【文献】
伊原博隆、永岡昭二,高機能微粒子の設計〜コアシェル型マイクロ微粒子を中心として,第21回ポリマー材料フォーラム予稿集,日本,公益社団法人高分子学会,2012年10月17日,137-138
【文献】
清水紀弘,高熱伝導性を実現する有機・無機ハイブリッドテクノロジー−無機粒子の配向制御および表面化学修飾による最先端放熱材料設計−,ネットワークポリマー,日本,合成樹脂工業協会,2011年 7月10日,Vol.32, No.4,205-209
【文献】
永岡昭二、平川一成、小林清太郎、佐藤賢、永田正典、高藤誠、伊原博隆,硬質無機材料によるセルロース球状粒子の界面制御とセルロース複合砥粒材への応用,高分子論文集,日本,2008年 1月,Vol.65, No.1,80-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシェル・コア粒子は、熱成形可能な高分子化合物からなるコア粒子自体が溶融して成形体のベースとなるので、成形に際して無機化合物からなる熱伝導ネットワークが壊れてしまうおそれがある。
【0006】
すなわち本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、樹脂成形体に良好な熱伝導率を付与し得る熱伝導性複合粒子およびこの熱伝導性複合粒子により良好な熱伝導性を示す樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の熱伝導性複合粒子は、
架橋構造を有する高分子化合物からなる母粒子と、
前記母粒子の表側に担持され、熱伝導性を有する無機微粒子とから構成されたシェル・コア構造を有する熱伝導性複合粒子であって、
前記母粒子は、水酸基同士の結合により架橋構造が形成された球状のセルロースであり、
前記無機微粒子は、鱗片状の窒化ホウ素であり、
前記
窒化ホウ素は、該窒化ホウ素の表面官能基と前記
セルロースの水酸基との水素結合により、
その面方向がセルロースの表面と交差するように配向した状態で該セルロースに担持され、
熱伝導性複合粒子中の前記
窒化ホウ素の含有量が、10%〜90%の範囲であることを要旨とする。
請求項1に係る発明によれば、母粒子は架橋構造を有する高分子化合物であるので、複合粒子を樹脂に充填して成形する際に母粒子が熱に不融であることにより、複合粒子のシェル・コア構造を保つことができる。複合粒子が樹脂成形体内でシェル・コア構造を保つことにより、比較的少ない無機微粒子の充填量で、熱伝導のためのネットワークを樹脂成形体内に構成でき、樹脂成形体に充填された無機材料単位量当たりの熱伝導率を向上することができる。
母粒子を架橋構造を有する多糖類から構成することで、多糖類特有の弾力性により樹脂中で母粒子の形状が変形し、成形時に圧力をかけることにより複合粒子間の間隙をなくし、熱伝導ネットワークをより好適に形成し得る。
母粒子をセルロースからなる球状粒子で構成することで、無機微粒子の担持量を多くすることができる。無機微粒子の表面官能基との水素結合により、セルロースの重量に対して、100%以上の無機微粒子を担持できることが特徴である。
熱伝導において異方性がある鱗片状の無機微粒子を用いた場合に、樹脂に複合粒子を充填して、ある一定方向から圧力を加えることで、母粒子が変形し、鱗片状の無機微粒子の面が圧力をかけた方向に対して交差する方向に沿うように並び、圧力を加えた方向に交差する方向の熱伝導性が高くなる樹脂成形体を得ることができる。
熱伝導性に優れた窒化ホウ素によって、樹脂成形体に熱伝導のためのネットワークを好適に形成し得る。
【0008】
請求項2に係る発明では、
熱伝導性複合粒子中の前記窒化ホウ素の含有量が、50%〜90%の範囲であることを要旨とする
。
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項3に係る発明の樹脂成形体は、
熱伝導性複合粒子がフィラーとして樹脂に充填された樹脂成形体であって、
前記熱伝導性複合粒子は、水酸基同士の結合により架橋構造が形成されたセルロースからなる母粒子と、表面官能基と前記セルロースの水酸基との水素結合により、セルロースの表面を覆うように該セルロースに担持された窒化ホウ素とから構成され、
前記母粒子が樹脂内で球状から同一方向へつぶれるように変形して、鱗片状の面が当該方向と交差する方向に沿うように並ぶ前記窒化ホウ素により熱伝導性ネットワークが形成されたことを要旨とする
。
【0014】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項4に係る発明の樹脂成形
体
