特許第5887963号(P5887963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5887963-プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887963
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20160303BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160303BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20160303BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20160303BHJP
   C08K 7/16 20060101ALI20160303BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   C08J5/24CFC
   C08L101/00
   C08K7/06
   C08K7/18
   C08K7/16
   C08L81/06
【請求項の数】20
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2012-17884(P2012-17884)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-155330(P2013-155330A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒井 信之
(72)【発明者】
【氏名】大皷 寛
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−231395(JP,A)
【文献】 特開2008−007682(JP,A)
【文献】 特開2010−095557(JP,A)
【文献】 特開2011−213991(JP,A)
【文献】 特開2011−190430(JP,A)
【文献】 特開平04−268361(JP,A)
【文献】 特開2010−059300(JP,A)
【文献】 特開2007−126637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08−15/14
C08J 5/04−5/10;5/24
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B29C 43/00−43/58
B29C 70/04−70/24
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維[A]、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、および下記(1)、(2)の少なくとも一方を満たしてなるプリプレグであって、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物、または、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物を180℃の温度下で2時間硬化した硬化物のKICが0.8〜2.0MPa・m1/2であり、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、および熱可塑性樹脂粒子[E]のいずれも、その総量の90〜100質量%が、該プリプレグの厚さ方向において、該プリプレグの両方の主面それぞれから該プリプレグの厚さに対して20%の深さまでの範囲内に分布しており、ゴム粒子[D]の粒径、あるいは、ゴム粒子[D]の粒径および熱可塑性樹脂粒子[E]の粒径のメジアン径が小さくない方の粒子の粒径は、そのメジアン径が、導電性粒子[C]の粒径のメジアン径と同じかもしくはそれより小さく、ゴム粒子[D]が、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した場合において、全体積を100%として累積カーブを求めた時、その累積カーブが5%となる粒径が1〜5μmである、プリプレグ。
(1)ゴム粒子[D]を含む。
(2)ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]を含む。
【請求項2】
炭素繊維[A]、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、および下記(1)、(2)の少なくとも一方を満たしてなるプリプレグであって、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物、または、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物を180℃の温度下で2時間硬化した硬化物のKICが0.8〜2.0MPa・m1/2であり、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、および熱可塑性樹脂粒子[E]のいずれも、その総量の90〜100質量%が、該プリプレグの厚さ方向において、該プリプレグの片方の主面から該プリプレグの厚さに対して20%の深さまでの範囲内に分布しており、ゴム粒子[D]の粒径、あるいは、ゴム粒子[D]の粒径および熱可塑性樹脂粒子[E]の粒径のメジアン径が小さくない方の粒子の粒径は、そのメジアン径が、導電性粒子[C]の粒径のメジアン径と同じかもしくはそれより小さく、ゴム粒子[D]が、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した場合において、全体積を100%として累積カーブを求めた時、その累積カーブが5%となる粒径が1〜5μmである、プリプレグ。
(1)ゴム粒子[D]を含む。
(2)ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]を含む。
【請求項3】
ゴム粒子[D]の粒径、あるいは、ゴム粒子[D]の粒径および熱可塑性樹脂粒子[E]の粒径のメジアン径が小さくない方の粒子の粒径のメジアン径が1〜30μmである、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
導電性粒子[C]の粒径の変動係数が10%以下であり、ゴム粒子[D]の粒径の変動係数が40%以上である、請求項1〜のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
ゴム粒子[D]が架橋ゴム粒子である、請求項1〜のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
[ゴム粒子[D]の配合量(質量部)]/[導電性粒子[C]の配合量(質量部)]で表される質量比が1〜1000である、請求項1〜のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項7】
[ゴム粒子[D]と熱可塑性樹脂粒子[E]との配合量の総和(質量部)]/[導電性粒子[C]の配合量(質量部)]で表される質量比が1〜1000である、請求項1〜のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
熱硬化性樹脂[B]が、テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂を含む、請求項1〜のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂がテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンである、請求項に記載のプリプレグ。
【請求項10】
熱硬化性樹脂[B]100質量部中に、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが35質量部以上含まれている、請求項1〜のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項11】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの平均エポキシ当量が100〜115g/eq.である、請求項または10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
熱硬化性樹脂[B]に、該熱硬化性樹脂[B]に溶解する熱可塑性樹脂[F]が含まれている、請求項1〜11のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項13】
熱可塑性樹脂[F]がポリエーテルスルホンである、請求項12に記載のプリプレグ。
【請求項14】
ポリエーテルスルホンの平均分子量が15000〜30000g/molである、請求項13に記載のプリプレグ。
【請求項15】
熱硬化性樹脂[B]100質量部中に、ポリエーテルスルホンが12〜25質量部含まれている、請求項13または14に記載のプリプレグ。
【請求項16】
導電性粒子[C]が、カーボン粒子、および、無機材料又は有機材料の核粒子と該核粒子を被覆する導電層とを有する複合粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜15のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項17】
導電性粒子[C]がカーボン粒子である、請求項16に記載のプリプレグ。
【請求項18】
180℃の温度下で2時間硬化して炭素繊維強化複合材料を得るに際し、導電性粒子[C]のうち30%以上の個数が、隣接している2枚のプリプレグの間に含まれ、かつ2枚の前記プリプレグを構成する炭素繊維[A]の両方と接触するように構成されている、請求項1〜17のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項19】
180℃の温度下で2時間硬化して炭素繊維強化複合材料を得た際に、温度上限値71℃、温度下限値−54℃、各温度での保持時間3分間、昇降温速度1分間に10℃による熱サイクル試験の3200サイクル時点でのマイクロクラックの数が10個以下であるように構成されている、請求項1〜18のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載のプリプレグを2枚以上含み、それらのうち少なくとも2枚の前記プリプレグが隣接している積層体を加熱および加圧する工程を備える方法により得られる、炭素繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたマイクロクラック耐性、導電性、および、耐衝撃性とを兼ね備えた炭素繊維強化複合材料、およびそれに好適に用いられるプリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化複合材料は、強度、剛性および導電性等に優れていることから有用であり、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途等に広く展開され、その需要は年々増加しつつある。
【0003】
炭素繊維強化複合材料は、強化繊維である炭素繊維とマトリックス樹脂を必須の構成要素とするプリプレグを成形してなる不均一材料をその一態様としており、その場合、強化繊維の配列方向の物性とそれ以外の方向の物性に大きな差が存在することになる。例えば、落錘衝撃に対する抵抗性で示される耐衝撃性は、炭素繊維強化複合材料の層間の板端剥離強度等で定量される層間剥離強度によって支配されるため、強化繊維の強度を向上させるのみでは、抜本的な改良に結びつかないことが知られている。特に、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂の低い靭性を反映し、強化繊維の配列方向以外からの応力に対し、破壊され易い性質を持っている。そのため、強化繊維の配列方向以外からの応力に対応することができる炭素繊維強化複合材料物性の改良を目的に、種々の技術が提案されている。
【0004】
その中の一つに、表面部分に樹脂微粒子を分散させたプリプレグが提案されている。例えば、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる樹脂微粒子、あるいは、不溶性のゴム粒子を表面に分散させたプリプレグを用いて、耐熱性の良好な高靭性複合材料を与える技術が提案されている(特許文献1、2、および、3参照)。また別に、ポリスルホンオリゴマー添加により靭性が改良されたマトリックス樹脂と熱硬化性樹脂からなる樹脂微粒子との組み合わせによって、炭素繊維強化複合材料に高度の靭性を発現させる技術が提案されている(特許文献4参照)。これらの技術は、高度な耐衝撃性を与える一方で層間に絶縁層となる樹脂層を生じることになるため、炭素繊維強化複合材料の特徴の一つである導電性のうち、厚み方向の導電性が著しく劣るという欠点があり、炭素繊維強化複合材料において優れた耐衝撃性と導電性とを両立することは困難であった。
【0005】
そこで、炭素繊維強化複合材料の厚み方向の導電性と耐衝撃性とを一度に解決する方法として、予めマトリックス樹脂に熱可塑性樹脂粒子とカーボン粒子や金属めっき有機粒子などの導電性粒子を組み合わせる方法が提案されている(特許文献5参照)。かかる技術を備えた炭素繊維強化複合材料を航空機構造材として利用する際には、上限温度71℃から下限温度−54℃における環境下のような離着陸を繰り返す温度領域で使用されるので、炭素繊維強化複合材料に高い環境負荷がかかり、外見上顕著な損傷が認められない場合でも、カーボン粒子や金属めっき有機粒子とマトリックス樹脂との間に大きな線膨張係数差が存在し、マトリックス樹脂に大きな熱歪みが加わることがある。この熱歪みによって、カーボン粒子や金属めっき有機粒子とマトリックス樹脂との界面、あるいは、カーボン粒子や金属めっき有機粒子と炭素繊維との接触箇所を起点とする数十〜数百μm程度の微小なクラック(マイクロクラック)が発生することがあるため、短期間の使用では問題がないと考えられるものの、長期間の使用を想定した場合、長期の環境疲労が加わると炭素繊維強化複合材料の内部に割れやトランスバースクラックを生じるおそれがあった。
【0006】
マイクロクラック耐性を向上させるために、例えば特許文献6で提案されているようなマトリックス樹脂に靱性が高いコアシェルゴム粒子を配合することや、特許文献2および3で提案されているような、プリプレグ表面に熱可塑性樹脂粒子よりも靱性が高い不溶性のゴム粒子を配合する方法が考えられる。しかし、コアシェルゴム粒子を粘度の高い航空機用マトリックス樹脂に配合すると一般にコアシェルゴム粒子が凝集する傾向にあり、炭素繊維強化複合材料の圧縮特性が低下する傾向にある。一方、特許文献2および3で提案されているような不溶性ゴム粒子を単に靱性の低いマトリックス樹脂に配合しても、マトリックス樹脂の靱性不足により不溶性ゴム粒子のキャビテーション効果を十分に発揮することができず炭素繊維強化複合材料のマイクロクラック耐性を発現することができない。さらには、導電性粒子に対して該不溶性ゴム粒子は適切な粒径分布、粒径サイズを持たないため、カーボン粒子や金属めっき有機粒子とマトリックス樹脂との界面、あるいは、カーボン粒子や金属めっき有機粒子と炭素繊維との接触箇所を十分に高靱性化できないため、これら界面、接触箇所を起点とするマイクロクラックを防止することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,028,478号明細書
【特許文献2】特開平1−118565
