(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[耐水性光学異方性フィルムの製造方法の概要]
本発明の製造方法は、アニオン性基を有する有機色素を含む光学異方性フィルムに、多価カチオン化合物と1価カチオン化合物とを含む耐水化処理液を接触させる耐水化処理工程を有し、前記耐水化処理液に含まれる前記多価カチオン化合物と前記1価カチオン化合物の質量比率(1価カチオン化合物/多価カチオン化合物)が、0.01〜2である。
通常、前記耐水化処理工程の前には、光学異方性フィルムを形成する製膜工程を有する。
なお、本明細書において、「X〜Y」の記載は、「X以上Y以下」を意味する。
【0015】
[製膜工程]
製膜工程は、アニオン性基を有する有機色素を含む光学異方性フィルムを得る工程である。
製膜工程においては、アニオン性基を有する有機色素を含むコーティング液を展開面に塗工することによって、有機色素を含む塗膜を形成し、この塗膜を固化することによって、光学異方性フィルムが得られる。
【0016】
(アニオン性基を有する有機色素について)
アニオン性基を有する有機色素は、水に溶解したときに解離し、アニオン性(陰イオン性)を生じ得る色素である。
本発明に用いられる有機色素は、その分子中にアニオン性基を1つ以上有する有機色素であれば特に限定されないが、好ましくは、アニオン性基を2つ以上有する有機色素が用いられる。
有機色素の基本構造としては、例えば、アゾ系、シアニン系、メロシアニン系、ペリレン系、ナフトキノン系などが挙げられる。良好なリオトロピック液晶性を示すことから、アゾ系有機色素を用いることが好ましい。
なお、アゾ系有機色素は、その分子中にアゾ基を1つ以上有する有機色素である。中でも、アゾ基を2つ以上有するジスアゾ系有機色素を用いることが好ましい。
【0017】
前記有機色素は、有機色素の骨格に結合した固定アニオン基を有し、通常、前記固定アニオン基に対イオンが結合している。
対イオンとしては、金属イオン及び水素イオンなどのカチオン種が挙げられる。
前記アニオン性基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、水酸基及びこれらの塩基などが挙げられる。アニオン性基は、好ましくはスルホン酸基又はスルホン酸塩基(−SO
3M基)であり、さらに好ましくはスルホン酸塩基である。ただし、Mは対イオンを表す。
【0018】
前記有機色素のアニオン性基の数(置換数)は、特に限定されないが、好ましくは2つ以上であり、さらに好ましくは2つ〜5つであり、より好ましくは2つ〜4つである。
アニオン性基を2つ以上有する有機色素は、水系溶媒に対する親和性が高い。そのため、前記有機色素を水系溶媒に溶解させることができ、良好なコーティング液を容易に調製できる。このコーティング液を用いることにより、配向性に優れた光学異方性フィルムを得ることができる。
前記2つ以上のアニオン性基は、耐水化処理を行ったときに、多価カチオン化合物と複数の架橋点を形成する作用があると考えられる。そのため、2つ以上のアニオン性基を有する有機色素は、その配向が乱れ難い強固な超分子を形成できる。2つ以上のアニオン性基を有する有機色素から構成された光学異方性フィルムは、耐水性に優れている。
前記有機色素としては、例えば、特開2007−126628号公報などに記載されている化合物などが挙げられる。
【0019】
前記有機色素がベンゼン環に結合したアニオン性基を2つ以上有する場合、それぞれのアニオン性基の位置は、隣接していない(オルト位でない)ことが好ましく、特に、メタ位であることがさらに好ましい。前記アニオン性基がメタ位にある有機色素は、アニオン性基同士の立体障害が小さくなる。このため、耐水化処理前後において、前記有機色素が略直線的に配向し易い。
【0020】
前記有機色素は、例えば、下記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)又は(2−2)で表されるアゾ化合物が好ましい。
【0023】
前記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)において、Q
1は、置換若しくは無置換のアリール基を表し、Q
2は、置換若しくは無置換のアリーレン基を表し、Aは、アニオン性基を表し、Mは、前記アニオン性基の対イオンを表し、Rは、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアセチル基、置換若しくは無置換のベンゾイル基、又は置換若しくは無置換のフェニル基を表し、kは、0〜4の整数を表し、lは、0〜4の整数を表し、mは、1〜6の整数を表す。ただし、式(1−1)及び(2−1)において、k+l+m≦7であり、式(1−2)及び式(2−2)において、k+l≦5である。なお、本明細書において、「置換若しくは無置換」とは、「置換基で置換されている、又は、置換基で置換されていない」ことを意味する。
また、一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)において、(NHR)
l及び(AM)
mの各置換基は、それぞれ、ナフタレン環の何れの位置に置換していてもよい。
【0024】
前記Q
1又はQ
