(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887744
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】パワープラントの振動低減機構とそれを搭載した車両
(51)【国際特許分類】
B60K 5/12 20060101AFI20160303BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20160303BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
B60K5/12 E
F16F15/02 B
F16F15/03 G
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-161895(P2011-161895)
(22)【出願日】2011年7月25日
(65)【公開番号】特開2013-23136(P2013-23136A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 健一
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−074650(JP,A)
【文献】
特開平10−038191(JP,A)
【文献】
実開昭61−176020(JP,U)
【文献】
特開平03−189235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 5/12
F16F 15/02
F16F 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を含むパワープラントの振動を、前記パワープラントを基台に支持する支持装置の減衰運動によって減衰するパワープラントの振動低減機構において、
電磁石と、該電磁石の磁力に吸引される被吸引体と、該電磁石の磁力を制御する制御装置とを備え、
前記電磁石及び前記被吸引体のどちらか一方を前記支持装置の前記パワープラント側の一端、又は前記基台側の一端に固定すると共に、他方を前記電磁石からの磁力が届く範囲に配置し、
前記制御装置を、前記内燃機関の始動又は停止時に、前記電磁石の磁力により前記被吸引体を吸引して前記支持装置の前記パワープラント側の一端、又は前記基台側の一端を非接触で拘束して、前記支持装置の全体のばね剛性を上げる制御を行う構成にしたことを特徴とするパワープラントの振動低減機構。
【請求項2】
一端が前記基台側に固定され、他端が前記支持装置の前記パワープラント側の一端の近傍に配置される、あるいは、一端が前記パワープラント側に固定され、他端が前記支持装置の前記基台側の一端の近傍に配置される支柱を備え、
前記支柱の他端に前記電磁石又は前記被吸引体のどちらか一方を固定したことを特徴とする請求項1に記載のパワープラントの振動低減機構。
【請求項3】
前記被吸引体を、前記支持装置と、前記パワープラント又は前記基台との間に介設されるマウントブラケットで形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のパワープラントの振動低減機構。
【請求項4】
前記制御装置を、前記内燃機関に搭載したアイドリングストップシステムと連動し、前記アイドリングストップシステムによって、前記内燃機関が停止、又は始動するときに、前記電磁石により前記被吸引体を吸引する制御を行う構成にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパワープラントの振動低減機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のパワープラントの振動低減機構を搭載することを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内燃機関始動と停止時の振動悪化を低減することができるパワープラントの振動低減機構とそれを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、環境問題への関心が高まり、少ない燃料でより多くの距離を走る低燃費車や、温室効果ガスの排出を低減した低排出ガス車などに注目が集まっている。それらの中で、短時間のエンジン停止と再始動という一連の制御を、特別な操作を必要とすることなく、自動的に行う機構、つまりアイドリングストップシステムを搭載した車両がある。アイドリングストップとは信号停止中や渋滞中に燃費低減および、排気ガス低減のためにエンジンを停止することである。
【0003】
アイドリングストップは、エンジン始動に要する燃料がアイドリング5秒間に相当することから、5秒以上の停止を伴う場合に有効とされている。また、アイドリングストップを行うことで約14%の燃費向上が期待でき、CO
2排出については、1日10分間のアイドリングストップによって、乗用車1台あたり1年間で約120kg低減できるといわれている。
【0004】
しかし、アイドリングストップシステムを搭載した車両では、エンジン停止と始動時に振動が発生してしまい、この振動が原因で乗員を不快にさせることが問題となっている。この振動悪化は、筒内圧から起こされるクランク軸系の回転変動が原因であり、パワープラント懸架系とそれを支持するラバーマウントの共振により、その振動が助長されるために起こるものである。
