特許第5888501号(P5888501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5888501
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】薄膜配線形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/28 20060101AFI20160308BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20160308BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20160308BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20160308BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20160308BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20160308BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20160308BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   H01L21/28 301R
   H01L29/78 617M
   H01L29/78 616V
   H01L29/78 616J
   H01L29/78 616U
   H01L29/78 617L
   H01L29/78 612C
   H01L21/285 S
   H01L21/28 B
   C23C14/14 G
   H01L21/88 R
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-32058(P2012-32058)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-168582(P2013-168582A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】森 暁
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−044674(JP,A)
【文献】 特開2011−061187(JP,A)
【文献】 特開2011−091364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
C23C 14/14
H01L 21/285
H01L 21/3205
H01L 21/336
H01L 21/768
H01L 23/532
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法で成膜する薄膜配線形成方法であって、
Ca:0.5at%以上5at%未満、残部:Cuおよび不可避不純物の組成を有するCu−Ca合金ターゲットを用いて前記スパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜した後、
酸素分圧が10−4〜10−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中、
300〜700℃で熱処理することを特徴とする薄膜配線形成方法。
【請求項2】
前記Cu―Ca合金膜の平均膜厚が10〜500nmであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜配線形成方法。
【請求項3】
前記Cu―Ca合金膜を成膜後に、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜配線形成方法。
【請求項4】
前記熱処理後に、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜配線形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の基板上に配置された薄膜配線形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(以下、TFTという)を用いたアクティブマトリックス方式で駆動するフラットパネルディスプレイとして、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイなどが知られている。これらTFTを用いたフラットパネルディスプレイ(以下、FPDという)には、ガラス基板などの表面に格子状に金属膜からなる配線が密着形成されており、この金属膜からなる格子状配線の交差点にTFTが設けられている。
【0003】
