特許第5887972号(P5887972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5887972-汚染土壌の処理方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887972
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】汚染土壌の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/02 20060101AFI20160303BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20160303BHJP
   B09C 1/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   B09B3/00 304K
   B09B5/00 SZAB
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-27647(P2012-27647)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163158(P2013-163158A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125793
【弁理士】
【氏名又は名称】川田 秀美
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(72)【発明者】
【氏名】中田 英喜
(72)【発明者】
【氏名】米田 修
(72)【発明者】
【氏名】田坂 行雄
【審査官】 山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−141812(JP,A)
【文献】 特開2007−105549(JP,A)
【文献】 特開2009−096647(JP,A)
【文献】 特開2013−150952(JP,A)
【文献】 特開2012−184388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00− 5/00
B09C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mgを超える汚染土壌部分を掘削除去し、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mg以下であって、強熱減量9質量%以下、SiO含有率60〜80質量%及びAl含有率10〜19質量%である汚染土壌部分を酸化マグネシウム組成物を用いて、原位置で不溶化処理を行うことを特徴とする砒素の汚染土壌処理方法。
【請求項2】
酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分の砒素溶出量が、土壌溶出量基準の1倍を超え10倍以下であり、この汚染土壌部分を酸化マグネシウム組成物30〜250kg/mで処理する、請求項1記載の砒素の汚染土壌処理方法。
【請求項3】
酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分が、礫分を10〜30質量%、砂分を10〜80質量%及び細粒分を10〜62質量%含む、請求項1又は2記載の砒素の汚染土壌処理方法。
【請求項4】
酸化マグネシウム組成物が、MgO含有率75質量%以上、かつBET比表面積10〜50m/gである、請求項1〜3のいずれか1項記載の砒素の汚染土壌処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌溶出量基準を超過する砒素の汚染土壌の処理方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場、事務所、産業廃棄物処理場等の跡地等において、土壌が有害物質等で汚染されていることが報告されている。例えば、めっき工場では六価クロム、ガラス加工工場ではフッ素やほう素が使用されており、工場、事務所の跡地にはこれらの有害物質が検出される事例がある。また、自然由来の砒素やフッ素等による汚染土壌も存在することが知られている。砒素は安山岩や花崗岩の中に比較的多く含まれており、これらの岩石が分布する地域では土壌や地下水中から砒素が検出されることがある。フッ素は海岸地帯の粘土・シルト堆積物に含まれており、土壌中に自然由来のフッ素を含むことによって土壌汚染対策法施行規則の別表第3に記載される土壌溶出量基準を超過することがある。
【0003】
一方、国内における汚染土壌の処理は掘削除去処理に偏っており、大量の汚染土壌の流通による環境負荷や経済的負荷が大きな課題となっている。こうした状況を踏まえて、人への健康リスク低減やブラウンフィールド問題の解決に向けて、土壌汚染対策法が改正・施行され、掘削除去処理に代わる技術として、低コストでかつ原位置での封じ込め・不溶化技術の確立が期待されている。
