【文献】
SASAKI, Y. et al.,Solar Water Splitting Using Powdered Photocatalysts Driven by Z-Schematic Interparticle Electron Tra,J. Phys. Chem. C,2009年 9月14日,Vol.113, No.40,p.17536-17542,DOI:10.1021/jp907128k
【文献】
植田嘉宏 他,種々の溶液化学法によるRhドープSrTiO3可視光応答型光触媒の合成と高活性化,日本セラミックス協会 第19回秋季シンポジウム講演予稿集,2006年 9月19日,page.78
【文献】
佐々木康吉 他,種々の方法により調製したSrTiO3:Rh光触媒を用いたCo錯体電子伝達系Zスキーム型光触媒による水,日本化学会第87春季年会,2007年 3月12日,page.498
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の、M(ロジウム)/M(チタン+ロジウム)で表わされるモル比率が0.001〜0.03である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の結晶性
本発明によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム(Rh−SrTiO
3)粒子は、高い結晶性、かつ微細な一次粒子径を有することを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、従来のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子に比べて、結晶中のRh
4+に由来する光吸収率が大きいことと、結晶中に存在する酸素欠陥に由来する光吸収率が小さいことを両立した粒子が、「高い」結晶性を有し、かつ高い光触媒活性を示すことを見出した。Rh−SrTiO
3において、高い結晶性と、比表面積の大きい、すなわち微細結晶であることを両立させることには困難が伴う。つまり、Rh−SrTiO
3は、結晶成長にあたり微細結晶のままで、高い結晶性を有する結晶となるように成長させることが難しい物質である。このようなRh−SrTiO
3粒子において、結晶中のRh
4+に由来する光吸収率と、結晶中に存在する酸素欠陥に由来する光吸収率とを指標とすることで、微細結晶でかつ高い結晶性を有する結晶を得ることが可能となった。
【0013】
通常、金属酸化物の結晶性が低下する要因の一つとして、酸素欠陥の生成が考えられる。つまり、金属酸化物の酸素サイトの欠損部位が多い、すなわち酸素欠陥が多いほど、結晶としての周期性が乱れるため、金属酸化物の結晶化度が低下する、つまり結晶性が低下する。
【0014】
本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の酸素欠陥量は、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末の紫外光、可視光、近赤外光領域における拡散反射スペクトル測定により定量評価できる光吸収率A(=1−分光反射率R)を指標として評価することが可能である。金属酸化物、例えば、酸化チタンの中に存在する酸素欠陥は、酸化チタンのバンド構造において、Ti−3d軌道からなる伝導帯の下端から0.75〜1.18eV程度低い電子エネルギーの領域に、酸素欠陥により生成するTi
3+からなるドナー準位を生じさせる。また、酸素欠陥を有する酸化チタンの吸収スペクトルは、可視光域から近赤外域に渡る幅広い領域でブロードな光吸収帯を持つことが知られている(Cronemeyerら、Phys.Rev.113号、1222〜1225ページ、1959年)。今般、本発明者らは、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の拡散反射スペクトルを測定することで、酸化チタンと同様に、可視光から近赤外光領域に渡って、ブロードな光吸収帯が生じることを確認した。さらに、焼成温度を上昇させることで、この近赤外光領域において光吸収率が減少することを確認した。これらのことから、可視光から近赤外域における光吸収を測定することで、焼成温度の上昇に伴う結晶性の向上を定量化できることを見出した。
【0015】
また、本発明者らは、高い光触媒活性を有するロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子においては、ロジウムの状態も重要であり、チタン酸ストロンチウム結晶中の4価のロジウム(Rh
4+)に由来する光吸収が大きいほど、結晶性が高くなることを見出した。このロジウムの価数による結晶性への影響に関して、以下のメカニズムが予想されるが、本発明はこのメカニズムに限定されるものではない。
【0016】
通常、ロジウムの価数は、2価、3価、4価および5価が知られている。これらの価数を有するロジウムのうち、室温及び大気中で最も安定なのは3価のロジウム(Rh
3+)である。3価のロジウムを含む出発原料を用いた場合、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)を高温で焼成し結晶化する際、4価のチタン(Ti
4+)のサイトにロジウムがドープされることが知られている。この際、Rh
3+がTi
4+の結晶サイトに置換固溶した場合、電気的中性を保つために、酸素欠陥が生じてしまう。よって、本発明者らは、この酸素欠陥を減少させるためには、結晶の電気的中性を維持可能なRh
4+が、Ti
4+の結晶サイトに置換固溶する必要があり、このことにより粒子の結晶性が向上することを見出した。
【0017】
そこで、本発明者らは、以下の方法で粒子を測定することにより、本発明の高い光触媒活性を有するロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の光学特性パラメータを明らかにできることを見出した。
【0018】
