特許第5889034号(P5889034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミネベア株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000002
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000003
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000004
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000005
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000006
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000007
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000008
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000009
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000010
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000011
  • 特許5889034-リニアアクチュエータ 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889034
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】リニアアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/06 20060101AFI20160308BHJP
   H02K 37/14 20060101ALI20160308BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20160308BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   H02K7/06 A
   H02K37/14 K
   F16H25/22 Z
   F16H25/24 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-34678(P2012-34678)
(22)【出願日】2012年2月21日
(65)【公開番号】特開2013-172541(P2013-172541A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】中村 学
(72)【発明者】
【氏名】松原 真朗
【審査官】 下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−022912(JP,U)
【文献】 特開2008−045577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/06
F16H 25/22
F16H 25/24
H02K 37/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋溝が形成された出力軸と、
前記出力軸を内側に納める円筒形状を有し、その内周面の前記螺旋溝に沿った位置に点状に配置された複数の凹部を備えたリテーナと、
前記リテーナに固定されたロータマグネットと
前記複数の凹部のそれぞれに保持され、前記リテーナが回転すると前記凹部に保持された状態で前記出力軸の前記螺旋溝に沿って移動するボールと
を備えたリニアアクチュエータであって、
軸方向の前後から前記リテーナの外周に装着された筒形状を有する一対のスリーブを備え、
前記一対のスリーブの互いに向き合う端の縁の部分には、凹凸構造が設けられており、
前記リテーナの外周には、前記凹凸構造に嵌る突起部が設けられていることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記リテーナは複数に分割可能な構造を有することを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記一対のスリーブそれぞれの端の縁の部分に設けられた前記凹凸構造同士は、凹部と凹部、凸部と凸部が対向した状態で前記リテーナに接着剤を用いて固定され、
前記凹部と凹部が対向した部分の隙間が前記接着剤の接着剤溜りとして機能することを特徴とする請求項1または2に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項4】
