特許第5889892号(P5889892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889892
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】粘着シート及び電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/02 20060101AFI20160308BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20160308BHJP
   C09J 163/10 20060101ALI20160308BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160308BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   C09J7/02 Z
   C09J133/04
   C09J163/10
   C09J11/06
   H01L21/78 M
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-520492(P2013-520492)
(86)(22)【出願日】2012年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2012063630
(87)【国際公開番号】WO2012172959
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-132262(P2011-132262)
(32)【優先日】2011年6月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 和典
(72)【発明者】
【氏名】齊籐 岳史
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−163518(JP,A)
【文献】 特開2011−077235(JP,A)
【文献】 特開2000−044893(JP,A)
【文献】 特開2010−090249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の片面に形成された光硬化型の粘着剤層とを備える粘着シートであって、以下の条件で測定した粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率が0.5〜2.0(×108Pa)であり、かつ粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率/基材の貯蔵弾性率の値が1〜3であり、前記粘着剤層を形成する粘着剤組成物が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)、光重合開始剤(C)、硬化剤(D)を含有してなり、(B)が3〜4官能アクリレートである粘着シート。
周波数:1Hz
歪み:0.1%
温度:30℃
【請求項2】
記ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)分子量が1000〜2000であり、前記硬化剤(D)が3官能以上のイソシアネート基を有するもので、粘着剤組成物中の水酸基/イソシアネート基のモル比の値が0.6〜1.2である請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量が70万〜150万である請求項1又は2記載の粘着シート。
【請求項4】
前記基材の貯蔵弾性率が0.5〜2.0(×108Pa)である請求項1〜3の何れか1つに記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤の光硬化後の貯蔵弾性率が0.5〜1.5(×108Pa)である請求項1〜4の何れか1つに記載の粘着シート。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1つに記載の粘着シートに電子部品を貼り合わせる貼合工程と、貼合工程後の電子部品のダイシングを行うダイシング工程と、ダイシング工程後、基材の粘着剤層が形成されていない面側から光を照射し、電子部品を粘着剤層からピックアップするピックアップ工程と、を含む電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート及び該粘着シートを用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハは、通常、回路を形成した後に粘着シートを貼合してから、素子小片への切断(ダイシング)、洗浄、乾燥、粘着シートの延伸(エキスパンディング)、粘着シートからの素子小片の剥離(ピックアップ)、マウンティングなどの各工程へ配される。これらの工程で使用される粘着シート(ダイシングテープ)には、ダイシング工程から乾燥工程までは切断された素子小片(チップ)に対して充分な粘着力を有しながら、ピックアップ工程時には糊残りのない程度に粘着力が減少していることが望まれる。
【0003】
粘着シートとして、紫外線及び/又は電子線などの活性光線に対し透過性を有する基材上に紫外線等により重合硬化反応をする粘着剤層を塗布したものがある。この粘着シートでは、ダイシング工程後に紫外線等を粘着剤層に照射し、粘着剤層を重合硬化させて粘着力を低下させた後、切断されたチップをピックアップする方法がとられる。
【0004】
