特許第5889903号(P5889903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889903
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/5684 20120101AFI20160308BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20160308BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20160308BHJP
   H03H 9/24 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   G01C19/56 184
   H01L29/84 Z
   B81B3/00
   H03H9/24 Z
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-528756(P2013-528756)
(86)(22)【出願日】2011年9月5日
(65)【公表番号】特表2013-539858(P2013-539858A)
(43)【公表日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】GB2011001297
(87)【国際公開番号】WO2012035288
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年8月18日
(31)【優先権主張番号】1015585.1
(32)【優先日】2010年9月17日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508296554
【氏名又は名称】アトランティック・イナーシャル・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atlantic Inertial Systems Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】フェル、クリストファー・ポール
【審査官】 梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−535889(JP,A)
【文献】 特表2008−545333(JP,A)
【文献】 特表2008−546243(JP,A)
【文献】 特開平08−178674(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0172714(US,A1)
【文献】 特開2010−071985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00 − 19/72
B81B 1/00 − 7/04
B81C 1/00 − 99/00
H01L 27/20
H01L 29/84
H03H 3/007 − 3/06
H03H 9/00 − 9/135
H03H 9/15 − 9/24
H03H 9/30 − 9/40
H03H 9/46 − 9/62
H03H 9/66
H03H 9/70
H03H 9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に平らなリング又はたが型の振動共振器1を具備する振動構造を備えている、高い品質係数(Q)を有する、センサであって、
前記共振器1は、
中立軸4を中心にして延在している内側周縁部及び外側周縁部2、3と、
前記共振器1を振動させる駆動手段12、13と、
前記共振器1を支持する複数の支持手段10、11であって、前記センサの回転レートに応じて前記支持手段10、11に関連して前記共振器1が動くことを可能にするように、実質的に非減衰の発振モードで前記駆動手段12、13に応じて前記共振器1を振動させる、前記複数の支持手段10、11と、
を具備し、
前記共振器1は、
前記共振器1の前記中立軸4の内側の、第1の一連の半径方向に配置されている複数のスロット5aと、
前記中立軸4の外側の、第2の一連の半径方向に配置されている複数のスロット5bと、
を含み、
前記第1と第2の一連の半径方向に配置されている複数のスロット5a、5bを、前記共振器1の前記中立軸4に関連して同軸に配置し、その結果、前記複数のスロット5を配置することが、前記共振器1の共振周波数に影響を及ぼすことなく、前記共振器1の熱緩和経路の長さを調整し、それによって前記共振器1の前記Q係数を上げ、運動エネルギ密度と歪みエネルギ密度が等しく、その結果、前記共振器1の剛性に対する影響が、前記共振器1の質量に対する影響にほぼ等しく、前記共振器1上の位置に、前記複数のスロット5が半径方向に配置されている、センサ。
【請求項2】
