【実施例】
【0081】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に記載された態様に限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
前述のように、国際公開第WO2005/093064号において、野生型ガレクチン9Mの149番目のプロリンから177番目のセリンまでの領域を欠失したアミノ酸配列からなる安定化ガレクチン9が報告されている。前記安定化ガレクチン9のアミノ酸配列を、
図1に示す(配列番号91)そして、前記安定化ガレクチン9について、野生型ガレクチン9Mの生理活性を保持すること、および、野生型ガレクチン9Mと比較して、優れたプロテアーゼ安定性を有することが証明されている。そこで、前記安定化ガレクチン9を改変したガレクチン9改変体について、溶解性、生理活性およびプロテアーゼ安定性を確認した。
【0083】
(1)発現ベクターの構築
(1−1)欠失型のガレクチン9改変体
ガレクチン9改変体は、NCRDとCCRDとが直接連結したアミノ酸配列からなるタンパク質とした。各改変体の間において、NCRDのアミノ酸配列(配列番号1)およびCCRDのC末端領域のアミノ酸配列(配列番号5)は共通とし、CCRDのN末端領域のみ、配列番号3のアミノ酸配列(17アミノ酸残基)において、N末端から4個、6個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個または16個のアミノ酸残基を欠失させたアミノ酸配列に設定した。各ガレクチン9改変体は、前記CCRDのN末端領域における欠失アミノ酸の個数に応じて、ガレクチン9改変体mC4、mC6、mC8、mC9m、mC10、mC11、mC12、mC13、mC14、mC16とした。以下に、前記安定化ガレクチン9および各ガレクチン9改変体について、CCRDのN末端領域のアミノ酸配列と塩基配列ならびに全長のアミノ酸配列と塩基配列を示す。
【0084】
【表5】
※1 配列番号4において、12個の連続する塩基は、PHPA(配列番号132)をコードするccccaccccgcc(配列番号130)
【0085】
前記ガレクチン9改変体を発現する発現ベクターを、以下の方法により構築した。国際公開第WO2005/093064号の実施例1における前記安定化ガレクチン9(以下、G9Nullともいう)のアミノ酸配列(配列番号91)を、
図1に示す。まず、前記G9Nullのコード配列(配列番号92)を、pET−11aのクローニングサイト(BamHIサイト)に挿入し、前記G9Nullの発現ベクターpET−G9Nullを、定法により作製した。前記安定化ガレクチン9について、野生型ガレクチン9の細胞死誘導活性を有し、且つ、前記野生型ガレクチン9と比較して、プロテアーゼ安定性が有意に優れることは、国際公開WO2005/093064号において確認済みである。
【0086】
配列番号92
ATGGCCTTCAGCGGTTCCCAGGCTCCCTACCTGAGTCCAGCTGTCCCCTTTTCTGGGACTATTCAAGGAGGTCTCCAGGACGGACTTCAGATCACTGTCAATGGGACCGTTCTCAGCTCCAGTGGAACCAGGTTTGCTGTGAACTTTCAGACTGGCTTCAGTGGAAATGACATTGCCTTCCACTTCAACCCTCGGTTTGAAGATGGAGGGTACGTGGTGTGCAACACGAGGCAGAACGGAAGCTGGGGGCCCGAGGAGAGGAAGACACACATGCCTTTCCAGAAGGGGATGCCCTTTGACCTCTGCTTCCTGGTGCAGAGCTCAGATTTCAAGGTGATGGTGAACGGTATCCTCTTCGTGCAGTACTTCCACCGCGTGCCCTTCCACCGTGTGGACACCATCTCCGTCAATGGCTCTGTGCAGCTGTCCTACATCAGCTTCCAGCATATGACTCCCGCCATCCCACCTATGATGTACCCCCACCCCGCCTATCCGATGCCTTTCATCACCACCATTCTGGGAGGGCTGTACCCATCCAAGTCCATCCTCCTGTCAGGCACTGTCCTGCCCAGTGCTCAGAGGTTCCACATCAACCTGTGCTCTGGGAACCACATCGCCTTCCACCTGAACCCCCGTTTTGATGAGAATGCTGTGGTCCGCAACACCCAGATCGACAACTCCTGGGGGTCTGAGGAGCGAAGTCTGCCCCGAAAAATGCCCTTCGTCCGTGGCCAGAGCTTCTCAGTGTGGATCTTGTGTGAAGCTCACTGCCTCAAGGTGGCCGTGGATGGTCAGCACCTGTTTGAATACTACCATCGCCTGAGGAACCTGCCCACCATCAACAGACTGGAAGTGGGGGGCGACATCCAGCTGACCCATGTGCAGACATAG
【0087】
そして、前記pET−G9Nullを標的配列とし、下記プライマーA1およびA2を用いたPCRによって、NCRDペプチド(配列番号1)をコードするNCRDポリヌクレオチド(配列番号2)を増幅し、アガロースゲル電気泳動によって精製した。
【0088】
(プライマー)
A1:5'-CGTCCTCGTCCTCATATGGCCTTCAGCGGTTCCCAGGCT-3'(配列番号93)
A2:5'-CTGGAAGCTGATGTAGGACAGCTG-3'(配列番号94)
【0089】
同様に、前記pET−G9Nullを標的配列として、下記プライマーA4および各改変体に応じた下記プライマーB1〜K1を用いたPCRによって、各改変体のCCRD(CCRD1〜CCRD10、10種類)をコードするポリヌクレオチドを増幅し、アガロースゲル電気泳動によって精製した。
【0090】
(プライマー)
B1:5'-TACATCAGCTTCCAGCCACCTATGATGTACCCCCACCCC-3'(配列番号95)
C1:5'-TACATCAGCTTCCAGATGATGTACCCCCACCCCGCCTAT-3'(配列番号96)
D1:5'-TACATCAGCTTCCAGTACCCCCACCCCGCCTATCCGATG-3'(配列番号97)
E1:5'-TACATCAGCTTCCAGCCCCACCCCGCCTATCCGATGCCT-3'(配列番号98)
F1:5'-TACATCAGCTTCCAGCACCCCGCCTATCCGATGCCTTTC-3'(配列番号99)
G1:5'-TACATCAGCTTCCAGCCCGCCTATCCGATGCCTTTCATC-3'(配列番号100)
H1:5'-TACATCAGCTTCCAGGCCTATCCGATGCCTTTCATCACC-3'(配列番号101)
I1:5'-TACATCAGCTTCCAGTATCCGATGCCTTTCATCACCACC-3'(配列番号102)
J1:5'-TACATCAGCTTCCAGCCGATGCCTTTCATCACCACCATT-3'(配列番号103)
K1:5'-TACATCAGCTTCCAGCCTTTCATCACCACCATTCTGGGA-3'(配列番号104)
【0091】
つぎに、前記NCRDをコードするポリヌクレオチド(NCRD)と前記CCRDをコードする各ポリヌクレオチド(CCRD1〜CCRD10)とを混合し、これらの混合物に対して、前記プライマーA1および下記プライマーA4を用いた2段階目のPCRを行い、得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製した。精製したPCR産物を制限酵素NdeIおよびBamHIで切断し、精製した後、同じ制限酵素で切断したpET−11aベクターにライゲーションし、定法にしたがって、正しい配列を含むクローンを選択した。これらのクローンを、各ガレクチン9改変体の発現ベクターとした。
【0092】
(プライマー)
A4:5'-CGACCGGGATCCCTATGTCTGCACATGGGTCAGCTG-3'(配列番号105)
【0093】
そして、前記クローンを、E.coli BL21(DE3)に導入し、組換えタンパク質発現用の形質転換体を作製し、約15%のグリセリン存在下、−80℃で保存した。
【0094】
(1−2)欠失・置換型のガレクチン9改変体
ガレクチン9改変体として、前記ガレクチン9改変体mC9〜mC12について、さらに、前記CCRDのN末端領域のアミノ酸を置換したタンパク質を設計した。以下に、各ガレクチン9改変体について、種類、前記N末端領域のアミノ酸配列および塩基配列、全長のアミノ酸配列および塩基配列を示す。下記配列において、下線部は、mC9〜mC12のアミノ酸配列に対して、置換したアミノ酸残基を示す。
