特許第5889826号(P5889826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5889826-充電式電池(2次電池)用シリコン陽極 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889826
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】充電式電池(2次電池)用シリコン陽極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20160308BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160308BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20160308BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160308BHJP
【FI】
   H01M4/134
   H01M4/36 D
   H01M4/38 Z
   H01M10/052
【請求項の数】16
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-89657(P2013-89657)
(22)【出願日】2013年4月22日
(62)【分割の表示】特願2010-507966(P2010-507966)の分割
【原出願日】2008年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-140820(P2013-140820A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2013年4月23日
(31)【優先権主張番号】0709165.5
(32)【優先日】2007年5月11日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509040226
【氏名又は名称】ネグゼオン・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nexeon Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,ミノ
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−527128(JP,A)
【文献】 特開2003−168426(JP,A)
【文献】 特開2002−313345(JP,A)
【文献】 特表2003−522367(JP,A)
【文献】 特開2002−260637(JP,A)
【文献】 特表2006−505901(JP,A)
【文献】 特開2007−335206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 10/052
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の活性物質のうちの一の活性物質として、複数の相互接続されたシリコンまたはシリコン・ベース要素を有する多孔性の複合膜を有する電極であって、
前記シリコンまたはシリコン・ベース要素は、最小寸法が0.08乃至1μmの範囲内にあるフレークであり、
第1のより大きな寸法は、前記最小寸法の少なくとも10倍であり、
第2のより大きな寸法は、前記第1のより大きな寸法と同等である、電極。
【請求項2】
前記第1のより大きな寸法は、前記最小寸法の100または200倍あるいはその中の範囲内の倍率の大きさとなるように選択される、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記複合膜は、10乃至30%の範囲内にある細孔体積率を有する、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記シリコンまたはシリコン・ベース要素は、前記複合膜の質量の割合の70乃至95%の範囲内にある、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
複数の活性物質のうちの一の活性物質として、複数の相互接続されたシリコンまたはシリコン・ベース要素を有する多孔性の複合膜を有する電極であって、
前記シリコンまたはシリコン・ベース要素は、最小寸法が0.08乃至1μmの範囲内にあるリボンであり、
第1のより大きな寸法は、前記最小寸法の少なくとも2倍であり、
第2のより大きな寸法は、前記最小寸法の少なくとも10倍である、電極。
【請求項6】
前記第2のより大きな寸法は、前記最小寸法の100または200倍あるいはその中の範囲内の倍率の大きさとなるように選択される、請求項5に記載の電極。
【請求項7】
前記複合膜は、10乃至30%の範囲内にある細孔体積率を有する、請求項5または6に記載の電極。
【請求項8】
前記シリコンまたはシリコン・ベース要素は、前記複合膜の質量の割合の70乃至95%の範囲内にある、請求項5ないし7のいずれか1項に記載の電極。
【請求項9】
複数の活性物質のうちの一の活性物質として、複数の相互接続されたシリコンまたはシリコン・ベース要素を有する多孔性の複合膜を有する電極であって、
前記シリコンまたはシリコン・ベース要素は、最小寸法が0.08乃至1μmの範囲内にあるチューブであり、
