特許第5888458号(P5888458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5888458
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】耐プラズマ性部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20160308BHJP
   C23C 24/04 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   H01L21/302 101H
   C23C24/04
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-114150(P2015-114150)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2016-27624(P2016-27624A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-131780(P2014-131780)
(32)【優先日】2014年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 順一
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−211122(JP,A)
【文献】 特開2007−201528(JP,A)
【文献】 特開2007−131943(JP,A)
【文献】 特開2012−136782(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099890(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00− 6/00
C23C24/00−30/00
C04B41/80−41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成されたイットリア多結晶体を含み耐プラズマ性を有する層状構造物と、
を備え、
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体は、立方晶のみまたは立方晶と単斜晶とが混在した結晶構造を有し、
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における、立方晶に対する単斜晶の割合は、0%以上60%以下であり、
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子サイズは、8nm以上50nm以下であり、
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子同士は、新生面接合され、
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子同士の界面には、ガラス層からなる粒界層が実質的に存在せず、
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における互いに隣接する結晶子同士の間隔は、0nm以上10nm未満であり、
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における、イットリウム(Y)の原子数濃度に対する酸素(O)の原子数濃度の比(O/Y)は、1.3以上1.8以下であることを特徴とする耐プラズマ性部材。
【請求項2】
前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の格子歪みは、0%以上1.3%以下であることを特徴とする請求項記載の耐プラズマ性部材。
【請求項3】
基材と、前記基材の表面に形成された耐プラズマ性を有する層状構造物と、を有する耐プラズマ性部材の製造方法であって、
前記基材の表面に、イットリア多結晶体を含む層状構造物をエアロゾルデポジション法により形成し、
前記エアロゾルデポジション法により形成した前記層状構造物に加熱処理を施すことにより、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における、イットリウム(Y)の原子数濃度に対する酸素(O)の原子数濃度の比(O/Y)を、1.3以上1.8以下とすることを特徴とする耐プラズマ性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、耐プラズマ性部材及びその製造方法に関し、具体的にはチャンバー内でドライエッチング、アッシング、スパッタリングおよびCVD等の処理を行う半導体製造装置に使用される耐プラズマ性部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造プロセスにおいては、製造されるデバイスの不具合の低減による歩留まりの向上と、歩留まりの安定性が求められている。
【0003】