【0004】
これまで汚染土壌等に含まれる重金属類等の有害物質を不溶化して、これらの有害物質等が土壌から溶出することを抑制・防止するための技術が種々提案されている。例えば酸化マグネシウムを含む不溶化剤は有害物質等の溶出に対する不溶化性能が優れていることが提案されている(例えば特許文献1、特許文献2)。酸化マグネシウムを含む不溶化剤を用いると、セメント固化法では不溶化できなかった重金属類等の有害物質を不溶化でき、また不溶化の処理対象物のpHが10程度になるため、特に鉛等の両性金属の不溶化性能が優れていることが知られている(例えば特許文献3)。
【0005】
ここで言う有害物質等とは、鉛、砒素、六価クロム、フッ素、水銀、カドミウム等の重金属類、ほう素、セレン等の有害物質のことである。一般的に、土壌中の鉛、水銀及びカドミウムは陽イオンの形態で存在することが多く、砒素、六価クロム、フッ素、ほう素、セレンは陰イオンの形態で存在することが多い。
【0006】
一般的に、土壌中の粘土鉱物はプラスの荷電とマイナスの荷電を持っているが、全体としてはマイナスの荷電を持っていることが多い。これは、粘土鉱物に含まれるSi4+がAl3+に置換すると、プラスの荷電が不足して粘土鉱物全体としてはマイナス荷電を生じるためであり、Al3+からMg2+への置換によっても同様にマイナス荷電を生じるためである。また、土壌粒子表面のシラノールの解離によるマイナス荷電を生じることもある。
【0007】
土壌中には、粘土鉱物以外にも腐植物質も存在し、その構成物質の中に−OHや−COOHといった官能基を持ち、pHにより水素イオン(H)を解離して、マイナス荷電を示すことが知られている。
【0008】
このようなマイナス荷電をもつ土壌中の粘土鉱物や腐植物質には陽イオンが吸着・保持されている。自然状態で保持されている陽イオン種は、堆積環境や土壌条件で異なるが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムのようなアルカリ金属及びアルカリ土類金属であることが多い。ここで、マイナスに荷電している土壌に吸着されているカルシウム、マグネシウム、カリウム等の陽イオンは、容易に他の陽イオンと交換されやすい。マイナスに荷電している土壌に吸着・保持され、かつ容易に他の陽イオンと交換することができる陽イオン(塩基)を総称して交換性塩基又は置換性塩基といい、各陽イオンを交換性カルシウム、交換性マグネシウム、交換性カリウムという。
【0009】
有害物質のうち、鉛、カドミウムのように陽イオンの形態で存在する重金属は土壌吸着されやすい性質を持っている。例えば、鉛やカドミウムはPb2+やCd2+のような2価の陽イオンとして吸着・保持されて土壌中に存在することが多い。これに対して、砒素、六価クロム、フッ素、ほう素、セレンは陰イオンの形態で土壌中に存在し、土壌粒子に吸着されにくい性質を持っている。例えば、砒素はAsO3−やAsO3−のような3価又は5価の陰イオンとして存在することが多く、フッ素は、通常、Fとして1価の陰イオンとして存在している。
【0010】
一般的に酸化マグネシウム組成物は、砒素やフッ素のような陰イオン系の有害物質を含有する土壌からの溶出抑制に適用できることが知られている(例えば、特許文献2、特許文献4)。しかしながら、土壌特性の異なる砒素やフッ素の汚染土壌を酸化マグネシウム組成物にて不溶化処理する場合に、未処理の汚染土壌からの砒素やフッ素の有害物質の溶出量が同程度であった場合においても、汚染土壌の特性によって酸化マグネシウム組成物の添加量が異なる場合、すなわち汚染土壌の特性によって不溶化効果が異なるという問題があり、原位置不溶化が採用されにくいことがあった。一般的には、酸化マグネシウム組成物の添加量が200kg/mを超えると、不溶化に要する材料費が高くなるため、本来の原位置不溶化が低コストであるという利点が得られにくく、掘削除去で処理されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−225640号公報
【特許文献2】特開2004−298741号公報
【特許文献3】特開2007−105549号公報
