(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889837
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】電動射出成形機の射出モータの組立用治具および射出モータの組立方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/17 20060101AFI20160308BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20160308BHJP
H02K 15/16 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
B29C45/17
H02K15/02 A
H02K15/16 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-127951(P2013-127951)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-571(P2015-571A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】米廣 修
(72)【発明者】
【氏名】池山 周市
(72)【発明者】
【氏名】桑原 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】盛井 彰
(72)【発明者】
【氏名】越智 清史
【審査官】
山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−219283(JP,A)
【文献】
特開2005−168098(JP,A)
【文献】
特開2000−006220(JP,A)
【文献】
特開2010−154593(JP,A)
【文献】
米国特許第6205644(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/24
H02K 15/02
H02K 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュを軸方向に駆動するボールネジ機構が前記スクリュと同軸に設けられている電動射出成形機において、前記ボールネジ機構を構成するボールネジを回転軸として、前記ボールネジと、前記ボールネジの後端部に取り付けられているロータと、該ロータを取り囲むように設けられているステータとから構成されている射出モータの組立用治具であって、
前記組立用治具は、中央に所定の大きさの開口部が形成されている板状のベースと、前記ボールネジの後端部と略同径のガイド軸と、該ベースを水平に支持する脚部とから構成され、
前記ガイド軸は、前記ベースの中央において前記ベースの表面側に垂直になるように、所定の取付手段によって前記ベースに設けられていると共に、前記ベースの裏面側から取り外せるようになっており、
前記ベースは、前記ガイド軸と略同心円状に複数個明けられている第1のボルト穴群によって前記ステータをその端面において着脱自在に固定できるようになっていると共に、同様に前記ガイド軸と略同心円状に複数個明けられている第2のボルト穴群によって前記ロータをその端面において着脱自在に固定できるようになっていることを特徴とする電動射出成形機の射出モータ組立用治具。
【請求項2】
請求項1に記載の組立用治具において、前記取付手段は、前記開口部より大きな板状のプレートからなり、前記開口部を閉鎖するように前記ベースの裏面側から着脱自在に固定され、前記ガイド軸は前記プレートの略中心に垂直に固定されていることを特徴とする電動射出成形機の射出モータの組立用治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組立用治具において、前記ベースには前記ガイド軸と同心円状に所定の段部が形成され、前記ステータと前記ロータが前記ベースに固定されるとき、前記ステータまたは前記ロータが前記段部に着座するようになっていることを特徴とする電動射出成形機の射出モータの組立用治具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の組立用治具を使用して、電動射出成形機の射出モータを組み立てる組立方法であって、
前記ガイド軸が前記ベースに固定されている状態で前記ベースが水平になるように前記組立用治具を設置する第1の工程と、
前記ステータをその端面において前記ベースに固定する第2の工程と、
前記ロータを前記ガイド軸にガイドさせて前記ステータの内側に挿入し、その端面において前記ベースに固定する第3の工程と、
