【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 発行者名 公益社団法人 砥粒加工学会 刊行物名 「砥粒加工学会誌」 第55巻 第7号 発行年月日 平成23年7月1日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガラス板やサファイア基板などの硬くて脆い材料(脆性材料)を切り出す加工方法として、種々の手法が公知である。例えば、ガラス板の加工として、切り分けたい材料の端部から線状にダイヤモンドの結晶などで浅い傷(初期亀裂)を設けるいわゆる罫書きを行い、形成された初期亀裂の両側に力をかけて該初期亀裂を厚み方向に進展させて分断する方法が広く知られている。
【0003】
しかしながら、係る手法の場合、分断作業に際して、罫書きの深さや力の与え方などによっては、分断面に傾きが生じたり、予想外の方向へ割れてしまったりするなどして、所望の分断精度が出ず、最悪の場合、材料全体の破損の危険性もある。
【0004】
また、被加工物の端部に初期亀裂を与えておき、該端部からレーザ光による加熱走査を行うことより、亀裂を進展させて被加工物を分断する手法も広く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
係る手法の場合、分断対象たる脆性材料が均質であって発生する応力場が理想的なものであるならば、亀裂進展の位置や方向などを高精度に制御できる可能性はあるが、現実には、材料の不均質性や、加熱エネルギー分布の不均一性や、加熱点の高精度な位置制御の困難さなどの点から、高精度で亀裂進展を制御することは難しい。ここでいう高精度とは、μmオーダーの精度での位置制御を想定している。
【0006】
しかも、被加工物の端部では、応力分散が生じ、応力分布が均等でなくなるなどの理由から、亀裂進展制御においては、加工手順の制限や敢えて加熱点をずらす処理などが必要となる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、表面に単位パターンが2次元的に配列された脆性材料を単位パターン毎の個片に(チップ単位に)切り出す場合など、互いに直交する2方向での切り出しを、レーザ割断によって行おうとする場合、ある一方向に切り出した後にそれに直交する方向に切り出しを行うことになるが、大量のチップ加工のような場合には初期亀裂の与え方などがより煩雑になる。
【0008】
以上の手法の組合せとして、ダイヤモンドやビッカース圧子などによって微小な傷(初期亀裂)を硬脆性材料基板(例えばガラス、シリコン、セラミックス、サファイアなど)の端部に設けたうえで、基板裏面側にレーザ光吸収材を配置し、基板裏面に焦点を合わせたレーザ照射による局所加熱を行い、これによって生じる応力集中によって亀裂を進展させてガラスを分断する手法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
あるいは、あらかじめ被加工物の表面に、機械的にあるいはレーザ光の照射によって罫書き線やスクライブラインと称される線状の加工痕を施した後、係る加工痕に沿ってレーザ光による照射加熱を行い、該加工痕からのクラック進展を生じさせることで被加工物を分断する手法も公知である(例えば、特許文献4および特許文献5参照)。
【0010】
なお、特許文献3には、罫書き線と反対側の面からレーザを照射して分断を行う態様も開示されている。
【0011】
さらには、発光素子の側面にドライエッチングにより凹凸を設けることで発光効率を向上させる手法も既に公知である(例えば特許文献6参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献3に開示された手法の場合、レーザ光によって直接に加熱されるのはあくまでレーザ光吸収材であり、硬脆性材料基板はあくまで、レーザ光吸収材からの熱伝導によって間接的に加熱されるのみである。それゆえ、熱伝導の均一性の確保が難しく、引張応力が意図した方向に作用するとは限らない。また、特許文献1に開示されているような従来のレーザ割断と同じく、亀裂の進展方向を制御することは難しい。従って、係る手法によって精度の良い分断を行うことは難しい。
【0014】
また、特許文献4および特許文献5に開示されているのはせいぜい、機械的にあるいはレーザ光により形成した加工痕に沿ってレーザ光を照射することにより被加工物を分断する基本的な原理に過ぎず、係る分断を効率的に生じさせる手法について、何らの開示も示唆もなされてはいない。
【0015】
また、特許文献6には、発光素子の半導体膜の側面に凹凸加工を施すことによる光取り出し効率の向上については開示があるものの、その基材であるサファイアウェハに対する加工については開示がない。仮に、特許文献6に開示された手法でサファイア基板に凹凸加工を施すとなると、改めてレジスト塗布処理が必要であるとともに、エッチング自体に時間を要し、生産性が低いという問題がある。
【0016】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、脆性材料からなる被加工物を高精度かつ効率的に分断することができる技術を提供することを目的とする。また、特に、表面に発光素子パターンが2次元的に形成されたパターン付き基板が被加工物である場合において、これら高精度かつ効率的な加工に加えて、発光素子の発光効率の向上をも併せて実現する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、
