測定」において得られるECSAの値(電位掃引回数が合計12420サイクルとなる電位掃引処理を施された後のECSAの値)を求めた。
また、この最後の「(ii)CV測定」において得られる水素脱着波に基づくECSAの値を「初期のECSAの値」で除すことにより、ESCAの維持率(%)を算出した。
実施例1〜実施例5、比較例1及び比較例2について得られた結果を表1に示す。
実施例6〜実施例11、比較例3及び比較例4について得られた結果を表2に示す。
実施例12〜実施例22、比較例3〜比較例5について得られた結果を表3に示す。
【0108】
なお、表1においては、比較例1(Pt/C触媒)の初期のECSAの値を1.00とした場合における、実施例1〜実施例5、比較例2の初期のECSAの相対値を示した。更に、表1においては、比較例1(Pt/C触媒)のESCAの維持率の値を1.00とした場合における、実施例1〜実施例5、比較例2のESCAの維持率の相対値を示した。
また、表2においては、比較例3(Pt/C触媒)の初期のECSAの値を1.00とした場合における、実施例6〜実施例11、比較例4の初期のECSAの相対値を示した。更に、表2においては、比較例3(Pt/C触媒)のESCAの維持率の値を1.00とした場合における、実施例6〜実施例11、比較例2のESCAの維持率の相対値を示した。
更に、表3においては、実施例12〜実施例22、比較例3〜比較例5のそれぞれについて、初期のECSAの値を示した。また、表3においては、比較例3(Pt/C触媒)の初期のECSAの値を1.00とした場合における、実施例12〜実施例22、比較例4及び比較例5の初期のECSAの相対値を示した。更に、表3においては、電位掃引回数12420サイクル後のECSAの測定値について、比較例3(Pt/C触媒)で得られた値を1.00とした場合における、実施例12〜実施例22、比較例4及び比較例5の相対値(以下、「相対値X」という)を示した。
また、実施例16と比較例5については、初期のECSAの値を測定した直後の測定セル51中の電解液ESの一部と、電位掃引回数12420サイクル後のECSAの値を測定した直後の測定セル51中の電解液ESの一部とをそれぞれ採取し、ICP分析を行うことにより、実施例16と比較例5の電極用触媒から溶出するPdの量を測定した。得られた結果を表4に示す。なお、表4においては、比較例5(Pt/Pd/C触媒)のPd溶出量を1.00とした場合における、実施例16のPd溶出量の相対値を示した。
【0109】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0110】
表1〜表3に示したPt質量活性(Mass Act)の結果から、実施例1〜実施例22の電極用触媒は、比較例1及び比較例3の電極触媒(従来のPt/C触媒)と比較し、略同等かそれ以上のPt質量活性を有しており、かつ、初期のECSAの値も略同等かそれ以上であり、実用に耐えうる水準の触媒活性を有していることが明らかとなった。
特に、実施例12〜実施例22の電極用触媒(R1
Pt/R1
Pdが0.60以上1.15未満)は、比較例3の電極触媒(従来のPt/C触媒)と比較し、2倍〜約5倍のPt質量活性を有しており、かつ、初期のECSAの値も約1.8倍〜約2.7倍であり、優れた触媒活性を有していることが明らかとなった。
また、表1〜表2に示した初期のECSAの値、電位掃引回数12420サイクル後のECSAの測定値から得られる「ESCAの維持率の相対値」の結果から、実施例1〜実施例11の電極用触媒(R1
Pt/R1
Pdが1.15〜6.00)は、比較例1及び比較例3の電極用触媒(Pt/C触媒)と比較し、電位掃引回数12420サイクル後のECSAの値及びECSAの維持率が同等以上(約1倍〜約1.4倍)であり、実用に耐えうる水準の耐久性を有していることが明らかとなった。
また、表3に示した結果から、実施例12〜実施例22の電極用触媒は、比較例3の電極触媒と比較し、「相対値X」の値が約1.4倍〜約2.3倍となる十分に高い水準を維持しており、実用に耐えうる水準の耐久性を有していることが明らかとなった。
更に、表1において、実施例1〜実施例5の電極用触媒は、比較例2(Pt/Pd/C触媒)との対比した場合、ESCAの維持率が同等であり、Pt/Pd/C触媒と同水準の優れた耐久性を有していることが明らかとなった。
【0111】
また、表2において、実施例6〜実施例11の電極用触媒は、比較例4(Pt/W/C)との対比した場合、ESCAの維持率が約5倍以上であることが明らかとなった。このことから、実施例6〜実施例11の電極用触媒のように第1シェル部としてPd単体を含む層が存在する構成とすると、比較例4のように第1シェル部としてPd単体を含む層が存在しない構成に比較して耐久性が向上することが示された。第1シェル部としてのPd単体を含む層の存在により耐久性が向上する傾向は、表3において、実施例12〜実施例22の電極用触媒と、比較例4(Pt/W/C)の電極触媒について、「相対値X」を比較するとより顕著であることが示された。
更に、表3において、実施例12〜実施例22の電極用触媒は、比較例5(Pt/Pd/C触媒)との対比した場合、「相対値X」が同等以上であり、Pt/Pd/C触媒と同水準の優れた耐久性を有していることが明らかとなった。
また、表4に示した結果から、W炭化物、W酸化物をコア粒子の構成要素とする実施例16の電極用触媒(Pt/Pd/W/C触媒)の方が比較例5(Pt/Pd/C触媒)よりもPd溶出量が約1/2に低減できることが示された。
以上の結果から、本実施例の電極用触媒は、従来のPt/C触媒と比較し、実用に耐えうる水準の触媒活性、耐久性を有していることが明らかとなった。更に、本実施例の電極用触媒は、コア部の材料をタングステン化合物としているため、白金使用量を削減でき、低コスト化に寄与できることが明らかとなった。