第1のより大きな寸法は、前記最小寸法の少なくとも10倍であり、
第2のより大きな寸法は、前記最小寸法と同等である、電極。
【請求項10】
前記第1のより大きな寸法は、前記最小寸法の100または200倍あるいはその中の範囲内の倍率の大きさとなるように選択される、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
前記複合膜は、10乃至30%の範囲内にある細孔体積率を有する、請求項9または10に記載の電極。
【請求項12】
前記シリコンまたはシリコン・ベース要素は、前記複合膜の質量の割合の70乃至95%の範囲内にある、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の電極。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の電極を有し、
前記電極がアノードである、電気化学的電池。
【請求項14】
前記複合膜の利用可能な細孔を飽和する電解質をさらに有する、請求項13に記載の電気化学的電池。
【請求項15】
カソードが、活性物質として、リチウム・ベース化合物または金属酸化物を有する、請求項13または14に記載の電気化学的電池。
【請求項16】
請求項13乃至15のいずれか1項に記載の電気化学的電池によって電力を供給される、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、その有効成分としてシリコンまたはシリコン・ベースの材料を使用する充電式電池セルのための電極に関し、特に(しかし排他的ではない)リチウム・イオン電池セルのアノード用途の電極に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話およびノート型コンピュータのような携帯電子デバイスの使用の最近の増加は、上記の装置および他の電池駆動の装置に電力を提供するためのより小さく、より軽く、より長い続く充電式電池に対する要求を形成してきた。1990年代にリチウム充電式電池(具体的にはリチウム・イオン電池)はポピュラーになり、現在、販売数の点で携帯型電子機器市場を支配している。しかしながら、ますます電力を消費する機能が上記の装置に加えられる(例えば携帯電話上のカメラ)に連れて、単位質量および単位体積当たりのより多くのエネルギーを貯蔵する改善された電池が求められている。
【0003】
シリコンが、充電式リチウム・イオン電気化学電池セルの活性陽極材料として使用されることが可能であることはよく知られている(例えば、Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, M. Winter, J. O. Besenhard, M. E. Spahr, and P.Novuk in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10を参照)。従来のリチウム・イオン充電式電池セルの基礎的な構成は図1において示されている。図1は、シリコンに基づいたアノードと置換される要素であるグラファイト・ベースの(グラファイトに基づいた)(graphite−based)陽極電極を含んでいる。電池セルは1つのセルを含んでいるが、2個以上のセルを含んでいてもよい。
【0004】
電池セルは、一般に陽極用の銅集電体10、および陰極用のアルミニウム集電体12を具備している。これら集電体は、必要に応じて負荷または充電電源に外部で接続可能とされている。グラファイト・ベース複合陽極層14は集電体10を覆い、リチウム含有金属酸化膜ベースの複合陰極層16は集電体12を覆っている。多孔性のプラスチック・スペーサまたはセパレータ20は、グラファイト・ベース複合陽極層14とリチウム含有金属酸化膜ベース複合陰極層16との間に設けられる。また、液体電解質材料が多孔性プラスチック・スペーサまたはセパレータ20、複合陽極層14、および複合陰極層16内に分散させられている。場合によって、多孔性プラスチック・スペーサまたはセパレータ20は高分子電解質材料によって置換され得る。また、そのような場合、高分子電解質材料は、複合陽極層14および複合陰極層16の両方の中に存在する。
【0005】
電池セルが完全に充電されている場合、リチウムは、電解質によってリチウム含有金属酸化膜からグラファイト・ベース層の中へと運ばれて、そこでリチウムはグラファイトと反応して化合物、LiCを形成する。複合陽極層内の電気化学的活性物質であるグラファイトは372mAh/gの最大容量を有する。電池が負荷を跨いで配置されるという意味で、「陽極」、「陰極」という用語が使用されることに留意されたい。
【0006】
シリコンは、リチウム・イオン充電式セル(電池)(rechargeable cell)内で活性陽極材料として使用される場合、現在用いられているグラファイトより著しく高い容量を提供すると一般に考えられている。シリコンは、電気化学的電池中でリチウムとの反応によって化合物Li21Siに変換されると、4,200mAh/gの最大容量を有する。これは、グラファイトについての最大容量よりかなり高い。したがって、グラファイトがリチウム充電式電池中のシリコンと置換されることができれば、望まれている、単位質量および単位体積当たりの蓄積エネルギーの増加が達成されることが可能である。
【0007】
シリコンを使用する既存のアプローチまたはリチウム・イオン電気化学的電池のシリコン・ベース活性陽極材料は、充電/放電サイクルの必要回数にわたって一様の容量を示さず、したがって商業的に実現可能とはなっていない。