本発明は、被加工物を分断する方法であって、第1の出射源から第1のレーザ光を出射させ、前記第1のレーザ光を前記被加工物のスクライブ面に対して照射することにより、前記スクライブ面にスクライブラインを形成するスクライブ加工工程と、第2の出射源から第2のレーザ光を出射させ、前記第2のレーザ光を前記スクライブ面の側から前記スクライブラインに沿って照射することによって前記被加工物を前記スクライブラインに沿って加熱する照射加熱工程と、を備え、前記スクライブ加工工程による前記スクライブラインの形成と前記照射加熱工程による前記スクライブラインに沿った照射加熱とを、前記第1の出射源と前記第2の出射源とをステージに載置された前記被加工物に対して同時に相対移動させることによって行い、前記照射加熱工程においては、前記被加工物において前記第2のレーザ光の照射により照射加熱領域の周囲に形成される引張応力場に前記スクライブラインが位置することで生じる、前記スクライブラインから前記非スクライブ面へのクラックを、前記スクライブラインに沿って順次に進展させることにより、前記被加工物を分断する、ことを特徴とする。
【0018】
前記第1の出射源と前記第2の出射源とを前記被加工物の同一直線上において同時に相対移動させることで、一の相対移動によって前記第1のレーザ光により形成される一の前記スクライブラインに対し、同じ相対移動の間に前記第2のレーザ光による照射加熱を行う、こと
もできる。
【0019】
第1の方向においてそれぞれ所定のピッチにて前記第1のレーザ光の照射による複数の前記スクライブラインの形成と当該スクライブラインに沿った前記第2のレーザ光の照射加熱を行った後、前記第1の方向に直交する第2の方向においてそれぞれ所定のピッチにて前記第1のレーザ光の照射による複数の前記スクライブラインの形成と当該スクライブラインに沿った前記第2のレーザ光の照射加熱を行う、こと
もできる。
【0020】
前記照射加熱工程においては、前記第2のレーザ光の照射ビーム径を、前記スクライブラインを形成する際のピッチ以下とする、こと
もできる。
【0021】
前記照射加熱工程においては、前記第2の出射源から出射された前記第2のレーザ光の照射範囲を調整機構によって調整したうえで前記第2のレーザ光を前記スクライブ面に照射する、こと
もできる。
【0022】
前記第2のレーザ光がCO2レーザである、こと
もできる。
【0023】
本発明は、
前記分断方法であって、前記照射加熱工程においては、記第2のレーザ光をパルス発振モードにて照射し、前記被加工物が分断されることで形成される個片の分断面に、パルス発振周期に応じた周期を有する全反射率低減用のうねりを生じさせる、ことを特徴とする。
【0024】
前記照射加熱工程を、前記引張応力場を冷却しつつ行うこと
もできる。
【0025】
前記照射加熱工程を、冷却流体の噴射によって前記引張応力場を冷却しつつ行うこと
もできる。
【0026】
前記第1のレーザ光がYAGレーザの3倍高調波である、こと
もできる。
【0027】
前記被加工物の水平面内における姿勢を補正するアライメント処理工程、をさらに備え、前記アライメント処理工程を行った前記被加工物に対して、前記スクライブ加工工程と前記照射加熱工程とを行う、こと
もできる。
【0028】
前記スクライブ加工工程においては、前記第1のレーザ光の被照射位置において溶融および再固化を生じさせ、前記被照射位置を変質領域とすることによって前記スクライブラインを形成する、こと
もできる。
【0029】
前記スクライブ加工工程においては、前記第1のレーザ光の被照射位置においてアブレーションを生じさせ、前記被照射位置に溝部を形成することによって前記スクライブラインを形成する、こと
もできる。
【0030】
本発明
によれば、表面に光学素子パターンが2次元的に形成された光学素子パターン付き基板を分断する方法
において、第1の出射源から第1のレーザ光を出射させ、前記第1のレーザ光を前記光学素子パターン付き基板のスクライブ面に対して照射することにより、前記スクライブ面にスクライブラインを形成するスクライブ加工工程と、第2の出射源からCO2レーザである第2のレーザ光を出射させ、前記第2のレーザ光を前記スクライブ面の側から前記スクライブラインに沿って照射することによって前記光学素子パターン付き基板を前記スクライブラインに沿って加熱する照射加熱工程と、を備え、前記スクライブ加工工程による前記スクライブラインの形成と前記照射加熱工程による前記スクライブラインに沿った照射加熱とを、前記第1の出射源と前記第2の出射源とをステージに載置された前記被加工物に対して同時に相対移動させることによって行い、前記照射加熱工程においては、前記被加工物において前記第2のレーザ光の照射により照射加熱領域の周囲に形成される引張応力場に前記スクライブラインが位置することで生じる、前記スクライブラインから前記非スクライブ面へのクラックを、前記スクライブラインに沿って順次に進展させることにより、前記被加工物を分断するとともに、前記第2のレーザ光をパルス発振モードで出射させることにより、前記被加工物が分断されることで形成される光学素子個片の分断面に、パルス発振周期に応じた周期を有する全反射率低減用のうねりを生じさせる、こと
