特許第5889020号(P5889020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5889020電池を充電するコンバータのコントローラおよびその制御方法、制御用プログラム、キャリブレーション方法、キャリブレーション用プログラム、ならびにそれらを用いた充放電検査装置および充電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889020
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】電池を充電するコンバータのコントローラおよびその制御方法、制御用プログラム、キャリブレーション方法、キャリブレーション用プログラム、ならびにそれらを用いた充放電検査装置および充電装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20160308BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   H02M3/155 H
   H02J7/10 H
   H02J7/10 B
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-23455(P2012-23455)
(22)【出願日】2012年2月6日
(65)【公開番号】特開2013-162653(P2013-162653A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】日置 一弥
【審査官】 鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−156938(JP,A)
【文献】 特開2009−033805(JP,A)
【文献】 特開平07−255177(JP,A)
【文献】 特開2011−229261(JP,A)
【文献】 特開2010−148173(JP,A)
【文献】 特開2010−120453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00− 3/44
H02J 7/00− 7/12
H02J 7/34− 7/36
G05B 1/00− 7/04
G05B11/00−13/04
G05B17/00−17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングすることにより電池を充電するコンバータのコントローラであって、
充電電流の観測値と目標値の偏差の比例・積分要素を加算したPI制御値と、フィードフォワード値を加算して前記制御指令値を生成する演算部を備え、
前記フィードフォワード値PFFは、充電電流の目標値I、電池の電圧Vおよび所定の係数a、b、c(a、b、cは実数で、少なくとも係数a,bは非ゼロ)を用いて、式(1)
FF=a×I+b×V+c …(1)
で与えられることを特徴とするコントローラ。
【請求項2】
前記フィードフォワード値をゼロとして、目標値Iと電池電圧Vが異なる3つの状態で前記電池を充電し、それぞれのPI制御値P〜Pを取得し、異なるI、Vに対して得られる3元1次連立方程式
=a×IR1+b×V+c
=a×IR2+b×V+c
=a×IR3+b×V+c
を解くことにより、係数a、b、cが算出されることを特徴とする請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
前記コンバータは、前記制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングすることにより前記電池を放電可能に構成され、
係数a、b、cは、充電時と放電時で別々の値が用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のコントローラ。
【請求項4】
前記演算部は、
前記充電電流の観測値と目標値の偏差を生成する減算器と、
前記偏差に所定の比例ゲインを乗じた第1の値を生成する乗算器と、
前記偏差の積分値に所定の積分ゲインを乗じた第2の値を生成する積分器と、
前記第1の値と前記第2の値と前記フィードフォワード値を加算し、前記制御指令値を生成する加算器と、
を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項5】
負荷として電池が接続され、制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングするコンバータと、
前記コンバータに前記制御指令値を出力する請求項1から4のいずれかに記載のコントローラと、
を備えることを特徴とする充電装置。
【請求項6】
負荷として電池が接続され、制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングするコンバータと、
前記コンバータに前記制御指令値を出力する請求項3に記載のコントローラと、
を備えることを特徴とする充放電検査装置。
【請求項7】
制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングすることにより電池を充電するコンバータの制御方法であって、