前記共振器1は、前記共振器1の前記中立軸4の内側と外側に配置されている、更なる一連の複数のスロット5c、5dを含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記一連の複数のスロット5は、一連の接続されたより薄い複数のリングセグメント6の形成をもたらし
記共振器1が前記cos2θのモードで振動しているときに、前記一連の接続されたより薄い複数のリングセグメント6は、均一構造の一部のように実質的に振る舞う、請求項1又は2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記一連の接続されたより薄い複数のリングセグメント6の弓形の角度は、5度以下であり、
何れかの一連のものの中の隣接するスロット5間の円周方向の間隔は、2度以上である、請求項に記載のセンサ。
【請求項5】
前記共振器1の前記共振周波数又は減衰において引き起こされる不均衡を回避するために、一次と二次のcos2θのモード形状に対する結果として生じる影響が等しくなるように、前記複数のスロットは一様な設計を有する、請求項1乃至の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項6】
前記複数のスロット5aと5bは、
前記中立軸4から同じ半径方向の距離に配置されており、
同じ角度範囲と間隔を有しており、
前記共振器1の周囲に等角度で配置されている、請求項に記載のセンサ。
【請求項7】
熱緩和経路の長さがより長くなるように、前記共振器1の前記中立軸の内側の前記複数のスロット5の位置は、前記共振器1の前記中立軸4の外側の前記複数のスロット5に対して、互い違いにされている、請求項1乃至の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項8】
平らなリング又はたが型の共振器1を有するセンサの品質係数Qを改善する方法であって、
前記方法は、前記共振器1に複数のスロットを形成するステップを含み、
前記複数のスロット5が前記共振器1の共振周波数に影響を及ぼさないように、前記複数のスロットは、前記共振器1の前記中立軸に対して外側と内側に、同軸で配置されており、運動エネルギ密度と歪みエネルギ密度が等しく、その結果、前記共振器1の剛性に対する影響が、前記共振器1の質量に対する影響にほぼ等しく、前記共振器1上の位置に、前記複数のスロット5が半径方向に配置されている、方法。
【請求項9】
前記共振器1の共振周波数又は減衰において引き起こされる不均衡を回避するために、一次と二次のcos2θモード形状に対する、結果として生じる影響が等しくなるように、前記複数のスロット5を一様な設計で形成するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記中立軸4から同じ半径方向の距離に前記複数のスロット5を配置するステップを更に含み、
前記複数のスロットは、同じ角度範囲と間隔を有しており、
前記複数のスロットは、前記共振器1の周囲に等角度で配置されている、請求項又はに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関する。より具体的に、本発明は、慣性センサのようなセンサ、例えばコリオリジャイロスコープ(coriolis gyroscope)に関するが、これに限られるわけではない。コリオリジャイロスコープでは、最初に線形速度成分(linear velocity component)が定められ、レート依存性のコリオリの力(rate dependent coriolis force)は、この速度の関数である。
【背景技術】
【0002】
平らなシリコンリング構造(planar silicon ring structure)は、微小電気機械システム(Micro-Electro-Mechanical-Systems, MEMS)のジャイロスコープに一般に使用されている。このようなデバイスの例は、US5932804号とUS6282958号とに記載されている。これらの共振器設計を利用するジャイロスコープデバイスは、ある範囲の自動推進式乗物の商業的応用(automotive commercial application)に使用されている。更に、これらのデバイスの性能は、幾つかの誘導制御の応用(guidance and control applications)、例えば、飛行時間が比較的に短い(数十乃至数百秒)誘導発射体(guided projectile)において使用するのに適しているかもしれない。より長い動作時間が要求される応用の場合に、これらのデバイスの性能は、特に問題のあるバイアスドリフトの誤差(bias drift error)の大きさが原因で、十分に正確でない場合がある。
【0003】
バイアスドリフトの動作を制限する主要因子のうちの1つは、共振器構造の品質係数(Quality Factor, Q)である。一次モード(primary mode)を共振に設定するために加えなければならない駆動電圧を下げる際に、高いQは有益である。レート感知チャネル(rate sensing channel)への駆動信号の相互結合(cross-coupling)は、バイアスの安定性のための主な誤差ドライバ(error driver)のうちの1つである。この場合に、結合された信号は、加えられる回転レートによって生成されるものと区別できない。更に、共振器のQ値を大きくすることによって、減衰の非一様性と、変換器(transducer)の調整不良に関連する他のバイアス誤差がかなり減るかもしれない。