前記ガイド軸を前記ベースの背面側から取り外す第4の工程と、
前記ベースが垂直になるように前記組立用治具を支持・搬送し、前記ロータが前記ボールネジの後端部に挿入されるようにする第5の工程と、
前記ロータを前記ボールネジの後端部に固着すると共に前記ステータを前記電動射出成形機を構成する所定の部材に固定する第6の工程と、
前記ステータと前記ロータとを前記ベースから分離して前記組立用治具を取り外す第7の工程と、からなることを特徴とする電動射出成形機の射出モータの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュを軸方向に駆動するボールネジ機構がスクリュと同軸に設けられている電動射出成形機において、ボールネジ機構を構成するボールネジを回転軸として、ボールネジと、ボールネジの後端部に取り付けられているロータと、該ロータを取り囲むように設けられているステータとから構成されている射出モータの組立用治具、および射出モータの組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来周知のように、射出装置は加熱シリンダと、この加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとから概略構成されている。モータによって各装置が駆動される電動射出成形機においては、スクリュは可塑化モータによって回転され、射出モータによって軸方向に駆動されるようになっている。ところで多くの電動射出成形機においては、射出モータは、スクリュの軸に対して側方に設けられて、側方から駆動力が伝達されるようになっている。詳しく説明すると、スクリュの後端部にはスクリュの軸と同軸になるようにボールネジ機構が設けられ、ボールネジとスクリュとが所定のカップリングを介して結合され、このボールネジ機構の側方に射出モータが設けられている。すなわちスクリュの軸に対して側方に設けられている。この射出モータの回転がプーリ、ベルト等の動力伝達機構を介して伝達され、ボールナットが回転し、ボールネジが駆動されてスクリュが軸方向に駆動されることになる。しかしながら、このようにスクリュの軸に対して側方に射出モータを配置すると不利な点もある。まず、射出モータの動力がスクリュに対して側方から伝達されるので、スクリュの軸と射出モータの回転軸の双方に、垂直な偏荷重が作用するという問題がある。このような偏荷重は制御に影響を与えるし、金属疲労による劣化の原因にもなる。また射出工程は大出力を要するので、射出モータの駆動力を効率よくスクリュの軸方向への駆動力に変換したいが、効率を低下させてしまうという問題もある。つまりプーリ、ベルト等の動力伝達機構が必須になるので、これらの部材の慣性に抗して駆動する分だけ駆動力が消費されてしまう。さらには動力伝達機構の摩擦による損失もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−88180号公報
【0004】
このような不利な点を解消するために、射出モータをスクリュの軸と同軸に配置するようにした電動射出成形機が周知であり、例えば特許文献1において提案されている。特許文献1に記載の電動射出成形機は、スクリュをボールネジ機構によって軸方向に駆動するようになっていて、スクリュの後端部には所定の構造を介してボールナットが固定されている。そしてボールネジはスクリュと同軸に配置されている。射出モータの回転軸は、所定のカップリングによってボールネジと一体的に結合されている。従って射出モータを回転するとボールネジが回転し、スクリュが軸方向に駆動される。特許文献1に記載の電動射出成形機においては、スクリュと射出モータが同軸に配置されているので、スクリュにも射出モータにも軸と垂直な方向の偏荷重が作用せず、動力伝達機構によるエネルギーロスも最小限で済むことになる。
【0005】
ところで近年、高品質の成形品を得たり大型の成形品を得るために、高速に射出できる電動射出成形機に対する要求が大きい。このような電動射出成形機においては高出力の射出モータが必須であるが、高出力の射出モータは大型である。このような大型で高出力の射出モータの回転軸をボールネジに結合するには、大型で耐久性の高い高価なカップリングを必要とするのでコストが嵩んでしまう。そこで、ボールネジを射出モータの回転軸とする、いわゆるビルトインモータが検討されている。すなわちボールネジ後端部にロータを固定し、ロータを囲むようにステータを組み込む。このようにすると、ボールネジの後端部が射出モータの回転軸を構成することになり、高価なカップリングを省略することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電動射出成形機は、射出モータがスクリュと同軸に設けられているので、スクリュや射出モータの軸に、軸と垂直な偏荷重が作用することがなく、制御に影響が生じないし劣化し難い。そしてプーリ、ベルト等の動力伝達機構を格別に必要としないので、エネルギーロスも小さい。そしてこのような電動射出成形機において、ボールネジの後端部がモータの回転軸となるように射出モータを構成すると、高価なカップリングを不要にできるので、大型で高出力の射出モータを比較的安価に電動射出成形機に組み込むことができる。つまり高出力の電動射出成形機を安価に提供することができ優れている。しかしながら解決すべき問題も見受けられる。具体的には、ボールネジをモータの回転軸とする射出モータは、その製造や、メンテナンスが難しいという問題がある。