【特許文献4】特開2006−167524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、汚染土壌の特性に応じて適切な処理方法を選択し、低コスト処理が可能な砒素の汚染土壌の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、砒素のような陰イオンの形態で存在する有害物質汚染土壌を酸化マグネシウム組成物で不溶化処理する場合に、その不溶化効果が土壌特性(土壌を構成する粘土鉱物の種類、土の粒度構成、土壌に含まれる腐植等)に依存しやすいという知見を得て、さらに酸化マグネシウム組成物による砒素の不溶化効果は土壌特性の中でも交換性カルシウム量に著しく影響を受けやすいということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明者らは、砒素の汚染土壌を不溶化処理する場合、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mg以下の汚染土壌では砒素の溶出を土壌溶出量基準以下に不溶化しやすく、酸化マグネシウム組成物は多量添加せずに不溶化することが可能で、その材料費を低減することができることを見出した。一方、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mgを超えると土壌溶出量基準以下に不溶化することが困難になり、当該土壌部分については、酸化マグネシウム組成物を添加せずに、掘削除去したほうが処理コストの低減を図ることができることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]土壌溶出量基準を超過する砒素の汚染土壌の処理に好適な方法であって、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mgを超える汚染土壌部分を掘削除去し、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mg以下の汚染土壌部分を酸化マグネシウム組成物を用いて、原位置で不溶化処理を行うことを特徴とする汚染土壌処理方法である。
[2]酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分の砒素溶出量が、土壌溶出量基準の1倍を超え10倍以下であり、この汚染土壌部分を酸化マグネシウム組成物30〜250kg/mで処理する、上記砒素の汚染土壌処理方法である。
[3]酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分が、強熱減量9質量%以下、SiO含有率60〜80質量%及びAl含有率10〜19質量%である、上記砒素の汚染土壌処理方法である。
[4]酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分が、礫分を10〜30質量%、砂分を10〜80質量%及び細粒分を10〜62質量%含む、上記砒素の汚染土壌処理方法。
[5]酸化マグネシウム組成物が、MgO含有率75質量%以上、かつBET比表面積10〜50m/gである、上記砒素の汚染土壌処理方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の汚染土壌の処理方法によれば、低コストで土壌汚染対策法に規定される土壌溶出量基準を超過する砒素を溶出する汚染土壌からの砒素の溶出量を大幅に低減することができ、環境負荷や経済的負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】土壌の交換性カルシウム(Ca)量(mg/乾土100g)と酸化マグネシウム組成物を適用した土壌の砒素溶出量の低減率(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明は、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mgを超える汚染土壌部分を掘削除去し、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mg以下の汚染土壌部分を酸化マグネシウム組成物を用いて、原位置で不溶化処理を行うことを特徴とする砒素の汚染土壌処理方法である。なお、本発明は、フッ素、六価クロム、ほう素、セレン等の陰イオン系の有害物質も不溶化することができるが、特に陰イオン系の有害物質中、砒素に対して優れた効果を示す。さらに、本発明の汚染土壌処理方法は、砒素等の陰イオン系の有害物質以外に、鉛やカドミウム等の陽イオンを含む複合汚染土壌にも適用することができる。
【0019】
酸化マグネシウム組成物は、砒素のような陰イオン系の有害物資による汚染土壌に添加混合することによって、酸化マグネシウム粒子や水和生成した水酸化マグネシウム粒子への陰イオン系の有害物質の吸着反応、溶解したマグネシウムイオンとの陰イオン系の有害物質との反応による難溶性塩(例えば、砒酸マグネシウム)の形成等により、砒素の汚染土壌を効果的に不溶化することができる。
【0020】
一方で、上述のように、土壌粒子は、構成される粘土鉱物の種類や腐植物質の官能基によって、マイナスに荷電していることが多い。そのため、土壌粒子にはカルシウムやマグネシウム等の陽イオンが電気的に引き付けられているが、その結合は強いものではなく、他の陽イオンによって容易に置換されやすいものである。一般的には、陽イオンの置換は、電荷の大きい陽イオンほど吸着されやすく、またイオン半径が大きいものほど吸着されやすいと考えられるが、実際には土壌環境条件によって変化する。