このような粘着シートとしては、特許文献1および特許文献2には、基材面に例えば活性光線によって三次元網状化しうる、分子内に光重合性不飽和二重結合を有する化合物(多官能性オリゴマー)を含有してなる粘着剤を塗布した粘着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−196956号公報
【特許文献2】特開昭60−223139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ピックアップ工程では、ダイシング後の半導体ウエハの粘着シート側にニードルピンを押し当てて切断分離されたチップを突き上げることにより、粘着シートからチップを剥離している。
【0007】
この際、ニードルピンの突き上げにより粘着シートの粘着剤層の割れが発生する場合がある。粘着剤層の割れが生じると、割れた粘着剤層がチップに付着(糊残り)し、汚染やマウンティング工程の不良の原因となる。
【0008】
そこで、本発明は、紫外線硬化型粘着剤層の硬化前後の粘着力が好ましい範囲であって、ピックアップ時の粘着剤層の割れを生じない粘着シートを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、基材と、基材の片面に形成された光硬化型の粘着剤層とを備える粘着シートであって、以下の条件で測定した粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率が0.5〜2.0(×10Pa)であり、かつ粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率/基材の貯蔵弾性率の値が1〜3である粘着シートを提供する。
周波数:1Hz
歪み:0.1%
温度:30℃
【0010】
本発明者らは、最初に、粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率の着目し、その貯蔵弾性率が規定範囲外になると、粘着剤層の割れが生じてしまうことを見出した。しかし、貯蔵弾性率が規定範囲内であっても、粘着剤層の割れが生じてしまう例が見つかったので、さらに検討を進めたところ、粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率/基材の貯蔵弾性率の値が規定範囲外になった場合に、このような割れが生じることを見出した。これらの知見に基づいて、上記のように、粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率を規定範囲内にすると共に、粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率/基材の貯蔵弾性率の値を規定範囲内にすることによって、粘着剤層の割れを防ぐことができることを見出し、本発明の完成に到った。
【0011】
この粘着シートにおいて、前記粘着剤層を形成する粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)、光重合開始剤(C)、硬化剤(D)を含有してなり、(B)が3〜4官能アクリレートで、かつ分子量が1000〜2000であり、(D)が3官能以上のイソシアネート基を有するもので、粘着剤組成物中の水酸基/イソシアネート基のモル比が0.6〜1.2であることが好ましい。
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量が70万〜150万であることが好ましい。
また、前記基材の前記貯蔵弾性率は、例えば0.5〜2.0(×10Pa)である。
また、前記粘着剤の光硬化後の貯蔵弾性率が0.5〜1.5(×10Pa)であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記の粘着シートに電子部品を貼り合わせる貼合工程と、貼合工程後の電子部品のダイシングを行うダイシング工程と、ダイシング工程後、基材の粘着剤層が形成されていない面側から光を照射し、電子部品を粘着剤層からピックアップするピックアップ工程と、を含む電子部品の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、紫外線硬化型粘着剤層の硬化前後の粘着力が好ましい範囲であって、ピックアップ時の粘着剤層の割れを生じない粘着シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る粘着シートの構成と本発明に係る電子部品の製造方法の貼合工程を説明するための断面模式図である。
図2】本発明に係る電子部品の製造方法のダイシング工程を説明するための断面模式図である。
図3】本発明に係る電子部品の製造方法のピックアップ工程を説明するための断面模式図である。
図4】ピックアップ工程後の電子部品を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
1.粘着シート
(1)基材
図1に、本発明に係る粘着シートの構成を断面模式図により示す。粘着シート1は、基材2と、基材2の片面に積層された光硬化型の粘着剤層3とを備える。
【0017】
基材2は、紫外線及び/又は電子線などの活性光線(以下、単に「光」ともいう)に対し透過性を有する材料からなる。基材2の材料としては、例えば以下が挙げられる。ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エステルフィルム、エチレン−エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体。エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の重合体を金属イオンで架橋してなるアイオノマ樹脂またはこれら樹脂の混合物あるいは共重合体。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸およびメタクリル酸を、(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基およびメタアクリロイル基を意味するものとする。
