特許第5889731号(P5889731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889731
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】コネクタの成形方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/24 20060101AFI20160308BHJP
   H01R 13/52 20060101ALI20160308BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   H01R43/24
   H01R13/52 301A
   F16J15/18 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-146218(P2012-146218)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-10994(P2014-10994A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 旭
【審査官】 前田 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−111382(JP,A)
【文献】 特許第4025066(JP,B2)
【文献】 特表平2−504665(JP,A)
【文献】 米国特許第2877071(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/24
F16J 15/00−15/18
H01R 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器隔壁の貫通孔に貫装されて当該機器の内外の配線を接続するコネクタを型成形する方法であって、
前記貫通孔に貫装される筒状側壁を有し、その筒状側壁の内部空間における機器内側と機器外側とが当該内部空間の中央部に形成される仕切り壁により仕切られ、前記筒状側壁の外周側において当該筒状側壁の周方向に延在するシール部材用環状溝が形成されるコネクタハウジング、を成形する成形型内に、
前記筒状側壁の軸心方向に沿って延在する端子であって仕切り壁を貫通し両端がそれぞれ前記内部空間における機器内側,機器外側に突出する少なくとも一つの中継端子と、
前記環状溝内におけるシール部材とのシール面に位置する環状金具と、
を配置して型成形することを特徴とするコネクタの成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタの成形方法であって、例えば各種機器の隔壁に貫装されて当該機器内外の配線を接続するコネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンルーム,オートマチックトランスミッション,燃料タンク等の各種機器の隔壁に貫装(コネクタ用の貫通孔に貫装)されて当該機器内外の配線を接続するコネクタとしては、防水性,防油性等のシール性を有するものが知られている。このようなシール構造のコネクタの一例としては、そのコネクタを構成するコネクタハウジングや中継端子等が、型成形(インサート成形等)により一体化されたものが挙げられる。コネクタハウジングは、筒状側壁の内部空間における機器内側と機器外側とが当該内部空間の中央部に形成された仕切り壁により仕切られたものであって、その筒状側壁の外周面にシール部材(筒状側壁の周方向に延在する環状のシール部材を)を設けて機器隔壁とのシール性を付与したものが知られている(例えば特許文献1〜3)。
【0003】
型成形においては、複数の型部材を組み合わせた成形型(金型)が適用されるが、その適用される成形型の種類(型開き方向)に応じて、所謂パーティングラインが筒状側壁等に形成されてしまう。このパーティングラインが筒状側壁の軸心方向に延在するように形成されると、前記シール部材がパーティングラインの外周側と交差し段差を生じて取り付けられ、その交差した箇所において筒状側壁の外周側とシール部材との間のシール面に隙間が形成されるため、コネクタを機器の隔壁の貫通孔に貫装させた際(以下、貫装時と称する)に所望のシール性が得られなくなる虞がある。このため、パーティングラインとシール部材とが交差しないように型成形、例えば筒状側壁の外周側を成形する型部材として、その筒状側壁の軸心方向に型開きするものを適用することが考えられている(例えば特許文献1)。
【0004】
しかしながら、筒状側壁の外周側に対しシール部材を嵌合(外嵌)させるための環状溝を形成する場合(例えば特許文献3)、その環状溝に対応する型部材として、前記のように筒状側壁の軸心方向に型開きする型部材を適用することはできない。したがって、例えば筒状側壁の径方向に型開きする型部材等(筒状側壁の周方向に分割された型)を適用することになるが、図4A〜Cに示すコネクタのように、筒状側壁21の軸心方向に延在するパーティングライン22が環状溝23内に形成(環状溝の延在方向と交差するように形成)されてしまうため、例えば型成形後にパーティングライン22を研磨等により除去する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−106045号公報
【特許文献2】特開平9−55254号公報