【0007】
射出装置は軸が水平になるように設置され、ボールネジも射出装置の後方寄りに水平に配置されている。本来であれば、このような状態において、ボールネジの後端部に射出モータを構成するステータとロータとを取り付けるようにしたい。しかしながら、ボールネジが水平に配置されていると、ステータを射出装置の筐体に取り付けることは比較的容易にできるが、ロータを挿入するときに問題が生じる。ステータとロータの隙間、すなわちギャップは非常に小さく、磁力の大きさは距離の二乗に反比例して急激に大きくなるので、ステータとロータとがわずかに偏心しているだけで隙間が不均一になり一方に偏った非常に大きな磁力を受ける。従って高い精度でステータと同軸になるようにロータを挿入する必要があるが、射出モータは大型で重量が大きいので、重力に抗してクレーンによってロータを吊り下げながら正確にロータを挿入するのは困難である。ロータに作用する重力とクレーンによる吊り下げ力と、磁力による作用とを考慮して制御しなければならないからである。そうするとわずかに偏心しているだけで、ロータに設けられている強力な永久磁石の磁力によってロータがステータにぶつかって破損したりボールネジが曲がる可能性が高い。そこで、ボールネジの後端部に射出モータを組み込む場合には次のようにする。まずボールネジを射出装置から取り出して垂直に立てる。次いで、このボールネジと同軸になるようにステータを取り付ける。その後ロータを吊り下げて鉛直方向に降ろすようにしてステータ内に挿入し、ロータをボールネジに固着する。このようにすると、磁力が作用する方向は水平方向に限定される。従ってロータの位置制御においては重力や吊り下げ力による影響を考慮しなくて済み、比較的安全にロータをステータ内に挿入することができる。しかしながらこのようにして組み立てるには、作業スペースとして高さ方向に余裕が必要になる。また、組み立てられたボールネジと射出モータは、水平に設置されている射出装置に組み込むときに、ボールネジの長さ分だけ後方にスペースが必要になる。したがって製造時に必要とする作業スペースが広くなるので製造コストが高くなる。また、ロータを鉛直方向に降ろすようにして比較的安全性は高くなっているとは言えるが、降ろすときに横揺れによって偏心する危険もあるので確実な安全が保証されているとは言えない。顧客の工場に搬入した電動射出成形機において射出モータをメンテナンスするときにも問題がある。つまりボールネジと一体化した状態で射出モータを取り出す必要があるので、射出装置の後方に相当の作業スペースを必要とするし、取り出したボールネジからローラを外すには、ボールネジを立てるスペースも必要になる。そうすると広大なスペースを確保しておく必要があり、現実的には射出モータのメンテナンスは難しい。
【0008】
したがって、本発明は、電動射出成形機のスクリュを軸方向に駆動するボールネジに設けられている射出モータであって、ボールネジを回転軸としてその後端部にロータが取り付けられている射出モータについて、広大な作業スペースを要することなく、安全に組み立てたりメンテナンスすることができる射出モータの組立用治具、および組立方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電動射出成形機の射出モータの組立用治具として構成する。組立用治具は、中央に所定の大きさの開口部が形成されている板状のベースと、ボールネジの後端部と略同径のガイド軸と、該ベースを水平に支持する脚部とから構成する。ベースの開口部は所定のプレートによってベースの裏面側から閉鎖するようにし、このプレートにガイド軸を垂直に設ける。これによってガイド軸がベースの中央に垂直に立てられることになる。このプレートとガイド軸は、ベースの裏面側から取り外せるようにする。ベースには、ガイド軸と略同心円状に第1のボルト穴群を複数個明ける。これらによってステータをその端面においてベースに着脱自在に固定できるようにする。同様にベースには、ガイド軸と略同心円状に第2のボルト穴群を複数個明け、ロータをその端面においてベースに着脱自在に固定できるようにする。