前記リテーナは、周方向に分割された第1のリテーナ片、第2のリテーナ片および第3のリテーナ片により構成され、
前記第1のリテーナ片と前記第2のリテーナ片とは同じ部材であり、
前記第3のリテーナ片には、前記一対のスリーブそれぞれにおける対向する凹凸構造に接触し、前記対向する凹凸構造同士の位置合わせ、および前記一対のスリーブの回転止めとして機能する前記突起部が設けられていることを特徴とする請求項に記載のリニアアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータの回転運動を出力軸の直線運動に変換して出力するリニアアクチュエータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−354858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のリニアアクチュエータは、出力軸に雄ネジを設け、受け側にナット構造の雌ネジを設け、その噛み合わせによって回転運動を軸方向の直線運動に変換している。この構造では、ネジ部の摩擦抵抗が大きいために効率が悪く、モータのトルクが出力軸に効果的に伝わらない。
【0005】
この問題に対応する構造として、ボールネジ構造の直動システムが考えられる。この構造では、シャフトにボールネジを切り、またナット部にあたる部分にもボール溝を形成し、ボール溝にボールを保持させることで、小さなトルクでもシャフトの直進運動が行えるようにしている。しかしながら、この構造は、ロータの内側に螺旋状のボール溝を高い精度で形成する必要があるので、加工コストが高く、高コストとなる。
【0006】
このような背景において、本発明は、ロータ内径側にボール溝を形成することなくボールネジ構造を有したリニアアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、螺旋溝が形成された出力軸と、前記出力軸を内側に納める円筒形状を有し、その内周面の前記螺旋溝に沿った位置に点状に配置された複数の凹部を備えたリテーナと、前記リテーナに固定されたロータマグネットと、前記複数の凹部のそれぞれに保持され、前記リテーナが回転すると前記凹部に保持された状態で前記出力軸の前記螺旋溝に沿って移動するボールとを備えたリニアアクチュエータであって、軸方向の前後から前記リテーナの外周に装着された筒形状を有する一対のスリーブを備え、前記一対のスリーブの互いに向き合う端の縁の部分には、凹凸構造が設けられており、前記リテーナの外周には、前記凹凸構造に嵌る突起部が設けられていることを特徴とするリニアアクチュエータである。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、ボールが点状に点々と配置された複数の凹面に保持されることで、ロータ内径側にボール溝を形成することなくボールネジ構造を有したリニアアクチュエータが得られる。また、リテーナとスリーブの位置関係が精度よく決まる構造が得られる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記リテーナは複数に分割可能な構造を有することを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、リテーナを分解した状態でボールをリテーナ内側の凹部に保持させることができ、リテーナにボールを組み付ける工程の作業性が向上する。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記一対のスリーブそれぞれの端の縁の部分に設けられた前記凹凸構造同士は、凹部と凹部、凸部と凸部が対向した状態で前記リテーナに接着剤を用いて固定され、前記凹部と凹部が対向した部分の隙間が前記接着剤の接着剤溜りとして機能することを特徴とする。請求項に記載の発明によれば、接着剤溜りが形成されることで、リテーナとスリーブをより強固に固着することができる。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記リテーナは、周方向に分割された第1のリテーナ片、第2のリテーナ片および第3のリテーナ片により構成され、前記第1のリテーナ片と前記第2のリテーナ片とは同じ部材であり、前記第3のリテーナ片には、前記一対のスリーブそれぞれにおける対向する凹凸構造に接触し、前記対向する凹凸構造同士の位置合わせ、および前記一対のスリーブの回転止めとして機能する前記突起部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項に記載の発明によれば、リテーナ片を構成する部品が共通化され、コスト増が抑えられる。また、第3のリテーナ片の突起部を用いて、一対のスリーブの位置合わせが行われると共に回転止めの構造が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロータ内径側にボール溝を形成することなくボールネジ構造を有したリニアアクチュエータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態のリニアアクチュエータの斜視図である。
