特許第5887467号(P5887467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5887467有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5887467
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/04 20060101AFI20160303BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20160303BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   H05B33/04
   C09K3/10 L
   H05B33/14 A
   C09K3/10 B
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-524558(P2015-524558)
(86)(22)【出願日】2015年4月30日
(86)【国際出願番号】JP2015062950
【審査請求日】2015年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-104392(P2014-104392)
(32)【優先日】2014年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺口 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 康雄
【審査官】 高松 大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−189698(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/017524(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H01L 51/50
C09K 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、
前記カチオン重合性化合物は、下記式(1−1)で表される化合物及び下記式(1−2)で表される化合物を含有し、
前記カチオン重合性化合物全体100重量部中における下記式(1−1)で表される化合物及び下記式(1−2)で表される化合物の含有量の合計が70重量部以上であり、
E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が50〜250mPa・sである
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【化1】
【請求項2】
カチオン重合開始剤として、BF、PF、SbF、又は、(BX(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩を含有することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウトガスの発生を抑制することができ、保存安定性及び塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示素子や有機薄膜太陽電池素子等の有機薄膜素子を用いた有機光デバイスの研究が進められている。有機薄膜素子は真空蒸着や溶液塗布等により簡便に作製できるため、生産性にも優れる。
【0003】
有機EL表示素子は、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された薄膜構造体を有する。この有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して自己発光を行う。バックライトを必要とする液晶表示素子等と比較して視認性がよく、より薄型化が可能であり、かつ、直流低電圧駆動が可能であるという利点を有する。
【0004】
ところが、このような有機EL表示素子は、有機発光材料層や電極が外気に曝されるとその発光特性が急激に劣化し寿命が短くなるという問題があった。従って、有機EL表示素子の安定性及び耐久性を高めることを目的として、有機EL表示素子においては、有機発光材料層や電極を大気中の水分や酸素から遮断する封止技術が不可欠となっている。
【0005】
特許文献1には、上面発光型有機EL表示素子等において、有機EL表示素子基板の間に光硬化性接着剤を満たし、光を照射して封止する方法が開示されている。しかしながら、このような従来の光硬化性接着剤は、光照射時にアウトガスを発生して素子を劣化させたり、保存安定性や塗布性に劣るものであったりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−357973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アウトガスの発生を抑制することができ、保存安定性及び塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、前記カチオン重合性化合物は、下記式(1−1)で表される化合物及び/又は下記式(1−2)で表される化合物を含有し、E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が50〜250mPa・sである有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤である。
【0009】
【化1】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
本発明者らは、特定のカチオン重合性化合物を用いることにより、アウトガスの発生を抑制することができ、保存安定性及び塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、カチオン重合性化合物を含有する。
上記カチオン重合性化合物は、上記式(1−1)で表される化合物及び/又は上記式(1−2)で表される化合物を含有する。以下、上記式(1−1)で表される化合物と上記式(1−2)で表される化合物とを併せて、「本発明にかかるエポキシ化合物」ともいう。本発明にかかるエポキシ化合物を含有することにより、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、アウトガスの発生を抑制することができ、保存安定性及び塗布性に優れるものとなる。
【0012】
上記カチオン重合性化合物は、上記式(1−1)で表される化合物及び上記式(1−2)で表される化合物のうち少なくとも一方を含有すればよいが、アウトガスを抑制する効果、保存安定性、及び、塗布性の全てにより優れるものとなることから、上記式(1−1)で表される化合物及び上記式(1−2)で表される化合物の両方を含有することが好ましい。
【0013】
上記カチオン重合性化合物が上記式(1−1)で表される化合物及び上記式(1−2)で表される化合物の両方を含有する場合、上記式(1−1)で表される化合物と上記式(1−2)で表される化合物との含有割合は、重量比で、上記式(1−1)で表される化合物:上記式(1−2)で表される化合物=9:1〜1:4であることが好ましい。上記式(1−1)で表される化合物と上記式(1−2)で表される化合物との含有割合がこの範囲であることにより、アウトガスを抑制する効果、保存安定性、及び、塗布性の全てに更に優れるものとなる。
【0014】