本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の光学特性の測定方法として、例えば、積分球ユニットを装着した、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、“V−670”)を用いることが可能である。具体的には、紫外可視近赤外分光光度計に、積分球ユニット(日本分光株式会社製、“ISV−722”)を装着する。ここで、ベースライン測定には、アルミナ焼結ペレットを用いる。その上で、微量粉末セル(日本分光株式会社製、“PSH−003”)の窓部(φ5mm)に、充填率が50%以上となるように粒子粉末30mgを詰めた際の拡散反射スペクトルを測定することで、分光反射率Rの測定が可能となる。ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の光学特性は、この装置を用いて、波長200〜2500nmまでの範囲で、拡散反射スペクトルを測定することで示される。そして、本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、波長315nmにおける光吸収率A
315(=1−R
315[波長315nmにおける分光反射率])が、0.86〜0.87の範囲になるような条件下で、チタン酸ストロンチウム結晶中のRh
4+に由来する光吸収に帰属される、波長570nmにおける光吸収率A
570(=1−R
570[波長570nmにおける分光反射率])が、0.6以上であり、かつ、結晶中の酸素欠陥に由来する光吸収に帰属される、波長1800nmにおける光吸収率A
1800(=1−R
1800[波長1800nmにおける分光反射率])が、0.7以下であることを特徴とする。本発明の好ましい態様によれば、波長570nmにおける光吸収率A
570は、0.6以上0.8未満である。また、本発明の別の好ましい態様によれば、波長1800nmにおける光吸収率A
1800は、0.3以上0.7以下である。
【0019】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の一次粒子径
さらに、上述のように、本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、微細な一次粒子径を有している。一次粒子径は、70nm以下である。これにより、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は高い比表面積を有することができる。また、分解対象物質との接触面積が増加し、粒子の光触媒活性が向上する。好ましい一次粒子径は50nm以下である。より好ましい一次粒子径は30nm以上70nm以下である。さらにより好ましい一次粒子径は30nm以上50nm以下である。ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の一次粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、“S−4100”、以下、SEM)により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値で定義することが可能である。
【0020】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の構造
さらに、本発明の好ましい態様によれば、上述のように、本発明によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、比表面積が大きいものである。
【0021】
本発明においては、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子のR
SP値を指標として用いることで、表面積の大きいロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子又はこれが集合した多孔質度の高い粉体(二次粒子)を示すことが可能となった。
【0022】
R
SP値は粒子表面に吸着した水分子の吸着量に相関する指標であり、水中に分散する粒子が水と接触している表面積に依存する指標である。本発明によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は後述するように水分解用光触媒として利用することができるため、この粒子は水と接触させて利用されるものである。この場合、水は一次粒子間の間隙あるいは二次粒子内の細孔に拡散し、粒子の表面に水が接触する状態となる。従って、本発明によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を水分解用光触媒として利用する場合、水が吸着している粒子の表面積をR
SP値を指標として正確に測定可能であることは、比表面積の大きい粒子を得る上で有効である。なお、粒子の比表面積を測定する方法として、従来主流である窒素吸脱着測定を元にしたBET解析が挙げられるが、このBET解析では、プローブとして窒素用いており、窒素の分子直径は小さいため、水が拡散できない細孔表面に窒素が吸着してしまう。従って、BET解析による比表面積測定方法は水が吸着している粒子を対象とする場合有効性に欠ける。
【0023】
R
SP値は以下の式で表される。また、R
SP値は、パルスNMR粒子界面評価装置(例えば、“Acorn area”、日本ルフト製)により測定することが可能である。
R
SP=(R
b−R
av)/R
b (1)
ここで、R
avは、平均緩和時定数である。緩和時定数は、粒子が水に分散している際に表面に接触あるいは吸着している水の緩和時間の逆数である。平均緩和時定数は得られた緩和時定数を平均した値である。
R
bは、粒子が含まれていないブランクの水の緩和時定数である。
【0024】
R
sp値が大きいほど、粒子表面と水の相互作用が大きいことを示す。すなわち、粒子と水が接触している面積が大きく、粒子の比表面積が大きいことを示す。
【0025】
本発明によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子のR
SP値は、0.86以上であることが好ましい。より好ましくは0.88以上である。またR
SP値は、10以下であることが好ましい。
