【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、近年の各種FPDの大画面化および高集積化はめざましく、これに伴い、TFTを構成する積層膜相互間には一段と高い密着強度が要求される傾向にあるが、特許文献1に開示された従来TFTにおいては、前記酸化ケイ素膜(バリア膜)と分離溝で仕切られた純銅膜(電極膜)間の密着強度が低く、要求に満足に対応できる高い密着強度を具備していないのが現状である。
【0010】
また、特許文献2に開示された従来TFTは、酸化ケイ素膜(バリア膜)と純銅膜(電極膜)間に介在させた密着強化膜によって高い密着強度を確保しているが、製造工程においてスパッタガスに酸素を使用するため、装置の改造が必要であり、製造コストの上昇、生産性の低下に繋がり、大画面のFPDの普及とともに、さらなる低コスト化が求められているTFTにとって、実用上、大きな課題であった。
【0011】
さらに、最近のTFT作製工程では、ソース・ドレイン電極形成後に前述のように水素プラズマ処理を行う場合があるが、特許文献3に開示された従来TFTは、水素プラズマ耐性に劣りCu合金酸化層が還元され、密着性が低下するという課題があった。また、第1の金属としてCuを用いた場合には、従来のCu系材料と比較して比抵抗が高めであるという課題があった。
【0012】
さらに、特許文献4に記載されたCuをゲート配線に用い金属バッファー層としてMoやTiを用いる薄膜配線プロセスでは、しばしば、後工程において、ウエットエッチングが行われるが、MoやTiとCuとでは、電気化学的特性が大きく異なるため同一のエッチング液ではエッチングしにくく、複数のエッチング液を用いて行わなければならないという課題があった。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、基板との高い密着強度を有し、既存のスパッタ装置をそのまま使用して形成でき、比抵抗が低く、水素プラズマ耐性にすぐれて、一液エッチングが可能なCu合金薄膜配線形成方法を提供するとともに、その形成方法により形成された比抵抗が低く、水素プラズマ耐性にすぐれたCu合金薄膜配線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、Cu合金薄膜の水素プラズマ耐性の改善のため従来の合金添加元素の酸化物よりも安定な酸化物が得られる添加元素を模索するとともに、各種の添加元素に対して、スパッタ法で成膜後の熱処理条件を様々に変えて、膜特性を評価し、その関連性について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
【0015】
(a)特許文献3に開示されているような従来のCu合金酸化膜を密着層として用いた場合、水素プラズマ処理によって密着性が劣化することが確認された。このような水素プラズマ暴露による密着性劣化の理由は次のように説明できる。すなわち、
図2に示すように、水素プラズマ暴露により水素イオンが上層のメタルCu膜を透過し、下層のCu合金酸化物膜を還元させる。この現象により、下地との界面にマイクロボイドが形成され、密着性が劣化する。
(b)それに対して、Cu−Ca合金ターゲットを用いてスパッタ法によりCu−Ca合金薄膜を形成後、微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理した場合、Cu−Ca合金膜と基板やバリア膜との界面にCu−Ca合金酸化膜が形成される。この時、スパッタ法で形成されたCu−Ca合金薄膜の結晶粒界は、膜表面から基板等との界面までつながっているため、その結晶粒界を酸素原子が比較的容易に拡散して界面に到着し、界面拡散して界面全体に伝わりCu−Ca合金酸化物層が形成され、ガラス(基板)や酸化ケイ素(バリア膜)と反応し、強固な化学結合を生じる。
(c)しかも、所定量のCaを含有するCu−Ca合金酸化膜は、水素プラズマに対して良好な耐性を示すことを見出した。そのため、基板(下地)との界面に形成されたCu−Ca合金酸化膜が水素プラズマによって還元されることなく、強固な密着性を維持することを見出した。
(d)さらに、Cu−Ca合金酸化膜の酸素源は、熱処理時の不活性ガス雰囲気に含有させた微量酸素であるため、成膜装置の改造や複雑な処理・操作を必要とすることなくCu−Ca合金酸化膜を形成することができる。一方、酸素リアクティブスパッタでCu−Ca合金酸化膜を形成する場合、所定の酸素量を維持させながら安定したプラズマを発生させるために、チャンバー内に導入する反応ガス(酸素ガス)と放電ガスの流量を独立して精密に制御する必要があるばかりか、そのための反応ガス導入用配管や流量計、流量バルブなどの設置が必要であり、製造コストが高く生産性も悪かった。
(e)ところが、本発明者らが鋭意研究したところ、通常のスパッタ法を用いてCu−Ca合金膜形成後に微量酸素含有不活性ガス雰囲気で熱処理を行うという方法を用いることによって、既存の成膜装置を用いて複雑な操作を要することなく、所望のCu−Ca合金酸化膜を成膜できることを見出した。すなわち、熱処理の場合、プラズマを発生させる必要がないので、反応ガスや放電ガスの流量の変動や基板温度の変動などで異常放電が起こる心配がなく、しかも、成膜装置内に導入する不活性ガス中に予め所定の微量酸素を導入しておくことによって、既存の成膜装置をそのまま使って簡単に処理を行えることを見出した。
(f)さらに、CuとCu―Ca合金とは、エッチング速度がほぼ等しく、同じエッチング液を用いて処理することが可能である。
【0016】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法で成膜する薄膜配線形成方法であって、Ca:0.5at%以上5at%未満、残部:Cuおよび不可避不純物の組成を有するCu−Ca合金ターゲットを用いて前記スパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜した後、酸素分圧が10
−4〜10
−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中、300〜700℃で熱処理することを特徴とする薄膜配線形成方法。
(2) 前記Cu―Ca合金膜の平均膜厚が10〜500nmであることを特徴とする(1)に記載の薄膜配線形成方法。
