特許第5889938号(P5889938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本発條株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000004
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000005
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000006
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000007
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000008
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000009
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000010
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000011
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000012
  • 特許5889938-積層体および積層体の製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889938
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/08 20060101AFI20160308BHJP
【FI】
   C23C24/08 B
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-44190(P2014-44190)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-168846(P2015-168846A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2014年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 優
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 智資
(72)【発明者】
【氏名】相川 尚哉
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−060654(JP,A)
【文献】 特開2010−129934(JP,A)
【文献】 特開2010−077520(JP,A)
【文献】 特開2009−206443(JP,A)
【文献】 特開2004−307881(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024385(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00 − 30/00
C23C 14/00 − 14/58
C22C 1/04 − 1/05
C22C 33/02
B22F 1/00 − 9/30
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
リンを0.002重量%〜0.020重量%含む銅の還元粉末からなり、前記基材の表面との間で塑性変形によるアンカー効果が生じているとともに、前記基材の表面と新生面同士による金属結合が生じており、該表面に密着して積層されてなる金属皮膜と、
を備えたことを特徴とする積層体。
【請求項2】
リンを0.002重量%〜0.020重量%含む銅粉末であって、還元処理が施された銅粉末を、該銅粉末の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、基材の表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させて金属皮膜を形成することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項3】
前記銅粉末は、600℃以上に加熱されたガスと共に加速されることを特徴とする請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記銅粉末は、平均粒径が20μm〜50μmであることを特徴とする請求項2または3に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に金属皮膜を積層してなる積層体および積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コールドスプレー法と呼ばれる成膜方法が知られている。コールドスプレー法は、融点又は軟化点以下の状態にある金属材料の粉末を、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスとともにノズルから噴射し、固相状態のまま成膜対象の基材に衝突させて基材の表面に皮膜を形成する方法である(例えば、非特許文献1,2を参照)。コールドスプレー法においては、材料の粉末を溶融させて基材に吹き付ける溶射法と異なり、比較的低い温度で成膜が行われる。このため、コールドスプレー法によれば、熱応力の影響を緩和することができ、相変態がなく酸化も抑制された金属皮膜を得ることができる。特に、基材及び皮膜となる材料がともに金属である場合、金属材料の粉末が基材(又は先に形成された皮膜)に衝突した際に粉末と基材との間で塑性変形が生じてアンカー効果が得られると共に、互いの酸化皮膜が破壊されて新生面同士による金属結合が生じるので、密着強度の高い積層体を得ることができる。コールドスプレー方法に用いられる金属材料としては、熱伝導性、電気伝導性や機械特性の高い銅が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】伊藤義康、外2名、「コールドスプレイで作製された銅皮膜の熱的・電気的特性」、材料(Journal of Society of Materials of Science, Japan)、日本材料学会、Vol.59、No2、pp.143-148、Feb.2010