【特許文献3】特開平11−111382号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、前記のような背景技術等に伴って、コネクタの成形方法においては、以下に示す課題があることに着目した。すなわち、コネクタハウジングの筒状側壁の周方向に延在するシール部材用環状溝が形成されたコネクタにおいて、筒状側壁の軸心方向に延在するパーティングラインが環状溝内(少なくともシール部材とのシール面)に形成されることを抑制し、所望のシール性が得られるようにすることが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るコネクタの成形方法は、前記の課題を解決できる創作であり、具体的に、この発明のコネクタの成形方法の一態様は、機器隔壁の貫通孔に貫装されて当該機器の内外の配線を接続するコネクタを型成形する方法であって、前記貫通孔に貫装される筒状側壁を有し、その筒状側壁の内部空間における機器内側と機器外側とが当該内部空間の中央部に形成される仕切り壁により仕切られ、前記筒状側壁の外周側において当該筒状側壁の周方向に延在するシール部材用環状溝が形成されるコネクタハウジング、を成形する成形型内に、前記筒状側壁の軸心方向に沿って延在する端子であって仕切り壁を貫通し両端がそれぞれ前記内部空間における機器内側,機器外側に突出する少なくとも一つの中継端子と、前記環状溝内におけるシール部材とのシール面(底壁等)に位置する環状金具と、を配置して型成形することを特徴とする。
【0008】
前記環状溝は、前記筒状側壁の外周側で前記貫通孔内壁と対向する位置に形成されるものとしても良い。また、前記コネクタハウジングは、筒状側壁の外周側から当該筒状側壁の径方向に突出したフランジ部が形成されるものとしても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るコネクタおよびコネクタの成形方法によれば、筒状側壁にシール部材用の環状溝が形成されたコネクタにおいて、筒状側壁の軸心方向に延在するパーティングラインが環状溝内(少なくともシール部材とのシール面のうち環状金具が位置する部分)に形成されないように抑制でき、所望のシール性が得られ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の一例を示すインサート成形体の概略図(縦断面図)。
図2】本実施形態の一例を示すコネクタの概略図(A;斜視図,B;縦断面図)。
図3】本実施形態に係るコネクタの適用例を示す概略図(縦断面図)。
図4】一般的なコネクタの一例を示す概略図(A;外観図,B;A−A横断面図,C;パーティングライン拡大図)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るコネクタの成形方法は、筒状側壁が機器隔壁の貫通孔に貫装されるコネクタハウジングにおいて、単に筒状側壁の外周側で周方向に延在するシール部材用環状溝を形成するのではなく、その環状溝内におけるシール部材とのシール面の位置に、型成形によって環状金具を一体化させるものである。
【0012】
このように環状溝内に環状金具を具備させることにより、たとえ筒状側壁の径方向に型開きする型を適用したとしても、その型開きされる箇所のうち環状金具に対してパーティングラインが形成されることは無い。このため、従来のようにパーティングラインの除去作業を行わなくても、単に環状溝にシール部材を嵌合することにより、シール部材と環状金具とがシール面で十分密着し、貫装時に所望のシール性が得られ易くなる。
【0013】
また、環状溝にシール部材を嵌合した構造により、その環状溝が案内溝として機能するため、当該シール部材を所定の位置に固定し易く、貫装時の位置ズレも抑制できる。例えば、単に筒状側壁の外周側にシール部材が取り付けられたコネクタにおいて、貫装時にシール部材が機器隔壁の貫通孔内壁と対向する位置までコネクタを貫装させる場合、当該シール部材が位置ズレを起こし易くなるが、本実施形態によるコネクタによれば、前記のような位置ズレを環状溝により抑制しながら、シール部材を貫通孔内壁面に圧接させることが可能となる。
【0014】
コネクタハウジングは、目的とする機器の貫通孔に貫装されて機器内外の配線を接続できるものであれば、種々の形態のものを適用することができる。例えば筒状側壁は、横断面形状が真円状に限定されるものではなく、機器の貫通孔や配線の形状等に応じて設計されるものである。また、筒状側壁の外周側から当該筒状側壁の径方向に突出した鍔状のフランジ部が形成されたものの場合には、そのフランジ部を単に目的とする機器の隔壁にコネクタを固定(例えば螺子締め等により固定)するために利用できるだけでなく、貫装時にコネクタを機器内側に対して埋め込み過ぎないように抑制するストッパーとして機能させることが可能となる。仕切り壁においては、筒状側壁の内部空間における機器内側と機器外側とを仕切り当該仕切り壁自体に中継端子が貫通されるものであり、機器内外の配線の接続を妨げない形状であれば良い。
【0015】
環状溝は、コネクタの貫装時に貫通孔内壁と対向して位置するように形成することが挙げられるが、前記のようにフランジ部が形成されている場合には、そのフランジ部よりも機器内側の筒状側壁に形成することになる。例えば、貫装時に貫通孔の開口部の縁部に近接する位置(例えば特許文献1の図1に示すシールリングが嵌合されている位置)に対して環状溝を形成した場合であっても、その環状溝にシール部材が嵌合された状態で当該貫装時に機器内外をシールできれば良い。