このような組立用治具を使って、次のように射出モータを組み立てる。すなわち組立用治具をベースが水平になるように設置する。ステータをベースに固定する。ロータをガイド軸にガイドさせてステータの内側に挿入し、同様にベースに固定する。プレートをおよびガイド軸をベースの裏面側から取り外す。ステータとロータとが固定されているベースが垂直になるように支持し、この状態で搬送してボールネジの後端部にロータが挿入されるようにする。ロータをボールネジに固定すると共に、ステータを所定の部材に固定する。最後にロータとステータとをベースから分離して組立用治具を取り外す。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、スクリュを軸方向に駆動するボールネジ機構が前記スクリュと同軸に設けられている電動射出成形機において、前記ボールネジ機構を構成するボールネジを回転軸として、前記ボールネジと、前記ボールネジの後端部に取り付けられているロータと、該ロータを取り囲むように設けられているステータとから構成されている射出モータの組立用治具であって、前記組立用治具は、中央に所定の大きさの開口部が形成されている板状のベースと、前記ボールネジの後端部と略同径のガイド軸と、該ベースを水平に支持する脚部とから構成され、前記ガイド軸は、前記ベースの中央において前記ベースの表面側に垂直になるように、所定の取付手段によって前記ベースに設けられていると共に、前記ベースの裏面側から取り外せるようになっており、前記ベースは、前記ガイド軸と略同心円状に複数個明けられている第1のボルト穴群によって前記ステータをその端面において着脱自在に固定できるようになっていると共に、同様に前記ガイド軸と略同心円状に複数個明けられている第2のボルト穴群によって前記ロータをその端面において着脱自在に固定できるようになっていることを特徴とする電動射出成形機の射出モータ組立用治具として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の組立用治具において、前記取付手段は、前記開口部より大きな板状のプレートからなり、前記開口部を閉鎖するように前記ベースの裏面側から着脱自在に固定され、前記ガイド軸は前記プレートの略中心に垂直に固定されていることを特徴とする電動射出成形機の射出モータの組立用治具として構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の組立用治具において、前記ベースには前記ガイド軸と同心円状に所定の段部が形成され、前記ステータと前記ロータが前記ベースに固定されるとき、前記ステータまたは前記ロータが前記段部に着座するようになっていることを特徴とする電動射出成形機の射出モータの組立用治具として構成される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の組立用治具を使用して、電動射出成形機の射出モータを組み立てる組立方法であって、前記ガイド軸が前記ベースに固定されている状態で前記ベースが水平になるように前記組立用治具を設置する第1の工程と、前記ステータをその端面において前記ベースに固定する第2の工程と、前記ロータを前記ガイド軸にガイドさせて前記ステータの内側に挿入し、その端面において前記ベースに固定する第3の工程と、前記ガイド軸を前記ベースの背面側から取り外す第4の工程と、前記ベースが垂直になるように前記組立用治具を支持・搬送し、前記ロータが前記ボールネジの後端部に挿入されるようにする第5の工程と、前記ロータを前記ボールネジの後端部に固着すると共に前記ステータを前記電動射出成形機を構成する所定の部材に固定する第6の工程と、前記ステータと前記ロータとを前記ベースから分離して前記組立用治具を取り外す第7の工程と、からなることを特徴とする電動射出成形機の射出モータの組立方法として構成される。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明は、スクリュを軸方向に駆動するボールネジ機構がスクリュと同軸に設けられている電動射出成形機において、ボールネジ機構を構成するボールネジを回転軸として、ボールネジと、ボールネジの後端部に取り付けられているロータと、該ロータを取り囲むように設けられているステータとから構成されている射出モータの組立用治具として構成されている。つまり、いわゆるビルトインモータからなる射出モータの組立用治具として構成されている。そして組立用治具は、中央に所定の大きさの開口部が形成されている板状のベースと、ボールネジの後端部と略同径のガイド軸と、該ベースを水平に支持する脚部とから構成され、ガイド軸は、ベースの中央においてベースの表面側に垂直になるように、所定の取付手段によってベースに設けられていると共に、ベースの裏面側から取り外せるようになっている。