もできる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、第1のレーザ光を照射することによって被加工物の分断予定位置に形成したスクライブラインに沿って第2のレーザ光を照射し、被加工物を加熱することで、スクライブラインに対し引張応力を作用させ、スクライブラインから非スクライブ面へのクラックの進展をスクライブラインの延在方向に沿って順次に生じさせることで、被加工物を精度よく分断することができる。しかも、第1のレーザ光の照射によるスクライブラインの形成と第2のレーザ光による照射加熱とを並行して行えるので、高精度な分断加工を高い生産性で行うことが可能となる。
【0032】
特に、
本発明によれば、分断対象物の分断面に意図的にうねりを生じさせることができる。これにより、例えば、表面にLEDパターンが2次元的に形成されたサファイア基板であるLED製造用基板が分断対象物であり、これをLEDチップ単位の個片に分断するような場合において、LEDチップの分断面における全反射を抑制し、LEDチップの発光効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<加工の基本原理>
まず、本実施の形態に係る加工(分断加工)を説明するに先立ち、その基本原理について説明する。本実施の形態において行う分断加工は、概略、被加工物(分断対象物)Wの分断予定位置に対して第1のレーザ光(スクライブ用レーザ光)を照射することによってスクライブラインSLを形成した後、第2のレーザ光(加熱用レーザ光)の照射による加熱(レーザ加熱)を行うことで該スクライブラインSL近傍に応力場を生じさせ、これによって初期亀裂であるスクライブラインSLから亀裂(クラック)を進展させることで、被加工物を分断するというものである。
【0035】
被加工物Wとしては、例えば、ガラス板やサファイア基板などの脆性材料、あるいはそれら脆性材料からなる基板の表面に薄膜層などによって単位パターンが2次元的に形成されたもの(以下、パターン付き基板)などが該当する。
【0036】
図1は、分断加工の途中の様子を模式的に示す図である。より具体的には、
図1は、被加工物Wにあらかじめ形成されたスクライブラインSLに沿って加熱用レーザ光LBhを照射することにより、被加工物Wのレーザ加熱を行う様子を示している。
【0037】
なお、以降の説明においては、被加工物WにおいてスクライブラインSLが形成されている面、もしくはスクライブラインSLの形成が予定される面をスクライブ面W1と称し、該スクライブ面W1の反対面を非スクライブ面W2と称する。また、
図1においては、加熱用レーザ光LBhが矢印AR1にて示す走査方向(当然ながらスクライブラインSLの延在方向でもある)を移動することによりスクライブ面W1を走査する様子を示しているが、これに代わり、加熱用レーザ光LBhがある照射位置にて固定的に照射される一方で、被加工物Wが図示しない移動手段にて移動させられることによって、加熱用レーザ光LBhによる矢印AR1方向への相対的な走査が実現される態様であってもよい。
【0038】
加熱用レーザ光LBhが照射されると、被加工物Wのスクライブ面W1における加熱用レーザ光LBhの照射領域は加熱されて膨張し、
図1に示すように圧縮応力場SF1となる。一方で、該圧縮応力場SF1の外周領域は収縮し、引張応力場SF2となる。スクライブラインSLがこの引張応力場SF2に含まれると、被加工物Wにおいては、該スクライブラインSLの側方において引張応力TSが作用する。係る引張応力TSの作用により、スクライブラインSLから非スクライブ面W2側の分断予定位置L0に向けてクラックCRが進展する。加えて、上述のように、加熱用レーザ光LBhはスクライブラインSLに沿って相対的に走査されるので、これに伴い、引張応力場SF2もスクライブラインSLに沿って移動する。すると、非スクライブ面W2側へとクラックCRが進展する箇所が、スクライブラインSLの延在方向、つまりは加熱用レーザ光LBhの走査方向に沿って遷移していくこととなる。それゆえ、加熱用レーザ光LBhを、スクライブ面W1側の分断予定位置に設けられたスクライブラインSLの一方端から他方端に至るまで照射すれば、スクライブラインSLの形成位置全体で、分断予定位置L0へのクラックCRの進展を順次に生じさせることができるので、結果として、被加工物Wを分断することができる。これが、本実施の形態に係る分断加工の基本原理である。
【0039】
係る態様にて被加工物Wを分断する場合、被加工物Wを正確に位置決めした上でスクライブ面W1上の所定の位置に精度良く形成されてなるスクライブラインSLを初期亀裂として、非スクライブ面W2側へとクラックCRを進展させることになる。通常、スクライブラインSLの長さに比べて被加工物Wの厚みは十分に小さく、また、加熱用レーザ光LBhによって形成される引張応力場SF2は比較的均一であるので、分断位置のずれは生じにくい。すなわち、本実施の形態においては、精度の優れた分断が可能となる。結果として、μmオーダーの精度での分断が可能となる。
【0040】
なお、表面にLEDパターンが2次元的に形成されたサファイア基板であるLED製造用基板などのパターン付き基板を、単位パターン毎の個片に(チップ単位に)分断する場合など、分断予定位置が格子状に設定されている場合、互いに直交する第1の方向と第2の方向とにおいてそれぞれ複数のスクライブラインSLが順次に形成されたうえで、それぞれの方向について、順次に加熱用レーザ光LBhによる加熱が行われる。係る場合、加熱用レーザ光LBhによってある第1の方向に延在するスクライブラインSL(第1のスクライブライン)に沿ったレーザ加熱を行うと、これに直交する他のスクライブラインSL(第2のスクライブライン)との格子点近傍では、部分的に、第2の方向に延在する第2のスクライブラインにおいてもわずかに非スクライブ面W2へのクラックCRの進展は生じる。しかしながら、係る場合においても、後で第2のスクライブラインに沿ったレーザ加熱を行うことで、精度には問題のない分断が行える。