図2】実施形態のリニアアクチュエータの分解斜視図である。
図3】実施形態のリニアアクチュエータの側断面図である。
図4】スリーブとリテーナを分離した状態を示す斜視図である。
図5】リテーナを分解した状態を示す斜視図(A)および(B)である。
図6】リテーナを軸方向から見た正面図(A)、(A)におけるA−Aの線で切断した側断面図(B)、(A)におけるB−Bの線で切断した上断面図(C)である。
図7】ロータの分解斜視図(A)と斜視図(B)である。
図8】ロータの内側に出力軸を組み付けた状態を示す斜視図である。
図9】リテーナの分解斜視図(A)および(B)である。
図10】リテーナの斜視図(A)および(B)である。
図11】リテーナにロータマグネットを装着する状態を示す斜視図(A)、軸受を装着する状態を示す斜視図(B)、軸受を装着した状態を示す斜視図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1の実施形態
(構造)
図1には、実施形態のリニアアクチュエータ100が示されている。図2(A)および(B)には、リニアアクチュエータ100を分解した状態が示されている。図3には、図1に示すリニアアクチュエータ100を軸方向で切断した側断面図が示されている。図1図3に示すリニアアクチュエータ100は、フロントハウジング101、エンドハウジング102、ステータ103、ステータ104、および出力軸150を備えている。出力軸150には、ボールネジを構成する螺旋溝150aが形成されている。出力軸150は、後述する仕組みで駆動され、フロントハウジング101に対して軸方向に移動する。出力軸150が軸方向に動くことで、リニアアクチュエータとしての機能が得られる。図1には、駆動コイル(ステータコイル)105と106、更に駆動コイル105および106を構成する巻線の端部が接続された4本の端子ピン107が示されている。端子ピン107に外部から駆動電流を供給するための配線が接続される。
【0017】
ステータ103と104は、クローポール型のステッピングモータのステータを構成するもので、磁性材料(電磁軟鉄あるいは圧延鋼板など)により構成され、軸方向に延在する極歯103a,104aを備えた筒形状を有している。ステータ103には、極歯103aと隙間を有した状態で噛み合う極歯122aを備えた内側ステータ122が組み合わされている。ステータ103と内側ステータ122との間の空間に、駆動コイル105が巻回された樹脂製のボビン108が収納されている。ステータ104には、極歯104aと隙間を有した状態で噛み合う極歯123aを備えた内側ステータ123が組み合わされている。ステータ104と内側ステータ123との間の空間に、駆動コイル106が巻回された樹脂製のボビン109が収納されている。なお、図2(A)には、コイル105,106は記載されていない。
【0018】
ボビン108,109は、端子ピン107を立設するための端子基台部108a、109aを備えている。ステータ103は、フロントハウジング101と結合し、ステータ104は、エンドハウジング102と結合している。また、ステータ104と105は、内側に内側ステータ122,123を納めた状態で軸方向において結合されている。
【0019】
ステータ103とフロントハウジング101の内側(軸中心の側)には、軸受110が取り付けられ、ステータ104とエンドハウジング102の内側には、軸受111が取り付けられている。軸受110は、円筒状のスリーブ112を回転自在な状態で保持し、軸受111は、円筒状のスリーブ113を回転自在な状態で保持している。スリーブ112と113の内側には、リテーナ114が保持されている。また、スリーブ112,113の外側に永久磁石により構成されるロータマグネット115,116が固定されている。ここで、スリーブ112,113は、磁性材料であり、スリーブ112,113は、ロータマグネット115,116のバックヨークとしても機能する。また、ロータマグネット115の外側は、隙間を有した状態で、極歯103a,122aに対向し、ロータマグネット116の外側は、隙間を有した状態で、極歯104a,123aに対向している。
【0020】
スリーブ112,113、リテーナ114、ロータマグネット115,116により後述の図7に示すロータ130が構成されている。ロータ130は、軸受110と111により、ステータ103および104の内側で、回転自在な状態で保持されている。
【0021】
図4は、スリーブ112,113とリテーナ114を分離した状態を示す斜視図である。図5は、リテーナ114を分解した状態を示す斜視図である。図6は、リテーナ114を軸方向から見た正面図(A)、(A)におけるA−Aの線で切断した側断面図(B)、(A)におけるB−Bの線で切断した上断面図(C)である。
