【実施例】
【0016】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(
参考例1)
硬質樹脂としてPEEK、フッ素系樹脂としてPTFEを用い、リードとニーディングディスクを組み合わせたφ92mmのスクリューが設置された2軸押出機で混合した。ここで、PEEK及びPTFEを、それぞれサイドフィーダーにて供給し、温度370℃、スクリュー回転数320rpmの高せん断条件下で混合してペレットを得た。得られたペレットの径は約3mmで、長さは3〜4mmであった。なお、PEEKとPTFEは、後述する市販品を用い、質量比(PEEK:PTFE)は90:10とした。
得られたペレットを射出成型し、各種測定試料を作製した。曲げ弾性率測定用には、短冊試験片(ISO178、179、80×10×4mm)を作製した。また、油中での摩擦係数μ及び摩耗量測定用には、呼径(外径)50.0mm、幅2.0mm、厚さ2.0mmの特殊ステップ合口を有するリング状テストピースを作製した。射出成形時の金型温度は180℃、成型温度は390〜420℃、射出速度は20mm/secとした。また、成形圧力はリング状テストピースでは、140MPa、短冊試験片では、170MPaとした。得られたリング状テストピースを用いて上述の方法により、PTFE粒子の平均粒径を測定し、以下の方法に従い、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び
図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例3の値を100として相対値で表した。
(
参考例2、実施例3,4、参考例5)
2軸押出機のスクリュー回転速度を、それぞれ300rpm(
参考例2)、280rpm(実施例3)、240rpm(実施例4)、及び200rpm(
参考例5)とした他は
参考例1と同様に、測定試料を作製した。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び
図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例3の値を100として相対値で表した。
【0017】
(比較例1〜3)
2軸押出機のスクリュー回転速度を、それぞれ350rpm(比較例1)、180rpm(比較例2)、及び160rpm(比較例3)とした他は
参考例1と同様に、測定試料を作製した。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び
図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、比較例3の値を100として相対値で表した。
【0018】
A.硬質樹脂
A−1.ポリエーテルエーテルケトン:Victrex 150PF(ビクトレックス社製)
B.フッ素系樹脂
B−1.ポリテトラフルオロエチレン:ポリフロンPTFE M-18F(ダイキン工業株式会社製)
C.充填材
C−1.炭素繊維:HT C413(東邦テナックス株式会社製)
【0019】
(曲げ弾性率の測定)
JIS K7171に基づき、曲げ強さ及び曲げ歪を測定し、曲げ弾性率を算出した。
【0020】
(油中での摩擦係数μの測定)
参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3のリング状テストピースを、
図1に示すように、油圧回路を設けたシャフト(S45C製)の外周面に形成された軸溝に装着し、試験装置に設置した。次に、ハウジング(S45C製)を装着し、回転数1340rpm(3.5m/s)で回転させ、試験装置に取付けたトルク検出器から検出した回転トルク・ロスから油中での摩擦係数μを算出した。なお、ここで、油はATFを用い、面圧2.0MPaで計測した。
【0021】
(摺動試験後の自己摩耗量及び相手材摩耗量の測定)
参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3のリング状テストピースを、
図1に示す試験装置に装着した。回転速度を0から1340rpm(3.5m/s)、油圧を0から2.0MPaに上げ、1340rpm、2.0MPaで2時間運転度後、15分間停止するパターンを200時間繰り返した。試験後、リング及び軸・ハウジングの摩耗量を測定した。
【0022】
表1より、2軸押出機のスクリュー回転速度を変えることにより、樹脂組成物から得られる摺動部材中のフッ素系樹脂の粒径を制御できることがわかる。
図2に
参考例2の試料のTEM観察写真(倍率:23000倍)を示す。
図2で観察されるPTFE粒子の最大長さは、340nm程度であり、粒径(長径)が100nm〜200nm程度の粒子が均一に分散していることがわかる。その他の
参考例及び実施例においても、長径950nm以上の粒子は認められず、平均粒径を中心に均一な粒径の粒子が分散していることが確認された。これより、本発明の樹脂組成物から得られる摺動部材は、数10μm程度のPTFE凝集粒が認められる従来の摺動部材に比べ、PTFE粒子の分散性が著しく向上していることがわかる。
PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3に比べ、平均粒径120〜440nmの