2で表されるアリール基又はアリーレン基は、置換基を有していても、或いは、置換基を有していなくてもよい。Q
1又はQ
2で表されるアリール基又はアリーレン基が、置換若しくは無置換のいずれの場合でも、前記各一般式で表されるアゾ化合物は、吸収二色性を示す。
前記Q
1及びQ
2は、アゾ結合(−N=N−)を有さないアリール基又はアリーレン基である。
【0025】
前記アリール基又はアリーレン基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、ジヒドロキシプロピル基、フェニルアミノ基、−OM、−COOM、−SO
3M、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、又は、炭素数1〜6のアシルアミノ基などが挙げられる。好ましくは、前記置換基としては、ニトロ基や−SO
3M基などのアニオン性基である。なお、Mは、対イオンを表す。
また、前記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のRで表されたアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基又はフェニル基が置換基を有する場合、その置換基としては、上記アリール基又はアリーレン基の説明欄で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
前記Rのアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0026】
前記アリール基としては、フェニル基の他、ナフチル基などのようなベンゼン環が縮合した縮合環基が挙げられる。
前記アリーレン基としては、フェニレン基の他、ナフチレン基などのようなベンゼン環が縮合した縮合環基が挙げられる。
前記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のQ
1は、好ましくは置換若しくは無置換のフェニル基であり、さらに好ましくは置換基を有するフェニル基であり、より好ましくは少なくともパラ位に置換基を有するフェニル基である。
前記一般式(2−1)及び(2−2)のQ
2は、好ましくは置換若しくは無置換のナフチレン基であり、さらに好ましくは置換若しくは無置換の1,4−ナフチレン基である。
【0027】
また、一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のAは、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基又はこれらの塩基などである。前記Aは、好ましくは、スルホン酸基又はスルホン酸塩基であり、さらに好ましくは、スルホン酸塩基である。
前記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のMは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、その他の金属イオン、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムイオン、有機アミンの塩などが挙げられる。なお、前記各一般式で表されるアゾ化合物の少なくとも1種を含む光学異方性フィルムに耐水化処理を行った後には、前記各一般式のMの一部又は全部は、耐水化処理液中の多価カチオン化合物由来のカチオン種となる。
【0028】
前記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のRは、好ましくは、水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子である。
さらに、前記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のkは、好ましくは0〜2の整数であり、さらに好ましくは1〜2の整数である。一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のlは、好ましくは0〜2の整数であり、さらに好ましくは0〜1の整数である。前記一般式(1−1)、(1−2)、(2−1)及び(2−2)のmは、好ましくは1〜4の整数であり、さらに好ましくは2〜4の整数である。
【0029】
前記有機色素は、より好ましくは下記一般式(2−3)又は(2−4)で表されるアゾ化合物である。
【0031】
前記一般式(2−3)及び(2−4)において、Xは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換若しくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数1〜4のアルコキシ基、又は−SO
3M基を表す。
一般式一般式(2−3)及び(2−4)のR及びMは、前記一般式(2−1)のR及びMと同様である。
なお、一般式(2−3)及び(2−4)のXで表された炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基が置換基を有する場合、その置換基としては、前記アリール基の説明欄で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