これに対して、チャンバーの天井部が石英ガラスにより構成され、天井部の内面に形成された微小凹凸部の平均表面粗さが0.2〜5μmである電子デバイスの製造装置がある(特許文献1)。また、ポアや粒界層が存在せず、耐プラズマ性部材からの脱粒の発生を抑制・低減する耐プラズマ性部材がある(特許文献2)。
【0004】
半導体の製造プロセス中では、製造されるデバイスの不具合の低減による歩留まりの向上のために、チャンバーの内壁に耐プラズマ性に優れたイットリア膜をコーティングし、パーティクルの発生を低減させている。さらに昨今では、半導体デバイスの微細パターン化が進み、ナノレベルでのパーティクルの安定的なコントロールが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3251215号公報
【特許文献2】特許第3864958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パーティクルを低減させることができ、チャンバーコンディションを安定的に維持することができる耐プラズマ性部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、基材と、前記基材の表面に形成されたイットリア多結晶体を含み耐プラズマ性を有する層状構造物と、を備え、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体は、立方晶のみまたは立方晶と単斜晶とが混在した結晶構造を有し、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における、立方晶に対する単斜晶の割合は、0%以上60%以下であり、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子サイズは、8nm以上50nm以下であり、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子同士は、新生面接合され、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子同士の界面には、ガラス層からなる粒界層が実質的に存在せず、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における互いに隣接する結晶子同士の間隔は、0nm以上10nm未満であり、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における、イットリウム(Y)の原子数濃度に対する酸素(O)の原子数濃度の比(O/Y)は、1.3以上1.8以下であることを特徴とする耐プラズマ性部材である。
【0008】
この耐プラズマ性部材によれば、層状構造物は、イットリア焼成体やイットリア溶射膜などと比較すると緻密な構造を有する。これにより、耐プラズマ性部材の耐プラズマ性は、焼成体や溶射膜などの耐プラズマ性よりも高い。また、耐プラズマ性部材がパーティクルの発生源になる確率は、焼成体や溶射膜などがパーティクルの発生源になる確率よりも低い。これにより、耐プラズマ性部材の耐プラズマ性を維持するとともに、パーティクルを低減することができる。また、層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子サイズが50nm以下と非常に小さいため、半導体の製造プロセス中にチャンバー内で発生するパーティクルを低減させることができる。層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子サイズは20nm以上35nm以下が好ましく、より好ましくは8nm以上25nm以下である。
また、立方晶に対する単斜晶の比を60%以下にすることにより、メンテナンス時の化学洗浄後において、層状構造物の耐薬品性を保持することができる。立方晶に対する単斜晶の比は20%以上40%以下が好ましく、より好ましくは0%以上5%以下である。チャンバー内に搭載される耐プラズマ性部材の耐薬品性を保持することにより、侵食により表面状態が変化しないため、チャンバー内に発生させるプラズマの状態を安定化させることがきる。これにより、半導体の製造プロセス中に発生するパーティクルを低減させることができ、チャンバーコンディションを安定的に維持することができる。
【0010】
この耐プラズマ性部材によれば、層状構造物の微細構造がより明確となる。層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における互いに隣接する結晶子同士の間隔は、10nm未満と非常に小さく、腐食の起点となる空隙が非常に小さいため、パーティクルを低減することができる。また、緻密な構造であるため、メンテナンス時の化学洗浄後において、層状構造物内部への薬品の浸透を抑えることができるため、層状構造物の耐薬品性を保持することができる。これにより、半導体の製造プロセス中に発生するパーティクルを低減させることができ、チャンバーコンディションを安定的に維持することができる。
【0012】