【非特許文献2】吉田満、外2名、「Cold Spray にて形成された銅皮膜の特性報告」、第94回(2011年度秋季)全国講演大会講演論文集、日本溶射学会、pp.19-20、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コールドスプレー法により成膜された金属皮膜は、熱伝導性、電気伝導性や機械特性を高めるために熱処理(アニール処理)が施されているが、装置や製造工程を削減するために、熱処理を別途施さずに熱伝導性、電気伝導性および機械特性に優れた金属皮膜を成膜することが求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、熱処理を別途施すことなく、熱伝導性、電気伝導性および機械特性に優れた積層体および積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる積層体は、基材と、リンを0.002重量%〜0.020重量%含む銅粉末であって、還元処理が施された銅粉末を用いて形成され、前記基材に積層されてなる金属皮膜と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明にかかる積層体の製造方法は、リンを0.002重量%〜0.020重量%含む銅粉末であって、還元処理が施された銅粉末を、該銅粉末の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、基材の表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させて金属皮膜を形成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる積層体の製造方法は、上記の発明において、前記銅粉末は、600℃以上に加熱されたガスと共に加速されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる積層体の製造方法は、上記の発明において、前記銅粉末は、平均粒径が20μm〜50μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱処理を別途施すことなく、熱伝導性、電気伝導性および機械特性に優れた積層体を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態にかかる積層体の構成を示す概略斜視図である。
図2図2は、本発明の実施の形態にかかる積層体の金属皮膜の形成に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量と電気伝導率との関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例にかかる金属皮膜の4点曲げ変位測定を説明する図である。
図5図5は、本発明の実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量と4点曲げ変位との関係を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図7図7は、本発明の実施例の実施例5にかかる金属皮膜においてリン量が0.002重量%の場合の結晶粒マップを示す図である。
図8図8は、本発明の実施例の実施例2にかかる金属皮膜においてリン量が0.007重量%の場合の結晶粒マップを示す図である。
図9図9は、本発明の実施例の比較例4にかかる金属皮膜においてリン量が0.023重量%の場合の結晶粒マップを示す図である。
図10図10は、本発明の実施例の比較例3にかかる金属皮膜においてリン量が0.013重量%であって、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された場合の結晶粒マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0013】
まず、本発明の実施の形態にかかる積層体について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる積層体の構成を示す概略斜視図である。図1に示す積層体1は、例えば、自動車や電力貯蔵用電源等の大きな電力を要する用途において使用される場合、ブスバー(バスバー)と呼ばれる導電部材として使用される。
【0014】
積層体1は、金属または合金からなる基材10と、基材10の表面に形成され、後述するコールドスプレー法によって積層され、銅を主成分とする金属材料からなる金属皮膜11と、からなる。積層体1は、図1のような矩形平板状に限定されるものではなく、円柱状、多角柱状などであってもよい。基材10は、金属または合金からなるものであれば、材料は限定されるものではない。基材10は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを含む合金を用いて形成される。
【0015】
一般に、コールドスプレー法により皮膜を形成する際、基材が軟らかい方がアンカー効果により基材と皮膜との密着性が向上することが知られている。本実施の形態では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材10に対し、銅を主成分とする金属からなる粉末を使用して金属皮膜11を形成するため、基材と皮膜との密着性が良好な積層体1を作成することができる。
【0016】
金属皮膜11は、銅を主成分とし、所定の重量%のリンを含む銅粉末を用いて形成されてなる。銅粉末は、平均粒径が20μm〜50μmである。該銅粉末は、例えば水アトマイズ法により製造される。また、銅粉末には、還元処理が施されている。
【0017】
具体的には、銅粉末は、粉末中に0.002重量(wt)%〜0.020重量%のリンを含んでなる。銅粉末中に含有するリン量を0.002重量%〜0.020重量%とすることによって、粉末の硬度を低減し、緻密化された金属皮膜11を成形することができる。また、リン量を0.002重量%〜0.020重量%とすることによって、コールドスプレー法を用いて成膜した際に生じる熱によって再結晶が起こって転位の減少し、この転位の減少により電気伝導率が向上し、延性が増加する。このため、熱伝導性、電気伝導性および機械特性(延性)に優れた金属皮膜11を得ることができる。
【0018】
なお、リン量が0.020重量%よりも多くなると、金属皮膜中のリン量が多くなって電気抵抗が増大し、金属皮膜の電気伝導率が低下してしまう。また、リン量が0.020重量%よりも多くなると、再結晶が生じる温度も上昇し、成膜時の熱による転位の減少が起こりにくくなる。
【0019】