【0095】
【表6】
【0096】
前記ガレクチン9改変体を発現する発現ベクターを、以下の方法により構築した。まず、mC9、mC10、mC11およびmC12の発現ベクターを、それぞれ標的配列として、前記プライマーA1と、前記置換したアミノ酸配列に対応する変異配列を含む下記プライマーL2〜W2を用いたPCRを行い、得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製した(muNCRD1〜muNCRD12、12種類)。
【0097】
(プライマー)
L2:5'-ATAGGCGGGCGGGTGCTGGAAGCTGATGTAGGA-3'(配列番号106)
M2:5'-GATAGGCGGCGTGCTGGAAGCTGATGTA-3'(配列番号107)
N2:5'-AAGGCATCGCATAGGCGGGGTGCTGGAA-3'(配列番号108)
O2:5'-TGATGAAAGCCATCGGATAGGCGGGGTG-3'(配列番号109)
P2:5'-TGATGAAAGCCATCGCATAGGCGGCGTGCTGGAAGCTGATG-3'(配列番号110)
Q2:5'-TGAAAGGCGGCGGATAGGGGGGGTGCTG-3'(配列番号111)
R2:5'-GGCATCGGCGGGGCGGGGTGCTGGAAGCT-3'(配列番号112)
S2:5'-TCGGATAGGGGGGGTGCTGGAAGCTGAT-3'(配列番号113)
T2:5'-CGGATAGGGGGCCTGGAAGCTGATGTAGGA-3'(配列番号114)
U2:5'-TCGGATAGGGGGGCTGGAAGCTGATGTA-3'(配列番号115)
V2:5'-TGGTGATGAAAGCCATCGCATAGGCCTGGAAGCTGAT-3'(配列番号116)
W2:5'-AGGCATCGGAGGGGCCTGGAAGCTGATGTA-3'(配列番号117)
【0098】
同様に、mC9、mC10、mC11およびmC12の発現ベクターを、それぞれ標的配列として、前記プライマーA4と、前記置換したアミノ酸配列に対応する変異配列を含む下記プライマーL1〜W1を用いたPCRを行い、得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製した(muCCRD1〜muCCRD12、12種類)。
【0099】
(プライマー)
L1:5'-AGCTTCCAGCACCCGCCCGCCTATCCGATGCCT-3'(配列番号118)
M1:5'-TTCCAGCACGCCGCCTATCCGATGCCTT-3'(配列番号119)
N1:5'-CCCGCCTATGCGATGCCTTTCATCACCA-3'(配列番号120)
O1:5'-TATCCGATGGCTTTCATCACCACCATTC-3'(配列番号121)
P1:5'-TTCCAGCACGCCGCCTATGCGATGGCTTTCATCACCACCATTC-3'(配列番号122)
Q1:5'-CTATCCGCCGCCTTTCATCACCACCATT-3'(配列番号123)
R1:5'-CCCCGCCCCGCCGATGCCTTTCATCACC-3'(配列番号124)
S1:5'-CAGCACCCCCCCTATCCGATGCCTTTCA-3'(配列番号125)
T1:5'-TTCCAGGCCCCCTATCCGATGCCTTTCA-3'(配列番号126)
U1:5'-CCAGCCCCCCTATCCGATGCCTTTCATC-3'(配列番号127)
V1:5'-TTCCAGGCCTATGCGATGGCTTTCATCACCACCATTC-3'(配列番号128)
W1:5'-TTCCAGGCCCCTCCGATGCCTTTCATCACC-3'(配列番号129)
【0100】
つぎに、前者のPCR産物(muNCRD1〜muNCRD12)と後者のPCR産物(muCCRD1〜muCCRD12)とを混合し、これらの混合物に対して、前記プライマーA1およびA4を用いた2段階目のPCRを行い、得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製した。精製したPCR産物を制限酵素NdeIおよびBamHIで切断し、精製した後、同じ制限酵素で切断したpET−11aベクターにライゲーションし、定法にしたがって、正しい配列を含むクローンを選択した。これらのクローンを、各ガレクチン9改変体の発現ベクターとした。
