(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の熱処理装置や加熱コイルでは、一つの多軸部材に設けられた多数の軸部を熱処理すると、各軸部における加熱時及び冷却時の微少の変形が互いに影響し合い、各軸部の振れが増加することが明らかになった。多軸部材に負荷される荷重が大きい場合や各軸部における加熱状態が不均一な場合には、その傾向が大きかった。
【0006】
例えば上記文献1では、段落番号0033に記載されているように、全長1500mmのクランクシャフトの焼き入れした場合、焼き入れ後の曲がりが0.45mmとなり、0.9mm程度の振れが生じていた。
特許文献2では、表1に示されているように、4気筒クランクシャフトの焼き入れ前の曲がりが0.09〜0.10mmで、振れが0.18〜0.20mmであったものが、焼き入れ後には0.16mm〜0.20mmの曲がりで、0.36〜0.40mmの振れになっていた。
特許文献3では、表2に示されているように、4気筒クランクシャフトの焼き入れ前の曲がりが0.11mmで、振れが0.22mmであったものが、ピン部及びジャーナル部の焼き入れ後には曲がりが0.17mmで、振れが0.34mmとなっていた。
【0007】
そこで、本発明は多軸部材の複数の軸部を熱処理する際、振れの増加を抑えることができる多軸部材の熱処理装置を提供すると共に、そのような熱処理装置に適した加熱コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する多軸部材の熱処理装置は、複数の軸部が軸線の向きを揃えて一方向に配置された多軸部材における各軸部を熱処理する装置であり、各軸部の軸線が略垂直となるように多軸部材を全長の両端側で支持する支持機構と、軸部を誘導加熱する加熱コイルと、
多軸部材と加熱コイルとの相対位置を調整する位置合わせ機構と、を備え、加熱コイルは、多軸部材の軸部を環状に囲む分割コイルを備え、分割コイルが軸線に対して交差方向に開閉可能であり、
位置合わせ機構は、支持機構により多軸部材を上下動させることで、加熱コイルに対する軸部の位置を軸線方向に調整し、支持機構により多軸部材を回動することで、加熱コイルに対する軸部の位置を軸線の交差方向に調整するようになっている。
【0009】
この多軸部材の熱処理装置では、支持機構により多軸部材を非回転に支持した状態で、加熱コイルにより軸部を誘導加熱するのがよい。
この多軸部材の熱処理装置では、
複数の軸部における軸線の少なくとも一つは、多軸部材の中心軸線に対して偏心している。
この多軸部材の熱処理装置では、支持機構は上部支持部及び下部支持部を備え、位置合わせ機構は上部支持部及び下部支持部を所定間隔に保ちつつ上下動可能である。
加熱コイルを移動可能に支持する加熱コイル移動部を備え、加熱コイルは分割コイルを有し、互いに近接して接続すると共に互いに離間して分離する複数に分割されたコイル構成部品の組立体を備えている。
この位置合わせ機構は、支持機構に支持された多軸部材の軸部における外表面の位置を検知する検知器を有し、検知器の検知結果に基づいて軸部の位置を調整するのがよい。
【0010】
上記目的を達成する加熱コイルは、
上述のような多軸部材の熱処理装置に用いられ、互いに近接して接続すると共に互いに離間して分離する複数に分割されたコイル構成部品の組立体からなり、各コイル構成部品は、略1周の第1環状路を形成するように接続可能な第1分割コイルと、第1環状路と略同形状の第2環状路を形成するように接続可能な第2分割コイルと、第1分割コイル及び第2分割コイルを離間して並べた状態で支持される支持体と、コイル構成部品の両端側に設けられて分割されたコイル構成部品同士を接続する接続部とを備え、各接続部を接続することで、第1分割コイル及び第2分割コイルがそれぞれ接続されて第1環状路及び第2環状路を形成すると共に第1環状路及び第2環状路が直列に接続される加熱コイルであって、互いに接続される接続部の一方は、凹部を形成するように板状片がコイル構成部品の移動方向に突出して雌型接続部を構成し、他方は凹部に嵌合可能な板状片が移動方向に突出した雄型接続部を構成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多軸部材の熱処理装置によれば、支持機構により各軸部の軸線が略垂直となるように多軸部材を支持して、加熱コイルにより各軸部を加熱するので、各軸部に自重が略鉛直方向に負荷された状態で加熱できる。そのため各軸部に軸線と交差方向に負荷される荷重を極力小さくでき、加熱時の表面温度で変形が生じ易い状態となっても、各軸部の振れを小さく抑えることができる。
