特許第5889945号(P5889945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5889945
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】シールリング
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/00 20060101AFI20160308BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20160308BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   C08L71/00 Y
   C08L27/18
   F16C33/20 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-61884(P2014-61884)
(22)【出願日】2014年3月25日
(62)【分割の表示】特願2013-527416(P2013-527416)の分割
【原出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-133897(P2014-133897A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-213563(P2011-213563)
(32)【優先日】2011年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】大和田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 美香
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/005133(WO,A1)
【文献】 特開2009−068390(JP,A)
【文献】 特開2003−183497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質樹脂中にフッ素系樹脂が分散した樹脂組成物からなる摺動部分を有するシールリングであって、
前記硬質樹脂がポリエーテルエーテルケトンであり、
前記フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、
前記フッ素系樹脂の最大粒径が950nm以下であり、且つ前記フッ素系樹脂の平均粒径が240nm〜350nmであることを特徴とする、シールリング。
【請求項2】
前記フッ素系樹脂は、アスペクト比が1.0以上1.1未満の第1粒子及びアスペクト比が1.1以上3.5以下の第2粒子を含み、前記樹脂組成物中の前記フッ素系樹脂が占める面積を100として、前記第1粒子の占める面積が10〜90であることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
【請求項3】
自動車のオートマチックトランスミッションに装着される、請求項1又は2に記載のシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びそれを用いた摺動部材に関し、さらに詳しくは、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、以下、「PTFE」という。)等のフッ素系樹脂が分散した樹脂組成物及びそれを用いた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材用材料としては、従来から、ポリイミド(Polyimide、以下、「PI」という。)、ポリエーテルエーテルケトン(Polyetheretherketone、以下、「PEEK」という。)、ポリアミドイミド(Polyamide−imide、以下、「PAI」という。)、ポリフェニレンサルファイド(Polyphenylenesulfide、以下、「PPS」という。)等の合成樹脂に、PTFEや黒鉛等の固体潤滑材と、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状補強材を添加した組成物が用いられている。これらの樹脂組成物では、固体潤滑材の添加により摩擦係数が低減し、繊維状補強材の添加により耐摩耗性、機械的強度及び耐クリープ特性が向上するため、優れた摺動特性及び機械特性を有する材料が得られる。しかしながら、近年、省エネ化・低燃費化の市場要求が高く、特にシールリング等の摺動部品に対しては引きずりトルク(摩擦係数μ)の低減が強く求められるようになっている。ここで、摺動特性をさらに向上させるため、PTFE等フッ素系樹脂を多量に添加しても十分な潤滑効果は得られず、高温剛性等の機械的強度が低下する。一方、機械的強度のさらなる向上のため、繊維状補強材を増加すると、相手材の損傷という問題が生じる。そのため、摺動特性及び機械特性の改善を目的に多くの樹脂組成物が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モース硬度(旧)2.5〜7、粒径0.1〜30μmの無機質酸化物の微粒子の1種又は2種以上が、0.25〜10vol%;固体潤滑材3〜30vol%;残余が合成樹脂からなる摺動部材組成物が提案されている。また、前記組成物にさらに芳香族ポリアミド繊維を0〜30vol%を加えた組成物も示されている。特許文献1では、固体潤滑材に加えて、特定の範囲の硬度と粒径を有する無機質酸化物微粒子を特定量充填することにより、優れた耐摩耗性と低摩擦係数が得られることが記載されている。