銅粉末は、形成される金属皮膜11が高い電気伝導率および延性を有する点で、リン量が0.005重量%〜0.010重量%であることが好ましい。リン量を0.005重量%〜0.010重量%とすることによって、転位の減少による電気伝導率の向上、および延性の増加がより顕著に起こるため、熱伝導性、電気伝導性および機械特性(延性)がより優れた金属皮膜11を得ることができる。
【0020】
つづいて、本実施の形態にかかる積層体1の製造方法について説明する。積層体1は、基材10の表面に、所定の重量%のリンを含む銅粉末を、該銅粉末の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、基材10に固相状態のままで吹き付けて堆積させて金属皮膜11を形成することにより製造することができる。
【0021】
基材10の表面への金属皮膜11の形成は、上述した銅粉末を用いてコールドスプレー法により行なう。金属皮膜11に形成について、図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態にかかる積層体1の金属皮膜11の形成に使用されるコールドスプレー装置20の概要を示す模式図である。
【0022】
コールドスプレー装置20は、作動ガスを加熱するガス加熱器21と、基材10に噴射する粉末材料を収容し、スプレーガン22に供給する粉末供給装置23と、スプレーガン22で加熱された作動ガスと混合された粉末材料を基材10に噴射するガスノズル24とを備えている。ここでいう粉末材料は、粒径(平均粒径)が20μm〜50μm程度であってリンを0.002重量%〜0.020重量%の範囲で含む銅粉末のことをいう。
【0023】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。供給された作動ガスは、バルブ25および26により、ガス加熱器21と粉末供給装置23にそれぞれ供給される。ガス加熱器21に供給された作動ガスは、例えば600℃以上であって、金属皮膜11を形成するための粉末材料である合金の融点以下の温度に加熱された後、スプレーガン22に供給される。作動ガスの加熱温度は、好ましくは800℃以上であって粉末材料である合金の融点以下の温度である。
【0024】
粉末供給装置23に供給された作動ガスは、粉末供給装置23内の、粉末材料(銅粉末)をスプレーガン22に所定の吐出量となるように供給する。加熱された圧縮ガスは先細末広形状をなすガスノズル24により超音速流(約340m/s以上)にされる。また、作動ガスのガス圧力は、1MPa〜5MPa程度とすることが好ましく、2MPa〜4MPa程度とすることがさらに好ましい。作動ガスの圧力を1MPa〜5MPa程度とすることにより、基材10と金属皮膜11との間の密着強度の向上を図ることができる。スプレーガン22に供給された粉末材料は、この作動ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま基材10に高速で衝突して金属皮膜11を形成する。なお、銅を主成分とする金属からなる粉末材料を基材10に固相状態で衝突させて金属皮膜11を形成できる装置であれば、図2のコールドスプレー装置20に限定されるものではない。
【0025】
コールドスプレー法により基材10の表面に金属皮膜11を形成する粉末材料を吹き付けると、粉末材料が基材10に衝突した際に生じる熱によって、形成された金属皮膜の再結晶(動的再結晶)が起こる。これにより、形成された皮膜に熱処理を施さなくても、緻密化された金属皮膜11を得ることができる。
【0026】
金属皮膜11は、電気伝導率(IACS)が、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。なお、IACSは、標準焼きなまし銅線に対する(標準焼きなまし銅線を100%としたときの)電気伝導率(%)を指す。また、金属皮膜11は、熱伝導性に優れた銅粉末を用いて形成され、かつ良好な電気伝導率を有することで、熱伝導性も良好であると考えることができる。
【0027】
上述した実施の形態によれば、リンを0.002重量%〜0.020重量%含む銅粉末であって、還元処理が施された銅粉末を用いてコールドスプレー法により形成された金属皮膜11を作製するようにしたので、熱処理を別途施すことなく、熱伝導性、電気伝導性および機械特性に優れた積層体を得ることができる。
【実施例】
【0028】
本実施の形態にかかる積層体の製造方法により、アルミニウム基板(基材)上に、リンを所定量含む銅皮膜を形成した積層体を作製し、電気伝導性および機械特性について評価を行った。
【0029】
(実施例1)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:600℃、作動ガス圧力:3MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、パス回数:6回で、リンを0.002重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。なお、本実施例では、一回のパスで1.1mm程度の皮膜が形成され、6回のパスでおよそ6.6mm前後の金属皮膜を形成した。また、銅粉末は、水アトマイズ法により製造されたものを用いた。
【0030】
(実施例2)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.007重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0031】
(実施例3)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.009重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0032】
(実施例4)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.017重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0033】
(比較例1)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.021重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0034】
(比較例2)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.023重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0035】