また支持機構により多軸部材を全長における両端側で支持して、分割コイルを軸線に対して交差方向に開閉させることで、各軸部を分割コイルで環状に囲むことができる。そのため複数の軸部を加熱する際に多軸部材を支持し直す必要がなく、その分多軸部材の複数の軸部を精度よく熱処理することができる。
【0012】
本発明の加熱コイルによれば、複数に分割されたコイル構成部品の接続部の一方には、凹部を形成するように板状片がコイル構成部品の移動方向に突出して雌型接続部を構成し、他方には凹部に嵌合可能な板状片がコイル構成部品の移動方向に突出して雄型接続部を構成している。そのため、コイル構成部品が閉じて第1及び第2環状路が形成された状態では、雄型接続部が雌型接続部に嵌合して十分な接触面積を容易に確保できる上、コイル構成部品を十分な強度で接合することができる。それ故第1及び第2環状路をそれぞれ第1分割コイル及び第2分割コイルにより分割して形成していても、所定形状に第1及び第2環状路を精度よく形成でき、相対位置の微少なズレが生じることを確実に防止できる。
その結果、分割コイルを離接させてワークを加熱する熱処理装置で精度よく熱処理を行うことが可能であり、上述のような多軸部材の熱処理装置に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図を用いて詳細に説明する。
[多軸部材]
本発明の多軸部材は、一方向に互いに隣接又は離間して配置された複数の軸部を有し、各軸部の軸線の向きがその一方向に沿うように揃えられた部材である。
この多軸部材の多くは使用時に回転中心となる中心軸線を有し、この中心軸線と直交する方向に軸部同士が重ならないように、中心軸線に沿う方向に複数の軸部が互いに隣接又は離間して配置されている。各軸部の軸線は中心軸線と略同軸となる位置或いは偏心した位置に配置されている。なお中心軸線は基準となる仮想の直線であり、使用時に回転しない多軸部材の場合、例えば一軸方向の投影形状における中心又は重心であってもよい。
【0015】
このような多軸部材としては、例えば互いに異なる形態を有する複数の軸部が一軸方向に軸線の向きを揃えて配置された部材や、互いに略同じ形態を有する複数の軸部が一軸方向に軸線の向きを揃えて互いに離間して配置された部材であってもよい。ここで形態とは、例えば一軸方向における断面形状、該一軸方向と直交する方向における位置、周方向における向きなどである。
【0016】
具体的には、
図1に示すように、複数の軸部11と、隣り合う軸部11同士を偏心させて連結する複数の偏心部12とが、中心軸線Lcに沿う方向に配置されたクランクシャフトのような多軸部材10であってもよい。
また
図2(a)に示すように、互いに形状、位置又は位相が異なる複数の軸部11が、一軸方向に隣接又は離間して配置されたカムシャフトのような多軸部材10であってもよい。図では断面円形の軸部11と断面略長円形状の軸部11とが、中心軸線Lcに沿って交互に隣接して配置されており、断面略長円形状の軸部11同士の位相が互いに異なっている。
さらに
図2(b)に示すように、互いに形状、位置及び位相が略同じ複数の軸部11が、一軸方向に離間して配置されたカムシャフトのような多軸部材10であってもよい。図では、同じ断面略長円形を有する複数の軸部11がそれぞれ同じ位相で、中心軸線Lcに沿って互いに離間して配置されている。
【0017】
これらの多軸部材10では、少なくとも一部の軸部11が中心軸線Lcに対して非対称となる表面形状を有しているのがよい。中心軸線Lcに対して非対象となる表面形状とは、例えば中心軸線Lcに対して線対称とならない形状である。
【0018】
多軸部材10における複数の軸部11は、熱処理される部位となっている。各軸部11における熱処理される領域は各軸部11の表面であり、周方向の一部であってもよいが、全周であるのが好適である。また軸方向の一部であっても、略全長であってもよい。
【0019】
各軸部11の形状は、軸線と直交する断面が円形であっても、非円形であってもよい。非円形の場合、後述するように、多軸部材10を非回転状態で加熱することで容易に均一に加熱できる。非円形の断面形状は、例えば楕円形状やカム等のように、曲線が連続した各種の形状であっても、三角形、四角形等の多角形であってもよい。また中空軸形状であってもよく、中実軸形状であってもよい。