【0005】
ここで、そのパワープラントの振動について、
図6を参照しながら説明する。
図6に示すように、パワープラント1は、エンジン(内燃機関)2、クラッチ3、トランスミッション(変速装置)4、及びアウトプットシャフト(出力軸)5からなる。ラバーマウント11をエンジン側マウントブラケット12を介してパワープラント1と接合し、車両フレーム側マウントブラケット13を介して車両フレーム(基台)6と接合する。ラバーマウント21も同様にパワープラント側マウントブラケット22と車両フレーム側マウントブラケット23を介してそれぞれに接合している。
【0006】
また、ラバーマウント(支持装置)11及び21を、トルクロール軸(クランク軸)に対して、パワープラント1の重心を支持するように、ラバーマウント11を、トルクロール軸を挟むようにエンジン2の両側に配置し、ラバーマウント21をトランスミッション4のトルクロール軸上に配置する。これらラバーマウント11及び21は、パワープラント1を車体フレーム(基台)6に支持し、パワープラント1で発生する振動を減衰する。このようにエンジン2を含むパワープラント1は数点のゴム係のラバーマウント11及び21で支持されるのが一般的である。
【0007】
筒内圧の圧力変動から起こされる振動は
図7の(a)に示すように、トルクロール軸の回転方向に円を描く様に変動する。この際、ラバーマウント11は、
図7の(b)に示すように変形し、その減衰力により振動を低減する。
【0008】
ラバーマウント11には
図8に示すように、防振域と共振域が周波数により存在する。アイドリング運転時の周波数は防振域となるために車両側に伝達される振動は低減される。しかし、アイドリングストップによるエンジン2の停止、始動時にはエンジン2の回転数が共振域の周波数となり、振動は増幅されてしまう。通常、アイドリング時からエンジン2を停止する場合には、ラバーマウント11の防振域から回転数(周波数)が落ちていき、共振域を通り、パワープラント1の振動が大幅に悪化してからエンジン2は停止する。また、停止状態からエンジン2を始動する場合は、共振域を通ってから防振域に入ることから、パワープラント1の振動が大幅に悪化しながらエンジン2は始動する。
【0009】
そこで、ハイブリッドシステムを備えた車両では、電気的なしくみにより始動停止時の振動を低減する装置は多く出されている。ところが、そのようなシステムを有さず、アイドリングストップを行う場合、その始動と停止時の振動悪化は大きな問題となる。特にディーゼルエンジンの様に圧縮比が大きく、筒内圧の圧力変動が大きい場合には、その振動悪化問題は顕著となる。これらの対策としては、エンジン懸架系の共振域の周波数と、エンジン回転数から算出される加振周波数を離すことが最も有効であると考えられる。
【0010】
そこで、エンジンマウントとは別に設けたアクティブダンパを電磁石によって、制御して振動を低減する装置がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この装置は、パワープランとラバーマウントとの間にアクティブダンパを設けなければならず、既存のパワープラントとラバーマウントとの配置を変更しなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−226967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、パワープラントを支持する支持装置の配置をそのままに、小規模な追加により、車両のエンジン始動と停止時の振動悪化を低減することができるパワープラントの振動低減装置とそれを搭載した車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するためのパワープラントの振動低減機構は、内燃機関を含むパワープラントの振動を、前記パワープラントを基台に支持する支持装置の減衰運動によって減衰するパワープラントの振動低減機構において、電磁石と、該電磁石の磁力に吸引される被吸引体と、該電磁石の磁力を制御する制御装置とを備え、前記電磁石及び前記被吸引体のどちらか一方を前記支持装置の前記パワープラント側の一端、又は前記基台側の一端に固定すると共に、他方を前記電磁石からの磁力が届く範囲に配置し、前記制御装置を、前記内燃機関の始動又は停止時に、前記電磁
石の磁力により前記被吸引体を吸引して前記支持装置の前記パワープラント側の一端、又は前記基台側の一端を
非接触で拘束して、前記支持装置の全体のばね剛性を上げる制御を行う構成にした。
【0014】
この構成によれば、内燃機関の停止、又は始動時に支持装置の一部を拘束し、ばね剛性(見かけのばね定数ともいう)を瞬時に高くし、共振域での振動悪化を最低限にとどめることができる。支持装置のばね剛性が上がると、パワープラント懸架系の共振周波数が大きくなり、内燃機関の回転数から算出される加振周波数から離れるため、共振域での振動を低減することができる。
【0015】
また、上記のパワープラントの振動低減機構において、前記拘束装置を電磁石と被吸引体から構成し、前記電磁石と前記被吸引体のどちらか一方を前記支持装置の前記パワープラント側の一端、又は前記基台側の一端に固定すると共に、他方を前記電磁石からの磁力が届く範囲に配置する。
【0016】