前記一般式(2−3)及び(2−4)のXは、好ましくは、水素原子、ニトロ基、又はシアノ基であり、さらに好ましくはニトロ基である。
なお、一般式(2−3)及び(2−4)において、NHR及びSO
3Mの各置換基は、それぞれ、ナフタレン環の何れの位置に置換していてもよい。
【0032】
上記アゾ化合物のような有機色素は、溶媒に溶解した状態で液晶性(リオトロピック液晶性)を示す。具体的には、前記有機色素は、溶媒に溶解したとき、超分子を形成している。この有機色素を含む液を所定方向に流延すると、前記超分子に剪断応力が加わる。その結果、前記超分子の長軸が流延方向に配向した塗膜を形成することができる。得られた塗膜は、有機色素が所定方向に配向しているため、光学異方性を有する。
【0033】
上記各一般式で表されるアゾ化合物は、例えば、次の方法で得ることができる。アニリン誘導体とナフタレンスルホン酸誘導体とを、常法によりジアゾ化及びカップリング反応させることにより、モノアゾ化合物が得られる。さらに、このモノアゾ化合物をジアゾ化した後、これをアミノナフトールジスルホン酸誘導体とカップリング反応させることにより、ジスアゾ化合物が得られる。
【0034】
(コーティング液について)
コーティング液は、上記有機色素を、適当な溶媒に溶解又は分散させることによって得られる。有機色素は、1種単独で、又は、2種以上を併用してもよい。
前記コーティング液は、有機色素が液中で超分子を形成し、その結果、液晶相を示す。液晶相は、特に限定されず、ネマチック液晶相、ミドル相、スメクチック液晶相、コレステリック液晶相、又はヘキサゴナル液晶相などが挙げられる。前記液晶相は、偏光顕微鏡で観察される光学模様によって、確認、識別できる。
【0035】
前記溶媒は、特に限定されず、従来公知の溶媒を用いることができる。好ましくは、前記有機色素が良好に溶解し得る溶媒が用いられる。前記有機色素が良好に溶解されたコーティング液を用いることによって、製膜したときに有機色素が析出し難くなる。
【0036】
前記有機色素が良好に溶解し得る溶媒は、例えば水系溶媒である。
水系溶媒は、水、親水性溶媒、水と親水性溶媒の混合溶媒などが挙げられる。親水性溶媒は、水と均一に溶解させることができる溶媒である。
親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類;エチレングリコールなどのグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。好ましくは、前記溶媒は、水、又は、水と親水性溶媒の混合溶媒が用いられる。
【0037】
前記コーティング液中における有機色素の濃度は、液晶相を示す濃度に調製することが好ましい。具体的には、前記有機色素の濃度は、好ましくは0.5質量%〜50質量%である。このような濃度範囲の一部で、前記コーティング液は、液晶相を示し得る。
また、コーティング液のpHは、好ましくはpH4〜10程度、さらに好ましくはpH6〜8程度に調製される。
【0038】
さらに、前記コーティング液には、添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、抗菌剤、相溶化剤、架橋剤、増粘剤、各種ポリマーなどが挙げられる。コーティング液中における添加剤の濃度は、好ましくは0を超え10質量%以下である。また、コーティング液には、界面活性剤が添加されていてもよい。
【0039】
(光学異方性フィルムの形成について)
前記コーティング液を、適当な展開面上に塗工することによって、塗膜を形できる。
展開面は、コーティング液を略均一に展開するためのものである。この目的に適していれば展開面の種類は特に限定されない。展開面としては、例えば、ポリマーフィルムの表面、ガラス板の表面、金属ドラムの表面などが挙げられる。また、ポリマーフィルムとして配向フィルムを用いてもよい。配向フィルムは、その表面において配向規制力を有するので、有機色素を確実に配向させることができる。
【0040】
好ましくは展開面として、ポリマーフィルムやガラス板のような基材が用いられる。
前記ポリマーフィルムとしては、特に限定されないが、透明性に優れているフィルム(例えば、ヘイズ値5%以下)が好ましい。
前記基材の厚みは、強度などに応じて適宜に設計し得る。薄型軽量化の観点から、基材の厚みは、好ましくは300μm以下、さらに好ましくは5μm〜200μm、より好ましくは10μm〜100μmである。
通常、機械的生産過程では、長尺状の基材が用いられる。長尺状の基材の長さは、10m以上であり、好ましくは300m以上である。長尺状の基材を用いた場合には、一般には、光学異方性フィルムはロールツゥロール方式で形成される。
【0041】
前記基材の表面が配向規制力を有していてもよい。その配向規制力は、基材に配向処理を施すことで形成できる。前記配向処理としては、ラビング処理などの機械的配向処理、光配向処理などの化学的配向処理などが挙げられる。
【0042】
コーティング液を基材などの展開面に塗工する方法としては、例えば、適切なコータを用いた塗工方法が採用され得る。
液晶相状態のコーティング液を展開面上に塗工すると、その過程で有機色素の超分子会合体に剪断力が加わる。よって、その超分子会合体が所定方向に配向した塗膜を展開面上に形成できる。