なお軸線と直交する断面形状が軸線に沿って一定の柱状又は板状であるのがよいが、テーパ形状等のように断面形状が軸線に沿って変化するものであっても、後述する加熱コイルにより熱処理可能である。
【0020】
本実施形態の熱処理装置を以下で説明するため、多軸部材10の例として
図1に示すものを用いる。他の形態の多軸部材であっても同様に適用可能である。
図1では、互いに略同じ方向の軸線Lc,Leを有する複数の軸部11と、隣り合う軸部11同士を偏心させて連結する複数の偏心部12と、を備えて、一方向に長尺に形成された部材である。図では、軸部11及び偏心部12の数を省略して記載している。
この多軸部材10は中心軸線Lcに対して各軸部11が同心又は偏心して配置され、各軸部11及び偏心部12の配置及び形状により中心軸線Lc周りの重量バランスが釣り合っている。また複数の軸部11の偏心軸線Leと中心軸線Lcとの間の距離が等しくなっている。そして中心軸線Lc及び偏心軸線Leは略平行となっている。
【0021】
各軸部11には、中心軸線Lcを中心に形成されたジャーナル軸部11と、偏心軸線Leを中心に形成されたピン軸部11とが含まれている。ジャーナル軸部11とピン軸部11とは長手方向に交互に設けられている。各軸部11はそれぞれ円柱形状を有し、ジャーナル軸部11がピン軸部11より太く形成されている。
【0022】
偏心部12は、それぞれ各軸部11の軸線Lc,Leに対して直交方向に配置された略板状に形成されている。偏心部12の側面は、軸部11付近を除いて軸線Lc,Leと直交する平面となっている。なお詳細な図示は省略しているが、各偏心部12には中心軸線Lcに対してピン軸部11の反対側にウエイトが形成されている。
【0023】
[熱処理装置の全体構成]
熱処理装置20は、多軸部材10の各軸部11を熱処理する装置である。
図3及び
図4に示すように、熱処理装置20は、コラム部21と、コラム部21に装着されて多軸部材10を略鉛直に配置して支持する支持機構22と、支持機構22に支持された多軸部材10を加熱する加熱コイル30を備えた加熱冷却機構23と、多軸部材10と加熱コイル30との相対位置を調整する位置合わせ機構24と、を備えている。
【0024】
[支持機構]
支持機構22は、
図1及び
図3に示すように、複数の軸部11の軸線Lc,Leが略鉛直となるように多軸部材10の全長の両端側を支持するもので、コラム部21に上下一対設けられている。
この支持機構22は上部支持部22aと下部支持部22bとを備え、それぞれ多軸部材10の両端部を中心軸線Lcが中心となるように支持する。上部支持部22aは略円錐形状に形成され、多軸部材10の上端部に設けられたテーパ穴13に当接して支持する。下部支持部22bは中心軸線Lcに対して直交方向に設けられた複数の爪により下端部を周囲からチャックして支持する。
ここでは支持機構22により多軸部材10を支持すると、中心軸線Lcを略鉛直方向に配向した状態で多軸部材10がしっかりと固定される。その際、中心軸線Lc方向の圧縮力は多軸部材10が確実に静止できる範囲で過剰に負荷されないようにするのがよい。
【0025】
[加熱冷却機構]
加熱冷却機構23は、軸部11を誘導加熱する加熱コイル30と、加熱コイル30を移動可能に支持する加熱コイル移動部25と、を備える。
加熱コイル30は、
図5及び
図6に示すように、中心軸線Lcに対して略直交方向となる水平方向に相対移動することで複数に分割されたコイル構成部品31の組立体を備える。
コイル構成部品31は、絶縁材等からなる支持体32と、支持体32に支持された第1分割コイル33及び第2分割コイル34と、支持体32の両面を覆うと共に第1分割コイル33及び第2分割コイル34の側面を覆う絶縁プレート35と、これらを着脱可能に支持する枠部36と、を備える。
第1分割コイル33及び第2分割コイル34は支持体32に支持されることで、互いに離間して略平行に並べた状態で一体化されている。
【0026】
コイル構成部品31の第1分割コイル33及び第2分割コイル34は、略同一形状でそれぞれ多軸部材10の各軸部11の形状に対応した半円形状部37と、半円形状部37の一端側から延長された一端側リード部38と、半円形状部37の他端側から延長された他端側リード部39と、各リード部38,39に設けられた接続部40と、を備える。
一端側リード部38と他端側リード部39とに設けられた各接続部40は、それぞれコイル構成部品31の両端側に、対向する開閉方向に離接可能に配置されている。
【0027】
接続部40は、
