(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
減面装置が、ヘッド台座、回転軸ならびにヘッド台座の下面に設けられた電極、弾性砥石およびフレキシブル砥粒ユニットからなる群から選ばれる1以上を有する電解砥粒減面用回転減面ヘッドであり、電極と鋼材との間に電解液を流しながら減面処理が行われる、請求項1に記載の鋼材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、深いピット状の欠陥まで削除するような研削加工は砥石の負荷やコストの上昇を伴うとともに、スラブの手入れに関する歩留を低下させ、十分な表面品質の鋼材を提供する場合はコストが高まり、コストを低減する場合はスラブを十分な表面品質にできないことがあった。
また、ホットスカーファーやコールドスカーファーなどのスカーファーを使用したスラブの手入れでは、グラインダーに比べて表層部分の除去能力が高い反面、スカーファーが備えるノズルから可燃性ガスを噴出させてスラブ表面の手入れを行うために、スラブに数mm程度のうねりが発生してしまことがあった。
【0005】
このような状況の中で、熱間圧延工程前に、スラブの表面欠陥を減少させることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の鋼材の製造方法は以下のとおりである。
[1]
溶解された金属を鋳造してスラブを製造するスラブ製造工程および熱間圧延処理工程を有する鋼材の製造方法であって、
弾性砥石およびフレキシブル砥粒ユニットからなる群から選ばれる1以上と電極とを有する減面装置を用いて、前記電極に電圧を印加してスラブを減面処理する電解砥粒減面処理工程を含む、鋼材の製造方法。
[2]
減面装置が、ヘッド台座、回転軸ならびにヘッド台座の下面に設けられた電極、弾性砥石およびフレキシブル砥粒ユニットからなる群から選ばれる1以上を有する電解砥粒減面用回転減面ヘッドであり、電極と鋼材との間に電解液を流しながら減面処理が行われる、[1]に記載の鋼材の製造方法。
[3]
電解砥粒減面用回転減面ヘッドにおいて、弾性砥石またはフレキシブル砥粒ユニットが電極よりも突出させて配置されている、[2]に記載の鋼材の製造方法。
[4]
スラブ製造工程において、スラブが鋳型から連続的に取り出される、[1]〜[3]のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
[5]
前記スラブがスケール破砕されたスラブである、[1]〜[4]のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
[6]
前記スケール破砕がショットブラストで行われる、[5]に記載の鋼材の製造造方法。
[7]
電極とスラブとの間を流れる電流の電流密度が5〜40A/cm
2である、[1]〜[6]のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
[8]
電極とスラブとの間を流れる電解液の流速が5〜10m/秒である、[1]〜[7]のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
[9]
前記鋼材がステンレスである、[1]〜[8]のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好ましい態様を用いると、たとえばスラブの手入れ歩留および生産性の向上、手入れ後の表面改質によって、その後の熱間圧延および冷間圧延を経た鋼材の品質を格段に改善させることができる。
本発明の好ましい態様を用いると、スラブの表面のパウダーの巻き込み層、凹部および凸部が低減される。これによって、熱間圧延後に実施される冷間圧延前のコイルグラインダの負荷を軽減し、冷間圧延後の鋼材の表面品質を向上させるとともに、鋼材製造の歩留が改善する。
また、本発明の好ましい態様を用いれば、鋼材の品質および鋼材の製造工程歩留の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明にかかる鋼材の製造方法について、図面を用いて具体的に説明する。ただし、本発明は発明を実施するための形態の記載に限定されるものではない。