【0041】
スクライブ用レーザ光には、被加工物Wの材質等に応じて適宜のパルスレーザ光を選択して用いればよい。例えば、サファイア基板や、サファイア基板を用いて作製されたパターン付き基板であるLED製造用基板が被加工物Wである場合であれば、YAGレーザの3倍高調波(波長355nm)を用いるのが好適な一例である。また、分断予定位置での分断の精度および確実性を高めるためには、スクライブラインSLはできるだけ細く形成されることが望ましいことから、スクライブ用レーザ光は数μm〜十数μm程度の照射範囲(照射ビーム径)で照射されるようにする。また、加工効率(エネルギーの利用効率)の観点から、スクライブ用レーザ光は、被加工物Wのスクライブ面W1あるいは内部のスクライブ面W1近傍(スクライブ面W1から数十μm程度までの範囲)で合焦するように照射される。なお、本実施の形態において、照射ビーム径とは、照射するレーザビームの断面のエネルギー分布がガウス分布形状であると仮定した場合に、そのエネルギー値が中心の最高値の1/e
2以上である領域の直径をいう。
【0042】
また、スクライブラインSLについては、スクライブ用レーザ光の被照射位置において物質を蒸発させることによって形成される断面視三角形状もしくはくさび形状の溝部がスクライブラインSLとされる態様であってもよいし、当該被照射位置において物質を溶融・再固化させる(融解改質させる)ことによって形成される断面視三角形状もしくはくさび形状の変質領域がスクライブラインSLとされる態様であってもよい。いずれの態様を取るかに応じて、スクライブ用レーザ光の照射条件(パルス幅、繰り返し周波数、ピークパワー密度、走査速度など)が定められる。また、
図1ではスクライブラインSLが連続的に形成されている場合を例示しているが、スクライブラインSLの形成態様はこれに限られない。例えば、分断予定位置に沿って点線状もしくは破線状にスクライブラインSLが形成される態様であってもよい。
【0043】
一方、加熱用レーザ光LBhとしては、長波長レーザであるCO
2レーザ(波長9.4μm〜10.6μm)を用いるのが好適である。CO
2レーザは、ガラスやサファイアの表面において確実に吸収されるので、スクライブラインSLからのクラックCRの進展を確実に生じさせることが出来る。なお、スクライブラインSLの形成という、被加工物の加工を目的として照射するスクライブ用レーザ光とは異なり、加熱用レーザ光LBhは、被加工物を加熱することによって加熱領域に形成される圧縮応力場SF1の周囲に引張応力場SF2を形成するという目的で照射されるものである。それゆえ、被加工物を破壊や変質させないようにすることや、引張応力場SF2をなるべく広く形成させるようにするうえにおいては、加熱用レーザ光LBhの照射範囲はスクライブ用レーザ光に比べて大きくてよい。例えば、被加工物の厚みが150μmの場合では、100μm〜1000μm程度であればよい。
【0044】
ただし、パターン付き基板から矩形形状のチップを切り出すような場合においては、加熱用レーザ光LBhの照射ビーム径を、分断後に得られるチップの平面サイズ(分断予定位置のピッチとほぼ同等)と同じかそれ以下に設定する。これよりも照射ビーム径を大きくした場合、分断が良好に行われず、所定の形状のチップが得られなくなることが生じ、好ましくない。
【0045】
<加熱用レーザ光の発振モードと分断面の形状との関係>
例えば加熱用レーザ光LBhとしてCO
2レーザを用いる場合、連続発振モードとパルス発振モードとの2通りの発振モードで加熱用レーザ光LBhを照射することができる。そして、この発振モードに応じて、被加工物Wの分断面の形状に違いが生じることが確認されている。具体的には、連続発振モードの場合、クラック進展によって形成される分断面は非常に滑らかな平坦面となる。一方、パルス発振モードの場合、分断面には、パルスの発振周期に応じた周期的なうねり(凹凸)が形成される。
図2は、加熱用レーザ光LBhとしてCO
2レーザを用い、サファイア基板を分断した時の分断面のSEM(走査電子顕微鏡)像である。図中、”Fracture surface”が分断面であり、Grooveはスクライブラインであり、”Feed direction”はサファイア基板の移動方向(レーザ光の走査方向の反対方向)である。
図2に示す場合においては、分断面は透明ではあるものの、数十μmピッチでうねりが形成されてなる。一般に、被加工物Wの分断面は平坦面であることが好まれるため、多くの場合は、加熱用レーザ光LBhの照射は連続発振モードで行われる。
【0046】
これに対して、分断面に意図的に(積極的に)うねりを生じさせることが好ましい場合もある。例えば、表面にLED(発光素子)パターンが2次元的に形成されたサファイア基板(ウェハ)であるLED製造用基板が被加工物Wであり、これをLEDチップ単位の個片に分断する場合がこれに該当する。
図3は、分断面が平坦な場合と平坦面にうねりがある場合との分断面における光の進み方の違いを示す図である。
【0047】
一般に、発光素子(LEDチップ)は、基板の上に設けられた発光素子構造部分において生じる発光が出来るだけ遮られることなく外部に取り出されることが求められる。係る光の一部は、基板部分にも入射することから、発光素子の実質的な発光効率(光の取り出し効率)を高めるには、基板部分においても発光された光をできるだけ透過させることが必要となる。その一方で、屈折率の大きい媒質中から屈折率の小さい媒質中に向けて光が進む場合、その界面(入射面)に対して臨界角θ
