特許第5888022号(P5888022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5888022-パワーテイクオフ装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5888022
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】パワーテイクオフ装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 25/06 20060101AFI20160303BHJP
   B60K 28/10 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   B60K25/06
   B60K28/10 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-56755(P2012-56755)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189081(P2013-189081A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正雄
(72)【発明者】
【氏名】松尾 芽
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−089064(JP,U)
【文献】 特開2009−179195(JP,A)
【文献】 実開平05−030465(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 25/06
B60K 28/10
B60K 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力の一部または全部を取り出すパワーテイクオフ装置であって、該パワーテイクオフ装置を起動するための起動スイッチと、上記エンジンの出力を増減するためのアクセル操作部と、該アクセル操作部の操作量を検出するアクセル操作量センサと、該アクセル操作量センサの検出値に基づいて上記エンジンの出力を制御する制御部とを備え、該制御部は、上記起動スイッチが前回オフの状態からオンされた時の上記アクセル操作部の操作量を0%と設定して初期化し、これを基準として上記エンジンの出力を制御することを特徴とするパワーテイクオフ装置。
【請求項2】
上記制御部は、上記アクセル操作部が所定の操作量に設定されている場合、上記起動スイッチがオンされた時の基点よりもアクセル操作部を出力増側に操作したときはその増加量だけエンジンの出力を増大させ、上記基点よりも出力減側に操作したときはその位置を新たな基点とする請求項1記載のパワーテイクオフ装置。
【請求項3】
上記制御部は、上記初期化を実行するか否かを選択する初期化スイッチを備えている請求項1または2記載のパワーテイクオフ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力の一部または全部を取り出すパワーテイクオフ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両としては、走行用のエンジンの駆動力の一部又は全部を取り出し、車両に搭載された被駆動機器(クレーン、ミキサ、消防ポンプ等)を駆動するパワーテイクオフ(PTO)装置を備えた特装車両が知られている。
【0003】
このような特装車両においては、イグニッションスイッチの他に、作業を行う際に操作する起動スイッチ(以下、PTOスイッチという。)及びエンジンの出力を増減するアクセル操作部であるアクセルレバー(以下、PTOアクセルという。)を備えている。
【0004】
PTOアクセルは、PTO作業中に、レバー操作にてアクセル操作量(例えば開度)を変えることにより、PTO作業のためのエンジンの出力(回転数)を上げ下げ操作することができる。
【0005】
このようなパワーテイクオフ装置においては、例えば図3に示すように、PTOスイッチをオンにすると(S11)、PTOモードに入り、その時点におけるPTOアクセル開度を確認し(S12)、そのPTOアクセル開度に基づいて燃料噴射量を換算し(S13)、その燃料噴射量の燃料の噴射により、PTOアクセル開度に応じた所定のエンジンの出力に制御を行う(S14)。
【0006】
なお、PTO関連の先行技術として、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−179195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、PTOモードでの作業を中止する際に、PTOアクセルを初期位置(開度0%)に戻さずに、PTOスイッチを一旦オフにした場合、次に再度PTO作業を行うためにPTOスイッチをオンにすると、エンジンの出力(回転数)が現在のPTOアクセル開度が示すエンジンの出力まで一気に上昇する可能性があり、予期しない事態を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、アクセル操作部を戻し忘れた状態で起動スイッチをオンにしたとしても、不用意にエンジン回転が上昇するのを防ぐことができ、より安全性を確保することができるパワーテイクオフ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジンの出力の一部または全部を取り出すパワーテイクオフ装置であって、該パワーテイクオフ装置を起動するための起動スイッチと、上記エンジンの出力を増減するためのアクセル操作部と、該アクセル操作部の操作量を検出するアクセル操作量センサと、該アクセル操作量センサによる検出値に基づいて上記エンジンの出力を制御する制御部とを備え、該制御部は、上記起動スイッチが前回オフの状態からオンされた時の上記アクセル操作部の操作量を0%と設定して初期化し、これを基準として上記エンジンの出力を制御することを特徴とするものである。