このTFTは、図1に縦断面模式図で示されている通り、ガラス基板の表面に、順次積層形成された、純銅膜のゲート電極膜、窒化珪素膜、Si半導体膜、酸化ケイ素膜のバリア膜、および分離溝で仕切られた純銅膜のドレイン電極膜とソース電極膜(図1では「電極膜」と示す)で構成されていることも良く知られている。
【0004】
このような積層膜構造を有するTFTの製造に際しては、ドレイン電極膜とソース電極膜を仕切る分離溝が、湿式エッチングおよびプラズマエッチングにより形成されるが、前記分離溝底面に露出したSi半導体膜の表面は、極めて不安定な状態、すなわち未結合手(ダングリングボンド)が増大し、これが表面欠陥となり、この表面欠陥がリーク電流となり、このリーク電流がTFTのオフ電流を増加させ、その結果、FPDのコントラストの低減や視野角を小さくするなどの問題点の発生が避けられない不安定な状態になっている。このため、これに、100%水素ガスを用いて、水素ガス流量が10〜1000SCCM、水素ガス圧が10〜500Pa、RF電流密度が0.005〜0.5W/cmおよび処理時間が1〜60分の条件で水素プラズマ処理を施して、Si半導体膜表面の未結合手(ダングリングボンド)を水素原子と結合させて安定化することによって、半導体膜表面のリーク電流を低減させることも知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、純銅膜のドレインおよびソース電極膜側に形成された純銅化帯域と、これらの純銅膜と酸化ケイ素膜のバリア膜との界面部に形成されたCuと、厚さ方向の含有ピークが5〜20原子%のCaと、同じく30〜50原子%の酸素と、Siとからなる成分凝集帯域との2帯域で構成されたバリア膜と電極膜が高い密着強度を有するTFTも知られている(特許文献2参照)
【0006】
さらに、Ag、Au、Cu、およびPtからなる群より選ばれた少なくとも一種の第1の金属を主体とし、Ti、Zr、Hf、Ta、Nb、Si、B、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Y、Yb、Ce、Mg、Th、およびCrからなる群より選ばれた少なくとも一種の第2の金属を含む材料で構成された導電層を成膜後、酸素雰囲気中において熱処理し、前記導電層の表面に被覆され前記第2の金属を主体とする材料で構成された熱酸化層を形成し、前記導電層における第1の金属に対する第2の金属の割合よりも熱酸化層における前記割合の方を大きくすることにより、各種薬品処理に対する耐性を有し、基板への高い密着性を有するTFTも知られている(特許文献3参照)。
【0007】
さらに、FPDの画質を決定する要素として、アレイ基板に構成されたゲート配線とデータ配線の抵抗が非常に重要であることが知られており、ゲート配線とデータ配線の抵抗が小さければ入力される信号の信号遅延を減らすことができ、それによって画質が改善される結果を得ることができることが知られている。そして、ゲート配線またはデータ配線に低抵抗物質であるCuを用いることが知られているが、Cuをゲート配線として用いる場合にはCuが基板との接触特性がよくないという問題が発生し、これを解決するために、基板とCu層間に金属バッファー層(metalbuffer layer)としてTiまたはMoを用いることが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−349637号公報
【特許文献2】特開2010−103324号公報
【特許文献3】特許第3302894号公報
【特許文献4】特開2004−163901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、近年の各種FPDの大画面化および高集積化はめざましく、これに伴い、TFTを構成する積層膜相互間には一段と高い密着強度が要求される傾向にあるが、特許文献1に開示された従来TFTにおいては、前記酸化ケイ素膜(バリア膜)と分離溝で仕切られた純銅膜(電極膜)間の密着強度が低く、要求に満足に対応できる高い密着強度を具備していないのが現状である。
【0010】
また、特許文献2に開示された従来TFTは、酸化ケイ素膜(バリア膜)と純銅膜(電極膜)間に介在させた密着強化膜によって高い密着強度を確保しているが、製造工程においてスパッタガスに酸素を使用するため、装置の改造が必要であり、製造コストの上昇、生産性の低下に繋がり、大画面のFPDの普及とともに、さらなる低コスト化が求められているTFTにとって、実用上、大きな課題であった。
【0011】
さらに、最近のTFT作製工程では、ソース・ドレイン電極形成後に前述のように水素プラズマ処理を行う場合があるが、特許文献3に開示された従来TFTは、水素プラズマ耐性に劣りCu合金酸化層が還元され、密着性が低下するという課題があった。また、第1の金属としてCuを用いた場合には、従来のCu系材料と比較して比抵抗が高めであるという課題があった。
【0012】