この耐プラズマ性部材によれば、イットリア粒子間の結合がより強固になるため、パーティクルを低減することができる。また、より緻密な構造であるため、メンテナンス時の化学洗浄後において、層状構造物内部への薬品の浸透を抑えることができるため、層状構造物の耐薬品性を保持することができる。これにより、半導体の製造プロセス中に発生するパーティクルを低減させることができ、チャンバーコンディションを安定的に維持することができる。
【0013】
の発明は、第1の発明において、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体の格子歪みは、0%以上1.3%以下であることを特徴とする耐プラズマ性部材である。
【0014】
この耐プラズマ性部材によれば、層状構造物を構成するイットリア多結晶体の結晶子サイズを微細な大きさで維持しながら、メンテナンス時の化学洗浄後において、層状構造物の耐薬品性を保持することができる。これにより、半導体の製造プロセス中に発生するパーティクルを低減させることができ、チャンバーコンディションを安定的に保持することができる。
【0015】
の発明は、基材と、前記基材の表面に形成された耐プラズマ性を有する層状構造物と、を有する耐プラズマ性部材の製造方法であって、前記基材の表面に、イットリア多結晶体を含む層状構造物をエアロゾルデポジション法により形成し、前記エアロゾルデポジション法により形成した前記層状構造物に加熱処理を施すことにより、前記層状構造物を構成するイットリア多結晶体中における、イットリウム(Y)の原子数濃度に対する酸素(O)の原子数濃度の比(O/Y)を、1.3以上1.8以下とすることを特徴とする耐プラズマ性部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の態様によれば、パーティクルを低減させることができ、チャンバーコンディションを安定的に維持することができる耐プラズマ性部材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態にかかる耐プラズマ性部材を備えた半導体製造装置を表す模式的断面図である。
図2】耐プラズマ性部材の表面に形成された層状構造物の表面を表す写真図である。
図3】耐プラズマ性部材の表面に形成された層状構造物の構造と耐薬品性との関係を表した表である。
図4】耐プラズマ性部材の表面に形成された層状構造物の表面を表す写真図である。
図5】3次元表面性状パラメータを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる耐プラズマ性部材を備えた半導体製造装置を表す模式的断面図である。
図1に表した半導体製造装置100は、チャンバー110と、耐プラズマ性部材120と、静電チャック160と、を備える。耐プラズマ性部材120は、例えば天板などと呼ばれ、チャンバー110の内部における上部に設けられている。静電チャック160は、チャンバー110の内部における下部に設けられている。つまり、耐プラズマ性部材120は、チャンバー110の内部において静電チャック160の上に設けられている。ウェーハ210等の被吸着物は、静電チャック160の上に載置される。
【0020】
耐プラズマ性部材120は、例えば、アルミナ(Al)を含む基材の表面にイットリア(Y)多結晶体を含む層状構造物123が形成された構造を有する。イットリア多結晶体の層状構造物123は、「エアロゾルデポジション法」により形成されている。なお、基材の材料は、アルミナなどのセラミックスに限定されず、石英、アルマイト、金属あるいはガラスなどであってもよい。
【0021】
「エアロゾルデポジション法」は、脆性材料を含む微粒子をガス中に分散させた「エアロゾル」をノズルから基材に向けて噴射し、金属やガラス、セラミックスやプラスチックなどの基材に微粒子を衝突させ、この衝突の衝撃により脆性材料微粒子に変形や破砕を起させしめてこれらを接合させ、基材上に微粒子の構成材料からなる層状構造物(膜状構造物ともいう)123をダイレクトに形成させる方法である。この方法によれば、特に加熱手段や冷却手段などを必要とせず、常温で層状構造物123の形成が可能であり、焼成体と同等以上の機械的強度を有する層状構造物123を得ることができる。また、微粒子を衝突させる条件や微粒子の形状、組成などを制御することにより、層状構造物123の密度や機械強度、電気特性などを多様に変化させることが可能である。
【0022】
なお、本願明細書において「多結晶」とは、結晶粒子が接合・集積してなる構造体をいう。結晶粒子は、実質的にひとつで結晶を構成する。結晶粒子の径は、通常5ナノメートル(nm)以上である。但し、微粒子が破砕されずに構造物中に取り込まれる場合には、結晶粒子は、多結晶である。
【0023】
また、本願明細書において「微粒子」とは、一次粒子が緻密質粒子である場合には、粒度分布測定や走査型電子顕微鏡などにより同定される平均粒径が5マイクロメータ(μm)以下のものをいう。一次粒子が衝撃によって破砕されやすい多孔質粒子である場合には、平均粒径が50μm以下のものをいう。
【0024】