【0016】
環状金具は、環状溝内におけるシール部材とのシール面に位置するように一体成形できるものであって、その環状溝内に嵌合されたシール部材と密着するものであれば、種々の形状のものが適用可能である。例えば環状溝の内壁面の横断面形状が凹字状の場合には、後述の実施例のように底壁に沿って周方向に延在する帯状の金具であって当該底壁の位置に一体化される環状金具が挙げられる。また、中継端子においても、目的とする機器の内外の配線に応じて形状,個数を設定することが挙げられる。
【0017】
前記のコネクタハウジング,環状金具,中継端子に適用する材料においては、例えばコネクタの分野で利用されているものであれば特に限定されないが、目的とする機器に応じた特性(絶縁性,防水性,耐候性,耐腐食性,導電性,耐衝撃性等)を付与できる材料であって、それぞれ型成形時に一体化されるものが挙げられる。その具体例として、コネクタハウジングには熱硬化性樹脂等の絶縁性材料を適用したり、環状金具にはステンレス鋼等の耐腐食性材料を適用したり、中継端子には銅等の導電性材料を適用することが挙げられる。
【0018】
シール部材においても、例えばOリング等のシール部材に限定されることはなく、前記のように環状溝に嵌合されて環状金具と密着し、コネクタの貫装時に当該機器内外をシールできるものであれば、種々の形状および材料から成るものが適用可能である。具体例として、シリコーンゴム等の弾性材料を適用したり、機器の隔壁側(例えば貫通孔内壁)と接する箇所をリップ状に成形してシール性を高めた形状にすることが挙げられる。
【0019】
<実施例>
以下、本実施形態に係るコネクタの成形方法の一例を図面に基づいて説明する。なお、図4に示すものと同様のものには、同一符号等を用いて詳細な説明を省略する。図1に示す成形体1は、コネクタハウジング2に対し、中継端子3,環状金具4が型成形により一体化されたものである。
【0020】
コネクタハウジング2は、筒状側壁21を有するものであって、その筒状側壁21の内部空間の中央部には、その内部空間を横断する方向に延在した仕切り壁24が形成されている。この仕切り壁24により、前記の内部空間における機器内側に位置する空間部25と機器外側に位置する空間部26とが、互いに分離して形成されている。符号27は、筒状側壁21の外周側の中央部において当該筒状側壁21の径方向に突出した鍔状のフランジ部を示すものである。筒状側壁21の外周側でフランジ部27よりも機器内側には、横断面凹字状の環状溝23が、当該筒状側壁21の周方向に沿って延設されている。
【0021】
中継端子3は、目的とする機器内外の配線を電気的に中継するピン状の端子であって、前記仕切り壁24を貫通して筒状側壁21の軸心方向に沿って延在するように複数個設けられ、両端がそれぞれ仕切り壁24から前記空間部25,26に突出している。
【0022】
環状金具4は、環状溝23の底壁23aに沿って周方向に延在する帯状の金具であって、当該底壁23aに位置するように設けられている。この環状金具4の肉厚方向の距離を、環状溝23の深さ方向の距離よりも小さく設定することにより、後述のシール部材の少なくとも一部が環状溝23内に嵌入され、そのシール部材の位置ズレが抑制されることになる。
【0023】
成形体1は、例えば、筒状側壁の外周側を成形する型部材として筒状側壁21の径方向に型開きする型部材を適用した金型(図示省略)内に、インサート成形部材である中継端子3,環状金具4を充填してから、コネクタハウジング2の材料(熱硬化性樹脂等)を注入し固化することにより、図1に示すように中継端子3,環状金具4をコネクタハウジング2の所定位置に一体化させて形成することができる。
【0024】
この成形体1においては、金型によるパーティングラインが筒状側壁21の軸心方向に沿って形成され得るものの、前記の環状金具4に形成されることは無いため、図2に示すようにシール部材(Oリング)5を環状溝23に嵌合してコネクタ(所謂コネクタアッシー)10を構成した場合、そのシール部材5と環状金具4との間に隙間(パーティングラインに起因する隙間)が形成されることはなく、互いに十分密着する。
【0025】
このコネクタ10においては、図3に示すように、機器の隔壁60に穿設された貫通孔6に対して貫装して用いられ、空間部25,26に対して機器内外の各配線(図示省略)をそれぞれ嵌装し、中継端子3を介して各配線を互いに導通させる。この貫装時において、環状溝23が貫通孔6の内壁面61と対向して位置し、その内壁面61に対してシール部材5が圧接した状態となり、機器内外のシール性が保持される。隔壁60の機器外側面62に係合されるフランジ部27は、例えば螺子等の締め付け手段(図示省略)を用いて固定しても良い。
【0026】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。例えば、実施例では環状溝,シール部材をそれぞれ一つ具備する場合を説明したが、それら環状溝,シール部材を所定箇所に複数個具備した場合であっても、実施例と同等または同等以上の作用効果を奏するものと考えられる。
【符号の説明】
【0027】
1…成形体
10…コネクタ
2…コネクタハウジング
21…筒状側壁
23…環状溝
24…仕切り壁
25,26…空間部
3…中継端子
4…環状金具
5…シール部材
6…貫通孔
図1
図2
図3
図4