【特許文献3】米国特許第5627222号明細書
【特許文献4】特開平3−26750号公報
【特許文献5】特開2008−231395号公報
【特許文献6】特開2009−280669号公報
【特許文献7】国際公開第2010/109929号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、上記課題を解決し、優れたマイクロクラック耐性、導電性、および、耐衝撃性とを兼ね備えた炭素繊維強化複合材料、およびそれに好適に用いられるプリプレグを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、次のいずれかの構成を有するものである。すなわち、
炭素繊維[A]、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、および下記(1)、(2)の少なくとも一方を満たしてなるプリプレグであって、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物、または、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物を180℃の温度下で2時間硬化した硬化物のKICが0.8〜2.0MPa・m1/2であり、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、および熱可塑性樹脂粒子[E]のいずれも、その総量の90〜100質量%が、該プリプレグの厚さ方向において、該プリプレグの両方の主面それぞれから該プリプレグの厚さに対して20%の深さまでの範囲内に分布しており、ゴム粒子[D]の粒径、あるいは、ゴム粒子[D]の粒径および熱可塑性樹脂粒子[E]の粒径のメジアン径が小さくない方の粒子の粒径は、そのメジアン径が、導電性粒子[C]の粒径のメジアン径と同じかもしくはそれより小さく、ゴム粒子[D]が、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した場合において、全体積を100%として累積カーブを求めた時、その累積カーブが5%となる粒径が1〜5μmである、プリプレグである。
(1)ゴム粒子[D]を含む。
(2)ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]を含む。
【0010】
あるいは、炭素繊維[A]、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、および下記(1)、(2)の少なくとも一方を満たしてなるプリプレグであって、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物、または、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物を180℃の温度下で2時間硬化した硬化物のKICが0.8〜2.0MPa・m1/2であり、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、および熱可塑性樹脂粒子[E]のいずれも、その総量の90〜100質量%が、該プリプレグの厚さ方向において、該プリプレグの片方の主面から該プリプレグの厚さに対して20%の深さまでの範囲内に分布しており、ゴム粒子[D]の粒径、あるいは、ゴム粒子[D]の粒径および熱可塑性樹脂粒子[E]の粒径のメジアン径が小さくない方の粒子の粒径は、そのメジアン径が、導電性粒子[C]の粒径のメジアン径と同じかもしくはそれより小さく、ゴム粒子[D]が、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した場合において、全体積を100%として累積カーブを求めた時、その累積カーブが5%となる粒径が1〜5μmである、プリプレグである。
(1)ゴム粒子[D]を含む。
(2)ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]を含む。
【0011】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、上記のプリプレグを2枚以上含み、それらのうち少なくとも2枚の前記プリプレグが隣接している積層体を加熱および加圧する工程を備える方法により得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、厚み方向の導電性に加えて熱サイクルによる疲労耐性(マイクロクラック耐性)に優れ、かつ高い耐衝撃性を発現する炭素繊維強化複合材料、ならびにそれを得るために好適なプリプレグを得ることができる。従来技術では、耐衝撃性と導電性とを同時に満たす炭素繊維強化複合材料を得ることはできたが、同時にマイクロクラック耐性にも優れた航空機部材に好適な炭素繊維強化複合材料は得ることができなかった。本発明により、厚み方向の導電性と耐衝撃性に加えて、マイクロクラック耐性に優れた炭素繊維強化複合材料を提供することが可能となり、航空機、宇宙用途、自動車、船舶、風車等の構造材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の代表的なプリプレグ(2枚以上積層された状態)の断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、炭素繊維、熱硬化性樹脂からなる炭素繊維強化複合材料について、耐衝撃性と導電性とを高度に両立しながら、マイクロクラック耐性を発現させるメカニズムを追求した結果、以下に説明される炭素繊維複合材料の積層層間部に導電性粒子を加えて、さらにその積層層間部にゴム粒子を配置し、あるいは、導電性粒子に加えて、その積層層間部に熱可塑性樹脂粒子とゴム粒子を配置し、該ゴム粒子のキャビテーション効果を最大限に引き起こすため、ある特定の靱性値を有するマトリックス樹脂を用いることにより、優れた耐衝撃性と導電性とを両立し、加えてマイクロクラック耐性を高度に兼ね備えた炭素繊維強化複合材料を得られることを見出し、かかる炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグを想到したものである。
【0015】
プリプレグとは、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸した成形中間基材であり、本発明においては、強化繊維として炭素繊維が用いられ、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂が用いられる。かかるプリプレグにおいては、熱硬化性樹脂は未硬化の状態にあり、プリプレグを積層、硬化することで炭素繊維強化複合材料が得られる。もちろん、プリプレグ単層を硬化させても炭素繊維強化複合材料が得られる。複数枚のプリプレグを積層、硬化させてなる炭素繊維強化複合材料は、プリプレグの表面部が、炭素繊維強化複合材料の積層層間部となり、プリプレグの内部が、炭素繊維強化複合材料の積層層内部となる。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明のプリプレグは、炭素繊維[A]、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、および下記(1)、(2)の少なくとも一方を満たしてなるプリプレグであって、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物、または、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物を180℃の温度下で2時間硬化した硬化物のKIcが0.8〜2.0MPa・m1/2であり、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、および熱可塑性樹脂粒子[E]のいずれも、その総量の90〜100質量%が、該プリプレグの厚さ方向において、該プリプレグの両方の主面それぞれから該プリプレグの厚さに対して20%の深さまでの範囲内に分布している、プリプレグである。
(1)ゴム粒子[D]を含む。
(2)ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]を含む。
【0017】
または、本発明のプリプレグは、炭素繊維[A]、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、および下記(1)、(2)の少なくとも一方を満たしてなるプリプレグであって、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物、または、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物を180℃の温度下で2時間硬化した硬化物のKIcが0.8〜2.0MPa・m1/2であり、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、および熱可塑性樹脂粒子[E]のいずれも、その総量の90〜100質量%が、該プリプレグの厚さ方向において、該プリプレグの片方の主面から該プリプレグの厚さに対して20%の深さまでの範囲内に分布している、プリプレグである。
(1)ゴム粒子[D]を含む。
(2)ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]を含む。
【0018】
本発明で用いられる炭素繊維[A]は、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、より高い導電性を発現することから、少なくとも280GPaの引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、耐衝撃性との両立の点から高くとも440GPaの引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、耐衝撃性の観点からは耐衝撃性に優れ、高い剛性および機械強度を有する炭素繊維強化複合材料が得られることから、引張強度が好ましくは4.4〜6.5GPaであり、一方、引張伸度も重要な要素であり1.7〜2.3%の高強度高伸度炭素繊維であることが好ましい。従って、高い導電性および耐衝撃性を両立する点から、引張弾性率が少なくとも280GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり 、引張伸度が少なくとも1.7%であるという特性を兼ね備えた炭素繊維が最も適している。引張弾性率、引張強度および引張伸度は、JIS R7601(1986)に記載されるストランド引張試験により測定することができる。
【0019】
このような炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800S−24K−10E、“トレカ(登録商標)”T800G−24K−31E、および“トレカ(登録商標)”T700SC−24K−50C(以上いずれも東レ(株)製)などが挙げられる。
【0020】
炭素繊維[A]の形態や配列については、連続した形態のものであればその配列は問わないが、軽量で耐久性がより高い水準にある炭素繊維強化複合材料を得るためには、炭素繊維が、一方向に引き揃えた長繊維、織物、二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組み紐、トウおよびロービング等連続繊維の形態であることが好ましい。
【0021】
また、炭素繊維の形態として、プリフォームを適用することもできる。ここで、プリフォームとは、通常、長繊維の炭素繊維からなる織物基布を積層したもの、またはその織物基布をステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物や編組物などの繊維構造物を意味する。
【0022】
本発明で用いられる炭素繊維[A]は、単繊維繊度は0.2〜2.0dtexであることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.8dtexである。0.2dtex未満であると、撚糸時においてガイドローラーとの接触による炭素繊維束の損傷が起こりやすくなることがあり、また熱硬化性樹脂の含浸処理工程においても同様の損傷が起こることがある。2.0dtexを越えると炭素繊維束に熱硬化性樹脂が十分に含浸されないことがあり、結果として耐疲労性が低下することがある。
【0023】
本発明で用いられる炭素繊維[A]は、一つの繊維束中のフィラメント数が2500〜50000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が2500本を下回ると繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやすい。また、フィラメント数が50000本を上回るとプリプレグ作製時あるいは成形時に樹脂含浸をし難い。フィラメント数は、より好ましくは2800〜25000本の範囲である。
【0024】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂[B]は、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する樹脂であれば特に限定されない。かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられ、これらの変性体および2種類以上ブレンドした樹脂なども用いることができる。また、これらの熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合するものであっても良い。
【0025】
これらの熱硬化性樹脂[B]の中でも、耐熱性、力学特性および炭素繊維との接着性のバランスに優れているエポキシ樹脂が好ましく用いられる。特に、アミン類、フェノール類、炭素−炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
具体的には、アミン類を前駆体とするテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが挙げられる。また、アミノフェノール型エポキシ樹脂として、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、およびトリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体が挙げられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンは、耐熱性や炭素繊維との接着性に優れているため好ましく用いられる。
【0027】
熱硬化性樹脂[B]として、特に平均エポキシ当量が100〜134g/eq.であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが好ましく用いられ、より好ましくは平均エポキシ当量が100〜120g/eq.であり、さらに好ましくは、平均エポキシ当量が100〜115g/eq.である。かかる平均エポキシ当量が100g/eq.を満たない場合、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの製造が困難となり、製造収率が低い場合があり、平均エポキシ当量が134g/eq.を超えると、得られるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの粘度が高すぎるため、熱硬化性樹脂に靱性を付与するため熱可塑性樹脂を溶解する際、少量しか溶解することができず、高い靱性を有する熱硬化性樹脂が得られない場合がある。中でも、平均エポキシ当量が100〜120g/eq.のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに熱可塑性樹脂を溶解させる場合、プリプレグ化のプロセスに問題の無い範囲で、大量の熱可塑性樹脂を溶解させることができ、耐熱性を損なうこと無く高い靱性を硬化物に付与することができ、その結果、炭素繊維強化複合材料に高いマイクロクラック耐性を発現することができる。