【0022】
リテーナ114は、周方向に3分割されたリテーナ分割片114a,114b,114cを組み合わせた円筒形状を有している。リテーナ分割片114aと114bは、同じ形状の部材であり、符合118,119で示される噛み合い形状が設けられている。リテーナ114の軸方向の前後から、円筒形状のスリーブ112と113を被せることで(図4)、スリーブ112,113とリテーナ114とが一体化されている。
【0023】
図4に示すように、スリーブ112のスリーブ113に向き合う端の縁の部分には、凹部112aと凸部112bにより構成される凹凸構造112cが設けられている。また、スリーブ113のスリーブ112に向き合う端の縁の部分には、凹部113aと凸部113bにより構成される凹凸構造113cが設けられている。この凹凸構造112cと113cは、組み立てられた状態において、凹部112aと凹部113aとが軸方向において対向し、凸部112aと凸部113aとが軸方向において対向する。
【0024】
リテーナ114cの外周には、突起部である位置決め部材117が設けられている。組み立てられた状態において、位置決め部材117は、上記凹部112aと凹部113aとが対向した部分に形成される隙間の部分に嵌り、位置決め部材117が凹凸構造112cと113cに嵌った状態となる。位置決め部材117により、スリーブ112とスリーブ113との軸回り方向における位置関係が決まり、またスリーブ112,113とリテーナ114との位置関係が決まる。また、位置決め部材117により、スリーブ112,113がリテーナ114に対して回転しない回転止めの構造が得られている。凹部112aと凹部113aとが対向した部分に形成される隙間は、複数形成されるが、位置決め部材117が嵌るのは、その一箇所であり、他の隙間の部分は、スリーブ112,113とリテーナ114とを固定するための接着剤の接着剤溜りとして機能する。
【0025】
リテーナ114の内周面には、螺旋方向に沿って配置された略半球形状の複数の凹部120が設けられている。凹部120は、出力軸150に形成された螺旋溝150aが延在する螺旋状の方向に沿って、間隔をおいて点々と複数が点状に配置されている。凹部120のそれぞれには、ボール121が接触した状態で保持される。ここで、ボール121は、凹部120の内側に固定されておらず、グリスを介して単に接触した状態で保持されている。ボール121は、凹部120の凹面に接触した状態で、凹部120の内側に拘束された状態で保持される。この例において、複数の凹部120は、螺旋が1回転する周上に沿って並んで配置されている。複数の凹部120が配列された螺旋の形状は、出力軸150(図2図3参照)に設けられた螺旋溝150aのピッチに合わせた状態を有している。ここで、複数の凹部120のそれぞれに保持されたボール121は、他方で出力軸150の螺旋溝150aに転がることが可能な状態で接触している。
【0026】
この例において、凹部120の内面は、ボール121が納まる半球形状の凹面を有しているが、凹部120の内面形状としては、ボール120を受けることができる凹型の曲面であれば、半球形状に限定されない。
【0027】
図7は、ロータ130の分解斜視図(A)と斜視図(B)である。図7(A)に示す状態において、スリーブ112と113の内側には、リテーナ114が保持されている(図4参照)。そして、スリーブ112の外側に、円筒形状のロータマグネット115が取り付けられ、スリーブ113の外側に、円筒形状のロータマグネット116が取り付けられている。ロータマグネット115,116は、周方向に沿ってNSNS・・と着磁がされた磁極構造を有している。
【0028】
図8には、ロータ130の内側に出力軸150を組み付けた状態が示されている。この状態において、ロータ130の内側(リテーナ114の内側)と出力軸150の外側とは、間にボール121を介した状態で間接的に噛みあっている。すなわち、リテーナ114の内側には、複数の凹部120が設けられ(図5参照)、この複数の凹部120のそれぞれには、ボール121が接触した状態で保持され、更にボール121は螺旋溝150a(図3参照)に転がることが可能な状態で接触している。
【0029】
図8に示す状態において、出力軸150を固定して、リテーナ114を軸周りに回転させると、ボール121が凹部120の内側に保持された状態で、螺旋溝150aの内部をその螺旋方向に沿って転がり、リテーナ114が出力軸150に対して回転しつつ軸方向に移動する。逆に、リテーナ114が軸方向に動かず、且つ、回転が可能な状態で、更に出力軸150が回転できない状態とした場合において、リテーナ114を軸周りに回転させると、ボール121が螺旋溝150a内部を転がり、リテーナ114に対して、出力軸150が軸方向に移動する。つまり、リテーナ114の回転運動が、出力軸150の直進運動に変換される。
【0030】