の製造方法は、
熱伝導性複合粒子がフィラーとして樹脂に充填された樹脂成形体の製造方法であって、
ビスコースから相分離法によりセルロースを造粒する際に、窒化ホウ素の存在下で行うことで、水酸基同士の結合により架橋構造が形成されたセルロースからなる母粒子と、表面官能基と前記セルロースの水酸基との水素結合により、セルロースの表面を覆うように該セルロースに担持された窒化ホウ素とで構成された熱伝導性複合粒子を生成し、
前記熱伝導性複合粒子を樹脂原料にフィラーとして充填し、前記母粒子が球状から同一方向へつぶれるように圧縮成形することで、鱗片状の面が圧縮方向と交差する方向に沿うように並ぶ前記窒化ホウ素により熱伝導性ネットワークを形成するようにしたことを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、架橋構造を有する高分子化合物からなる母粒子と、母粒子の表側に担持され、熱伝導性を有する無機微粒子とから構成されたシェル・コア構造を有する複合粒子をフィラーとして樹脂に充填することにより、良好な熱伝導ネットワークが形成された樹脂成形体を得ることができる。
架橋構造を有する高分子化合物からなる母粒子と、母粒子の表側に担持され、熱伝導性を有する無機微粒子とから構成されたシェル・コア構造を有する複合粒子をフィラーとして用いて圧縮形成して、複合粒子同士の間隙をなくすことにより、良好な熱伝導ネットワークを形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る熱伝導性複合粒子によれば、樹脂成形体に良好な熱伝導率を付与し得る。
また、本発明に係る樹脂成形体
およびその製造方法で得られた樹脂成形体によれば、良好な熱伝導率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る熱伝導性複合粒子
、樹脂成形体
およびその製造方法について以下に説明する。なお、以下の説明では、熱伝導性複合粒子を単に複合粒子という。
【0019】
本発明に係る複合粒子は、架橋構造を有する高分子化合物からなる母粒子と、この母粒子の表側に担持され、熱伝導性を有する無機微粒子とから構成されている。複合粒子は、母粒子の表面が多数の無機微粒子からなるシェル層で覆われた所謂シェル・コア構造になっており、全体として球状に形成するのが望ましい。
【0020】
前記母粒子としては、球状や楕円体などの表面が曲面になった形状であるのが好ましい。母粒子は、無機微粒子を担持できると共に架橋構造を有していれば、ホモポリマーおよびコポリマーの何れであってもよく、ビニルポリマー、アクリルポリマーなどの付加重合体やポリエステル、ナイロン等の縮合重合体等の合成高分子、あるいは多糖類等の天然高分子を採用することができる。また、母粒子は、電気絶縁性を有しているものが好ましい。ここでいう架橋構造とは、分子間水素結合などの二次構造、別の架橋剤により分子間の橋かけ構造をもたらす、共有結合、イオン結合、配位結合をいう。母粒子は、平均粒径が1.0μm〜1000μmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは10μm〜700μmの範囲である。母粒子の平均粒径が1.0μmより小さくなると、最大数百nmの無機微粒子しか担持できなくなり、樹脂に小さい無機微粒子を充填すると、粒界(粒子間の隙間)が多くなり、フォノンが分散し、熱伝導性が低下する。また、母粒子の平均粒径が1000μmより大きくなると、複合粒子への充填性や樹脂の流動性を悪化させてしまうだけでなく、樹脂内における熱伝導ネットワークが減少し、良好な熱伝導性を得ることができなくなる。
【0021】
前記母粒子を構成し得る天然高分子としては、分子間水素結合により形状を保つことができるセルロース、キチン、キトサン、グルコマンナン等を用いることができる。また分子間水素結合により架橋構造を保てない、プルラン、でんぷん、アガロース、デキストラン、サクランなどの多糖類は、架橋剤による分子間橋かけ構造により形状を保つことができるため、これら多糖類でも構わない。この場合、架橋剤としては、エピクロルヒドリンなどのエポキシ系架橋剤、グルタールアルデヒドなどのアルデヒド系架橋剤、アジピン酸ジクロライドのような酸塩化物系架橋剤、ホウ酸、クエン酸、硫酸等のイオン結合により架橋する架橋剤等が挙げられる。
【0022】