【0026】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの組成
本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウムの組成は、SrTi
1−xRh
xO
3で表わすことができる。ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の、M(ロジウム)/M(チタン+ロジウム)で表わされるモル比率は、0.001〜0.03であることが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.03である。モル比率をこの範囲とすることで、結晶中の酸素欠陥量の増加を抑制し、高い光触媒活性を実現することが可能である。
【0027】
以上のように、本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、上記に示す光吸収率と、SEMにより測定される微細な一次粒子形状を両立することで、高い光触媒活性の発現が可能となる。
【0028】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法
本発明によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法として、乾式反応法や湿式反応法を利用することが可能である。乾式反応法として、固相反応法等が挙げられる。また、湿式反応法として、ゾル−ゲル法、錯体重合法、水熱反応法等が挙げられる。例えば、ゾル−ゲル法による製造方法は、チタンのアルコキシドやチタンの塩化物を原料として用いる。この原料と水との加水分解反応によりチタンを含む水酸化物を生成させる。この水酸化物を600℃以上で焼成し、結晶化させることでロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を得ることができる。
【0029】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体を含む水溶液を用いた粒子の製造
さらに、本発明によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法として、ストロンチウムイオン、チタンイオン、ロジウムイオンを含む水溶液を用いた熱分解法(水溶液熱分解法)を好ましく用いることが可能である。「水溶液熱分解法」とは、金属含有前駆体を原料として用い、この金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応を起こす方法である。水との加水分解反応が速やかに起こる金属化合物(例えば、金属のアルコキシドや金属の塩化物等)を用いるゾル−ゲル法では、金属含有前駆体同士の加水分解により金属水酸化物が生成し、これらの脱水重縮合が速やかに起こることで、結晶核が粗大化しやすい。これに対して、本発明で用いられる水溶液熱分解法では、加水分解反応が緩やかな金属含有前駆体を原料として用いることで、水への安定な溶解が可能となる。また、このような金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応が緩やかに起こり得る。これにより、熱分解時の結晶核の生成速度が遅くなり、結果的に結晶核の微細化が可能となる。
【0030】
本発明の一つの態様によれば、本発明による製造方法において、チタン化合物、ストロンチウム化合物、ロジウム化合物と疎水性錯化剤を混合し、水に溶解させることでロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体を含む水溶液を調製することが好ましい(これにより得られる水溶液を、以下、水溶液Aという。)。ここで、「ロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体」とは、チタン化合物が解離して生成するチタンイオンに疎水性錯化剤が配位して、形成される六員環構造を有する化合物と、ストロンチウム化合物が解離して生成するストロンチウムイオン及びロジウム化合物が解離して生成するロジウムイオンの混合物である。水溶液Aを調製する方法は、まずチタン化合物と疎水性錯化剤を混合し水溶性チタン錯体を含む水溶液を調製する(これにより得られる水溶液を、以下、水溶液Bという。)。この水溶液Bにストロンチウム化合物及びロジウム化合物を混合し、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体を含む水溶液、つまり水溶液Aを調製する。ここで、水溶性チタン錯体とは、チタン化合物が解離して生成するチタンイオンに疎水性錯化剤が配位したものである。
【0031】
本発明による製造方法において、本来難水溶性であるTi
4+を含むチタン化合物を水溶化させる方法として、原料としてチタン化合物の他に、疎水性錯化剤を添加することが好ましい。疎水性錯化剤をチタンイオンに配位させて、チタンイオンを錯化させることで、加水分解を抑制させることが可能となる。ここで、チタン化合物としては、チタンのアルコキシドやチタンの塩化物を用いることができる。チタンのアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド等を用いることができる。チタンの塩化物としては、四塩化チタン、四フッ化チタン、四臭化チタン等を用いることができる。
【0032】
また、本発明に用いる疎水性錯化剤は、チタンイオンに配位でき、チタンイオンに配位した際に溶媒相側に疎水部が露出するものである。このような疎水性錯化剤として、例えばジケトン類、カテコール類を好ましく用いることができる。ジケトン類としては、一般式:Z
1−CO−CH
2−CO−Z
2(式中、Z
1およびZ