【0010】
1 本発明の減面装置
本発明の鋼材の製造方法で用いる減面装置はスラブ表面を研磨等によって減面処理する装置である。具体的には、減面装置は弾性砥石およびフレキシブル砥粒ユニットからなる群から選ばれる1以上と電極とを有する。減面装置に設けられた弾性砥石またはフレキシブル砥粒ユニットがスラブ表面と摩擦する際に、電極に電圧が印加され、電解砥粒減面処理を行うことができる。
減面装置としては、たとえば、
図1または
図4に示す電解砥粒減面用回転減面ヘッドを用いることが好ましい。
【0011】
1.1 弾性砥石
弾性砥石とは、一定の弾性を有する砥石であれば特に限定されない。好ましい弾性砥石としては、砥粒をゴム等の弾性体で固めた砥石が挙げられる。
弾性砥石は、スラブの表面の凸部のみならず、凹部にも接触することが可能であるため、凹部も研磨することができる。
【0012】
(1)弾性体
弾性砥石に含まれる弾性体の主な原料として、ゴム,熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
ゴムとしては、天然ゴムのほか、たとえばイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、シリコンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ブチルゴム等の合成ゴムを使用することができる。
また、前記エラストマーとしては、スチレンブロックコポリマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩ビ系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。
ゴムおよび熱可塑性エラストマーは、単独で用いるほか、複数種をブレンドして用いても良い。
【0013】
弾性体には、ゴム、エラストマーの他に添加剤が含まれてもよい。たとえば、原材料としてゴムを使用する場合、ゴムに混合される添加剤としては,ゴム分子間を架橋するための加硫剤,加硫剤による架橋反応を促進するための加硫促進剤、ゴムに可塑性を与えて配合剤の混合・分散を助け,圧延や押出等の加工性をよくするための可塑剤、ゴム製造時に要求される粘着性を与えて加工性を良くするための粘着付与剤、増量によって製品コストを低下させる、あるいはゴムの物性(引張強度さや弾性等の機械的特性等)や加工性を向上させるためのフィラー、安定剤、分散剤等が挙げられる。
【0014】
前記添加剤として充填剤が用いられても良い。たとえば、弾性体に重さを付加するために、たとえば,砥粒の硬度より低い金属、セラミックス、無機物樹脂等の充填剤を使用することができ、これらを配合することによって加工に適した弾性体の密度にすることができる。
また、静電気の防止のため、カーボンブラックや金属粒子等の導電性を有する物質を使用してもよい。
【0015】
(2)砥粒
弾性砥石に含まれる砥粒としては、上記の母材に分散あるいは担持されることができ、被加工物の表面を望みの粗さに加工することができる材質であれば特に制限はない。
たとえば、鉄、アルミニウム、珪素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、銀、テルル等の金属酸化物、ガラス、石英、アランダム、カーボンアランダム、カーボランダム、ジルコニア、ガーネット、ホウ化チタン、ホウ化炭素等のセラミック、 クルミ、種子殻、パルプ、コルク等の植物由来物質、 ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリアセタール、酢酸セルロース等の樹脂、硫化タングステン、硫化モリブデン、水酸化マグネシウム、炭素、グラファイト、バリウム塩化物、アルミニウム塩化物、などの無機物を砥粒として使用することができる。
【0016】