前記母粒子を構成し得る合成高分子としては、アニオン性基またはカチオン性基を生成できる高分子であれば、特に限定されるものではないが、この場合、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ナイロン、ポリ(メタ)アクリルアミド、メラミン樹脂、ポリアミノ酸、シリコーン樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリカルボン酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリカーボネート等が採用できる。
【0023】
前記無機微粒子としては、ダイヤモンド、窒化アルミ(AlN)、窒化ケイ素(Si
3N
4)等の窒化物、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミナ(Al
2O
3)、二酸化ケイ素(SiO
2)等の酸化物、炭化ケイ素(SiC)等の炭化物、雲母等のケイ酸塩鉱物、窒化ホウ素(h-BN,c-BN)、ホウ化チタン(TiB
2)、炭化ホウ素(B
4C)などのホウ化物などの熱伝導性を有するものを用いることができる。なお、無機微粒子は、電気絶縁性を有しているものが好ましい。無機微粒子のサイズは、平均粒径が0.2μm〜40μmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは8μm〜20μmの範囲がよい。無機微粒子の平均粒径が0.2μmより小さくなると、粒界(粒子間の隙間)が多くなり、フォノンが分散し、熱伝導性が低下する。無機微粒子の平均粒径が40μmより大きくなると粒子同士の接触点が少なくなり、熱伝導性が悪くなる。また、無機微粒子は、鱗片状のものを用いるのが好ましい。
【0024】
前記複合粒子において無機微粒子は、母粒子の表側に、該母粒子に直接または他の無機微粒子に重なるように担持されている。例えば球形状の母粒子であれば、母粒子における曲面状の表側に無機微粒子が担持されて、複合粒子全体が略球形状になっている。すなわち、複合粒子の外形形状は、母粒子の外形におおよそ由来している。複合粒子中の無機微粒子の含有量は10%〜90%の範囲が好ましく、より好ましくは、30%〜80%がよい。無機微粒子の含有量が10%より低くなると熱伝導を付与するだけのシェルを十分に形成することができず、また、無機微粒子の含有量が90%より多くなると、複合粒子の構造を保つことができなくなる。
【0025】
前記母粒子を多糖類で構成する場合は、多糖類誘導体から多糖類を相分離を利用して生成する造粒法(相分離法という)を無機微粒子の存在下で行うことで複合粒子を生成したり、母粒子となる多糖類を公知の方法により生成した後に、多糖類と無機微粒子との混合物から転動造粒法によって複合粒子を生成することができる。
【0026】
前記相分離法で複合粒子を生成する場合は、酸化還元電位の極性がマイナスとなる多糖類誘導体を用い、多糖類誘導体を分散する分散媒として、酸化還元電位の極性がマイナスとなるアルカリ性溶液を用いている。そして、無機微粒子としては、分散媒中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mV以下となるものを用いる。このように、相分離法で複合粒子を生成する場合は、分散媒、多糖類誘導体および無機微粒子の電荷的関係を調整する必要がある。なお、ゼータ電位は、無機微粒子が分散している液状物質のpHによって変動するので、分散媒のpHを13としたときの値で表し、無機微粒子を常にpH13の液状物質に分散することを前提とするものではない。分散媒としては、例えばカルボン酸を有する高分子の金属塩水溶液を用いることができ、このような金属塩水溶液としては、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液が例示される。
【0027】
例えば、出発原料として不溶性のセルロースを、溶媒として水をそれぞれ用いた場合には、例えば、(1)セルロースをキサントゲン酸アルカリ金属塩水溶液に溶解させたり、(2)セルロースをロダン金属塩水溶液に溶解させたり、(3)アンモニアおよび銅の双方を錯体としてセルロースに配位結合させることにより、多糖類誘導体として溶解性のセルロース誘導体(ビスコース)を製造することができる。次に、溶媒に溶解した多糖類誘導体に無機微粒子を混合して予備混合液を調製し、その予備混合液を分散媒に撹拌しつつ滴下する。例えば、多糖類誘導体がビスコースであり、分散媒がポリアクリル酸ナトリウム水溶液である場合には、ビスコースのCSS
-(ザンテート基)と、ポリアクリル酸ナトリウムのCOO
-(カルボキシル基)との間に生じる電荷的反発力と、多糖類誘導体の凝集力とによって、多糖類誘導体が球状化する(ビスコース相分離法)。また、CSS
-およびCOO