【0028】
また、熱硬化性樹脂[B]として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを使用する際は、熱硬化性樹脂100質量部のうち、好ましくは20質量部以上であり、より好ましくは30質量部以上であり、さらに好ましくは35質量部以上である。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの配合量が少なすぎると、熱硬化性樹脂の硬化物の耐熱性や弾性率が低下する場合がある。
【0029】
また、熱硬化性樹脂[B]として好ましく用いられるグリシジルアニリン型エポキシ樹脂として、ジグリシジルアニリン、モノグリシジルアニリン、およびそれらのベンゼン環の2、3、4、5、6位から選ばれる1つ以上の炭素に置換基を持つ誘導体群が挙げられる。置換基としては、アルキル基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、メトキシ基などのアルキルエーテル基、フェノキシ基などのアリールエーテル基などが挙げられる。グリシジルアニリン型エポキシ樹脂を配合することで、樹脂の粘弾性、流動性をコントロールし、また樹脂硬化物の弾性率や、炭素繊維強化複合材料の引張強度など、力学特性を向上させる効果が得られる。
【0030】
また、熱硬化性樹脂[B]として、フェノールを前駆体とするビスフェノール型エポキシ樹脂も好ましく用いられる。このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂が挙げられる。また、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂も好ましく用いられる。
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂は、低粘度であるために、他のエポキシ樹脂と組み合わせて使うことが好ましい。
【0031】
また、室温(25℃程度)で固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、室温(25℃程度)で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂に比較し、硬化樹脂において、架橋密度の低い構造を与えるため、その硬化樹脂は耐熱性については、より低いものとなるが、靭性については、より高いものとなるため、グリシジルアミン型エポキシ樹脂や液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂と組み合わせて好ましく用いられる。
【0032】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、低吸水率かつ高耐熱性の硬化樹脂を与える。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂も、低吸水率の硬化樹脂を与えるため好適に用いられる。
【0033】
ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靱性と伸度の高い硬化樹脂を与えるため好適に用いられる。
【0034】
これらエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし適宜配合して用いてもよい。少なくとも2官能のエポキシ樹脂および3官能以上のエポキシ樹脂を配合して用いると、樹脂の流動性と硬化後の耐熱性を兼ね備えるものとすることができるので好ましい。特に、グリシジルアミン型エポキシとグリシジルエーテル型エポキシの組み合わせは、耐熱性および耐水性とプロセス性の両立を可能にする。また、少なくとも室温で液状のエポキシ樹脂と室温で固形状のエポキシ樹脂とを配合することは、プリプレグのタック性とドレープ性を適切なものとするために有効である。
【0035】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、耐熱性が高く吸水率が小さいため、耐熱耐水性の高い硬化樹脂を与える。これらのフェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いることによって、耐熱耐水性を高めつつプリプレグのタック性とドレープ性を調節することができる。
【0036】
以下に、熱硬化性樹脂[B]に含むことのできるエポキシ樹脂の市販品の例を挙げる。
【0037】
テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、“アラルダイト(登録商標)”MY721、“アラルダイト(登録商標)”MY9512、“アラルダイト(登録商標)”MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、および“エポトート(登録商標)”YH―434(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0038】
メタキシレンジアミン型のエポキシ樹脂の市販品としては、TETRAD−X(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0039】
1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン型のエポキシ樹脂の市販品としては、TETRAD−C(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0040】
イソシアヌレート型のエポキシ樹脂の市販品としては、TEPIC−P(日産化学工業(株)製)が挙げられる。
【0041】
アミノフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM120やELM100(以上、住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)、および“アラルダイト(登録商標)”MY0600、“アラルダイト(登録商標)”MY0610、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、“アラルダイト(登録商標)”MY0510(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0042】
トリスヒドロキシフェニルメタン型のエポキシ樹脂の市販品としては、Tactix742(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)が挙げられる。
【0043】
テトラフェニロールエタン型のエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”1031S(三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0044】
ビナフタレン骨格を有する多官能エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP4700(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0045】
ナフタレン骨格を含有する多官能エポキシ樹脂の市販品としては、NC−7300(日本化薬(株)製)、“エポトート(登録商標)”ESN−175、“エポトート(登録商標)”ESN−375(以上東都化成(株)製)なども挙げられる。
【0046】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0047】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、DEN431やDEN438(以上、ダウケミカル社製)および“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0048】
オルソクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂の市販品としては、EOCN−1020(日本化薬(株)製)や“エピクロン(登録商標)”N−660(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0049】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPON(登録商標)”825(三菱化学(株)製)、“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD―128(東都化成(株)製)、およびDER―331やDER−332(以上、ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0050】
固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”1001、“jER(登録商標)”1002、“jER(登録商標)”1003、“jER(登録商標)”1004AF“jER(登録商標)”1055、“jER(登録商標)”1007、“jER(登録商標)”1009および“jER(登録商標)”1010(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0051】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807および“jER(登録商標)”1750(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD―170(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0052】
固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”4002、 “jER(登録商標)”4004P、“jER(登録商標)”4005P、“jER(登録商標)”4007Pおよび“jER(登録商標)”4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0053】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0054】
ビフェニル型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000および“jER(登録商標)”YL6677(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0055】
ウレタン変性エポキシ樹脂の市販品としては、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)などが挙げられる。
【0056】
ヒダントイン型のエポキシ樹脂の市販品としては、AY238(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)が挙げられる。
【0057】
ビスアリールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、オグソールPG、オグソールPG−100、オグソールEG(以上、大阪ガスケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0058】
グリシジルアニリン型エポキシ樹脂の市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0059】
1官能のエポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール (登録商標) ”Ex−731(グリシジルフタルイミド)、“デナコール(登録商標)”Ex−141(フェニルグリシジルエーテル)、“デナコール(登録商標)”Ex−146(p−ターシャリブチルフェニルグリシジルエーテル)、“デナコール(登録商標)”Ex−147(ジブロモフェニルグリシジルエーテル)(以上、ナガセケムテックス(株)製)、およびOPP−G(o−フェニルフェニルグリシジルエーテル、三光(株)製)などが挙げられる。
【0060】
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、前記以外にも、前述のエポキシ樹脂とその他の熱硬化性樹脂の共重合体、変性体およびこれらの2種類以上をブレンドした樹脂組成物なども用いることができる。
【0061】
エポキシ樹脂と共重合させて用いられる上記の熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂と共重合させて用いられる上記の熱硬化性樹脂は、1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物である。エポキシ樹脂硬化剤は樹脂組成物を硬化させた際に架橋密度を適切にし、十分な剛性と耐熱性を与える。硬化剤としては、エポキシ基との反応性を有する官能基を有するものであれば特に限定されないが、より具体的には、例えば、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノール化合物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタンおよび三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。
【0063】
エポキシ樹脂硬化剤が芳香族ポリアミン芳香族ポリアミンである場合、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られるので好ましい。また、エポキシ樹脂硬化剤が酸無水物である場合、アミン化合物硬化に比べ吸水率の低い硬化物を与えるので、これも好ましい。
【0064】
芳香族ポリアミンの具体例としては、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミンやそれらの各種誘導体および位置異性体が挙げられる。芳香族ポリアミン硬化剤の市販品としては、例えば、“セイカキュア(登録商標)”S(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(三菱化学(株)製)、3,3’−DAS(三井化学(株)製)、“Lonza Cure(登録商標)”M−DIPA(Lonza(株)製)、および“Lonza Cure(登録商標)”M−MIPA(Lonza(株)製)などが挙げられる。
【0065】