【0011】
上記制御部は、上記アクセル操作部が所定の操作量に設定されている場合、上記起動スイッチがオンされた時の基点よりもアクセル操作部を出力増側に操作したときはその増加量だけエンジンの出力を増大させ、上記基点よりも出力減側に操作したときはその位置を新たな基点とすることが好ましい。
【0012】
上記制御部は、上記初期化を実行するか否か選択する初期化スイッチを備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パワーテイクオフ装置の前回使用したアクセル操作部を戻し忘れた状態で起動スイッチをオフにしてから再び起動スイッチをオンにしたとしても、不用意にエンジン回転が上昇するのを防ぐことができ、より安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るパワーテイクオフ装置の概略を示す説明図である。
図2】本実施形態に係るパワーテイクオフ装置の作用を説明するフローチャートである。
図3】従来のパワーテイクオフ装置の作用を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0016】
図1において、1は車両に搭載された駆動用のエンジンで、車両にはそのエンジン1の駆動力の一部または全部を取り出して作業機である被駆動機器2を駆動するパワーテイクオフ機構部3aを含むパワーテイクオフ装置3が装備されている。
【0017】
エンジン1には、その駆動を制御するための制御部であるエンジンコントロールモジュール(以下ECMという。)4が接続されている。このECM4には、エンジン1を始動、停止するためにオン、オフするイグニッションスイッチ5と、パワーテイクオフ装置3を作動モードまたは非作動モードに切り替えるためにオン、オフする起動スイッチであるPTOスイッチ6とがそれぞれ接続されている。これらイグニッションスイッチ5およびPTOスイッチ6は、例えば運転席に設けられている。
【0018】
車両の被駆動機器2の近傍には、運転席に設けられた車両用のアクセル操作部とは別に、被駆動機器2のためのエンジン1の出力を増減するアクセル操作部であるPTOアクセル7が設けられている。このPTOアクセルとしては機械式アクセルレバーが一般的であるが、本実施形態のPTOアクセル7としてはポテンショタイプの電子式アクセルレバーが用いられている。PTOアクセル7には、その操作量例えば開度θを検出するアクセル開度センサ(アクセル操作量センサ)8が設けられている。このアクセル開度センサ8は、ECM4に接続されている。
【0019】
ECM4は、アクセル開度センサ8を介してPTOアクセル7の開度θを認識し、そのPTOアクセル7の開度θに応じた燃料噴射量を換算し、その燃料噴射量の燃料を供給することにより、PTOアクセル7の開度θに応じた所定のエンジンの出力(回転数)に上昇または下降させるエンジンの出力制御を行うように構成されている。
【0020】
特に、ECM4は、作業者が前回の作業時にPTOアクセルを戻さずに(戻し忘れて)PTOスイッチをオフにしてから、再びPTOスイッチをオンして作業を再開(PTO SW;OFF⇒ON)した場合でも常にPTOアイドル回転から作業を開始できるようにするために、PTOスイッチ6がオン(PTO SW;OFF⇒ON)された時のPTOアクセル7の開度θを0%と設定して初期化し、これを基準としてエンジン1を制御するように構成されている。
【0021】
なお、常に固定のPTOアクセル開度を使用するユーザの場合、PTOアクセル開度の初期化処理を必ずしも必要としないため、初期設定用として、初期化を実行するか否かを選択することができる機能を備えていることが好ましい。
【0022】
このため、ECM4には、初期化を実行するか否かを選択するPTOアクセル初期化スイッチ9が組み込まれている。このPTOアクセル初期化スイッチ9は、例えばプログラムの書き換えによりオンまたはオフに切り替えることが可能なソフトスイッチからなっている。
【0023】
このPTOアクセル初期化スイッチ9が初期化を実行する方に設定されている場合、PTOアクセル7の開度(PTOアクセル開度ともいう)θが0%に設定されて初期化され、PTOアイドル回転とされるため、作業者が前回作業時にPTOアクセル7を開度0%に戻さずにPTOスイッチ6をオフにし、この状態からPTOスイッチ6をオンにして作業を再開したとしても常にPTOアイドル回転から作業を開始することが可能となる。なお、PTOアイドル回転としては、車両走行用としての通常運転時のアイドル回転とは別に被駆動機器用としての少し高めのアイドル回転が用いられる場合が多い。
【0024】
PTOアクセル初期化スイッチ9によりPTOアクセル開度θの現在の位置が0%に設定されて初期化されるため、PTOアクセル7が途中まで引かれている場合には、その位置から出力増側(図1のPTOアクセル7を時計方向)に一杯(θ=100%の開度)にPTOアクセルを操作しても100%の開度のエンジン出力までは出せない。
【0025】