出力軸150には、その軸方向に直交する方向(図の上下の方向)に延在したピン151が設けられている。ピン151は、出力軸150のフロントハウジング101(ステータ103,104)に対する軸回りの回転を防止する回転防止部材として機能する。ピン151は、フロントハウジング101に設けられたピン収容室152に軸方向への移動が可能な状態で収容される。ピン収容室152は、軸方向に延在した空間である。出力軸150が回転しようとすると、ピン151がピン収容室152の側壁に接触し、出力軸150の回転が規制される。他方において、ピン151は、ピン収容室152に収容された状態において、軸方向に移動が可能であり、これにより、フロントハウジング101に対する出力軸150の軸方向への移動が許容されている。
【0031】
また、図3に示すように、出力軸150は、軸受153によって、軸方向に移動可能な状態でフロントハウジング101の内側に保持されている。
【0032】
(組み立て手順)
図8に示す構造を組み立てるための手順の一例を説明する。まず、図5に示すように、リテーナ114をリテーナ分割片114a,114b,114cに分割した状態において、凹部120のそれぞれにボール121を保持させる。この際、グリスを塗布することで、グリスの粘性により凹部120にボール121を保持させる。次に、図5に示すように、リテーナ分割片114a,114b,114cを組み合わせることで、図4に示すリテーナ114を得、その軸方向の前後からスリーブ112,113を被せる。ここで、リテーナ114とスリーブ112,113は、接着剤で固定する。
【0033】
この際、凹部112aと凹部113aとが対向した部分に隙間が複数形成されるが、その中の一つには、位置決め部材117が嵌り、それ以外の隙間の部分は、接着剤が溜まる接着剤溜りとして機能する。
【0034】
次に、図7(A)に示すように、スリーブ112の外側にロータマグネット115を取り付け、スリーブ113の外側にロータマグネット116を取り付け、図7(B)に示す状態を得る。なお、スリーブ112へのロータマグネット115の固定、およびスリーブ113へのロータマグネット116の固定は、接着剤を用いて行う。
【0035】
図7(B)の状態を得たら、内側にあるリテーナ114(図7(B)ではスリーブ112,113の内側に隠れている)の内側に出力軸を挿入し、凹部120(図5参照)に保持されているボール121(図5参照)に、出力軸150の螺旋溝150aをかみ合わせる。そして、このかみ合わせを維持した状態で、出力軸150を回転させることで、出力軸150を回転させつつ軸方向に移動させ、図8に示す状態、すなわち、出力軸150をステータ130の内側に組み付けた状態を得る。
【0036】
(動作の一例)
端子ピン107を介して、駆動コイル105,106に極性が交互に変化する駆動電流を流す。すると、クローポール型のステッピングモータの原理により、駆動コイル105,106とロータマグネット115,116との間に周方向における反発力と吸引力が作用し、それが交互に切り替わることで、図7および図8に示すロータ130が回転する。この際、ボール121は凹部120に拘束され、且つ、出力軸150の螺旋溝150aに拘束されており、更にピン151の機能により、出力軸150は回転できないので、ネジの原理により出力軸150が軸方向に移動する。この出力軸150の移動の方向は、リテーナ114の回転の方向を反転させると、逆向きとなる。こうして、リテーナ114を回転させることによる出力軸150の直進動作が行われる。
【0037】
(優位性)
半球形状の凹部120でボール121を保持するので、ロータ130の内径側にボール溝を形成することなくボールネジ構造を有したリニアアクチュエータが得られる。また、ロータ130に対するボール121の位置が凹部120によって決まるので、螺旋状に複数が並んで配置されたボール121の相対位置関係が安定したものとなり、ロータ130の回転およびロータ130の回転に従う出力軸150の直進移動が滑らかなものとなる。また、凹部112aと凹部113aとが対向した部分に形成される隙間を接着剤溜りとして機能させることで、確実な固着の状態が得られ、またスリーブ112,113の回り止め構造が得られる。
【0038】
2.第2の実施形態
第1の実施形態では、分割された構造のリテーナを一体物とするために、リテーナの外側に円筒形状のスリーブを装着した構造としているが、スリーブを用いない構造も可能である。以下、スリーブを用いない構造の一例を説明する。図9(A)および(B)には、リテーナ200の分解斜視図が示されている。リテーナ200は、周方向に3分割した構造のリテーナ分割片210,220,230を組み合わせた構造を有している。
【0039】
リテーナ分割片210は、凸部211と凹部212を有し、リテーナ分割片220は、凹部221と凸部222を有している。凸部211と凹部221を噛み合わせ、凹部212と凸部222を噛み合わせることで、リテーナ分割片210と220とが組み合わされる。リテーナ分割片230は、断面が凸型形状で、周方向に延在するマグネットストッパ235を有している。マグネットストッパ235の一部を利用して、周方向に突出する凸部231と232が形成されている。凸部231は、リテーナ分割片210の凹部213に結合し、凸部232は、リテーナ分割片220の凹部223に結合する。
