特許第5888495号(P5888495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5888495柔軟性および耐摩耗性に優れた長繊維不織布およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5888495
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】柔軟性および耐摩耗性に優れた長繊維不織布およびその用途
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/14 20120101AFI20160308BHJP
   D04H 3/011 20120101ALI20160308BHJP
   A61F 7/03 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   D04H3/14
   D04H3/011
   A61F7/08 334B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-2862(P2012-2862)
(22)【出願日】2012年1月11日
(65)【公開番号】特開2013-142208(P2013-142208A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】皆川 直史
(72)【発明者】
【氏名】田邊 博司
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−024748(JP,A)
【文献】 特開2011−231446(JP,A)
【文献】 特開2009−225975(JP,A)
【文献】 特開2008−214766(JP,A)
【文献】 特許第3085811(JP,B2)
【文献】 特開2010−150687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 − 18/04
A61F 7/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リエチレンテレフタレートを95%以上含有し、複屈折率が0.07〜0.12である長繊維からなる不織布であって、不織布のKES曲げ剛性が0.05〜0.30gf・cm/cmであり、不織布の耐磨耗等級が下式(1)〜(3)を満足する部分的熱圧着型スパンボンド不織布。
E1≧3 ・・・ (1)
E2≧1 ・・・ (2)
E1−E2≧1 ・・・ (3)
E1:不織布のエンボス面の耐磨耗等級、E2:不織布の反エンボス面の耐磨耗等級
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレート(A成分)に対して、A成分とは非相溶であり、かつ120〜160℃のガラス転移点温度を有する熱可塑性ポリスチレン系共重合体(B成分)を0.05〜4.0重量%混合して得られるポリエステルからなる長繊維で構成された請求項1に記載の部分的熱圧着型スパンボンド不織布。
【請求項3】
熱圧着部分の面積率が5〜30%である請求項1または2に記載の部分的熱圧着型スパンボンド不織布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の部分的熱圧着型スパンボンド不織布の反エンボス面をフィルムと接合したフィルム複合体。
【請求項5】
請求項4に記載のフィルム複合体を用いた包装材料。
【請求項6】
請求項4に記載のフィルム複合体を用いた使い捨てカイロ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、耐摩耗性に優れた、袋状して使用される基材として好適な長繊維不織布に関する。更に詳しくは、特に使い捨てカイロ用基布に好適な長繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛を袋状にしてその内部に粉末、粒状物をいれた包装材料としてフィルム、織編物、長繊維不織布などが用いられている。特に使い捨てカイロ用途では、一般的に空気に曝されることで発熱する組成物を袋内部に充填しており、製品寿命は包装材料の通気性の影響を強く受け、通気性を制御しやすい有孔フィルム、微多孔フィルムなどが用いられてきた。しかしこれらのフィルムは柔軟性に乏しく、使用感に問題があり、通気性制御と使用感を同時に満足するものは提案されていない。またフィルムは裂けやすいという問題も有していた。