【0043】
次に、上記塗膜を固化させる。溶媒として水系溶媒が用いられている場合には、前記塗膜を乾燥する。塗膜を乾燥する方法は、自然乾燥、強制的な乾燥の何れでもよい。乾燥温度は、コーティング液の等方相転移温度以下であり、低温から高温へ徐々に昇温させることが好ましい。具体的には、前記乾燥温度は、好ましくは10℃〜80℃であり、さらに好ましくは20℃〜60℃である。かかる温度範囲であれば厚みバラツキの小さい乾燥塗膜を得ることができる。
乾燥時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって、適宜、選択され得る。自然乾燥の場合には、その乾燥時間は、好ましくは1秒〜120分であり、さらに好ましくは10秒〜5分である。
【0044】
塗膜の乾燥過程で、配向した有機色素が固定される。乾燥後の塗膜が光学異方性フィルムである。
得られた光学異方性フィルム(乾燥塗膜)の厚みは、好ましくは0.1μm〜10μmである。
【0045】
[耐水化処理工程]
耐水化処理工程は、上記製膜工程によって得られた光学異方性フィルムに耐水性を付与する工程である。
耐水化処理工程においては、上記有機色素を含む光学異方性フィルムに、耐水化処理液を接触させる。
【0046】
(耐水化処理液について)
耐水化処理液は、多価カチオン化合物と1価カチオン化合物とを含む。
多価カチオン化合物は、2価以上の価数を有する化合物である。多価カチオン化合物は、2価以上の対カチオンを1つ以上含む化合物でもよいし、1価の対カチオンを2つ以上含む化合物でもよいし、又は、2価以上の対カチオンを1つ以上と1価の対カチオンを1つ以上とを含む化合物でもよい。
1価カチオン化合物は、1価の価数を有する化合物である。1価カチオン化合物は、1価の対カチオンを1つ含む化合物である。
なお、カチオン化合物は、水に溶解したときに解離し、カチオン性(陽イオン性)を生じ得る化合物である。
【0047】
多価カチオン化合物としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属塩、アルカリ土類金属塩以外の多価金属塩、2価以上のポリアミン化合物、2価以上のポリイミン化合物などが挙げられる。
アルカリ土類金属としては、Ca、Cu、Mg、Zn、Fe、Co、Srなどが挙げられ、それ以外の多価金属としては、Al、Nd、Y、Fe、Laなどの3価金属などが挙げられる。
2価以上のポリアミン化合物としては、エチレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられる。
多価カチオン化合物は、通常、塩の形態で使用される。前記塩としては、ハロゲン化塩、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられる。
【0048】
多価カチオン化合物の価数は、2価以上であれば特に限定されないが、好ましくは2価〜5価であり、さらに好ましくは2価又は3価であり、より好ましくは2価である。前記多価カチオン化合物の価数が余りに大きいと、有機色素のアニオン性基との架橋点が複雑になりすぎるおそれがある。架橋点が複雑になりすぎると、有機色素の配向が乱れるため、光学異方性フィルムの光学特性が低下するおそれがある。一方、多価カチオン化合物の価数が前記範囲である場合、有機色素との架橋点が多くなりすぎることなく、配向を乱さずに有機色素を強固に架橋できる。
【0049】
多価カチオン化合物としては、2価以上のポリアミン化合物又はその塩を用いることが好ましく、アルキル鎖に1価のカチオン種が2つ以上結合した構造からなるポリアミン化合物又はその塩がさらに好ましく、アルキル鎖に1価のカチオン種が2つ以上隣接せずに結合した構造からなるポリアミン化合物又はその塩がより好ましい。ポリアミン化合物は、直鎖状でもよいし、或いは、分岐状でもよいが、直鎖状のものが好ましい。
【0050】
具体的には、多価カチオン化合物として、例えば、1,2−エチレンジアミン、1,3−ブタンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、及び、1,6−ヘキサメチレンジアミンなどが用いられる。これらは、アルキル鎖に1価のカチオン種が2つ隣接せずに結合した構造からなるポリアミン化合物である。
多価カチオン化合物は、1種単独で、又は、2種以上を併用してもよい。
【0051】
1価カチオン化合物としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、1価のアミン化合物、アンモニウム塩などが挙げられる。
アルカリ金属としては、Li、Na、Kaなどが挙げられる。1価のアミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、アニリンなどの第一級アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミンなどの第二級アミン類;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの第三級アミン類などが挙げられる。
1価カチオン化合物は、通常、塩の形態で使用される。前記塩としては、ハロゲン化塩、硫酸水素塩、塩酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩などが挙げられる。
【0052】
1価カチオン化合物としては、アルカリ金属塩、及び、アミン化合物若しくはその塩を用いることが好ましく、塩化リチウム、塩化ナトリウム、及び、第3級アミン若しくはその塩がさらに好ましい。
1価カチオン化合物は、1種単独で、又は、2種以上を併用してもよい。
【0053】
耐水化処理液は、多価カチオン化合物から選ばれる1種又は2種以上と、1価カチオン化合物から選ばれる1種又は2種以上とを含み、本発明の効果を損なわない範囲で、これ以外の化合物を含んでいてもよい。
【0054】
耐水化処理液において、前記多価カチオン化合物と前記1価カチオン化合物の質量比率(質量比率=1価カチオン化合物の重さ/多価カチオン化合物の重さ)は、0.01〜2とされる。
前記質量比率が0.01未満であると、耐水化処理の反応速度を遅らせることができないおそれがある。一方、前記質量比率が2を超えると、耐水化処理自体が進行し難くなる。
好ましくは、前記質量比率は、0.02以上であり、さらに好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.04以上である。
好ましくは、前記質量比率は、1.8以下であり、さらに好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.3以下である。
【0055】
前記多価カチオン化合物及び1価カチオン化合物を、適当な溶媒に溶解又は分散させることによって、耐水化処理液を得ることができる。
前記溶媒は、特に限定されないが、通常、水系溶媒が用いられる。前記水系溶媒は、前記コーティング液の説明欄で例示したものを用いることができる。
前記耐水化処理液中における多価カチオン化合物及び1価カチオン化合物の濃度は、好ましくは1質量%〜50質量%であり、さらに好ましくは5質量%〜30質量%である。
【0056】
(耐水化処理について)
前記耐水化処理液を上記光学異方性フィルムの一面又は両面に接触させることによって、耐水性光学異方性フィルムを得ることができる。
耐水化処理液を光学異方性フィルムに接触させる方法は、特に限定されない。前記接触方法としては、(A)光学異方性フィルムの表面に耐水化処理液を塗布する、(B)耐水化処理液が満たされた浴中に光学異方性フィルムを浸漬する、(C)耐水化処理液が満たされた浴中に光学異方性フィルムを通過させる、などの方法が挙げられる。
前記(A)の耐水化処理液の塗布は、適宜なコータ、又は、スプレーなどを用いて実施できる。
【0057】
これらの中では、前記(B)光学異方性フィルムを耐水化処理液中に浸漬する、又は、前記(C)光学異方性フィルムを耐水化処理液中に通過させる、の何れかの方法が好ましい。この方法によれば、光学異方性フィルム全体に耐水化処理液を確実に接触させることができる。また、この方法によれば、光学異方性フィルム内に耐水化処理液が浸透し易くなる。
【0058】
上記光学異方性フィルムが長尺状の基材上に形成されている場合には、
図1に示すように、製造ラインにおいて送出される光学異方性フィルムを、耐水化処理液が満たされた浴中に通過させることによって、このフィルムを耐水化処理することが好ましい。
図1は、光学異方性フィルムのロールツゥロール方式製造ラインの途中に設けられた耐水化処理装置の参考側面図である。
図1において、符号1は、長尺状の基材と光学異方性フィルムが積層された長尺積層体を示し、符号2は、耐水化処理液が満たされた浴を示し、符号3は、耐水化処理液を示し、符号41,42,43,44は、フィルム搬送用ローラを示し、矢印は、長尺積層体の送出方向を示す。
【0059】
前記耐水化処理液に光学異方性フィルムを接触させると、前記光学異方性フィルム中の有機色素間が多価カチオン化合物を介して架橋される。前記架橋により、耐水性及び機械的強度に優れた光学異方性フィルムが得られる。
本発明によれば、光学異方性フィルムを耐水化する際に、そのフィルムにクラックが生じたり、或いは、そのフィルムが基材から剥離することを抑制できる。
かかる効果は、下記のような作用によると推定される。
【0060】
多価カチオン化合物を用いた耐水化処理は、イオン交換反応によって進行する。イオン交換反応は平衡反応であり、その反応速度は、各成分の濃度に起因する。下記式(a)に示すように、耐水化処理前の有機色素Aと多価カチオン化合物Bが存在する環境下では、それらが反応する方向にイオン交換反応が進行し、有機色素の耐水化が図られる。
この反応系に、下記式(b)に示すように、1価カチオン化合物Dを存在させることにより、耐水化された有機色素Cが1価カチオン化合物Dと反応してAを生成し、反応の平衡が左側へ移るようになる。このため、耐水化処理前の有機色素Aと多価カチオン化合物Bのイオン交換反応の速度を遅らせることができる。
式(a)及び(b)中、Aは、耐水化処理前の有機色素を示し、Bは、多価カチオン化合物を示し、Cは、耐水化された有機色素を示し、Dは、1価カチオン化合物を示し、Eは、有機色素の対イオン(耐水化処理前に有機色素に結合していた対イオン)を示す。
【0062】