【0004】
MEMSデバイスにおいて、Qは、幾つかの寄与する減衰係数(contributory damping factor)によって決定される。実効品質係数(effective Quality Factor)、QEffは、これらの減衰の寄与の全ての合計によって決定され、次のように表され得る。
【数1】
【0005】
ここで、QTEは、熱弾性減衰の寄与(thermoelastic damping contribution)であり、QGasは、ガス減衰の寄与(gas damping contribution)であり、QOtherは、支持損失(support loss)と、固有物質の損失(intrinsic material loss)と、電子機器の減衰(electronics damping)とからの寄与を含む。
【0006】
US5932804号の共振器設計に基づくジャイロスコープデバイスは、リング構造を使用している。このリング構造は、6mmの外径と、120ミクロンのリムの厚さとを有する。乾燥窒素の10トル(Torr)の残留圧力を有する部分真空(室温値)の中で、この構造を動作させる。このデバイスに対するQEffの値は、5,000であることが示されており、熱弾性とガスの減衰からのほぼ等しい寄与と、かなりより小さいQOtherの寄与とからもたらされることが示されている。従って、高真空の下であっても、QEffの値は、熱弾性減衰によって10,000に制限される。
【0007】
MEMS共振器における熱弾性減衰の仕組みは、当業者に周知であり、単に、本発明の理解を助けるためにここに要約して記載されている。共振器がcos2θのたわみモード(flexural mode)で発振するとき、リングは、振動の波腹(anti-node)のあたりで、内側と外側の垂直面において、周期的な圧縮応力と引っ張り応力とを受ける。リングが圧縮されている場合に、温度は僅かに上がり、リングが引っ張られている場合に、温度は僅かに下がり、リングの全体にわたる温度勾配をもたらす。リングが発振すると、この温度勾配が交互に起こる。従って、リングの全体にわたって、時間依存性の熱流(time dependent heat flow)が存在する。関連する時定数τに従って、リングの中のより熱い圧縮領域から、より冷たい拡張領域へ、熱が流れるときに、緩和(relaxation)が発生する。次の式に記載されているように、緩和時間は、温度勾配の長さ(この場合は、リングの幅r)と、材料の温度拡散率χとによって決まる。
【数2】
【0008】
固有減衰(intrinsic damping)は、緩和時間と、構造が振動する周波数(frequency)と、幾つかの材料特性と、の関数である。損失係数(loss factor)は、次の式によって与えられる。
【数3】
【0009】
ここで、Eと、αと、Cは、それぞれ、材料、この場合はシリコン、の単位体積当たりの、ヤング率と、熱膨張係数と、熱容量であり、ωは発振周波数(oscillation frequency)であり、Tは周囲温度(ambient temperature)である。QTEの係数は、次の式によって与えられる。
【数4】
【0010】
式3と4の検査は、動作周波数がピーク損失周波数ωmaxと一致するときに、QTEの係数が最小になることを示している。ωは、次の式によって与えられる。
【数5】
【0011】
US5932804号の設計に基づく製品において使用されているような、6mmのシリコンリング構造について、周波数に対する損失係数の変動が、図1に示されている。ピーク損失が10kHzのあたりで発生することが分かる。このデバイスに対するcos2θの動作周波数は、14kHzであり、従って、ピーク損失周波数とほとんど一致している。これは、熱弾性減衰が最大値にほぼ等しく、計算されたQTEの値が、〜10,000の実験観測値に非常に近いことを意味する。
【0012】
共振器を減圧で実装することによって、このデバイスに対するQEffを幾らか改善できるが、増加は、熱弾性減衰によって基本的に制限されている。QTEの寄与を減らすことができる場合のみ、このデバイスに対するQEffをかなり上げることができる。従来は、この項を小さくするには、リムの厚さrを変化させること、従って、損失周波数を変化させることが必要であった。しかしながら、これは、共振周波数をシフトさせることになる。共振周波数のシフトは、制御電子機器に対する望ましくない変化を必然的に伴うであろう。リングの直径とリムの厚さとを適切な比率で減らすことによって、cos2θの共振周波数をシフトすることなく、QTEを効果的に大きくすることができる。しかしながら、これはQTEを大きくできる一方で、より小さな幾何学的形状(geometry)が、デバイスの性能の他の状況に悪影響を及ぼすであろう。特に、感知変換器(sensing transducer)のサイズを小さくすることにより、信号対雑音比は下がる。更に、組み立て工程の機械公差は、より臨界状態(critical)になり、これは生産の歩留まり(production yield)に悪影響を及ぼし得る。更に、磁気回路コンポーネントを変更することが必要になり、また、これはスケールファクタとバイアスの動作特性との両者を逆転させることになるであろう。