【0003】
使用感の問題を解消するために、例えば特許文献1、2では、使い捨てカイロ用包材として、フィルム特有の貼りついた触感、ゴワゴワする肌触り等を防ぎ、布的触感を持たせると共に、包材層の裂けにくさを付与する狙いとしてフイルムに不織布をラミネート加工したものが提案されている。しかしながら、従来の不織布を用いた場合は、包材の裂け難さと毛羽立ちの少なさを配慮すると、硬くなってゴワゴワ感が増し、逆に繊維触感を持たせ柔軟性を保持させると、毛羽立ちや形態保持性が悪くなる問題があった。
【0004】
かかる問題を解消する方法として、例えば特許文献3では、エンボス加工により凹凸を付与した不織布とラミネートフィルムとの接合を調整して肌との接着面の柔軟性を改良する方法が提案されている。しかしながら、かかる方法においても、不織布の柔軟性を改良する検討がなされておらず、ラミネートにより不織布の非接合部をラミネートフィルムと主体的に接合させるので、不織布の柔らかさが拘束されて不織布の柔軟性を充分生かせない問題があった。
【0005】
また、特許文献4では、不織布の厚みと見掛密度を限定して温熱機能を改良する方法が提案されている。しかしながら、かかる方法は、厚みで発熱体からの初期の熱移動を調整するのみであり、不織布の柔軟性やヒートシール性、形態保持性を向上させる検討がなされておらず、使い捨てカイロとして実用上の不具合が生じやすかった。
【0006】
ラミネート性の改良方法として、例えば特許文献5では、不織布片面の繊維表面に低融点樹脂皮膜を塗布する方法が提案されている。この方法は、煩雑なコーティング工程を加える必要があり、コストアップが不可避である。また、不織布自身の柔軟性とヒートシール性及び耐熱性の問題点も解決されていなかった。
【0007】
また、ラミネート性向上による形態保持性の改良方法として、例えば特許文献6〜8では、熱接着成分を繊維化してラミネートする方法が提案されている。これらの方法は、低融点成分を繊維化しているので、低温でのラミネートは可能だが、耐熱性に劣る問題があった。
【0008】
同様に、特許文献9では、低融点繊維不織布と低融点フイルムを用いた低温シール性等に優れるラミネート不織布が提案されている。この方法では、低温シール性は良くなるが、不織布の耐熱性が不充分な問題が残る。
【0009】
柔軟性を改良する方法として、例えば特許文献10、11では、不織布を構成する繊維に扁平断面繊維を用いる方法が提案されている。これらの方法では、柔軟性向上以外の利点として、扁平断面繊維を用いるので、不織布の平滑性が向上して印刷性が改良されることと、厚みが薄くなり伝熱性が良くなる効果が開示されている。確かに、扁平断面繊維を用いると、断面二次モーメントの低い方向では曲げ剛性が低下するが、断面二次モーメントの高い方向では剛性が著しく高くなり、全方向の柔軟性を付与することは困難である。更に、フラット化により厚みに由来する柔らかさは付与できなくなる。従って、ペーパーライクな接触感となり柔らかな風合いを付与できない問題があった。
【0010】
不織布の柔軟性を向上させる方法として、例えば特許文献12では、伸縮性を持つポリトリメチレンテレフタレートを用いて、ソフトな風合いを付与する方法が提案され、特許文献13では、ポリブチレンテレフタレートに非晶性ポリエステルをブレンドして、素材のモジュラスを低減させ、柔らかさとヒートシール性を付与する方法が提案されている。これらの方法では、柔軟性は向上するが、繊維が柔らかなため、不織布強度が弱く破れやすい問題が残った。
【0011】
上述のように、従来の使い捨てカイロ用包材の改良では、柔軟性、耐磨耗性、及び形態保持性、不織布のヒートシール性を全て満足したものが得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭51−23769号公報
【特許文献2】実開昭55−59616号公報
【特許文献3】特開平2−297362号公報
【特許文献4】特開平3−1856号公報
【特許文献5】特開平9−300547号公報
【特許文献6】特開平8−131472号公報