酸無水物硬化剤の具体例としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルジヒドロ無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、シクロペンタンテトラカルボン酸ジアンヒドリド、無水ナジック酸、メチル無水ナジック酸、ビシクロ(2.2.2)オクト−7−2,3,5,6−テトラカルボン酸ジアンヒドリドなどが挙げられる。メチルテトラヒドロ無水フタル酸の市販品としては、“リカシッド(登録商標)”MT500(新日本理化(株)製)があげられる。ヘキサヒドロ無水フタル酸の市販品としては、“リカシッド(登録商標)”HH(新日本理化(株)製),HHPA(丸善石油化学(株)製)が挙げられる。メチルヘキサヒドロ無水フタル酸の市販品としては、“EPICLON(登録商標)” B−570、“EPICLON(登録商標)” B−650(以上DIC(株)製)などが挙げられる。ヘキサヒドロ無水フタル酸とメチルヘキサヒドロフタル酸の混合物の市販品としては、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸:ヘキサヒドロ無水フタル酸=70:30で配合された“リカシッド(登録商標)”MH700(新日本理化(株)製)が挙げられる。無水メチルナジック酸の市販品としては、“カヤハード(登録商標)”MCD (日本化薬(株)製)が挙げられる。トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸の市販品としては、“jERキュア(登録商標)”YH−306(三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0066】
本発明で用いられるエポキシ樹脂硬化剤としては、前記以外にも、これらの硬化剤を潜在化したもの、例えば、アミンアダクトやマイクロカプセル化したものを用いることもできる。このような潜在化させた硬化剤を使用した場合、プリプレグの保存安定性、特にタック性やドレープ性が室温放置しても変化しにくいので、例えば長期の積層時間を有する大型の構造体の製造にも適したものが得られる。
【0067】
これらのエポキシ樹脂硬化剤およびそれらを潜在化した硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。前記のポリアミンや酸無水物等と共に、前記のポリアミンのアミノ基を一部アルキル化またはアリール化した2級アミンや、ジフェニルフェニレンジアミンのような2級アミン、また、アニリン誘導体やアミノビフェニル、アミノアントラキノン、フェニルフェノール等の各種の環構造を有するアミノ化合物、フェノール類を組み合わせて用いることによって、炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性や、樹脂硬化物の弾性率、靭性を効果的に向上できることがある。また、用途、目的に応じて、硬化触媒となる化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
熱硬化性樹脂硬化物および炭素繊維強化複合材料としたときに良好な耐熱性、力学特性を発現させるために、融点が50℃以上の、常温で固体の芳香族アミン化合物を硬化剤成分として含むことが好ましい。中でも、ジアミノジフェニルスルホンの各種誘導体、ジアミノジフェニルメタンの各種誘導体が好ましく用いられる。融点が50℃以上の固体の芳香族アミン化合物を用いる場合、微粉末で用いることが好ましく、形状は球状、不定形でも問題はないが、その平均粒径が0.5〜100μmであることが好ましい。0.5μm以下であると、粉末をエポキシ樹脂に混練した際にエポキシ樹脂に溶解し、硬化プロセスの前に徐々に反応が進むことで最終的な複合材料における物性を低下させることがある。また、室温での保管や積層中にも反応が進行してプリプレグのタックやドレープ性を損なうことがある。一方で、100μm以上であると、硬化プロセスで加温しても溶け残ることがあり、その部分が複合材料中の欠陥になることがある。
【0069】
本発明において、熱硬化性樹脂[B]に熱可塑性樹脂[F]を溶解して用いることは、力学特性、マイクロクラック耐性、さらには耐溶剤性を向上させるために重要である。熱硬化性樹脂に可溶な熱可塑性樹脂を配合することで、プリプレグにおけるマトリックス樹脂の粘弾性をコントロールし、プリプレグの取扱い性を向上させる効果もある。このような熱可塑性樹脂としては、一般に、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましいが、部分的に架橋構造を有していても差し支えない。また、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂が、熱硬化性樹脂に、溶解していることが好適である。これらの熱可塑性樹脂は、市販のポリマーを用いてもよく、また市販のポリマーより分子量の低い、いわゆるオリゴマーを用いても良い。オリゴマーとしては、熱硬化性樹脂と反応し得る官能基を末端または分子鎖中に有するオリゴマーが好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、本発明で用いられる熱硬化性樹脂との親和性の観点から、水酸基やアミノ基のような熱硬化性樹脂またはその硬化剤成分と反応し得る官能基を末端または分子鎖中に有することが好ましい。熱硬化性樹脂またはその硬化剤成分と反応し得る官能基を有することで、硬化中に分離、析出して不均一となることを防ぎやすくなり、耐溶剤性をより高めることができる。
【0070】
熱硬化性樹脂の硬化物の耐熱性や靱性、および未硬化の熱硬化性樹脂の粘度制御の面から、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドが好ましく用いられ、エポキシ樹脂への靱性付与効果が高いポリエーテルスルホンが特に好ましく用いられる。
【0071】
中でも平均分子量が10000〜60000g/molであるポリエーテルスルホンが好ましく用いられ、より好ましくは平均分子量が12000〜50000g/molであり、さらに好ましくは平均分子量が15000〜30000g/molである。かかる平均分子量が低すぎると、プリプレグのタックが過剰となり取扱性が低下したり、硬化物の靱性が低くなる場合がある。かかる平均分子量が高すぎると、プリプレグのタックが低下し取扱性が低下したり、熱硬化性樹脂に溶解した際、樹脂の粘度が高くなりプリプレグ化できない場合がある。中でも、平均分子量が15000〜30000g/molの高い耐熱性を持つポリエーテルスルホンを熱硬化性樹脂に溶解させる場合、プリプレグ化のプロセスに問題の無い範囲で、大量の熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂に溶解させることができ、高い靱性を硬化物に付与することができ、耐熱性と耐衝撃性を維持しながら炭素繊維強化複合材料に高いマイクロクラック耐性を付与することができる。
【0072】
ポリエーテルスルホンの市販品としては、“スミカエクセル(登録商標)”PES3600P、PES5003P、PES5200P、PES7600P(以上、住友化学(株)製)、“Ultrason(登録商標)”E2020P、E2020P SR、E6020P(以上、BASF社製)、“Virantage”(登録商標)PESU VW−10200、“Virantage”(登録商標)PESU VW−10700(登録商標、以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株))、ポリエーテルイミドとしては、“ウルテム”(登録商標)1000、“ウルテム”(登録商標)1010、“ウルテム”(登録商標)1040(以上、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)などを使用することができる。
【0073】
熱硬化性樹脂[B]に熱可塑性樹脂[F]を溶解して用いた場合は、それらを単独で用いた場合より良好な結果を与える。熱硬化性樹脂の脆さを熱可塑性樹脂の強靱さでカバーし、かつ熱可塑性樹脂の成形困難性を熱硬化性樹脂でカバーし、バランスのとれたベース樹脂となる。熱硬化性樹脂[B]100質量部のうち、好ましくは熱可塑性樹脂の配合割合が2〜40質量部であり、より好ましくは5〜30質量部であり、さらに好ましくは12〜25質量部の範囲である。熱可塑性樹脂の配合量が多すぎると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が上昇し、熱硬化性樹脂組成物およびプリプレグの製造プロセス性や取扱性を損ねる場合がある。熱可塑性樹脂の配合量が少なすぎると、熱硬化性樹脂の硬化物の靱性が不足し、得られる炭素繊維強化複合材料のマイクロクラック耐性が不足する場合がある。
【0074】
本発明の熱硬化性樹脂[B]と熱可塑性樹脂[F]との組合せとして、耐熱性と炭素繊維との接着性に優れているテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンと耐熱性や靱性が優れているポリエーテルスルホンとの組合せは、得られる硬化物が高い耐熱性と靱性とを持つことから好ましく用いられる。特に平均エポキシ当量100〜115g/eq.のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンと平均分子量15000〜30000g/molのポリエーテルスルホンとの組合せは、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに高い耐熱性を持つポリエーテルスルホンを多量に溶解させることができるので、耐熱性を低下させること無く得られる硬化物に高い靱性を付与することができ、耐熱性と耐衝撃性を維持しながら炭素繊維強化複合材料に高いマイクロクラック耐性を付与することができる。
【0075】
本発明の熱可塑性樹脂粒子[E]は、得られる炭素繊維強化複合材料に優れた耐衝撃性を実現させることができる。本発明で用いられる熱可塑性樹脂粒子の素材としては、エポキシ樹脂に溶解して用いる熱可塑性樹脂として先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様の種類であり、かつ粒子状の形態のものを用いることができる。なかでも、優れた靭性のため炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性を大きく向上できるポリアミドは最も好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン11やナイロン6/12共重合体は、熱硬化性樹脂との接着強度が特に良好であることから、落錘衝撃時の炭素繊維強化複合材料の層間剥離強度が高く、耐衝撃性の向上効果が高いため好ましい。熱可塑性樹脂粒子として、さらにエポキシ樹脂を混合し作製した粒子を用いた場合、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂との接着性が向上し炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が向上することからさらに好ましい。ポリアミド粒子の市販品として、“アミラン(登録商標)”SP−500、SP−10、TR−1、TR−2、842P−48、842P−80(以上東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD,2001EXD、2002D、3202D,3501D,3502D、(以上、アルケマ社製)等を使用することができる。これら熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状でも非球状でも多孔質でも針状でもウイスカー状でも、またはフレーク状でもよいが、球状の方が、エポキシ樹脂の流動特性を低下させないため、炭素繊維への含浸性が優れることや、炭素繊維強化複合材料への落錘衝撃(または局所的な衝撃)時、局所的な衝撃により生じる層間剥離がより低減されるため、かかる衝撃後の炭素繊維強化複合材料に応力がかかった場合において、応力集中による破壊の起点となる前記局所的な衝撃に起因して生じ層間剥離部分がより少なく、高い耐衝撃性を発現する炭素繊維強化複合材料が得られることから好ましい。また、熱可塑性樹脂粒子の中には、硬化の過程でマトリックス樹脂成分に溶解しないことで、より高い改質効果を発現するものがある。硬化の過程で溶解しないことは、硬化時の樹脂の流動性を保ち含浸性を向上させることにも効果的である。
【0076】
熱可塑性樹脂粒子[E]のメジアン径は、後述するゴム粒子[D]のメジアン径よりも小さくない場合、後述する導電性粒子[C]のメジアン径と同じかもしくは、それより小さい。熱可塑性樹脂粒子が導電性粒子のメジアン径よりも大きい場合、炭素繊維強化複合材料において、隣接している炭素繊維の間に挟まれた、絶縁性である熱硬化性樹脂組成物を有してなる層間に導電性粒子が埋もれてしまい、隣接している炭素繊維の間に含まれた導電性粒子と炭素繊維との導電パスが形成されにくく、十分な導電性向上効果をもたらさない場合がある。かかる熱可塑性樹脂粒子[E]のメジアン径は、大きくとも150μmであることが好ましい。かかる平均径が150μmを超えると、炭素繊維の配列を乱したり、熱可塑性樹脂粒子をプリプレグの表面近傍に形成するようにした場合、得られる炭素繊維強化複合材料の層間を必要以上に厚くするため、炭素繊維強化複合材料の圧縮特性等の力学特性を低下させる場合がある。かかるメジアン径は、好ましくは1〜150μmであり、より好ましくは1〜70μmであり、さらに好ましくは1〜30μmである。かかるメジアン径が小さすぎると、炭素繊維の繊維間に粒子が潜り込み、プリプレグ積層体の層間部分に局在化せず、粒子の存在効果が十分に得られず、得られる炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が低くなる場合がある。
本発明のゴム粒子[D]は、得られる炭素繊維強化複合材料に優れた耐衝撃性とマイクロクラック耐性を実現させることができる。
本発明で用いられるゴム粒子としては、公知の天然ゴムや合成ゴムを用いることができる。特に熱硬化性樹脂に不溶な架橋ゴム粒子が好ましく用いられる。熱硬化性樹脂に不溶であれば、その硬化物の耐熱性が、粒子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物の耐熱性と同等になる。また、熱硬化性樹脂の種類や硬化条件の違いによりモルホロジーが変化することがないため、靭性などの安定した熱硬化性樹脂硬化物の物性を得ることができる。架橋ゴム粒子としては、例えば、単独のあるいは複数の不飽和化合物との共重合体、あるいは、単独のあるいは複数の不飽和化合物と架橋性モノマーを共重合して得られる粒子を使用することができる。
不飽和化合物としては、エチレン、プロピレンなどの脂肪族オレフィン、スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、ブタジエン、ジメチルブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどの共役ジエン化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル、アクリロニトリルなどのシアン化ビニルなどを使用することができる。さらにカルボキシル基、エポキシ基、水酸基およびアミノ基、アミド基などのエポキシ樹脂あるいは硬化剤と反応性を有する官能基を有する化合物を用いることもできる。例としては、アクリル酸、グリシジルメタクリレート、ビニルフェノール、ビニルアニリン、アクリルアミドなどを使用することができる。
架橋性モノマーの例としては、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタアクリレートなどの分子内に重合性二重結合を複数個有する化合物を使用することができる。
これらの粒子は、例えば乳化重合法、懸濁重合法などの従来公知の各種重合方法により製造することができる。代表的な乳化重合法は、不飽和化合物や架橋性モノマーを過酸化物などのラジカル重合開始剤、メルカプタン、ハロゲン化炭化水素などの分子量調整剤、乳化剤の存在下で乳化重合を行い、所定の重合転化率に達した後、反応停止剤を添加して重合反応を停止させ、次いで重合系の未反応モノマーを水蒸気蒸留などで除去することによって共重合体のラテックスを得る方法である。乳化重合法で得られたラテックスから水を除去して架橋ゴム粒子が得られる。