【0101】
そして、前記クローンを、E.coli BL21(DE3)に導入し、形質転換体を作製し、約15%のグリセリン存在下、−80℃で保存した。
【0102】
(2)ガレクチン9改変体の発現および収量の測定
前記(1)で作製した形質転換体を用いて、以下の方法によりガレクチン9改変体を発現させ、発現直後の組換えタンパク質の被検サンプル(発現直後の標品ともいう)と、発現後3ヶ月保存した後に不溶物を除去した組換えタンパク質の被検サンプル(保存3ヶ月後の標品ともいう)について、収量の測定を行った。
【0103】
前記形質転換体を、100μg/mLのアンピシリンを含むLB−brothに添加して、37℃で一夜培養した。1000mLフラスコに、400mLの2XYT、4mLの10mg/mLアンピシリンおよび前記培養で得られたE.coli培養液8mLを加えた。ついで、前記フラスコを振とうしながら、A600nmが約0.7になるまで37℃で培養し、さらに、前記フラスコあたり0.4mLの0.1mol/L イソプロピル−β−D(−)チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えて、20℃で一夜(16〜20時間)培養した。そして、遠心分離により前記培養液から菌体を回収した。
【0104】
回収した前記菌体を、前記フラスコあたり80mLの抽出用緩衝液に懸濁した。前記抽出用緩衝液の組成は、10mmol/L Tris−HCl(pH7.5)、0.5mol/L NaCl、1mmol/Lジチオトレイトール(DTT)、1mmol/L フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)および1%Triton X−100とした。そして、前記懸濁液を、out put control=5、%duty cycle=100の条件で、超音波波処理した後、4℃で30分間攪拌した。前記超音波処理は、2分間の処理および1分間の休止を1サイクルとして、4サイクル繰り返した。ついで、前記懸濁液を、15,000xgで30分間遠心分離して、不溶物を除去し、上清を回収した。
【0105】
得られた上清に、3mLのラクトース−アガロース懸濁液(50%[v/v]in PBS、ゲルとして1.5ml)を加えて、4℃で1時間攪拌した。さらに、2,000xgで5分間遠心分離して前記ラクトース−アガロースゲルを回収し、0.03%の3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸(CHAPS)を含むTBSに懸濁して、ミニカラムに充填した。ついで、ゲルの10倍量の0.03%CHAPS含有TBSでゲルを洗浄した後、3mLの溶出液でタンパク質を溶出した。前記溶出液の組成は、20mmol/L Tris−HCl(pH7.5)、0.15mol/L NaClおよび0.2mol/Lラクトースとした。前記溶出液をPBSに対して透析した後、25,000xgで20分間遠心分離して、不溶物を除去し、得られた上清をろ過滅菌して最終サンプルを得た。これを、以下、調製直後の被検サンプルという。前記サンプル3μgについてSDS−PAGEを行い、クマシーブリリアントブルーR−250で染色した。そして、定法に基づいて、前記SDS−PAGEによるタンパク質の純度検定およびタンパク質濃度の測定を行い、各ガレクチン9改変体の収量を算出した。これを、調製直後の組換えタンパク質の収量とした。
【0106】
また、この調製直後の被検サンプルを、さらに4℃で3ヶ月間保存した。保存後、前記サンプルを、25,000xgで20分間遠心分離して、不溶物を除去し、得られた上清をろ過滅菌して、3ヶ月保存後の被検サンプルを得た。そして、前記調製直後の被検サンプルと同様に、定法に基づいて、タンパク質濃度の測定を行い、各ガレクチン9改変体の収量を算出した。これを、保存3ヶ月後の組換えタンパク質の収量とした。
【0107】
また、比較例として、前記安定化ガレクチン9の発現ベクターpET−G9Nullを使用し、同様にしてタンパク質の発現ならびに評価を行った。