さらに、特許文献4に記載されたCuをゲート配線に用い金属バッファー層としてMoやTiを用いる薄膜配線プロセスでは、しばしば、後工程において、ウエットエッチングが行われるが、MoやTiとCuとでは、電気化学的特性が大きく異なるため同一のエッチング液ではエッチングしにくく、複数のエッチング液を用いて行わなければならないという課題があった。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、基板との高い密着強度を有し、既存のスパッタ装置をそのまま使用して形成でき、比抵抗が低く、水素プラズマ耐性にすぐれて、一液エッチングが可能なCu合金薄膜配線形成方法を提供するとともに、その形成方法により形成された比抵抗が低く、水素プラズマ耐性にすぐれたCu合金薄膜配線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、Cu合金薄膜の水素プラズマ耐性の改善のため従来の合金添加元素の酸化物よりも安定な酸化物が得られる添加元素を模索するとともに、各種の添加元素に対して、スパッタ法で成膜後の熱処理条件を様々に変えて、膜特性を評価し、その関連性について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
【0015】
(a)特許文献3に開示されているような従来のCu合金酸化膜を密着層として用いた場合、水素プラズマ処理によって密着性が劣化することが確認された。このような水素プラズマ暴露による密着性劣化の理由は次のように説明できる。すなわち、図2に示すように、水素プラズマ暴露により水素イオンが上層のメタルCu膜を透過し、下層のCu合金酸化物膜を還元させる。この現象により、下地との界面にマイクロボイドが形成され、密着性が劣化する。
(b)それに対して、Cu−Ca合金ターゲットを用いてスパッタ法によりCu−Ca合金薄膜を形成後、微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理した場合、Cu−Ca合金膜と基板やバリア膜との界面にCu−Ca合金酸化膜が形成される。この時、スパッタ法で形成されたCu−Ca合金薄膜の結晶粒界は、膜表面から基板等との界面までつながっているため、その結晶粒界を酸素原子が比較的容易に拡散して界面に到着し、界面拡散して界面全体に伝わりCu−Ca合金酸化物層が形成され、ガラス(基板)や酸化ケイ素(バリア膜)と反応し、強固な化学結合を生じる。
(c)しかも、所定量のCaを含有するCu−Ca合金酸化膜は、水素プラズマに対して良好な耐性を示すことを見出した。そのため、基板(下地)との界面に形成されたCu−Ca合金酸化膜が水素プラズマによって還元されることなく、強固な密着性を維持することを見出した。
(d)さらに、Cu−Ca合金酸化膜の酸素源は、熱処理時の不活性ガス雰囲気に含有させた微量酸素であるため、成膜装置の改造や複雑な処理・操作を必要とすることなくCu−Ca合金酸化膜を形成することができる。一方、酸素リアクティブスパッタでCu−Ca合金酸化膜を形成する場合、所定の酸素量を維持させながら安定したプラズマを発生させるために、チャンバー内に導入する反応ガス(酸素ガス)と放電ガスの流量を独立して精密に制御する必要があるばかりか、そのための反応ガス導入用配管や流量計、流量バルブなどの設置が必要であり、製造コストが高く生産性も悪かった。
(e)ところが、本発明者らが鋭意研究したところ、通常のスパッタ法を用いてCu−Ca合金膜形成後に微量酸素含有不活性ガス雰囲気で熱処理を行うという方法を用いることによって、既存の成膜装置を用いて複雑な操作を要することなく、所望のCu−Ca合金酸化膜を成膜できることを見出した。すなわち、熱処理の場合、プラズマを発生させる必要がないので、反応ガスや放電ガスの流量の変動や基板温度の変動などで異常放電が起こる心配がなく、しかも、成膜装置内に導入する不活性ガス中に予め所定の微量酸素を導入しておくことによって、既存の成膜装置をそのまま使って簡単に処理を行えることを見出した。
(f)さらに、CuとCu―Ca合金とは、エッチング速度がほぼ等しく、同じエッチング液を用いて処理することが可能である。
【0016】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法で成膜する薄膜配線形成方法であって、Ca:0.5at%以上5at%未満、残部:Cuおよび不可避不純物の組成を有するCu−Ca合金ターゲットを用いて前記スパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜した後、酸素分圧が10−4〜10−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中、300〜700℃で熱処理することを特徴とする薄膜配線形成方法。
(2) 前記Cu―Ca合金膜の平均膜厚が10〜500nmであることを特徴とする(1)に記載の薄膜配線形成方法。