また、本願明細書において「エアロゾル」とは、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、乾燥空気、これらを含む混合ガスなどのガス中に前述の微粒子を分散させた固気混合相体を指し、一部「凝集体」を含む場合もあるが、実質的には微粒子が単独で分散している状態をいう。エアロゾルのガス圧力と温度は任意であるが、ガス中の微粒子の濃度は、ガス圧を1気圧、温度を摂氏20度に換算した場合に、吐出口から噴射される時点において0.0003mL/L〜5mL/Lの範囲内であることが層状構造物123の形成にとって望ましい。
【0025】
エアロゾルデポジションのプロセスは、通常は常温で実施され、微粒子材料の融点より十分に低い温度、すなわち摂氏数100度以下で層状構造物123の形成が可能であるところにひとつの特徴がある。
なお、本願明細書において「常温」とは、セラミックスの焼結温度に対して著しく低い温度で、実質的には0〜100℃の室温環境をいう。
【0026】
層状構造物123の原料となる粉体を構成する微粒子は、セラミックスや半導体などの脆性材料を主体とし、同一材質の微粒子を単独であるいは粒径の異なる微粒子を混合させて用いることができるほか、異種の脆性材料微粒子を混合させたり、複合させて用いることが可能である。また、金属材料や有機物材料などの微粒子を脆性材料微粒子に混合したり、脆性材料微粒子の表面にコーティングさせて用いることも可能である。これらの場合でも、層状構造物123の形成の主となるものは、脆性材料である。
なお、本願明細書において「粉体」とは、前述した微粒子が自然凝集した状態をいう。
【0027】
この手法によって形成される複合構造物において、結晶性の脆性材料微粒子を原料として用いる場合、複合構造物の層状構造物123の部分は、その結晶粒子サイズが原料微粒子のそれに比べて小さい多結晶体であり、その結晶は実質的に結晶配向性がない場合が多い。また、脆性材料結晶同士の界面には、ガラス層からなる粒界層が実質的に存在しない。また多くの場合、複合構造物の層状構造物123部分は、基材の表面に食い込む「アンカー層」を形成する。このアンカー層が形成されている層状構造物123は、基材に対して極めて高い強度で強固に付着して形成される。
【0028】
エアロゾルデポジション法において、飛来してきた脆性材料微粒子が基材の上で破砕・変形を起していることは、原料として用いる脆性材料微粒子と、形成された脆性材料構造物の結晶子(結晶粒子)サイズとをX線回折法などで測定することにより確認できる。すなわち、エアロゾルデポジション法で形成された層状構造物123の結晶子サイズは、原料微粒子の結晶子サイズよりも小さい。微粒子が破砕や変形をすることで形成される「ずれ面」や「破面」には、もともとの微粒子の内部に存在し別の原子と結合していた原子が剥き出しの状態となった「新生面」が形成される。表面エネルギーが高く活性なこの新生面が、隣接した脆性材料微粒子の表面や同じく隣接した脆性材料の新生面あるいは基材の表面と接合することにより層状構造物123が形成されるものと考えられる。
【0029】
半導体製造装置100では、高周波電力が供給され、図1に表した矢印A1のように例えばハロゲン系ガスなどの原料ガスがチャンバー110の内部に導入される。すると、チャンバー110の内部に導入された原料ガスは、静電チャック160と耐プラズマ性部材120との間の領域191においてプラズマ化する。
【0030】
耐プラズマ性部材120は、高密度プラズマを発生させるための重要な部材の1つである。ここで、チャンバー110の内部において発生したパーティクル221がウェーハ210に付着すると、製造された半導体デバイスに不具合が発生する場合がある。すると、半導体デバイスの歩留まりおよび生産性が低下する場合がある。そのため、耐プラズマ性部材120には、耐プラズマ性が要求される。
【0031】
本実施形態の耐プラズマ性部材120は、イットリア多結晶体を含む層状構造物123がアルミナを含む基材の表面にエアロゾルデポジション法により形成された構造を有する。エアロゾルデポジション法により形成されたイットリア多結晶体の層状構造物123は、イットリア焼成体やイットリア溶射膜などと比較すると緻密な構造を有する。これにより、本実施形態の耐プラズマ性部材120の耐プラズマ性は、焼成体や溶射膜などの耐プラズマ性よりも高い。また、本実施形態の耐プラズマ性部材120がパーティクルの発生源になる確率は、焼成体や溶射膜などがパーティクルの発生源になる確率よりも低い。また、イットリア多結晶体を含む層状構造物123を緻密化させるために、製膜補助粒子として機能する微粒子を使用してもよい。ここで、製膜補助粒子とは、イットリア微粒子を変形あるいは破砕せしめて新生面を生じさせるためのもので、衝突後は反射し、不可避的に混入するものを除いて直接層状構造物の構成材料にはならない。
【0032】
本実施形態に係る層状構造物123とは、緻密度が70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である緻密な層状構造物をいう。