c以上で入射した光は全反射されてしまうという光学的な制限(スネルの法則)がある。例えば、サファイアから空気へと光が進む場合はθ
c=34.4°である。
【0048】
仮に、分断面が平坦面であるとすると、
図3(a)に示すように、発光素子部分で生じた光のうち、臨界角θ
c以上の入射角で分断面に入射した光は全て、反射されることになる。また、原理的には、発生後の進行方向によっては、全反射を受け続け、結果としてLEDチップ内部に閉じこめられた状態となる光も生じ得る。上述のようにサファイアから空気へと光が進む場合であれば、34.4°以上55.6°以下の入射角で分断面に入射する光がこれに該当する。
【0049】
これに対して、分断面にうねりがある場合、
図3(b)に示すように、
図3(a)の場合と同じ方向から入射した光であっても、その入射位置によっては入射角が
図3(a)を下回ることになるため、分断面を透過する成分が生じることになる。また、仮にある分断面で反射を受けたとしても、異なる分断面で透過をする確率が高くなる。すなわち、分断面に入射した光が該分断面で全反射される割合(全反射率)を低減させることが出来る。それゆえ、分断面にうねりがある場合、分断面が平坦面である場合よりも、発生した光が取り出されやすい状態が実現される。なお、実際の発光素子では、必ずしもLEDチップの基板が直接に外部に露出しているわけではなく、樹脂により封止等される場合があるが、係る場合でも、上述の効果は同様に得られる。
【0050】
以上を鑑み、被加工物WがLED製造用基板であり、これをLEDチップ単位に分断する場合には、加熱用レーザ光LBhをパルス発振モードで照射し、分断面にうねりを生じさせる態様にて分断を行うようにする。これにより、光取り出し効率の高いLEDチップを得ることが出来る。係る手法は、被加工物Wの分断に併せてうねりを形成することができるので、例えば特許文献6に開示されているようなドライエッチングを用いて凹凸を形成する手法に比べて、効率的でかつ生産性が高いものである。
【0051】
<分断装置と実際の加工態様>
次に、上述した加工原理に基づいて被加工物の分断を行う分断装置と、該分断装置において行われる実際の加工態様について説明する。
図4は、分断装置100の構成を概略的に示す図である。
【0052】
図4に示すように、分断装置100は、ステージ部10と、スクライブ用レーザ光学系20と、加熱用レーザ光学系30と、位置読み取り光学系40とを主として備える。また、分断装置100は、例えば図示しないCPU、ROM、RAMなどからなり、スクライブ用レーザ光学系20、加熱用レーザ光学系30、および位置読み取り光学系40などとの間で種々の信号を授受することにより、各構成要素の動作を制御する制御系50を備える。なお、制御系50は他の構成要素と一体のものとして分断装置100の本体に組み込まれる態様であってもよいし、例えばパーソナルコンピュータ等で構成されて、分断装置100の本体とは別に設けられる態様であってもよい。
【0053】
また、本実施の形態に係る分断装置100においては、スクライブ用レーザ光学系20と加熱用レーザ光学系30とが加工用光学系群100Aとして一体的に設けられてなり、前者に備わる対物レンズ(スクライブ用対物レンズ)23(
図5参照)と、後者に備わる対物レンズ(加熱用対物レンズ)34(
図6参照)が近接配置されてなる。なお、本実施の形態においては、便宜上、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とが水平面内のX方向に隣り合っているものとし、両対物レンズの近接配置の態様はこれに限られるものではない。
【0054】
ステージ部10は、主として、XYステージ11と、該XYステージ11の上に設けられた加工用ステージ12とから構成される。
【0055】
XYステージ11は、制御系50からの駆動制御信号sg1に基づいて、水平面内(XY平面内)の互いに直交する2つの方向(X方向、Y方向)に移動自在とされてなる。なお、XYステージ11の位置情報信号sg2は絶えず制御系にフィードバックされる。なお、本実施の形態においては、便宜上、XYステージ11がX方向を移動する際に加工を行うものとする。
【0056】
加工用ステージ12は、その上に被加工物Wを載置固定するための部位である。加工用ステージ12は図示しない吸着機構を備えており、制御系50からの吸着制御信号sg3に基づいて吸着機構を作動させることにより、加工用ステージ12の上面12aに被加工物Wを吸着固定するように構成されている。また、加工用ステージ12は、図示しない回転駆動機構を備えており、制御系50からの回転制御信号sg4に基づいて水平面内で回転動作が行えるようにもなっている。
【0057】
なお、
図4においては図示を省略するが、加工用ステージ12への固定にあたっては、被加工物Wの非スクライブ面W2側(載置面側)に粘着性のフィルムを貼り付け、該フィルムともども被加工物Wを固定する態様であってもよい。
【0058】
スクライブ用レーザ光学系20は、制御系50から与えられるスクライブ用レーザ制御信号sg5に基づいて、スクライブ用レーザ光を被加工物Wに対して照射する部位である。
【0059】
図5は、スクライブ用レーザ光学系20の詳細構成を示す図である。