従来の耐水化処理においては、有機色素のアニオン性基に結合した対イオンと耐水化処理液中の多価カチオン化合物のカチオンとのイオン交換の反応速度が速すぎるため、フィルムに急激な体積変化が生じる。この体積変化は、フィルムが急激に膨張又は収縮することに起因して生じると考えられる。
本発明においては、有機色素と多価カチオン化合物のイオン交換反応の速度を制御して、フィルムに急激な体積変化が生じないようにしている。本発明の製造方法によれば、クラック又は剥離などの欠陥が抑制された耐水性光学異方性フィルムを得ることができる。 もっとも、イオン交換反応の速度が遅すぎると、耐水化処理が完了する前に、光学異方性フィルムが水に浸食されるおそれがある。
本発明は、単にイオン交換反応を遅らせるわけではなく、光学異方性フィルムに欠陥を生じさせずにフィルムの耐水化を完了できるように、上記質量比率が0.01〜2の耐水化処理液を用いることを特徴としている。
【0063】
[洗浄工程]
洗浄工程は、耐水化処理後の光学異方性フィルム(つまり、耐水性光学異方性フィルム)を洗浄液を用いて洗浄する工程である。
洗浄工程を行うことにより、上記耐水性光学異方性フィルムに残存している耐水化処理液を除去することができる。従って、洗浄工程後の耐水性光学異方性フィルムの表面において、多価カチオン化合物の塩又は1価カチオン化合物の塩などが析出することを防止できる。
【0064】
洗浄液としては、特に限定されないが、例えば、水、水と親水性有機化合物との混合液、液状の親水性有機化合物などが挙げられる。
親水性有機化合物としては、好ましくは分子中に極性基を有する有機化合物を用いることができる。前記親水性有機化合物は、常温(20℃±15℃)で液状であるものが好ましい。
前記極性基は、極性を持つ官能基を意味する。極性基としては、比較的電気陰性度の大きい酸素及び/又は窒素を含む官能基が挙げられる。
極性基の具体例としては、水酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、ニトロ基、シアノ基、イソシアネート基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、カルボニル基、スルホン酸基、及びSO基などが挙げられる。
【0065】
親水性有機化合物の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;エチレングリコールなどのグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどの鎖状エーテル類;テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;ホルムアミド、N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、アセトニトリルなどのニトリル類;酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。
親水性有機化合物は、1種単独で、又は、2種以上を併用してもよい。
【0066】
洗浄液としては、水、又は、水と親水性有機化合物との混合液を用いることが好ましい。この好ましい洗浄液は、水を含んでいるので、フィルムに残存した多価カチオン化合物などを効率よく除去することができる。一方、親水性有機化合物と相溶した水はその極性が低下するので、親水性有機化合物と水を含む洗浄液を用いても、耐水性光学異方性フィルム内に多くの水分が浸透しない。
【0067】
洗浄液が親水性有機化合物と水を含む混合液である場合、親水性有機化合物の濃度は10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。
一方、洗浄液が親水性有機化合物と水を含む混合液である場合、親水性有機化合物の濃度の上限は100質量%未満であり、好ましくは95質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。
親水性有機化合物の含有量が余りに少ないと、水の極性が十分に低下せず、耐水性光学異方性フィルム内に水分が浸透するおそれがある。
【0068】
上記洗浄液を用いて光学異方性フィルムを洗浄する方法は、特に限定されない。
例えば、(i)光学異方性フィルムの表面に洗浄液を吹き付ける、(ii)洗浄液が所定方向に流れている浴中に光学異方性フィルムを浸漬させる、(iii)洗浄液が満たされた洗浄浴中に光学フィルムを通過させる、などの方法が挙げられる。
【0069】
洗浄液の温度は、特に限定されないが、通常、20℃〜50℃である。光学異方性フィルムを洗浄液に曝す時間は、特に限定されないが、通常、1〜20分間程度である。
洗浄後、耐水性光学異方性フィルムの表面に残存する洗浄液を除去するため、このフィルムを乾燥する。
乾燥方法は、自然乾燥、強制的な乾燥の何れでもよい。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、20℃〜60℃である。乾燥時間は、フィルムの表面が乾くまで行えばよい。
【0070】
前記洗浄液を用いて光学異方性フィルムを洗浄することによって、耐水性光学異方性フィルムに残存している耐水化処理液を除去することができる。
【0071】
[耐水性光学異方性フィルムの組成及び諸特性]