ここで、緻密度(%)は、文献値または理論計算値による真比重と、層状構造物123の質量および体積から求めた嵩比重と、を用いて、(嵩比重÷真比重)×100(%)の式から算出される。また、層状構造物123の重量または体積の測定が困難な場合には、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)などを用いて断面観察を行い、層状構造物中のポア部の体積を3次元画像解析から求め、緻密度を算出してもよい。
【0033】
さらに、本実施形態の耐プラズマ性部材120は、図2に示すように粗面化された表面を有する。これによれば、本発明者は、耐プラズマ性部材120の耐プラズマ性を維持しつつ、パーティクルを低減することができる知見を得た。 以下、本実施形態の耐プラズマ性部材120の表面に形成された層状構造物123について、図面を参照しつつ説明する。
【0034】
本発明者は、耐プラズマ性部材120の表面に形成された層状構造物に加熱処理を施した後、化学的処理を施し層状構造物123の表面を粗面化した。加熱処理が施される層状構造物は緻密な構造を有している。
本願明細書において「加熱処理」とは、乾燥器、オーブン、焼成炉、レーザー、電子ビーム、イオンビーム、分子ビーム、原子ビーム、高周波、プラズマなどを用いて物体を加熱処理することを言う。また、加熱処理は層状構造物を作製するプロセス途中であっても作製後であってもよい。
また、本願明細書において「化学的処理」とは、水溶液中で水素イオンを生成するものを用いて物体の表面を処理することをいう。例えば、化学的処理としては、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、フルオロスルホン酸、硝酸、塩酸、リン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸、ホウ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、フッ化水素酸、炭酸および硫化水素の少なくともいずれかを含む水溶液を用いた表面処理が挙げられる。
あるいは、本願明細書において「化学的処理」とは、水溶液中で水酸化物イオンを生成するものを用いて物体の表面を処理することをいう。例えば、化学的処理としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化銅、水酸化アルミニウムおよび水酸化鉄の少なくともいずれかを含む水溶液を用いた表面処理が挙げられる。
そして、本発明者は、加熱処理を施した後、化学的処理を施した層状構造物123の表面を観察した。その写真図は図2に示した通りである。
尚、本発明は、層状構造物123の表面を粗面化した場合に限定されるものではなく、製膜直後のアズデポジションの場合であっても、製膜後に研磨処理を施した場合であっても適用される。
【0035】
図3は、層状構造物123の加熱処理温度と、層状構造物の構造と、耐薬品性と、の関係を示した表である。
本願発明者は、試料1〜5のそれぞれについて、結晶構造および耐薬品性の評価を行った。ここで、試料1〜5を、それぞれ複数準備し、これら複数の試料のそれぞれについて測定した結果を、図3にまとめて記載した。図4に関して後述する結晶子の間隔G1についても、同様である。
試料1は、エアロゾルデポジション法により形成された後に加熱処理が施されていない層状構造物123である。試料2〜5は、エアロゾルデポジション法により形成された後に、それぞれ、200℃で2時間、300℃で2時間、400℃で2時間、600℃で2時間、の加熱処理が施された層状構造物123である。
【0036】
層状構造物123の構造の評価として、立方晶(C)に対する単斜晶(M)の割合(M/C)×100(%)、結晶子サイズ(nm)、格子歪み(%)、および、イットリウム(Y)に対する酸素(O)の原子数濃度比、を評価した。
耐薬品性の評価として、層状構造物123を化学洗浄した後の、層状構造物123の表面粗さのばらつきの大きさを「大」「中」「小」に分類した。
以上の評価方法の詳細については、後述する。
【0037】
なお、本願明細書において「化学洗浄」とは、水溶液中で水素イオンを生成するものを用いて、耐プラズマ性部材を化学的に洗浄することをいう。例えば、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、フルオロスルホン酸、硝酸、塩酸、リン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸、ホウ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、フッ化水素酸、炭酸および硫化水素の少なくともいずれかを含む水溶液を用いた化学洗浄が挙げられる。この例では、評価に使用した薬品は塩酸や硝酸などの酸溶液であり、耐プラズマ性部材を含め半導体製造装置内で使用した部材をメンテナンス時に化学洗浄する際に使用している溶液を選定した。
【0038】