上記式(1−1)で表される化合物のうち市販されているものとしては、セロキサイド8000(ダイセル社製)が挙げられ、上記式(1−2)で表される化合物のうち市販されているものとしては、セロキサイド2021P(ダイセル社製)が挙げられる。
【0015】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記カチオン重合性化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂等のその他のカチオン重合性化合物を含有してもよいが、塗布性やアウトガスを抑制する観点から、その他のカチオン重合性化合物を含有しないことが好ましい。
【0016】
上記その他のカチオン重合性化合物の含有する場合、カチオン重合性化合物全体100重量部中における本発明にかかるエポキシ化合物の含有量の好ましい下限は60重量部である。本発明にかかるエポキシ化合物の含有量が60重量部未満であると、塗布性が悪化したり、アウトガスを抑制する効果が充分に発揮されなくなったりすることがある。本発明にかかるエポキシ化合物の含有量のより好ましい下限は70重量部である。
【0017】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、カチオン重合開始剤を含有する。
上記カチオン重合開始剤としては、加熱によりプロトン酸又はルイス酸を発生する熱カチオン重合開始剤や、光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生する光カチオン重合開始剤が挙げられ、イオン性酸発生型であってもよいし、非イオン性酸発生型であってもよい。
なかでも、熱カチオン重合開始剤を含有することが好ましい。
【0018】
上記熱カチオン重合開始剤としては、BF、PF、SbF、又は、(BX(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩が好ましく、スルホニウム塩がより好ましい。
【0019】
上記スルホニウム塩としては、トリフェニルスルホニウム四フッ化ホウ素、トリフェニルスルホニウム六フッ化アンチモン、トリフェニルスルホニウム六フッ化ヒ素、トリ(4−メトキシフェニル)スルホニウム六フッ化ヒ素、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム六フッ化ヒ素等が挙げられる。
上記ホスホニウム塩としては、エチルトリフェニルホスホニウム六フッ化アンチモン、テトラブチルホスホニウム六フッ化アンチモン等が挙げられる。
上記第4級アンモニウム塩としては、例えば、ジメチルフェニル(4−メトキシベンジル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート、ジメチルフェニル(4−メトキシベンジル)アンモニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジメチルフェニル(4−メトキシベンジル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルフェニル(4−メチルベンジル)アンモニウムヘキサフルオロヘキサフルオロホスフェート、ジメチルフェニル(4−メチルベンジル)アンモニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジメチルフェニル(4−メチルベンジル)アンモニウムヘキサフルオロテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、メチルフェニルジベンジルアンモニウム、メチルフェニルジベンジルアンモニウムヘキサフルオロアンチモネートヘキサフルオロホスフェート、メチルフェニルジベンジルアンモニウムトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、フェニルトリベンジルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルフェニル(3,4−ジメチルベンジル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジエチル−N−ベンジルアニリニウム四フッ化ホウ素、N,N−ジメチル−N−ベンジルピリジニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジエチル−N−ベンジルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
上記熱カチオン重合開始剤のうち市販されているものとしては、例えば、サンエイドSI−60、サンエイドSI−80、サンエイドSI−B3、サンエイドSI−B3A、サンエイドSI−B4(いずれも三新化学工業社製)、CXC1612、CXC1738、CXC1821(いずれもKing Industries社製)等が挙げられる。
【0021】
上記光カチオン重合開始剤のうちイオン性光酸発生型のものとしては、例えば、アニオン部分がBF、PF、SbF、又は、(BX(但し、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)で構成される、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族アンモニウム塩、又は、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)((1−メチルエチル)ベンゼン)−Fe塩等が挙げられる。
【0022】
上記芳香族スルホニウム塩としては、例えば、ビス(4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ビス(4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドビステトラフルオロボレート、ビス(4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ビス(4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドビステトラフルオロボレート、ビス(4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル)スルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0023】
上記芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0024】
上記芳香族ジアゾニウム塩としては、例えば、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0025】
上記芳香族アンモニウム塩としては、例えば、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムテトラフルオロボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0026】
上記(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)((1−メチルエチル)ベンゼン)−Fe塩としては、例えば、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)((1−メチルエチル)ベンゼン)−Fe(II)ヘキサフルオロホスフェート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)((1−メチルエチル)ベンゼン)−Fe(II)ヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)((1−メチルエチル)ベンゼン)−Fe(II)テトラフルオロボレート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)((1−メチルエチル)ベンゼン)−Fe(II)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0027】