(3) 前記Cu―Ca合金膜を成膜後に、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜することを特徴とする(1)または(2)に記載の薄膜配線形成方法。
(4) 前記熱処理後に、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜することを特徴とする(1)または(2)に記載の薄膜配線形成方法
。」
を特徴とするものである。
【0017】
つぎに、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜後、酸素分圧が10
−4〜10
−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理する薄膜配線形成方法である(
図3(a)参照)。
また、本発明の別の実施態様としては、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法でCu−Ca合金膜を成膜後、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜し、その後、酸素分圧が10
−4〜10
−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理する薄膜配線形成方法である(
図3(b)参照)。
また、本発明のさらに別の実施態様としては、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜後、酸素分圧が10
−4〜10
−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理した後、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜する薄膜配線形成方法である(
図3(c)参照)。
また、本発明は、前記のいずれかの方法で形成された膜中のCa含有割合が0.5at%以上5at%未満の薄膜配線である。
【0019】
ここで、本発明の数値限定理由について説明する。
(a)微量酸素の含有割合:
熱処理時の微量酸素の含有量は、酸素分圧が10
−10気圧未満であると、例えば、SiO
2やガラスなどの基板との界面に形成されるCu−Ca合金酸化膜の酸化が十分進まないため基板との密着性が十分でない。しかし、Ca濃度が5at%以上ではCaがSiO
2と直接還元反応するため、密着性を得ることができるが、Caに還元されて生じたSiがCu中へ拡散するため,比抵抗の上昇を招く。一方、10
−4気圧を超えると、Cu−Ca合金酸化膜の酸化が進み,比抵抗が上昇するため好ましくない。そこで、熱処理時の微量酸素の含有量は、酸素分圧で10
−4〜10
−10気圧と定めた。なお、熱処理時の圧力は大気圧とし、不活性ガスとしては、窒素ガスを用いた。ここで、不活性ガスとして窒素ガスを用いた理由は、TFTなどの製造プロセスにおいて、窒化膜を形成するプロセスを設ける場合があるため、それを流用できるためであって、Arガスを用いても何ら構わない。
(b)Cu―Ca合金ターゲットの合金組成および薄膜配線の膜中のCa含有割合:
Caには、熱処理によって銅薄膜配線と基板や酸化ケイ素との界面に偏析,酸化して基板や酸化ケイ素と化学反応して反応層を形成し,酸素の界面拡散を防止することでCuの酸化を抑制し、水素プラズマ耐性を発現するとともに、反応層が形成されることにより、SiO
2やガラスなどからなる基板との密着性を向上させる作用がある。
Cu―Ca合金膜をスパッタ法で形成する際に用いるターゲットに含まれるCaの含有割合は、CuとCaの合量に対して0.5at%未満であると、前述した効果が十分に発現されず、水素プラズマ耐性が不十分である。一方、5at%を超えるとCu−Ca合金薄膜配線の比抵抗が高くなるため好ましくない。そのため、Cu―Ca合金ターゲットの合金組成は、Ca:0.5以上5at%未満、残部:Cuおよび不可避不純物とすることが好ましい。
また、前記の条件を満足するCu―Ca合金ターゲットを用いて、後述するスパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜した場合、ターゲットの合金組成より低い組成を有するCu―Ca合金膜が形成されるが,熱処理後,Caが膜と基板や酸化ケイ素との界面に偏析するため,薄膜中のCuとCaの合量に対するCa含有割合の膜厚方向におけるピーク値は前記Cu−Ca合金ターゲットにおけるCa含有割合とほぼ同じであることを確認した。
(c)熱処理温度:
熱処理時の熱処理温度について、詳細に実験を重ねた結果、Cu−Ca合金膜は、300℃以上の前述した微量酸素含有不活性ガス雰囲気中での熱処理をすることによって、良好な密着性が得られることがテープ剥離試験で明らかになった。
しかしながら、熱処理温度が700℃を超えるとSiO
2やガラスなどからなる基板が変形するため好ましくない。また、300℃以上の温度で熱処理を行うことによって、水素プラズマ耐性が向上する。そのため、熱処理温度は、300〜700℃とすることが好ましい。
(d)Cu―Ca合金膜の平均膜厚:
スパッタでCu−Ca合金膜を形成後のCu―Ca合金膜と基板(SiO
2)の断面を詳細に観察したところ、微量酸素含有不活性ガス雰囲気中の熱処理によって、CaはSiO
2表面に偏析し1nm程度の厚さのアモルファス層が形成されていることが確認された。偏析したCaは界面で酸化されCaOとなり、CaO−SiO
2状態図によれば、CaOとSiO
2は反応してCa
2SiO
4やCa
3SiO
5等の複数のカルシウム・シリケイト層を形成する。この層が、Cu−Ca合金膜と基板との密着性に寄与していると考えられるが、Cu−Ca合金膜の平均膜厚が10nm未満であると、前記カルシウム・シリケイト層の層厚も薄くなり密着性が十分に発揮されない。一方、平均膜厚が500nmを超えると成膜時間が長くなり経済的でない。さらに薄膜配線による段差が大きくなり,応力集中による窒化ケイ素などの層間絶縁膜の破断が多くなるため好ましくない。したがって、Cu―Ca合金膜の平均膜厚は、10〜500nmとすることが好ましい。
ただし、膜厚が100nm未満では、膜の比抵抗が上昇するため、単層膜として使用するのではなく、Cu−Ca合金膜を下地層とし、この上に導電膜として純Cu膜を形成することが好ましい。