本発明の耐水性光学異方性フィルム中における上記有機色素の含有量は、特に限定されないが、そのフィルムの総質量に対し、好ましくは80質量%以上100質量%未満であり、さらに好ましくは90質量%以上100質量%未満である。
【0072】
また、本発明の光学異方性フィルムには、前記有機色素以外に、他の成分が含まれていてもよい。
前記他の成分としては、架橋剤として機能する多価カチオン化合物、他の有機色素(アニオン性基を有する有機色素以外の有機色素)、各種添加剤、又は、任意の液晶性化合物若しくはポリマーなどが挙げられる。
また、前記耐水性光学異方性フィルムの厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1μm〜10μmである。耐水性光学異方性フィルムの厚みが1μm未満である場合には、自立性を確保するために、前記光学異方性フィルムを基材上に積層された状態で使用してもよい。
【0073】
可視光領域において吸収能を有する有機色素を用いた場合には、その有機色素を含む耐水性光学異方性フィルムは偏光フィルムとして利用できる。可視光領域において実質的に吸収能を有しない又は吸収能が小さい有機色素を用いた場合には、その有機色素を含む耐水性光学異方性フィルムは位相差フィルムとして利用できる。
本発明の耐水性光学異方性フィルムが偏光フィルムである場合、可視光領域(波長380nm〜780nm)の少なくとも一部の波長において吸収二色性を示す。この光学異方性フィルムの透過率は、35%以上であり、好ましくは36%以上であり、さらに好ましくは37%以上であり、その偏光度は、95%以上であり、好ましくは98%以上である。
【0074】
[耐水性光学異方性フィルムの用途]
本発明の耐水性光学異方性フィルムは、例えば、その一面又は両面に保護フィルムを積層することにより、偏光板として使用できる。
本発明の製造方法で得られた耐水性光学異方性フィルムは、上記基材上に積層された状態で使用でき、或いは、基材から引き剥がして使用することもできる。
なお、前記耐水性光学異方性フィルムを基材上に積層された状態で使用する場合、前記基材を保護フィルムとして利用できる。
【0075】
また、本発明の耐水性光学異方性フィルムは、好ましくは、画像表示装置内に組み込まれる。
本発明の耐水性光学異方性フィルムを有する画像表示装置は、液晶表示装置、有機ELディスプレイ、及びプラズマディスプレイなどを含む。前記画像表示装置の好ましい用途はテレビである。
【実施例】
【0076】
本発明について、
参考例、実施例及び比較例を示して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施例のみに限定されるものではない。
参考例、実施例及び比較例で用いた各測定方法は、以下の通りである。
【0077】
[液晶相の観察方法]
2枚のスライドガラスの間にコーティング液を少量挟み込み、偏光顕微鏡(オリンパス(株)製、製品名「OPTIPHOT−POL」)を用いて、液晶相を観察した。
【0078】
[光学異方性フィルムの厚みの測定方法]
光学異方性フィルムの厚みは、ポリマーフィルムから光学異方性フィルムの一部を剥離し、3次元非接触表面形状計測システム((株)菱化システム製、製品名「Micromap MM5200」)を用いて、前記ポリマーフィルムと光学異方性フィルムとの段差を測定した。
【0079】
[光学異方性フィルムの欠陥の評価法]
耐水化処理中及び耐水化処理後のそれぞれの積層体を、光学異方性フィルムが基材から剥離しているかどうかを目視で観察した。評価の基準は、観察により、光学異方性フィルムの表面が爛れたような状態になっていた場合に「剥離した」と判断し、光学異方性フィルムの表面に爛れが無い場合に「剥離なし」と判断した。
観察の方法は、次のようにして行った。
(1)基材と光学異方性フィルムからなる積層体を、耐水化処理液に浸漬中、(2)その積層体を耐水化処理液から取り出した直後、(3)その積層体を洗浄後、(4)その積層体を乾燥後、の各工程において、それぞれ積層体について光学異方性フィルムが基材から剥離しているかどうかを目視で観察した(以下、(1)乃至(4)の観察を「耐水化処理中の積層体」の観察という)。
さらに、前記(4)の乾燥後の積層体については、それをバックライト上に載せ、その積層体の裏面から光を当てながら光学異方性フィルムが基材から剥離しているかどうかも目視で観察した(以下、(4)の積層体をバックライトに載せた観察を「耐水化処理後の積層体」の観察という)。
【0080】
[
参考例1]
4−ニトロアニリンと8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とを、常法(細田豊著「理論製造 染料化学 第5版」昭和43年7月15日技法堂発行、135ページ〜152ページに記載の方法)により、ジアゾ化及びカップリング反応させて、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物を、前記常法によりジアゾ化し、さらに、1−アミノ−8−ナフトール−2,4−ジスルホン酸リチウム塩とカップリング反応させて粗生成物を得た。これを塩化リチウムで塩析することによって、下記構造式(3)のジスアゾ化合物を得た。
【0081】
【化5】
【0082】