図7(a)(b)に示すように、板状片41が凹部42を形成するように上下に離間してコイル構成部品31の開閉方向に突出した雌型接続部40と、凹部42に嵌合可能な板状片41が開閉方向に突出した雌型接続部40とを備える。図中の符号43は絶縁材料である。
図5に示すように、他端側リード部39の接続部40が接続されると、第1分割コイル33が接続されて略1周の第1環状路が形成される。また第2分割コイル34が接続されて略1周の第2環状路が形成される。
一端側リード部38の接続部40が接続されると、第1分割コイル33の一端側と第2分割コイル34の一端側とが接続される。これにより、
図8に示すように、第1環状路と第2環状路とが直列に接続され、2ターンの加熱コイル30が構成される。
残りの第1分割コイル33の一端側リード部38と第2分割コイル34の一端側リード部38とには図示しない電力供給部が接続されている。
【0028】
この第1分割コイル33及び第2分割コイル34は、
図6(a)に示すように、導電性の中空多角形パイプにより形成されており、それぞれコイル冷却用の冷却水の導入口及び排出口が設けられている。
また支持体32には、
図6(a)(b)に示すように、内部にワーク冷却用の冷却水通路44が設けられており、焼き入れ処理する際、第1分割コイル33の半円形状部37と第2分割コイル34の半円形状部37との間に設けられた多数の吐出口45から冷却水を軸部11に吐出可能となっている。この吐出口45はそれぞれ半円形状部37に沿う長孔形状に形成されており、非回転状態の軸部11に対して広い範囲に冷却水を吹き付けることで、均一な冷却を可能にしている。
【0029】
加熱コイル移動部25は、
図9(a)(b)に示すように、コイル構成部品31を各軸線Lc,Leに対して交差方向に開閉させるものであり、加熱コイル移動部25は、コイル構成部品31の一部が略水平に配置されたベース部46上のレールに移動可能に支持され、コイル構成部品31の他の一部がベース部46上に固定されて構成されている。
この加熱コイル移動部25では、コイル構成部品31の一部をコイル構造部材31の他の一部側に移動させることで、コイル構成部品31を近接させて接続部40を接続できる。これにより、
図1に示すように、加熱コイル30が偏心部12間に挿入された状態で、第1環状路及び第2環状路が軸部11を環状に囲むように形成される。
コイル構成部品31を逆方向に移動させることで、
図9(a)に示すように、接続部40の接続が解除され、分割コイル33,34を離間させて分離することで広く開口させることができる。
【0030】
[位置合わせ機構]
位置合わせ機構24は、支持機構22を動作させることで多軸部材10と加熱コイル30との相対位置を多軸部材10の軸線方向となる略鉛直方向と、軸線Lc,Leの交差方向となる略水平方向とに調整するように構成されている。この実施形態では、更に加熱冷却機構23を動作させることで水平方向の相対位置を調整することも可能となっている。
具体的には、位置合わせ機構24は、
図3及び
図4に示すように、コラム部21に対して支持機構22の上部支持部22aと下部支持部22bとをそれぞれ独立に上下動させるリフター51と、下部支持部22bを回動させる回転駆動部52と、加熱コイル移動部25のベース部46を水平方向に移動させるスライド駆動部53と、を備えている。
【0031】
この位置合わせ機構24は、支持機構22により多軸部材10を支持した状態で、リフター51により上部支持部22a及び下部支持部22bを所定間隔を保ちつつ上下動させることで、加熱コイル30に対する多軸部材10の位置を上下に調整することができる。また回転駆動部52により下部支持部22bを回動させることで、多軸部材10の偏心軸部11の位置を偏心量及び回動量に応じて水平方向に調整することができる。そして、多軸部材10の中心軸線Lcと上部支持部22a及び下部支持部22bの中心とが一致していない場合には、スライド駆動部53により加熱コイル30の位置を水平方向に調整することができる。
【0032】
この位置合わせ機構24には、多軸部材10の位置及び位相を検出するための検知器55が設けられており、支持機構22に支持された軸部11の外表面の位置を検知することで多軸部材10の位置及び位相の検出結果を得、この結果に基づいて位置合わせ機構24を精度よく制御する。
検知器55としては、例えば光電センサ等の非接触式ものであっても、マイクロゲージ、専用治具等による接触式のものであってもよい。
図4では光電センサの例を示している。
【0033】
[熱処理装置の動作]