充電電流の観測値を取得するステップと、
前記充電電流の観測値と目標値の偏差の比例・積分要素を加算したPI制御値と、フィードフォワード値を加算して前記制御指令値を生成するステップと、
前記充電電流の目標値I、前記電池の電圧Vおよび所定の係数a、b、c(a、b、cは実数で、少なくとも係数a,bは非ゼロ)を用いて、式(1)
FF=a×I+b×V+c …(1)
で与えられるフィードフォワード値を算出するステップと、
前記PI制御値と前記フィードフォワード値を加算して前記制御指令値を算出するステップと、
を備えることを特徴とする制御方法。
【請求項8】
制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングすることにより電池を充電するコンバータを制御するコンピュータの制御用プログラムであって、
前記コンピュータに、
充電電流の観測値を取得するステップと、
前記充電電流の観測値と目標値の偏差の比例・積分要素を加算したPI制御値と、フィードフォワード値を加算して前記制御指令値を生成するステップと、
前記充電電流の目標値I、前記電池の電圧Vおよび所定の係数a、b、c(a、b、cは実数で、少なくとも係数a,bは非ゼロ)を用いて、式(1)
FF=a×I+b×V+c …(1)
で与えられるフィードフォワード値を算出するステップと、
前記PI制御値と前記フィードフォワード値を加算して前記制御指令値を算出するステップと、
を実行させることを特徴とする制御用プログラム。
【請求項9】
制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングすることにより電池を充電するコンバータのコントローラのキャリブレーション方法であって、
前記コントローラは、充電電流の観測値と目標値の偏差の比例・積分要素を加算したPI制御値と、フィードフォワード値を加算して前記制御指令値を生成する演算部を備え、
前記フィードフォワード値PFFは、充電電流の目標値I、電池の電圧Vおよび所定の係数a、b、c(a、b、cは実数で、少なくともひとつが非ゼロ)を用いて、式(1)
FF=a×I+b×V+c …(1)
で与えられ、
前記キャリブレーション方法は、
前記フィードフォワード値をゼロとして、目標値Iと電池電圧Vが異なる3つの状態で前記電池を充電し、それぞれの制御指令値P〜Pを取得するステップと、
異なるI、Vに対して得られる3元1次連立方程式
=a×IR1+b×V+c
=a×IR2+b×V+c
=a×IR3+b×V+c
を解くことにより、係数a、b、cを算出するステップと、
を備えることを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項10】
制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングすることにより電池を充電するコンバータを制御するコンピュータのキャリブレーション用プログラムであって、
前記コンピュータは、前記コンバータの通常充電時において、
充電電流の観測値を取得するステップと、
前記充電電流の観測値と目標値の偏差の比例・積分要素を加算したPI制御値と、フィードフォワード値を加算して前記制御指令値を生成するステップと、
前記充電電流の目標値I、前記電池の電圧Vおよび所定の係数a、b、c(a、b、cは実数で、少なくともひとつが非ゼロ)を用いて、式(1)
FF=a×I+b×V+c …(1)
で与えられるフィードフォワード値を算出するステップと、
を実行するよう構成され、
前記キャリブレーション用プログラムは、前記コンピュータに、
前記フィードフォワード値をゼロとして、目標値Iと電池電圧Vが異なる3つの状態で前記電池を充電し、それぞれの制御指令値P〜Pを取得するステップと、
異なるI、Vに対して得られる3元1次連立方程式
=a×IR1+b×V+c
=a×IR2+b×V+c
=a×IR3+b×V+c
を解くことにより、係数a、b、cを算出するステップと、
を実行させることを特徴とするキャリブレーション用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池を充電するコンバータのコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、ニッケル水素電池をはじめとする繰り返し充電可能な2次電池が広く利用されている。2次電池はその出荷前に、充放電検査装置を用いて正常に機能するかが検査される。また出荷後においては、ユーザによって充電装置によって充電される。
【0003】
2次電池は、はじめに一定電流で充電する方式(定電流充電)によって充電され、その後2次電池が満充電状態に近づくと、端子電圧が一定となるように充電する方式(定電圧充電)によって充電される。充電装置や充放電検査装置の最終段には、DC/DCコンバータ(昇降圧コンバータ)が設けられる。定電流充電では、DC/DCコンバータの出力電流(充電電流)が一定となるようにフィードバック制御され、定電圧充電では、DC/DCコンバータの出力電圧が一定となるようにフィードバック制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−247090号公報