【特許文献7】特開平10−314208号公報
【特許文献8】特開平10−328224号公報
【特許文献9】特開平11−56894号公報
【特許文献10】特開2004−24748号公報
【特許文献11】特開2004−24749号公報
【特許文献12】特開平11−89869号公報
【特許文献13】特開2007−105163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、柔軟性、耐磨耗性、及び形態保持性に優れた、使い捨てカイロ用基布に好適な長繊維不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
1.溶融ポリマーをオリフィスから吐出し、高速の空気流で牽引することで細化、延伸し、ネット状コンベア上に繊維を分散させてシート化するスパンボンド法で製造され、一対の彫刻ロール/フラットロールにより加熱・圧着することで得られる熱圧着型スパンボンド不織布において、ポリエチレンテレフタレートを95%以上含有し、複屈折率が0.07〜0.12である長繊維からなる不織布であって、不織布のKES曲げ剛性が0.05〜0.30gf・cm/cmであり、不織布の耐磨耗等級が下式(1)〜(3)を満足する長繊維不織布。
E1≧3 ・・・ (1)
E2≧1 ・・・ (2)
E1−E2≧1 ・・・ (3)
E1:不織布のエンボス面の耐磨耗等級、E2:不織布の反エンボス面の耐磨耗等級
2.ポリエチレンテレフタレート(A成分)に対して、A成分とは非相溶であり、かつ120〜160℃のガラス転移点温度を有する熱可塑性ポリスチレン系共重合体(B成分)を0.05〜4.0重量%混合して得られるポリエステルからなる長繊維で構成された上記1に記載の長繊維不織布。
3.熱圧着部分の面積率が5〜30%である上記1または2に記載の長繊維不織布。
4.上記1〜3のいずれかに記載の不織布の反エンボス面をフィルムと接合したフィルム複合体。
5.上記4に記載のフィルム複合体を用いた包装材料
6.上記4に記載のフィルム複合体を用いた使い捨てカイロ。
【発明の効果】
【0015】
本発明の長繊維不織布は、柔軟性、耐磨耗性、形態維持に充分な耐久性を維持できる力学特性を保持して、加熱時の変形が容易なためヒートシール性にも優れた不織布である。従って、本発明の長繊維不織布は、特に使い捨てカイロ用基布にフィルムラミネートを省略しても使用できるため、柔軟な風合いを損なわず、カイロが製造可能となり、性能、コストダウンにも寄与でき、極めて有用なカイロ基布用長繊維不織布である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来の不織布の熱圧着部分の断面写真である。
図2】本願発明の不織布の熱圧着部分の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の長繊維不織布は、熱圧着型スパンボンド不織布である。短繊維不織布では、繊維端が毛羽立ちの原因になるので好ましくない。長繊維不織布では、繊維が切断しない限り毛羽立ちが発生しないので、本発明では長繊維からなる不織布を使用する。長繊維不織布の製造方法も種々あるが、高速紡糸による力学特性の制御が容易なこと、高い生産性を有することからスパンボンド不織布を選択した。
【0018】
本発明の長繊維不織布は、ポリエチレンテレフタレートを95重量%以上含有している。ポリエチレンテレフタレートは熱的・力学的に優れた汎用ポリマーであり、それを主原料として使用するために低価格の商品提供が可能となる。
本発明において、ポリエチレンテレフタレート(A成分)に対し、B成分を併用することも好ましい。B成分として、好ましい熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリスチレン系共重合体があげられる。B成分は、A成分と相溶性を有しないことにより、A成分中で島成分として独立に存在する特性を有し、また、海成分であるA成分のガラス転移点温度より高い特定のガラス転移点温度とすることにより、B成分が紡糸張力を受けてポリエステルの配向結晶化を抑制する効果を発揮する。