【0021】
酸化マグネシウム組成物による砒素汚染土壌の不溶化機構に関する詳細は明らかにできていない部分も多いが、土壌環境条件や土壌特性によって酸化マグネシウム組成物による砒素の不溶化効果が変化するのは、次のような理由によるものと考えられる。酸化マグネシウム組成物から供給されるマグネシウムイオンは、土壌粒子に吸着保持されているカルシウムイオンとの交換反応や、汚染土壌由来の砒酸イオン又は亜砒酸イオンと化学反応することによって、汚染土壌からの砒素の溶出を抑制していると考えられる。ここで、土壌粒子に吸着保持されている交換性カルシウムの一部が不溶化処理土壌中に存在する陰イオン(例えば硫酸イオン)やpHの変化等によって脱離が生じる条件下では、その脱離した交換性カルシウムの部分に酸化マグネシウム組成物から供給されるマグネシウムイオンが吸着されやすく、本来、汚染土壌由来の砒酸イオン又は亜砒酸イオンと化学反応することによって砒素の不溶化に消費されるマグネシウムイオンが不足するため、酸化マグネシウム組成物の不溶化効果が低下するものと考えられる。
【0022】
乾土100gあたりの交換性カルシウム量がある特定値、すなわち乾土100gあたり交換性カルシウム量が110mgを超える汚染土壌では、土壌粒子の交換性カルシウムの一部が脱離しやすく、それがマグネシウムイオンとの交換吸着の影響を受けやすくなるため、酸化マグネシウム組成物の不溶化効果が低下する傾向にあると考えられる。汚染土壌中の交換性カルシウムの影響は、2価のマグネシウムイオンのほうが1価のナトリウムイオンやカリウムイオンに比べて受けやすいと推測される。
【0023】
本発明は、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mgを超える汚染土壌部分は掘削除去する。このように酸化マグネシウム組成物の不溶化効果が低下する汚染土壌部分は、いたずらに過剰の酸化マグネシウム組成物を添加して処理することなく、切削除去することによって、処理コストを低減することができる。掘削除去した汚染土壌の処理方法は、特に限定されるものでないが、場外で洗浄・分級・分離等を組み合わせて汚染物質を除去する方法や、原位置で水や薬剤を注入して重金属類等を溶出させて回収する方法等が挙げられる。洗浄処理により浄化した後は、汚染されていない土壌に埋め戻してもよく、セメント原料の粘土系原料としてリサイクルすることも可能である。さらに、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mgを超える土壌部分は、交換性カルシウム量が少ない土壌と現地で混合することにより、全体としての交換性カルシウム量を110mg以下に低減し、不溶化処理することも可能である。
【0024】
本発明は、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mg以下の汚染土壌部分を酸化マグネシウム組成物を用いて、原位置で不溶化処理を行う。本発明の処理方法において、原位置で不溶化処理を行う汚染土壌部分は、交換性カルシウム量が異なる土壌を混ぜて交換性カルシウム量を110mg以下に調整することも可能である。例えば、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が80mgの土壌部分Aと交換性カルシウム量が190mgの土壌部分Bが混在している場合には、土壌部分Aを80質量%と土壌部分Bを20質量%とを粘土質の切削・混合性能に優れる自走式土質改良機等を用いて事前に均一に混合することにより、交換性カルシウム量を110mg以下に調整した後に、酸化マグネシウム組成物を用いて原位置で不溶化処理することも可能である。
【0025】
本発明では、交換性カルシウム量が110mg以下の汚染土壌部分を不溶化により処理することができるが、原位置で不溶化処理を行う方法としては、不溶化埋め戻し措置を行い、その後、土壌環境条件を変化しないように不溶化埋め戻し措置を適用した部分に、覆土やアスファルト舗装等を施すことが好ましい。不溶化埋め戻し措置は、現地で汚染土壌をバックホウ等で掘削した後、土壌ごとに交換性カルシウム量を測定・分別を行い、交換性カルシウム量が110mg以下の汚染土壌部分と、酸化マグネシウム組成物を混合・撹拌して有害物質を不溶化し、原位置に土壌を埋め戻すことによって行う。土壌の不溶化埋め戻しまでの養生期間としては、交換性カルシウム量が110mg以下の汚染土壌部分と酸化マグネシウム組成物とを混合して不溶化処理した土壌部分を、不溶化処理後7日以上養生することが好ましく、不溶化処理後14日以上養生することがより好ましく、不溶化処理後28日以上養生することが更に好ましい。
【0026】
本発明で使用する酸化マグネシウム組成物に含まれる酸化マグネシウムは、水和活性が高いものであることが好ましく、硬焼酸化マグネシウムは水和活性に乏しいことから、軽焼酸化マグネシウムを含むものであることが好ましい。酸化マグネシウムは、市販の軽焼酸化マグネシウムであれば十分に使用することができる。
