【実施例】
【0028】
本実施の形態にかかる積層体の製造方法により、アルミニウム基板(基材)上に、リンを所定量含む銅皮膜を形成した積層体を作製し、電気伝導性および機械特性について評価を行った。
【0029】
(実施例1)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:600℃、作動ガス圧力:3MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、パス回数:6回で、リンを0.002重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。なお、本実施例では、一回のパスで1.1mm程度の皮膜が形成され、6回のパスでおよそ6.6mm前後の金属皮膜を形成した。また、銅粉末は、水アトマイズ法により製造されたものを用いた。
【0030】
(実施例2)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.007重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0031】
(実施例3)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.009重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0032】
(実施例4)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.017重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0033】
(比較例1)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.021重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0034】
(比較例2)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.023重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0035】
(比較例3)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.013重量%含み、還元処理が施されていない銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0036】
上記のようにして作製した実施例1〜4および比較例1〜3にかかる積層体から金属皮膜部分を切り出してテストピースとし、該テストピースを用いて電気伝導性についての評価を行った。評価した結果を表1に示す。なお、表1中のIACSは、標準焼きなまし銅線に対する(標準焼きなまし銅線を100%としたときの)電気伝導率(%)を示している。テストピースは2mm×2mm×40mmの角柱状に切り出し、測定距離が23mmとなる測定点の間に測定電流(1A)を流して4端子法により電位を測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例5)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:800℃、作動ガス圧力:3MPa、WD:25mm、トラバース速度:200mm/s、パス回数:6回で、リンを0.002重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。なお、本実施例では、一回のパスでは、1.2mm程度の皮膜が形成され、6回のパスで7.2mm前後の金属皮膜を形成した。
【0039】
(実施例6)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.007重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0040】
(実施例7)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.009重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0041】
(実施例8)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.017重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0042】
(比較例4)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.023重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0043】
(比較例5)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.013重量%含み、還元処理が施されていない銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0044】
上記のようにして作製した実施例5〜8および比較例4,5にかかる積層体から金属皮膜部分を切り出してテストピースとし、該テストピースを用いて電気伝導性についての評価を行った。評価した結果を表2に示す。電気伝導率は、上述した実施例1〜4と同様に、2mm×2mm×40mmのテストピースを用いて、測定距離が23mmとなる測定点の間に測定電流(1A)を流して4端子法により電位を測定した。
【0045】
【表2】
【0046】
図3は、本実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量と電気伝導率(IACS)との関係を示すグラフである。
図3に示すグラフでは、丸のプロットが、作動ガス温度を600℃として形成された金属皮膜(実施例1〜4、比較例1〜3)の測定結果を示し、四角のプロットが、作動ガス温度を800℃として形成された金属皮膜(実施例5〜8、比較例4,5)の測定結果を示している。また、
図3に示すグラフでは、白抜きのプロットが、還元処理が施された銅粉末を用いて形成された金属皮膜(実施例1〜8、比較例1,2,4)の測定結果を示し、黒塗りのプロットが、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)の測定結果を示している。
【0047】
表1,2および
図3に示すように、リン含有量が実施例1〜8の電気伝導率は、比較例1〜5の電気伝導率と比して大きい。特に実施例2,3,5〜7は、99.0%以上となっており、銅粉末中のリン量を0.007重量%〜0.010重量%とすることで良好な電気伝導率を有する金属皮膜が得られる。さらに、作動ガス温度を800℃とすれば、リン量を0.017重量%としても良好な電気伝導率を有する金属皮膜を得ることができる。これにより、リン量を制限することによって、良好な電気伝導率を有する金属皮膜が得られることがわかる。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例1〜8にかかる金属皮膜として電気伝導率が低い。
【0048】