【0108】
図2に、SDS−PAGEの写真を示す。
図2において、レーンMは、分子量マーカーであり、各レーンは、各ガレクチン9改変体の調製直後の被検サンプルを示す。
図2および
図3に示すように、いずれのガレクチン9改変体も大腸菌内で発現し、さらに、ラクトース−アガロースを利用したアフィニティークロマトグラフィーによって、高度に精製できることが確認された。
【0109】
図3に、前記(1−1)で調製した欠失型のガレクチン9改変体および安定化ガレクチン9の濃度を示す。
図3において、Aは、調製直後の被検サンプルの結果であり、Bは、保存3ヶ月後の被検サンプルの結果である。
図3において、縦軸は、前記サンプルにおける前記ガレクチン9改変体または前記安定化ガレクチン9の濃度(μg/ml)であり、前記ガレクチン9改変体は、2回の発現実験の平均値を示し、前記安定化ガレクチン9は、12回の平均値と標準偏差を示した。
【0110】
図3に示すように、調製直後の被検サンプルの場合、ガレクチン9改変体mC8、mC9、mC10、mC11、mC12、mC13およびmC14は、安定化ガレクチン9(G9Null)と比較して、タンパク質濃度が有意に高かった。中でも、mC9、mC10、mC12およびmC14は、極めて高いタンパク質濃度を示した。また、保存3ヶ月後の被検サンプルにおいても、ガレクチン9改変体mC10、mC11、mC12,mC13は、安定化ガレクチン9(G9Null)と比較して、タンパク質濃度が有意に高かった。
【0111】
安定化ガレクチン9(G9Null)は、発現後に最終サンプル(調製直後の被検サンプル)を調製する際、前記カラムからの溶出工程で、最大溶解度を超えたため、一部の安定化ガレクチン9が不溶化した。そして、この不溶物は、前記溶出工程後の遠心工程およびろ過工程により除去された。このため、
図3に示すように、安定化ガレクチン9は、前述のように、前記被検サンプルにおけるタンパク質濃度が低いという結果となった。他方、ガレクチン9改変体は、前記溶出工程における不溶化が、安定化ガレクチン9と比較して、有意に抑制されていた。このため、
図3に示すように、ガレクチン9改変体は、安定化ガレクチン9と比較して、前記被検サンプルにおけるタンパク質濃度が、有意に高い結果となった。
【0112】
本実施例では、いずれの組換えタンパク質についても、同じ条件で一定体積の最終サンプル(調製直後の被検サンプル)を調製した。このため、前記被検サンプルにおけるガレクチン9改変体の濃度が、前記被検サンプルにおける安定化ガレクチン9の濃度と比較して、有意に高いということは、ガレクチン9改変体の溶解度が安定化ガレクチン9の溶解度よりも有意に高いことを意味する。また、前記被検サンプルにおけるガレクチン9改変体の濃度の高さは、ガレクチン9改変体が高い収率で回収できたことを意味する。
【0113】
目的のタンパク質の合成、遠心処理やろ過処理等を伴う前記タンパク質の精製、また、前記タンパク質の製剤化においては、一般的に、緩衝液等の水性溶媒に対して、前記タンパク質の可溶化が利用される。このため、前記タンパク質の溶解度が高い程、例えば、回収における前記タンパク質のロスが防止され、また、取扱性にも優れることとなる。本発明のガレクチン9改変体は、前述のように優れた溶解度であることから、同様の生理活性を有する前記安定化ガレクチン9よりも、タンパク質の製造、精製および製剤化等において優れているといえる。
【0114】
図4に、前記(1−2)で調製した欠失・置換型のガレクチン9改変体および前記(1−1)で調製した欠失型のガレクチン9改変体の濃度を示す。
図4において、Aは、調製直後の被検サンプルの結果であり、Bは、保存3ヶ月後の被検サンプルの結果である。
図4において、縦軸は、前記被検サンプルにおける前記ガレクチン9改変体の濃度(μg/ml)であり、前記ガレクチン9改変体は、2回の発現実験の平均値を示し、前記安定化ガレクチン9は、12回の平均値と標準偏差を示した。
【0115】
図4に示すように、調製直後の被検サンプルの場合、欠失・置換型のガレクチン9改変体であるmC9−HP、mC10−1P1A1、mC10−1P1A2、mC10−HPAP、mC10−HPPY、mC11−APおよびmC11−PPは、安定化ガレクチン9と比較して、タンパク質濃度が高かった。また、3ヵ月保存後の被検サンプルの場合、欠失・置換型のガレクチン9改変体であるmC10−HPAP、mC10−HPPYおよびmC11−APは、安定化ガレクチン9と比較して、タンパク質濃度も高かった。