-の双方による電荷的反発力によって、無機微粒子は多糖類誘導体および分散媒の双方から排斥され、その境界面となる多糖類誘導体の表面にほとんど集められ、多糖類誘導体の表面全体を覆うようになる。その結果、シェルとコアとが明確に分離されたシェル・コア構造が形成される。
【0028】
次に、無機微粒子が多糖類誘導体の表面に偏在した状態で固定化処理を行い、複合粒子を生成する。多糖類誘導体がビスコースである場合には、まず、ビスコースを脱硫する。その後、ビスコースの水酸基同士の水素結合による架橋構造が形成され、再生セルロースが生成される。このとき、ビスコースの表面に偏在していた無機微粒子がこの水素結合によって再生セルロースの表面に強固に固定化され、複合粒子が生成される。ビスコース相分離法により得られる複合粒子は、無機微粒子の表面官能基との水素結合により、セルロースの重量に対して、100%以上の無機微粒子を担持できることが特徴である。
【0029】
前記母粒子に合成高分子を使用する場合は、下記の化学式1で表される架橋ポリアクリル酸エステルまたは下記の化学式2で表される架橋ポリメタクリル酸エステルの誘導体を用いるのが好ましい。ここで、化学式1および化学式2のRは、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル基やフェニル基、ベンジル基等であり、脂肪族または芳香族の炭化水素基から選択される疎水性の官能基を表す。なお、ポリアクリル酸エステルおよび架橋ポリメタクリル酸エステルをまとめて、ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子と以下表記する。この場合に、母粒子は、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子から基本的に構成され、アニオン性基を持つ母粒子は、該架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルにおけるカルボン酸エステルの一部を加水分解した構造を有している。また、カチオン性基を持つ母粒子は、例えばカルボン酸エステルの一部に、アミン化合物によるアミノリシス反応により、アミノ基が導入された構造を有する。アミン化合物としては、ジアミン系化合物、ジメチルアミノ系化合物などが挙げられる。また、母粒子は、その形状が球形状であり、球形状に形成された架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子の形状がおおよそ維持されている。母粒子は、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子の球形状表面にあるカルボン酸エステルが加水分解されて、球形状表面部分にカルボキシル基やアミノ基が存在すると共に、球形状内側部分に疎水基を有するカルボン酸エステルが存在するよう構成される。
【化1】
【化2】
前記化学式1および化学式2のRは、脂肪族または芳香族の炭化水素基から選択される疎水性の官能基を表す。
【0030】
前記母粒子の出発原料として用いる架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子は、アクリル酸エステルモノマーを架橋剤により架橋して微細な球形状とした粒子が用いられる。球形状の架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子の製造方法は、架橋剤として、アルカンジアクリレート、フェニルジアクリレート、アルカントリアクリレート、アルカンテトラアクリレートもしくは、アルカンジメタクリレート、アルカントリメタクリレート、アルカンテトラメタクリレート、フェニルジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の二官能以上の多官能の架橋剤を用いたアクリル酸エステルの乳化共重合、懸濁共重合法等が挙げられる。なお、アクリル樹脂には、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとがあるが、出発原料としてはアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの何れであってもよい。
【0031】
前記母粒子は、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子が部分的に加水分解されて生成したカルボン酸の一部または全てが、アルカリ金属によって金属塩化された構造を有し、しかも水に不溶である。アルカリ金属としては、水酸化物のアルカリ金属、アルカリ土類金属を用いることが好ましく、特に、水酸化ナトリウムによるナトリウム、水酸化カリウムによるカリウム、水酸化マグネシウムによるマグネシウム等がよい。