(3) 前記Cu―Ca合金膜を成膜後に、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜することを特徴とする(1)または(2)に記載の薄膜配線形成方法。
(4) 前記熱処理後に、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜することを特徴とする(1)または(2)に記載の薄膜配線形成方法。」
を特徴とするものである。
【0017】
つぎに、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜後、酸素分圧が10−4〜10−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理する薄膜配線形成方法である(図3(a)参照)。
また、本発明の別の実施態様としては、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法でCu−Ca合金膜を成膜後、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜し、その後、酸素分圧が10−4〜10−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理する薄膜配線形成方法である(図3(b)参照)。
また、本発明のさらに別の実施態様としては、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜後、酸素分圧が10−4〜10−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理した後、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜する薄膜配線形成方法である(図3(c)参照)。
また、本発明は、前記のいずれかの方法で形成された膜中のCa含有割合が0.5at%以上5at%未満の薄膜配線である。
【0019】
ここで、本発明の数値限定理由について説明する。
(a)微量酸素の含有割合:
熱処理時の微量酸素の含有量は、酸素分圧が10−10気圧未満であると、例えば、SiOやガラスなどの基板との界面に形成されるCu−Ca合金酸化膜の酸化が十分進まないため基板との密着性が十分でない。しかし、Ca濃度が5at%以上ではCaがSiOと直接還元反応するため、密着性を得ることができるが、Caに還元されて生じたSiがCu中へ拡散するため,比抵抗の上昇を招く。一方、10−4気圧を超えると、Cu−Ca合金酸化膜の酸化が進み,比抵抗が上昇するため好ましくない。そこで、熱処理時の微量酸素の含有量は、酸素分圧で10−4〜10−10気圧と定めた。なお、熱処理時の圧力は大気圧とし、不活性ガスとしては、窒素ガスを用いた。ここで、不活性ガスとして窒素ガスを用いた理由は、TFTなどの製造プロセスにおいて、窒化膜を形成するプロセスを設ける場合があるため、それを流用できるためであって、Arガスを用いても何ら構わない。
(b)Cu―Ca合金ターゲットの合金組成および薄膜配線の膜中のCa含有割合:
Caには、熱処理によって銅薄膜配線と基板や酸化ケイ素との界面に偏析,酸化して基板や酸化ケイ素と化学反応して反応層を形成し,酸素の界面拡散を防止することでCuの酸化を抑制し、水素プラズマ耐性を発現するとともに、反応層が形成されることにより、SiOやガラスなどからなる基板との密着性を向上させる作用がある。
Cu―Ca合金膜をスパッタ法で形成する際に用いるターゲットに含まれるCaの含有割合は、CuとCaの合量に対して0.5at%未満であると、前述した効果が十分に発現されず、水素プラズマ耐性が不十分である。一方、5at%を超えるとCu−Ca合金薄膜配線の比抵抗が高くなるため好ましくない。そのため、Cu―Ca合金ターゲットの合金組成は、Ca:0.5以上5at%未満、残部:Cuおよび不可避不純物とすることが好ましい。
また、前記の条件を満足するCu―Ca合金ターゲットを用いて、後述するスパッタ法でCu―Ca合金膜を成膜した場合、ターゲットの合金組成より低い組成を有するCu―Ca合金膜が形成されるが,熱処理後,Caが膜と基板や酸化ケイ素との界面に偏析するため,薄膜中のCuとCaの合量に対するCa含有割合の膜厚方向におけるピーク値は前記Cu−Ca合金ターゲットにおけるCa含有割合とほぼ同じであることを確認した。
(c)熱処理温度:
熱処理時の熱処理温度について、詳細に実験を重ねた結果、Cu−Ca合金膜は、300℃以上の前述した微量酸素含有不活性ガス雰囲気中での熱処理をすることによって、良好な密着性が得られることがテープ剥離試験で明らかになった。
しかしながら、熱処理温度が700℃を超えるとSiOやガラスなどからなる基板が変形するため好ましくない。また、300℃以上の温度で熱処理を行うことによって、水素プラズマ耐性が向上する。そのため、熱処理温度は、300〜700℃とすることが好ましい。
(d)Cu―Ca合金膜の平均膜厚:
スパッタでCu−Ca合金膜を形成後のCu―Ca合金膜と基板(SiO)の断面を詳細に観察したところ、微量酸素含有不活性ガス雰囲気中の熱処理によって、CaはSiO表面に偏析し1nm程度の厚さのアモルファス層が形成されていることが確認された。偏析したCaは界面で酸化されCaOとなり、CaO−SiO状態図によれば、CaOとSiOは反応してCaSiOやCaSiO等の複数のカルシウム・シリケイト層を形成する。この層が、Cu−Ca合金膜と基板との密着性に寄与していると考えられるが、Cu−Ca合金膜の平均膜厚が10nm未満であると、前記カルシウム・シリケイト層の層厚も薄くなり密着性が十分に発揮されない。一方、平均膜厚が500nmを超えると成膜時間が長くなり経済的でない。さらに薄膜配線による段差が大きくなり,応力集中による窒化ケイ素などの層間絶縁膜の破断が多くなるため好ましくない。したがって、Cu―Ca合金膜の平均膜厚は、10〜500nmとすることが好ましい。
ただし、膜厚が100nm未満では、膜の比抵抗が上昇するため、単層膜として使用するのではなく、Cu−Ca合金膜を下地層とし、この上に導電膜として純Cu膜を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、(1)Ca:0.5at%以上5at%未満、残部:Cuおよび不可避不純物の組成を有するCu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法によるCu―Ca合金膜の成膜と、(2)酸素分圧が10−4〜10−10気圧の微量酸素含有不活性ガス雰囲気中、300〜700℃での熱処理という、2段階でのプロセスを行うという新規な方法で薄膜配線を形成することによって、基板との高い密着強度を有し、比抵抗が低く、水素プラズマ耐性にすぐれ、一液エッチングが可能なCu合金薄膜配線が得られるとともに、前記薄膜配線の形成に際し、既存のスパッタ装置をそのまま使用できるというすぐれた効果を奏する。したがって、FPDの大画面化および高集積化に要求される高い密着強度、低比抵抗、すぐれた水素プラズマ耐性を具備した薄膜配線が得られる。また、その製造コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】薄膜トランジスタの縦断面模式図を示す。
図2】水素プラズマ暴露による密着性劣化モデルを示す。
図3】本発明の薄膜配線形成方法の流れを示す。
図4】成膜後熱処理前および熱処理後のCu膜のXPS分析の結果を示す。
図5】成膜後熱処理前および熱処理後のCu−Ca合金膜のXPS分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
つぎに、本発明の薄膜配線形成方法の一実施態様について、実施例に基づき、より具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の薄膜配線の成膜には、DCマグネトロン・スパッタ装置を使用した。ターゲットは、99.99at%Cu(以下、4NCuと表示する)、99.9999at%Cu(以下、6NCuと表示する)、Cu−0.2at%Ca(以下、Cu−0.2Caと表示する)、Cu−0.5at%Ca(以下、Cu−0.5Caと表示する)、Cu−1at%Ca(以下、Cu−1Caと表示する)、Cu−2at%Ca(以下、Cu−2Caと表示する)、Cu−5at%Ca(以下、Cu−5Caと表示する)、Cu−7at%Ca(以下、Cu−7Caと表示する)とし、基板は、熱酸化膜付シリコンウエハ(サイズは、直径76.3mm×厚さ380μm)を使用した。
【0024】
(Cu合金膜の成膜工程)
チャンバー内を5×10−5Paまで真空に引いた後、純Arを導入し、Arガス圧力を0.67Paに調整した。基板加熱は行わず、パワー密度および成膜速度をそれぞれ、DC3.3W/cm、4nm/sec.とし、目標膜厚を5〜500nmとした。
ここで、Cu合金膜の目標膜厚は、成膜速度(nm/sec.)×成膜時間(sec.)により求められるが、本実施例により得られたサンプルについて、走査型電子顕微鏡で断面画像を観察したところ、いずれも目標膜厚と等しい平均膜厚が観察された。
【0025】
(熱処理工程)
ついで、赤外線加熱炉を用いて、微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理を行った。まず、チャンバー内を0.5Paまで真空に引いた後、酸素分圧が1×10−3〜1×10−11気圧の微量酸素を含有した窒素ガスに置換し、流量を1L/min.とし、圧力を大気圧とした。
そして、昇温速度を1℃/sec.、加熱温度を100、200、300、400、500、600、700℃、保持時間を30min.とする熱処理を行った。なお、700℃を超えると基板が変形を来したため、実験を行わなかった。
【0026】
(基板との密着性評価)
