(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890119
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】低背化コネクタとその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 43/24 20060101AFI20160308BHJP
H01R 13/52 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
H01R43/24
H01R13/52 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-159124(P2011-159124)
(22)【出願日】2011年7月20日
(65)【公開番号】特開2013-25998(P2013-25998A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】片岡 真之
(72)【発明者】
【氏名】小松 大樹
(72)【発明者】
【氏名】印南 威
【審査官】
竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−123458(JP,A)
【文献】
特開2004−281068(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/019027(WO,A1)
【文献】
米国特許第5217388(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/24
H01R 13/40 − 13/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線が絶縁被覆された電線のうちプレス加工にて曲げられる部位の絶縁被覆だけを予め除去して前後に前記絶縁被覆が残るように前記電線の芯線を剥き出しにした中剥ぎ部を形成し、前記電線をプレス加工して所定の形状にフォーミングし、端子を前記電線の先端と接合して成る絶縁被覆中剥ぎ加工電線を、複数本並置し、
前記複数本の絶縁被覆中剥ぎ加工電線の各端子の接合部位から前記絶縁被覆の除去された各部位までを囲って一括モールド成形してハウジングを構成することにより低背化コネクタを得ることを特徴とする低背化コネクタの製造方法。
【請求項2】
曲折部の絶縁被覆だけが除去されて前後に前記絶縁被覆が残るように芯線が剥き出しにされた中剥ぎ部を備えて並置された複数の電線と、前記各電線の先端に接合された各端子と、前記各端子の接合部から前記絶縁被覆の除去された各部位までを囲って一括モールド成形されたハウジングと、を備えたことを特徴とする低背化コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高圧電線として用いられる径の太い電線をL字状に曲げて成るコネクタに関するもので、特に、プロテクタを使わなくても小型化が可能となる低背化コネクタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
〈コネクタの小型化〉
既存のコネクタにおいて、車両搭載スペースのニーズによりコネクタの小型化が行われている。コネクタの小型化をするには、従来より次の2つのやり方が考えられている。
(1)プロテクタの使用:ワイヤハーネス経路上にプロテクタを設けて、ワイヤハーネス経路をプロテクタで強制的に規制する方法である。
(2)L字状端子の使用:コネクタの端子をL字状に曲げ、そのL字状端子を収容する構成のハウジングを形成する方法である。
【0003】
〈(1)プロテクタの使用〉
プロテクタを使用するコネクタとしては、特許文献1記載のものがある。
特許文献1記載のコネクタは、高圧電線をL字状に曲折し、高圧電線の先端に端子を接続し、高圧電線の先端部および端子をハウジングで囲み、ハウジングをアルミ製シールドシェルで覆った高圧電線L字状コネクタにおいて、高圧電線のL字状曲折部を樹脂製プロテクタで覆い、さらにその樹脂製プロテクタにリブを設けて剛性を持たせるものである。
プロテクタ使用の問題点としては、経路別にプロテクタの部品を別途必要とすること。
また、高圧電線のような太い電線の場合は反発力が大きいので強制的に曲げ加工することが容易でなく、結果的に大きな円弧を描くものとなり、これでは低背化コネクタとはならず、大きなスペースを必要としたこと。
また、プロテクタを用いて強制的に規制するためには、高圧電線の曲げが反力に耐えるための太いリブをプロテクタに設けることが必要なこと、などが挙げられる。
【0004】
〈(2)L字状端子の使用〉
図3はL字状に曲げた端子とそのハウジングとから成るコネクタを説明する図で、
図3(A)はL字状端子コネクタの斜視図、
図3(B)は