図5に示すように、スクライブ用レーザ光学系20は、スクライブ用レーザ光LBsの光源(出射源)であるレーザ発振器21と、レーザ発振器21から出射されたスクライブ用レーザ光LBsの光量調整を行うためのアッテネータ22と、スクライブ用レーザ光LBsの焦点調整を行うための対物レンズ(スクライブ用対物レンズ)23とを主として備える。なお、上述のように、スクライブ用レーザ光LBsとしては、被加工物Wの材質等に応じたパルスレーザ光が用いられるので、レーザ発振器21は、使用するスクライブ用レーザ光LBsの種類に応じて選択されればよい。
【0060】
また、スクライブ用レーザ光学系20には、スクライブ用レーザ光LBsを反射することによってスクライブ用レーザ光LBsの光路の向きを適宜に切り替えるミラー24も備わっている。なお、
図5においてはミラー24が1つのみ備わる場合を例示しているが、ミラー24の数はこれには限られず、スクライブ用レーザ光学系20内部あるいはさらに分断装置100内部におけるレイアウト上の要請その他の理由から、さらに多くのミラー24が設けられ、スクライブ用レーザ光LBsの光路が適宜に設定される態様であってもよい。
【0061】
より詳細には、レーザ発振器21には、スクライブ用レーザ光LBsの出射/非出射を切り替えるためのシャッター21aが設けられてなる。シャッター21aの開閉動作は、スクライブ用レーザ制御信号sg5の一種であるON/OFF制御信号sg5aに基づいて制御される。また、アッテネータ22におけるスクライブ用レーザ光LBsの光量の調整は、スクライブ用レーザ制御信号sg5の一種である出力パワー制御信号sg5bに基づいて制御される。
【0062】
スクライブ用レーザ光学系20においては、レーザ発振器21から出射され、アッテネータ22によって光量が調整されたスクライブ用レーザ光LBsが、被加工物Wのスクライブ面W1あるいは内部のスクライブ面W1近傍(スクライブ面W1から数十μm程度までの範囲)で合焦するように、かつ、照射ビーム径が数μm〜十数μm程度となるように、対物レンズ23の配置位置が調整される。これにより、良好なスクライブラインSLが形成される。
【0063】
加熱用レーザ光学系30は、制御系50から与えられる加熱用レーザ制御信号sg6に基づいて、加熱用レーザ光を被加工物Wに対して照射する部位である。
【0064】
図6は、加熱用レーザ光学系30の詳細構成を示す図である。
図6に示すように、加熱用レーザ光学系30は、加熱用レーザ光LBhの光源(出射源)であるレーザ発振器31と、レーザ発振器31から出射された加熱用レーザ光LBhの光量調整を行うためのアッテネータ32と、被加工物Wに対する加熱用レーザ光LBhの照射範囲を調整するためのビーム調整機構33と、加熱用レーザ光LBhの焦点調整を行うための対物レンズ(加熱用対物レンズ)34とを主として備える。上述のように、加熱用レーザ光LBhとしてはCO
2レーザを用いるので、レーザ発振器31はCO
2レーザ用の発振器である。
【0065】
また、加熱用レーザ光学系30には、加熱用レーザ光LBhを反射することによって加熱用レーザ光LBhの光路の向きを適宜に切り替えるミラー35も備わっている。なお、
図6においてはミラー35が1つのみ備わる場合を例示しているが、ミラー35の数はこれには限られず、加熱用レーザ光学系30内部あるいはさらに分断装置100内部におけるレイアウト上の要請その他の理由から、さらに多くのミラー35が設けられ、加熱用レーザ光LBhの光路が適宜に設定される態様であってもよい。
【0066】
より詳細には、レーザ発振器31には、加熱用レーザ光LBhの出射/非出射を切り替えるためのシャッター31aが設けられてなる。シャッター31aの開閉動作は、加熱用レーザ制御信号sg6の一種であるON/OFF制御信号sg6aに基づいて制御される。また、アッテネータ32における加熱用レーザ光LBhの光量の調整は、加熱用レーザ制御信号sg6の一種である出力パワー制御信号sg6bに基づいて制御される。
【0067】
また、ビーム調整機構33は、レーザ発振器31から直線的に出射された加熱用レーザ光LBhの照射範囲を調整するために備わる。ビーム調整機構33は、例えば、種々のレンズを適宜に組み合わせることによって実現され、それらのレンズの位置を調整することにより、被加工物Wに対して加熱用レーザ光LBhを適切な照射範囲で照射出来るようになっている。なお、
図6においては、ビーム調整機構33による調整によって、加熱用レーザ光LBhが、レーザ発振器31から出射されたときのビーム径よりも大きな照射範囲で被加工物Wに照射される場合を例示している。
【0068】
位置読み取り光学系40は、加工用ステージ12に吸着固定された被加工物Wを図示しないCCDカメラなどで撮像し、得られた撮像画像のデータを画像情報信号sg7として制御系50に与える。制御系50は、得られた画像情報信号sg7に基づいて、XYステージ11の移動範囲や、スクライブ用レーザ光LBsや加熱用レーザ光LBhの照射位置などの設定を行う。
【0069】
以上のような構成を有する分断装置100においては、被加工物Wを加工用ステージ12に吸着固定させた状態でXYステージ11を移動させることにより、被加工物Wを、加工用光学系群100Aおよび位置読み取り光学系40のそれぞれに対して下方から対向配置できるようになっている。なお、係る場合において、被加工物Wは、スクライブ面W1が上面(非載置面)となるように加工用ステージ12に固定される。
【0070】