使用する砥粒の硬度は、被加工物と同等かそれ以上の硬度を有するものを使用することが好ましいが、被加工物の材質・加工条件等によっては、必ずしも砥粒の硬度が被加工物と同等かそれ以上であることが必要なわけではない。砥粒の粒径は目的の凹凸(表面粗さ)の程度に応じて適宜選択するとよい。また、砥粒の粒度について特に限定はなく、たとえば♯20〜20000(930〜0.5μm)の範囲のものを使用でき、たとえば、表面を粗くするためには粒径の大きいもの(番手の小さいもの)を使用するとよく、表面の粗さを低減するためには粒径の小さいもの(番手の大きいもの)を使用するとよい。前記砥粒の形状についても被加工物の材質や加工条件等によって適宜変更してよく、球形だけでなく、多角形、円柱状、薄片状、針状およびこれらが混在した状態等,各種形状を広く使用することができる。
【0017】
弾性砥石における砥粒の配合割合(含有率)は特に限定されないが、弾性砥石を100wt%とした場合、25〜50wt%の範囲とすることが好ましい。
たとえば、弾性砥石の重量を100%とした場合の砥粒の含有率が25wt%以下の場合では、弾性体である母材の影響により弾性研磨材の反発弾性率が大きくなり、研削効率が低くなる。一方,砥粒の含有率が50wt%を超えると,砥石の大部分が砥粒で構成されて砥石の硬度が比較的高くなり、このため被加工物の表面に存在する疵の内側を研削できない可能性がある。
【0018】
1.2 フレキシブル砥粒ユニット
フレキシブル砥粒ユニットも、スラブの表面の凸部のみならず、凹部に追随することが可能であるため、凹部も研磨することができる。
フレキシブル砥粒ユニットは、弾性体の表面に研磨布を巻き付ける、貼り付ける等によって形成することができる。弾性砥石を用いるかあるいはフレキシブル砥粒ユニットを用いるか、またはその両方を用いるかは研磨条件に応じて適宜決めるとよい。
フレキシブル砥粒ユニットに用いられる弾性体は、弾性砥石に用いられる弾性体と同様である。
【0019】
1.3 電極
電極は導電性を有する材料であれば特に限定されないが、好ましくは、銅、鉄、ステンレス等が用いられる。
電極はスラブと接触するとスパークする。そこで、スパークを防止すべく、弾性砥石またはフレキシブルが電極よりも下方向に突出するように設けられる。
【0020】
2 電解砥粒減面用回転減面ヘッド
本発明の減面装置として用いることができる電解砥粒減面用回転減面ヘッドは弾性砥石およびフレキシブル砥粒ユニットからなる群から選ばれる1以上と電極を有するが、通常の弾性を有さない砥石等の他の構成をさらに有してもよい。
2.1 電極と弾性砥石が配置されている電解砥粒減面用回転減面ヘッド
図1〜
図3を用いて、電極と弾性砥石が配置された電解砥粒減面用回転減面ヘッド210について説明する。
図1〜
図3に示すとおり、減面ヘッド210は、ヘッド台座21、回転軸22、および、ヘッド台座21に設けられたパッド状に形成された電極25a〜25fと、パッド状に形成された砥石26a〜26fとを有する。回転軸22は中空管状構造であり、電解液が流通する給液路23を有する。ヘッド台座21と回転軸22とは一体化されている。
【0021】
図2に示すとおり、底面が円形のヘッド台座21上の円周に沿って電極25および砥石26が交互に配置され、ヘッド台座21の中央部には凹状の液溜部24が設けられている。給液路23からの流電解液が液溜部24に流れるように、液溜部24は給液路23と連通している。
【0022】
図3において、説明のために、スラブ9が減面ヘッド2と向き合う様子を示した。
図3は、電極25、弾性砥石26のヘッド台座21への取付状態、およびスラブとの位置関係を示すものである。
図3に示すように、電極25および弾性砥石26は、弾性砥石26の下面(スラブ9に向き合う面)がスラブ9に近く、電極25の下面がスラブ9と接触しないように配置される。なお、当該配置は研磨していないときの状態を示すものである。
【0023】
ここで、6つの電極25a〜25fは、通電時の電流密度を一定に保つためにそれぞれ同じ高さになるように配置されることが好ましい。また弾性砥石26a〜26fは、表面研磨の加工精度を均一にするため、それぞれ同じ高さになるように配置されている。
このように、弾性砥石26を電極25よりも下方向に突出するように配置することにより、電極25とスラブとの間に所定の距離を保つことができ、電解砥粒減面中に発生する危険性のある電極とスラブとの間のスパークを防止するとともに電解液の流路を確保することができる。