【0032】
次に、母粒子が架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルで構成された複合粒子の製造方法の一例について説明する。前述した架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子を用意する。また、アルカリ溶液と有機溶媒とを混合した反応溶媒を別途調製する。ここで用いられるアルカリ溶液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物等を水に分散したものである。また、有機溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコールやこれらに混ざるプロトン性溶媒、あるいはアセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の非プロトン性溶媒等の一種または二種以上が用いられる。そして、ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子を、アルカリ溶液と有機溶媒とからなる反応溶媒に浸漬し、所定の反応溶媒の温度条件で、ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子におけるカルボン酸エステルを加水分解する。反応溶媒への浸漬処理を行った後に、反応溶媒から得られた母粒子を取り出し、洗浄、乾燥、分離等の所定の処理を行い、母粒子を得る。そして、水や親水性有機溶媒などの液体の中に母粒子と無機微粒子とを分散させると、静電相互作用が生じることにより、母粒子の表面でイオン交換反応が起り母粒子の表面に無機微粒子が集められ、複数の無機微粒子で母粒子の表面が被覆された複合粒子が生成される。また、母粒子をなす架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルの官能基を増大させることにより、母粒子に対する無機微粒子の担持量を増大することも可能である。
【0033】
前記母粒子は架橋構造を有する高分子化合物であるので、複合粒子を樹脂に充填して成形する際に母粒子が熱に不融であることにより、複合粒子のシェル・コア構造を保つことができる。複合粒子が樹脂成形体内でシェル・コア構造を保つことにより、比較的少ない無機微粒子の充填量で、熱伝導のためのネットワークを樹脂成形体内に構成でき、樹脂成形体に充填された無機材料単位量当たりの熱伝導率を向上することができる。
【0034】
図1に示すように、熱伝導において異方性がある鱗片状の無機微粒子14を用いた場合に、樹脂16に複合粒子10を充填して、ある一定方向から圧力を加えることで、母粒子12が押しつぶされ、鱗片状の無機微粒子14の面が圧力をかけた方向(圧縮方向)に対して交差する方向に沿うように並び、圧力を加えた方向に交差する方向の熱伝導性が高くなる樹脂成形体20を得ることができる。更に、無機微粒子として窒化ホウ素を用いれば、熱伝導性に優れた窒化ホウ素によって、樹脂成形体に熱伝導のためのネットワークを好適に形成し得る。
【0035】
前記母粒子を架橋構造を有する多糖類から構成することで、多糖類特有の弾力性により樹脂中で母粒子の形状が変形し、成形時に圧力をかけることにより複合粒子間の間隙をなくし、熱伝導ネットワークをより好適に形成し得る。また、母粒子をセルロースからなる球状粒子で構成すれば、無機微粒子の担持量を多くすることができる。
【0036】
前記母粒子を架橋構造を有する合成高分子から構成することで、母粒子を成形時の熱に不融で、溶剤や水に不溶とすることができる。また、母粒子を表面にアニオン性基またはカチオン性基を有する架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルで構成することで、無機母粒子を担持することができ、アニオン性基またはカチオン性基の量を増大させると、無機微粒子の担持量を多くすることができる。
【0037】