【0013】
上述は、特に、US5932804号に記載されている設計の6mmのリングの実施に関する。しかしながら、US6282958号に記載されている設計に基づいて生産されるデバイスに対して、同様の考察が当てはまることが分かるであろう。実際のデバイスは、4mmと8mmとの直径のリングを利用して生成されている。これらの設計に対するQEffは、熱弾性減衰によって様々な程度に同様に制限されることが示されている。
【0014】
従って、一般的なリング構造に対するQTEを大きくするために、リングの直径とリムの厚さとから独立して、ピーク損失周波数を調節する能力を有することが、有益である。これは、他の性能パラメータ又は生産の歩留まりに悪影響を及ぼすことなく、且つ制御電子機器における何らかの変更を必要とすることなく、臨界状態のバイアスドリフトの誤差を改善できる。
【発明の概要】
【0015】
本発明によると、実質的に平らなリング又はたが型(hoop shaped)の振動共振器を具備する振動構造を備えている、高い品質係数(Q)を有する、センサであって、前記共振器は、中立軸を中心にして延在している内側周縁部及び外側周縁部と、前記共振器を振動させる駆動手段と、前記共振器を支持する複数の支持手段であって、前記センサの回転レートに応じて前記支持手段に関連して前記共振器が動くことを可能にするように、実質的に非減衰の発振モードで前記駆動手段に応じて前記共振器を振動させる、前記複数の支持手段と、を具備し、前記共振器は、前記共振器の前記中立軸の内側の、第1の一連の半径方向(radially)に配置されている複数のスロットと、前記中立軸の外側の、第2の一連の半径方向に配置されている複数のスロットと、を含み、前記第1と第2の一連の半径方向に配置されている複数のスロットを、前記共振器の前記中立軸に関連して同軸に配置し、その結果、前記複数のスロットを配置することが、前記共振器の共振周波数に影響を及ぼすことなく、前記共振器の熱緩和経路の長さを調整し、それによって前記共振器の前記Q係数を上げる、センサが提供される。
【0016】
本発明の更なる態様によると、平らなリング又はたが型の共振器を有するセンサの品質係数Qを改善する方法であって、前記方法は、前記共振器に複数のスロットを形成するステップを含み、前記複数のスロットが前記共振器の共振周波数に影響を及ぼさないように、前記複数のスロットは、前記共振器1の前記中立軸に対して外側と内側に、同軸で配置されている、方法が提供される。
【0017】
式5によって定義されているように、シリコン共振器の梁(beam)構造に対するピーク損失周波数は、半径方向の厚さ(radial thickness)rに大きく左右される。半径方向の厚さは、梁が共振するときに、熱流に対する緩和経路(relaxation path)の長さを定める。このやり方において、本発明は、リングの直径又は共振器の周波数を変更する必要なく、平らなシリコンリング共振器における緩和経路の長さを効果的に調節する、センサと方法とを定義している。
【0018】
ここで、添付の図面を参照して、本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】既知の共振器構造に対する励起周波数の関数として、熱弾性損失係数の変動のプロットを示している。
図2】両端部で固定されている長方形の梁の基本振動モードの概略図を示しており、ここで、振動の両極端を点線によって示し、モードの波腹における主熱緩和経路(矢印)を示している。
図3】本発明の1つの形式に従ってスロットを組み込み、矢印によって表わされている熱緩和に対する変化を示している、図2の長方形の梁に類似した長方形の梁の概略図を示している。
図4】リング共振器構造を利用する既知のコリオリジャイロスコープにおいて一般的に用いられている、cos2θの振動モード形状の概略図を示している。
図5】既知のリング共振器構造に対するcos2θの振動モードの半径方向の波腹付近の、リングのリムの部分にわたる歪みエネルギ密度と運動エネルギ密度の変動を示している。
図6】矢印によって示されている典型的な熱緩和経路の例を有する、中立軸(点線によって示されている)の両側に2列のスロットで組み込んだ本発明の一形式に従って、リング構造の一部分の概略図を示している。
図7】中立軸(点線によって示されている)の両側に4列のスロットを組み込んだ本発明の一形式に従って、リング構造の一部分の概略図を示している。