そしてベースは、ガイド軸と略同心円状に複数個明けられている第1のボルト穴群によってステータをその端面において着脱自在に固定できるようになっていると共に、同様にガイド軸と略同心円状に複数個明けられている第2のボルト穴群によってロータをその端面において着脱自在に固定できるようになっている。従って、ベースを水平になるように組立用治具を設置し、ベースにステータを固定した後に、ロータをガイド軸にガイドさせれば、ロータを鉛直方向下方に降ろすことができ、ガイド軸によってロータはぶれることもない。つまりロータを正確にかつ安全にステータ内に挿入することができる。この状態でロータをベースに固定すれば、ステータとロータが同軸に配置された状態で固定されていることが保証される。この状態でガイド軸をベースの裏面側から取り外す。次いで、ステータとロータとが固定された状態でベースが垂直になるようにして組立用治具を搬送し、ロータがボールネジの後端部に挿入されるようにする。この状態においてロータをボールネジに固定し、ステータを電動射出成形機の所定の部材に固定する。このときベースには開口部が明けられているので、ロータをボールネジに固定する作業は容易に実施できる。その後ステータとロータとからベースを分離すれば組立用治具を取り外すことができる。このようにして、安全かつ容易に射出モータを組み立てることができ、格別に広大な作業用スペースは必要としない。また、電動射出成形機に組み込まれている射出モータをメンテナンスするときには、組み立てと逆の工程によって射出モータを取り外して分解することができる。つまり射出モータのメンテナンスも容易に実施できる効果が得られる。また他の発明によると、ベースにはガイド軸と同心円状に所定の段部が形成され、ステータとロータがベースに固定されるとき、ステータまたはロータが段部に着座するようになっている。そうすると、ステータとロータの高さが相違している場合であっても、段部によってステータとロータとを相対的に適切な位置に維持した状態でこれらをベースに固定することが可能になる。従ってステータとロータを相対的に適切な位置関係を維持した状態で電動射出成形機に射出モータを組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る射出モータを備えた電動射出成形機の、射出装置を一部断面で示す正面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る射出モータの組立用治具を示す図で、その(ア)、(イ)はそれぞれ組立用治具の斜視図と平面断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る射出モータの組立用治具によって射出モータを組み立てる方法を模式的に説明する図で、その(ア)〜(カ)は、組立工程のそれぞれの段階を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態に係る射出モータの組立用治具は、特定の構造を備えた電動射出成形機の射出モータを組み立てる治具である。最初にこの特定の構造を備えた電動射出成形機について説明する。本発明の実施の形態に係る組立用治具が対象としている電動射出成形機も、金型を型締めする型締装置、射出材料を射出する射出装置等からなり、各部材はモータによって駆動されるようになっているが、
図1には射出装置1のみが、概略的に示されている。射出装置1は、加熱シリンダ2、この加熱シリンダ2内に設けられている回転方向と軸方向とに駆動可能なスクリュ3、スクリュ3を駆動する駆動機構4等から構成されている。加熱シリンダ2の先端には射出ノズルが、後端には射出材料を供給するホッパ6が設けられ、外周面にはヒータが巻かれているが、
図1には射出ノズル、ヒータは示されていない。
【0015】
射出装置1は、所定の支持構造、つまり加熱シリンダ2の後方に設けられている前方支持台8と、その前方支持台8の後方に設けられている後方支持台9と、前方支持台8と後方支持台9とを結合しているガイドバー11、11、…とからなる支持機構によって支持されている。この支持機構は駆動機構4の一部と言うこともできる。つまり駆動機構4は、前方支持台8と、後方支持台9と、ガイドバー11、11、…と、これらのガイドバー11に案内されてスライドするスライド盤12と、可塑化機構13と、射出機構14とから構成されている。スクリュ3は、その軸が後方寄りにおいて前方支持台8を貫通し、そして後端部がスライド盤12に回転可能に軸支されている。可塑化機構13はスライド盤12に設けられている可塑化モータ16と、可塑化モータ16の回転軸に設けられている駆動プーリ17と、スクリュ3の軸の後方において軸に固定されている従動プーリ18と、これらの駆動プーリ17と従動プーリ18とを掛け回しているタイミングベルト20とから構成されている。従って、可塑化モータ16を駆動すると駆動プーリ17、タイミングベルト20、従動プーリ18と順に動力が伝達されてスクリュ3が回転し、従来周知のように射出装置1において可塑化工程を実施することができる。