前述した本発明に係る複合粒子をフィラーとして樹脂に充填して、本発明に係る樹脂成形体が構成される。樹脂成形体は、例えばシート状やブロック状などの適宜の形状に形成される。複合粒子の充填対象となる樹脂は、前記複合粒子と複合可能な樹脂であれば熱可塑性、熱硬化性、エンジニアプラスチックの何れでもあってもよく、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン−酢酸ビニルアルコール共重合体、ポリ(メタ)アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12のようなポリアミド、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ビニロン、ポリビニルブチラール等を採用できる。樹脂に対する複合粒子の充填率は、樹脂成形体の30wt%〜95wt%が好ましく、より好ましくは70wt%〜90wt%の範囲である。複合粒子の充填率が30wt%より少ないと、熱伝導ネットワークが形成されにくく、無機微粒子による好適な熱伝導作用が得られない。また、複合粒子の充填率が95wt%より多いと、樹脂成形体の脆性化等の不具合が生じる。
【0038】
前記樹脂としてエポキシ樹脂を用いて樹脂成形体を成形する場合を例示する。この場合は、流動性を示すあるいは流動性を向上させたエポキシ樹脂原料に複合粒子を混合して、成形することで、樹脂成形体を得ることができる。なお、樹脂原料の流動性の向上は、樹脂原料が溶解可能な溶媒を添加することによりなし得る。溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、アセトン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等を採用できる。また、樹脂原料と複合粒子を混合する際は、熱伝導性を低下させる空気泡を脱気する必要がある。脱気方法は、遠心脱泡方法、真空脱法法、真空遠心脱泡法、超音波法が挙げられるが、脱気さえできれば、これに限定するものではない。
【0039】
前記樹脂成形体は、樹脂原料を加熱および加圧して圧縮成形されたものが好ましい。加熱および加圧をする場合は、熱硬化性樹脂および硬化剤と熱伝導性複合粒子の混合物を型に充填し、ホットプレスすることで樹脂成形体を得ることができる。成形時の加熱温度は、20℃〜300℃が好ましく、より好ましくは100℃〜170℃の範囲がよい。成形時の加熱温度が20℃より小さいと、硬化に長時間を要する等、作業性が悪い。また、成形時の加熱温度が300℃より高いと、樹脂の分解や燃焼等を生じる。成形時の加重は、100kg/cm
2以上が好ましく、より好ましくは500kg/cm
2以上がよい。成形時の加重が100kg/cm
2よりも小さいと、母粒子が変形せずに、シェル同士の接触面積が減少することによって、熱伝導性の減少を生じる。
【0040】
このように、本発明に係る複合粒子をフィラーとして樹脂に充填することにより、良好な熱伝導ネットワークが形成された樹脂成形体を得ることができる。また、本発明に係る複合粒子をフィラーとして用いて圧縮形成して、複合粒子同士の間隙をなくすことにより、良好な熱伝導ネットワークを形成することが可能となる。しかも、
図1に示すように、圧縮成形で得られる樹脂成形体20は、熱伝導において異方性がある鱗片状の無機微粒子14を用いた場合に、ある一定方向から圧力を加えることで、母粒子12が押しつぶされ、鱗片状の無機微粒子14の面が圧力をかけた方向に対して交差する方向に沿うように並びことにより、圧力を加えた方向に交差する方向の熱伝導性を高くすることができる。
【実施例】
【0041】
実施例1および2の複合粒子は、ビスコース相分離法で得られるセルロースからなる母粒子と、この母粒子の表側に担持された窒化ホウ素(BN)からなる無機微粒子とから構成されるシェル・コア構造を有している。実施例1および2では、分散媒としてポリアクリル酸ナトリウム水溶液を用いた。分散媒は、ビーカーに、ポリアクリル酸ナトリウム(商品名アクアリックDL522:日本触媒製(分子量50000))の35%水溶液200gに純水600gを加え、これに分散剤としてのCaCO
3(商品名TP221G;奥多摩工業製)40gと、33重量%のNaOH水溶液24gとを添加した後に、回転数120rpmの条件で、撹拌することで調製した。次に、ビスコース溶液(苛性ソーダ5. 5重量%、セルロース9.5重量%、レンゴー株式会社製)250gに、純水37.5gおよびBN微粒子47.5を添加し、ホモジナイザーで回転数8000rpmおよび3分間の条件で撹拌し、均一な混合液を調製した。次に、先に調製した分散媒に混合液を滴下・混合し、回転数120rpm、時間15分の条件で撹拌することで、懸濁液を得た。次に、汎用のオイルバスを使用して、昇温時間30分の条件で懸濁液を80℃まで加熱し、更に30分間、当該温度を保持しつつ撹拌して、次に44μメッシュによって分散剤であるCaCO