2は、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)で表されるジケトン類を好ましく用いることができる。前記一般式で表されるジケトン類としては、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル等を好ましく用いることができる。カテコール類としては、アスコルビン酸、ピロカテコール、tert−ブチルカテコール等を好ましく用いることができる。さらにより好ましくは、チタンへの水溶液中での錯化能が極めて高いアセチルアセトン、アセト酢酸エチルを用いることができる。これにより、親水部である水酸基が溶媒相側に露出した場合に起こる分子間の脱水重縮合による分子間重合を抑制できる。よって、熱分解時において結晶核の微細化や、熱分解反応後の粒子の微細化が可能となる。
【0033】
また、本発明の好ましい態様によれば、疎水性錯化剤に加えて、親水性錯化剤を用いても良い。親水性錯化剤としては、好ましくはカルボン酸を用いることができ、より好ましくは、式R
1−COOH(式中、R
1はC
1−4アルキル基である)で表わされるカルボン酸、または炭素数1〜6のヒドロキシ酸またはジカルボン酸を用いることができる。このような親水性錯化剤の具体例としては、酢酸、乳酸、クエン酸、酪酸、リンゴ酸等の水溶性カルボン酸等が挙げられる。さらにより好ましい水溶性カルボン酸は、酢酸または乳酸である。これにより、チタン化合物の加水分解反応の抑制や水への溶解性を向上させることが可能となる。
【0034】
また、錯体形成のための溶媒は水であってもよいが、本発明の別の好ましい態様によれば、溶媒として水溶性有機溶剤を用いても良い。これにより、遷移金属化合物の溶解性を向上させることができる。水溶性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、セロソルブ系溶媒、カルビトール系溶剤が挙げられる。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、水溶性チタン錯体として特開2012−056947号公報に記載のものを用いることができる。具体的には、チタンイオンに対する配位数が6であるチタン錯体であって、チタンイオンと、それに配位してなる、一般式:Z
1−CO−CH
2−CO−Z
2(式中、Z
1およびZ
2は、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)で表され、二座配位子として機能する第1の配位子と、カルボキシラートである第2の配位子と、アルコキシドおよび水酸化物イオンからなる群から、独立してそれぞれ選択される第3の配位子および第4の配位子と、H
2Oである第5の配位子とを含んでなるチタン錯体を用いることができる。
【0036】
また、Sr
2+を含むストロンチウム化合物として、水溶性であり、加熱結晶化の際に、残渣としてアニオン成分が残らないものが好ましい。例えば、硝酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム等が好ましく用いられる。
【0037】
また、Rh
3+を含むロジウム化合物として、水溶性であり、加熱結晶化の際に、残渣としてアニオン成分が残らないものが好ましい。ロジウム化合物として、例えば、硝酸ロジウム、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、乳酸ロジウム、クエン酸ロジウム等が好ましく用いられる。また、ロジウム化合物として、Rh
4+を含む分子を用いても良い。ストロンチウム化合物あるいはロジウム化合物の水への溶解性を向上させるために、乳酸、酪酸、クエン酸等の親水性錯化剤を用いてもよい。
【0038】
本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造において、前記水溶液Aにおける各種原料の好ましい混合比率としては、水100グラムに対して、チタン1原子を含むチタン化合物は、0.01〜0.2モル、より好ましくは0.02〜0.1モルであり、ストロンチウム化合物は、チタン1原子を含むチタン化合物に対して1〜1.1倍のモル量であり、ロジウム化合物は、所望のドープ量であり、疎水性錯化剤は、0.005〜0.4モル、より好ましくは0.015〜0.15モルであり、親水性錯化剤は、0.01〜0.2モル、より好ましくは0.025〜0.15モルであることが好ましい。この比率で混合することで、チタン化合物が良好に水溶化し、熱分解後の粒子の高結晶化及び微細化が可能となる。また、チタン化合物に対する、疎水性錯化剤のモル比率としては、チタン1原子を含むチタン化合物1モルに対して、0.5〜2モルであることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2モルである。この範囲内では、チタン化合物の加水分解反応の進行や、分子の疎水性向上による水溶性の低下を抑制することが可能となる。また、チタン化合物に対する、親水性錯化剤のモル比率としては、チタン1原子を含むチタン化合物1モルに対して、0.2〜2モルであることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5モルである。この範囲内では、チタン化合物の加水分解反応の進行を抑制し、チタン化合物の水への溶解性を向上させることが可能となる。また、水溶液Aにおいて、水溶液中での各イオンの安定性を維持し、結晶化後の粒子の微細化が可能なpHは、好ましくは、2〜6、より好ましくは、3〜5である。この範囲とすることで、強酸や強アルカリ雰囲気による加水分解重縮合の促進による結晶の粗大化を抑制できる。
【0039】
また、本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造においては、前記水溶液Aに、水中分散型有機ポリマー粒子を添加することが好ましい(これにより得られる水溶液Aに水中分散型有機ポリマー粒子を添加したものを、以下、分散体という。)。また、この分散体を加熱し結晶化することでロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉体を得ることができる。水溶液Aに水中分散型有機ポリマー粒子を添加することで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子同士の凝集度を低減させ、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉体の多孔質度や空隙率を向上させることが可能となる。