(比較例3)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例1と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.013重量%含み、還元処理が施されていない銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、積層体を作製した。
【0036】
上記のようにして作製した実施例1〜4および比較例1〜3にかかる積層体から金属皮膜部分を切り出してテストピースとし、該テストピースを用いて電気伝導性についての評価を行った。評価した結果を表1に示す。なお、表1中のIACSは、標準焼きなまし銅線に対する(標準焼きなまし銅線を100%としたときの)電気伝導率(%)を示している。テストピースは2mm×2mm×40mmの角柱状に切り出し、測定距離が23mmとなる測定点の間に測定電流(1A)を流して4端子法により電位を測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例5)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:800℃、作動ガス圧力:3MPa、WD:25mm、トラバース速度:200mm/s、パス回数:6回で、リンを0.002重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。なお、本実施例では、一回のパスでは、1.2mm程度の皮膜が形成され、6回のパスで7.2mm前後の金属皮膜を形成した。
【0039】
(実施例6)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.007重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0040】
(実施例7)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.009重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0041】
(実施例8)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.017重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0042】
(比較例4)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.023重量%含み、還元処理が施された銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0043】
(比較例5)
アルミニウム基板(A1050−H24)に、作動ガス、作動ガス温度、作動ガス圧力、WD、トラバース速度、パス回数を実施例5と同一の条件とし、コールドスプレー装置20により、リンを0.013重量%含み、還元処理が施されていない銅粉末(平均粒径:約35μm)を吹付けて金属皮膜を形成し、テストピースを作製した。
【0044】
上記のようにして作製した実施例5〜8および比較例4,5にかかる積層体から金属皮膜部分を切り出してテストピースとし、該テストピースを用いて電気伝導性についての評価を行った。評価した結果を表2に示す。電気伝導率は、上述した実施例1〜4と同様に、2mm×2mm×40mmのテストピースを用いて、測定距離が23mmとなる測定点の間に測定電流(1A)を流して4端子法により電位を測定した。
【0045】
【表2】
【0046】
図3は、本実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量と電気伝導率(IACS)との関係を示すグラフである。図3に示すグラフでは、丸のプロットが、作動ガス温度を600℃として形成された金属皮膜(実施例1〜4、比較例1〜3)の測定結果を示し、四角のプロットが、作動ガス温度を800℃として形成された金属皮膜(実施例5〜8、比較例4,5)の測定結果を示している。また、図3に示すグラフでは、白抜きのプロットが、還元処理が施された銅粉末を用いて形成された金属皮膜(実施例1〜8、比較例1,2,4)の測定結果を示し、黒塗りのプロットが、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)の測定結果を示している。
【0047】
表1,2および図3に示すように、リン含有量が実施例1〜8の電気伝導率は、比較例1〜5の電気伝導率と比して大きい。特に実施例2,3,5〜7は、99.0%以上となっており、銅粉末中のリン量を0.007重量%〜0.010重量%とすることで良好な電気伝導率を有する金属皮膜が得られる。さらに、作動ガス温度を800℃とすれば、リン量を0.017重量%としても良好な電気伝導率を有する金属皮膜を得ることができる。これにより、リン量を制限することによって、良好な電気伝導率を有する金属皮膜が得られることがわかる。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例1〜8にかかる金属皮膜として電気伝導率が低い。
【0048】
つぎに、上述した実施例1〜7および比較例1〜5にかかる積層体を用いて、4点曲げ変位の測定を行った。図4は、本実施例にかかる金属皮膜の4点曲げ変位測定を説明する図である。4点曲げ変位測定は、2mm×2mm×40mmのテストピースTPを用いて、長手方向と直交する方向から円柱状の支持具101,102および支持具103,104によって挟み込んでテストピースTPに荷重を加えて測定を行った。4点曲げ変位測定では、一方から作用点間距離D1(中心軸間の距離)が10mmとなる二つの支持具101,102を接触させるとともに、他方から支点間距離D2(中心軸間の距離)が30mmとなる二つの支持具103,104を接触させることによってテストピースTPを挟む。なお、本実施例では、支持具101,102に荷重を加えることによってテストピースTPに荷重を加えた。テストピースTPに加える荷重の荷重速度は3.0mm/minであり、支持具101〜104の径は2.5mmである。
【0049】