また、特許文献2には、ポリエーテルケトン樹脂100重量部に対して、3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルプロペンと1,1−ジフルオロエチレンとの共重合体を10〜90重量部添加したポリエーテルケトン系樹脂組成物が開示されている。特許文献2の組成物は、ポリエーテルケトン樹脂本来の優れた機械的、熱的、電気的特性を損なうことなく、非粘着性に優れ、しかもきわめて好ましい摺動特性を発揮するので、高温下で使用される摺動部材として最適であることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の摺動部材用樹脂組成物では、金属酸化物等の無機質酸化物の微粒子を必須成分とするため、相手材の摩耗量を増大させる可能性がある。また、一般に高密度の金属酸化物を添加することにより、比重が高くなり、軽量という樹脂材料の利点が損なわれることになる。
一方、特許文献2のように低分子量のフッ素含有化合物を添加すれば、分散性が改善され材料物性が向上することが期待される。しかし、上記のような低分子量のフッ素含有化合物を用いると混合後に相分離が生じたり、耐熱性の低下が生じることが懸念され、過酷な条件下では十分な摺動特性を発揮し得ない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−92487号公報
【特許文献2】特許第2952294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、優れた摺動特性及び機械特性を有する樹脂組成物からなる摺動部分を有するシールリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、硬質樹脂中にフッ素系樹脂が分散した樹脂組成物からなる摺動部分を有するシールリングにおいて、フッ素系樹脂の最大粒径を950nm以下とし、且つ平均粒径を240nm〜350nmとすることにより、樹脂組成物の機械特性が向上するとともに、油中での摩擦係数μが大幅に低減するため、この樹脂組成物から構成される摺動部分を有するシールリンは優れた機械特性及び摺動特性を実現できることを見いだし、本発明に至った。すなわち、本発明のシールリングは、硬質樹脂中にフッ素系樹脂が分散した樹脂組成物からなる摺動部分を有するシールリングであって、硬質樹脂がポリエーテルエーテルケトンであり、フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素系樹脂の最大粒径が950nm以下であり、且つフッ素系樹脂の平均粒径が240nm〜350nmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
硬質樹脂中に分散するフッ素系樹脂の最大粒径を950nm以下とし、平均粒径を240nm〜350nmとなるように調整した本発明の樹脂組成物からなる摺動部分を有するシールリングでは表面に微細なフッ素系樹脂粒子が均一に分散する。このため油中の摺動において油膜が部分的にとぎれた場合でも、微細なフッ素系樹脂粒子が相手材との間に介在するため、摩擦抵抗が非常に低く、優れた摺動特性が得られる。さらにフッ素系樹脂粒子が均一分散し、凝集粒が認められない本発明の樹脂組成物では、弾性率、引っ張り強度等、優れた機械特性を有する。そして、上記範囲に調整されたフッ素系樹脂粒子は高温摺動下においても再凝集することがなく、長期に亘って優れた摺動特性及び機械特性を維持できる。また、本発明の樹脂組成物に炭素繊維等の無機充填材を添加した場合、微細なフッ素系樹脂は選択的に無機充填材の周辺に分布し、無機充填材がフッ素系樹脂粒子層に覆われた構造となる。このフッ素系樹脂粒子層は、マトリックスである硬質樹脂と無機充填材との接着相としても機能する。このため、高負荷条件下においても、無機充填材の脱落が防止されるため、優れた耐摩耗性を維持でき、無機充填材の脱落片による相手材の損傷も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フリクション測定装置を示す概略図である。
図2参考例2の試料のTEM観察写真である(23000倍)。
図3】摺動部材中に分散するPTFE粒子の平均粒径と油中での摩擦係数μの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明のシールリングについて詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物では、硬質樹脂中にフッ素系樹脂が分散している。本発明において、硬質樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、シンジオタクティックポリスチレン樹脂、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルフォン(PSU)、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フッ化ビニリデン(PVDF)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。これらの樹脂は、共重合体、変性体であってもよく、2種類以上を混合してもよい。耐熱性や成形性を考慮すると、上記硬質樹脂の中でもPBT、PA、PPS、PEEK、PVDF等が好ましい。硬質樹脂は、フッ素系樹脂と融点が近い材料であることが好ましく、両者の融点の差が好ましくは50℃以内、さらに好ましくは20℃以内であることが望ましい。フッ素系樹脂として、PTFE(融点:327℃)を用いた場合には、PEEK、PPS、PAI、LCP及びPAであるポリフタルアミド(PPA)、PA46等が好ましい。なお、PAIは融点はないが、成形温度が300〜370℃であるため好ましい。