B成分としては、例えば、122℃のガラス転移点温度を有するスチレン−メタクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合体樹脂(市販品では、例えば、Rohm GmbH&Co.KGのPLEXIGLAS hw55)や155℃のガラス転移点温度を有するスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(市販品では、例えば、SARTOMER製SMA1000)が少量の添加量で高い配向結晶化抑制効果を期待できるので特に好ましい。なお、B成分のガラス転移点温度が120℃未満では、配向結晶化抑制効果が少なくなるので、本発明実施形態では推奨できない。また、B成分を添加することで延伸糸でありながら配向度を抑制することができ、柔軟性と耐磨耗性のバランスを両立できる。
【0019】
本発明のポリエステルでは、A成分に対するB成分の混合割合は0.05〜4.0重量%が好ましく、より好ましくは0.08〜3.0重量%であり、さらに好ましくは0.1〜1.5重量%である。B成分の混合量が0.05重量%未満では、配向結晶化抑制効果が少なくなり、繊維の配向度と比重が高くなり、柔軟性とヒートシール性が低下するので好ましくない。混合量が4.0重量%を超えると、高速紡糸時は糸切れが顕著となり紡糸が不可となり、糸切れしない低速紡糸域では、繊維の配向度が非常に低いものしか得られず、弱い不織布しか得られないうえに、生産性も劣るので好ましくない。
【0020】
本発明の不織布を構成する長繊維の複屈折率は、0.06〜0.12である。複屈折率が0.06未満では、力学特性が劣り、耐磨耗性や形態維持性能が劣るので好ましくない。0.12を越えると、剛直性が増加し、不織布としての風合いも損なわれるため好ましくない。本発明の複屈折率は、より好ましくは0.07〜0.10である。
【0021】
本発明の長繊維不織布は、熱圧着型不織布である。ニードルパンチ交絡処理、水流交絡処理などの処理により、構成繊維が不織布の断面方向に絡み合いを生じる処理を行うと、長繊維を用いても繊維が切断され、毛羽立ちを生じやすくなるので好ましくない。また熱圧着型に比べて工数が増加し、エネルギー使用量や原料ロスが増加するために、環境的にも好ましくない。
ここで言う熱圧着型不織布とは、一対の彫刻ロール/フラットロールによる部分熱圧着型(エンボス加工)不織布のことである。全面熱圧着型(カレンダー加工)の場合、熱圧着が全面に及ぶと全面的にフィルム化し、柔軟性が低下するので好ましくない。
【0022】
本発明では、部分的圧着型不織布で、柔軟性、耐磨耗性を満足するために、通常の熱圧着加工条件とは異なる条件で熱圧着加工する。一対の熱圧着ロールのうちの片方の彫刻されたロールを、凸形状文様に彫刻された熱圧着ロールとし、もう一方はフラットな表面を持つ熱圧着ロールとする。さらに、彫刻されたロール面の温度を、200℃〜260℃に設定し、フラットロール面の温度を、100℃〜180℃に設定する必要がある。
上記の温度範囲で、片面を高温に設定し、もう一方の面を低温に設定することで、風合いを柔らかいレベルに抑えつつ、耐摩耗性も一定のレベルを維持した不織布をはじめて得ることができる。
【0023】
上記の熱圧着加工とすることにより、本発明の長繊維不織布は、熱圧着部分に特徴がある不織布となる。すなわち、図1に示すような、従来の熱圧着条件で加工した熱圧着部分に対し、本願発明の長繊維不織布の熱圧着部分は、図2に示すような構造となる。すなわち、エンボス面側は表面側の繊維が熱圧着加工時に熱溶融し、繊維が溶融一体化し、フィルム状になっているのに対し、反エンボス面(もう一方の面)側は表面側の繊維が熱圧着加工時に一部のみ熱溶融し、繊維の一部が溶融一体化した構造となっている。この結果、柔軟性、耐磨耗性共に満足する長繊維不織布が始めて得られたものである。
【0024】
エンボス加工における好ましい圧着面積率は、5〜30%である。圧着面積が5%未満であると繊維同士を十分に固定できなくなり、引張り強さの低下、耐磨耗性の低下につながる。逆に圧着面積率が30%を超えると不織布の曲げに対する変形に繊維が追従できず硬い風合いとなるため好ましくない。
【0025】
本発明の長繊維不織布のKES曲げ剛性は0.05〜0.30gf・cm/cmであることが好ましい。曲げ剛性が0.05gf・cm/cm未満の場合、基布として柔らかすぎて取り扱い性に劣るものとなる。また曲げ剛性が0.30gf・cm/cmを超えると柔軟性に劣り、風合いが悪い物となってしまうため好ましくない。KES曲げ剛性はより好ましくは0.05〜0.25gf・cm/cm、さらに好ましくは0.08〜0.20gf・cm/cmである。