前記式(3)のジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解することにより、20質量%のコーティング液を調製した。このコーティング液のpHは、7.8であった。
このコーティング液を、ポリスポイトで採取し、上記液晶相の観察方法に従って、室温(23℃)にて観察したところ、前記コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0083】
前記コーティング液を、ラビング処理及びコロナ処理が施されたノルボルネン系ポリマーフィルム(日本ゼオン(株)製、製品名「ゼオノア」)上に、バーコータ(BUSHMAN社製、製品名「Mayer rot HS4」)を用いて塗工し、23℃の恒温室内で十分に自然乾燥させた。乾燥により前記ポリマーフィルム上に形成された乾燥塗膜が、光学異方性フィルムである。前記光学異方性フィルムの厚みは、0.4μmであった。
【0084】
80質量部のイオン交換水に、10質量部の1,3−ブタンジアミン塩酸塩(アルドリッチ社製)と10部の塩化リチウム(東京化成工業(株)製)とを添加することにより、20質量%の耐水化処理液を調製した。
この耐水化処理液中に、上記ポリマーフィルムと光学異方性フィルムの積層体を、約30秒間浸漬することにより、耐水化処理を行った。
その後、耐水化処理液から前記積層体を取り出し、水で十分に洗浄した後、それを風乾した。このようにして耐水性光学異方性フィルムを作製した。
【0085】
上記光学異方性フィルムの欠陥の評価法に従って、耐水化処理中の積層体について、その光学異方性フィルムの表面を目視で観察したところ、上記(1)乃至(4)の何れの工程においても光学異方性フィルムが基材(ポリマーフィルム)から剥離しなかった。同様に、耐水化処理後の積層体について、その耐水性光学異方性フィルムの表面を目視で観察したところ、光学異方性フィルムは基材から剥離していなかった。
【0086】
[
参考例2]
塩化リチウムの添加量を0.5質量部に代えた耐水化処理液を用いたこと以外は、上記
参考例1と同様にして、耐水性光学異方性フィルムを作製した。
耐水化処理中の各工程及び耐水化処理後のそれぞれ積層体について、
参考例1と同様に、その耐水性光学異方性フィルムの表面を目視で観察したところ、光学異方性フィルムは基材から剥離していなかった。
【0087】
[
参考例3]
塩化リチウムに代えて塩化ナトリウムを添加した耐水化処理液を用いたこと以外は、上記
参考例1と同様にして、耐水性光学異方性フィルムを作製した。
耐水化処理中の各工程及び耐水化処理後のそれぞれ積層体について、
参考例1と同様に、その耐水性光学異方性フィルムの表面を目視で観察したところ、光学異方性フィルムは基材から剥離していなかった。
【0088】
[実施例
1]
塩化リチウムに代えてトリエチルアミン塩酸塩(東京化成工業(株)製)を添加した耐水化処理液を用いたこと以外は、上記
参考例1と同様にして、耐水性光学異方性フィルムを作製した。
耐水化処理中の各工程及び耐水化処理後のそれぞれ積層体について、
参考例1と同様に、その耐水性光学異方性フィルムの表面を目視で観察したところ、光学異方性フィルムは基材から剥離していなかった。
【0089】
[比較例1]
塩化リチウムを添加しなかった耐水化処理液を用いたこと以外は、上記
参考例1と同様にして、耐水性光学異方性フィルムを作製した。
耐水化処理中の積層体について観察を行ったところ、上記(1)の工程の時点で、剥離が観察された。
【0090】
[比較例2]
塩化リチウムの添加量を0.05質量部に代えた耐水化処理液を用いたこと以外は、上記
参考例1と同様にして、耐水性光学異方性フィルムを作製した。
耐水化処理中の積層体について観察を行ったところ、上記(1)の工程の時点で、剥離が観察された。
【0091】
[比較例3]
塩化リチウムの添加量を30質量部に代えた耐水化処理液を用いたこと以外は、上記
参考例1と同様にして、耐水性光学異方性フィルムを作製した。
耐水化処理中の積層体について観察を行ったところ、上記(1)の工程の時点で、剥離が観察された。
【0092】
【表1】
【0093】
[評価]
参考例1乃至
3及び実施例1のように、適量の1価カチオン化合物を含む耐水化処理液を用いて耐水化処理を行うことにより、剥離などの欠陥を有さない耐水性光学異方性フィルムが得られた。
一方、比較例1のように、1価カチオン化合物を含まない耐水化処理液を用いた場合には、光学異方性フィルムに歪みが生じ、その結果、光学異方性フィルムが基材から剥離したものと推定される。この歪みは、反応速度が速すぎて、フィルムに急激な体積変化が生じたためと思われる。なお、比較例2の結果から、多価カチオン化合物に対する1価カチオン化合物の添加量が少なすぎても、剥離抑制効果が見られないことが判った。
参考例2と比較例2の対比から、1価カチオン化合物/多価カチオン化合物で表される質量比率を概ね0.01以上とすれば、剥離抑制効果を奏すると考えられる。
他方、比較例3のように、1価カチオン化合物を多量に含む耐水化処理液を用いた場合にも、フィルムの剥離が生じた。これは、反応速度が逆に遅くなり過ぎて、光学異方性フィルムが耐水化される前に溶解が進行したためと推定される。反応速度が遅くなり過ぎないようにするため、1価カチオン化合物/多価カチオン化合物で表される質量比率を概ね2以下とすれば、剥離抑制効果を奏すると考えられる。