加えて、上記のパワープラントの振動低減機構において、前記被吸引体を、前記支持装置と、前記パワープラント又は前記基台との間に介設されるマウントブラケットで形成する。
【0017】
これらの構成によれば、拘束装置を電磁石が被吸引体を吸引することで、マウント装置のばね剛性を上げることができる。例えば、車両フレーム(基台)側のマウントブブラケットに固定した電磁石に通電して磁力を発生させ、その磁力によりエンジン側のマウントブラケットを吸引して、マウント装置のばね剛性を上げることができる。そのため、パワープラント共振を起こさないでエンジンを始動、停止させることができる。また、既存の構成に電磁石の磁力によってマウントブラケットを吸引するように構成すればよいため、設置が容易で、且つコストも抑えることができる。
【0018】
さらに、上記のパワープラントの振動低減機構において、
前記制御装置を、前記内燃機関に搭載したアイドリングストップシステムと連動し、前記アイドリングストップシステムによって、前記内燃機関が停止、又は始動するときに、
前記電磁石により前記被吸引体を吸引する制御を行う構成にした。
【0019】
この構成によれば、アイドリング時から停止する場合、エンジンの回転数を落としていくと同時に、電磁石に通電し、マウントブラケットに対する吸引力によりマウント装置の動きを拘束する。その結果、マウント装置のばね剛性が瞬時に上がり、パワープラント懸架系の共振周波数がアイドリング時の周波数より上昇し、エンジン停止持のパワープラント振動の悪化が大幅に低減できる。また、エンジン始動時では、停止時とは逆の行程を行う。即ち、エンジン始動前に電磁石に通電して吸引力を発生させ、マウント装置のばね剛性を上げておき、パワープラント共振を起こさないで始動し、エンジン回転がアイドル状態まで上がったら、電磁石の通電を解除して、マウント装置のばね剛性を下げることができる。
【0020】
上記の目的を達成するための車両は、上記に記載のパワープラントの振動低減機構を搭載して構成される。この構成によれば、既存のパワープラントのマウント装置に対して、小規模な追加構成で、上記の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、パワープラントを支持する支持装置の配置をそのままに、小規模な追加により、車両のエンジン始動と停止時の振動悪化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る第1の実施の形態のパワープラントの振動低減装置を示した側面図である。
【
図2】
図1のII−IIで示した、矢視図であり、(a)にパワープラントの振動低減装置を示し、(b)にラバーマウントと拘束装置を示す。
【
図3】本発明に係る第1の実施の形態のパワープラントの振動低減装置の共振域を表す図である。
【
図4】本発明に係る第1の実施の形態のパワープラントの振動低減装置の制御方法を示したフローチャートである。
【
図5】本発明に係る第2及び第3の実施の形態のパワープラントの振動低減装置を示す図であり、(a)に第2の実施の形態を示し、(b)に第3の実施の形態を示す。
【
図6】従来のパワープラントとマウント装置を示した側面図である。
【
図7】
図6のVII−VIIを示した矢視図であり、(a)にパワープラントとラバーマウントの振動を示し、(b)にラバーマウントの動きを示す。
【
図8】従来のパワープラントとラバーマウントの共振域を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態のパワープラントの振動低減装置とそれを搭載する車両について、図面を参照しながら説明する。なお、
図6及び
図7に示した従来のパワープラント1とマウント装置10と同一の構成及び動作については同一
の符号を用いて、その説明を省略する。また、本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態のパワープラントの振動低減装置の支持装置をラバーマウントで説明しているが、本発明の支持装置はラバーマウントに限らずに、液体封入式マウント装置や油圧式アクティブマウント装置などでもよい。
【0024】
加えて、パワープラントとラバーマウントの配置は、パワープラントの重心を支持する重心支持方式を用いて説明するが、ラバーマウントの配置は限定しない。例えば、他にもトルクロール軸方式や、ペンデュラム方式の配置でも適用できる。さらに、ラバーマウントの配置数や、パワープラントに対して縦置きや横置きなどの置き方についても限定しない。
【0025】
本発明に係る第1の実施の形態のパワープラント1の振動低減装置10は、
図6及び
図7で示した従来の構成に、
図1に示すように、電磁石31と電磁石31を支える支柱32と電磁石31の磁力により吸引される被吸引体であるエンジン側マウントブラケット12とからなる拘束装置30を追加する。また、電磁石31に通電し、磁力の発生を制御するECU(制御装置)40を備える。
【0026】
ラバーマウント11を、ゴム弾性を有した合成樹脂で形成し、パワープラント1のエンジン2と車両フレーム6との間に配置する。また、ラバーマウント11を、エンジン側マウントブラケット12を介してエンジン2と接合し、車両フレーム側マウントブラケット13を介して車両フレーム6と接合する。
【0027】