【0008】
本技術分野で示されている一アプローチは、シリコンを、粉末(例えば、直径10μmの粒子または球状要素としてのもの)の形態で、場合によっては、電子的添加物有りまたは無しでかつ適切な結合剤(例えば、銅集電体を覆うポリビニリデン・ジフルオリド)を含んだ化合物とされたシリコンを使用する。しかしながら、この電極システムは、繰り返し充電/放電サイクルに晒されると、一様の容量を示さない。この容量損失は、ホストであるシリコンへ/からのリチウムの挿入/抽出と関連する体積(volumetric)の膨張/収縮から発生するシリコン粉末塊(mass)が部分的に機械的分離することに起因すると考えられている。そして、このことは、シリコン要素を銅集電体から電気的に絶縁させ、また、シリコン要素同士を電気的に絶縁させる。また、体積の膨張/収縮は、球状要素を破壊し、球状要素自体内の電気的接触の消失を引き起こす。
【0009】
連続サイクルにおける大きな体積変化の問題に対処するために設計された技術における別の既知のアプローチは、シリコン粉末を構成するシリコン要素のサイズを非常に小さくすることである。すなわち、1乃至10nmの範囲内の直径を有する球状の粒子を使用することである。この戦略は、ナノ・サイズの要素が分割されたり破壊されたりすることなく、リチウムの挿入/抽出と関連した体積の大規模な膨張/収縮を経ることが可能であることを仮定している。しかしながら、このアプローチは、健康と安全の危険をもたらす非常に細かいナノ・サイズの粉末の取り扱いを必要とするという点で問題であり、また、シリコン粉末がリチウムの挿入/抽出と関連する体積の膨張/収縮を経るに連れて球状要素が銅集電体から電気的に絶縁することおよび球状要素同士が電気的に絶縁することを防止しない。重要なことに、リチウム含有界面膜がリチウム挿入の間に典型的に形成されるとともにこの界面膜を構成するリチウム・イオンが捕捉されて脱離(deinsertion)工程の間に除去されることが不能であるため、ナノ・サイズ要素の大きな表面積が、リチウム・イオン電池セルに大きな不可逆的(irreversible)容量を導入し得る。また、多数の小さなシリコン微粒子は、所与の量のシリコンについて多数の粒子対粒子接触を形成し、これらは各々接触抵抗を有しており、したがってシリコン塊の電気抵抗を過剰に高くし得る。したがって、上記の問題は、シリコン微粒子が、リチウム充電式電池および具体的にはリチウム・イオン電池におけるグラファイトの商業的に実現可能な代替物になるのを阻害してきた。
【0010】
Journal of Power Sources 136 (2004) 303−306においてOharaらによって記述されている別のアプローチでは、シリコンが薄膜としてニッケル箔集電体上に蒸着されて、そして、この構造が使用されてリチウム・イオン・セルの陽極を形成する。しかしながら、このアプローチは良好な容量保持率を与えるが、これは非常に薄い膜(例えば50nm以下)の場合にあてはまり、したがって、これらの電極構造は、単位面積当たりの使い物になる量の容量を与えない。膜厚を増加させる(例えば250nm超)と、良好な容量保持率が消失する。これらの薄膜の良好な容量保持率は、薄膜が分割されたり破壊されたりすることなくホストであるシリコンからのリチウム挿入/抽出に関連する体積の膨張/収縮を吸収する能力に起因すると本発明者らによって考えられている。また、薄膜は表面積が同じ質量のナノ・サイズの粒子よりはるかに小さく、したがってリチウム含有界面膜の形成に起因する不可逆容量の量が減少する。したがって、上記の問題は、金属箔集電体上のシリコン薄膜が、リチウム充電式電池および具体的にはリチウム・イオン電池におけるグラファイトの商業的に実現可能な代替物になることを阻害してきた。
【0011】
米国特許6,887,511号明細書に記述されている別のアプローチでは、シリコンが粗くされた銅基板上に蒸着されて最大10μmの中程度の厚さの膜を形成する。初期のリチウム・イオン挿入工程中に、シリコン膜が分解してシリコンの柱を形成する。次いで、これらの柱は、可逆的にリチウム・イオンと反応することが可能であり、そして良好な容量保持率が達成される。しかしながら、該工程は、さらに厚い膜とは上手く機能せず、中程度の厚さの膜の生成は高価な工程であって、したがって、この考え方の商業的な実現可能性を制限している。また、膜の分解によって作られた柱状構造は、固有の多孔性を有していない。したがって、長期の容量保持は疑わしい。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0126659号明細書に記述されている別のアプローチでは、シリコンがニッケル・ファイバー上に蒸着され、これが使用されてリチウム電池の陽極を形成する。しかしながら、これは、ニッケル・ファイバー上のシリコンの不均等な分布をもたらし、したがって動作に著しく影響することが分かる。また、これらの構造は、活性シリコン質量に対するニッケル集電体質量の高い比率を有しており、したがって単位面積または単位質量当たりの使い物になる量の容量を与えない。
【0013】