そこで、ECM4は、PTOアクセル7が所定の操作量に設定されている場合、PTOスイッチ6がオンされた時の基点PよりもPTOアクセル7を出力増側に操作したときはその増加量だけエンジンの出力を増大させ、基点Pよりも出力減側(図1のPTOアクセルを反時計方向)に操作したときはその位置を新たな基点Pとするように構成されている。従って、PTOアクセル7がPTOスイッチ6のOFF⇒ON時の基点Pよりも出力減側に操作されたときは、出力減側一杯(θ=0%)までPTOアクセル7を戻すと再び出力増側に100%までエンジンの出力すなわちパワーテイクオフ装置3の出力を増大せることが可能となる。
【0026】
次に、ECM4に組み込まれたパワーテイクオフ装置3の制御について図2のフローチャートに基づき説明する。先ず、ステップS1でPTOスイッチ6がオンされるとフローが開始され、PTOスイッチ6がオフされて終了するまでフローが繰り返される。ステップS1でPTOスイッチ6をオンすると、ステップS2に進む。ステップS2でPTOアクセル初期化スイッチ9がオンか否かを判定するが、初期設定でオンに設定されているため、ステップS3に進む。ステップS3で前回のPTOスイッチ6の状態がオフか否かを判定する。ステップS1のPTOスイッチONは今回のPTOスイッチ6の状態である。なお、図2のフローチャートで開始から終了まで一巡すると、再び開始から終了まで繰り返される。その場合、二巡目以降は、ステップS1は今回のPTOスイッチONになるから、ステップS3で一巡目の前回のPTOスイッチの状態がオンである(オフでない)ので、ステップS4に進む。
【0027】
一巡目のステップS3で前回のPTOスイッチ6の状態がオフであれば、PTOアクセル7の開度を0%の位置に戻さずにPTOスイッチ6をオフにしている可能性があるため、ステップS5に進み、PTOアクセル開度を0%と設定して初期化する。
【0028】
ステップS3で前回のPTOスイッチ6の状態がオフでなければ、PTOアクセル7の開度を0%の位置に戻さずにPTOスイッチ6をオフにしている可能性がないため、ステップS4に進み、PTOアクセル開度が0%以上であるか否(マイナス)かを判定する。PTOアクセル開度が0%以上であれば、ステップS6、ステップS7へと進む。ステップS6では、PTOアクセル開度に基いて燃料噴射量を換算し、ステップS7では、PTOアクセル開度に応じた所定のエンジンの出力に制御される。初期化された場合、PTOアクセル開度が0%のアイドリング回転となる。
【0029】
ステップS4でPTOアクセル開度が0%以上でなければ、PTOアクセルがマイナス側(図1において0%側)に戻された場合であるため、ステップS5に進み、その戻された位置でのPTOアクセル開度が0%と設定されて初期化され、その位置が新たな基点Pとされる。
【0030】
なお、常に固定アクセル開度を使用するユーザである場合には、PTOアクセル初期化スイッチ9をオフに設定しておけばよく、PTOアクセル開度の初期化処理は行われない。
【0031】
以上説明したように、本実施形態のパワーテイクオフ装置3によれば、パワーテイクオフ装置3を起動するためのPTOスイッチ6と、エンジン1の出力を増減するためのPTOアクセル7と、PTOアクセル7の操作量例えば開度θを検出するアクセル開度センサ8と、アクセル開度センサ8の検出値に基づいてエンジン1の出力を制御するECM4とを備え、ECM4は、PTOスイッチ6がオンされた時のPTOアクセル7の操作量を0%と設定して初期化し、これを基準としてエンジン1の出力を制御するため、PTOアクセル7を戻し忘れた状態でPTOスイッチ6をオンしても、不用意にエンジン回転が上昇するのを防ぐことができ、より安全性を確保することが可能となる。また、初期化により前回のPTOスイッチ6の状態やPTOアクセル7の状態を気にせずにパワーテイクオフ装置3を起動することができ、操作性の向上が図れる。
【0032】
更に、ECM4は、PTOアクセル7が所定の操作量例えば開度θに設定されている場合、PTOスイッチ6がオンされた時の基点PよりもPTOアクセル7を出力増側(図1のPTOアクセルを時計方向)に操作したときはその増加量だけエンジンの出力を増大させ、基点Pよりも出力減側(同、反時計方向)に操作したときはその位置を新たな基点Pとするため、操作性の向上が図れる。初期化によりPTOアクセル7の開度が0%となるため、PTOアクセル7が途中まで引かれている場合、そのまま一杯にPTOアクセル7を引いても100%の開度まではいかなくなるが、PTOアクセル7を基点Pより戻せば、戻した分だけその位置を新たな基点Pにオフセットでき、一杯まで戻せば、100%の開度までエンジンの出力を出すことができる。
【0033】
なお、ECMは、初期化を実行するか否かを選択するPTOアクセル初期化スイッチ9を備えているため、常に固定アクセル開度を使用するユーザと常に固定アクセル開度を使用しないユーザに合わせて設定を容易に変更することができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更等が可能である。例えば、このPTOアクセル初期化スイッチは、ハードスイッチ(メカニカルスイッチ)であっても良い。また、PTOアクセルは、運転席に設けられていても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 エンジン
2 被駆動機器
3 パワーテイクオフ装置
4 エンジンコントロールモジュール(制御部)
5 イグニッションスイッチ
6 PTOスイッチ(起動スイッチ)
7 PTOアクセル(アクセル操作部)
θ 開度(操作量)
8 アクセル開度センサ(アクセル操作量センサ)
9 PTOアクセル初期化スイッチ(初期化スイッチ)
図1
図2
図3