【特許文献2】特開2007−157355号公報
【特許文献3】特開2010−178443号公報
【特許文献4】特開2010−57232号公報
【特許文献5】特開2006−94662公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、本発明者らが検討した充放電検査装置および電池を有するシステムのブロック図である。充放電検査装置は、主としてDC/DCコンバータと、そのコントローラで構成される。DC/DCコンバータには負荷として電池が接続され、入力された制御指令値に応じたデューティ比でスイッチング可能に構成される。コントローラは、充電電流Iを入力とするPI(Proportional Integral)制御によって、出力である制御指令値を生成する。G(s)はDC/DCコンバータの電流出力特性であり、G(s)は電池の応答特性である。
【0006】
充電電流Iの目標値I、比例ゲインK、積分ゲインKを用いると、コントローラの出力である制御値Pは、
P=(I−I)×(K+K/s)
で与えられる。I−Iは偏差である。
【0007】
図2は、充電開始直後の充電電流Iの波形図である。実線は、PI制御を行った場合の波形を示す。PI制御では、充電電流Iが目標値Iに達するまでに遅延が生ずる。典型的な充放電検査装置と電池の組み合わせでは、この遅延は数秒程度となる。この遅延時間の間は、定電流充電が行われないこととなり、充放電検査装置では遅延をゼロとすることが要求される。また一般的な充電装置においてもかかる遅延はゼロであることが望まれる。
【0008】
遅延時間を低減するために、フィードフォワードが併用される場合がある(特許文献1等参照)。フィードフォワード制御は、PI制御値に、フィードフォワード値PFFを加算することにより、制御指令値を生成する。図2には、フィードフォワードを行った場合の波形が破線で示される。このようにフィードフォワードは応答性の改善に有用であるが、フィードフォワード制御の適切なパラメータの決定には、以下の困難がともなう。
すなわちパラメータの決定には、電池およびDC/DCコンバータそれぞれの特性G(s)、G(s)を解析する必要がある。具体的には、電池およびDC/DCコンバータの内部構造を理解した上で、電池およびDC/DCコンバータをモデリングし、実際の電池およびDC/DCコンバータをモデリングコンバータの特性とのフィッティングによって、G(s)、G(s)を取得する。
【0009】
この作業には膨大な時間を要する。また特性G(s)、G(s)が取得できたとしても、モデリングの誤差や測定誤差により、正しいパラメータが得られないこともある。
【0010】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、簡素なパラメータによってフィードフォワード制御が可能な充電装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様は、電池を充電するコンバータのコントローラに関する。コンバータは、制御指令値に応じたデューティ比でスイッチング可能に構成される。コントローラは、充電電流の観測値と目標値の偏差の比例・積分要素を加算したPI制御値と、フィードフォワード値を加算して制御指令値を生成する演算部を備える。フィードフォワード値PFFは、充電電流の目標値IR、電池の電圧Vおよび所定の係数a、b、c(a、b、cは実数で、少なくともひとつが非ゼロ)を用いて、式(1)で与えられる。
FF=a×I+b×V+c …(1)
【0012】
式(1)は、本発明者らがさまざまな電池に対して検討を行った結果、経験的に見いだしたものである。この態様によると、たかだか3個のパラメータa、b、cを用いてフィードフォワード制御を行うことが可能となる。さらにパラメータa、b、cは、簡単なキャリブレーションによって決定することが可能であり、電池やコンバータの解析、モデリング、フィッティングが不要である。
【0013】
式(1)から明らかなように、電池電圧の範囲、充電電流の範囲に応じて、フィードフォワード値の支配的な項は異なる。したがって支配的な項に対応する係数が非ゼロであれば、無視しうる残りの項に対応する係数はゼロであってもよい。つまりフィードフォワード値は、以下の式(1a)〜(1f)で与えられてもよい。
FF=a×I …(1a)
FF=a×I+b×V …(1b)
FF=a×I +c …(1c)
FF= b×V …(1d)
FF= b×V+c …(1e)
FF= c …(1f)
【0014】
パラメータa、b、cは以下のように決定してもよい。
ステップ1) フィードフォワード値をゼロとして、目標値Iと電池電圧Vが異なる3つの状態で電池を充電し、それぞれのPI制御値P〜Pを取得する。
ステップ2) 異なるI、Vに対して得られる3元1次連立方程式
=a×IR1+b×V+c
=a×IR2+b×V+c
=a×IR3+b×V+c
を解くことにより、係数a、b、cを算出する。
【0015】
コンバータは、制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングすることにより電池を放電可能に構成されてもよい。係数a、b、cは、充電時と放電時で別々の値が用いられてもよい。
【0016】