リチウム・イオン充電式電池セルのためのナノおよびバルク型シリコン・ベースの挿入陽極の検討内容は、Kasavajjulaら(J. Power Sources (2006), doi: 10.1016/ jpowsour.2006.09.84)によって提供されており、参照によって本明細書において取り込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許6,887,511号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0126659号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】M. Winter, J. O. Besenhard, M. E. Spahr, and P.Novuk, Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10
【非特許文献2】Ohara et al, Journal of Power Sources 136 (2004) 303−306
【非特許文献3】Kasavajjula et al, J. Power Sources (2006), doi: 10.1016/ jpowsour.2006.09.84
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は独立形式の請求項に示されている。
【0017】
有利なことに、いくつかの実施形態は、高アスペクト比のシリコンまたはシリコン・ベース要素の相互接続した配列をその活性物質として含む電極を提供する。該要素の構造が、要素中の最小寸法の上限との連動で、シリコンまたはシリコン・ベース要素の挿入/抽出(充電および放電)と関連する体積の膨張への適応を可能にし、他方で最小寸法に対する下限がシリコンまたはシリコン・ベース要素の所与の体積についての表面積の比率を制御してひいては表面に関連する不可逆容量を最小限するため、サイクル寿命が改善される。他の少なくとも1つの寸法は、良好な導電率のための要素同士の間の複数の接触を保証するように十分に大きく選択される。
【0018】
高アスペクト比の該要素は細長い形状とすることができ、例えば第1のより大きな寸法が最小寸法より大きくかつ第2のより大きな寸法が第1のより大きな寸法より大きいリボン状とすることができる。該高アスペクト比要素はまたシート状であってもよいし、フレーク状であってもよい。この場合、第1、第2のより大きな寸法は第1の寸法より大きく、相互に同等である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に従った陽極電極を含んだリチウム・イオン充電式セルを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明が、あくまで例として、添付の図1を参照して記述される。図1は、本発明の実施形態に従った陽極電極を含んだリチウム・イオン充電式セルを概略的に示している。
【0021】
先行技術の上記の問題および欠点は充電式電池向けの電極の活性成分であるシリコンまたはシリコン・ベース要素の寸法および形状を注意深く選択することによって対処され得ることが、本発明者によって理解された。第3の寸法(以下、ファイバーと称される)より小さな同等の2つの寸法を有する細長い要素については、第1の近似に、不可逆容量の消失はファイバーの直径に反比例する。同様に、2つのより小さい寸法の一方が他方より長い(例えばより小さな寸法の2倍以上)細長い構造(以下、リボンと称される)について、および2つの同等の最大寸法とこれよりも小さな1つの寸法を有する要素(以下、シートまたはフレークと称される)について、不可逆容量は、リボンまたはシートの側面を無視して、リボンまたはシート(これは最小寸法である)の厚さにほぼ反比例すると示され得る。したがって、ファイバー、リボン、フレーク、またはシートについては、およそ最小寸法の10倍の減少が、不可逆容量消失の10倍の増加につながると予想される。これらの考慮事項は、これらの構造が不可逆容量消失に制限のある複合電極中でシリコン要素として使用されることになっている場合、これらの構造についての最小寸法に下限を課す。
【0022】
上に詳細に述べられているように、シリコンまたはシリコン・ベース材料を活性陽極材料として使用する際の1つの重大な問題は、リチウム・イオン充電式電池セルのためのセルの充電および放電に関連する大きな体積変化である。関連する応力は、上記のように、バルク型シリコンにおけるクラックの形成につながる。柱形シリコン基板に対する実験研究は、割れることなく体積変化を提供可能な直径1マイクロメートル近く(約0.8マイクロメートル)のシリコン柱が形成されることが可能であることを示した(Mino Green, Elizabeth Fielder, Bruno Scrosati, Mario Wachtler and Judith Serra Moreno, "Structured Silicon Anodes for Lithium Battery Applications", Electrochemical and Solid−State Letters: 6,A75−A79(2003))。さらに、シリコン・プレートに対する実験研究は、厚いプレート(厚さ350ミクロン)でさえ、応力破壊(stress fracture)が10ミクロンの特性長を有していることを示した。
【0023】
前述の考慮事項に基づいて、本発明の実施形態に従った電極中のシリコンまたはシリコン・ベース要素の最小寸法は、0.08乃至1μmの範囲内にあり、好ましくは0.2乃至0.3μmまたはその中の範囲内にあり得る。さらに好ましい体積対表面積比を保証するために、2番目に大きな寸法は最小寸法の少なくとも2倍の大きさであるべきである。