【0024】
2.2 電極と弾性砥石とフレキシブル砥粒ユニットとを備えた減面ヘッド
次に、
図4〜
図6を用いて、電極と弾性砥石とフレキシブル砥粒ユニットが配置されている減面ヘッド220について説明する
【0025】
図4〜
図6が示すとおり、減面ヘッド220は、ヘッド台座21、回転軸22、および、ヘッド台座に設けられた電極25a〜25fと、弾性砥石26a〜26fと、フレキシブル砥粒ユニット27a〜27fを有する。回転軸22は中空の構造であり、電解液を通すための給液路23を有する。
【0026】
図5が示すとおり、底面が円形のヘッド台座21上の円周に沿って電極25、弾性砥石26およびフレキシブル砥粒ユニット27が順に配置され、その中央部には凹状の液溜部24が設けられている。管部23に流れてきた電解液が液溜部24に流れるように、液溜部24は管部23とは連通している。なお、上記では、電極、弾性砥石、フレキシブル砥粒ユニットの順に回転軸の周りに配置したが、電極、弾性砥石、フレキシブル砥粒ユニットの配置は適宜変更するとよい。
【0027】
図6において、説明のために、スラブ9が減面ヘッド220と向き合う様子を示した。
図6は、電極25、弾性砥石26およびフレキシブル砥粒ユニット27のヘッド台座21への取り付け状態、およびスラブとの位置関係を示すものである。
図6に示すように、電極25、弾性砥石26およびフレキシブル砥粒ユニット27は、フレキシブル砥粒ユニット27の下面(スラブ9に向かい合う面)が最もスラブ9に近く、それについで弾性砥石26の下面がスラブ9に近く、電極25の下面がスラブ9と最も遠くなるように配置される。これにより、ヘッド台座21の下面(スラブ9に向き合う面)から、フレキシブル砥粒ユニット27、弾性砥石26、電極25の順に下方向(スラブ9の方向)に突出するように電極25、弾性砥石26およびフレキシブル砥粒ユニット27が配置される。
【0028】
フレキシブル砥粒ユニットは、弾性体の表面に研磨布を巻き付ける、貼り付ける等によって形成することができる。
【0029】
3 減面ヘッドを備えた減面装置
次に、
図7及び
図8に基づいて、減面ヘッド210を備えた電解砥粒減面装置について説明する。
図7は、減面装置1の全体を概略的に示した概略図である。
図7に示すように、減面装置1は主に、減面ヘッド210、電解液供給部4、通電部5、絶縁カップリング6、ヘッド回転モータ7および昇降装置8を有する。
【0030】
電解液供給部4は、電解液に所定の圧力を加えて、減面ヘッド210に電解液を供給する手段である。これによって、
図8に示すように減面ヘッド210の回転軸22を通じて液溜部24に電解液が供給される。電解液としては、たとえば、硝酸ソーダ水溶液、硫酸ソーダ水溶液等を用いることができる。
【0031】
また通電部5によって、減面ヘッド210の電極25とスラブ9との間に電位差を生じさせ、それらの間を流れる電解液に所定の電流密度の電流が流れる。絶縁カップリング6は、電流漏洩防止のための手段である。また、ヘッド回転モータ7の回転力が減面ヘッド210に伝わるように、両者は直接的または間接的に連結されている。
【0032】
スラブ9は減面ヘッド210の下方に対面するように置かれ、昇降装置8によって回転した減面ヘッド210をスラブ9に所定の圧力で押圧し、スラブが電解砥粒減面される。
【0033】
次に、
図8および
図9を用いて、減面ヘッド210を有する電解砥粒減面装置1によるスラブ9の電解砥粒減面処理について説明する。
回転している減面ヘッド210が昇降装置8によって下降し、スラブ9に所定の圧力で接触させることによって、電解砥粒減面処理が行われる。
【0034】
スラブをプラス極に、減面ヘッドの電極をマイナス極として電解砥粒減面処理を行うが、この際に電極(マイナス極)で発生するガスは、減面ヘッドの回転による遠心力と、液溜部24から外方向への液流とによって、系外に排出されて、電解砥粒減面処理を継続的に行うことができる。
【0035】
図8は、減面ヘッド210の中心軸(回転軸)と電極25を含む面とを切断面とした断面図の一部であり、減面ヘッド210を用いてスラブ9を研磨する際の電極25の作用を示す説明図である。