図8】本発明が適用され得るタイプの慣性センサを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
最初に図8を参照すると、慣性センサ(例えば、US6282958号により一層詳しく記載されている一般的なタイプ)は、リング状の共振器1を具備し、リング状の共振器1は、リング状の共振器1の内側周縁部からボス(boss)11に延在している支持梁10によって取り付けられている。支持梁10は、フレキシブルであり、更に、回転レートに応じてボス11に関連して共振器1が動くことを可能にするように、実質的に非減衰の発振モードで電気駆動装置(electrostatic drive)12、13に応じて共振器1を振動させる。
【0021】
図2は、(点線によって示されている)基本モードで振動する、両端部で固定された、例示的な一様に発振する梁を示している。図2において矢印によって示されているように、この構造に対する主熱緩和経路は、梁の幅を直線的に横切る。図3に示されているように、スロット5を梁構造の中に組み込むことによって、この経路の長さを調節することが可能である。従って、熱流は、シリコン構造における切れ目(discontinuity)によって中断され、特性緩和経路の長さを変える。点XとYとの間における1本のラインに沿って梁を横切る熱流について、単純化して検討すると、2本の新たな主要な緩和経路がある。図3において矢印によって示されているように、一方は、外側リムとスロットとの間の薄い梁部分の幅を直線的に横切り、より長い第2の経路は、リムからスロットを迂回して、梁の他方の側へわたる。このより長い経路の場合に、熱流経路のかなりの部分は、梁構造に沿って横方向に向かっている。これらの経路に対するピーク損失周波数は、単純な梁経路の長さから大幅にシフトしている。短い緩和経路に対する特性ピーク損失周波数は、かなりより高い周波数にシフトし、より長い緩和経路に対する特性ピーク損失周波数は、非常により低い周波数にシフトしている。
【0022】
このようなスロット5をリング構造の中に組み込み、リングの剛性(stiffness)と質量とを局部的に調節する。このようなデバイスにおいて一般的に使用されているcos2θの振動モード形状は、図4に概略的に示されている。cos2θの半径方向の波腹における、リムのセグメントにわたる、歪みエネルギ密度(strain energy density)と運動エネルギ密度(kinetic energy density)の半径方向の変動は、図5に示されている。スロット5がリムの中心(即ち、リング1の中立軸4上)に配置されている場合に、これらは、主に運動エネルギ密度に影響を及ぼす一方で、歪みエネルギ密度にほんの少ししか影響を及ぼさない。これは、cos2θのモード周波数を増加させる。この周波数は、次の式によって与えられる。
【数6】
【0023】
ここで、nはモードの次数(cos2θモードの場合に、=2)であり、mはモードの質量であり、kはリングの剛性である。スロットを中立軸上に配置すると、kにあまり影響を及ぼすことなく、mを減らし、従って共振周波数を増加させる。スロットが、リムの外縁部の方に配置される場合は、歪みエネルギ密度を下げ、従ってリングの剛性kを下げる。外縁部に近くなると、この影響は、モードの質量mに対する影響よりも大きくなる。この正味の影響は、スロットの正確な半径方向の位置に大きく左右される量のリング周波数を低減することである。
【0024】
上述と、MEMSジャイロスコープの他の既知の例とにおける、シリコンリング構造は、周知のディープリアクティブイオンエッチ(Deep Reactive Ion Etch, DRIE)技術を使用して形成され得る。この工程では、細かい幾何学的形状の高アスペクト比の溝(trench)を形成することが可能である。これを使用して、リング1と、支持脚構造(support leg structure)10とを組み立てる。本発明によると、スロット5は、リング1に設けられ、更に、都合のよいことに、リングの組み立てと同時に形成され、従って、1つのフォトマスクを使用して、リングのリムに対して正確に整列したスロット5を形成することができる。この工程は、構造を高精度に生成することが可能である。しかしながら、関連する工程の変形(variation)があり、これはリングの幾何学的形状に異なる程度の影響を及ぼし、従って、組み立てられた共振器構造の共振周波数を変動させる。リムの縁部の近くにスロット5を加えることによって、リングの周波数に対するこれらの幾何学的形状の変形(一般に、±1ミクロンのオーダ)の影響が大きくなる。MEMSデバイスは、限られた動作周波数の範囲を通常有する制御電子機器と共に動作しなければならないので、リングの周波数の正確な制御は不可欠である。
【0025】
これらの工程の変形に対する共振器1の周波数の影響され易さを最小にするために、リングの剛性に対する影響が、質量に対する影響にほぼ等しくなる
【数7】
【0026】