【0040】
この水中分散型有機ポリマー粒子として、球状ラテックス粒子や、水中油滴分散型(O/W型)エマルジョンを用いることが可能である。この水中分散型有機ポリマー粒子の添加により、微細なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が得られ、このような粒子が集合した二次粒子は多孔質となる。このように微細な一次粒子が得られ、その結果それが集合した二次粒子の多孔質度が高くなるメカニズムは、以下のように考えられるが、本発明はこのメカニズムに限定されるものではない。水中分散型有機ポリマー粒子を添加することで、水中で極性を持つポリマー粒子表面に、同じく極性分子である水溶性チタン錯体、ストロンチウムイオンおよびロジウムイオンが吸着する。加熱結晶化の工程で、ポリマー粒子の表面にあるチタン錯体は加水分解され、ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの結晶核が生じる。ここで、ポリマー粒子の表面にある結晶核は互いに物理的距離をもって存在するため、結晶核同士の結合の機会が少なく、結晶の成長は緩やかに進行すると考えられる。この結果、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の一次粒子径が微細になるものと考えられる。さらに、生じたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は熱分解によるポリマー粒子の消失にともない互いに結着するが、ポリマー粒子の存在がロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の凝集を抑制し、その結果、その集合体としての二次粒子の空隙率が高くなり、すなわち多孔質度が高くなるものと考えられる。
【0041】
この水中分散型有機ポリマー粒子の水中での分散粒子径は、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは、30〜300nmである。この範囲の分散粒子径とすることで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの結晶核同士の物理的距離を大きくすることできる。よって、加熱結晶化後に、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を微細化することが可能となる。また、水中分散型有機ポリマー粒子の材質としては、600℃以上の加熱結晶化後に、有機ポリマー粒子の加熱残存物であるアモルファス状炭素等の残渣が残らないものが好ましい。例えば、スチレン、アクリル、ウレタン、エポキシ等のモノマーユニットが重合されたもの、もしくは複数種類のモノマーユニットを含むものが好適に用いられる。そして、水中分散型有機ポリマー粒子の添加量は、高温結晶化後のロジウムドープストロンチウムの重量に対して、好ましくは、1〜20倍、より好ましくは、3〜15倍量であり、この範囲の量のポリマー粒子を、水溶液Aに添加することで、結晶化後の粒子の凝集を抑制でき、粒子の一次粒子径の微細化が可能となる。
【0042】
本発明の製造方法における、前記分散体から、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を作製する方法として、以下の方法が好ましく用いられる。前記分散体を200℃以下の低温で乾燥することで、まず乾燥粉体を得る。この乾燥粉体を結晶化する為に焼成することで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を製造することが可能である。また、この分散体の乾燥および焼成工程を、連続的に行っても良い。ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの結晶化の際の焼成温度は、800℃を超え1100℃未満であり、より好ましくは、900℃以上1050℃以下である。この温度範囲とすることで、水中分散型有機ポリマー粒子を熱分解しつつ、高純度なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を高度に結晶化することが可能となる。
【0043】
光触媒の用途
本発明のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を光触媒として水の光分解に用いる場合、水素及び酸素の発生が速やかに起こるように、助触媒を粒子表面に担持させることが好ましい。助触媒としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の金属粒子や、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム等の金属酸化物粒子を用いることが可能である。また、金属粒子と金属酸化物粒子を混合させたものを用いることができる。この助触媒の担持により、水の酸化反応及び還元反応における活性化エネルギーを減少させることが可能となるため、速やかな水素及び酸素の発生が可能となる。
【0044】
また、酸素発生用光触媒とともに、水中に適当なレドックス対(Fe
2+/Fe
3+、I
−/I
3−、I
−/IO
3−、Co
2+/Co
3+等)を溶解させて、Zスキームシステムの構成とすることができる。このZスキームシステムは、可視光照射により、水を完全分解できる。本発明における酸素発生用光触媒として、好ましくは、BiVO
4,WO
3等が挙げられる。
【0045】
従って、本発明によれば、水分解用光触媒としてのロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の使用が提供される。さらに、本発明の別の態様として、水と接触しているロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子に可視光を照射することを含んでなる水分解方法が提供される。
【実施例】
【0046】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1〜11