つぎに、上述した実施例1〜7および比較例1〜5にかかる積層体を用いて、4点曲げ変位の測定を行った。
図4は、本実施例にかかる金属皮膜の4点曲げ変位測定を説明する図である。4点曲げ変位測定は、2mm×2mm×40mmのテストピースTPを用いて、長手方向と直交する方向から円柱状の支持具101,102および支持具103,104によって挟み込んでテストピースTPに荷重を加えて測定を行った。4点曲げ変位測定では、一方から作用点間距離D1(中心軸間の距離)が10mmとなる二つの支持具101,102を接触させるとともに、他方から支点間距離D2(中心軸間の距離)が30mmとなる二つの支持具103,104を接触させることによってテストピースTPを挟む。なお、本実施例では、支持具101,102に荷重を加えることによってテストピースTPに荷重を加えた。テストピースTPに加える荷重の荷重速度は3.0mm/minであり、支持具101〜104の径は2.5mmである。
【0049】
図5は、本実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量と4点曲げ変位との関係を示すグラフである。
図5に示すグラフでは、丸のプロットが、作動ガス温度を600℃として形成された金属皮膜(実施例1〜4、比較例1〜3)の測定結果を示し、四角のプロットが、作動ガス温度を800℃として形成された金属皮膜(実施例5〜7、比較例4,5)の測定結果を示している。また、
図5に示すグラフでは、白抜きのプロットが、還元処理が施された銅粉末を用いて形成された金属皮膜(実施例1〜7、比較例1,2,4)の測定結果を示し、黒塗りのプロットが、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)の測定結果を示している。
【0050】
図5に示すように、リン含有量が実施例1〜8の範囲である金属皮膜の4点曲げ変位は、比較例1〜5の4点曲げ変位と比して大きい。特に実施例6,7においては、4点曲げ変位が大きくなっており、銅粉末中のリン量を0.007重量%〜0.009重量%とすることで良好な延性を有する金属皮膜が得られる。一方、比較例2,4では、リン量が多いために動的再結晶が起こりにくく、脆性破断が生じた。これにより、リン量を制限することによって、良好な延性を有する金属皮膜が得られることがわかる。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例1〜7にかかる金属皮膜として4点曲げ変位が低い。
【0051】
つぎに、上述した実施例1〜6および比較例2〜5にかかる積層体を用いて、ビッカース硬さの測定を行った。ビッカース硬さ測定は、50mm×50mm×6mmに切り出した金毒皮膜の中央部をさらに切り出してテストピースとし、埋め込み鏡面研磨後に硬さ試験を行った。加えた荷重は300gf、3点〜5点の平均値を算出した。
【0052】
図6は、本実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図6に示すグラフでは、丸のプロットが、作動ガス温度を600℃として形成された金属皮膜(実施例1〜3、比較例2,3)の測定結果を示し、四角のプロットが、作動ガス温度を800℃として形成された金属皮膜(実施例6,7、比較例4,5)の測定結果を示している。また、
図6に示すグラフでは、白抜きのプロットが、還元処理が施された銅粉末を用いて形成された金属皮膜(実施例1〜3,6,7、比較例2,4)の測定結果を示し、黒塗りのプロットが、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)の測定結果を示している。
【0053】
図6に示すように、本実施例にかかる金属皮膜は、リン含有量が多くなるにしたがってビッカース硬さが大きくなっている。特に実施例6,7においては、4点曲げ変位が大きくなっており、リン量を0.007重量%〜0.009重量%とすることで良好な延性を有する金属皮膜が得られる。これにより、リン量を例えば0.005重量%〜0.010重量%に制限することによって、一層良好な延性を有する金属皮膜が得られることが想定される。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例1〜3,6,7にかかる金属皮膜としてビッカース硬さが極端に大きくなっている。
【0054】
つぎに、上述したテストピースを用いて、結晶粒マップの作成を行った。金属皮膜に電子線を照射すると、試料表面で生じる電子後方散乱回折(Electron Backscatter Diffraction:EBSD)により試料の結晶系や結晶方位に関する情報が得られる。電子線を走査しながらEBSDパターンを測定、解析することで、微小領域の結晶系や結晶方位の分布に関する情報を取得し、結晶粒マップを作成した。
【0055】
図7は、本実施例の実施例5にかかる金属皮膜においてリン量が0.002重量%の場合(作動ガス温度:800℃)の結晶粒マップを示す図である。
図8は、本実施例の実施例2にかかる金属皮膜においてリン量が0.007重量%の場合(作動ガス温度:600℃)の結晶粒マップを示す図である。
図9は、本実施例の比較例4にかかる金属皮膜においてリン量が0.023重量%の場合(作動ガス温度:800℃)の結晶粒マップを示す図である。
図10は、本実施例の比較例3にかかる金属皮膜においてリン量が0.013重量%であって、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された場合(作動ガス温度:600℃)の結晶粒マップを示す図である。
【0056】
図7,8に示す結晶粒マップのように、リン量が0.002重量%(実施例5)、0.070重量%(実施例2)の場合は、粒径が5μm以上である部分が多く、検出された粒径における平均結晶粒径も実施例2で2.15μm、実施例5で2.87μmと大きい。
【0057】
また、
図9,10に示す結晶粒マップのように、リン量が0.023重量%(比較例4)、0.013重量%(比較例3)の場合は、粒径が5μm以上である部分がほとんどなく、粒径を検出することができない領域が多い。また、検出された粒径における平均結晶粒径は比較例3で1.67μm、比較例4で1.50μmと小さい。
【0058】
図7〜9に示す結晶粒マップから、リン量を制限することによって、熱処理を別途施さなくても、再結晶が起こりやすく、良好な電気伝導性および機械特性を有する金属皮膜が得られることがわかる。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3、
図10)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例2,5にかかる金属皮膜として平均結晶粒径が小さく、再結晶が起こりにくいことがわかる。
【0059】
上述した実施の形態は、本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、仕様等に応じて種々変形することが可能であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施の形態が可能であることは、上記記載から自明である。
【0060】
以上のように、本発明にかかる積層体および積層体の製造方法は、熱処理を別途施すことなく、熱伝導性、電気伝導性および機械特性に優れた積層体を得るのに有用である。