【0016】
射出機構14は、ボールネジ機構21と、このボールネジ機構21を駆動する射出モータ22とから構成されている。ボールネジ機構21のボールナット23はスペーサ25を介してスライド盤12の裏面側に設けられ、ボールネジ24はスクリュ3の軸と同軸になるように配置されている。このようにボールネジ24が配置されているので、ボールネジ24もスクリュ3と同様に水平に設けられている。ボールネジ24はボールナット23に螺合しているので回転してボールナット23を軸方向に超えて突き出るが、スペーサ25が設けられているので、スライド盤12にぶつかることはない。ボールネジ24は後方支持台9を貫通しており、貫通している後方の部分にはネジ山は切られていない。このネジ山が切られていない後方の部分が次に説明する射出モータ22の回転軸24aになって、射出モータ22がボールネジ24と一体化して組み込まれている。この、水平に設けられているボールネジ24と一体化している射出モータ22が、本発明の実施の形態に係る組立用治具が対象としている射出モータになる。
【0017】
射出モータ22について説明を続けると、射出モータ22は、回転軸24aに設けられているロータ27と、ロータ27の周りに配置されているステータ28と、これらを収納しているケーシング29とから構成されている。ケーシング29は、後方支持台9に固定されている前方ケーシング29aと、この前方ケーシング29aにボルトによって固定されていると共に内側に一体的にステータ28を固定している胴部ケーシング29bと、胴部ケーシング29bにボルトによって固定されて射出モータ22を閉鎖している後方ケーシング29cとから構成されている。このような射出モータ22には、エンコーダ26が設けられて回転を検出できるようになっている。この射出モータ22を駆動するとボールネジ24が回転してボールナット23が軸方向に駆動される。これによってスクリュ3が軸方向に駆動され、従来周知のように射出装置1において射出工程を実施することができる。
【0018】
本発明の実施の形態に係る組立用治具30について説明する。組立用治具30は、
図2の(ア)、(イ)に示されているように、所定板厚のベース31と、このベース31に対して垂直に設けられているガイド軸32と、ベース31の裏面側に設けられている脚33、33、…とから構成されている。ベース31は本実施の形態においては8角形に形成されているが、円盤状に形成されていても他の形状に形成されていてもよい。ベース31の中央には所定の大きさの開口部35が明けられており、後で説明するようにロータ27をボールネジ24の後端部に固定するときにこの開口部35から作業できるようになっている。ベース31には、その外周部近傍にガイド軸32と同心円になるように複数個のボルト穴38、38、…が明けられている。これらの第1のボルト穴群38、38、…はベース31を貫通しており、裏面側から挿入されるボルトによって、ステータ28をその端面において固定できるようになっている。なお、図には示されていないがベース31の表面には、小さな突起が形成されており、ベース31にステータ28が載せられるときに、ステータ28がガイド軸32に対して精度良く同軸に配置されるようにステータ28の位置決めができるようになっている。このようなベース31には第1のボルト穴群38、38、…の内側に、ガイド軸32と同軸になるように所定の段部36が設けられている。この段部36はベース31とは別の部材から構成されているがボルト等の所定の固着手段によってベース31に一体的に固着されている。この段部36にもベース31を貫通する複数個のボルト穴39、39、…が明けられている。この第2のボルト穴群39、39、…が明けられているので、ベース31の裏面から挿入されるボルトによって、ロータ27をその端面において固定できることになる。
【0019】
ガイド軸32は、所定の長さからなり、ロータ27が嵌合するボールネジ24の後端部と略同径に形成されている。あるいはわずかに径が小さい。このようなガイド軸32は、ベース31に所定の取付手段、本実施の形態においてはプレート40を介してベース31に固定されている。プレート40は所定板厚からなるが、ベース31の開口部35を閉鎖する大きさになっている。ガイド軸32はこのプレート40の中央にプレート40に対して垂直に固着されている。そしてこのようなプレート40が、ベース31の開口部35を閉鎖するようにベース31の裏面側から着脱可能にベース31に取り付けられている。これによってガイド軸32はベース31に対して高い精度で垂直に設けられることになる。なおプレート40をベース31から外すと、ガイド軸32をベース31の裏面側から抜き取ることができる。