このような熱処理装置20により多軸部材10の各軸部11の熱処理を行うには次のようにする。
まず、
図5に示すように、各軸部11の形状に応じた第1及び第2分割コイル34を有するコイル構成部品31を加熱冷却機構23に装着する。
図3に示すように、加熱冷却機構23のベース部46に固定されたコイル構成部品31を位置合わせ機構24により所定位置に配置する。このとき各半円形状部37の中心軸線Lcと支持機構22の上部支持部22a及び下部支持部22bの中心とを一致させる。
加熱コイル移動部25のレールに支持されたコイル構成部品31の一部を後退させて、分割コイル33,34間を拡開させる。この状態で支持機構22の上部支持部22aと下部支持部22bとにより、多軸部材10を中心軸線Lcが鉛直方向となるように支持させる。そして位置合わせ機構24のリフター51により上部支持部22aと下部支持部22bを上下動させ、熱処理対象となる軸部11の上下方向の位置を加熱コイル30の位置に一致させる。
【0034】
ジャーナル軸部11を熱処理する場合には、
図5に示すように、加熱コイル移動部25によりコイル構成部品31を移動させて、コイル構成部品31の接続部40を接続する。コイル構成部品31の接続部40が接続されると、
図8に示すように、2ターンの加熱コイル30が形成され、第1環状路及び第2環状路とジャーナル軸部11との間がそれぞれ略全周にわたり略均一のギャップとなる。
このとき接続部40では雌型接続部40の凹部42に雌型接続部40が嵌合されることで確実に接続することができる。また接続部40が接続されることで加熱コイル30全体が十分な剛性を確保できる。
【0035】
その後、図示しない電源から高周波電力が供給されることで、ジャーナル軸部11が誘導加熱される。このとき支持機構22により多軸部材10を非回転状態、即ち、静止した状態で支持したままにする。
所定時間の加熱が終了した段階で、給電を停止し、必要に応じて吐出口45から冷却水を吐出し、所定温度に降温することでジャーナル軸部11の熱処理を終了する。
【0036】
次に他の軸部11の熱処理を行うには、
図3に示すように、コイル構成部品31を移動させて広く開口させ、リフター51により上部支持部22aと下部支持部22bを上下動させ、次の熱処理対象となる軸部11の上下位置を加熱コイル30の位置に一致させる。
ピン軸部11を熱処理する場合には、支持機構22の回転駆動部52により下部支持部22bを回動させることで、ピン軸部11の位置を偏心軸線Leの交差方向に調整し、偏心軸線Leを所定の位相で配置する。このとき
図4に示すように、検知器55によりピン軸部11を所定位置で検知することで、精密に所定の位相に配置することが可能である。
なおピン軸部11がジャーナル軸部11と異なる形状の場合には、コイル構成部品31を適切なものに交換しておく。
その後、ジャーナル軸部11の熱処理と同様にしてピン軸部11の熱処理を行う。
【0037】
このようにして熱処理対象である全ての軸部11の熱処理を行い、その後支持機構22から多軸部材10を取り外し、多軸部材10の熱処理を終了する。
【0038】
[実施形態における作用効果]
以上のような熱処理装置20によれば、支持機構22により複数の軸部11の軸線Lc,Leが略鉛直となるように多軸部材10を支持して、加熱コイル30により各軸部11を加熱できるので、各軸部11に自重が略鉛直方向に負荷された状態で加熱できる。そのため各軸部11に負荷される軸線Lc,Leと交差方向の荷重を極力小さくすることができ、加熱時の表面温度で変形が生じ易い状態となっても、各軸部11の振れを小さく抑えることができる。
また支持機構22により多軸部材10の全長における両端側を支持し、位置合わせ機構24により多軸部材10と加熱コイル30との相対位置を調整すると共に、分割コイル33,34を中心軸線Lcに対して交差方向に開閉させることで、各軸部11を分割コイル33,34で環状に囲むことができる。そのため複数の軸部11を加熱する際に多軸部材10を支持し直す必要がなく、多軸部材10の複数の軸部11を精度よく熱処理することができる。
【0039】
この熱処理装置20では、支持機構22が多軸部材10を非回転状態で支持した状態で、加熱コイル30により軸部11を誘導加熱するため、回転による位置ずれや誤差等が生じるおそれがない。そのため位置合わせ機構24で精度よく各軸部11と加熱コイル30とを位置合わせすることで、軸部11材を高精度に加熱できる。しかも支持機構22は多軸部材10を所定位置や所定向きで精度よく配置できれば足り、多軸部材10を継続して精度よく回転させるための構造を設ける必要がない。そのため支持機構22を簡素化できる。その結果、支持機構22を簡素化させつつ高精度の熱処理が可能である。