【0077】
架橋ゴム粒子の例としては、架橋アクリロニトリルブタジエンゴム粒子、架橋スチレンブタジエンゴム粒子、アクリルゴム粒子、コアシェルゴム粒子などが挙げられる。コアシェル型ゴム粒子とは、中心部と表層部が異なるポリマーからなる球状ポリマー粒子で、単にコア相と単一のシェル相の二相構造からなるもの、あるいは例えば内側からソフトコア、ハードシェル、ソフトシェルおよびハードシェルとなる構造のように複数のシェル相を有する多相重構造からなるマルチコアシェルゴム粒子などが知られている。ここでソフトとは、上記記載のゴムの相であること、ハードとは、ゴムではない樹脂の相であることを意味する。ここで、架橋ゴム粒子の市販品として、架橋アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)粒子の具体例としては、X
ER−91(JSR(株)製)、“DuoMod(登録商標)”DP5045(ゼオンコーポレーション(株)製)などが挙げられる。架橋スチレンブタジエンゴム(SBR)粒子の具体例としては、XSK−500(JSR(株)製)などが挙げられる。アクリルゴム粒子の具体例としては、メタブレンW300A、W450A(以上、三菱レイヨン(株)製)、コアシェル型ゴム粒子の具体例としては、スタフィロイドAC3832、AC3816N(以上、ガンツ化成(株)製)、メタブレンKW−4426(三菱レイヨン(株)製)、EXL−2611、EXL−3387(以上、ローム・アンド・ハース(株)製)、“パラロイド(登録商標)”EXL−2655、“パラロイド(登録商標)”EXL−2314(以上、呉羽化学工業(株)製)、“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、“スタフィロイド(登録商標)”TR−2105、“スタフィロイド(登録商標)”TR−2102、“スタフィロイド(登録商標)”TR−2122、“スタフィロイド(登録商標)”IM−101、“スタフィロイド(登録商標)”IM−203、“スタフィロイド(登録商標)”IM−301、“スタフィロイド(登録商標)”IM−401(以上、武田薬品工業(株)製)等が挙げられる。架橋ゴム粒子は、単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0078】
本発明のゴム粒子[D]のメジアン径は、熱可塑性樹脂粒子[E]を用いない場合、もしくは、熱可塑性樹脂粒子[E]を用いる場合であって、ゴム粒子[D]のメジアン径が熱可塑性樹脂粒子[E]のメジアン径よりも小さくない場合、後述する導電性粒子[C]のメジアン径と同じかもしくは、それより小さい。ゴム粒子が導電性粒子のメジアン径よりも大きい場合、炭素繊維強化複合材料において、隣接している炭素繊維の間に挟まれた、絶縁性である熱硬化性樹脂組成物を有してなる層間に導電性粒子が埋もれてしまい、隣接している炭素繊維の間に含まれた導電性粒子と炭素繊維との導電パスが形成されにくく、十分な導電性向上効果をもたらさない場合がある。かかるゴム粒子[D]のメジアン径は、大きくとも150μmであることが好ましい。かかるメジアン径が150μmを超えると、炭素繊維の配列を乱したり、熱可塑性樹脂粒子をプリプレグの表面近傍に形成するようにした場合、得られる炭素繊維強化複合材料の層間を必要以上に厚くするため、炭素繊維強化複合材料の圧縮特性等の力学特性を低下させる場合がある。メジアン径は、好ましくは1〜150μmであり、より好ましくは1〜70μmであり、さらに好ましくは1〜30μmである。かかるメジアン径が小さすぎると、炭素繊維の繊維間に粒子が潜り込み、プリプレグ積層体の層間部分に局在化せず、ゴム粒子の存在効果が十分に得られず、得られる炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が低くなる場合がある。ゴム粒子のメジアン径が1〜30μmの際には、炭素繊維強化複合材料の層間では、本発明の導電性粒子の周囲にゴム粒子が配置され十分に高靱性化されるので、炭素繊維強化複合材料の層間で、マトリックス樹脂と導電性粒子との界面、あるいは、導電性粒子と炭素繊維との接触箇所を起点とするマイクロクラックを防止することができる。
【0079】
本発明のゴム粒子[D]は、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した場合において、全体積を100%として累積カーブを求めた時、その累積カーブが5%となる粒径が、大きくとも10μmであることが好ましい。かかる粒径が10μmを超えると、高靱性なゴム粒子が本発明の導電性粒子の周囲を囲うように適切に配置されず、炭素繊維強化複合材料の層間で、マトリックス樹脂と導電性粒子との界面、あるいは、導電性粒子と炭素繊維との接触箇所を起点とするマイクロクラックが発生する場合がある。かかる累積カーブが5%となる粒径は、好ましくは1〜10μmであり、より好ましくは1〜8μmであり、さらに好ましくは1〜5μmである。かかる累積カーブが5%となる粒径が小さすぎると、炭素繊維の繊維間にゴム粒子が潜り込み、プリプレグ積層体の層間部分に局在化せず、粒子の存在効果が十分に得られず、得られる炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が低くなる場合がある。ゴム粒子[D]の累積カーブが5%となる粒径が1〜5μmの際には、炭素繊維強化複合材料の層間では、本発明の導電性粒子[C]の周囲にゴム粒子[D]が効率よく入り込み十分に高靱性化されるので、炭素繊維強化複合材料の層間で、マトリックス樹脂と導電性粒子[C]との界面、あるいは、導電性粒子[C]と炭素繊維[A]との接触箇所を起点とするマイクロクラックを防止することができる点で特に好ましく用いられる。
【0080】
レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した場合において、ゴム粒子[D]の粒径の変動係数(CV値)が30%以上であることが好ましい。より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。かかるCV値が小さすぎる場合、ゴム粒子の製造コストが高くなる場合があったり、ゴム粒子のメジアン径が大きい場合には、高靱性なゴム粒子が導電性粒子の周囲を囲うように適切に配置されず、炭素繊維強化複合材料の層間で、マトリックス樹脂と導電性粒子との界面、あるいは、導電性粒子と炭素繊維との接触箇所を起点とするマイクロクラックが発生する場合がある。かかるCV値を最適化することで、炭素繊維強化複合材料の層間で、マトリックス樹脂と導電性粒子との界面、あるいは、導電性粒子と炭素繊維との接触箇所をゴム粒子で補強することができ、マイクロクラックを防止することができる。
【0081】
ここでいう粒径とは、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した場合において、全体積を100%とした累積カーブにおける各体積%での粒径を意味する。本発明で用いられる粒度分布とは、レーザー回折散乱法を用いたHORIBA(株)製LA−950を用いて、レーザー回折散乱法により測定したものである。得られた粒度分布の累積カーブにおける5%、50%(メジアン径)の各体積%での粒径を求めている。また、本発明で用いられるCV値(粒径の変動係数)は、下記計算式によって算出される。
粒径のCV値(%)=(粒径の標準偏差/メジアン径)×100。
【0082】
本発明で用いられる導電性粒子[C]は、電気的に良好な導体として振る舞う粒子であれば良く、導体のみからなるものに限定されない。好ましくは体積固有抵抗が10〜10−9Ωcmであり、より好ましくは1〜10−9Ωcmであり、さらに好ましくは10−1〜10−9Ωcmである粒子である。体積固有抵抗が高すぎると、炭素繊維強化複合材料において十分な導電性が得られない場合がある。導電性粒子は、例えば、カーボン粒子、金属粒子、ポリアセチレン粒子、ポリアニリン粒子、ポリピロール粒子、ポリチオフェン粒子、ポリイソチアナフテン粒子、ポリエチレンジオキシチオフェン粒子等の導電性ポリマー粒子の他、無機材料の核が導電性の物質で被覆されてなる粒子、有機材料の核が導電性の物質で被覆されてなる粒子を使用することができる。これらの中でも、高い導電性および安定性を示すことから、カーボン粒子、無機材料の核が導電性の物質で被覆されてなる粒子、有機材料の核が導電性の物質で被覆されてなる粒子が好ましく用いられ、この中でもさらにカーボン粒子が、長期安定性が高いことから特に好ましく用いられる。
【0083】
ここでいう、体積固有抵抗とは、サンプルを、4探針電極を有する円筒型セルにセットし、試料に60MPaの圧力を加えた状態で試料の厚さと抵抗値を測定し、その値から算出した体積固有抵抗とする。
【0084】
カーボン粒子は、例えば、熱硬化性樹脂の粒子、熱可塑性樹脂の粒子を焼成することで得ることができる。焼成温度は、好ましくは600℃から3000℃、より好ましくは800℃から3000℃、さらに好ましくは2000℃から3000℃である。2000℃以上の温度で焼成すると、導電性に優れたカーボン粒子が得られる。熱硬化性樹脂の粒子としては、例えば、フェノール樹脂の粒子、エポキシ樹脂の粒子、ベンゾオキサジンの粒子が用いられる。熱可塑性樹脂の粒子としては、例えば、ポリアクリロニトリルの粒子、ポリエーテルイミドの粒子、ポリアミドイミドの粒子、ポリフェニレンスルフィドの粒子、ポリアミドの粒子、ポリイミドの粒子、ポリエーテルケトンの粒子、ポリエーテルスルホンの粒子が用いられる。この中でも、得られるカーボン粒子が高い導電性を得ることからフェノール樹脂の粒子が特に好ましく用いられる。
【0085】
カーボン粒子としては、例えば、“ベルパール(登録商標)”C−600、C−800、C−2000(エア・ウォーター(株)製)、“NICABEADS(登録商標)”ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)、グラッシーカーボン(東海カーボン(株)製)、高純度人造黒鉛SGシリーズ、SGBシリーズ、SNシリーズ(SECカーボン(株)製)、真球状カーボン(群栄化学工業(株)製)などが具体的に挙げられる。さらに、カーボン粒子の真球度が0.8〜1.0である場合、衝撃時に応力が集中せず、耐衝撃性が高いことから好ましい。
【0086】
無機材料の核、または有機材料の核に被覆して導電性の粒子とする際に用いられる導電性の物質は、電気的に良好な導体である物質が含有されていれば良く、例えば、白金、金、銀、銅、ニッケル、チタン、コバルト、パラジウム、錫、亜鉛、鉄、クロム、アルミニウム等の金属、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェン等の導電性ポリマー、チェネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、中空カーボンファイバー等の炭素を使用することができる。これらの中でも、高い導電性を示すことから金属、炭素が特に好ましく用いられる。
【0087】
導電性の物質として金属を用いる場合、何れの金属でも良いが、好ましくは標準電極電位が−2.0〜2.0Vであり、より好ましくは−1.8〜1.8Vである。標準電極電位が低すぎても、不安定であり安全上好ましくない場合があり、高すぎても加工性、生産性が低下する場合がある。ここで、標準電極電位とは、金属をその金属イオンを含む溶液中に浸した際の電極電位と、標準水素電極(1気圧で水素ガスと接触している1規定のHCl溶液に浸した白金よりなる電極)電位との差で表される。例えばTi:−1.74V、Ni:−0.26V、Cu:0.34V、Ag:0.80V、Au:1.52Vである。
【0088】
上記金属を用いる場合、メッキして使用される金属であることが好ましい。好ましい金属としては、炭素繊維との電位差による金属の腐食を防止できることから、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、チタン、コバルト、亜鉛、鉄、クロム、アルミニウム等が用いられ、これらの中でも、体積固有抵抗が10〜10−9Ωcmという高い導電性および安定性を示すことから、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、またはチタンが特に好ましく用いられる。なお、これら金属は単独で用いられても良いし、これら金属を主成分とする合金として用いられても良い。
【0089】
上記の金属を用いて金属メッキを施す方法としては、湿式メッキと乾式メッキが好ましく用いられる。湿式メッキとしては、無電解メッキ、置換メッキおよび電気メッキ等の方法を採用することができるが、なかでも不導体にもメッキを施すことが可能であることから、無電解メッキによる方法が好ましく用いられる。乾式メッキとしては、真空蒸着、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、光CVD、イオンプレーティング、スパッタリング等の方法を採用することができるが、低温においても優れた密着性が得られることからスパッタリングによる方法が好ましく用いられる。
【0090】
また、金属メッキは、単一の金属の被膜であっても複数の金属からなる複数層の被膜であってもよい。金属メッキをする場合は、最表面を金、ニッケル、銅、またはチタンからなる層とするメッキ被膜が形成されてなることが好ましい。最表面を上記の金属とすることにより、接続抵抗値の低減化や表面の安定化を図ることができる。例えば、金層を形成する際は、無電解ニッケルメッキによりニッケル層を形成し、その後、置換金メッキにより金層を形成する方法が好ましく用いられる。
【0091】
また、導電性層を構成する導電性の物質として金属微粒子を用いることも好ましい。この場合、金属微粒子として使用される金属は、炭素繊維との電位差による腐食を防ぐことから、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、チタン、コバルト、亜鉛、鉄、クロム、アルミニウム、またはこれらを主成分とする合金、若しくは酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム・錫(ITO)等が好ましく用いられる。これらの中でも、高い導電性および安定性を示すことから、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、チタンまたはこれらを主成分とする合金が特に好ましく用いられる。なお、ここで、微粒子とは、導電性粒子のメジアン径よりも小さい(通常、0.1倍以下であることを言う)メジアン径を有する粒子のことをいう。
【0092】
上記の金属微粒子で核を被覆する方法として、メカノケミカルボンディング方法が好ましく用いられる。メカノケミカルボンディングとは、複数の異なる素材粒子を、機械的エネルギーを加えて、メカノケミカル的に分子レベルで結合させ、その界面で強固なナノ結合を創成し、複合微粒子を創出する方法であり、本発明では、無機材料や有機材料の核に金属微粒子を結合させ、かかる核を金属微粒子で被覆する。
【0093】
無機材料や有機材料(熱可塑性樹脂を含む)の核に金属微粒子を被覆する場合、この金属微粒子の粒径は、好ましくは核のメジアン径の1/1000〜1/10倍であり、より好ましくは1/500〜1/100倍のものである。粒径があまりに小さい金属微粒子を製造することは困難な場合があり、逆に金属微粒子の粒径が大きすぎると被覆ムラが発生する場合がある。粒径があまりに小さい金属微粒子を製造することは困難な場合があり、逆に金属微粒子の粒径が大きすぎると被覆ムラが発生する場合がある。
【0094】