そして、被加工物Wを加工用光学系群100Aと対向配置させた状態で、XYステージ11の移動によってスクライブ用対物レンズ23(第1の出射源)と加熱用対物レンズ34(第2の出射源)とに対して加工用ステージ12に載置された被加工物Wを同時に相対移動させつつ、スクライブ用レーザ光LBsの照射によるスクライブラインSLの形成と、加熱用レーザ光LBhによるスクライブラインSLに沿った照射加熱とを、同時に行えるようになっている。これらの照射を、XYステージ11をX方向に移動させつつ行うことで、被加工物Wの一の分断予定位置におけるスクライブラインSLの形成と該スクライブラインSLからのクラックCRの進展による当該分断予定位置での分断とを、一度のXYステージ11の移動で完了できるようになっている。以下、係る態様での分断(加工)を、コンビネーション加工と称する。
【0071】
図7は、コンビネーション加工の一態様を模式的に示す図である。
図7に示す場合においては、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とを同一直線上(X方向)に配列しているので、XYステージ11が矢印AR2にて示すX方向に移動すると、被加工物Wのスクライブ面W1側の分断予定位置L1に沿って(矢印AR1にて示す走査方向に沿って)スクライブ用レーザ光LBsが照射されてスクライブラインSLが形成される際に、加熱用レーザ光LBhがスクライブ用レーザ光LBsの後を追うように、形成されたばかりのスクライブラインSLに沿って照射される。これにより、スクライブラインSLを形成しつつ、該スクライブラインSLから被加工物Wの非スクライブ面W2の分断予定位置L0に向けてクラックCRを進展させ、被加工物Wを分断することが出来る。すなわち、一の分断予定位置での分断を、一度のXYステージ11の移動で完了できるようになっている。
【0072】
なお、同一方向に複数の分断予定位置が設定されていたり、あるいは、分断予定位置が格子状に設定されていたりする場合にコンビネーション加工を適用する際の加工順序は、上述したような、スクライブラインSLを全て形成した後に全てのスクライブラインSLに沿った照射加熱によって分断を行うという原理的な手法とは異なる。すなわち、同一方向に複数の分断予定位置が設定されている場合であれば、1つ目の分断予定位置における分断が完了した後、XYステージ11を分断予定位置のピッチに相当する距離だけY方向に移動させて、2つ目の分断予定位置に対して同様のコンビネーション加工を行う、という処理を繰り返すようにすればよい。そして、直交する2方向について分断を行う場合は、第1の方向についてコンビネーション加工による分断を順次に行った後、第1の方向に直交する第2の方向について同様にコンビネーション加工を行うようにすればよい。
【0073】
係るコンビネーション加工は、スクライブラインSLの形成のためのスクライブ用レーザ光LBsと、該スクライブラインSLに沿った分断を行うための加熱用レーザ光LBhとを、それぞれにXYステージ11の移動を伴う別個の工程として行う態様よりも生産性の点で優れた手法であるといえる。また、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34との配置関係が固定的であるので、スクライブラインSLの形成位置と該スクライブラインSLに対する照射加熱位置との関係が固定的である。従って、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34との配置位置を好適に調整することで、安定した精度で分断を行うことが可能となる。
【0074】
なお、同時分断加工の場合においても、加熱用レーザ光LBhをパルス発振モードにて照射することにより分断面にうねりを生じさせる態様での被加工物Wの分断は、問題なく行える。
【0075】
また、分断装置100においては、被加工物Wを位置読み取り光学系40と対向配置させた状態で位置読み取り光学系40による被加工物Wの撮像を行い、得られる撮像画像データに基づいて、被加工物Wの水平面内における傾き(姿勢)を補正するアライメント動作を行うことが出来る。具体的には、制御系50が、該撮像画像データの画像内容(例えば、アライメントマークの配置位置や繰り返しパターンの配置位置など)に基づいて、被加工物Wの水平面内における傾き(XYステージ11の移動方向からの傾き)を特定し、係る傾きがキャンセルされるように、加工用ステージ12に対して回転制御信号sg4を与えて、該加工用ステージ12を回転させる。被加工物Wの水平面内における傾きを特定する主要としては、パターンマッチング法など、公知の手法を適用することが出来る。
【0076】
<引張応力場の冷却>
引張応力場SF2におけるクラックCRの進展をより効果的に引き起こす手法として引張応力場SF2を冷却する手法がある。
【0077】
図8および
図9は、スクライブ面W1に加熱用レーザ光LBhが照射される構成において、引張応力場SF2を冷却する様子を示す模式図である。
図8は、スクライブラインSLの延在方向に垂直な被加工物Wの断面図であり、
図9は、被加工物Wの上面図である。
【0078】
図8および
図9においては、加熱用レーザ光LBhによってスクライブ面W1を矢印AR1にて示す走査方向に走査する際に、形成される引張応力場SF2のうち走査方向後方の部分に対して、冷却ガスCGが噴射されている。
【0079】
係る態様にて冷却を行うと、引張応力場SF2の冷却された箇所と、加熱用レーザ光LBhの照射によって加熱されてなる圧縮応力場SF1との温度差がより高くなり、引張応力場SF2における引張応力がより強められる。これにより、クラックCRの進展の確実性が高められる。結果として、被加工物Wをより精度よく分断することが出来るようになる。