演算部は、充電電流の観測値と目標値の偏差を生成する減算器と、偏差に所定の比例ゲインを乗じた第1の値を生成する乗算器と、偏差の積分値に所定の積分ゲインを乗じた第2の値を生成する積分器と、第1の値と第2の値とフィードフォワード値を加算し、制御指令値を生成する加算器と、を含んでもよい。
【0017】
本発明の別の態様は、充電装置に関する。充電装置は、負荷として電池が接続され、制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングするコンバータと、コンバータに制御指令値を出力する上述のいずれかのコントローラと、を備える。
【0018】
本発明の別の態様は、充放電検査装置に関する。充放電検査装置は、負荷として電池が接続され、制御指令値に応じたデューティ比でスイッチングするコンバータと、コンバータに前記制御指令値を出力する上述のいずれかのコントローラと、を備える。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡素なパラメータによってフィードフォワード制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明者らが検討した充放電検査装置および電池を有するシステムのブロック図である。
図2】充電開始直後の充電電流の波形図である。
図3】実施の形態に係る充放電検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
図3は、実施の形態に係る充放電検査装置2の全体構成を示すブロック図である。充放電検査装置2は、検査対象の2次電池1を充電し、あるいは放電することにより、2次電池1の電気的特性が仕様を満たしているかを検査する。2次電池1は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池などが例示されるが、特に限定されない。
【0024】
充放電検査装置2は、回生コンバータ4、双方向コンバータ6、昇降圧コンバータ8、およびコントローラ10を備える。
【0025】
回生コンバータ4の1次側(P)は商用交流電源に電気的に連結され、商用交流電圧を整流平滑化することにより、その2次側(S)に直流電圧V1を発生させる。回生コンバータ4は、双方向コンバータ6からの電圧V1を受け、三相交流電圧に変換することにより、2次電池1に蓄えられたエネルギーを商用交流電源に回収する。すなわち回生コンバータ4は、1次側(P)と2次側(S)との間で双方向にエネルギーを授受できるように構成される。
【0026】
双方向コンバータ6もまた、1次側(P)と2次側(S)との間で双方向にエネルギーを授受できるように構成される。双方向コンバータ6は、充電時には1次側の電圧V1を降圧して第2電圧V2を生成し、DC/DCコンバータ8に供給する。放電時には、2次側の電圧V2を昇圧して1次側に第1電圧V1を生成し、DC/DCコンバータ8からのエネルギーを回生コンバータ4に戻す。
【0027】
DC/DCコンバータ8は、いわゆる昇降圧コンバータであり、負荷として試験対象の2次電池1が接続される。DC/DCコンバータ8は充電動作時には、双方向コンバータ6からの電圧V2を受け、それを降圧して2次電池1を充電する。放電動作時には、DC/DCコンバータ8は2次電池1の電池電圧Vbatを受け、それを電圧V2に昇圧して双方向コンバータ6に戻す。
【0028】
コントローラ10は、回生コンバータ4、双方向コンバータ6、DC/DCコンバータ8それぞれの動作を制御する。具体的には、コントローラ10は、回生コンバータ4および双方向コンバータ6それぞれの電力伝送の方向を制御する。また、コントローラ10は、DC/DCコンバータ8を制御することにより、2次電池1を定電流充電、または定電圧充電し、あるいは定電流放電する。
【0029】
DC/DCコンバータ8は、コントローラ10からの制御指令値Pに応じたデューティ比でスイッチングすることにより、2次電池1を充電し、または放電可能に構成される。DC/DCコンバータ8は、ハイサイドトランジスタM1、ローサイドトランジスタM2、インダクタL1、ドライバ9を備える。
ハイサイドトランジスタM1とローサイドトランジスタM2は、入力ラインLINと接地ラインLGNDの間に順に直列に設けられる。インダクタL1は、ハイサイドトランジスタM1とローサイドトランジスタM2の接続点と、出力ラインLOUTの間に設けられる。
ドライバ9は、制御指令値Pに応じたデューティ比のパルス信号を生成し、パルス信号にもとづき、ハイサイドトランジスタM1およびローサイドトランジスタM2を相補的にスイッチングする。
【0030】
なお、充放電検査装置2の構成は図3のそれには限定されず、別の構成であってもよい。
【0031】
コントローラ10には、現在の充電電流ICHGを示す観測値Iと、現在の2次電池1の電圧Vbatを示す値Vが入力される。
【0032】
定電流充電を行うコントローラ10の機能、ブロック図は、図1に示した通りであり、PI制御とフィードフォワード制御を併用することにより、制御指令値Pを生成し、DC/DCコンバータ8に出力する。すなわちコントローラ10は、充電電流の観測値Iと目標値Iの偏差(I−I)の比例要素K(I−I)と、積分要素K(I−I)/sを加算したPI制御値PPIと、フィードフォワード値PFFを加算して制御指令値Pを生成する演算部を備える。