【0026】
本発明の長繊維不織布の耐摩耗性は下式(1)〜(3)を満足するものである。
E1≧3 ・・・ (1)
E2≧1 ・・・ (2)
E1−E2≧1 ・・・ (3)
E1:不織布のエンボス面の耐磨耗等級、E2:不織布の反エンボス面の耐磨耗等級
【0027】
本発明の長繊維不織布は、エンボス面が耐磨耗等級3以上である。耐磨耗等級が3未満であると手などによる摩擦を与えられたときに毛羽立ちを生じ、見栄えばかりでなく不織布の強度低下の原因ともなってしまうためである。
また本発明の長繊維不織布は、反エンボス面(もう一方の面)が耐磨耗等級1以上である。耐磨耗等級が1未満の場合は、不織布製造時またはその後の製品製造時の工程通過性を著しく低下させるためである。
さらに本発明の長繊維不織布は、エンボス面の耐磨耗等級が反エンボス面(もう一方の面)の耐磨耗等級が1以上低い値となっている。反エンボス面は手などが触れることがなく、耐磨耗等級が求められないために、低い値でも問題ない。
【0028】
また、本発明に不織布をフィルムと積層する場合、不織布の反エンボス面とフィルムをラミネートするものである。耐磨耗等級が低くても、フィルムにより磨耗に対して保護されるので低い値でも問題なくなるからである。フィルムとの積層は、半溶融状態のフィルムを直接不織布基材上に押出す押出しラミネート法や接着剤を使用するラミネート方法(接着剤の種類により「ウェットラミネート」(水系接着剤または水分散系接着剤を使用)、「ドライラミネート」(溶剤系接着剤または反応系接着剤)、「ホットメルトラミネート」(ホットメルト接着剤)に大別される))を用いることができるが、これに限定されるものではない。さらに本発明の不織布の反エンボス面とフィルムを接着させることで、従来の不織布を接着させたときより接着力が向上する結果が得られる。これは押出しラミネートではフィルム樹脂のアンカー効果が向上したため、接着剤法では接着剤の浸透性が向上したため、と考えられる。
【0029】
本発明の不織布を構成する長繊維の繊度は、特に限定されないが、被覆性と柔軟性を維持できる0.5〜5dtexが好ましい。1〜4dtexがより好ましく、1.5〜3dtexがさらに好ましい。
【0030】
本発明の不織布を構成する長繊維の断面形状は、特に限定されず、丸断面、異形断面、中空断面、中空異形断面を用いることができるが、柔軟性の点から丸断面が好ましい。
【0031】
本発明の不織布の目付は、特に限定されないが、使い捨てカイロ用基布として用いる場合、柔軟性と被覆性の観点から15〜60g/mが好ましく、20〜50g/mがより好ましく、25〜40g/mがさらに好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で記載する特性の評価は以下の方法による。
【0033】
(複屈折率)
不織布又はウェッブから取り出した単繊維をベレックコンペンセーターを装着した偏向顕微鏡によりレターデーションと繊維径により求めたn=5の平均値を繊維の複屈折率(Δn)とした。
【0034】
(不織布の圧着面積率)
任意の20箇所で30mm角に裁断し、SEMにて50倍の写真を撮る。撮影写真をA3サイズに印刷して圧着単位面積を切り抜き、面積(S)を求める。次いで圧着単位面積内において圧着部のみを切り抜き圧着部面積(S)を求め、圧着面積率(P)を算出する。その圧着面積率P 20点の平均値を求めた。
P=S/S (n=20)
【0035】
(不織布の曲げ剛性)
カトーテック株式会社製KES−FB2(KAWABATAS EVALUATION SYSTEM−2 PURE BENDING TESTER)を用い、試料は10cm角とし、1cm間隔のチャックに試料を把持して、曲率−2.5〜+2.5cm−1の範囲で、0.50cm−1の変形速度で純曲げ試験を行い、曲げ剛性(B)を求めた。
【0036】
(不織布の耐磨耗性)
株式会社大栄科学精器製作所製「学振型染色物摩擦堅牢度試験機」を用いて、不織布を試料とし、摩擦布は金巾3号を使用して、荷重500gfを使用、摩擦回数100往復にて摩擦させ、不織布表面の毛羽立ち、磨耗状態を下記の基準で目視判定で評価した(n=5の平均値)。
0級:損傷大
1級:損傷中
2級:損傷小