ように、スロット5の半径方向の位置を選択することが好都合である。この領域の半径方向の位置は、図5において見ることができ、ここでは、運動エネルギ密度と歪みエネルギ密度が等しい。これは、組み立て工程中に生じる小さな幾何学的形状の変形の影響が、共振周波数に悪影響を及ぼさないことを保証するのを助ける。
【0027】
詳しいスロットの構成を設計するときに考慮に入れなければならない、幾つかの更なる実施上の制限がある。スロット5は、一連の接続されたより薄いリングセグメント6の形成を効果的にもたらす。これらのセグメントの長さと厚さは、cos2θモードで発振しているときに、これらのセグメントがリングの剛性よりもかなり堅くなるようになっていなければならない。これは、リング1がcos2θモードで発振しているときに、これらのセグメントが均一構造の一部であるかのように、これらが本質的に振る舞うことを意味する。これは、隣接するスロット間の2度以上の円周方向の間隔と共に、セグメントの弓形の角度(arcuate angle)を5度以下の実施上の限度に効果的に制限する。更に、周波数又は減衰において引き起こされる何らかの不均衡を回避するために、一次と二次のcos2θのモード形状に対する結果として生じる影響が等しくなるように、スロット5の位置を定めなればならない。都合のよいことに、これは、一様な設計(即ち、中立軸からの半径方向の距離と、角度範囲(angular extent)と間隔(separation)が、同じであること)のスロット5を利用することによって達成される。一様な設計のスロット5は、周囲(circumference)に等角度に配置される。スロット5の数と位置は、熱弾性減衰を最小にするために、リングのリムの周囲の大半に対して緩和経路が調節されるようのなっていなければならない。
【0028】
図6は、2列のスロットを利用する本発明の実施形態を示している。スロット5bからなる一方の列は、中立軸4に対して外側にある距離を置いたところにスロットの中心を有するように配置されている。中立軸4は、(図2に示されているように)歪みエネルギ密度と運動エネルギ密度とが等しくなる点と一致している。スロット5aからなる第2の列は、中立軸4に対して内側に同じ距離を置いたところに配置されている。従って、このようなリング1の共振周波数は、スロット5を有していないリング1と同じになる。2つの列の角度位置(angular position)は、外側列の各スロット5bの中心が、内側列のスロット5a間の中心位置と一致するようになっている。これは、リング1を横切る直線的な熱緩和経路がないことを保証する。幾つかの緩和経路の例は、図6に矢印で示されている。実際には、このようなリング1の熱緩和特性を正確に決定するには、有限要素モデル化技術を使用しなければならない。有限要素モデル化技術は、熱弾性減衰の推定値、従ってQTEの値を与えることができる。
【0029】
サンプルの共振器デバイスは、上述のようにスロット5a、5bの2つの列を組み込んで組み立てられている。スロットは、3度の角度スパン(angular span)であり、2度の間隔を有し、リングの全周に合計で144個のスロットを与える。スロットは、幅10ミクロンであり、歪みエネルギ密度と運動エネルギ密度が等しくなる場所の周りに配置されている。これらのデバイスを測定すると、およそ25,000のQEffを有する。およそ25,000のQEffは、およそ30,000のモデル値に適切に一致する。これは、先行技術のスロットの無いリングに対して、10,000の値を超えるかなりの増加を表わす。
【0030】
図7は、中立軸4の周りに対称的に配置されているスロット5a、5b、5c、5dの4つの列を組み込んだ、本発明の代わりの実施形態を示している。スロット5b、5dの外側列は、主に歪みエネルギ密度に摂動を起こさせる(perturb)(従って、剛性kを減少させる)ので、共振周波数を減少させる傾向がある。スロット5a、5cの内側列は、主に運動エネルギ密度に摂動を起こさせる(従って、モード質量mを減少させる)ので、共振周波数を増加させる傾向がある。従って、共振周波数に対する影響が大幅に打ち消されるように、内側5a、5cのスロットと、外側5b、5dのスロットの位置を定めることができる。スロット5a、5b、5c、5dの4つの列を組み込むと、QTHを最適化する更なる機会を明らかに与える(即ち、短い緩和経路をより短くし、長い緩和経路をより長くすることができる)。
【0031】
上述の2つの例示的な実施形態は、シリコンリング構造におけるQTEを大きくする特定の設計を表わしている。現在の発明の範囲内に、設計変更のかなりの可能性があることが、当業者に分かるであろう。これは、スロットの、数と、角度範囲と、間隔と、半径方向の位置と、を含む。共振周波数の摂動(perturbation)を補うために、リングのリムの幅を調節することによって、運動エネルギ密度と歪みエネルギ密度の影響を一致させる条件は、ある程度緩和され得る。
【0032】
更に、上述の実施形態は、シリコンリング構造として形成されている共振器に関連しているが、共振器は、任意の適切な材料から形成され得ることが分かるであろう。更に、共振器は、1つのバルク材料(bulk material)から形成される必要はなく、バルク基板(bulk substrate)上にシリコン又は他の適切な材料を含んでいてもよい。
