(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887906
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20160303BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20160303BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20160303BHJP
C08L 61/04 20060101ALI20160303BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K5/07
C08K5/098
C08L61/04
B60C1/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-274159(P2011-274159)
(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公開番号】特開2013-124309(P2013-124309A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】古行 真梨子
【審査官】
藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】
西独国特許出願公開第03100570(DE,A)
【文献】
特開昭57−109842(JP,A)
【文献】
特表2008−514761(JP,A)
【文献】
特開平01−257043(JP,A)
【文献】
特開平05−156091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L7/00−21/02
C08L61/04−61/16
C08K3/00−13/08
B60C1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、
p−ヒドロキシベンズアルデヒドを0.1〜5質量部、および
ノボラック型フェノール系樹脂を0.1質量部以上5質量部未満
配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、コバルト量が0.1〜0.5質量部となるように有機酸コバルトをさらに配合してなることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物を、ベルトコートゴムとして用いた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、高硬度であるタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車やトラック、バスなどの空気入りタイヤにおいては、カーカス層上にスチールコードからなるベルト層を設け、タイヤ走行中に受ける強い衝撃や荷重を負担するよう構成されている。このようなベルト層をコートするベルトコートゴムは、スチールコードとの良好な接着性および高硬度が求められている。
一方、高硬度化を達成するために、ゴム組成物にフェノール系樹脂とその硬化剤を配合する技術が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、タイヤ用ゴム組成物に求められている前記各特性は、依然として十分なレベルに到達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5226987号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、高硬度であるタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、天然ゴムを含むジエン系ゴムに対し、特定のベンズアルデヒド誘導体の特定量およびノボラック型フェノール系樹脂の特定量を配合することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、
下記式(1)で表わされるベンズアルデヒド誘導体を0.1〜5質量部、および
ノボラック型フェノール系樹脂を0.1質量部以上5質量部未満
配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【0006】
[化1]
【0007】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3は、いずれか1つが水酸基を表わし、他の2つが水素原子を表わす。)
前記式(1)で表わされるベンズアルデヒド誘導体
は、p−ヒドロキシベンズアルデヒドであ
る。
2.前記ジエン系ゴム100質量部に対し、コバルト量が0.1〜0.5質量部となるように有機酸コバルトをさらに配合してなることを特徴とする前記
1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
3.前記1
または2に記載のタイヤ用ゴム組成物を、ベルトコートゴムとして用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、天然ゴムを含むジエン系ゴムに対し、特定のベンズアルデヒド誘導体の特定量およびノボラック型フェノール系樹脂の特定量を配合することにより、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、高硬度であるタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)を必須成分とする。NRの配合量は、本発明の効果の観点から、ジエン系ゴム全体を100質量部としたときに、40〜100質量部が好ましく、60〜100質量部がさらに好ましい。なお、NR以外にも他のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0011】
(ベンズアルデヒド誘導体)
本発明で使用されるベンズアルデヒド誘導体は、下記式(1)で表わされる(以下、特定ベンズアルデヒド誘導体と言う)。
【0013】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3は、いずれか1つが水酸基を表わし、他の2つが水素原子を表わす。)
前記式(1)の範囲外のベンズアルデヒド誘導体、例えばR
1、R
2、R
3のすべてが水素原子であるベンズアルデヒドを使用した場合は、本発明の効果を奏することができない。
【0014】
中でも、スチールコードに対する接着性および硬度が顕著に増加するという観点から、前記特定ベンズアルデヒド誘導体は、p−ヒドロキシベンズアルデヒドであるのがとくに好ましい。
【0015】
(有機酸コバルト塩)
本発明では、スチールコードに対する接着性を高めるという観点から、有機酸コバルト塩を併用するのが好ましい。有機酸コバルト塩としては、例えばナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、ホウ酸ネオデカン酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト等を例示することができる。また、ホウ素を含む有機酸コバルト塩、例えばオルトホウ酸コバルト等も使用できる。
【0016】
(ノボラック型フェノール系樹脂)
本発明で使用するノボラック型フェノール系樹脂としては、例えばノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ノボラック型レゾルシン樹脂、これらのオイル変性物のいずれかあるいはそれらの混合物が挙げられ、中でも高硬度が得られるという観点から、ノボラック型クレゾール樹脂が好適である。