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の作製
20mLサンプル瓶に、疎水性錯化剤であるアセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を添加して、黄色の水溶性チタン錯体を含む水溶液を作製した。この水溶性チタン錯体を含む水溶液を、0.32mol/Lの酢酸水溶液50mLに、室温で攪拌しながら添加した。添加後、室温で約1時間攪拌を行い、更に60℃で約1時間撹拌を行うことで、黄色透明な水溶性チタン錯体を含む水溶液を作製した。
【0048】
次いで、上記で作製した水溶性チタン錯体を含む水溶液を10g分取した(金属チタン換算で、3.41mmolのチタンを含有)。そして、酢酸ストロンチウム・0.5水和物(和光純薬製)3.75mmol(0.84g)および親水性錯化剤である乳酸(和光純薬製)0.70gを蒸留水3.16gに溶解したものをこの水溶液に添加し、さらに、M(チタン+ロジウム)に対するM(ロジウム)で表わされるモル比率が所望の濃度となるように、三塩化ロジウム(和光純薬製)の5wt%水溶液をこの水溶液に添加して、室温で3時間撹拌を行った。これにより、橙色透明なロジウムドープチタン酸ストロンチウムの前駆体を含む水溶液を得た。この水溶液のpHは、およそ4であった。
【0049】
さらに、水中分散型有機ポリマー粒子として、焼成後に得られるロジウムドープチタン酸ストロンチウムに対して、重量比で5倍の固形分となるように、アクリルースチレン系O/W型エマルジョン(DIC製、“EC−905EF”,分散粒子径100〜150nm、pH:7〜9、固形分濃度49〜51%)を添加した。
【0050】
以上のように作製した、分散体を、80℃で1時間乾燥させた後、表1に記載の焼成温度で10時間焼成することで、実施例1〜11のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末を作製した。
【0051】
実施例10のサンプルについては、上記のとおり1000℃で10時間焼成し結晶化した後の粉末に対して、さらに遊星型ミル(“Premium Line P−7”、フリッチュ製)を用いて、粉末の微細分散化を行った。分散条件としては、ジルコニア製ポット(容量45mL)に、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粉末を1g、エタノール4g、そしてジルコニア製ビーズ(0.5mmφ)1gを入れて、700rpmで30分、自転公転式分散処理を行った。分散処理後、メッシュ径0.1mmの樹脂製フィルターを用いて、吸引ろ過を行うことで、粉末が分散したスラリーを回収し、このスラリーを室温で10時間乾燥を行うことで、分散処理を施し、実施例10のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粉末を作製した。
【0052】
実施例12
上記実施例1〜11のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の作製方法において、アクリル−スチレン系O/W型エマルジョンを用いる代わりに、アクリル系ラテックス粒子(ケミスノー1000、綜研化学製、平均粒径約1000nm)の50wt%水分散液を用いた以外は、同様の作製方法で、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を作製した。
【0053】
実施例13
上記実施例1〜11のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の作製方法において、アクリル−スチレン系O/W型エマルジョンを用いる代わりに、アクリル系ラテックス粒子(ケミスノー300、綜研化学製、平均粒径約300nm)の50wt%水分散液を用いた以外は、同様の作製方法で、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を作製した。
【0054】
比較例1〜6
比較例サンプルとして、従来の固相反応法により作製したロジウムドープチタン酸ストロンチウムを作製した。固相反応法による作製方法は、以下の通りである。
炭酸ストロンチウム(関東化学製)、酸化チタン(添川理化学製、ルチル型)、および酸化ロジウム(Rh
2O
3:和光純薬製)の各粉末を、Sr:Ti:Rh=1.07:1−x:x(x:表1に記載の各ロジウムドープ比率)のモル比率となるように混合した。その後、表1に記載の焼成温度で10時間焼成し、比較例1〜6のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粉末を作製した。
【0055】
比較例7〜11
上記の実施例1の作製条件において、結晶化の為の焼成温度を表1に記載の焼成温度とした以外は実施例1と同様の方法により、比較例7〜11のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粉末を作製した。
【0056】
比較例12
錯体重合法によりロジウムドープチタン酸ストロンチウムを作製した。具体的には、上記実施例2の作製方法において、水溶性チタン錯体の代わりに、市販の水溶性チタン錯体であるペルオキソクエン酸チタン錯体(“TAS−FINE”、フルウチ化学製)を用い、その他は実施例2と同様の方法により、比較例12のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粉末を作製した。
【0057】
比較例13
錯体重合法(乳酸重合法)によりロジウムドープチタン酸ストロンチウムを作製した。具体的には、上記実施例2の作製方法において、水溶性チタン錯体の代わりに、乳酸を配位子とするチタン錯体を用いた。すなわち、蒸留水100gに、チタンイソプロポキシド(和光純薬製、0.01mol)と乳酸(和光純薬製、0.02mol)を添加して、室温で1週間撹拌することで、乳酸チタン錯体が水に溶解した水溶液を作製した。実施例2の作製方法において、水溶液チタン錯体を含む水溶液の代わりに、この乳酸チタン錯体を含む水溶液を用いた以外は実施例2と同様の方法により、比較例13のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粉末を作製した。