【0116】
また、
図4に示すように、調製直後の被検サンプルの場合、欠失・置換型のガレクチン9改変体であるmC10−HPAP、mC10−HPPY、mC11−APおよびmC11−PPは、それぞれ対応する欠失型のガレクチン9改変体と比較して、タンパク質濃度が高かった。また、3ヵ月保存後の被検サンプルにおいても、欠失・置換型のガレクチン9改変体であるmC10−HPPYおよびmC11−APは、それぞれ対応するガレクチン9改変体と比較して、タンパク質濃度が高かった。中でも、3ヶ月保存後の被検サンプルで比較した場合、欠失型のmC10に対して、プロリン残基が保存され且つチロシン残基がプロリン残基に置換された欠失・置換型のmC10−HPPYは、タンパク質濃度が約3.3倍に増加した。また、欠失型のmC11に対して、プロリン−アラニンがアラニン−プロリンに置換された欠失・置換型のmC11−APは、タンパク質濃度が約2.2倍に増加した。この結果から、前記CCRDのN末端領域が、配列番号3の12番目または15番目および17番目のプロリン残基を保存し、さらに、プロリン残基への置換を有することによって、ガレクチン9改変体の溶解性をより向上できることがわかった。
【0117】
(3)Jurkat細胞に対する、ガレクチン9改変体の細胞死誘導活性の測定
RPMI1640−10%FBS培地中で培養したJurkat細胞を遠心分離により回収し、3x10
4細胞/90μLの濃度となるように新たな培地に懸濁した。得られた懸濁液を、96ウェルプレートに1ウェルあたり90μL播種した。そして、炭酸ガス培養器中で3時間培養した後、ガレクチン9改変体を含むサンプル10μLを各ウェルに加えた。前記サンプルは、各ウェルにおける前記ガレクチン9改変体の濃度が、0.01、0.03、0.1、0.3、1μmol/Lとなるように、前記(1)の各ガレクチン9改変体をPBSで希釈して調製した。つぎに、24時間培養した後、10μLのWST−8試薬を各ウェルに加えて、さらに3時間培養した。そして、10μLの1.2%SDSを各ウェルに加えて、マイクロプレートリーダーを使用して、各ウェルの450nmおよび620nmにおける吸光度を測定し、450nmおよび620nmにおける吸光度の差を算出した。このアッセイは、3ウェルを一組として行った。また、コントロールとして、前記サンプルに代えて10μlのPBSを添加し、同様の測定を行った。そして、コントロールの算出値を100%として、前記サンプルを添加した場合の算出値について、相対値(%)を求めた。この相対値を、細胞数を示す値とした。
【0118】
また、比較例として、前記ガレクチン9改変体に代えて、前記安定化ガレクチン9(G9Null)を使用し、同様にして細胞数の測定を行った。
【0119】
この結果から、ガレクチン9改変体および安定化ガレクチン9が、Jurkat細胞の数を50%減少させる濃度(LD50)を求め、安定化ガレクチン9のLD50を100%とした時の、各ガレクチン9改変体の相対値(%)を比活性として求めた。この結果を、下記表7に示す。
【0120】
【表7】
【0121】
表7に示すように、前記ガレクチン9改変体は、安定化ガレクチン9(G9Null)と比較して、Jurkat細胞に対する細胞死誘導活性が有意に高かった。この結果から、十分に安定化ガレクチン9の生理活性を維持し、且つ、前述のように溶解性にも優れるガレクチン9改変体であることがわかった。
【0122】
(4)プロテアーゼ安定性
前記(2)で調製したガレクチン9改変体mC10−HPPYについて、ヒト組織中に存在するプロテアーゼに対する安定性を確認した。
【0123】
0.06mg/mLとなるように、ガレクチン9改変体を150mmol/LのNaClと1mmol/LのCaCl