【0040】
リテーナ分割片210にも断面が凸型形状で、周方向に延在するマグネットストッパ215が設けられている。また、リテーナ分割片220にも断面が凸型形状で、周方向に延在するマグネットストッパ225が設けられている。リテーナ分割片210,220,230の内側には、リテーナ114の場合と同様な複数の凹部240が形成され、この複数の凹部のそれぞれにボール250が保持される。
【0041】
図10(A)および(B)には、リテーナ分割片210,220,230を組み合わせ、リテーナ200とした状態が示されている。図11(A)には、リテーナ200にロータマグネット251と252を装着する状態が示されている。図11(B)には、リテーナ200にロータマグネット251と252を装着し、ロータ260とした状態で、更に軸受(転がり軸受)261と262をリテーナ200の外側に装着する状態が示されている。図11(C)には、リテーナ200にロータマグネット251と252を装着し、更に軸受261と262を装着した状態が示されている。ロータマグネット251と252は、マグネットストッパ215,225,235の出っ張りにより、軸方向における位置が決められている。なお、図11において、図9に示すマグネットストッパ225は、死角となっており見えていない。
【0042】
この場合、軸受261が図1の軸受110に相当し、軸受262が図1の軸受111に相当する。この例の場合、図1のスリーブ112,113に相当する部材はなく、リテーナ200の外側に、ロータマグネット251,252、および軸受261,262が直接嵌められた構造となる。そして、軸受251が図1のフロントハウジング101およびステータ103の内側に取り付けられ、軸受252が図1のエンドハウジング102およびステータ104の内側に取り付けられる。この状態において、ロータ260がステータ103,104に対して回転可能となる。その他の構造、およびリテーナ200の機能は、図1に示すリニアアクチュエータ100の場合と同じである。
【0043】
図9図11の構造を採用した場合、スリーブを用いる場合に比較して、部品の点数が削減され、低コスト化が図れる。また、スリーブがない分、リテーナの肉厚を厚くでき、リテーナの強度を高めることができる。また、マグネットストッパ215,225,235を利用してのロータマグネット251,252の組み付け時に方向性がないので、組み立てが容易となる。また、凹凸の形状を基準として組み立てることができるので、内側に保持されるボール250のピッチの精度を安定して得ることができる。
【0044】
(その他)
図5図9には、リテーナを周方向に複数に分割する形態を示したが、軸方向に沿ってリテーナを複数に分割してもよい。この分割構造として、例えば、リテーナを軸方向に2分割した構造を挙げることができる。リテーナを軸方向に2分割する構造とした場合に、分割したリテーナ分割片を対称な形状とすることで、部品の種類の増加が抑えられ、成形コストや組み立てコストの点で有利となる。
【0045】
本発明の態様は、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、リニアアクチュエータに利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
100…リニアアクチュエータ、101…フロントハウジング、102…エンドハウジング、103…ステータ、103a…極歯、104…ステータ、104a…極歯、105…駆動コイル、106…駆動コイル、107…端子ピン、108…ボビン、109…ボビン、109a…端子基台部、110…軸受、111…軸受、112…スリーブ、113…スリーブ、114…リテーナ、114a…リテーナ分割片、114b…リテーナ分割片、114c…リテーナ分割片、115…ロータマグネット、116…ロータマグネット、117…位置決め部材、118…噛み合い形状、119…噛み合い形状、120…凹部、121…ボール、122…内側ステータ、122a…極歯、123…内側ステータ、123a…極歯、130…ロータ、150…出力軸、150a…螺旋溝、151…ピン、152…ピン収容部、153…軸受、200…リテーナ、210…リテーナ分割片、211…凸部、212…凹部、213…凹部、220…リテーナ分割片、221…凹部、222…凸部、223…凹部、230…リテーナ分割片、231…凸部、232…凸部、240…凹部、250…ボール、251…ロータマグネット、252…ロータマグネット、260…ロータ、261…軸受、262…軸受。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11