【0033】
演算部は、充電電流ICHGの観測値と目標値Iの偏差を生成する減算器と、偏差に所定の比例ゲインKを乗じた第1の値を生成する乗算器と、偏差の積分値(1/s)に所定の積分ゲインKを乗じた第2の値を生成する積分器と、第1の値と第2の値とフィードフォワード値PFFを加算し、制御指令値Pを生成する加算器と、を備える。
【0034】
演算部は、専用に設計されたデジタル回路であってもよいし、プログラム制御されるコンピュータのプロセッサであってもよく、その形態は特に限定されない。
【0035】
本実施の形態において、フィードフォワード値PFFは、充電電流ICHGの目標値I、2次電池1の電圧Vおよび所定の係数a、b、cを用いて、式(1)で与えられる。
FF=a×I+b×V+c …(1)
係数a、b、cは実数で、少なくともひとつが非ゼロに定められる。
【0036】
式(1)は、本発明者らがさまざまな電池に対して検討を行った結果、経験的に見いだしたものである。本実施の形態に係るコントローラ10によれば、たかだか3個のパラメータa、b、cを用いてフィードフォワード制御を行うことが可能となる。
さらにパラメータa、b、cは、簡単なキャリブレーションによって決定することが可能であり、従来必要であった電池やコンバータの解析、モデリング、フィッティングが不要であるという利点を有する。
【0037】
続いて、パラメータa、b、cの決定について説明する。パラメータa、b、cは以下のキャリブレーション処理よって決定することができる。キャリブレーション処理は、2次電池1の種類ごとに行われる。
【0038】
はじめに代表的な2次電池1のサンプルを選定し、充放電検査装置2に接続する。そして、フィードフォワード値PFFをゼロとして、目標値Iと電池電圧Vが異なる3つの状態(IR1、V)、(IR2、V)、(IR3、V)で、2次電池1を充電し、それぞれのPI制御値P〜Pを取得する。
【0039】
(IR1、V)、(IR2、V)、(IR3、V)の組み合わせは任意であるが、充電電流の上限値、下限値、電池電圧の下限値、上限値の中から組み合わせることにより、推定精度を高めることができる。たとえば定電流充電を行う際の充電電流の目標値の範囲が1A〜90Aであり、電池電圧が2.8V〜3.8Vである場合、
(I、V)=(90A、2.8V)、(1A、2.8V)、(1A、3.8V)
のように決めればよい。
【0040】
3回の測定によって、3元1次連立方程式が得られる。
=a×IR1+b×V+c
=a×IR2+b×V+c
=a×IR3+b×V+c
この連立方程式を解くことにより、係数a、b、cを算出できる。
【0041】
定電流放電時のパラメータa、b、cは、定電流充電時のパラメータa、b、cとは別に決定される。放電時のパラメータa、b、cは、充電時のそれらと同様に決定できる。すなわち、(I、V)の組み合わせを変えながら、充放電検査装置2によって2次電池1のサンプルを放電し、組み合わせごとの制御指令値を取得すればよい。
【0042】
従来技術では、フィードフォワードの式およびパラメータを決定するためには膨大な時間を要することになる。これに対して、このキャリブレーションでは、充電と放電を1サイクル実行すれば、パラメータa、b、cを決定することができる。
【0043】
なお、パラメータa、b、cは、必ずしもこのキャリブレーションによって決定される必要はなく、数値解析や別の実験によって定めてもよい。
【0044】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0045】
式(1)で与えられるフィードフォワード値PFFは、充電電流ICHGが大きな領域では、第1項a×Iが支配的となり、電池電圧Vbatが大きな領域では、第2項b×Vが支配的となり、充電電流ICHG、電池電圧Vbatがともに小さな領域では、第3項cが支配的となりうる。つまり電池電圧Vbatおよび充電電流ICHGの範囲に応じて、支配的な項が異なる。
【0046】
したがってある限られた範囲においてのみ充放電を行う場合には、支配的な項に対応する係数が非ゼロであればよく、無視しうる残りの項に対応する係数はゼロであってもよい。つまりフィードフォワード値は、以下の式(1a)〜(1f)で与えられてもよい。
FF=a×I …(1a)
FF=a×I+b×V …(1b)
FF=a×I +c …(1c)
FF= b×V …(1d)
FF= b×V+c …(1e)
FF= c …(1f)
【0047】
実施の形態では、2次電池1を充放電する充放電検査装置2を例に説明したが、本発明の適用範囲はそれに限定されない。近年、一般家庭用の蓄電池が普及を見せており、あるいは車載用の蓄電池からの電力を、家電製品に供給する試みがなされている。実施の形態に係るコントローラは、そのような用途の充電装置にも適用できる。
【0048】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0049】
1…2次電池、2…充放電検査装置、4…回生コンバータ、6…双方向コンバータ、8…DC/DCコンバータ、M1…ハイサイドトランジスタ、M2…ローサイドトランジスタ、L1…インダクタ、9…ドライバ、10…コントローラ。
図1
図2
図3