図8に示された矢印は電解液の流れる様子を示している。すなわち減面ヘッド210が取り付けられる減面装置1の電解液供給部4から供給された電解液が、回転軸22中の管部23を通って凹状の液溜部24に供給されるように、管部23と液溜部24とが連通している。液溜部24に供給された電解液は、電解液供給部4で印加される圧力と遠心力によって、所定の流速で電極25とスラブ9との間の間隙を流れる。前記流速は、電極25の表面やスラブ9の表面から生成される水素や電解排出物を直ちに排除されるように、5〜10m/秒であることが好ましい。
また、たとえば電極25に陰圧を、スラブ9に陽圧を印加することによって、電極25とスラブ9との間の電解液における電流密度が5〜40A/cm2となるように電流が流れる。この電流によって電極25の表面から水素が発生し、スラブ9の表面からは電解溶出物が生成されるが、これらの水素や電解溶出物は電解液と一緒に排出される。
【0036】
ヘッド台座21に配置された弾性砥石26は電極25よりもスラブ9に近接するように配置されている。
図9は、減面ヘッド210を回転軸に沿って切断した断面図の一部であり、減面ヘッド210を用いてスラブ9を研磨する際の弾性砥石26について説明するものである。具体的には、弾性砥石26が昇降装置8からの圧力により圧縮変形し、スラブ9に接触している様子を示している。
弾性砥石26がスラブ9の表面を擦過し、電解液を介してスラブ9が通電することによって、スラブの凹部を電解砥粒減面処理することが可能になる。その結果、スラブ9の表面にある凹部を電解砥粒減面することができる。
【0037】
4 電解砥粒減面処理工程
本発明の電解砥粒減面処理工程は、弾性砥石またはフレキシブル砥粒ユニットがスラブと摩擦してスラブを摩擦する際に、電極に電圧を印加して、電極とスラブとの間にある電解液を通電することにより行うことができる。電解砥粒減面処理工程中の電流密度は、3A〜50A/cm
2が好ましい。ステンレスなど鉄系のスラブの減面処理に用いられる電解液としては、たとえば、塩化ナトリウム(NaCl)、硝酸ナトリウム(NaNO
3)、塩素酸ナトリウム(NaClO
3)などの水溶液を適宜用いるとよい。また、被加工物からのより多くの金属イオンを溶出させる場合には、より大きな電流密度を電極―被加工物間で形成するとよく、金属イオンの溶出量を減らしたい場合には、より小さな電流密度を電極―被加工物間で形成するとよい。
【0038】
本発明の電解砥粒減面処理工程では、電解液の流速を調整することが好ましい。
たとえば、電流密度を高めるときには、溶出する金属イオン量の増加が見込まれるため、電解液の流速を高め、電流密度を弱めるときには、溶出する金属イオン量の減少が見込まれるため、電解液の流速を弱めることが好ましい。このように、電流密度を制御することにより、鋼片表面の電解量を調節することができる。
これにより、深い疵が鋼片表面に存在する場合には電流密度を高めて対応することができ、比較的深い疵の内部にも電解砥粒減面を実行することができる。また、スラブ表面にほとんど疵がなく、モールドパウダーの巻き込みも少ない場合には、電流密度を下げて対応することで、鋼材の製造にかかるコストを低減することができる。
【0039】
5 鋼材の製造方法
本発明の鋼材の製造方法の好ましい態様を、
図10のフローチャートに基づいて説明する。
まず、公知の方法で、金属の溶解(S1)の後に鋳造(S2)をおこないスラブを製造する。このように得られたスラブに対して、本発明の電解砥粒減面処理を行う(S3)。電解砥粒減面処理が行われたスラブに対して、熱間圧延処理(S4)、熱延板焼鈍(S5)、ショットブラストまたはスケールブレーキング(S6)の一連の処理を行い、その後、公知の方法で、冷間圧延(S7)、焼鈍(S8)、酸洗(S9)または光輝焼鈍(S10)を行ってから、調質圧延(S11)を行い、鋼材を製造する。
【0040】
本発明の製造方法において、ショットブラストまたはスケールブレーキングと電解砥粒減面処理との間に、熱延板酸洗処理を行っても良い。また、本発明の製造方法において、熱延板焼鈍を省くこともできる。