【0027】
酸化マグネシウムの出発原料は、BET比表面積の大きい組成物を得るために、炭酸マグネシウムよりも低温で焼成可能な水酸化マグネシウムを用いることが好ましい。一般的に、水酸化マグネシウムの脱水領域温度は400〜550℃程度と比較的低いため、それ以上の温度で焼成することが好ましく、焼成温度は、好ましくは550〜700℃、より好ましくは550〜650℃、さらに好ましくは550〜600℃である。また、焼成時間は、好ましくは10〜60分、より好ましくは15〜50分、さらに好ましくは20〜40分である。
【0028】
水酸化マグネシウムは、天然にはブルース石として産出されるが、ほとんどが海水を原料として合成される海水マグネシアである。海水中に含まれるマグネシウムイオンに石灰乳を添加し、水酸化マグネシウムを沈降生成させ、沈降した水酸化マグネシウムを低温焼成することにより、酸化マグネシウムを得ることができる。
【0029】
本発明で使用する酸化マグネシウム組成物は、酸化マグネシウム(MgO)含有率75質量%以上であることが好ましい。酸化マグネシウム組成物のMgO含有率は、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、特に好ましくは87質量%以上である。酸化マグネシウム組成物中のMgO含有率が75質量%以上であると、MgOに由来するマグネシウムイオンが、汚染土壌由来の砒酸イオン又は亜砒酸イオンと化学反応し、砒素の不溶化効果を向上することができる。
【0030】
本発明で使用する酸化マグネシウム組成物は、BET比表面積10〜50m/gであることが好ましい。酸化マグネシウム組成物は、そのBET比表面積が大きいほど、汚染土壌に対する添加量は少なくすることができ、処理コストをより低減することが可能である。本発明で使用する酸化マグネシウム組成物のBET比表面積は、より好ましくは20〜50m/g、更に好ましくは30〜50m/gである。酸化マグネシウム組成物のBET比表面積が20〜50m/gであると、酸化マグネシウム組成物の水和活性により土壌中に含まれる砒素に対して不溶化効果を発揮することができ、添加量を低減して、処理コストを低減することが可能である。酸化マグネシウム組成物のBET比表面積が10m/g未満であると、酸化マグネシウム組成物の水和活性が低くなり、砒素に対する不溶化効果が不十分である場合があり、その添加量が過剰になるとともに、不溶化速度が遅くなる場合があるため、好ましくない。BET比表面積が50m2/gを超えると粉体やスラリーの流動性が低下し、不溶化剤の施工性が悪くなる場合があるため好ましくない。
【0031】
本発明で使用する酸化マグネシウム組成物には、酸化マグネシウム本来の有害物質に対する不溶化性能を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、石灰石粉、珪石粉、高炉スラグ、製鋼スラグ、硫化カルシウム、シリカ、フライアッシュ、ベントナイト、バーミュキュライト、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト、硬焼マグネシア、死焼マグネシア、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、パーライト、珪藻土、ゼオライト、セピオライト、アパタイト、アタパルジャイト、活性炭、ホワイトカーボン、アルミナセメント、キレート、鉄粉等の各種添加剤と任意に混合することができる。
【0032】
本発明の処理方法は、砒素の溶出量が土壌溶出量基準の1倍を超え10倍以下の砒素の汚染土壌に適用することが好ましい。より好ましくは砒素の溶出量が土壌溶出量基準の6倍以下の汚染土壌に適用することが好ましく、砒素の溶出量が土壌溶出量基準の5倍以下の汚染土壌に適用することがより好ましい。中でも、本発明の処理方法は、砒素の溶出量が土壌溶出量基準を微量超過するような自然由来の砒素の汚染土壌の処理方法として好適である。砒素の溶出量が土壌溶出量基準の10倍を超える汚染土壌に適用すると、原位置不溶化に要する酸化マグネシウム組成物の添加量が過剰になるため、経済上好ましくない。ここで砒素の土壌溶出量基準は、0.01mg/L以下である(土壌汚染対策法施行規則、別表第3)。また、汚染土壌部分から砒素の溶出量の測定は、環境庁告示第46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製し、この検液からJIS K0102「工場排水試験方法」に準拠して砒素の溶出量を測定することができる。
【0033】