熱処理を施した基板上に形成された薄膜に対し、テープ剥離試験による密着性評価を行った。密着性評価の具体的方法は、テープを薄膜配線表面につけて引き剥がした際の薄膜配線の剥離状態で評価した。先ず、薄膜に,カッターナイフを用いて間隔を1mmとし、切り込みを縦横に入れ,合計100個の碁盤目を入れた。次に、碁盤目部分にセロハンテープを強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を観察し、薄膜の状態を目視で観察した。このとき、剥がれが生じなかったものを密着性良好とし、100個の碁盤目中いくつの目が剥離したかを数え、各薄膜配線の密着性を調査した。その結果を表1〜3に示す。
なお、表1〜3において、100個中1つも剥がれなかったものを◎、剥がれたものが1〜3個のものを○、剥がれたものが4〜10個のものを△、10個以上剥がれたものを×と示した。
【0027】
(耐水素性の評価)
窒素熱処理後、水素と窒素を1:1の割合で混合した水素窒素混合ガス中で、3min.間、300℃に加熱し、前記と同様のテープ剥離試験で耐水素性を評価した。その結果を同じく、表1〜3に示す。
なお、表1〜3において、窒素の列は、窒素熱処理後のテープ剥離試験の結果を示し、水素の列は、前記耐水素性評価の結果を示している。また、表1、2における熱処理時の酸素分圧は10−7気圧とし、表1、3における各サンプルの目標平均膜厚は300nmとし、表2、3における窒素熱処理温度は300℃とした。
(膜中のCa濃度の分析)
オージェ電子分光法で深さ方向分析を行い、Cu薄膜とガラス基板および酸化ケイ素膜界面におけるCa濃度の分析を行った。アルゴンイオンエッチングはザラー回転法を用いて行った。加速電圧は5kV、電流は10nA、試料の傾斜角度は30°とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
表1〜3の結果から分かるように、Ca含有割合が0.5〜7at%のターゲットで成膜した膜は、すぐれた密着性および耐水素性を示し、1〜7at%のターゲットで成膜した膜は、特にすぐれた密着性および耐水素性を示すことが確認された。
また、表1の結果から分かるように、窒素熱処理温度が、300〜700℃の範囲において、すぐれた密着性および耐水素性を示すことが確認された。
さらに、表2の結果から分かるように、窒素熱処理後のCa−Ca合金膜の膜厚が10〜500nmの範囲において、すぐれた密着性および耐水素性を示し、100〜300nmの範囲において、特にすぐれた密着性および耐水素性を示すことが確認された。
そして、表3の結果から明らかなように、窒素熱処理時の酸素分圧が、10−3〜×10−10気圧の範囲において、すぐれた密着性および耐水素性を示し、10−4〜×10−10気圧の範囲において、特にすぐれた密着性および耐水素性を示すことが確認された。
【0032】
(薄膜配線と基板との界面の構造解析)
前述した窒素熱処理を施したCu膜とCu−Ca合金膜について、基板との界面における界面構造を解析するため,XPSで深さ方向分析を行った。300℃で窒素熱処理した膜と、比較のため熱処理しない膜も分析した。Cu膜の成膜には、4NCuのターゲットを使用し、Cu−Ca合金膜の成膜には、Cu−2Caのターゲットを使用した。基板は、SiOを用いた。微量酸素の含有割合は、酸素分圧で1×10−5気圧とした。
その結果、熱処理をしなかった膜では、Arイオンによるスパッタエッチングで順次表面が削られ、スパッタ時間が60〜70分でOとSiが検出され、その後、スパッタ時間の経過とともにOとSiの強度は強くなり、100〜120分でOの強度がほぼ一定となった。一方、窒素熱処理した膜は、スパッタ時間が50分でOとSiが検出され、その後、スパッタ時間の経過とともにOとSiの強度は強くなり、100〜120分でOの強度がほぼ一定となった。これらの結果から、スパッタ時間が100〜120分でCu膜(Cu−Ca合金膜)と基板との界面近傍までエッチングされたと考えられる。そこで、XPSでスペクトル分析を行うスパッタ時間を80分、100分、120分とした。その結果を、図4および図5に示す。いずれも、X線励起によるオージェ電子スペクトルであるCuLMMスペクトルを示しており、CuOのピーク位置指示線は、569eV、Cuのピーク位置指示線は、568eV、CuOのピーク位置指示線は,570eVである。
【0033】
ここで、図4(a)〜(c)は、成膜後熱処理前(as depo.,点線)および窒素熱処理後(300℃,実線)におけるCu膜の結果であり、(a)がスパッタ時間:80分、(b)がスパッタ時間:100分、(c)がスパッタ時間:120分の結果を示している。一方、図5(a)〜(c)は、成膜後熱処理前(as depo.,点線)および窒素熱処理後(300℃,実線)におけるCu−2Ca膜の結果であり、(a)がスパッタ時間:80分、(b)がスパッタ時間:100分、(c)がスパッタ時間:120分の結果を示している。
【0034】