また、連続鋳造法によって形成されたスラブに限らず、鋼塊を分塊圧延して形成されるスラブを電解砥粒減面処理してもよい。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
本発明者らは圧延前のステンレス製のスラブに、上記で説明した減面装置1を用いて手入れを行った。
以下に実施例を用いてより詳細に説明する。
公知の連続鋳造により作られたSUS304スラブから50mm厚x500mm角の試供用サンプルを採取した。試験面は500mm角の片面であり、表面は溶鋼が固まったときに形成された黒いスケールで覆われていた。表面に存在するオシレーションマークの凹凸の高さは凡そ0.1〜0.2mmであった。
このサンプルの試供面を
図1〜
図3に開示されている形状の減面ヘッドを用いて電解砥粒減面処理を行った。当該減面ヘッドの条件は以下のとおりである。
[減面ヘッド主要諸元]
・減面ヘッド 直径250mm、電極6極+砥石6極
・電極 銅製
・砥石 弾性砥石
[電解砥粒減面処理条件]
・減面ヘッド回転速度 350mpm
・ヘッド押付力 0.1MPa
・電解液 30%硝酸ソーダ水溶液
・電解液の流量 8m/秒
・電流密度 15A/cm2
・使用ヘッド数 1ヶ
・ヘッド走行速度 0.6m/m
・パス回数 3回(実施例1a)、10回(実施例1b)
パス回数3回の実験結果を実施例1aとし、パス回数10回の実験結果を実施例1bとした。
【0042】
(実施例1a)
実施例1aにおける、電解砥粒減面処理による黒皮表面の平均削量は90μmであった。
また、実施例1aにおいて、処理後のスラブ表面のRa(中心線平均粗さ)は0.21μmであった。
実施例1aにおいて、処理後のスラブに、鋳造起因の凹みや押し込みが存在したが、これら欠陥底部のスケールは本技術特有の大電流パルス電解によりデスケールされ金属光沢を有していた。なお、不可避的にスラブ表面に存在するピット状欠陥の底部もデスケールされていた。
このように処理されたスラブを用いて熱間圧延以降、公知の方法によりステンレス製の最終製品(鋼材)を製造することができる。
【0043】
(実施例1b)
実施例1bにおける、電解砥粒減面処理による黒皮表面の平均削量は330μmであった。
また、実施例1bにおいて、処理後のスラブ表面のRa(中心線平均粗さ)は0.20μmであった。
実施例1bにおいて、処理後のスラブの表面には、実施例1aのスラブの表面に観察された表面欠陥は、ほとんど見られなかった。
【0044】
[比較例1]
実施例1aおよび1bで使用したときと同様のサンプルをSUS304スラブから採取した。砥粒径820 μmの砥石を研削機の回転軸に装着し、数パスかけて、スラブの表面層を900μm研削した。
【0045】
実施例1aおよび1bと比較例1との実験結果を下記の表1に示す。
【表1】
【0046】
表1に示すように、実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1の研削歩留が良く、手入れ後の表面が滑らかになっていることがわかる。
このような両スラブを同じ加熱、熱延条件で圧延したところ、実施例1の方が高歩留、高品質の熱延板(鋼材)が得られることがわかった。
【0047】
[実施例2]
SUS304スラブから115(t)x200(W)x300(L)サイズ(鋳肌面は片面のみ)のサンプルを採取した。
実施例1で使用した減面装置1を用いて実施例1と同様の条件でサンプルを電解砥粒減面した後に熱間圧延して厚さ5mmの熱延板を形成した。
【0048】
[比較例2]
実施例2と同様のサンプルをSUS304スラブから採取し、比較例1と同条件でスラブ手入れを行った後、熱間圧延し厚さ5mmの熱延板を形成した。
【0049】
実施例2と比較例2との実験結果を下記の表2に示す。
【表2】
両熱延板を公知の方法にて酸洗して表面を観察した結果、実施例2と比較例2との間に有意な差は見られなかった。
【0050】
表2に示すように、スラブの手入れに電解砥粒減面技術を適用した実施例2は、比較例2に比べてプロセスが簡便であり削量が少ないため生産性を上げ、歩留が上がるなど極めて有効な方法である。