本発明により酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分は、好ましくは強熱減量9質量%以下、より好ましくは強熱減量8.8質量%以下、さらに好ましくは強熱減量8.7質量%以下である。汚染土壌の強熱減量が9質量%以下であれば、土壌中の陽イオンが吸着・保持される−OHや−COOHのマイナス荷電を有する腐植物質が少なく、マイナス荷電に電気的に引き付けられる交換性カルシウム量が少なくなり、十分な不溶化効果が得られる。
【0034】
本発明により酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分は、好ましくはSiO含有率が60〜80質量%及びAl含有率10〜19質量%、より好ましくはSiO含有率が60〜78質量%及びAl含有率が12〜19質量%、さらに好ましくはSiO含有率が60〜76質量%及びAl含有率が14〜19質量%である。不溶化処理する汚染土壌のSiO含有率及びAl含有率が上記範囲内であると、汚染土壌中の粘土鉱物に含まれるマイナス荷電を生じるSi4+がAl3+が少なくなり、マイナス荷電に電気的に引き付けられる交換性カルシウム量が少なくなり、十分な不溶化効果が得られる。
【0035】
本発明により酸化マグネシウム組成物を用いて不溶化処理する汚染土壌部分は、礫分を10〜30質量%、砂分を10〜80質量%及び細粒分を10〜62質量%を含むであることが好ましい。この汚染土壌部分は、礫分を12〜25質量%、砂分を15〜75質量%及び細粒分を15〜62質量%を含むことがより好ましく、礫分を14〜20質量%、砂分を20〜67質量%及び細粒分を18〜62質量%を含むことがさらに好ましい。汚染土壌部分の礫分、砂分及び細粒分が上記範囲内である場合は、汚染土壌中のマイナス荷電をもつ粘土鉱物が比較的少ないことを示し、マイナス荷電に電気的に引き付けられる交換性カルシウム量が少なくなり、十分な不溶化効果が得られる。
【0036】
土壌溶出量基準を超過する砒素を溶出する汚染土壌に対する酸化マグネシウム組成物の添加量は、処理対象の汚染土壌の種類(土壌を構成する粘土鉱物の種類、土の粒度構成、土壌に含まれる腐植等)や、上記のような汚染度合によって選定されるもので、特に限定されるものではないが、不溶化処理する汚染土壌部分の土に対して、酸化マグネシウム組成物を30〜250kg/m添加すれば十分な不溶化効果が得られる。酸化マグネシウム組成物の不溶化処理する汚染土壌部分の土に対する添加量は、好ましくは40〜220kg/m、より好ましくは50〜200kg/m、特に好ましくは70〜200kg/mである。酸化マグネシウム組成物の添加量が30kg/m未満であると、不溶化剤と土との混合が不十分になる可能性があるため好ましくない。一方、酸化マグネシウム組成物の添加量が250kg/mを超えると処理コストが高くなりすぎるため経済的に好ましくない。なお、酸化マグネシウム組成物の添加量は、事前の室内配合試験の結果及び/又は現地混合機を使用した配合試験の結果によって決定することが好ましい。
【0037】
汚染土壌部分への酸化マグネシウム組成物の添加は、粉体の状態又はスラリーの状態のいずれでも適用することができる。酸化マグネシウム組成物と汚染土壌との混合は、バックホウ、ミキシングバケット装着バックホウ、スタビライザー、自走式土質改良機、定置式ミキサー、トレンチャー型撹拌混合機、深層混合処理機、パワーブレンダー、プラント混合等による通常用いられる混合機を用いる方法が適用できる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。
【0039】
[模擬汚染土壌の作製]
本実験では、粒度構成、化学組成、陽イオン交換容量等が異なる5種類の試料土(A〜E)を使用した。それぞれの試料土を40℃で加熱処理することにより含水比を自然含水比の半分程度に調整した。次いで、この蒸発水量に相当する水分に所定量の砒素の試薬を溶解した水溶液を調製し、試料土に添加した後、ソイルミキサーで低速で2.5分間練り混ぜ、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、さらに低速で2.5分間練り混ぜた後、ポリエチレン袋で密封した状態で7日間養生することにより砒素の模擬汚染土壌を作製した。なお、砒素模擬汚染土は砒酸水素二ナトリウム七水和物(NaHAsO・7HO、和光純薬工業社製)を所定量添加し、調製した。環境庁告示46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製した。その検液の重金属濃度をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。
【0040】
【表1】
【0041】
砒素の模擬汚染土壌の溶出量は、土壌汚染対策法施行規則の別表第3に記載されている土壌溶出量基準(0.01mg/L)の5〜6倍程度に調整した。
【0042】
[土壌特性試験]
(1)粒度の測定
試料土の礫分、砂分及び細粒分含有率は、JIS A 1204:2009「土の粒度試験方法」に準拠して測定した。
(2)含水比の測定