このラバーマウント11は、エンジン2を含むパワープラント1からの起振に対して、自身が減衰運動を行い、振動を低減する。このラバーマウント11は、上記の構成に限らず、振動を減衰させるものであればよく、液体を封入した油圧式マウント装置を用いてもよい。このラバーマウント11を
図1に図示されていないエンジン2の反対側にも同様に備える。
【0028】
被吸引体でもあるエンジン側マウントブラケット12は、
図2の(a)に示すように、エンジン2に溶接などで取り付けられた固定用金具である。この、エンジン側マウントブラケット12を強化プラスチックなどで形成することもできるが、その場合は少なくとも、一部を磁力によって吸引される金属で形成する。また、一部を永久磁石で形成することもできる。車両フレーム側マウントブラケット13も、エンジン側マウントブラケット12と同様に車両フレーム6に取り付けられた固定用金具である。ラバーマウント11とエンジン側マウントブラケット12又は車両フレーム側マウントブラケット13を、加硫接着又はボルトなどによって接合する。
【0029】
電磁石31は、磁性材料の芯のまわりに、コイルを巻き、通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石であり、電流を止めると磁力の発生も止まる。この電磁石31は周知の技術のものを使用できる。支柱32の一端に電磁石31を設け、支柱32のもう一端を車両フレーム側マウントブラケット13に固定する。そして、支柱32が、電磁石31をエンジン側マウントブラケット12へ磁力が届く範囲になるように、電磁石31を支持する。この構成によれば、既存の構成に、電磁石31を備えるだけで、拘束装置30となり得るため、設置が容易で、コストも抑えることができる。
【0030】
ECU40は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってパワープラント1全体の制御を担当している電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。オートマチック車においては、ECU40にあらゆる運転状態における最適制御値を記憶させ、その時々の状態をセンサで検出し、センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出し各機構を制御している。このECU4
0と電磁石31とは電気を移送する電線で接続され、電磁石31に電流を流し、磁力を発生させる制御を行っている。また、このECU40は、アイドリングストップシステムの制御も行っている。
【0031】
次に、上記のパワープラント1の振動低減装置10の動作について説明する。エンジン2が始動、又は停止するときに、ECU40は電磁石31へ電流を流す。そして、電磁石31に磁力が発生して、エンジン側マウントブラケット12を吸引する。これにより、エンジン側マウントブラケット12を固定することができる。ラバーマウント11の一端はエンジン側マウントブラケット12に接合されているため、ラバーマウント11の一端の動きを拘束することになる。よって、ラバーマウント11全体のばね剛性を上げることができる。
【0032】
この動作によれば、エンジン2が始動又は停止するときに発生する振動を、電磁石31の磁力により、エンジン側マウントブラケット12を吸引することで、ラバーマウント11のばね剛性を上げることができる。そのため、パワープラント1の振動の悪化を大幅に低減することができる。また、既存の構成の、車両フレーム側マウントブラケット13に電磁石31を支柱32を介して接合するだけで、上記の作用効果を得ることができる。
【0033】
このパワープラント1の振動低減装置10は、
図1に示す、ラバーマウント20にも適用することができる。この振動低減装置10は、パワープラント1に配置されたラバーマウント10及び20の全てに設けることができる。
【0034】
上記の動作の結果を、
図3に示す。エンジン2が停止するときは、ラバーマウント11の防振域から共振域を通る。このときに、拘束装置30によって、ラバーマウント11のばね剛性を上げることで、
図3に示すように、パワープラント1の懸架系の共振周波数が大きくなり、エンジン2からの加振周波数と離すことができる。そのため、パワープラント1の振動を低減することができる。
【0035】
エンジン2が始動するときは、ラバーマウント11の共振域から始まり、防振域に入る。よって、停止時と同様に拘束装置30によって、ラバーマウント11のばね剛性を上げることで、パワープラント懸架系の共振周波数を上昇させることができる。これによりエンジン2の始動、又は停止時のパワープラント1の振動の悪化を大幅に低減することができる。
【0036】
次に、本発明に係る第1の実施の形態のパワープラント1の振動低減装置10をアイドリングストップシステムと連動したときの制御方法を、
図4を参照しながら、説明する。アイドリングストップシステムとは信号停止中や渋滞中にエンジンを自動的に停止するシステムのことである。
【0037】
まず、車両を停止する操作をしたか否かを判断するステップS1を行う。ステップS1で車両を停止する操作をしたと判断されると、次に、エンジン2の停止を開始するステップS2を行う。このステップS1からステップS2の間に車両が何秒間停止しているか判断するステップを追加してもよい。このステップS2により、エンジン2の停止が開始され、エンジン2の回転数が落ちていく。次に、エンジン2の回転数がアイドル時の回転数よりも小さくなるか否かを判断するステップS3を行う。ステップS3でエンジン2の回転数がアイドル時のエンジン2の回転数よりも大きい場合は、再度ステップS2に戻る。