以下に、本出願時の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 実質的に平らなリング又はたが型の振動共振器1を具備する振動構造を備えている、高い品質係数(Q)を有する、センサであって、
前記共振器1は、
中立軸4を中心にして延在している内側周縁部及び外側周縁部2、3と、
前記共振器1を振動させる駆動手段12、13と、
前記共振器1を支持する複数の支持手段10、11であって、前記センサの回転レートに応じて前記支持手段10、11に関連して前記共振器1が動くことを可能にするように、実質的に非減衰の発振モードで前記駆動手段12、13に応じて前記共振器1を振動させる、前記複数の支持手段10、11と、
を具備し、
前記共振器1は、
前記共振器1の前記中立軸4の内側の、第1の一連の半径方向に配置されている複数のスロット5aと、
前記中立軸4の外側の、第2の一連の半径方向に配置されている複数のスロット5bと、
を含み、
前記第1と第2の一連の半径方向に配置されている複数のスロット5a、5bを、前記共振器1の前記中立軸4に関連して同軸に配置し、その結果、前記複数のスロット5を配置することが、前記共振器1の共振周波数に影響を及ぼすことなく、前記共振器1の熱緩和経路の長さを調整し、それによって前記共振器1の前記Q係数を上げる、センサ。
[2] 運動エネルギ密度と歪みエネルギ密度が等しく、その結果、前記共振器1の剛性に対する影響が、前記共振器1の質量に対する影響にほぼ等しい、前記共振器1上の位置に、前記複数のスロット5が半径方向に配置されている、付記[1]に記載のセンサ。
[3] 前記共振器1は、前記共振器1の前記中立軸4の内側と外側に配置されている、更なる一連の複数のスロット5c、5dを含む、付記[1]又は[2]に記載のセンサ。
[4] 前記一連の複数のスロット5は、一連の接続されたより薄い複数のリングセグメント6の形成をもたらし、
前記一連の接続されたより薄い複数のリングセグメントの長さと厚さは、cos2θのモードで発振しているときに、前記一連の接続されたより薄い複数のリングセグメントが前記共振器1の前記剛性よりも堅くなるようにされており、
前記共振器1が前記cos2θのモードで振動しているときに、前記一連の接続されたより薄い複数のリングセグメント6は、均一構造の一部のように実質的に振る舞う、付記[1]乃至[3]の何れか1項に記載のセンサ。
[5] 前記一連の接続されたより薄い複数のリングセグメント6の弓形の角度は、5度以下であり、
何れかの一連のものの中の隣接するスロット5間の間隔は、2度以上である、付記[4]に記載のセンサ。
[6] 前記共振器1の前記共振周波数又は減衰において引き起こされる不均衡を回避するために、一次と二次のcos2θのモード形状に対する結果として生じる影響が等しくなるように、前記複数のスロットは一様な設計を有する、付記[1]乃至[5]の何れか1項に記載のセンサ。
[7] 前記複数のスロット5aと5bは、
前記中立軸4から同じ半径方向の距離に配置されており、
同じ角度範囲と間隔を有しており、
前記共振器1の周囲に等角度で配置されている、付記[6]に記載のセンサ。
[8] 前記複数のスロット5cと5dは、
前記中立軸4から同じ半径方向の距離に配置されており、
同じ角度範囲と間隔を有しており、
前記共振器1の周囲に等角度で配置されている、付記[6]に記載のセンサ。
[9] 熱緩和経路の長さがより長くなるように、前記共振器1の前記中立軸の内側の前記複数のスロット5の位置は、前記共振器1の前記中立軸4の外側の前記複数のスロット5に対して、互い違いにされている、付記[1]乃至[8]の何れか1項に記載のセンサ。
[10] 平らなリング又はたが型の共振器1を有するセンサの品質係数Qを改善する方法であって、
前記方法は、前記共振器1に複数のスロットを形成するステップを含み、
前記複数のスロット5が前記共振器1の共振周波数に影響を及ぼさないように、前記複数のスロットは、前記共振器1の前記中立軸に対して外側と内側に、同軸で配置されている、方法。
[11] 前記共振器1の共振周波数又は減衰において引き起こされる不均衡を回避するために、一次と二次のcos2θモード形状に対する、結果として生じる影響が等しくなるように、前記複数のスロット5を一様な設計で形成するステップを更に含む、付記[9]に記載の方法。
[12] 前記中立軸4から同じ半径方向の距離に前記複数のスロット5を配置するステップを更に含み、
前記複数のスロットは、同じ角度範囲と間隔を有しており、
前記複数のスロットは、前記共振器1の周囲に等角度で配置されている、付記[9]又は[10]に記載の方法。
[13] 添付の複数の図面のうちの図6と7とを参照して上述に記載されているセンサ又は方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8