【0018】
基材2は、上記材料からなる単層あるいは多層のフィルムあるいはシートであってよく、異なる材料からなるフィルム等を積層したものであってもよい。
【0019】
基材2には、帯電防止処理を施すことが好ましい。帯電防止処理としては、基材2に帯電防止剤を配合する処理、基材2表面に帯電防止剤を塗布する処理、コロナ放電による処理がある。
【0020】
帯電防止剤としては、例えば四級アミン塩単量体などを用いることができる。
【0021】
四級アミン塩単量体としては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、p−ジメチルアミノスチレン四級塩化物、およびp−ジエチルアミノスチレン四級塩化物が挙げられる。このうち、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩化物が好ましい。
【0022】
基材2の厚さは50〜200μm、好ましくは70〜150μmである。
【0023】
基材2は、貯蔵弾性率G´が例えば0.2〜2.0(×10Pa)又は0.5〜2.0(×10Pa)となるようにされる。貯蔵弾性率G'は、具体的には例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0(×10Pa)であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。基材2の貯蔵弾性率G´は、基材2の材料および厚さを適宜選択、変更することによって調整可能である。
【0024】
(2)粘着剤層
粘着剤層3は、光硬化型であればよく、その組成は特に限定されないが、一例では、粘着剤層3は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)、光重合開始剤(C)、硬化剤(D)を含有してなる粘着剤組成物によって形成できる。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる重合体であり、重量平均分子量が50万〜200万であることが好ましく、70万〜150万であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体以外のビニル化合物単量体を含んでもよい。なお、本明細書において、「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)によりポリスチレン換算値として測定した値である。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステルの単量体としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、及びエトキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。あり、(メタ)アクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル化合物単量体としては、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリルアミドN−グリコール酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0027】
ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)は下記式で示される。
【0028】
【化1】
(式中、Rは、水素原子あるいは(メタ)アクリレート基を表す。nは1以上の整数を表す。)
【0029】
ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)は、3〜4官能アクリレートであることが好ましく、分子量が1000〜2000であることが好ましい。
【0030】
ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)のアクリレートが3官能未満であるとピックアップ時におけるチップとシートとの剥離性(ピックアップ性)が低下する傾向があり、4官能を超えると粘着剤層の割れが発生する傾向がある。
【0031】
また、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)の分子量が1000未満であるとピックアップ時に粘着剤層の割れが発生する傾向があり、2000を超えるとピックアップ性が低下する傾向がある。
【0032】
ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して20質量部以上200質量部以下とすることが好ましい。配合量が20質量部未満であるとピックアップ性が低下する傾向があり、200質量部を超えるとダイシング工程で粘着剤層の掻き上げが生じ、掻き上げられた粘着剤層がピックアップ工程での精度低下を引き起こすおそれがある。この配合量は、具体的には例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、20、40、60、80、100、120、140、160、180、200質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0033】