3を除去し、ろ取された複合体を5%塩酸で1時間かけて脱硫することで固定化処理を完了させた。最後に、ガラスフィルターでろ過、水洗してそのまま凍結乾燥し、実施例1および2の複合粒子を得た。実施例1および2では、BN微粒子(商品名デンカボロンナイトライドGP:電気化学工業株式会社製)としてメディアン径(D50)8.0μmのものを用いた。また、実施例1および2と同様の手順で、BN微粒子(商品名デンカボロンナイトライドSP-2:電気化学工業株式会社製)としてメディアン径(D50)4.0μmのものを用い、実施例1および2の別例の複合粒子を作製した。
【0042】
図2に示す実施例1および2の複合粒子の電子顕微鏡写真によれば、球状のセルロースからなる母粒子の表側に、BN微粒子が担持され、BN微粒子とセルロースとからなるシェル・コア構造が構成されていることが確認できる。同様に、
図3に示す実施例1および2の別例の複合粒子の電子顕微鏡写真によれば、球状のセルロースからなる母粒子の表側に、BN微粒子が担持され、BN微粒子とセルロースとからなるシェル・コア構造が構成されていることが確認できる。
【0043】
実施例3〜5の複合粒子は、市販のセルロースからなる母粒子と、窒化ホウ素(BN)からなる無機微粒子とで、転動造粒法によって母粒子の表側に無機微粒子が担持されたシェル・コア構造を構成したものである。実施例3〜5では、平均粒径44〜105μmの球状セルロース粒子(商品名セルファインGC-15-m:JNC株式会社製)25gを、250mlの純水に分散したセルロース分散液を調製すると共に、メディアン径(D50)8.0μmのBN微粒子(商品名デンカボロンナイトライドGP:電気化学工業株式会社製)7.5gを、75mlの純水に分散したBN分散液を調製した。パン型造粒機(アズワン株式会社製)にセルロース分散液を注ぎ、50℃で加熱しつつ回転数60rpmで回転させ、これにBN分散液を添加し、50℃で加熱しつつ回転数60rpmで回転を継続する。そして、水が完全に蒸発した後に、実施例3〜5の複合粒子を回収した。
【0044】
図4に示す実施例3〜5の複合粒子の電子顕微鏡写真によれば、球状のセルロースからなる母粒子の表側に、BN微粒子が担持され、BN微粒子とセルロースとからなるシェル・コア構造が構成されていることが確認できる。
【0045】
参考例の複合粒子は、カルボン酸エステルの一部を加水分解した構造を有する架橋ポリアクリル酸エステル粒子(PAA-PMA粒子と称す)からなる母粒子の表側に担持された窒化ホウ素(BN)からなる無機微粒子とから構成されるシェル・コア構造を有している。先ず、
参考例の複合粒子の母粒子となるPAA-PMA粒子の生成について説明する。純水325.125gに水酸化ナトリウム(NaOH)48.825gを溶解し、更にエタノール125mlを加えて反応溶液を調製する。この反応溶液に、出発原料としてのポリアクリル酸メチル粒子(商品名テクノポリマーARX-15:積水化成品工業株式会社製、平均粒径15μm)を50g添加した混合液を調製する。この混合液を60℃に加熱し、300rpmで2時間かき混ぜつつ、ポリアクリル酸メチル粒子の表面の加水分解処理を行う。その後に、蒸留水を用いて遠心分離(回転数3500rpm、3分間)を10回繰り返し、固液分離を行うことにより、洗浄液のpHが中性になるまで洗浄を行う。これにより、カルボン酸エステルの一部を加水分解した構造を有するポリアクリル酸メチル粒子(NaPAA-PMA粒子と称す)を得る。更に、NaPAA-PMA粒子を0.1Mの塩酸により洗浄した後に、蒸留水を用いて遠心分離を繰り返し、固液分離を行うことにより、洗浄液のpHが中性になるまで洗浄を行う。そして、回収した粒子を凍結乾燥して、カルボン酸エステルの一部を加水分解した構造を有する架橋ポリアクリル酸エステル粒子を得る。
【0046】
100mlの蒸留水に、前記PAA-PMA粒子7.5gを加えると共に、メディアン径(D50)4.0μmのBN微粒子(商品名デンカボロンナイトライドSP-2:電気化学工業株式会社製)7.5gを加え、塩酸の添加により、分散媒をpH3に調整する。分散媒の温度を60℃にしたもとで、300rpmで2時間撹拌することで、PAA-PMA粒子の表面がBN微粒子によって被覆されたシェル・コア型の
参考例の複合粒子を生成する。分散媒から遠心分離により複合粒子を分離した後に、凍結乾燥を行って
参考例の複合粒子を回収する。また、BN微粒子(商品名デンカボロンナイトライドGP:電気化学工業株式会社製)をディアン径(D50)8.0μmのものに代えて、同様の手順で
参考例の別例に係る複合粒子を作製した。
【0047】
図5に示す