CuLMMでは、CuとCu2OとCuOが検出された。Cu膜では、Cu2Oは膜とSiO界面に近づくに従って、300℃の窒素熱処理によってピーク値が高くなった。窒素熱処理によって、界面近傍のCu2O濃度の上昇をしめしている。一方、Cu−2Ca膜では、窒素熱処理によって上昇するCuOのピーク値はCu膜より低く、Ca添加によって、CuOの界面生成は抑制された。Cu2Oは水素によって容易に還元され、水を発生し、この水が界面に集まってマイクロボイドを形成し、密着性の低下を招く。Ca添加によって、Cu2Oの生成が抑制され、その結果、水素還元による水の発生が抑制されるため、Ca添加したCu薄膜配線の耐水素性は向上したと考えている。
【0035】
(比抵抗の評価)
前述のターゲットを用いて成膜した膜のうち、耐水素性の評価が△、○、◎のものについて、耐水素性評価のための水素処理後、室温における膜の比抵抗を四探針法で測定した。ただし、膜厚が5nmおよび10nmのものについては、膜厚が薄くなると電子の表面反射のため正確に測定できないため、測定していない。これら比抵抗の測定結果を、表4〜6に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
表4〜6の結果から分かるように、Ca含有割合が5at%を超えると、Cu−Ca合金膜の比抵抗が高くなることが確認された。
膜厚が5nmおよび10nmのものについては、測定していないが、下地密着層として使用し,この上に導電層として比抵抗の低い純銅層等を堆積することで、問題なく利用できる。
つぎに、本発明の薄膜配線形成方法の別の実施態様について、実施例に基づき、説明する。
【0038】
【表6】
【0039】
表4〜6の結果から分かるように、Ca含有割合が5at%を超えると、Cu−Ca合金膜の比抵抗が高くなることが確認された。
膜厚が5nmおよび10nmのものについては、測定していないが、下地密着層として使用し,この上に導電層として比抵抗の低い純銅層等を堆積することで、問題なく利用できる。
つぎに、本発明の薄膜配線形成方法および薄膜配線の別の実施態様について、実施例に基づき、説明する。
【実施例2】
【0040】
まず、実施例1と同様にして、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法により基板上にCu−Ca合金膜を成膜した。ついで、Cuターゲット(6NCu)を用いたスパッタ法により、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜した。
【0041】
さらに、本発明の薄膜配線形成方法の別の実施態様について、実施例に基づき、説明する。
【0042】
そして、実施例1と同様の密着性評価および耐水素性評価を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。すなわち、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜しても微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理をすることによって、実施例1と同様に密着性および耐水素性が向上する。これは、表面に形成したCu膜中の酸素の拡散速度の方が、界面での酸素の反応速度よりも勝っているため、Cu−Ca合金膜上にCu膜を成膜しても界面におけるCu−Ca合金の酸化が進むためと考えられる。さらに、Cu−Ca合金の上にCuを形成したことにより、Cuが本来有しているすぐれた導電性をもつという特性と相俟って、薄膜配線の比抵抗を下げることができることを確認した。
【0043】
さらに、本発明の薄膜配線形成方法および薄膜配線の別の実施態様について、実施例に基づき説明する。
【実施例3】
【0044】
まず、実施例1と同様にして、Cu−Ca合金ターゲットを用いたスパッタ法により基板上にCu−Ca合金膜を成膜後、微量酸素含有不活性ガス雰囲気中で熱処理する。
【0045】
そして、熱処理されたCu−Ca合金膜(以下、改質Cu−Ca合金膜という)上に、Cuターゲット(6NCu)を用いたスパッタ法によりCu膜を成膜した。
【0046】
このようにして基板上に改質Cu−Ca合金膜とCuの2層からなる薄膜配線を形成した。
【0047】
そして、実施例1と同様の密着性評価および耐水素性評価を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。さらに、Cu−Ca合金の上にCuを形成したことにより、Cuが本来有しているすぐれた導電性をもつという特性と相俟って、薄膜配線の比抵抗を下げることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、Cu膜と基板との界面の微細構造の詳細な観察と耐水素性および密着性の発現機構についての検証に基づき完成されたものであって、Cu系薄膜配線の比抵抗を上昇させることなく、密着性および耐水素性を向上させ、しかも、低コスト化にも寄与するという著しい効果を有し、その産業上の利用可能性はきわめて大きい。
図1
図2
図3
図4
図5