光重合開始剤(C)には、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類またはキサントン類などが用いられる。
【0034】
ベンゾインとしては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルなどがある。アセトフェノン類としては、例えばベンゾインアルキルエーテル類、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2―ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンなどがある。アントラキノン類としては、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンなどがある。チオキサントン類としては、例えば2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどがある。ケタール類としては、例えばアセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノンなどがある。
【0035】
光重合開始剤(C)には、必要に応じて従来公知の光重合促進剤を1種または2種以上を組合せて併用しても良い。光重合促進剤には、安息香酸系や第三級アミンなどを用いることができる。第三級アミンとしては、トリエチルアミン、テトラエチルペンタアミン、ジメチルアミノエーテルなどが挙げられる。
【0036】
光重合開始剤(C)の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して1質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。配合量が1質量部未満であるとピックアップ性が低下する傾向があり、5質量部を超えると粘着剤層の割れが発生する傾向がある。
【0037】
硬化剤(D)には、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートおよび脂肪族ジイソシアネート等の三量体が用いられる。また、これらのジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する三量体等も好適に用いられる。
【0038】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、例えばイソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)などが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0039】
硬化剤(D)の配合量は、粘着剤組成物中の水酸基/イソシアネート基のモル比が0.6〜1.2となるように決定される。上記モル比が0.6未満であると粘着剤層の割れが発生する傾向があり、1.2を超えると保管時の経時変化によりテープの品質が低下するおそれがある。このモル比は、具体的には例えば、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0040】
粘着剤組成物には、粘着付与剤、剥離付与剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤および光安定剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0041】
粘着付与剤には、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、クロマン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、キシレン樹脂およびこれらの樹脂の混合物が用いられる。これらは化学構造中に水酸基を含まない樹脂である。
【0042】
粘着剤層3の厚さは、特に限定されないが、例えば1〜100μmであり、好ましくは2〜40μmである。粘着剤層3が厚過ぎると粘着力が高くなり過ぎ、ピックアップ性が低下する。また、粘着剤層3が薄過ぎると粘着力が低くなり過ぎ、ダイシング時のチップ保持性が低下し、リングフレームとシートとの間で剥離が生じる場合がある。粘着剤層3の厚さは、具体的には例えば1、2、5、10、15、20、40、50、100μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0043】
粘着剤層3は、光硬化後の貯蔵弾性率G´が0.5〜2.0(×10Pa)となるようにされ、0.5〜1.5(×10Pa)となるようにされることが好ましい。貯蔵弾性率G´が0.5×10Pa未満であるとピックアップ工程でのシートと被着体との剥離性が低下する傾向があり、2.0×10Paを超えるとニードルピンの突き上げによる粘着剤層の割れが生じやすくなる。粘着剤層3の重合硬化反応後の貯蔵弾性率G´は、具体的には例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0(×10Pa)であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0044】
粘着剤層3の光硬化後の貯蔵弾性率G´は、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)および光重合開始剤(C)、硬化剤(D)の配合量、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)の官能数および分子量を上述した数値に設定することによって所望の値に設定できる。このうち、特にビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)の官能数および分子量を所定数値に設定することが、光重合反応の反応量を制御して所望の硬化後の弾性を得るために重要である。