図3(A)の3B矢視方向正面図、
図3(C)は
図3(B)の3C−3C矢視断面図である。
図3において、小型コネクタ30は、予めL字状に曲げ加工したL字状端子30Tを備え、そのL字状端子30Tに電線Wを接続し、L字状端子30Tおよび電線Wの一部をコネクタハウジング30Hの中に収容し、周囲をプロテクタ30Pで囲い、L字状端子30Tの一端に電線Wを接続して成るものである。
この問題点として、L字状端子30Tの形状が異なるとL字状端子30Tが新規構造となるため、既存の端子が使用できないこと、およびそれらを収容するコネクタハウジング30Hについても大きさや形状が異なり、その都度新規構造となることであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−211935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる欠点を解決するためになされたもので、プロテクタを必要とせず、しかも大きなスペースも必要としない、既存の端子が使用できる低背化コネクタとその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る低背化コネクタの製造方法(1)およびその方法で製造される低背化コネクタ(2)は、次のことを特徴としている。
(1)芯線が絶縁被覆された電線のうちプレス加工にて曲げられる部位の絶縁被覆だけを予め除去して前後に前記絶縁被覆が残るように前記電線の芯線を剥き出しにした中剥ぎ部を形成し、前記電線をプレス加工して所定の形状にフォーミングし、端子を前記電線の先端と接合して成る絶縁被覆中剥ぎ加工電線を、複数本並置し、前記複数本の絶縁被覆中剥ぎ加工電線の各端子の接合部位から前記絶縁被覆の除去された各部位までを囲って一括モールド成形してハウジングを構成することにより低背化コネクタを得ること。
(2)曲折部の絶縁被覆だけが除去されて前後に前記絶縁被覆が残るように芯線
が剥き出しに
された中剥ぎ部
を備えて並置された複数の電線と、前記各電線の先端に接合された各端子と、前記各端子の接合部から前記絶縁被覆の除去された各部位までを包んで一括モールド成形
されたハウジングと、を備えたこと。
【発明の効果】
【0008】
(1)上記発明(1)によれば、プロテクタを必要とせず、しかも大きなスペースも必要としない、既存の端子が使用できる低背化コネクタを製造することが可能となる。
(2)上記発明(1)を用いることで、プロテクタを必要とせず、しかも大きなスペースも必要としない、既存の端子が使用できる上記発明(2)に記載の低背化コネクタが得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るモールドコネクタの製造工程(1)から(5)までを説明する正面断面図である。
【
図2】
図2(A)は本発明に係るモールドコネクタの正面断面図、
図2(B)は平面断面図である。
【
図3】
図3(A)は従来のコネクタの斜視図、
図3(B)は
図3(A)の3B矢視方向正面図、
図3(C)は
図3(B)の3C−3C矢視断面図である。
【
図4】
図4は本発明の先行発明1に係るモールドコネクタの正面断面図である。
【
図5】
図5は本発明の先行発明2に係るモールドコネクタの正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プロテクタを必要とせず、しかも大きなスペースも必要としない、既存の端子が使用できる小型のコネクタの製造方法について、
図1に基づいて説明する。
【0011】
〈本発明に係るモールドコネクタの製造工程〉
〈ステップ1:被覆電線の準備〉
図1は本発明に係るモールドコネクタの製造工程(1)から(5)までを説明する正面断面図である。
図1(1)において、本発明に用いられる電線Wとしては、例えば編組線が用いられて成る高圧電線であり、その電線Wの外周は絶縁被覆Hで覆われている。電線Wの先端W1には既存の端子Tに接続される。
〈ステップ2:電線被覆の中剥ぎ工程〉
図1(1)の電線Wの絶縁被覆Hのうち、後にプレス加工にて直角に曲げられる部位の絶縁被覆Hだけ除去して電線Wを剥き出しにし、中剥ぎ部N1、N2を形成する。したがって、
図1(2)のように、中剥ぎ部N1の前後にはそれぞれ絶縁被覆H1とH2が、中剥ぎ部N2の前後にはそれぞれ絶縁被覆H2とH3が残っている。
〈ステップ3:電線フォーミング工程〉
電線Wをプレス加工して、L字(又はZ字)状にフォーミングすると
図1(3)のようになる。このとき、電線Wの中剥ぎ部N1、N2に絶縁被覆Hがないので、フォーミングが大きな応力がかからなくて高精度で行われ、より厳しいR(アール)曲げが可能となる。
〈ステップ4:端子接続工程〉
次に、電線Wの先端W1に、L字状に曲折されていない通常の端子Tを接続すると
図1(4)のようになる。
