特許第5887893号(P5887893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887893
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】内服液剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/404 20060101AFI20160303BHJP
   A61K 31/4045 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 31/422 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20160303BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   A61K31/404
   A61K31/4045
   A61K31/4196
   A61K31/422
   A61K31/454
   A61K9/08
   A61K47/12
   A61K47/18
   A61P25/06
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-264412(P2011-264412)
(22)【出願日】2011年12月2日
(65)【公開番号】特開2012-136512(P2012-136512A)
(43)【公開日】2012年7月19日
【審査請求日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-275317(P2010-275317)
(32)【優先日】2010年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山地 貴之
(72)【発明者】
【氏名】畑中 大
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅
【審査官】 深谷 良範
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/072353(WO,A1)
【文献】 特表2000−516262(JP,A)
【文献】 特表2010−534660(JP,A)
【文献】 特開平07−304670(JP,A)
【文献】 特開2004−196824(JP,A)
【文献】 特開平03−041033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/,31/,47/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザトリプタン、ゾルミトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩と、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料、さらにトリプトファンを配合したことを特徴とする内服液剤。
【請求項2】
クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料を、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩を含有する内服液剤に配合した際に生じる、前記トリプタンの安定性の低下を、トリプトファンを配合することにより抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプタンを配合してなる内服液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トリプタンとは、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタン等として知られているトリプタン系のセロトニン−1(5−HT1)受容体作動薬群であって、片頭痛の治療に優れた効果を示す。
【0003】
これらトリプタンの中でも薬物動態の違いにより即効性、有効性、持続性などが異なっており、治療の際に使い分けがなされている。ここで同じ錠剤で比較した場合、もっとも古くから用いられているスマトリプタンと比較して、リザトリプタンは即効性や有効性の点で優れており、また、ゾルミトリプタンは少ない投与量で効果を発揮するという特長を有している(非特許文献1)。
【0004】
現在までに、これらトリプタンは、錠剤、点鼻剤、注射剤などとして提供されているが(非特許文献2〜4)、内服液剤としては提供されていなかった。そこで、片頭痛の特性上、服用が容易であるトリプタンを配合した内服液剤が求められている。
【0005】
一方、内服液剤には、服用性向上の観点から、クエン酸又はその塩、リンゴ酸又はその塩などが配合されており、これら酸味料の添加が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】片頭痛治療薬(トリプタン系薬剤) 薬事 2007年3月(vol.49 No.3)
【非特許文献2】イミグラン(登録商標)錠50 医薬品インタビューフォーム、グラクソ・スミスクライン株式会社、発行2007年9月(改定第4版)http://glaxosmithkline.co.jp/club_GSK/if/pdf/imigran_tab.pdf
【非特許文献3】イミグラン(登録商標)点鼻液20 医薬品インタビューフォーム、グラクソ・スミスクライン株式会社、発行2007年4月(改定第2版)http://glaxosmithkline.co.jp/club_GSK/if/pdf/imigran_nas20.pdf
【非特許文献4】イミグラン(登録商標)注3 医薬品インタビューフォーム、グラクソ・スミスクライン株式会社、発行2008年3月(改定第7版)http://glaxosmithkline.co.jp/club_GSK/if/pdf/imigran_kit_sci.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、トリプタンを含有する内服液剤にクエン酸などの酸味料を配合したところ、トリプタンの安定性が低下することを確認した。
【0008】
よって、本発明は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料を配合したトリプタン含有内服液剤において生じる、トリプタンの安定性の低下を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸味料を配合したトリプタン含有内服液剤に、トリプトファンを配合することにより、トリプタンの安定性が、酸味料を配合しない場合の内服液剤での安定性と同程度であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は
(1)トリプタン又はその薬理上許容される塩と、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料、さらにトリプトファンを配合したことを特徴とする内服液剤、
(2)トリプタンがリザトリプタン、ゾルミトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択される(1)に記載の内服液剤、