2を含む100mmol/LのTris−HCl(pH8.0)に溶解し、さらにプロテアーゼを混合し、37℃でインキュベートした。ガレクチン9変異体(G)に対するプロテアーゼ(P)の添加割合は、重量比でG:P=100:1とした。プロテアーゼは、エラスターゼ(商品名Elastase、Elastin Products Company, Inc.社製)またはマトリックスメタロプロテイナーゼ−3(MMP−3、商品名Matrix Metalloproteinase−3、Biogenesis社製)を使用した。MMP−3は、使用前に20mmol/LのAminophenyl mercuric acetateによる活性化処理(37℃、8時間)を行った。インキュベータ中に経時的にサンプリングを行い、各サンプルについてSDS−PAGEを行い、クマシーブリリアントブルーR−250で染色した。また、比較例として、ガレクチン9改変体に代えて、野生型ガレクチン9標品(G9S、配列番号131のアミノ酸配列)または前記(2)で作製した安定化ガレクチン9(G9Null)を使用した。
【0124】
図5に、SDS−PAGEの写真を示す。
図5において、Aは、エラスターゼを使用した結果であり、Bは、MMP−3を使用した結果である。
図5において、レーンMは、分子量マーカーである。
図5のAおよびBに示すように、野生型G9Sは、インキュベート開始から0.5時間で、すでに分解が確認され、2時間で大部分が分解された。これに対して、ガレクチン9改変体であるmC10−HPPYは、国際公開第WO2005/093064号においてプロテアーゼ安定性が確認されている安定化ガレクチン9と同様に、2時間のインキュベートによっても分解は確認されなかった。この結果から、mC10−HPPYは、プロテアーゼ安定性にも優れることが確認された。なお、他のガレクチン9改変体についても同様である。
【0125】
以上のように、本発明のガレクチン9改変体は、安定化ガレクチン9よりも溶解性に優れ、野生型ガレクチン9の生理活性を維持し、且つ、野生型ガレクチンよりもプロテアーゼ安定性に優れることが確認された。具体的には、前記(2)に示すように、いずれのガレクチン9改変体も、安定化ガレクチン9と比較して、溶解性(すなわち収率)が有意に増加し、中でも、mC10、mC11、mC12、mC10−HPPY、mC10−HPAPおよびmC11−APは、安定化ガレクチン9と比較して、5倍以上の増加を示した。特に、mC10−HPPYは、PBS中で、少なくとも2.5mg/mLの濃度まで安定に存在でき、これは、安定化ガレクチン9の約7倍の濃度であることが確認できた。また、前記(3)に示すように、いずれのガレクチン9改変体も、野生型ガレクチン9の生理活性の一つである、Jurkat細胞に対する細胞死誘導活性を示し、中でも、mC10、mC11、mC12、mC10−HPPY、mC10−HPAPおよびmC11−APは、安定化ガレクチン9と比較して、2〜2.5倍の活性を示した。さらに、前記(4)に示すように、ガレクチン9改変体は、野生型ガレクチン9よりも有意なプロテアーゼ安定性を示した。これらの結果から、前記ガレクチン9改変体は、生産性が高い医薬原料として優れた性質を備えており、中でも、mC10−HPPYは、極めて優れた性質を備えているといえる。
【0126】
[実施例2]
前記ガレクチン9改変体について、長期保存による溶解性への影響およびRBL−2H3細胞に対する、ガレクチン9改変体の脱顆粒抑制活性を確認した。
【0127】
(1)長期保存時の溶解性への影響
前記ガレクチン9改変体を、4℃で約1年間(344日間)保存した後、この長期保存による溶解性への影響を確認した。
【0128】
前記実施例1(2)で調製したろ過滅菌済の調製直後の被検サンプル(前記ガレクチン9改変体)を、4℃で約1年間(344日間)保存した。前記被検サンプルのタンパク質濃度は、それぞれ、mC10−HPPYが1.88mg/mL、mC10−HPAPが1.16mg/mL、mC11−APが1.14mg/mLに調整した。つぎに、保存後の前記被検サンプルを25,000xgで20分間遠心分離して、不溶物を除去し、上清を回収した。1年保存後の前記被検サンプルについて、280nmの吸光度を測定してタンパク質濃度を算出した。そして、保存前の被検サンプルにおけるガレクチン9改変体のタンパク質濃度を100%として、保存後の被検サンプルにおけるガレクチン9改変体のタンパク質濃度について、相対値(%)を求めた。これらの結果を下記表8に示す。
【0129】
【表8】
【0130】
表8に示すように、mC10−HPPYおよびmC10−HPAPは、約1年間の保存後も、タンパク質濃度がほとんど変化せず、長期保存後においても、優れた溶解性を維持できることがわかった。