【0020】
本実施の形態において、脚33、33は、簡略的に示されているが、ボルトを調整することによって脚の長さを微調整できるようになっている。従って作業エリアにおいて組立用治具30を設置するときに、ベース31が高い精度で水平になるように微調整することができる。
【0021】
本実施の形態に係る組立用治具30を使用して、特定の構造を有する電動射出成形機の射出モータ、すなわちボールネジ24と一体化されている射出モータ22を組み立てる方法を説明する。最初に第1の工程として、組立用治具30を作業スペースに設置し、脚33、33、…を微調整してベース31が水平になるようにする。次に第2の工程として、胴部ケーシング29bと一体化しているステータ28、以下ステータ28を、その端面を下にしてベース31の上に載せ、ベース31の裏面側からボルトで固定する。この状態が
図3の(ア)に示されており、ステータ28はガイド軸32に対して精度良く同軸に配置され、固定されている。第3の工程はロータ27をステータ28内に挿入する工程である。
図3の(イ)に示されているように、ロータ27に明けられている軸穴をガイド軸32に通して、ガイド軸32にガイドさせながらロータ27を降ろす。ガイド軸32は鉛直方向に立っているのでロータ27は精度良く鉛直方向に降ろされることになり、ステータ28とロータ27の隙間、すなわちギャップは均一な状態で降ろされる。そうすると、ロータ27の外周面に設けられている複数個の永久磁石とステータ28とが引き合う磁力は軸に対して対称に作用して相殺され、スムーズにロータ27を降ろすことができる。ロータ27の端面が段部36に着座する。段部36の高さは、ステータ28に対してロータ27が適切な位置に配置されるように選定されている。この状態でベース31の裏面側からボルトによってロータ27を固定する。ロータ27はステータ28と精度良く同軸に配置された状態になる。次に第4の工程として、プレート40を固定しているボルトを抜いて、
図3の(ウ)に示されているように、プレート40とガイド軸32をベース31の裏面側から抜き取る。第5の工程では、ステータ28とロータ27とが固定されている組立用治具30を吊り下げて、電動射出成形機の射出装置1の後方、すなわちボールネジ24の後端部近傍に搬送する。このときベース31が垂直になるようにして、ステータ28とロータ28とが、その軸が水平になるようにして搬送する。そして
図3の(エ)に示されているように、ロータ28の軸穴にボールネジ24の後端部が挿入されるようにする。ロータ28の軸穴にボールネジ24の後端部がしっかりと挿入され、そして胴部ケーシング29cが前方ケーシング29aに当接したら、第6の工程として、
図3の(オ)に示されているように、ボルトによって胴部ケーシング29cを前方ケーシング29aに固定してスタータ28を固定する。次いでベース31の開口部35からパワーロック42を挿入して、ボールネジ24にロータ28を固定する。次いで、第7の工程として、ボルトを抜いてステータ28とロータ27とからベース31を分離して組立用治具30を取り外す。その後、
図3の(カ)に示されているように、ボルトによって後方ケーシング29cを胴部ケーシング29bに固定して、エンコーダ26を取り付ける。電動射出成形機において射出モータ22の組立が完了する。
【0022】
当業者であれば容易に理解できるので説明は省略するが、メンテナンス等において電動射出成形機から射出モータ22を取り外し、これを分解するときには、組立と反対の手順で実施すればよい。
【0023】
本実施の形態は色々な変形が可能である。例えば上記の説明においては、組立用治具30においてガイド軸32はプレート40を介してベース31に固定されているように説明したが、プレート40の代わりに枠体のような他の部材によって固定されるようにしてもよい。また、脚33、33、…はベース31に固定されているように説明したが、着脱自在になっていてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 射出装置 2 加熱シリンダ
3 スクリュ 4 駆動機構
8 前方支持台 9 後方支持台
11 ガイドバー 12 スライド盤
16 可塑化モータ 21 ボールネジ機構
22 射出モータ 23 ボールナット
24 ボールネジ 24a 回転軸
27 ロータ 28 ステータ
29 ケーシング 30 組立用治具
31 ベース 32 ガイド軸
33 脚 35 開口部
36 段部 38 ボルト穴
39 ボルト穴 40 プレート
42 パワーロック