【0058】
比較例14
上記実施例1〜11のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の作製方法において、アクリル−スチレン系O/W型エマルジョンを用いる代わりに、水溶解性のカチオン性ポリマーであるポリアリルアミンの30wt%水溶液(和光純薬製)を用いた以外は、同様の作製方法で、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を作製した。
【0059】
比較例15
上記実施例1〜11のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の作製方法において、アクリルースチレン系O/W型エマルジョンを添加しなかったこと以外は、同様の作製方法で、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を作製した。
【0060】
作製した各粉末の作製条件及び特性を表1に示す。
【0061】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の結晶構造と微細構造
実施例1〜13および比較例1〜15で作製したロジウムドープチタン酸ストロンチウムのX線回折測定を行った結果、すべてのサンプルが、単相のペロブスカイト構造を有することが確認された。次いで、走査型電子顕微鏡による観察から確認された、ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの一次粒子径を表1に示す。具体的には、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、“S−4100”)により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値を一次粒子径とした。実施例の一例として、
図1に実施例2(又は実施例3)の1000℃で10時間焼成した後の粉末(白金未担持)のSEM像を示す。一次粒子径は、50nm以下であり、高温結晶化処理後も、微細化な粒子形状を維持することが確認された。
【0062】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の光学特性
実施例および比較例で作製したロジウムドープチタン酸ストロンチウムの光学特性を、紫外可視近赤外分光光度計に積分球ユニットを装着することで、拡散反射スペクトルを測定し、各波長におけるサンプルの分光反射率Rを求めた。この際、波長315nmにおける光吸収率A(=1−分光反射率R)が0.86〜0.87となるように粉末量を合わせた。表1に、波長570nm、1800nmにおける各光吸収率Aをまとめる。
【0063】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの粒子の構造測定
ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの粒子のR
sp値を、パルスNMR粒子界面評価装置(“Acorn area”、日本ルフト製)を用いて室温で測定した。具体的にはまず、実施例1、3〜5、7、8および10、比較例4、10、13および15で作製したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子0.125gを、0.23%AOT(di−2−ethylhexyl sodium sulfosuccinate)水溶液2.375gに添加して、20W超音波バスを用いて、2分間超音波照射を行うことで、パルスNMR試料を作製した。次いで、超音波照射直後に、NMRチューブに投入した試料を2つの永久磁石の間のコイル中に配置し、約13MHzの電磁波(RF)パルスでコイルを励起することで生じる磁場によって発生する試料中のプロトンの磁場配向に一時的なシフトが誘導された。この誘導を停止すると、試料中のプロトンは再び静磁場B
0と整列し、この再編成によって、自由誘導減衰(FID)と呼ばれるコイルの電圧低下が生じ、特定のパルス1シーケンス(RFパルスの回数及び間隔の組み合わせ)から、試料のT1(縦緩和時間)とT2(横緩和時間)を測定した。ここで、T2の逆数である緩和時定数を連続5回測定した際の平均値をR
avとした。同様に、バルク水のR
bを別途測定し、以下の式より、R
sp値を求めた。
R
SP=(R
b−R
av)/R
b
得られたR
sp値からロジウムドープチタン酸ストロンチウムの粒子の構造を測定した。
【0064】
結果
R
sp値を表1に示す。実施例では、すべて0.88以上のR
sp値であった。このことから、実施例で作製したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、粒子表面と水の相互作用が大きいことが確認された。すなわち、粒子と水が接触している表面積が大きく、粒子の比表面積が大きいことが確認された。
【0065】
【表1】
【0066】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の水分解による水素発生活性
実施例1〜12および比較例1、4、10〜15で作製したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の可視光照射による水分解における水素発生活性を以下の方法で調べた。この可視光照射による水分解における水素発生活性、および後述する量子収率の測定においては、各例のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子に助触媒を担持させたものを用いた。
【0067】
実施例1、3〜6、10および12、比較例4、10〜15