【0131】
(2)RBL−2H3細胞に対する、ガレクチン9改変体の脱顆粒抑制活性の測定
RPMI1640−10%FBS培地中で培養したRBL−2H3細胞をトリプシン処理により回収し、2x10
4細胞/100μLの濃度となるように新たな培地に懸濁した。得られた懸濁液を、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μL播種した後、炭酸ガス培養器中で24時間培養した。
【0132】
活性測定用緩衝液(20mmol/L HEPES−NaOH(pH7.5)、1mg/mLウシ血清アルブミンを含むハンクス平衡塩類溶液)で各ウェルを一度洗浄し、1ウェルあたり90μLの前記活性測定用緩衝液を加え、さらに前記ガレクチン9改変体を含むサンプル10μLを加えた。前記サンプルは、各ウェルにおける前記ガレクチン9改変体の濃度が、0.1、0.25、0.5、0.75、1μmol/Lとなるように、前記実施例1(1)の各ガレクチン9改変体をPBSで希釈して調製した。つぎに、10分間静置した後、各ウェルにおける濃度が、それぞれ0.3μg/mLおよび0.048μg/mLとなるように、抗2,4,6−トリニトロフェニル(TNP)マウスモノクローナル抗体(IgE)とTNP−標識ウシ血清アルブミンとを加え、1時間培養した。そして、前記各ウェルから培地を回収した後、0.1%Triton X−100で培養した細胞を可溶化し、回収した培地中および細胞可溶化液中のβ−hexosaminidase(β−HEX)活性を測定した。前記培地中および前記細胞可溶化液中のβ−HEX活性の合計を総β−HEX活性とし、前記総β−HEX活性に対する培地中のβ−HEX活性の割合(%)を求めた。この割合を、脱顆粒の指標とした。このアッセイは、3ウェルを一組として行った。
【0133】
また、コントロールとして、前記サンプルに代えて10μLのPBSを、比較例として、前記ガレクチン9改変体に代えて、前記実施例1の前記安定化ガレクチン9(G9Null)を添加し、同様の測定を行った。
【0134】
この結果から、前記ガレクチン9改変体および前記安定化ガレクチン9が、RBL−2H3細胞の脱顆粒を50%減少させる濃度(LD50)を求め、前記安定化ガレクチン9のLD50を100%として、各ガレクチン9改変体の相対値(%)を求め、これを脱顆粒抑制活性(%)とした。これらの結果を下記表9に示す。
【0135】
【表9】
【0136】
表9に示すように、各ガレクチン9改変体は、前記安定化ガレクチン9(G9Null)と同様にRBL−2H3細胞に対する脱顆粒抑制活性を示した。中でも、mC8、mC9、mC10、mC11、mC12、mC13、mC10−HPPY、mC10−HPAPおよびmC11−APは、前記安定化ガレクチン9(G9Null)と比較して、有意に高い脱顆粒抑制活性を示した。これらの結果から、前記ガレクチン9改変体は、十分に前記安定化ガレクチン9の生理活性を維持していることがわかった。
【0137】
以上のように、本発明のガレクチン9改変体は、長期保存後も、優れた溶解性を維持することが確認された。また、本発明のガレクチン9改変体は、野生型ガレクチン9の生理活性を維持していることが確認された。具体的には、前記(1)に示すように、いずれのガレクチン9改変体も、約1年間の保存後も、タンパク質濃度がほとんど変化せず、長期保存後においても、優れた溶解性を維持した。また、前記(2)に示すように、いずれのガレクチン9改変体も、前記野生型ガレクチン9の生理活性の一つである、RBL−2H3細胞に対する脱顆粒抑制活性を維持し、中でも、mC8、mC9、mC10、mC11、mC12、mC13、mC10−HPPY、mC10−HPAPおよびmC11−APは、前記安定化ガレクチン9と比較して1.5〜2.5倍の活性を示した。これらの結果から、前記ガレクチン9改変体は、安定性が高い医薬原料として優れた性質を備えているといえる。
【0138】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0139】
この出願は、2012年11月20日に出願された日本出願特願2012−254349を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。