図5は、本実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量と4点曲げ変位との関係を示すグラフである。図5に示すグラフでは、丸のプロットが、作動ガス温度を600℃として形成された金属皮膜(実施例1〜4、比較例1〜3)の測定結果を示し、四角のプロットが、作動ガス温度を800℃として形成された金属皮膜(実施例5〜7、比較例4,5)の測定結果を示している。また、図5に示すグラフでは、白抜きのプロットが、還元処理が施された銅粉末を用いて形成された金属皮膜(実施例1〜7、比較例1,2,4)の測定結果を示し、黒塗りのプロットが、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)の測定結果を示している。
【0050】
図5に示すように、リン含有量が実施例1〜8の範囲である金属皮膜の4点曲げ変位は、比較例1〜5の4点曲げ変位と比して大きい。特に実施例6,7においては、4点曲げ変位が大きくなっており、銅粉末中のリン量を0.007重量%〜0.009重量%とすることで良好な延性を有する金属皮膜が得られる。一方、比較例2,4では、リン量が多いために動的再結晶が起こりにくく、脆性破断が生じた。これにより、リン量を制限することによって、良好な延性を有する金属皮膜が得られることがわかる。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例1〜7にかかる金属皮膜として4点曲げ変位が低い。
【0051】
つぎに、上述した実施例1〜6および比較例2〜5にかかる積層体を用いて、ビッカース硬さの測定を行った。ビッカース硬さ測定は、50mm×50mm×6mmに切り出した金毒皮膜の中央部をさらに切り出してテストピースとし、埋め込み鏡面研磨後に硬さ試験を行った。加えた荷重は300gf、3点〜5点の平均値を算出した。
【0052】
図6は、本実施例にかかる金属皮膜におけるリン含有量とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。図6に示すグラフでは、丸のプロットが、作動ガス温度を600℃として形成された金属皮膜(実施例1〜3、比較例2,3)の測定結果を示し、四角のプロットが、作動ガス温度を800℃として形成された金属皮膜(実施例6,7、比較例4,5)の測定結果を示している。また、図6に示すグラフでは、白抜きのプロットが、還元処理が施された銅粉末を用いて形成された金属皮膜(実施例1〜3,6,7、比較例2,4)の測定結果を示し、黒塗りのプロットが、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)の測定結果を示している。
【0053】
図6に示すように、本実施例にかかる金属皮膜は、リン含有量が多くなるにしたがってビッカース硬さが大きくなっている。特に実施例6,7においては、4点曲げ変位が大きくなっており、リン量を0.007重量%〜0.009重量%とすることで良好な延性を有する金属皮膜が得られる。これにより、リン量を例えば0.005重量%〜0.010重量%に制限することによって、一層良好な延性を有する金属皮膜が得られることが想定される。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3,5)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例1〜3,6,7にかかる金属皮膜としてビッカース硬さが極端に大きくなっている。
【0054】
つぎに、上述したテストピースを用いて、結晶粒マップの作成を行った。金属皮膜に電子線を照射すると、試料表面で生じる電子後方散乱回折(Electron Backscatter Diffraction:EBSD)により試料の結晶系や結晶方位に関する情報が得られる。電子線を走査しながらEBSDパターンを測定、解析することで、微小領域の結晶系や結晶方位の分布に関する情報を取得し、結晶粒マップを作成した。
【0055】
図7は、本実施例の実施例5にかかる金属皮膜においてリン量が0.002重量%の場合(作動ガス温度:800℃)の結晶粒マップを示す図である。図8は、本実施例の実施例2にかかる金属皮膜においてリン量が0.007重量%の場合(作動ガス温度:600℃)の結晶粒マップを示す図である。図9は、本実施例の比較例4にかかる金属皮膜においてリン量が0.023重量%の場合(作動ガス温度:800℃)の結晶粒マップを示す図である。図10は、本実施例の比較例3にかかる金属皮膜においてリン量が0.013重量%であって、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された場合(作動ガス温度:600℃)の結晶粒マップを示す図である。
【0056】
図7,8に示す結晶粒マップのように、リン量が0.002重量%(実施例5)、0.070重量%(実施例2)の場合は、粒径が5μm以上である部分が多く、検出された粒径における平均結晶粒径も実施例2で2.15μm、実施例5で2.87μmと大きい。
【0057】
また、図9,10に示す結晶粒マップのように、リン量が0.023重量%(比較例4)、0.013重量%(比較例3)の場合は、粒径が5μm以上である部分がほとんどなく、粒径を検出することができない領域が多い。また、検出された粒径における平均結晶粒径は比較例3で1.67μm、比較例4で1.50μmと小さい。
【0058】
図7〜9に示す結晶粒マップから、リン量を制限することによって、熱処理を別途施さなくても、再結晶が起こりやすく、良好な電気伝導性および機械特性を有する金属皮膜が得られることがわかる。また、還元処理が施されていない銅粉末を用いて形成された金属皮膜(比較例3、図10)は、リン量が0.013重量%であるものの、実施例2,5にかかる金属皮膜として平均結晶粒径が小さく、再結晶が起こりにくいことがわかる。
【0059】
上述した実施の形態は、本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、仕様等に応じて種々変形することが可能であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施の形態が可能であることは、上記記載から自明である。
【0060】
以上のように、本発明にかかる積層体および積層体の製造方法は、熱処理を別途施すことなく、熱伝導性、電気伝導性および機械特性に優れた積層体を得るのに有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 積層体
10 基材
11 金属皮膜
20 コールドスプレー装置
21 ガス加熱器
22 スプレーガン
23 粉末供給装置
24 ガスノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10