【0045】
粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率/基材の貯蔵弾性率の比の値は、1〜3であり、2〜3であることが好ましい。つまり、粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率を基材と同じか、それよりも幾分大きくすることが重要である。この値をこのような範囲に設定することによって、粘着剤割れが防止されることが実験的に見出された。なお、粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率が基材の貯蔵弾性率よりも小さい場合や、上記比の値が3よりも大きい場合には、粘着剤の割れが起こった。
【0046】
2.電子部品の製造方法
(1)貼合工程
図1図4に、本発明に係る電子部品の製造方法の工程を断面模式図により示す。本発明に係る電子部品の製造方法は、上述の粘着シート1に電子部品を貼り合わせる貼合工程と、電子部品のダイシングを行うダイシング工程と、基材2側から紫外線を照射し、電子部品を粘着剤層3からピックアップするピックアップ工程と、を含む。
【0047】
貼合工程では、粘着シート1の表面にウエハまたはパッケージ4(以下、「ウエハ4」という)を貼り合わせて固定し、粘着シート1をリングフレーム5に固定する工程である。図1に、貼合工程後の粘着シート1およびウエハ4の状態を示す。なお、ウエハ4は、シリコンウエハ、ガリウムナイトライドウエハ、炭化ケイ素ウエハ、サファイアウエハなどの従来汎用のウエハであってよい。
【0048】
(2)ダイシング工程
ダイシング工程では、貼合工程後のウエハ4をダイシングブレード6でダイシングする。図2に、ダイシング工程後の粘着シート1およびウエハ4の状態を示す。図中符号61は、ダイシングによる切れ込みである。
【0049】
(3)ピックアップ工程
ピックアップ工程では、ダイシング工程後のウエハ4を粘着剤層3からピックアップする。ピックアップ工程における粘着シート1およびウエハ4の状態を図3に示す。また、図4に、ピックアップ工程後のチップ41の状態を示す。
【0050】
ピックアップ工程の具体的手順を説明する。まず、粘着シート1の基材2側から光を照射する。紫外線の光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプを用いることができる。また、電子線の光源としては、電子線、α線、β線、γ線を用いることができる。
【0051】
光照射により粘着剤層3は三次元網状化して硬化し、粘着剤層3の粘着力が低下する。この粘着剤層3の粘着力低下によって、チップ41と粘着剤層3との間の剥離が容易となり、続く手順でのチップ41のピックアップが可能となる。
【0052】
次いで、粘着シート1を放射状に拡大(エキスパンド)してチップ41同士の間隔を広げた後、チップ41をニードルピン等(不図示)で突き上げる。その後、チップ41を真空コレットまたはエアピンセット等(不図示)で吸着し、粘着シート1の粘着剤層3から剥離してピックアップする。
【0053】
この際、粘着シート1はシートに押し当てられるニードルピンに対して優れた追従性を発揮するため、ニードルピンの突き上げによる粘着剤層3の割れの発生が効果的に防止される。従って、割れた粘着剤層がチップに付着(糊残り)したり、汚染やマウンティング工程の不良の原因となったりすることがない。
【0054】
本発明に係る電子部品の製造方法のピックアップ工程後の手順は、まず、ピックアップしたチップ41を、ダイアタッチペーストを介してリードフレーム7に搭載する。搭載後、ダイアタッチペーストを加熱し、チップ41とリードフレーム7とを加熱接着する。その後、リードフレーム7に搭載したチップ41を樹脂(不図示)でモールドする。なお、リードフレーム7は、回路パターンを形成した回路基板に置換されてもよい。
【実施例】
【0055】
<実施例・比較例>
表1に示す配合に従って粘着剤組成物を調製した。エチレン−メタアクリル酸−メタアクリル酸アルキルエステル共重合体のZn塩を主成分とするアイオノマ樹脂(三井・デュポンポリケミカル社、ハイミラン1855)からなる厚さ100μmの基材フィルムを用意した。このアイオノマ樹脂はZn2+イオンを含有し、融点96℃、JIS K7210に従って温度210℃で測定したMFR(メルトフローレート)値1.5g/10分である。
【0056】
粘着剤組成物をPETセパレーターフィルム上に乾燥後の粘着剤層の厚みが10μmとなるようにコンマコーターを用いて塗工し、100℃で3分間乾燥後、基材フィルムに積層し粘着シートを得た。
【0057】
【表1】
【0058】
表中に記載した(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)、光重合開始剤(C)、硬化剤(D)には、以下のものを用いた。
【0059】
(1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(A)−1:重量平均分子量50万の共重合体からなり、溶液重合により得られる市販品(昭和電工社製、製品名ビニロールSPV−8141)。
(A)−2:重量平均分子量70万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(A)−3:重量平均分子量150万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(A)−4:重量平均分子量200万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