【0040】
この熱処理装置20では、位置合わせ機構24が支持機構22を変位させることで、多軸部材10の位置を軸線Lc,Le方向及び軸線Lc,Leの交差方向に調整可能であるので、位置合わせ機構24の構成を簡素化できる。
【0041】
この熱処理装置20の加熱コイル30によれば、コイル構成部品31を接続するための接続部40として、板状片41が凹部42を形成するように離間してコイル構成部品31の開閉方向に突出した雌型接続部40と、凹部42に嵌合可能な板状片41がコイル構成部品31の開閉方向に突出した雌型接続部40とからなるものを用いている。そのため、コイル構成部品31が閉じて第1及び第2環状路が形成された状態では、十分な接触面積を容易に確保できる上、コイル構成部品31を十分な強度で接合することができる。これにより第1及び第2環状路を第1分割コイル33及び第2分割コイル34により形成していても、精度よく所定形状に第1及び第2環状路を形成でき、相対位置の微少なズレが生じることを確実に防止できる。
その結果、分割コイルを離接させてワークを加熱する熱処理装置で精度よく熱処理を行うことが可能であり、上述のような熱処理装置20に好適に使用することができる。
【0042】
なお、上記実施の形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば上記では、非回転状態で加熱する例について説明したが、この装置では位置調整時と同様にして多軸部材10を回転しつつ加熱してもよい。
上記では、各軸部11が断面円形の例について説明したが、この熱処理装置20では多軸部材10を非回転状態で加熱するため、各軸部11の断面形状は適宜選択でき、多角形形状であっても加熱コイル30により加熱可能であれば熱処理可能である。
上記では、一つの加熱コイル30により軸部11を一つずつ誘導加熱した例について説明したが、複数個の加熱コイルを上下に軸部11の配置間隔に合わせて配置することで、複数の軸部11を同時に加熱処理することも可能である。その場合、同時に加熱処理する軸部11が互いに偏心している場合には、それに応じて加熱コイル30を予め偏心位置に配置すればよい。
さらに2個のコイル構成部品31に分割コイルを2本配置した例について説明したが、3個以上のコイル構成部品であってもよく、分割コイルの数も適宜変更可能である。例えば1ターンでよければ分割コイルを1本配置すればよく、所望のターン数に応じて分割コイルの数を調整することで各種の加熱コイル30を構成することも可能である。また分割コイルを支持する支持体32は全体が絶縁材からなるものでも、分割コイルとの間に絶縁材が配置されていてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明する。
この実施例では、5個のジャーナル軸部11(J1〜J5)と4個のピン軸部11(P1〜P4)とを備え、略同一形状に形成された6本の多軸部材10を、上記実施形態の熱処理装置20を用いて熱処理し、各軸部11の振れを測定した。
【0044】
多軸部材10の材質はSCM440Cであり、全長が500mm、各ジャーナル軸部11の直径が54mm、長さが25mmであり、ピン軸部11の直径が48mm、長さが22mmであった。
熱処理は、一方の端部側のピン軸部11から順次4個のピン軸部11を熱処理し、その後一方の端部側のジャーナル軸部11から順次5個のジャーナル軸部11を熱処理した。
熱処理条件は、ジャーナル軸部11については120KW、1.2secとし、ピン軸部11については100KW、1.2secとした。
振れの測定は、各軸部11の熱処理を行う毎に、5カ所のジャーナル軸部11について測定した。
結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0046】
表1から明らかなように、一つの軸部11についての熱処理を行うたびに、各ジャーナル軸部11の振れが変動している。そして、いずれの結果においても、本実施例では複数の軸部11の熱処理を行うことで、振れが増加することを防止できていた。
なお上記実施例では多軸部材10の材質としてSCM440Cを用いた例について説明したが、他の材料であってもよく、例えばS40C等の他の鉄鋼材料であっても同様の結果を得られることは言うまでもない。