(3)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料を、トリプタン又はその薬理上許容される塩を含有する内服液剤に配合した際に生じる、トリプタンの安定性の低下を、トリプトファンを配合することにより抑制する方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、トリプタンを含有する内服液剤に酸味料を配合した際に生じる、トリプタンの安定性の低下を抑制することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるトリプタンとは、片頭痛治療剤リザトリプタン(即ち、3−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−5−(1H−1、2、4−チアゾール−1−メチル)インドール)、片頭痛治療剤ゾルミトリプタン(即ち、(S)−4−({3−[2−(ジメチルアミノエチル)]−1H−インドール−5−イル}メチル)−2−オキサゾリジノン)、片頭痛治療剤スマトリプタン(即ち、3−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−N−メチルインドール−5−メタンスルホンアミド)、片頭痛治療剤エレトリプタン(即ち、(+)−(R)−3−(1−メチルピロリジン−2−イルメチル)−5−(2−フェニルスルホニルエチル)−1H−インドール)、片頭痛治療剤ナラトリプタン(即ち、N−メチル−2−[3−(1−メチルピペリジン−4−イル)−1H−インドール−5−イル]エタンスルホンアミド)等が挙げられる。
【0013】
本発明における薬理上許容される塩とは、酢酸塩、カルシウム塩、クエン酸塩、ジエタノールアミン塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、リジン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、コハク酸塩、安息香酸塩などを挙げることができる。
【0014】
本発明におけるトリプタン又はその薬理上許容される塩の含有(配合)量は、目的に応じ適宜選択し使用できる。例えば、0.01mg/mL〜10mg/mLの範囲でトリプタン又はその薬理上許容される塩を含有することが好ましい。
【0015】
本発明に使用する酸味料とは、食品加工や調理において酸味を与えるために使われる物質で、各種の有機酸やその塩を指す。例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸が挙げられ、好ましくはクエン酸、リンゴ酸、酒石酸である。
【0016】
本発明に使用するトリプトファンとは、芳香族アミノ酸に分類され、必須アミノ酸の一つである。
【0017】
本発明に使用するトリプトファンは、通常、天然型のL体であるが、非天然型のD体や、L体とD体の混合物を使用することもできる。
【0018】
なお、本発明のトリプトファンの含有(配合)量は、酸味料を配合した際に生じるトリプタンの安定性の低下を抑制する効果を有する範囲であれば特に制限はされないが、トリプタンの安定性を維持する上で、トリプタン1質量部に対して、0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。
【0019】
本発明の内服液剤の好ましいpHは2.5〜7.0であり、より好ましいpHは2.5〜5.0であり、もっとも好ましいpHは2.5〜4.0である。pHが2.5未満であると、酸味が強すぎて服用性の点で好ましくなく、pHが7.0を超える領域では、味が悪く商品性上好ましくないためである。pHの調整には、例えば、酢酸などの有機酸又は有機酸の塩、リン酸、塩酸などの無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基を用いることができる。
【0020】
本発明の内服液剤には、ビタミン類、ミネラル類、生薬、生薬抽出物などを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。また、必要に応じて甘味剤、着色剤、香料、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。これらの添加物等は、1種で単独に配合しても、2種以上を適宜組み合わせて配合してもよい。
【0021】
本発明の内服液剤を調製する方法は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されるものではなく、通常、各成分を適量の精製水で溶解した後、pH及び容量を、残りの精製水を加えて調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理する方法である。しかしながら、トリプタンの安定性を維持する上では、トリプタンとトリプトファンを溶解させた水溶液に酸味料を溶解させた水溶液を添加した後、混合し内服液剤を調製する方法か、或いはトリプトファンと酸味料を溶解させた水溶液にトリプタンを溶解させた水溶液を添加した後、混合して調製する方法が好ましい。
【0022】
本発明の内服液剤は、例えばシロップ剤、ドリンク剤などの医薬品や指定医薬部外品などとして提供することができる。
【実施例】
【0023】
以下に、試験例等を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0024】
試験例
(1)各内服液剤の調製
表1〜3に記載の処方の各成分を秤量して、精製水に溶解させ、pHを2.5、4.0及び5.0になるよう、かつ、内服液剤の全量が10mLとなるよう調整した。その後にガラス瓶に充填し、キャップを施して本発明の実施例1〜9及び比較例1〜12の内服液剤を得た。
【0025】
(2)試験方法
表1〜2に記載の実施例1〜9及び比較例1〜10で示す組成のリザトリプタン含有内服液剤を65℃の恒温槽中で14日間保存し、内服液剤中のリザトリプタン含有量をHPLCで測定した。安息香酸リザトリプタンを溶解させた直後の内服液剤中のリザトリプタン含有量に対して、65℃、14日間保存後の内服液剤中のリザトリプタン含有量(残存率)を計算した。また、表3の実施例10〜11及び比較例11〜12で示す組成のスマトリプタン及びゾルミトリプタン含有内服液剤を65℃の恒温槽中で14日間保存し、内服液剤中のスマトリプタン及びゾルミトリプタン含有量をHPLCで測定した。コハク酸スマトリプタン及びゾルミトリプタンを溶解させた直後の内服液剤中のスマトリプタン及びゾルミトリプタン含有量に対して、65℃、14日間保存後の内服液剤中のスマトリプタン及びゾルミトリプタン含有量(残存率)を計算した。結果を表1〜3に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
(3)結果
表1〜2に示す実験結果より、クエン酸を配合した比較例1では、65℃、14日間保存後の内服液剤中のリザトリプタンの残存率が低くなることが分かった。しかし、トリプトファンを配合した実施例1〜5では、クエン酸を配合した際に生じる内服液剤中のリザトリプタンの安定性の低下を抑制できていることが分かった。
【0029】
なお、トリプトファン以外のアミノ酸を配合した比較例2〜6では、内服液剤中のリザトリプタンの安定性の低下を抑制できていなかった。即ち、アミノ酸全てが内服液剤中のリザトリプタンの安定性の低下を抑制するわけではないことが分かった。
【0030】
リンゴ酸又は酒石酸を配合した比較例7〜8では、65℃、14日間保存後の内服液剤中のリザトリプタンの残存率が低くなることが分かった。しかし、トリプトファンを配合した実施例6〜7では、リンゴ酸又は酒石酸を配合した際に生じる内服液剤中のリザトリプタンの安定性の低下を抑制できていることが分かった。
【0031】
クエン酸を配合し、pHを2.5及び5.0にそれぞれ調整した比較例9〜10においても、65℃、14日間保存後の内服液剤中のリザトリプタンの残存率が低くなることが分かった。しかし、トリプトファンを配合した実施例8〜9では、対応するpHでもクエン酸を配合した際に生じる内服液剤中のリザトリプタンの安定性の低下を抑制できていることが分かった。
【0032】
【表3】
【0033】
表3に示す実験結果より、比較例11〜12の結果から、クエン酸を配合したスマトリプタン及びゾルミトリプタン配合内服液剤は、65℃、14日間保存後、内服液剤中のスマトリプタン及びゾルミトリプタンの残存率が低くなることが分かった。しかし、トリプトファンを用いた実施例10〜11では、クエン酸を配合しているにも関わらず、内服液剤中のスマトリプタン及びゾルミトリプタンの残存率の低下が抑制されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、長期に保存可能なトリプタン含有内服液剤を製造することが可能となったので、商品性の高いトリプタン含有内服液剤を医薬品や指定医薬部外品などの分野で提供することが期待される。