パイレックス(登録商標)製窓付きのガラスフラスコ(実施例2および比較例1のサンプルについては上方照射型、それ以外のサンプルについては側方照射型のフラスコを用いた)に、光還元法により、助触媒である白金を0.5wt%担持させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末0.1gと、犠牲試薬となるメタノール10vol%を含む水溶液200mlを入れて、スターラーで撹拌しながら、反応溶液とした。そして、この反応溶液を入れたガラスフラスコを閉鎖循環装置に装着し、反応系内の雰囲気をアルゴン置換した。そして、UVカットフィルター(L−42、HOYA製)を装着した300Wキセノンランプ(Cermax製、PE−300BF)により、可視光をパイレックス(登録商標)製窓側から照射した。そして、光触媒反応により、水が還元されて生成する水素の発生量を、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC−8A、TCD検出器、MS−5Aカラム)により経時的に調べた。ここで、白金を光還元法により0.5wt%担持させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末は、具体的には、パイレックス(登録商標)製窓付きのガラスフラスコにロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子0.1gと、助触媒原料となる塩化白金酸・六水和物(和光純薬製)を1wt%含む水溶液0.132gと、酸化的犠牲試薬となるメタノールを10vol%含む超純水200mLを入れた。この溶液をスターラーで撹拌しながら、アルゴン雰囲気下で、UVカットフィルター(L−42、HOYA製)を装着した300Wキセノンランプ(Cermax製、PE−300BF)により、可視光をパイレックス(登録商標)製窓側から、2時間照射することで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子表面で塩化白金酸を還元して、白金微粒子をロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子表面に担持させることにより作製した。
【0068】
実施例2、比較例1
助触媒である白金を担持させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末を0.05g用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0069】
実施例7
助触媒である白金の担持量を0.75wt%とした以外は実施例1と同様に行った。
【0070】
実施例8
助触媒である白金の担持方法として、光還元法の代わりに、含浸法を用いた以外は実施例1と同様に行った。具体的には、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末0.1gと、水0.4g、そして1wt%塩化白金酸水溶液0.031gをメノウ乳鉢で室温において30分混練することでペーストを作製した。このペーストを15時間室温で乾燥させた後、400℃で30分焼成することで、含浸法によるサンプルを作製した。
【0071】
実施例9
白金の代わりに、塩化ルテニウム・n水和物(和光純薬製)を用い、光還元法により、ルテニウムを0.5wt%担持させた以外は実施例1と同様に行った。
【0072】
実施例11
助触媒である白金の担持量を1wt%とした以外は実施例1と同様に行った。
【0073】
結果
表2に助触媒を担持させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末の、光照射開始後3時間の間に発生した水素量(μmol)および単位粉末量当たりの水素生成速度(μmol/hr/g)を示す。
例えば、実施例2のサンプルでは、単位粉末量当たりの水素生成速度が、759μmol/hr/gと非常に高活性であるのに対して、比較例1のサンプルでは、120μmol/hr/gとなり、活性は非常に低かった。また、実施例1、3〜7のサンプルに関しても、高い水素発生活性を有することが確認された。
【0074】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の水分解による量子収率
実施例3で作製したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の可視光照射による量子収率を以下の方法で調べた。パイレックス(登録商標)製窓付きのガラスフラスコに、光還元法により、白金を0.5wt%担持させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末0.1gと、犠牲試薬となるメタノール10vol%を含む水溶液200mlを入れて、スターラーで撹拌しながら、反応溶液とした。そして、この反応溶液を入れたガラスフラスコを閉鎖循環装置に装着し、反応系内の雰囲気をアルゴン置換した。そして、分光器付きの波長可変単色光源(分光計器製、SM−25F)を用いて、単色光をパイレックス(登録商標)製窓側から照射した。そして、光触媒反応により、水が還元されて生成する水素の発生量を、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC−8A、TCD検出器、MS−5Aカラム)により経時的に調べた。また、量子収率(%)は下記式により計算した。
量子収率(%)=((発生した水素の分子数×2)/入射光子数)×100
ここで、単位波長当たりの入射光子数については、スペクトロラジオメーター(USHIO製、USR−55)を用いて、各波長(バンド波長幅約10nm)における照度(W/cm
2/nm)を測定することで、各波長の光子1個が有するエネルギーを除することで算出した。
【0075】
図2に、その結果を示す。このサンプルの420nmにおける量子収率は、13.2%であり、非常に高い水素発生活性を示した。
【0076】
また、実施例2の粉末に白金を担持させた粒子の透過型電子顕微鏡像を
図3に示す。これにより、1辺が約45nmのキュービック(立方体)の形態を示すことが明らかであり、立方晶ペロブスカイト構造を表わすことが確認された。さらに、光還元法で担持した白金の粒子径が2nm程度であることも確認された。
【0077】
【表2】