【0024】
別の考慮事項は要素相互間の電気的な相互接続の数である。ファイバーまたはリボンのような細長い要素については、最大寸法が大きいほど、個々の部材が相互に交差してそれらの間で複数の接続を形成する可能性が高い。同様に、シートまたはフレーク状の部材については、フレークまたはシートが大きいほど、それらは相互に重なり合う可能性が高いだろう。また、1つまたは2つの最大寸法が大きいほど、所与の表面積についてより大きなシリコン塊が配置され、不可逆容量をさらに減ずるであろう。これらの考慮事項に基づいて、1つまたは2つの最大寸法は、最小寸法より10倍以上の大きさ、好ましくは100または200倍あるいはその中の範囲内の倍率の大きさとなるように選択される。合計長さまたは最大寸法は、例えば500μm程度であり得る。
【0025】
当然ながら、上に詳細に述べられたシリコンまたはシリコン・ベース要素を製造するためにあらゆる適切なアプローチを採用することが可能であることが認識されるだろう。
【0026】
例えば、ファイバーは適切なシリコンまたはシリコン・ベース基板上で柱を形成し適切な方法によってこれらの柱を分離してファイバーを形成することによって製造されることが可能である。シリコンの柱は国際特許出願番号PCT/GB2007/000211号明細書または米国特許出願番号10/049736号明細書に記述されているように製造されることが可能である。
【0027】
シリコン・リボンは、適切に形作られた構造がシリコンまたはシリコン・ベース基板上で形成され、次いで適切な分離方法を使用して基板から分離されるようにリソグラフィ工程によって製造されることが可能である。シート(またはフレークも)は、接着が乏しい基板上へのシリコン薄膜の堆積を使用して製造されることが可能である。これにより、分離可能なシリコン・シートにつながる。分離可能なシートが分割されると、フレークとなる。
【0028】
一旦シリコンまたはシリコン・ベース要素が製造されたならば、それらはリチウム・イオン電気化学的電池のための複合陽極の中で活性物質として使用されることが可能である。複合陽極を製造するために、該要素はポリビニリデン・ジフルオリドと混合され、n−メチル・ピロリジノンのようなキャスティング溶剤によってスラリーにされることが可能である。次に、このスラリーは、ブレードによってまたは必要な厚さの被膜を産出する他の適切な方法によって金属箔または他の導電性基板上に例えば物理的に付されるか塗られることが可能である。そして、キャスティング溶剤が、この膜から、50℃乃至140℃の範囲へと上げられた温度を使用して複合膜を自由にするか実質的にキャスティング溶剤から自由にし得る適切な乾燥システムを使用して蒸発させられる。結果得られる複合膜は、シリコンまたはシリコン・ベース要素の質量が70パーセント乃至95パーセントの間に典型的にある多孔性の構造を有する。複合膜は、10乃至30パーセント、好ましくは約20パーセントの細孔体積率を有するだろう。
【0029】
リチウム・イオン電池セルの製造は、その後、グラファイト活性陽極材料ではなくシリコンまたはシリコン・ベース活性陽極材料によって図1において示される一般的構造に従ってあらゆる適切な方法で例えば実行することができる。例えば、シリコン要素ベース複合陽極層は、多孔性のスペーサ18によって覆われ、最終構造に電解質が添加されて利用可能な細孔体積を飽和させる。電解質の添加は、適切なケーシング(casing)における電極の配置後に行なわれ、細孔体積が液体電解質で充填されるように陽極の空所を充填すること含み得る。
【0030】
本明細書において記述されているアプローチの具体的な利点は、シリコン・ベース陽極の大きなシートが、製造され、次いで現在リチウム・イオン電池セルのためのグラファイト・ベース陽極の場合のように巻かれたり(roll)、続けて型に合わせて打ち抜かれたり(stamp out)することが可能であることである。これは、本明細書において記述されている該アプローチが既存の生産能力に組み込まれることが可能であることを意味する。
【0031】
当然ながら、上記のアプローチおよび装置に帰着するためにあらゆる適切なアプローチが採用されることが可能であることが認識されるだろう。例えば、該要素の製造は、シリコン加工業界で使用される適切な方法のうちの何れかを具備することが可能である。陰極材料はあらゆる適切な材料であり得、典型的にはリチウム・ベース金属酸化膜材料であり得る。要素は、あらゆる適切な寸法を有することが可能であり、また、例えば純粋なシリコン、または不純物添加シリコン、または他のシリコン・ベース材料、例としてシリコン・ゲルマニウム混合物または他の適切な混合物であり得る。
【0032】
上記の記述はあくまで例であり、請求項の主題の範囲に制限を加えることを意図されておらず、当業者に明らかであり得るように上記実施形態のあらゆるそのような修正、並置、または変更も包含することが意図されている。例えば、具体的な記述は電極物質としてシリコンの観点から提示されているが、不純物無添加シリコンに代えて不純物添加されたシリコンのような他のシリコン・ベース材料、例えばSiGeが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 陽極用の銅集電体
12 陰極用のアルミニウム集電体
14 グラファイト・ベース複合陽極層
16 リチウム含有金属酸化膜ベース複合陰極層
18 多孔性のスペーサ
20 多孔性プラスチック・スペーサまたはセパレータ
図1