【0038】
ステップS2で、エンジン2の回転数がアイドル時のエンジン2の回転数以下になったと判断されると、次の電磁石31に通電するステップS4を行う。通電された電磁石31は、エンジン側マウントブラケット12を吸引して、その結果、ラバーマウント11のば
ね剛性が上がる。このラバーマウント11のばね剛性が上がった状態は、エンジン2の停止まで続き、パワープラント1懸架系の共振域の周波数と、エンジン2の回転数から算出される加振周波数を離すことができる。次に、エンジン2が完全に停止するステップS5が完了すると、次の電磁石31への通電を停止するステップS6を行う。
【0039】
次に、車両の発進操作が行われた否かを判断するステップS7を行う。ステップS7で車両の発進操作が行われたと判断されると次に、電磁石31に通電するステップS8を行う。電磁石31への通電が開始されると、電磁石31の磁力によりエンジン側マウントブラケット12を吸引する。これにより、ラバーマウント11のばね剛性が上がる。ラバーマウント11のばね剛性が上がると次に、エンジンの始動を開始するステップS9を行う。次に、エンジン2の回転数がアイドル時の回転数よりも大きくなるか否かを判断するステップS10を行う。エンジン2の回転数がアイドル時の回転数よりも小さい場合は、再度ステップS9へと戻る。ステップS10でエンジン2の回転数がアイドル時のエンジン2の回転数以上と判断されると、電磁役31への通電を停止するステップS11を行いこの制御は完了する。
【0040】
上記の制御方法によれば、アイドリング時から停止する場合は、エンジン2の回転数を落としていくと略同時に、電磁石31に通電し、エンジン2の停止時のパワープラント1の振動の悪化を大幅に低減できる。また、停止状態のエンジン2を始動する場合は、停止時とは逆の行程を行う。即ち、エンジン2の始動前に電磁石31に通電して吸引力を発生させ、ラバーマウント11のばね剛性を上げておく。そして、パワープラント1の共振を起こさせないで始動し、エンジン2の回転数がアイドル状態まで上がったら、電磁石31の通電を解除して、ラバーマウント11のばね剛性を下げる。
【0041】
これにより、エンジン2の停止、又は始動時には、ラバーマウント11のばね剛性を上げて、パワープラント1懸架系の共振周波数を大きくすることができるので、パワープラント1の振動を低減することができる。一方、エンジン2のアイドル時は、ラバーマウント11が通常のばね剛性であり、防振域で振動を低減することができる。
【0042】
次に、本発明に係る第2及び第3の実施の形態のパワープラント1の振動低減装置について、
図5を参照しながら、説明する。本発明に係る第2の実施の形態のパワープラント1の振動低減装置10は、前述した
図1に示す、構成を、逆にした構成である。
図5の(a)に示すように、拘束装置50を、電磁石51、支柱52、及び車両フレーム側マウントブラケット13で構成する。この構成によれば、電磁石51によって、車両フレーム側マウントブラケット13を吸引して、ラバーマウント11のばね剛性を上げることができるので、前述と同じ作用効果を得ることができる。
【0043】
次に、本発明に係る第3の実施の形態のパワープラント1の振動低減装置10は、
図5の(b)に示すように、拘束装置60をエンジン側マウントブラケット12に固定した電磁石61と、車両フレームマウントブラケット13に固定した被吸引体となる支柱62とから構成する。これにより、前述と同じ作用効果を得ることができる。
【0044】
本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態のパワープラント1の振動低減装置10は、拘束装置として、電磁石を用いて説明したが、ラバーマウント11の一端を拘束して、ラバーマウント11のばね剛性を上げることができればよく、その構成は上記の構成に限定しない。
【0045】
本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態のパワープラント1の振動低減装置10を搭載した車両は、既存のパワープラント1のラバーマウント11の配置に対して、小規模な追加により前述した作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のパワープラントの振動低減装置は、エンジンの始動、又は停止時に電磁石の吸引力によって、支持装置の動きを拘束して、ばね剛性を上げることができる。これにより、エンジン懸架系の共振域の周波数とエンジン回転数から算出される加振周波数を離し、パワープラントの振動を低減することができるため、トラックなどの大型車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 パワープラント
2 エンジン(内燃機関)
3 クラッチ
4 トランスミッション(変速装置)
5 アウトプットシャフト
6 車両フレーム
10 振動低減装置
11 ラバーマウント(支持装置)
12 エンジン側マウントブラケット
13 車両フレーム側マウントブラケット
30 拘束装置
31 電磁石
32 支柱
40 ECU(制御装置)