また、導電性の物質として炭素を用いる場合、結晶質炭素、非晶質炭素が好ましく用いられ、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、中空カーボンファイバー等が好ましく用いられる。なかでも、中空カーボンファイバーが好ましく用いられ、その外形は、好ましくは0.1〜1000nmであり、より好ましくは1〜100nmのものである。中空カーボンファイバーの外径が小さすぎても、大きすぎても、そのような中空カーボンファイバーを製造することが困難であることが多い。
【0095】
上記の中空カーボンファイバーは、表面にグラファイト層を形成したものでもよい。その際、構成するグラファイト層の総数は、好ましくは1〜100層であり、より好ましくは1〜10層であり、さらに好ましくは、1〜4層であり、特に好ましいものは、1〜2層のものである。
【0096】
非晶質炭素としては、例えば、“ベルパール(登録商標)”C−600、C−800、C−2000(エア・ウォーター(株)製)、“NICABEADS(登録商標)”ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)、グラッシーカーボン(東海カーボン(株)製)、高純度人造黒鉛SGシリーズ、SGBシリーズ、SNシリーズ(SECカーボン(株)製)、真球状カーボン(群栄化学工業(株)製)などが具体的に挙げられる。
【0097】
特に、有機材料として熱可塑性樹脂を用い、熱可塑性樹脂の核が前記導電性の物質で被覆されてなる粒子を採用すれば、得られる炭素繊維強化複合材料においてさらに優れた耐衝撃性を実現できるため好ましい。
【0098】
導電性物質で被覆されてなるタイプの導電性粒子において、導電性粒子は、核である無機材料や有機材料と導電性の物質からなる導電性層とから構成され、必要に応じてその核と導電性層の間に後述するような接着層を設けてもよい。
【0099】
導電性の物質が被覆されてなるタイプの導電性粒子において、核として用いる無機材料としては、無機酸化物、無機有機複合物、および炭素などを挙げることができる。
【0100】
無機酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ・アルミナ、シリカ・ジルコニア等、単一の無機酸化物、および2種以上の複合無機酸化物が挙げられる。
【0101】
無機有機複合物としては、例えば、金属アルコキシドおよび/または金属アルキルアルコキシドを加水分解して得られるポリオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0102】
また炭素としては、結晶質炭素、非晶質炭素が好ましく用いられる。非晶質炭素としては、例えば、“ベルパール(登録商標)”C−600、C−800、C−2000(エア・ウォーター(株)製)、“NICABEADS(登録商標)”ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)、グラッシーカーボン(東海カーボン(株)製)、高純度人造黒鉛SGシリーズ、SGBシリーズ、SNシリーズ(SECカーボン(株)製)、真球状カーボン(群栄化学工業(株)製)などが具体的に挙げられる。
【0103】
導電性の物質で被覆されてなるタイプの導電性粒子において、核として有機材料を用いる場合、核として用いる有機材料としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、および、ジビニルベンゼン樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。また、ここで挙げた材料を2種類以上複合して用いても良い。なかでも、優れた耐熱性を有するアクリル樹脂やジビニルベンゼン樹脂、および優れた耐衝撃性を有するポリアミド樹脂が好ましく用いられる。
【0104】
熱可塑性樹脂の核が導電性の物質で被覆された導電性の粒子の場合、熱可塑性樹脂粒子[E]を加えずとも、炭素繊維強化複合材料に高い耐衝撃性と導電性とを発現することができるので、これと熱可塑性樹脂粒子[E]、あるいは、熱可塑性樹脂粒子[E]とゴム粒子[D]とを併用することで、さらに高い耐衝撃性と導電性とを発現することができる。
【0105】
本発明で用いられる導電性粒子[C]の核の素材として用いる熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂に溶解して用いる熱可塑性樹脂として先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。なかでも、歪みエネルギー開放率(G1c)が1500〜50000J/mの熱可塑性樹脂を核の素材として用いることが好ましい。より好ましくは、3000〜40000J/m、さらに好ましくは、4000〜30000J/mである。歪みエネルギー開放率(G1c)が小さすぎると、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不十分な場合があり、大きすぎると、炭素繊維強化複合材料の剛性が低下する場合がある。かかる熱可塑性樹脂が、例えば、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等が好ましく用いられ、ポリアミドが特に好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン11やナイロン6/12共重合体が好ましく用いられる。G1cの評価は導電性粒子の核の素材である熱可塑性樹脂を成形した樹脂板を用い、ASTM D 5045−96に定められたコンパクトテンション法またはダブルテンション法により行う。
【0106】
導電性の物質で被覆されてなるタイプの導電性粒子[C]において、核と導電性層の間に接着剤層は存在してもしなくとも良いが、核と導電性層が剥離しやすい場合は存在させても良い。この場合の接着剤層の主成分としては、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル−アクリル樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−アクリル樹脂、ポリアミド、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、SBR、再生ゴム、ブチルゴム、水性ビニルウレタン、α−オレフィン、シアノアクリレート、変成アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−フェノール、ブチラール−フェノール、ニトリル−フェノールなどが好ましく、中でも酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル−アクリル樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−アクリル樹脂およびエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0107】
導電性の物質で被覆されてなるタイプの導電性粒子[C]において、導電性物質で被覆されてなる導電性の粒子は、[核の体積]/[導電性層の体積]で表される体積比が、好ましくは0.1〜500、より好ましくは1〜300、さらに好ましくは5〜100であるものを用いるのが良い。かかる体積比が0.1に満たないと得られる炭素繊維強化複合材料の質量が増加するだけでなく、樹脂調合中に均一に分散できない場合があり、逆に500を超えると得られる炭素繊維強化複合材料において十分な導電性が得られない場合がある。
【0108】
本発明で用いられる導電性粒子[C]の核が導電性の物質で被覆された導電性の粒子の比重は大きくとも3.2であることが好ましい。導電性の粒子の比重が3.2を超えると得られる炭素繊維強化複合材料の質量が増加するだけでなく、樹脂調合中に均一に分散できない場合がある。かかる観点から、導電性の粒子の比重は、好ましくは、0.8〜2.2である。導電性の粒子の比重が0.8に満たないと、樹脂調合中に均一に分散できない場合がある。
【0109】
導電性粒子[C]の形状は、球状でも非球状でも多孔質でも針状でもウイスカー状でも、またはフレーク状でもよいが、球状の方が、熱硬化性樹脂の流動特性を低下させないため炭素繊維への含浸性が優れる。また、炭素繊維強化複合材料への落錘衝撃(または局所的な衝撃)時、局所的な衝撃により生じる層間剥離がより低減されるため、かかる衝撃後の炭素繊維強化複合材料に応力がかかった場合において応力集中による破壊の起点となる前記局所的な衝撃に起因して生じた層間剥離部分がより少なくなることや、炭素繊維強化複合材料の積層層間では、積層層内の炭素繊維と導電性粒子との接触確率が高く、導電パスを形成し易いことから、高い耐衝撃性と導電性とを発現する炭素繊維強化複合材料が得られる点で好ましい。
【0110】
本発明において、導電性粒子[C]は、熱硬化性樹脂[B]との接着性が低いものもあるが、これらに表面処理を施したものを用いれば、熱硬化性樹脂との強い接着を実現することができ、耐衝撃性のさらなる向上が可能となる。かかる観点から、カップリング処理、酸化処理、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、およびブラスト処理からなる群から選ばれた少なくとも一種の処理を施したものを適用することが好ましい。なかでも熱硬化性樹脂中のエポキシ樹脂と化学結合、水素結合を形成しうるカップリング処理、酸化処理、プラズマ処理による表面処理を施したものは、熱硬化性樹脂との強い接着が実現できることからより好ましく用いられる。
【0111】
また、上記表面処理に当たっては、表面処理時間の短縮や導電性粒子の分散を助けるため、加熱および超音波を用いながら表面処理を行うことができる。加熱温度は、高くとも200℃、好ましくは30〜120℃がよい。すなわち温度が高すぎると臭気が強くなり環境が悪化したり、運転コストが高くなったりする場合がある。
【0112】
本発明においては、[ゴム粒子[D]の配合量(質量部)]/[導電性粒子[C]の配合量(質量部)]で表される質量比が1〜1000であることが好ましく、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは10〜100である。かかる質量比が1よりも小さくなると、得られる炭素繊維強化複合材料において十分な耐衝撃性を得ることができない場合があり、かかる質量比が1000よりも大きくなると、得られる炭素繊維強化複合材料において十分な導電性が得られない場合がある。
【0113】
また、[ゴム粒子[D]と熱可塑性樹脂粒子との配合量の総和(質量部)]/[導電性粒子[C]の配合量(質量部)]で表される質量比が1〜1000であることが好ましく、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは10〜100である。かかる質量比が1よりも小さくなると、得られる炭素繊維強化複合材料において十分な耐衝撃性を得ることができない場合があり、かかる質量比が1000よりも大きくなると、得られる炭素繊維強化複合材料において十分な導電性が得られない場合がある
本発明においては、導電性粒子[C]のメジアン径は、大きくとも150μmであることが好ましい。かかるメジアン径が150μmを超えると、炭素繊維の配列を乱したり、熱可塑性樹脂粒子をプリプレグの表面近傍に形成するようにした場合、得られる炭素繊維強化複合材料の層間を必要以上に厚くするため、炭素繊維強化複合材料の圧縮特性等の力学特性を低下させる場合がある。かかる導電性粒子のメジアン径は、好ましくは1〜150μmであり、より好ましくは10〜70μmであり、さらに好ましくは15〜40μmである。かかるメジアン径が小さすぎると、炭素繊維の繊維間に粒子が潜り込み、プリプレグ積層体の層間部分に局在化せず、ゴム粒子の存在効果が十分に得られず、得られる炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が低くなる場合がある。導電性粒子のメジアン径が15〜40μmの際、炭素繊維強化複合材料の積層層間では、積層層内の炭素繊維と導電性粒子との接触確率が高く、導電パスを形成し易いことから、高い耐衝撃性と導電性とを発現する炭素繊維強化複合材料が得られる点で好ましい。
【0114】
導電性粒子[C]が熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物に対して、あるいは、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物に対して、0.01〜50質量%であることが、得られる炭素繊維強化複合材料において優れた導電性を示すため好ましい。より好ましくは、0.05〜10質量%であり、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。導電性粒子[C]が熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物に対して、あるいは、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物に対して、0.01質量%よりも少ない場合、得られる炭素繊維強化複合材料において導電パスが形成されにくく十分な導電性向上効果をもたらさないことがあり、50質量%を越える場合、得られる炭素繊維強化複合材料において十分な耐衝撃性を得られないことがある。
【0115】
本発明の導電性粒子[C]の粒径のCV値が20%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。導電性粒子[C]の粒径のCV値が20%を越える場合は、炭素繊維強化複合材料の炭素繊維の層間において導電性粒子がそれぞれの炭素繊維と接触する確率が低下するため、得られる炭素繊維強化複合材料の導電性が向上しない可能性がある。
【0116】
本発明の導電性粒子[C]とゴム粒子[C]との組合せにおいて、粒径のCV値が10%以下である導電性粒子と粒径のCV値が40%以上であるゴム粒子との組合せは、炭素繊維強化複合材料の積層層間では、積層層内の炭素繊維と導電性粒子との接触確率が高く、導電パスを形成し易く、かつ、ゴム粒子が導電性粒子周辺に適切に配置されることから、高いマイクロクラック耐性と高い導電性とを発現する炭素繊維強化複合材料が得られる点で好ましい。
【0117】
熱サイクルによる熱硬化性樹脂の熱ひずみや導電性粒子とマトリックス樹脂との界面剥離、あるいは、導電性粒子と炭素繊維との接触箇所などを起点とするマイクロクラックを抑制し、かつマイクロクラックが発生した場合にその進展を防ぐため、そして、熱硬化性樹脂硬化物中のゴム粒子のキャビテーション効果を十分に発現させるために、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の破壊靭性値が高いことが求められる。本発明において熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]からなる熱硬化性樹脂組成物、あるいは、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]からなる熱硬化性樹脂組成物を180℃の温度下で2時間硬化した硬化物の開口モードでの応力拡大係数KIcが0.8〜2.0MPa・m1/2であり、好ましくは1.0〜1.5MPa・m1/2である。かかるKIcが0.8MPa・m1/2より小さい場合、熱サイクルによるマイクロクラックの発生を十分に抑えることができない。また、2.0MPa・m1/2を超える場合は、熱硬化性樹脂組成物の粘度が著しく向上し、プリプレグを作製できなかったり、硬化物の弾性率の低下をともなう。
【0118】