また、本発明において、硬質樹脂中に分散させるフッ素系樹脂粉末としては、PTFEの他、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、及びポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等が挙げられる。硬質樹脂がPVDF以外の材料であれば、フッ素系樹脂として、PVDFを用いることもできる。また、フッ素系のエラストマーやフッ素ゴムを用いることもできる。フッ素系エラストマーの市販品としては、デュポン株式会社製「カルレッツ」、ダイキン工業株式会社製「ダイエルサーモプラスチック」等が挙げられ、フッ素ゴムの市販品としては、ダイキン工業株式会社製「ダイエル」等が挙げられる。
【0011】
本発明の樹脂組成物には、硬質樹脂とフッ素系樹脂の他に、摺動特性に支障を与えない範囲で、無機充填材として、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維等の繊維状無機充填材を添加することもできる。繊維状無機充填材の添加により、樹脂組成物から得られる摺動部材の耐摩耗性、機械的強度及び耐クリープ特性がさら向上し、よりPV値が高い領域での使用も可能となる。前記繊維状無機充填材の中でも炭素繊維、ガラス繊維が好ましく、炭素繊維としては、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が好ましい。これらの繊維状無機充填材の平均繊維長さは50μm〜500μmとするのが好ましく、100〜300μmとするのがさらに好ましい。
また、カーボンナノチューブは、補強機能を発揮する繊維状無機充填材として機能するのみならず、摺動特性を向上させるための充填材としても有効である。
本発明においては、上記繊維状無機充填材に代えて、又は上記繊維状無機充填材とともに、耐摩耗性や摺動特性等を向上させる目的で、その他の粒状充填材を添加することもできる。その他の充填材としては、耐熱性に優れた中性の材料が好ましく、具体的には、タルク、黒鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。
【0012】
本発明においては、硬質樹脂中に分散するフッ素系樹脂の最大粒径が950nm以下で、且つ平均粒径が150nm〜350nmとなるように調整する。硬質樹脂中に分散するフッ素系樹脂の粒径を前記範囲に規定することにより、樹脂組成物の機械特性及び摺動特性を著しく向上させることができる。最大粒径が950nmを超えるフッ素系樹脂が存在すると、機械特性及び摺動特性が急激に低下する。また、フッ素系樹脂の平均粒径が100nm未満では、十分な固体潤滑機能を発揮できず、摩擦係数μが上昇する傾向が認められる。一方、フッ素系樹脂の平均粒径が450nmを超えると、再び摩擦係数μが上昇する傾向が認められる。フッ素系樹脂の平均粒径は、150nm〜350nmであることが好ましい。この範囲では、油中での摩擦係数μがさらに低下する。
フッ素系樹脂の最大粒径及び平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて以下の方法により算出することができる。
樹脂組成物から得られた摺動部材のテストピースの観察部分を、ダイヤモンドナイフを用いて厚さ100nmの薄片状に加工する。23000倍のTEM観察視野30μm×100μmの範囲におけるフッ素系樹脂粒子の最大粒径(粒子の最大長さ)が950nm以下であることを確認した後、各フッ素系樹脂粒子の粒径(粒子の最大長さ)を測定する。ここで、1試料につき、3箇所観察を行い、大きい順から10個の平均値を求め、平均粒径とする。なお、各粒子がフッ素系樹脂粒子であるか否かは、エネルギー分散型元素分析(EDS)を用いて、フッ素のピーク強度を確認することにより判断できる。
【0013】
また、本発明において、フッ素系樹脂は、アスペクト比が1.0以上1.1未満で、断面がほぼ真円状の粒子(第1粒子)、及びアスペクト比が1.1以上3.5以下で、断面が長円状の粒子(第2粒子)を含むのが好ましい。このように真円状粒子と長円状粒子が混在することにより、双方の補強効果及び潤滑効果が補完強化され、さらに優れた機械特性及び摺動特性が実現される。樹脂組成物中のフッ素系樹脂が占める面積を100として、第1粒子の占める面積は10〜90であるのが好ましく、20〜80であるのがさらに好ましい。
【0014】
本発明における樹脂組成物原料の混合方法はフッ素系樹脂の粒径が上記範囲となる方法であれば特に限定されないが、ラボプラストミル、二軸押出機等を用いて混合するのが好ましい。微細均一分散を確実に実現するためにはスクリュー軸にせん断作用の生じるニーディングディスクを組み合わせた二軸押出機を用いて高せん断条件下で混合するのが望ましい。また、市販の高せん断成形加工機を用いることもできる。