参考例1,2、実施例3,4、参考例5では、曲げ弾性率が10%程度向上していることがわかった。この原因としては、PTFE粒子の平均粒径が小さくなり、比表面積が増加したことにより、マトリックス樹脂であるPEEKとの接触面積が大きくなり、材料が一体化したこと及びPTFE粒子が小型化したため、破壊等の起点となりにくくなったことが考えられる。しかし、さらにPTFE粒子の平均粒径を小さくして100nm未満とすると微細分散による効果は認められなくなった(比較例1)。なお、本発明の
参考例及び実施例では、数10μm程度のPTFE凝集粒が認められる従来の摺動部材に比べて曲げ弾性率が15〜20%向上した。
図3に、
参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3の試料のPTFE粒子の平均粒径と油中での摩擦係数μをプロットした結果を示す。ここで、縦軸の摩擦係数μの値は、比較例3の摩擦係数μを100として相対値で表した。
図3より、PTFE粒子の平均粒径を800nm以下にすることにより、油中での摩擦係数μが低減する傾向が認められた。しかし、PTFE粒子の平均粒径が100nm未満となると油中での摩擦係数μは急激に上昇した。油中での摩擦係数μは、PTFE粒子の平均粒径が100〜450nmの範囲で低い値を示し、150nm〜350nmの範囲でさらに低い値を示した。
表1より、PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3に比べ、PTFE粒子の平均粒径が120〜440nmの
参考例1,2、実施例3,4、参考例5では、200時間摺動試験後の自己摩耗量が15〜25%減少することがわかった。この原因としては、PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3では、摺動部材表面に分散しているPTFE粒子が摺動熱で膨張することにより、相手材との摺動潤滑が阻害されることと、マトリックス樹脂であるPEEKとPTFEとの熱膨張差により、PTFE粒子がマトリックス樹脂から脱落し、潤滑効果が低減することが考えられる。これに対して、本発明の
参考例及び実施例では、相手材との対向面に分散しているPTFE粒子が微細で均一であるため、摺動熱による熱膨張の影響を殆ど受けることなく、相手材との摺動潤滑を維持でき、且つ微細であるためマトリックス樹脂との熱膨張差による脱落が生じにくいため優れた摺動特性を維持できると考えられる。ここで、摺動試験後の
参考例1,2、実施例3,4、参考例5の試料の表面を再度TEMで観察したところ、PTFE粒子に凝集等は認められず、摺動試験前の粒径及び粒子形状がほぼ維持されていることがわかった。このことから、本発明の樹脂組成物を用いた摺動部材では、長時間の運転においても優れた摺動特性及び機械特性が維持できると考えられる。PTFE粒子の平均粒径が100nm未満となると自己摩耗量は増加する傾向があり、良好な潤滑効果は認められなくなった。
【0023】
【表1】
【0024】
(実施例6)
PEEK及びPTFEに加えて、炭素繊維(CF)をサイドフィーダーから供給した他は、実施例4と同様に測定試料を作製した。得られた試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した結果を表2に示す。PEEK、PTFE、及びCFは上述の市販品を用い、それぞれの質量比(PEEK:PTFE:CF)は70:10:20とした。なお、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例5の値を100として相対値で表した。(比較例4及び5)
PEEK及びPTFEに加えて、炭素繊維(CF)をサイドフィーダーから供給した他は、それぞれ比較例1及び比較例3と同様に測定試料を作製した(比較例4及び5)。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した結果を表2に示す。ここで、PEEKとPTFEとCFの質量比(PEEK:PTFE:CF)は70:10:20とした。また、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、比較例5の値を100として相対値で表した。
【0025】
CFを添加した実施例6及び比較例4、5においても、2軸押出機のスクリュー回転速度を変えることにより、樹脂組成物から得られる摺動部材中のフッ素系樹脂の粒径を制御できることが確認された。また、実施例6は、比較例4、5に比べ、曲げ弾性率が高く、油中での摩擦係数μが低いことから、CFを添加した樹脂組成物においても、フッ素系樹脂の平均粒径を本発明の規定範囲とすることにより、摺動特性及び機械特性が向上することが確認された。さらに、実施例6では、摺動試験後の自己摩耗量及び相手材摩耗量の低減効果が顕著で、比較例4及び5の1/2程度に減少することがわかった。ここで、実施例6の試料の表面をSEMで観察した結果、微細なPTFE粒子が選択的にCFの周辺に分布し、CFがPTFE粒子層に覆われた構造であることがわかった。このPTFE層は、マトリックスであるPEEKとCFとの接着相としても機能するため、過酷な摺動条件下においても、CFの脱落が防止され、優れた耐摩耗性を維持でき、CFの脱落片による相手材の損傷も最小限に抑えられることにより、自己摩耗量及び相手材摩耗量が低減したと考えられる。
【0026】
【表2】