【0080】
なお、冷却ガスCGとしては、例えば不活性ガスなど、被加工物Wと反応しないガスを適宜に用いればよい。
【0081】
図10は、
図4ないし
図6に示した分断装置100において冷却ガスCGの噴射を実現する構成の一例を概略的に示す図である。すなわち、
図10に示す場合においては、加熱用レーザ光学系30に冷却ガスCGを噴射するためのノズル36が付設されており、冷却ガス供給源37から供給管38を通じて供給される冷却ガスCGを、加熱用レーザ光LBhの走査(相対走査)と同期させてノズル36から引張応力場SF2に向けて噴射することができるようになっている。
【0082】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、スクライブ用レーザ光を照射することによってあらかじめ被加工物の分断予定位置に形成されたスクライブラインに沿って加熱用レーザ光を照射し、被加工物を加熱することで、スクライブラインに対し引張応力を作用させ、スクライブラインから非スクライブ面へのクラックの進展をスクライブラインの延在方向に沿って順次に生じさせることで、被加工物を分断することができる。また、引張応力場を冷却することで、クラックの進展をより効率的に引き起こすことが出来る。
【0083】
しかも、本実施の形態によれば、高い位置決め精度のもとでのスクライブラインの形成と該スクライブラインからのクラック進展による分断とを、一度のXYステージの移動で実現することが出来る。それゆえ、高精度な分断加工を高い生産性で行うことが可能となる。
【0084】
<変形例>
上述の実施の形態に係る分断装置100においては、加工用光学系群100Aが固定される一方で、加工用ステージ12が上に設けられたXYステージ11が移動自在とされてなり、コンビネーション加工に際してのスクライブ用レーザ光LBsと加熱用レーザ光LBhによる相対走査は、XYステージ11が移動することによって実現されてなるが、コンビネーション加工を実現する分断装置の構成は、これに限られない。例えば、分断装置が、加工用光学系群100Aが少なくともX方向に移動自在とされてなる一方で、加工用ステージ12が固定的に設けられた構成を有してなり、被加工物Wを加工用ステージ12に載置した状態で、加工用光学系群100Aを分断予定位置に沿って移動させることによって、コンビネーション加工が実現される態様であってもよい。
【0085】
また、上述の実施の形態に係る分断装置100においては、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とがX方向に沿って近接配置させてなるとともに、XYステージ11をX方向に移動させることにより、一の分断予定位置において、加熱用レーザ光LBhにスクライブ用レーザ光LBsを後追いさせる態様にて、コンビネーション加工が実現されてなるが、コンビネーション加工を実現する態様は、これに限られない。
【0086】
図11は、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とがY方向に沿って近接配置された場合のコンビネーション加工の様子を示す図である。
図12は、変形例に係るコンビネーション加工におけるスクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とのピッチと分断予定位置のピッチとの関係を示す図である。
【0087】
図11の場合、スクライブ用レーザ光LBsによるスクライブラインSLの形成が一ラインずつ先行する態様にてコンビネーション加工が行われる。すなわち、XYステージ11が矢印AR2にて示すX方向に移動すると、矢印AR1にて示す走査方向に沿ってスクライブ用レーザ光LBsが照射されることでスクライブラインSL2が形成されるとともに、直前に形成されたスクライブラインSL1に沿って加熱用レーザ光LBhが照射される。これによって、スクライブラインSL1に沿った分断が実現される。
【0088】
ただし、
図11に示す場合、分断を行えるのは、
図12(a)に示すようにY方向におけるスクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とのピッチpが分断予定位置のピッチp1と同じである場合に限られてしまう。すなわち、適用できる局面が限定的である。
【0089】
そこで、
図12(b)に矢印AR3およびAR4にて示すように、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34との配置位置を調整可能とすることで、ピッチpを可変とするのが好ましい。係る場合、ピッチpを調整して所望する分断予定位置のピッチp2と一致させたうえでコンビネーション加工を行うことが可能となる。
【0090】
あるいは、
図12(c)に示すように、加工用光学系群100Aを(あるいは少なくともスクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とを含む部分を)矢印AR5のように水平面内で回転可能とすることで、スクライブ用対物レンズ23と加熱用対物レンズ34とのY方向についてのピッチpαを調整可能とする態様であってもよい。係る場合、加工用光学系群100Aの回転によってピッチpαを調整し、所望する分断予定位置のピッチp3と一致させたうえでコンビネーション加工を行うことが可能となる。