【0017】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、各種充填剤を配合することができる。充填剤としてはとくに制限されず、適宜選択すればよいが、例えばカーボンブラック、シリカ、無機充填剤等が挙げられる。無機充填剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0018】
(硬化剤)
本発明のゴム組成物は、硬化剤を配合することができる。硬化剤としてはノボラック型フェノール系樹脂を硬化可能なものであればよく、とくに制限されないが、例えば本発明の効果の観点から、ヘキサメチレンテトラミン、HMMM(ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物)、PMMM(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物)、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ−ホルムアルデヒドのポリマーおよびメラミンのN−メチロール誘導体からなる群から選択された1種以上が好ましい。
【0019】
(タイヤ用ゴム組成物の配合割合)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記特定ベンズアルデヒド誘導体を0.1〜5質量部およびノボラック型フェノール系樹脂を0.1質量部以上5質量部未満配合してなることを特徴とする。
前記特定ベンズアルデヒド誘導体の配合量が0.1質量部未満であると、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。
前記特定ベンズアルデヒド誘導体の配合量が5質量部を超えると、スチールコードに対する接着性が改善しない。
前記特定ベンズアルデヒド誘導体のさらに好ましい配合量は、0.5〜5質量部である。
前記ノボラック型フェノール系樹脂の配合量が0.1質量部未満であると、硬度が不足する。
前記ノボラック型フェノール系樹脂の配合量が5質量部以上であると、硬度および破断伸びが悪化する。
前記ノボラック型フェノール系樹脂のさらに好ましい配合量は、1〜3質量部である。
また、有機酸コバルト塩を使用する場合は、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、コバルト量が0.1〜0.5質量部となるように配合するのが好ましい。この範囲により本発明の効果が高まる。
なお、硬化剤を使用する場合は、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、1〜3.5質量部となるように配合するのが好ましい。
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0021】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スチールコードに対する良好な接着性および高硬度を有するという点から、とくに空気入りタイヤのベルト層をコートするベルトコートゴムに採用するのが好ましい。
また本発明のタイヤ用ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0023】
標準例、実施例1〜3および比較例1〜9
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)と硬化剤を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、タイヤ用ゴム組成物を得た。得られたタイヤ用ゴム組成物を170℃、15分の条件でプレス加硫し、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0024】
硬度(20℃):JIS K6253に基づき、20℃にて測定した。結果は、標準例の値を100として指数で示した。指数が大きいほど硬度が高く、走行時の変形が少ないため耐久性に優れることを示す。
ゴム付着力:ASTM D1871に準拠し、ブラスメッキワイヤーを用いて測定した。該試験は、常温での測定(BL)と、温度70℃、相対湿度96%の条件で4週間保存した後の測定(耐水)により行なった。結果は、標準例の値を100として指数で示した。指数が大きいほど、ゴム付着力が大きく、ゴムとワイヤの接着性が良いことを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0025】
【表1】
【0026】
*1:NR(TSR20)
*2:カーボンブラック(東海カーボン(株)製シースト300)
*3:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*4:老化防止剤(フレキシス社製サントフレックス6PPD)
*5:ステアリン酸コバルト(DIC社製)
*6:ノボラック型クレゾール樹脂(田岡化学工業(株)製スミカノール610)
*7:PMMM(BARA CHEMICAL社製スミカノール507A)
*8:ヘキサメチレンテトラミン(三新化学工業(株)製サンセラーHT−PO)
*9:p−ヒドロキシベンズアルデヒド(関東化学(株)製)
*10:p−トルアルデヒド(関東化学(株)製)
*11:p−アニスアルデヒド(関東化学(株)製)
*12:硫黄(四国化成工業(株)製ミュークロンOT−20)
*13:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーDZ)
【0027】
前記の表1から明らかなように、実施例1〜3で調製されたタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴムを含むジエン系ゴムに対し、特定のベンズアルデヒド誘導体の特定量およびノボラック型フェノール系樹脂の特定量を配合しているので、従来の代表的な標準例に対し、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、硬度も上昇している。
これに対し、比較例1は、特定ベンズアルデヒド誘導体を配合していないので、スチールコードに対する接着性、とくに耐水接着性が改善しない。
比較例2は、ヘキサメチレンテトラミンを加えて硬化剤の配合量を増加させているが、特定ベンズアルデヒド誘導体を配合していないので、スチールコードに対する接着性、とくに耐水接着性が改善しない。
比較例3は、特定ベンズアルデヒド誘導体の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、スチールコードに対する接着性および硬度のいずれも改善されなかった。
比較例4は、特定ベンズアルデヒド誘導体の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、スチールコードに対する接着性が改善されなかった。
比較例5は、ノボラック型フェノール系樹脂の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、スチールコードに対する接着性が改善されなかった。
比較例6および7は、前記一般式(1)で表わされる範囲外のベンズアルデヒド誘導体を配合したので、スチールコードに対する接着性および硬度のいずれも改善されなかった。
比較例8および9は、前記一般式(1)で表わされる範囲外のベンズアルデヒド誘導体を配合し、かつノボラック型フェノール系樹脂の配合量を増加させた例であるが、スチールコードに対する接着性が改善されなかった。