【0060】
(2)ビスフェノールA型エポキシアクリレート(B)
(B)−1:2官能アクリレートであり、分子量1000の自社重合品。
(B)−2:4官能アクリレートであり、分子量750の自社重合品。
(B)−3:3官能アクリレートであり、分子量1000の自社重合品。
(B)−4:4官能アクリレートであり、分子量1000の市販品(昭和電工社製、製品名リポキシPX−390HT)。
(B)−5:4官能アクリレートであり、分子量2000の自社重合品。
(B)−6:4官能アクリレートであり、分子量5000の自社重合品。
(B)−7:6官能アクリレートであり、分子量1000の自社重合品。
【0061】
(3)光重合開始剤(C)
ベンジルジメチルケタール(チバ・ジャパン社製、製品名Irgacure651)。
【0062】
(4)硬化剤(D)
トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(日本ポリウレタン社製、製品名コロネートL−45E)。粘着剤組成物中の水酸基/イソシアネート基のモル比は以下の式により算出した。
【0063】

【数1】
【0064】
ダミーの回路パターンを形成した直径8インチ×厚さ0.725mmのシリコンウエハに粘着シートを貼合した。ダイシング装置(DISCO社、DAD341)を用いて以下の条件でダイシングを行った。
チップサイズ:3mm×3mm
粘着シートへの切り込み量:45μm
ダイシングブレード:DISCO社、NBC−ZH205O−27HEEE(外径55.56mm、刃幅35μm、内径19.05mm)
ダイシングブレード回転数:40,000rpm
ダイシングブレード送り速度:80mm/秒
切削水温度:25℃
切削水量:1.0L/分
【0065】
粘着シートの基材側から紫外線を照射して粘着剤層を硬化させた。紫外線の照射は、UV照射条件は150mJ/cmとした。粘着シートをエキスパンド(エキスパンド量8mm)してチップ間隔を広げた後、チップをニードルピンで突き上げ、真空コレットで吸着し、粘着シートとチップとの間で剥離し、チップをピックアップした。ピックアップ装置には、キャノンマシナリー社CAP−300II(ニードルピン形状250μmR、ニードルピン数4、ニードルピン突き上げ高さ0.5mm)を用いた。
【0066】
作成した粘着シートおよびピックアップ工程について以下の評価を行った。
(1)貯蔵弾性率の測定
「貯蔵弾性率」は、次のようにして測定した。
試験片として長さ20mm、幅3mm、厚み0.03mmのUV照射済みの粘着シートを作製した。UV照射条件は150mJ/cmとした。貯蔵弾性率の測定は粘弾性計測装置(RSAIII、TAインスツルメント社製)を用い周波数分散(0.01〜80Hz)にて測定を行い下記条件の時の貯蔵弾性率を指標とした。
周波数:1Hz
歪み:0.1%
温度:30℃
【0067】
(2)ダイシング性
ピックアップ工程後のシリコンウエハのダイシングラインを20ライン確認し、ダイシング時に発生するひげの程度を目視で確認し、以下の基準により評価した。
◎(優):ひげがないダイシングラインが10本以上あった。
○(良):ひげがないダイシングラインが5〜9本あった。
×(不可):ひげがないダイシングラインが5本未満であった。
【0068】
(3)ピックアップ性
ピックアップ工程において粘着シートとチップとの間で良好に剥離でき、ダイアタッチフィルムが完全に付着した状態でピックアップできたチップを数え、以下の基準により評価した。
◎(優):95%以上のチップがピックアップできた。
○(良):80%以上95%未満のチップがピックアップできた。
×(不可):80%未満のチップがピックアップできた。
【0069】
(4)粘着剤割れ
ピックアップ工程後の粘着シートのニードルピン突き上げ箇所を顕微鏡で観察し、粘着剤層が割れている箇所の数を計数し、以下の基準により評価した。
◎(優):5%未満の突き上げ箇所で粘着剤割れが発生した。
○(良):5%以上10%未満の突き上げ箇所で粘着剤割れが発生した。
×(不可):10%以上の突き上げ箇所で粘着剤割れが発生した。
【0070】
(5)経時安定性
粘着シートをシリコンウエハに貼り合わせて、1週間保管後、高圧水銀灯で紫外線を150mJ/cm照射した後、粘着シートを剥離した。剥離した後のシリコンウエハ表面を観察し、以下の基準により評価した。
◎(優):シリコンウエハ表面に粘着剤が残らない。
○(良):シリコンウエハ表面に粘着剤が残り、その程度が貼り付け面積の5%未満である場合。
×(不可):シリコンウエハ表面に粘着剤が残り、その程度が貼り付け面積の5%以上である場合。
【0071】
評価結果を表1に示す。実施例1〜6では、ダイシング性、ピックアップ性、粘着剤割れおよび経時安定性のいずれの評価項目においても、優または良の評価が得られた。一方、比較例1〜4に係る粘着シートでは粘着剤層の割れの発生が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る粘着シートによれば、ピックアップ時のピン突き上げによる粘着剤割れを抑制でき、割れた粘着剤層が半導体部材に付着し、実装時の不良やコンタミの原因となる問題を防止できる。従って、本発明に係る粘着シート、ダイシング後にチップをピックアップし、リードフレーム等にマウントして接着させる電子部品の製造方法に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0073】
1 粘着シート
2 基材フィルム
3 粘着剤層
4 シリコンウエハまたはパッケージ
41 チップ
5 リングフレーム
6 ダイシングブレード
61 切り込み
7 リードフレーム
図1
図2
図3
図4