上記光カチオン重合開始剤のうち非イオン性光酸発生型のものとしては、例えば、ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドスホナート等が挙げられる。
【0028】
上記光カチオン重合開始剤のうち市販されているものとしては、例えば、DTS−200(みどり化学社製)、UVI6990、UVI6974(いずれもユニオンカーバイド社製)、SP−150、SP−170(いずれもADEKA社製)、FC−508、FC−512(いずれも3M社製)、IRGACURE290(BASF社製)、PI2074(ローディア社製)等が挙げられる。
【0029】
上記熱カチオン重合開始剤と上記光カチオン重合開始剤との両方に記載されているものについては、上記熱カチオン重合開始剤として用いることもでき、上記光カチオン重合開始剤として用いることもできる。
【0030】
上記カチオン重合開始剤の含有量は、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が10重量部である。上記カチオン重合開始剤の含有量が0.01重量部未満であると、得られる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤に充分な硬化性を付与できないことがある。上記カチオン重合開始剤の含有量が10重量部を超えると、得られる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の保存安定性が不充分となったり、得られる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の硬化物の耐湿性が悪くなったりすることがある。上記カチオン重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.05重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0031】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、安定剤を含有することが好ましい。上記安定剤を含有することにより、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、より保存安定性に優れるものとなる。
【0032】
上記安定剤としては、例えば、ベンジルアミン等のアミン系化合物やアミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0033】
上記安定剤の含有量は、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限が0.001重量部、好ましい上限が2重量部である。上記安定剤の含有量が0.001重量部未満であると、得られる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の保存安定性を向上させる効果が充分に発揮されないことがある。上記安定剤の含有量が2重量部を超えると、カチオンによる硬化が阻害されることがある。上記安定剤の含有量のより好ましい下限は0.05重量部、より好ましい上限は1重量部である。
【0034】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、シランカップリング剤を含有してもよい。上記シランカップリング剤は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤と基板等との接着性を向上させる役割を有する。
【0035】
上記シランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記シランカップリング剤の含有量は、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記シランカップリング剤の含有量が0.1重量部未満であると、得られる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の接着性を向上させる効果が充分に発揮されないことがある。上記シランカップリング剤の含有量が10重量部を超えると、余剰のシランカップリング剤がブリードアウトすることがある。上記シランカップリング剤の含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0037】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲において、熱硬化剤を含有してもよい。
上記熱硬化剤としては、例えば、ヒドラジド化合物、イミダゾール誘導体、酸無水物、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、変性脂肪族ポリアミン、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物等が挙げられる。
上記ヒドラジド化合物としては、例えば、1,3−ビス[ヒドラジノカルボノエチル−5−イソプロピルヒダントイン]等が挙げられる。
上記イミダゾール誘導体としては、例えば、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−アジポアミド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
上記酸無水物としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、エチレングリコールービス(アンヒドロトリメリテート)等が挙げられる。
これらの熱硬化剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0038】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲において、表面改質剤を含有してもよい。上記表面改質剤を含有することにより、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の塗膜の平坦性を向上させることができる。
上記表面改質剤としては、例えば、界面活性剤やレベリング剤等が挙げられる。
【0039】
上記界面活性剤や上記レベリング剤としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、フッ素系等のものが挙げられる。
上記界面活性剤や上記レベリング剤のうち市販されているものとしては、例えば、BYK−302、BYK−331(いずれも、ビックケミー・ジャパン社製)、UVX−272(楠本化成社製)、サーフロンS−611(AGCセイミケミカル社製)等が挙げられる。
【0040】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、素子電極の耐久性を向上させるために、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤中に発生した酸と反応する化合物又はイオン交換樹脂を含有してもよい。
【0041】