加熱処理の条件によって、層状構造物123中のイットリア多結晶体の結晶構造は、変化する。図3に表したように、試料1〜5の立方晶に対する単斜晶の割合は、それぞれ、20%以上140%以下、40%以上60%以下、20%以上40%以下、0%以上5%以下、0%以上2%以下である。試料1〜5の結晶子サイズは、それぞれ、7nm以上19nm以下、8nm以上20nm以下、12nm以上25nm以下、20nm以上35nm以下、35nm以上50nm以下である。試料1〜5の格子歪みは、それぞれ、0.5%以上1.4%以下、0.4%以上1.3%以下、0.3%以上1.1%以下、0.1%以上0.7%以下、0.0%以上0.6%以下である。試料1〜5のイットリウムに対する酸素の原子数濃度比は、それぞれ、1.9%以上2.2%以下、1.5%以上1.8%以下、1.5%以上1.8%以下、1.4%以上1.7%以下、1.3%以上1.6%以下である。
【0039】
また、本発明者は、層状構造物123のイットリア多結晶体中において、互い隣接する結晶子同士の間隔を測定した。ここで、隣接する結晶子同士の間隔とは、結晶子同士が最も近接した間隔のことであり、複数の結晶子から構成される空隙を含まない。
【0040】
結晶子同士の間隔は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた観察によって得られる画像から求めることができる。
図4は、耐プラズマ性部材の表面に形成された層状構造物を例示する写真図である。図4の例では、加熱処理を施した試料2のイットリア多結晶体を集束イオンビーム(FIB)法を用いて薄片化して観察した。観察においては、透過型電子顕微鏡(H−9000NAR/日立テクノロジーズ製)を用い、加速電圧を300kVとした。透過型電子顕微鏡像において、イットリア多結晶体中の互いに隣接する結晶子125同士の間隔G1は、0nm以上10nm未満であった。例えば、観察した画像中において間隔G1の平均値は、0nm以上10nm未満である。
【0041】
層状構造物123の耐薬品性は、層状構造物123に含まれるイットリア多結晶体の結晶構造によって変化する。例えば、加熱処理が施されていない試料1においては、化学洗浄後の表面粗さのばらつきは、「大」であった。これに対して、加熱処理が施された試料2、3においては、化学洗浄後の表面粗さのばらつきは、「中」であり、耐薬品性が高い。また、試料4、5においては、化学洗浄後の表面粗さのばらつきは、「小」であり、さらに耐薬品性が高い。
【0042】
立方晶に対する単斜晶の比が0%以上60%以下の時、耐薬品性を改善することができ、チャンバーコンディションを安定的に維持することができる。
また、加熱処理を施しても、層状構造物123に含まれるイットリア多結晶体の格子歪みは、0%以上1.3%以下である。これにより、イットリア多結晶体の結晶子サイズは、8nm以上50nm以下と非常に小さい。そして、互いに隣接する結晶子同士の間隔は、10nm未満、好ましくは5nm以下である。このようにイットリア多結晶体は、非常に緻密な構造を有するため、耐薬品性を保持することができ、パーティクルを低減することができる。
【0043】
また、イットリウムの原子数濃度に対する酸素の原子数濃度の比が1.3以上1.8以下であるときに、耐薬品性が高いことが分かる。
加熱処理が施されていない試料1においては、原子数濃度比が1.9〜2.2である。これに対して、加熱処理によって原子数濃度が低下している。これは、例えば、加熱処理によってOH基を介した脱水結合が生じたためと考えられる。これにより、イットリア粒子がより強固に結合し、より緻密な構造が得られ、耐薬品性が向上する。
【0044】
ここで、結晶子サイズ、立方晶に対する単斜晶の割合および格子歪み、の測定には、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)を用いた。
【0045】
結晶子サイズの算出には、以下のシェラーの式を用いた。
D=Kλ/(βcosθ)
ここで、Dは結晶子サイズであり、βはピーク半値幅(ラジアン(rad))であり、θはブラッグ角(rad)であり、λは測定に用いたX線の波長である。
シェラーの式において、βは、β=(βobs−βstd)により算出される。βobsは、測定試料のX線回折ピークの半値幅であり、βstdは、標準試料のX線回折ピークの半値幅である。Kの値として0.94を用いた。
【0046】
なお、TEM観察などの画像から、結晶子サイズを算出してもよい。例えば、結晶子サイズには、結晶子の円相当直径の平均値を用いることができる。
【0047】
立方晶に対する単斜晶の割合の算出には、2θ=29°近傍の立方晶に起因する最強ピーク強度と、2θ=30°近傍の単斜晶に起因する最強ピーク強度と、を用いた。尚、立方晶に対する単斜晶の割合は、ピーク強度比でなくとも、ピーク面積比より算出してもよい。すなわち、立方晶に対する単斜晶の割合は、単斜晶のピーク強度(M)/立方晶のピーク強度(C)×100(%)、または、単斜晶のピーク面積(M)/立方晶のピーク面積(C)×100(%)により計算される。
【0048】
格子歪みの算出には、2θ=48°近傍のピークを用いて、以下のウィルソンの式を使用した。
d=β/(4tanθ)