端子Tと撚り線である電線Wの先端W1との接続は超音波接合で行い、その際、端子T1のプレフォーミングと同時にプレスによる電線の曲げ加工を行うようにするとよい。
また、絶縁被覆H3のハウジングの境界となる部位は支持部材Sで包囲される。
〈ステップ5:ハウジングのモールド工程〉
電線Wの先端W1に接続された端子Tの一部から絶縁被覆H3の支持部材Sまでをモールド成形してハウジングMを構成すると
図1(5)のようになる。このようにモールド成形することにより、従来のプロテクタが要らなくなる。
図1は正面図であるので、電線Wは1本しか描かれていなが、実際は紙面に対して垂直方向に複数個の電線Wが並置されている(
図2(B)参照)ので、ハウジングMは、複数個の電線Wと複数個の端子Tと複数個の絶縁被覆H3と複数個の絶縁被覆H3を支持する1個の支持部材Sが一括して樹脂でモールドされて成っている。
【0012】
〈本発明に係る製造方法で作られたコネクタ〉
図2は、
図1の製造方法で作られたコネクタを示す図で、
図2(A)はコネクタの正面断面図、
図2(B)は平面断面図である。
図2(A)において、電線Wの絶縁被覆Hが中剥ぎ部N1、N2で中剥ぎされ、電線W全体がL字(又はZ字)状にフォーミングされ、電線Wの先端に端子Tが接合され、端子Tの一部から絶縁被覆H3の支持部材Sまでが樹脂でモールド成形されている。
図2(B)において、2本の電線Wがそれぞれ
図2(A)のように中剥ぎ部N1、N2で中剥ぎされ、電線W全体がL字(又はZ字)状にフォーミングされており、2本の電線Wと端子Tと絶縁被覆Hと複数個の絶縁被覆H3を支持する1個の支持部材Sが一括して樹脂でモールドされて、ハウジングMを形成している。
このようにそれぞれ曲げ加工を行った電線にハウジングを一括モールドすることにより、従来必要としたプロテクタを省略することができ、プロテクタの組み付け工程およびその設備の削減によるコネクタのコストダウンができ、しかもプロテクタがなくてもコネクタの小型化を行うことができる。
また、曲げ部のみを中剥ぎしているので、モールド成型の際、直線部に応力がかかり変形が防止される。
さらに、電線のプレス型は必要となるものの、コネクタ構成部品及び工程ライン設備の共用化が可能となる。被覆電線を中剥ぎした後、プレス加工するので、プロテクタを用いた従来品より精度が高く、より厳しいR曲げが可能となる。
図2(B)においては、2本の電線Wを一括して樹脂モールドした例を示したが、同じように、曲げ部のみを中剥ぎした3本の電線Wを一括して樹脂モールドすれば、3相用の低背化コネクタが得られる。
以下、同様に本発明によれば、曲げ部のみを中剥ぎした任意の数電線Wを一括して樹脂モールドすることにより、多相用の低背化コネクタが得られる。
【0013】
〈本発明に至る先行発明1〉
本発明に至る過程で、先行発明1として、
図4のような絶縁被覆電線をそのままL字状にフォーミングして樹脂モールドすることを試みた。
図4において、絶縁被覆Hの電線W全体をL字状にフォーミングし、電線Wの先端に端子Tを接合し、端子Tの一部から支持部材Sまで一括して樹脂でモールドして、ハウジングMを形成している。しかしながら、この方法には、電線に精度良くRを付けることができず、R付けをした電線を金型にセットする際、電線が元に戻る力が大きく、電線を金型にセットすることができない、という問題点があった。
【0014】
〈本発明に至る先行発明2〉
次に、先行発明2として、
図5のような絶縁被覆を全部剥いて裸電線Wにしてフォーミングして樹脂モールドすることを試みた。
図5において、絶縁被覆Hを全部剥いて、裸電線W全体をL字状にフォーミングし、電線Wの先端に端子Tを接合し、端子Tの一部から支持部材Sまで一括して樹脂でモールドして、ハウジングMを形成している。しかしながら、この方法には、射出成形時の樹脂圧が裸電線にかかることにより、裸電線の芯線が変形し、成形した製品のハウジングから電線がはみ出す、という問題点があった。
【0015】
〈まとめ〉
以上のように先行発明1および2にはそれぞれの欠点があったが、本発明は、これらの欠点をも解決するもので、絶縁被覆の曲げ部のみを中剥ぎすることにより、モールド成型の際、直線部に応力がかかり変形が防止される。
また、曲げ加工を行った電線にハウジングを一括モールドするので、従来必要としたプロテクタを省略することができ、プロテクタの組み付け工程およびその設備の削減によるコネクタのコストダウンができ、しかもプロテクタがなくてもコネクタの小型化を行うことができる。
また、電線のプレス型は必要となるものの、コネクタ構成部品及び工程ライン設備の共用化が可能となる。被覆電線を中剥ぎした後、プレス加工するので、プロテクタを用いた従来品より精度が高く、より厳しいR曲げが可能となる、といった効果が得られる。
【符号の説明】
【0016】
10:本発明に係る低背化コネクタ
H:絶縁被覆
M:ハウジング
N1、N2:中剥ぎ部
S:支持部材
T:端子
W:電線
W1:電線の先端