本発明の熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]にゴム粒子[D]を配合することで、導電性粒子と熱硬化性樹脂との界面剥離を起点とするクラック進展を顕著に抑制することができ、熱可塑性樹脂粒子[E]よりも高いKIcを得ることできる点で好ましく用いられる。また、熱硬化性樹脂[B]、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]に熱可塑性樹脂粒子[E]を組合せることで、炭素繊維強化複合材料の積層層間では、熱可塑性樹脂粒子と熱硬化性樹脂との高い接着性から、耐衝撃性に優れる炭素繊維強化複合材料を得ることでできる。
【0119】
本発明のプリプレグの熱硬化性樹脂組成物を得るには、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、熱可塑性樹脂粒子[E]と硬化剤以外の構成要素を150℃程度で均一に加熱混練し、硬化反応が進みにくい温度まで冷却した後に、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、熱可塑性樹脂粒子[E]および硬化剤を加えて混練することが好ましいが、各成分の配合方法は特にこの方法に限定されるものではない。
【0120】
本発明に用いられるプリプレグは、粒子に富む層、すなわち、その断面を観察したときに、前記した粒子(導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]、熱可塑性樹脂粒子[E])が局在して存在している状態が明瞭に確認しうる層(以下、粒子層と略記することがある。)が、プリプレグの表面付近部分に形成されている構造であることが好ましい。
【0121】
このように、粒子が表面側に偏在している構造をとることにより、プリプレグを積層し、熱硬化性樹脂[B]を硬化させて炭素繊維強化複合材料とした場合、プリプレグ層、すなわち炭素繊維強化複合材料の層間で樹脂層が形成され易く、それにより、炭素繊維強化複合材料の層相互の接着性や密着性が高められ、得られる炭素繊維強化複合材料に高度な耐衝撃性が発現されるようになる。
【0122】
このような観点から、前記の粒子層は、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から、表面を起点として、プリプレグの両方の主面それぞれから、またはプリプレグの片方の主面から当該プリプレグの厚さ方向に20%の深さ、好ましくは10%の深さの範囲内に存在していると良い。2枚以上のプリプレグを積層するに際し、プリプレグの粒子層を片面のみに存在させる場合には、粒子層が存在する面が同じ方向に向くようにプリプレグを積層すると良い。他方、粒子層をプリプレグの片面のみに存在させた場合、プリプレグに表裏ができるため、積層に際して注意が必要となる。すなわち、粒子のある層間とない層間が存在するようにプリプレグを配置すると、衝撃に対して弱い炭素繊維強化複合材料となる可能性があるため、表裏の区別をなくし、積層を容易にするため、粒子層はプリプレグの表裏両面に存在する方が良い。
【0123】
さらに、前記の粒子層内に存在する導電性粒子[C]とゴム粒子[D]の存在割合、あるいは、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]の存在割合は、プリプレグ中、導電性粒子[C]とゴム粒子[D]、あるいは、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]の全量100質量%に対して、90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。
【0124】
この粒子の存在率は、例えば、下記の方法で評価することができる。すなわち、プリプレグを2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に硬化温度まで温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状のプリプレグ硬化物を作製する。このプリプレグ硬化物の両面に、プリプレグ硬化物の表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引く。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する粒子の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する粒子の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率を計算する。ここで、粒子の合計面積は、断面写真から粒子部分を刳り抜き、その質量から換算して求める。樹脂中に分散する粒子の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子を染色する手段も採用できる。
【0125】
また、本発明において導電性粒子[C]およびゴム粒子[D]、あるいは、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]の総量は、プリプレグに対して20質量%以下の範囲であることが好ましい。かかる総量が、プリプレグに対して20質量%を超えると、ベース樹脂との混合が困難になる上、プリプレグのタックとドレープ性が低下することがある。すなわち、ベース樹脂の特性を維持しつつ、耐衝撃性を付与するには、かかる粒子の総量は、プリプレグに対して20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下である。プリプレグのハンドリングを一層優れたものにするためには、10質量%以下であることがさらに好ましい。かかる粒子の総量は、高い耐衝撃と導電性を得るために、プリプレグに対し1質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上である。
【0126】
本発明のプリプレグは、特開平1−26651号公報、特開昭63−170427号公報または特開昭63−170428号公報に開示されているような方法を応用して製造することができる。具体的には、本発明のプリプレグは、炭素繊維[A]とマトリックス樹脂である熱硬化性樹脂[B]からなる一次プリプレグの表面に、導電性粒子[C]とゴム粒子[D]、あるいは、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]をそのまま塗布する方法、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂中にこれらの導電性粒子とゴム粒子、あるいは、導電性粒子、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子を均一に混合した熱硬化性樹脂組成物を調整し、この組成物を炭素繊維に含浸させる過程において炭素繊維で、導電性粒子とゴム粒子、あるいは、導電性粒子、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子の侵入を遮断せしめてプリプレグの表面部分に粒子を局在化させる方法、または予め熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させて一次プリプレグを作製しておき、一次プリプレグ表面に、熱硬化性樹脂中にこれら導電性粒子とゴム粒子、あるいは、導電性粒子、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子を高濃度で含有する熱硬化性樹脂組成物のフィルムを貼付する方法等で製造することができる。導電性粒子とゴム粒子、あるいは、導電性粒子、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子が、プリプレグの厚み20%の深さの範囲に均一に存在することで、耐衝撃性、導電性とマイクロクラック耐性とを兼ね備えた炭素繊維複合材料用のプリプレグが得られる。
【0127】
本発明のプリプレグは、180℃の温度下で2時間硬化して炭素繊維強化複合材料を得た際に、温度上限値71℃、温度下限値−54℃、各温度での保持時間3分間、昇降温速度1分間に10℃による熱サイクル試験の3200サイクル時点でのマイクロクラックの数が10個以下であることが好ましく、より好ましくは5個以下であり、さらに好ましくは1個以下である。かかるマイクロクラックの数が10個を超える場合、密集して発生したマイクロクラックが、繰り返し負荷を受けることによって隣接するクラックと結合し、炭素繊維束を横断するクラック、所謂トランスバースクラックへと成長し、一定疲労付与後の炭素繊維強化複合材料の圧縮特性が著しく低下する場合がある。落雷耐性を持たせるため炭素繊維強化複合材料の積層層間に導電性粒子を配置し積層層内の炭素繊維と導電パスを付与することは、積層層間では、マトリックス樹脂と導電性粒子との線膨張係数が異なるため、熱サイクルの負荷による熱歪みの影響により、マイクロクラックの発生の可能性が一層大きくなると考えられる。また、熱サイクルの負荷により、導電性粒子とマトリックス樹脂との接着性が弱い場合、界面剥離が生じマイクロクラックの発生の可能性が一層大きくなる。また、熱サイクルの負荷により、導電性粒子と炭素繊維との接触箇所を起点とするマイクロクラックの発生の可能性がある。本発明のプリプレグは、炭素繊維複合材料の積層層間部に導電性粒子を加えて、さらにゴム粒子を配置し、または、導電性粒子に加えて、熱可塑性樹脂粒子とゴム粒子を配置し、ゴム粒子のキャビテーション効果を最大限に引き起こすべく、ある特定の靱性値を有するマトリックス樹脂を用いることで、熱サイクル負荷の下でも、マイクロクラック耐性を備えた炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0128】
本発明のプリプレグは、180℃の温度下で2時間硬化して炭素繊維強化複合材料を得るに際し、隣接している炭素繊維[A]の層間で、30%以上の個数の導電性粒子[C]が、それぞれの炭素繊維と接触していることが好ましい。炭素繊維強化複合材料の前記層間で導電性粒子がそれぞれの炭素繊維と接触していない場合、あるいは、炭素繊維強化複合材料の前記層間で30%よりも低い個数の導電性粒子しか、それぞれの炭素繊維と接触していない場合は、隣接している炭素繊維の間に含まれた導電性粒子とそれらの連続した炭素繊維の導電パスを形成するのが難しいため、炭素繊維強化複合材料の導電性が十分向上しない可能性がある。炭素繊維強化複合材料の導電性を十分向上させるためには、炭素繊維強化複合材料の積層層間で、積層層内のそれぞれの炭素繊維と接触している導電性粒子の個数の割合は、導電パスを形成する観点で、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0129】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを2枚以上含み、それらのうち少なくとも2枚の前記プリプレグが隣接している積層体を加圧および加熱して、熱硬化性樹脂組成物を硬化させる方法を一例として、製造することができる。導電性粒子[C]とゴム粒子[D]、あるいは、導電性粒子[C]、ゴム粒子[D]および熱可塑性樹脂粒子[E]とを組み合わせて用いることにより、炭素繊維強化複合材料への落錘衝撃(または局所的な衝撃)時、局所的な衝撃により生じる層間剥離が低減されるため、かかる衝撃後の炭素繊維強化複合材料に応力がかかった場合において応力集中による破壊の起点となる前記局所的な衝撃に起因して生じた層間剥離部分が少ない。さらに、用いられる熱硬化性樹脂組成物が、180℃で2時間加熱せしめて得られる硬化物のガラス転移温度Tgが180℃以上であることが好ましい。かかるTgが180℃以上であると、得られる炭素繊維強化複合材料が航空機構造部材に適用可能な点で優れている。
【0130】
かかる本発明の炭素繊維強化複合材料は、強度、剛性、耐衝撃性、導電性およびマイクロクラック耐性等に優れていることから航空宇宙用途、一般産業用途等に広く用いられる。より具体的には、航空宇宙用途では、主翼、尾翼およびフロアビーム等の航空機一次構造材用途、フラップ、エルロン、カウル、フェアリングおよび内装材等の航空機二次構造材用途、ロケットモーターケースおよび人工衛星構造材用途等に好ましく用いられる。このような航空宇宙用途の中でも、特に耐衝撃性、耐雷性およびマイクロクラック耐性が必要な航空機一次構造材用途、特に胴体スキン、主翼スキン、および尾翼スキンにおいて、本発明による炭素繊維強化複合材料が特に好ましく用いられる。また、一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車の羽根、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、補強筋、ICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途および補修補強材料等の土木・建築材料用途等に好ましく用いられる。これらの中でも、自動車外板、船舶外板、鉄道外板、風車の羽根、および、ICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)において、本発明による炭素繊維強化複合材料が特に好ましく用いられる。
【0131】
図1は本発明の代表的なプリプレグの断面図の一例である。図1を用いて、さらに具体的に説明する。
【0132】
図1に示す本発明のプリプレグは、炭素繊維5と熱硬化性樹脂6から構成される2つの炭素繊維層3との間に、熱硬化性樹脂6、ゴム粒子1および導電性粒子4を含む粒子層2を有している。粒子層2の形成により、炭素繊維層間の靭性が高められると共に、粒子層2に含まれる導電性粒子4が炭素繊維層間に導電パスを形成することができるので、得られる炭素繊維強化複合材料に高度な耐衝撃性と導電性とが発現される。粒子層では、導電性粒子の周囲にゴム粒子が適切に配置されるので、得られる炭素繊維強化複合材料の層間で、熱硬化性樹脂と導電性粒子との界面、あるいは、導電性粒子と炭素繊維との接触箇所を起点とするマイクロクラックを防止することができる。
【実施例】
【0133】
以下、実施例によって、本発明のプリプレグ、炭素繊維強化複合材料について、より具体的に説明する。次に示す実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行ったものである。また、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例2,3,31,33が本発明の実施例であり、実施例1,4〜30,32,34,35は参考実施例である。
【0134】
<炭素繊維[A]>
・“トレカ(登録商標)”T800S−24K−10E(繊維数24,000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率290GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維、東レ(株)製)。
・“トレカ(登録商標)”T700S−24K−50C(繊維数24,000本、引張強度4.9GPa、引張弾性率230GPa、引張伸度2.1%の炭素繊維、東レ(株)製)。
【0135】
<熱硬化性樹脂[B]>
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂、“jER(登録商標)”825(ジャパンエポキシレジン(株)製)(EEW:175g/eq.)。
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂、EPICLON830(DIC(株))(EEW:172g/eq.)。