試料土の含水比は、JIS A1204:2009「土の含水比試験方法」に準拠して測定した。
(3)pH
試料土のpHは、JGS 0211−2009「土懸濁液のpH試験方法」に準拠して測定した。
(4)化学組成
試料土の化学組成は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。また、試料土の強熱減量は、JIS A1226:2009「土の強熱減量試験方法」に準拠して測定した。
(5)交換性カルシウム量
肥料分析法5.31.1「陽イオン交換容量」に準拠して調製した検液のカルシウム濃度を原子吸光法により測定し、交換性カルシウム量を求めた。
(6)交換性マグネシウム量
肥料分析法5.31.1「陽イオン交換容量」に準拠して調製した検液のマグネシウム濃度を原子吸光法により測定し、交換性マグネシウム量を求めた。
(7)交換性ナトリウム量
肥料分析法5.31.1「陽イオン交換容量」に準拠して調製した検液のナトリウム濃度を原子吸光法により測定し、交換性ナトリウム量を求めた。
(8)交換性カリウム量
肥料分析法5.31.1「陽イオン交換容量」に準拠して調製した検液のカリウム濃度を原子吸光法により測定し、交換性カリウム量を求めた。
【0043】
[不溶化試験]
上記のように、調製した砒素汚染土壌に酸化マグネシウム組成物(BET比表面積:29m/g)を添加し、ソイルミキサーにて低速で2.5分間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、さらに低速で2.5分間練り混ぜた。このときの酸化マグネシウム組成物の添加量は75〜200kg/mとした。このようにして得られた処理土は、φ5×10cmのモールドに3層に分けて充填し円柱供試体を作製し、20℃で材齢7日まで密封養生した。環境庁告示46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製した。その検液の重金属濃度をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。なお、砒素の定量下限値は0.002mg/Lであったため、実測値が0.002mg/L未満の場合では便宜上0.001mg/Lとして表記した(実施例1〜12、比較例1〜8)。
【0044】
[酸化マグネシウムの化学組成]
上記不溶化試験に使用した酸化マグネシウム組成物の化学組成を表2に示す。酸化マグネシウムの化学組成は、JIS M 8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」に準拠して測定した。
[酸化マグネシウムのBET比表面積]
上記不溶化試験に使用した酸化マグネシウム組成物のBET比表面積は、高精度ガス吸着装置(日本ベル社製、BELSORP−mini)を用いて、定容量型ガス吸着法にて測定した。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示すように、土壌の交換性カルシウム量は、試料土A<試料土B<試料土C<試料土D<試料土Eの順に多かった。交換性カルシウム量が最も多かった試料土Eは、細粒分含有率が69.8質量%と比較的多く、含水比が43%高いことがわかる。これは、マイナスの荷電をもった粘土鉱物を比較的多く含んでいるためと推察される。また、交換性カルシウム量が125mg/乾土100gと、乾土100gあたりの交換性カルシウム量が110mgを超える試料土Dは、細粒分含有率が62.1質量%と比較的多く、含水比が35%と高い。反対に、交換性カルシウム量が最も少なかった試料土Aでは、細粒分含有率が18.4質量%と比較的少なく、含水比が10%と低いことがわかる。これは、マイナスの荷電をもった粘土鉱物の含有量が比較的少ないためと推察される。
【0050】
【表6】
【0051】
表6及び図1に示すように、土壌溶出基準を超過する砒素の汚染土壌を酸化マグネシウム組成物で不溶化した場合、交換性カルシウム量が乾土100gあたり10mg、30mg、104mgと、交換性カルシウム量が110mg/乾土100g以下の土壌では、酸化マグネシウム組成物添加量が75〜200kg/mのいずれの場合においても砒素溶出量の低減率が80%以上と高く、不溶化処理後の砒素溶出量は土壌溶出量基準を下回っていた(実施例1〜12)。一方、交換性カルシウム量が乾土100gあたり125mg及び140mgと、交換性カルシウム量が110mg/乾土100gを超える土壌では、砒素溶出量低減率は大幅に低下し、酸化マグネシウム組成物を200kg/mに増やした場合においても処理後の砒素溶出量は土壌溶出量基準を満足することができなかった(比較例1〜8)。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、低コストで汚染土壌からの砒素の溶出量を大幅に低減することができ、環境負荷や経済的負荷を低減することができ、産業上有用である。
図1