ここで、dは、格子歪みである。βはピーク半値幅(rad)であり、βはピーク半値幅(rad)であり、θはブラッグ角(rad)である。ウィルソンの式においては、βは、β=(βobs−βstd1/2により算出される。βobsは、測定試料のX線回折ピークの半値幅であり、βstdは、標準試料のX線回折ピークの半値幅である。
【0049】
XRD装置としては「X‘PertPRO/パナリティカル製」を使用した。管電圧45kV、管電流40mA、スキャンステップ0.017°を使用した。
【0050】
イットリウムの原子数濃度に対する酸素の原子数濃度の比(O/Y)は、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いた定量分析により、求められる。例えば、SEM−EDX(SEM:S−3000N/日立ハイテクノロジーズ製、EDX:EMAX ENERGY/堀場製作所製)を用いて酸素およびイットリウムについて半定量分析を行うことで、原子数濃度比(O/Y)を算出することができる。分析条件には、加速電圧:15kV、X線取出角:35度(試料傾斜角:0度)、ワーキングディスタンス(W.D):15mm、倍率:200倍、分析面積:500μm×680μmを用いることができる。
【0051】
本発明者は、算術平均Sa、コア部の実体体積Vmc、コア部の中空体積Vvc、界面の展開面積率Sdr、および二乗平均平方根傾斜SΔqにより、耐プラズマ性部材120の表面に形成された層状構造物123の表面状態を、層状構造物123の表面の全体を網羅した形で表現し評価できると判断した。そこで、化学洗浄後における耐プラズマ性部材120の表面に形成された層状構造物123の表面粗さのばらつきの評価には、算術平均Saを用いた。なお、層状構造物の表面粗さのばらつきの評価には、算術平均Saでなく、算術平均粗さRaを用いてもよい。算術平均粗さRaは、例えば、触針式の表面粗さ計を用いて測定することができる。
図5は、3次元表面性状パラメータを説明する模式図である。なお、図5(a)は、高さ方向の振幅平均(算術平均)Saを説明するグラフ図である。図5(b)は、コア部の実体体積Vmcおよびコア部の中空体積Vvcを説明するグラフ図である。図5(c)は、定義したセグメンテーション内での突起(あるいは穴)密度を説明する模式的平面図である。
【0052】
本発明者は、レーザー顕微鏡を用いて層状構造物の表面状態を調べた。レーザ顕微鏡としては、「OLS4000/オリンパス製」を使用した。対物レンズの倍率は、100倍である。ズームは、5倍である。カットオフについては、2.5μmあるいは0.8μmに設定した。
【0053】
高さ方向の振幅平均(算術平均)Saとは、2次元の算術平均粗さRaを3次元に拡張したものであり、3次元粗さパラメータ(3次元高さ方向パラメータ)である。具体的には、算術平均Saは、表面形状曲面と平均面とで囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものである。平均面をxy面、縦方向をz軸とし、測定された表面形状曲線をz(x、y)とすると、算術平均Saは、次式で定義される。ここで、式(1)の中の「A」は、測定面積である。
【0054】
【数1】
負荷曲線から求めるコア部の実体体積Vmcおよびコア部の中空体積Vvcに関するパラメータは、図5(b)に表したグラフ図のように定義され、3次元体積パラメータである。すなわち、負荷面積率が10%のときの高さが、山部の実体体積Vmpと、コア部の実体体積Vmcおよびコア部の中空体積Vvcと、の境界となる。負荷面積率が80%のときの高さが、谷部の中空体積Vvvと、コア部の実体体積Vmcおよびコア部の中空体積Vvcと、の境界となる。山部の実体体積Vmp、コア部の実体体積Vmc、コア部の中空体積Vvcおよび谷部の中空体積Vvvは、単位面積あたりの体積(単位:m/m)を表す。
【0055】
界面の展開面積率Sdrは、サンプリング面に対する界面の増加割合を示すパラメータである。界面の展開面積率Sdrは、四点で形成される小さな界面の展開面積の総和を測定面積で割った値であり、次式で定義される。ここで、式(2)の中の「A」は、定義したセグメンテーションの面積を表す。
【0056】
【数2】
二乗平均平方根傾斜SΔqは、サンプリング面での二次元の二乗平均傾斜角Δqを表す。あらゆる点において、表面傾斜は、次式で表される。
【0057】
【数3】
したがって、二乗平均平方根傾斜SΔqは、次式で表される。
【0058】
【数4】
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、半導体製造装置100などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや耐プラズマ性部材120および静電チャック160の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
100 半導体製造装置、 110 チャンバー、 120 耐プラズマ性部材、 123 層状構造物、 125 結晶子、 160 静電チャック、 191 領域、 210 ウェーハ、 221 パーティクル
図3
図5
図1
図2
図4