上記発生した酸と反応する化合物としては、酸と中和する物質、例えば、アルカリ金属の炭酸塩若しくは炭酸水素塩、又は、アルカリ土類金属の炭酸塩若しくは炭酸水素塩等が挙げられる。具体的には例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が用いられる。
【0042】
上記イオン交換樹脂としては、陽イオン交換型、陰イオン交換型、両イオン交換型のいずれも使用することができるが、特に塩化物イオンを吸着することのできる陽イオン交換型又は両イオン交換型が好適である。
【0043】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、硬化遅延剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の公知の各種添加剤を含有してもよい。
【0044】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を製造する方法としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて、カチオン重合性化合物と、カチオン重合開始剤と、必要に応じて添加するシランカップリング剤等の添加剤とを混合する方法等が挙げられる。
【0045】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した全体の粘度の下限が50mPa・s、上限が250mPa・sである。上記粘度が50mPa・s未満であると、得られる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤が塗布性に劣るものとなったり、組成ムラが発生して硬化物が透明性に劣るものとなったりする。上記粘度が250mPa・sを超えると、得られる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤が塗布性に劣るものとなる。上記粘度は、70mPa・s以上100mPa・s未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、アウトガスの発生を抑制することができ、保存安定性及び塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0048】
(実施例1)
カチオン重合性化合物として、上記式(1−1)で表される化合物(ダイセル社製、「セロキサイド8000」)50重量部及び上記式(1−2)で表される化合物(ダイセル社製、「セロキサイド2021P」)50重量部と、熱カチオン重合開始剤として、アンチモン系開始剤(King Industries社製、「CXC1612」)0.5重量部とを、撹拌混合機(シンキー社製、「AR−250」)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を作製した。
【0049】
実施例2、3、8〜10、参考例4〜7、比較例1〜9)
表1、2に記載された各材料を、表1に記載された配合比に従い、実施例1と同様にして撹拌混合して、実施例2、3、8〜10、参考例4〜7、比較例1〜9の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を作製した。
【0050】
<評価>
実施例、参考例及び比較例で得られた各有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0051】
(1)粘度
実施例、参考例及び比較例で得られた各有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤について、E型粘度計(東機産業社製、「VISCOMETER TV−22」)を用いて、25℃、50rpmの条件における粘度を測定した。
【0052】
(2)塗布性
ピペットを用いて実施例、参考例及び比較例で得られた各有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤0.1mLをガラス基板上に塗布し、1分後に広がった直径を測定した。直径が15mm以上だった場合を「◎」、12mm以上15mm未満であった場合を「○」、10mm以上12mm未満であった場合を「△」、10mm未満であった場合を「×」として、塗布性を評価した。
【0053】
(3)保存安定性
実施例、参考例及び比較例で得られた各有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤について、製造直後の初期粘度と、25℃で1週間保管したときの粘度とを測定し、(25℃、1週間保管後の粘度)/(初期粘度)を粘度変化率とし、粘度変化率が150%未満であるものを「◎」、150%以上200%未満であるものを「○」、200%以上400%未満であるものを「△」、400%を超えるものを「×」として保存安定性を評価した。
なお、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の粘度は、E型粘度計(東機産業社製、「VISCOMETER TV−22」)を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した。
【0054】
(4)アウトガス防止性
実施例、参考例及び比較例で得られた各有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を、バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、実施例1〜3、参考例4〜7及び比較例1〜9で得られた各有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤については、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させ、実施例8〜10で得られた各有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤については、紫外線照射装置(オーク社製、「JL−4300−3S」)を用いて紫外線を1500mJ/cm照射し、その後80℃で30分加熱して硬化させた。更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS−Q1050」)を用いて測定した。
気化成分量が30ppm未満であった場合を「◎」、30ppm以上50ppm未満であった場合を「○」、50ppm以上100ppm未満であった場合を「△」、100ppm以上であった場合を「×」としてアウトガス防止性を評価した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、アウトガスの発生を抑制することができ、保存安定性及び塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を提供することができる。
【要約】
本発明は、アウトガスの発生を抑制することができ、保存安定性及び塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を提供することを目的とする。
本発明は、カチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、前記カチオン重合性化合物は、下記式(1−1)で表される化合物及び/又は下記式(1−2)で表される化合物を含有し、E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が50〜250mPa・sである有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤である。