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ELM434(住友化学(株)製)(DIC(株))(EEW:126g/eq.)。
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)(EEW:110g/eq.)。
・トリグリシジル−p−アミノフェノール、MY0510(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)(EEW:101g/eq.)。
・トリグリシジル−m−アミノフェノール、MY0610(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)(EEW:98g/eq.)。
・N,N−ジグリシジルアニリン、GAN(日本化薬(株)製)。
・4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、“セイカキュア(登録商標)”−S(和歌山精化(株)製)。
・3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−DAS(三井化学ファイン(株)製)。
【0136】
<導電性の粒子[C]>
・“ミクロパール(登録商標)”CU225(積水化学工業(株)製)(メジアン径:25μm、CV値:4%)。
・“ミクロパール(登録商標)”AU225(積水化学工業(株)製)(メジアン径:25μm、CV値:5%)。
・“ミクロパール(登録商標)”AU215(積水化学工業(株)製)(メジアン径:15μm、CV値:5%)。
・“NICABEADS(登録商標)”ICB−2020(日本カーボン(株)製)(メジアン径:27μm、CV値:10%)
上記の粒子は分級を繰り返し、上記の条件にしてから使用した。
・グラッシーカーボン(東海カーボン(株)製)(メジアン径:26μm、変動係数:30%)
<ゴム粒子[D]>
・“DuoMod(登録商標)”DP5045粒子A(ゼオンコーポレーション(株)(メジアン径:23μm、累積カーブが5%となる粒径:8μm、CV値:65%)。
・“DuoMod(登録商標)”DP5045粒子B(メジアン径:13μm、累積カーブが5%となる粒径:5μm、CV値:15%)。
【0137】
上記の粒子は分級を繰り返し、上記の条件にしてから使用した。
・“DuoMod(登録商標)”DP5045粒子C(メジアン径:12μm、累積カーブが5%となる粒径:2μm、CV値:51%)。
【0138】
上記の粒子は分級を繰り返し、上記の条件にしてから使用した。
・“DuoMod(登録商標)”DP5045粒子D(メジアン径:16μm、累積カーブが5%となる粒径:12μm、CV値:10%)。
【0139】
上記の粒子は分級を繰り返し、上記の条件にしてから使用した。
・XER−91(JSR(株)製)(メジアン径:3μm、累積カーブが5%となる粒径:0.2μm、CV値:38%)。
【0140】
<熱可塑性樹脂粒子[E]>
・ナイロン12粒子SP−500(東レ(株)製、形状:真球)(メジアン径:5μm)。
・下記の製造方法で得られたエポキシ変性ナイロン粒子A
透明ポリアミド(商品名“グリルアミド(登録商標)”−TR55、エムザベルケ社製)90質量部、エポキシ樹脂(商品名“jER(登録商標)”828、ジャパンエポキシレジン(株)製)7.5質量部および硬化剤(商品名“トーマイド(登録商標)”#296、富士化成工業(株)社製)2.5質量部を、クロロホルム300質量部とメタノール100質量部の混合溶媒中に添加して、均一溶液を得た。次に、得られた均一溶液を塗装用のスプレーガンを用いて霧状にして、良く撹拌して3000質量部のn−ヘキサンの液面に向かって吹き付けて溶質を析出させた。析出した固体を濾別し、n−ヘキサンで良く洗浄した後に、100℃の温度で24時間の真空乾燥を行い、エポキシ変性ナイロン粒子Aを得た(メジアン径:12.5μm)。
・“オルガソール(登録商標)”1002D(アルケマ社製)(メジアン径:20μm)。
【0141】
(1)熱硬化性樹脂硬化物の破壊靭性試験(KIc評価)方法
後述する熱硬化性樹脂組成物を真空中で脱泡した後、6mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み6mmになるように設定したモールド中で180℃の温度で2時間硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物を12.7×150mmでカットし、試験片を得た。インストロン万能試験機を用い、ASTM D5045に従って試験片を加工・実験をおこなった。試験片への初期の与亀裂の導入は、液体窒素温度まで冷やした剃刀の刃を試験片にあてハンマーで剃刀に衝撃を加えることで行った。ここでいう樹脂硬化物の破壊靱性とは、変形モード1(開口型)の臨界応力強度により評価するものである。
【0142】
(2)粒子([C][D][E])の粒径測定
レーザー回折散乱法を用いたHORIBA(株)製LA−950を用いて、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定した。得られた粒度分布の累積カーブにおける5%、50%(メジアン径)の各体積%での粒径を求めた。粒径のCV値(変動係数)は、下記計算式によって算出した。
粒径のCV値(%)=(粒径の標準偏差/メジアン径)×100。
【0143】
(3)プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する粒子([C][D][E])の存在率
プリプレグを、2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に150℃迄温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状の樹脂硬化物を作製した。硬化後、密着面と垂直な方向から切断し、その断面を研磨後、光学顕微鏡で200倍以上に拡大しプリプレグの上下面が視野内に納まるようにして写真撮影した。同様な操作により、断面写真の横方向の5ヵ所でポリ四フッ化エチレン樹脂板間の間隔を測定し、その平均値(n=5)をプリプレグの厚さとした。
【0144】
プリプレグの両面について、プリプレグの表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引いた。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する粒子([C][D][E])の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する粒子の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率を計算した。粒子([C][D])の合計面積は、断面写真から粒子部分を刳り抜き、その質量から換算して求めた。[B]エポキシ樹脂組成物中に分散する粒子([C][D][E])の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子([C][D][E])を染色する手段を用いた。
【0145】
(4)炭素繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定
一方向プリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]3S構成で、擬似等方的に24プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形して25個の積層体を作製した。これらの各積層体から、縦150mm×横100mm(厚み4.5mm)のサンプルを切り出し、SACMA SRM 2R−94に従い、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。
【0146】
(5)炭素繊維強化複合材料の導電性測定
一方向プリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]2S構成で、擬似等方的に16プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形して25個の積層体を作製した。これらの各積層体から、縦50mm×横50mm(厚み3mm)のサンプルを切り出し、両面に導電性ペースト“ドータイト(登録商標)”D−550(藤倉化成(株)製)を塗布したサンプルを作製した。これらのサンプルを、アドバンテスト(株)製R6581デジタルマルチメーターを用いて、四端子法で積層方向の抵抗を測定し、体積固有抵抗を求めた。
【0147】
(6)炭素繊維[A]の層間の導電性粒子[C]と、それぞれの炭素繊維[A]との接触の判定
(5)で作製した炭素繊維強化複合材料を、炭素繊維の層と炭素繊維の層の層間が観察できるよう積層方向とは垂直に切断し、その断面を研磨後、レーザー顕微鏡(KEYENCE VK−9510)で200倍以上に拡大し炭素繊維の層と炭素繊維の層が2層以上視野内に納まるようにして写真撮影した。同様の操作から導電性の粒子が存在する100箇所を任意に選択した。導電性粒子は、メジアン径よりも小さい粒径の断面で切断される確率が高いため、導電性粒子をメジアン径のサイズとみなし、そのサイズの導電性の粒子がそれぞれの炭素繊維と接する、あるいは、交差するとき、それらは接触しているとして接触の有無を判定した。判定基準として、導電性粒子100個の内、導電性粒子が層間の上面の炭素繊維と下面の炭素繊維の両方で接している数が、30個以上(30%以上)の場合は○、29個以下(3%以上30%未満)の場合は×とした。
【0148】
(7)炭素繊維強化複合材料のマイクロクラック耐性の評価方法
一方向プリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]2S構成で、擬似等方的に16プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形した。得られた炭素繊維強化複合材料の板を、75mm×50mmの寸法にダイヤモンドカッターで切断し、試験片を得た。試験片を市販の恒温恒湿槽と環境試験機を用いて以下a、b、cの手順に示すような環境条件にさらした。
a.市販の恒温恒湿槽を用い49℃、相対湿度95%の環境に12時間暴露する。
b.暴露後に、市販の環境試験機に移し、まず−54℃の環境下に1時間暴露する。その後71℃まで10℃±2℃/分の昇温速度で71℃まで昇温させる。昇温後71℃で5分±1分保持した後、10℃±2℃/分で−54℃まで降温させ、−54℃で5分±1分保持する。この−54℃から71℃まで昇温しまた−54℃まで降温させるサイクルを1サイクルと定義し、このサイクルを400回繰り返す。
c.上記の恒温恒湿槽での環境暴露および環境試験機でのサイクルをあわせて1ブロックと定義し、8ブロック繰り返す。
【0149】
上記の環境暴露を行った試験片の縦方向の中央から±10mmの領域から幅25mmを切り出し、切り出し面を観察面として研磨し、市販の顕微鏡を用いて200倍の倍率で観察面を観察し、発生しているクラックの数を計測した。
【0150】
上記の試験片の切り出しは、ダイヤモンドカッターを用いて、毎分23cmの速度で行った(なお、毎分50cm以上の速度で加工を実施した場合に、試験片とダイヤモンドカッターとの間に大きな摩擦振動が発生し、試験片が摩擦負荷によってクラックが発生することがあるので、ここでは毎分23cmの速度を採用した)。
【0151】
(実施例1)
混練装置で、70質量部のELM434と30質量部のEPICLON830に、10質量部のPES5003Pを配合して、熱可塑性樹脂(PES5003P)をエポキシ樹脂中に溶解した。その後、20質量部のDP5045粒子Aと1質量部のICB−2020を混練し、さらに硬化剤である4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを40質量部混練して、熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0152】
得られた熱硬化性樹脂組成物を上記の(1)熱硬化性樹脂硬化物の破壊靭性試験(KIc評価)方法に記載のとおりにKIcを評価した。結果を表1に示す。
【0153】
また、調製した熱硬化性樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して52g/mの樹脂フィルムを、2枚作製した。次に、シート状に一方向に配列させたT800S−24K−10Eに、上記で作製した樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧により樹脂を含浸させ、T800S−24K−10Eの目付が190g/mで、マトリックス樹脂の質量分率が35.4%の一方向プリプレグを作製した。
【0154】
得られたプリプレグを用い、上記の(3)プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率、
(4)炭素繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定、(5)炭素繊維強化複合材料の導電性測定、(6)炭素繊維の層間の導電性粒子と、それぞれの炭素繊維との接触の判定、および、(7)炭素繊維強化複合材料のマイクロクラック耐性の評価に記載のとおりに炭素繊維強化複合材料を評価した。結果を表1に示す。
【0155】
(実施例2〜35、比較例1〜6)
炭素繊維、熱硬化性樹脂組成、ゴム粒子、熱可塑性樹脂粒子、導電性の粒子の種類や配合量を表1〜5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物とプリプレグを作製した。なお、熱可塑性樹脂粒子をゴム粒子と併用する際は、ゴム粒子と同じタイミングで混練装置へ投入した。ゴム粒子を使用せずに熱可塑性樹脂粒子単独で使用する際は、熱可塑性樹脂粒子をゴム粒子の代わりに同じタイミングで混練装置へ投入した。
作製した熱硬化性樹脂組成物を用いて、KIcを評価した。また、作製した一方向プリプレグを用いて、プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率、炭素繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度、導電性、炭素繊維の層間の導電性粒子と、それぞれの炭素繊維との接触の判定、および、マイクロクラック耐性の評価を行った。得られた結果を表1〜5にまとめて示す。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
【表3】
【0159】
【表4】
【0160】
【表5】
【0161】
実施例1〜35の何れの炭素繊維強化複合材料においても良好なマイクロクラック耐性を有し、また、優れた衝撃後圧縮強度、導電性を発現した。
【0162】
一方、比較例1、6は、導電性粒子を含有していない例であり、炭素繊維強化複合材料の導電性が低いことが分かった。
【0163】
比較例2は、ゴム粒子を含有していない例であり、炭素繊維強化複合材料のマイクロクラック耐性が十分に発現しなかった。
【0164】
比較例3〜5は、熱硬化性樹脂硬化物の靱性が不足している系であり、得られる炭素繊維強化複合材料のマイクロクラック耐性が劣っていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明によれば、優れた力学特性と導電性を兼ね備えた炭素繊維強化複合材料が得られるため、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途等に広く展開でき、有用である。
【符号の説明】
【0166】
1 ゴム粒子
2 粒子層
3 炭素繊維層
4 導電性粒子
5 炭素繊維
6 熱硬化性樹脂
図1