3級:損傷なし、毛羽発生あり小
4級:損傷なし、毛羽発生微小
5級:損傷なし、毛羽なし
【0037】
(ガラス転移点温度及び融点)
樹脂のサンプル5mgを採取し、示差走査型熱量計(TA instruments社製Q100)によって、窒素雰囲気下で20℃から10℃/分にて300℃まで昇温させたときの発熱ピーク位置の温度をガラス転移点温度、吸熱ピーク位置の温度を融点として評価した。
【0038】
(不織布の目付)
JIS L1906(2000)に準じて測定した単位面積あたりの質量を目付(g/m)とした。
【0039】
(繊度)
不織布を構成する繊維を任意5箇所よりサンプリングし、光学顕微鏡により個々の箇所より20本選択して単繊維径を評価する(計100本)。その繊維径の平均値を構成繊維の繊維径とする。また任意5箇所よりサンプリングした繊維の比重を密度勾配管で測定し、平均値を求めた。この繊維径と密度より、繊度を求めた。なお、異型断面により繊維径が求めにくい場合は、SEM写真にて繊維断面にて求める。
【0040】
<実施例1>
スパンボンド紡糸設備を用い、固有粘度0.62のポリエチレンテレフタレート(以下PETという)をノズルオリフィスがL/D=3.0のノズルを用い、紡糸温度295℃、単孔吐出量0.7g/分にて溶融紡糸し、紡糸速度5000m/分にて引取り、ネットコンベア上に堆積させ、繊度1.8dtexの長繊維ウェブを得た。次に圧着面積率22%のエンボスロールを使用し、エンボスロール表面温度を250℃、フラットロール表面温度を150℃、線圧30kN/mで圧着加工して、目付35g/mの長繊維不織布を得た。得られた不織布は柔軟性、耐摩耗性に優れた不織布であった。得られた不織布の詳細を表1に示す。
【0041】
<実施例2>
ポリエチレンテレフタレートに、スチレン−メタクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合樹脂(Rohm GmbH&Co.KGのPLEXIGLAS HW55(以下、「HW55」と言う))を0.4%添加したこと以外は実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布は柔軟性、耐摩耗性に優れた不織布であった。得られた不織布の詳細を表1に示す。
【0042】
<実施例3>
目付を40g/mになるようにコンベアネットの速度を調整した以外は、実施例2と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布は柔軟性、耐摩耗性に優れた不織布であった。得られた不織布の詳細を表1に示す。
【0043】
<実施例4>
HW55の添加量を0.8%に変更した以外は実施例2と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布は柔軟性、耐摩耗性に優れた不織布であった。得られた不織布の詳細を表1に示す。
【0044】
<実施例5>
エンボス圧着面積率を11%に変更した以外は実施例4と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布は柔軟性、耐摩耗性に優れた不織布であった。得られた不織布の詳細を表1に示す。
【0045】
<比較例1>
エンボス加工時のエンボスロール表面温度、フラットロール表面温度をいずれも250℃に変更した以外は実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布は耐磨耗性は良好であったが、KES曲げ剛性が高く、カイロ基布としては風合いの悪いものであった。
【0046】
<比較例2>
エンボス加工時のエンボスロール表面温度、フラットロール表面温度をいずれも190℃に変更した以外は実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布は柔軟性は良好であったが、耐摩耗性が低く、カイロとして使用上問題のあるものであった。
【0047】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の長繊維不織布は、柔軟性および耐摩耗性に優れ、袋状にして使用される基材として好適な長繊維不織布を提供することができる。更に詳しくは、特に使い捨てカイロ用基布に好適な長繊維不織布を提供することができる。
図1
図2