参考例の複合粒子の電子顕微鏡写真によれば、球状のPAA-PMA粒子からなる母粒子の表側に、BN微粒子が担持され、BN微粒子とPAA-PMA粒子とからなるシェル・コア構造が構成されていることが確認できる。同様に、
図6に示す別例の複合粒子の電子顕微鏡写真によれば、球状のPAA-PMAからなる母粒子の表側に、BN微粒子が担持され、BN微粒子とPAA-PMA粒子とからなるシェル・コア構造が構成されていることが確認できる。
【0048】
次に、実施例1〜
5および参考例の複合粒子をフィラーとしてエポキシ樹脂に充填した実施例1〜
5および参考例の樹脂成形体を作製し、この際の樹脂成形体の熱伝導率を測定した。実施例1〜
5および参考例の複合粒子が充填された樹脂成形体と比較するために、フィラーが充填されていないエポキシ樹脂からなる比較例1、メディアン径(D50)8.0μmのBN微粒子(商品名デンカボロンナイトライドGP:電気化学工業株式会社製)をエポキシ樹脂に充填した比較例2〜7、メディアン径(D50)4.0μmのBN微粒子(商品名デンカボロンナイトライドSP-2:電気化学工業株式会社製)をエポキシ樹脂に充填した比較例8〜10を作製した。
【0049】
前記樹脂成形体の製造方法を説明する。まず、エポキシ樹脂原料、1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン 1-イルオキシ)ナフタレン(商品名EPICLON HP-4032、DIC株式会社製)と硬化剤、1-シアノエチル 2-エチル 4-メチルイミダゾール(商品名キュアゾール2E4MZ-CN、四国化成工業株式会社製)を量り取り(樹脂:硬化剤=10:1)、有機溶媒(酢酸エチルまたはアセトン)に溶解した溶液を調製する。ここで、有機溶媒は、エポキシ樹脂、硬化剤、フィラーの混合物を十分に浸す量を添加している。前記溶液にフィラーを加える。例えば樹脂成形体の全量を2gでフィラー充填率90wt%とする場合は、フィラー1.80g、エポキシ樹脂0.18g、硬化剤0.02g、有機溶媒を約5mlとする。フィラーを加えた混合物を、公転自転攪拌脱泡装置(カクハンターSK-300SV)、株式会社写真化学製)によって、2分間の撹拌を5回繰り返し、脱泡および溶媒を除去し、溶媒を完全に揮発させる。混合物(樹脂原料)を金型(1mm角の貫通孔の空いた銅材50mm×50mm×20mm)に充填し、ホットプレス機(商品名AH-10TD、アズワン株式会社製)を用いてホットプレス(加重 2t/cm
2、120℃、30分間)を行い、実施例1〜
5,参考例および比較例1〜10の樹脂成形体を作製する。そして、得られた樹脂成形体を成形時の圧縮方向と同じ方向に1mmの厚さになるように切断し、厚さ1mmの試験片を作製した。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法熱物性測定装置(商品名LFA-502:京都電子工業株式会社製)によって、各試験片について室温で測定した。フィラー中のBN微粒子含有率は、全自動元素分析装置(商品名vario MICRO cube:エレメンタール製)を用いて、粒子サンプルを完全燃焼し、発生するガスからN、C、H、Sを定量し、N(wt%)からフィラー中のBN微粒子含有率を算出した。熱伝導率の測定結果を以下の表1に示す。なお、表1の熱伝導率の値は、成形の際の圧縮方向に対して、交差する方向の熱伝導率である。
【0050】
(表1)
【0051】
実施例1の樹脂成形体は、比較例6の樹脂成形体よりも無機微粒子の充填量が少ないが、比較例6よりも高い熱伝導性を示すことが確認できる。実施例2の樹脂成形体は、比較例7の樹脂成形体よりも無機微粒子の充填量が少ないが、比較例7よりも高い熱伝導性を示すことが確認できる。実施例3の樹脂成形体は、比較例2の樹脂成形体よりも無機微粒子の充填量が少ないが、比較例2よりも高い熱伝導性を示すことが確認できる。実施例4の樹脂成形体は、比較例3の樹脂成形体よりも無機微粒子の充填量が少ないが、比較例3よりも高い熱伝導性を示すことが確認できる。実施例5の樹脂成形体は、比較例4の樹脂成形体よりも無機微粒子の充填量が少ないが、比較例4よりも高い熱伝導性を示すことが確認できる。
参考例の樹脂成形体は、比較例9の樹脂成形体よりも無機微粒子の充填量が少ないが、比較例9よりも高い熱伝導性を示すことが確認できる。
【0052】
図7に示す実施例1の樹脂成形体の断面を示す電子顕微鏡写真によれば、
図8の電子顕微鏡写真に示す比較例6の樹脂成形体の断面と異なり、母粒子の周りに無機微粒子により熱伝導のためのネットワークが形成されているのが確認できる。