フッ素系樹脂の粒径は、スクリューの形状や長さ、スクリュー回転速度や混合時間等により制御することができる。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、摺動部材用として好ましく用いられる。摺動部材としては、軸受、ガイド部材、チェーン、歯車、スラストワッシャー、シールリング等が挙げられるが、特に、自動車のオートマチックトランスミッション等に装着されるシールリングに適用するのが好ましい。なお、本発明の樹脂組成物は、摺動部材の摺動部分のみに適用してもよい。
【実施例】
【0016】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
参考例1)
硬質樹脂としてPEEK、フッ素系樹脂としてPTFEを用い、リードとニーディングディスクを組み合わせたφ92mmのスクリューが設置された2軸押出機で混合した。ここで、PEEK及びPTFEを、それぞれサイドフィーダーにて供給し、温度370℃、スクリュー回転数320rpmの高せん断条件下で混合してペレットを得た。得られたペレットの径は約3mmで、長さは3〜4mmであった。なお、PEEKとPTFEは、後述する市販品を用い、質量比(PEEK:PTFE)は90:10とした。
得られたペレットを射出成型し、各種測定試料を作製した。曲げ弾性率測定用には、短冊試験片(ISO178、179、80×10×4mm)を作製した。また、油中での摩擦係数μ及び摩耗量測定用には、呼径(外径)50.0mm、幅2.0mm、厚さ2.0mmの特殊ステップ合口を有するリング状テストピースを作製した。射出成形時の金型温度は180℃、成型温度は390〜420℃、射出速度は20mm/secとした。また、成形圧力はリング状テストピースでは、140MPa、短冊試験片では、170MPaとした。得られたリング状テストピースを用いて上述の方法により、PTFE粒子の平均粒径を測定し、以下の方法に従い、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例3の値を100として相対値で表した。
参考例2、実施例3,4、参考例5
2軸押出機のスクリュー回転速度を、それぞれ300rpm(参考例2)、280rpm(実施例3)、240rpm(実施例4)、及び200rpm(参考例5)とした他は参考例1と同様に、測定試料を作製した。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例3の値を100として相対値で表した。
【0017】
(比較例1〜3)
2軸押出機のスクリュー回転速度を、それぞれ350rpm(比較例1)、180rpm(比較例2)、及び160rpm(比較例3)とした他は参考例1と同様に、測定試料を作製した。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、比較例3の値を100として相対値で表した。
【0018】
A.硬質樹脂
A−1.ポリエーテルエーテルケトン:Victrex 150PF(ビクトレックス社製)
B.フッ素系樹脂
B−1.ポリテトラフルオロエチレン:ポリフロンPTFE M-18F(ダイキン工業株式会社製)
C.充填材
C−1.炭素繊維:HT C413(東邦テナックス株式会社製)
【0019】
(曲げ弾性率の測定)
JIS K7171に基づき、曲げ強さ及び曲げ歪を測定し、曲げ弾性率を算出した。
【0020】
(油中での摩擦係数μの測定)
参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3のリング状テストピースを、図1に示すように、油圧回路を設けたシャフト(S45C製)の外周面に形成された軸溝に装着し、試験装置に設置した。次に、ハウジング(S45C製)を装着し、回転数1340rpm(3.5m/s)で回転させ、試験装置に取付けたトルク検出器から検出した回転トルク・ロスから油中での摩擦係数μを算出した。なお、ここで、油はATFを用い、面圧2.0MPaで計測した。
【0021】
(摺動試験後の自己摩耗量及び相手材摩耗量の測定)
参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3のリング状テストピースを、図1に示す試験装置に装着した。回転速度を0から1340rpm(3.5m/s)、油圧を0から2.0MPaに上げ、1340rpm、2.0MPaで2時間運転度後、15分間停止するパターンを200時間繰り返した。試験後、リング及び軸・ハウジングの摩耗量を測定した。
【0022】
表1より、2軸押出機のスクリュー回転速度を変えることにより、樹脂組成物から得られる摺動部材中のフッ素系樹脂の粒径を制御できることがわかる。図2参考例2の試料のTEM観察写真(倍率:23000倍)を示す。図2で観察されるPTFE粒子の最大長さは、340nm程度であり、粒径(長径)が100nm〜200nm程度の粒子が均一に分散していることがわかる。その他の参考例及び実施例においても、長径950nm以上の粒子は認められず、平均粒径を中心に均一な粒径の粒子が分散していることが確認された。これより、本発明の樹脂組成物から得られる摺動部材は、数10μm程度のPTFE凝集粒が認められる従来の摺動部材に比べ、PTFE粒子の分散性が著しく向上していることがわかる。
PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3に比べ、平均粒径120〜440nmの参考例1,2、実施例3,4、参考例5では、曲げ弾性率が10%程度向上していることがわかった。この原因としては、PTFE粒子の平均粒径が小さくなり、比表面積が増加したことにより、マトリックス樹脂であるPEEKとの接触面積が大きくなり、材料が一体化したこと及びPTFE粒子が小型化したため、破壊等の起点となりにくくなったことが考えられる。しかし、さらにPTFE粒子の平均粒径を小さくして100nm未満とすると微細分散による効果は認められなくなった(比較例1)。なお、本発明の参考例及び実施例では、数10μm程度のPTFE凝集粒が認められる従来の摺動部材に比べて曲げ弾性率が15〜20%向上した。
図3に、参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3の試料のPTFE粒子の平均粒径と油中での摩擦係数μをプロットした結果を示す。ここで、縦軸の摩擦係数μの値は、比較例3の摩擦係数μを100として相対値で表した。図3より、PTFE粒子の平均粒径を800nm以下にすることにより、油中での摩擦係数μが低減する傾向が認められた。しかし、PTFE粒子の平均粒径が100nm未満となると油中での摩擦係数μは急激に上昇した。油中での摩擦係数μは、PTFE粒子の平均粒径が100〜450nmの範囲で低い値を示し、150nm〜350nmの範囲でさらに低い値を示した。
表1より、PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3に比べ、PTFE粒子の平均粒径が120〜440nmの参考例1,2、実施例3,4、参考例5では、200時間摺動試験後の自己摩耗量が15〜25%減少することがわかった。この原因としては、PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3では、摺動部材表面に分散しているPTFE粒子が摺動熱で膨張することにより、相手材との摺動潤滑が阻害されることと、マトリックス樹脂であるPEEKとPTFEとの熱膨張差により、PTFE粒子がマトリックス樹脂から脱落し、潤滑効果が低減することが考えられる。これに対して、本発明の参考例及び実施例では、相手材との対向面に分散しているPTFE粒子が微細で均一であるため、摺動熱による熱膨張の影響を殆ど受けることなく、相手材との摺動潤滑を維持でき、且つ微細であるためマトリックス樹脂との熱膨張差による脱落が生じにくいため優れた摺動特性を維持できると考えられる。ここで、摺動試験後の参考例1,2、実施例3,4、参考例5の試料の表面を再度TEMで観察したところ、PTFE粒子に凝集等は認められず、摺動試験前の粒径及び粒子形状がほぼ維持されていることがわかった。このことから、本発明の樹脂組成物を用いた摺動部材では、長時間の運転においても優れた摺動特性及び機械特性が維持できると考えられる。PTFE粒子の平均粒径が100nm未満となると自己摩耗量は増加する傾向があり、良好な潤滑効果は認められなくなった。
【0023】
【表1】

【0024】
(実施例6)
PEEK及びPTFEに加えて、炭素繊維(CF)をサイドフィーダーから供給した他は、実施例4と同様に測定試料を作製した。得られた試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した結果を表2に示す。PEEK、PTFE、及びCFは上述の市販品を用い、それぞれの質量比(PEEK:PTFE:CF)は70:10:20とした。なお、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例5の値を100として相対値で表した。(比較例4及び5)
PEEK及びPTFEに加えて、炭素繊維(CF)をサイドフィーダーから供給した他は、それぞれ比較例1及び比較例3と同様に測定試料を作製した(比較例4及び5)。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した結果を表2に示す。ここで、PEEKとPTFEとCFの質量比(PEEK:PTFE:CF)は70:10:20とした。また、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、比較例5の値を100として相対値で表した。
【0025】
CFを添加した実施例6及び比較例4、5においても、2軸押出機のスクリュー回転速度を変えることにより、樹脂組成物から得られる摺動部材中のフッ素系樹脂の粒径を制御できることが確認された。また、実施例6は、比較例4、5に比べ、曲げ弾性率が高く、油中での摩擦係数μが低いことから、CFを添加した樹脂組成物においても、フッ素系樹脂の平均粒径を本発明の規定範囲とすることにより、摺動特性及び機械特性が向上することが確認された。さらに、実施例6では、摺動試験後の自己摩耗量及び相手材摩耗量の低減効果が顕著で、比較例4及び5の1/2程度に減少することがわかった。ここで、実施例6の試料の表面をSEMで観察した結果、微細なPTFE粒子が選択的にCFの周辺に分布し、CFがPTFE粒子層に覆われた構造であることがわかった。このPTFE層は、マトリックスであるPEEKとCFとの接着相としても機能するため、過酷な摺動条件下においても、CFの脱落が防止され、優れた耐摩耗性を維持でき、CFの脱落片による相手材の損傷も最小限に抑えられることにより、自己摩耗量及び相手材摩耗量が低減したと考えられる。
【0026】
【表2】


図1
図3
図2