特許第5890172号(P5890172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5890172ラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成塗料、巻き戻り防止膜を有するカートンの製造方法
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  • 特許5890172-ラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成塗料、巻き戻り防止膜を有するカートンの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890172
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】ラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成塗料、巻き戻り防止膜を有するカートンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20160308BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20160308BHJP
   B65D 25/52 20060101ALI20160308BHJP
   B65D 25/34 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   C09D167/00
   C09J167/00
   B65D25/52 E
   B65D25/34 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-285065(P2011-285065)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-133425(P2013-133425A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(72)【発明者】
【氏名】片山 洋
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−026265(JP,A)
【文献】 特開平09−296144(JP,A)
【文献】 特開平02−099139(JP,A)
【文献】 特開2001−011370(JP,A)
【文献】 特開2000−290579(JP,A)
【文献】 特開2008−050424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
B65D1/00〜B65D90/66
B65D1/00〜B05D7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カートンに収納されたラップフィルムのロールからラップフィルムを引き出して切断した後のロール側のラップフィルムの端部を付着させて巻き戻りを防止するラップフィルムの巻き戻り防止膜をグラビア印刷により形成する巻き戻り防止膜の形成塗料において、
酢酸エチル80〜60重量部と、イソプロピルアルコール20〜40重量部とを合計が100重量部となるように混合した混合溶剤で希釈された紫外線硬化型のポリエステル系ワニスであることを特徴とするラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成塗料。
【請求項2】
ラップフィルムカートンの製造方法であって、
酢酸エチル80〜60重量部と、イソプロピルアルコール20〜40重量部とを合計が100重量部となるように混合した混合溶剤で希釈した紫外線硬化型のポリエステル系ワニスを用いて、グラビア印刷によって、収納されたラップフィルムのロールからラップフィルムを引き出して切断した後のロール側のラップフィルムの端部を付着させて巻き戻りを防止する巻き戻り防止膜を形成する工程を有することを特徴とするラップフィルムのカートンの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル系ワニスを用いて、前記ラップフィルムカートンから引き出したラップフィルムを切断する際に指や手の平が添えられる箇所に滑り止め用の膜を形成する工程を有することを特徴とする前記請求項2記載のラップフィルムのカートンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カートンに収納されたラップフィルムのロールからラップフィルムを引き出して切断した後のロール側のラップフィルムの端部を付着させて巻き戻りを防止するラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成塗料、巻き戻り防止膜を有するカートンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成方法としては、ポリエステル系塗料をグラビア印刷で付設し、ポリエステルを主成分とする塗膜として形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、巻き戻り防止膜形成用のポリエステル系塗料の溶剤として、酢酸エチルやイソプロピルアルコール等が使用できることも知られている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−26265号公報
【特許文献2】特開2000−290579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、グラビア印刷は塗料の厚塗りがしやすく、カートンを構成する紙面の凹凸を吸収して、ラップフィルムが密着しやすい平滑な表面の巻き戻り防止膜を形成しやすい利点がある。
【0005】
しかしながら、グラビア印刷でポリエステル系塗料を付設する場合、溶剤として酢酸エチルを用いると、印刷中に塗料に気泡が発生しやすくなる問題がある。塗料に多量の気泡が生じると、得られる巻き戻り防止膜の表面が気泡によって荒れて、ラップフィルムとの良好な密着性が得られなくなり、巻き戻りを防止しにくくなる。また、溶剤としてイソプロピルアルコールを用いた場合、ポリエステル系塗料に対する溶解力が十分でなく、均一な付設がしにくくなって、やはり良好な密着性を有する巻き戻り防止膜が得にくくなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、ラップフィルムの巻き戻り防止膜を、ポリエステル系塗料を用いたグラビア印刷によりカートンに形成するに際し、塗料を均一に塗布できるようにすると共に、印刷に伴う気泡の発生を防止できるようにし、密着力の良好な表面の平滑性に優れた巻き戻り防止膜が容易に得られる形成方法及びそれに用いる塗料を提供することを目的とする。また、本発明は、表面の平滑性に優れ、確実な巻き戻り防止効果が得やすい巻き戻り防止膜を備えたラップフィルムのカートン及びカートンブランクを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第は、カートンに収納されたラップフィルムのロールからラップフィルムを引き出して切断した後のロール側のラップフィルムの端部を付着させて巻き戻りを防止するラップフィルムの巻き戻り防止膜をグラビア印刷により形成する巻き戻り防止膜の形成塗料において、
酢酸エチル80〜60重量部と、イソプロピルアルコール20〜40重量部とを合計が100重量部となるように混合した混合溶剤で希釈された紫外線硬化型のポリエステル系ワニスであることを特徴とするラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成塗料を提供するものである。
【0009】
また、本発明の第は、ラップフィルムカートンの製造方法であって、
酢酸エチル80〜60重量部と、イソプロピルアルコール20〜40重量部とを合計が100重量部となるように混合した混合溶剤で希釈した紫外線硬化型のポリエステル系ワニスを用いて、グラビア印刷によって、収納されたラップフィルムのロールからラップフィルムを引き出して切断した後のロール側のラップフィルムの端部を付着させて巻き戻りを防止する巻き戻り防止膜を形成する工程を有することを特徴とするラップフィルムのカートンの製造方法を提供するものである。
【0010】
上記本発明の第二は、前記ポリエステル系ワニスを用いて、前記ラップフィルムカートンから引き出したラップフィルムを切断する際に指や手の平が添えられる箇所に滑り止め用の膜を形成する工程を有することをその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第一においては、イソプロピルアルコールがグラビア印刷中の塗料の泡立ち防止効果をもたらし、酢酸エチルが塗料の良好な溶解性をもたらす。つまり、イソプロピルアルコールと酢酸エチルが相互に欠点を補い合うものと考えられる。従って、本発明によると、塗料を均一に塗布できると共に、印刷に伴う気泡の発生を防止することができ、密着力の良好な表面の平滑性に優れた巻き戻り防止膜が得られる。
【0012】
また、本発明の第においては、表面の平滑性に優れ、確実な巻き戻り防止効果が得やすい巻き戻り防止膜を備えたラップフィルムのカートンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るカートンの一例を示す斜視図で、(a)は開封途中の状態、(b)は開封後の状態を示す。
図2ートンブランクの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、グラビア印刷により、巻き戻り防止膜の形成塗料の塗膜を、ラップフィルムのロールを収納するカートンを構成する紙面に形成し、この塗膜の硬化膜を巻き戻り防止膜とする。塗膜の形成位置は、通常、カートンに収納されたロールから引き出したラップフィルムをカートンに付属する切断歯で切断する時に、ラップフィルムのロール側の切断端部が押し付けられる本体前面板部分である。このような箇所に巻き戻り防止膜を形成しておくと、ラップフィルムの切断端部が平滑な巻き戻り防止膜の表面に付着することで、カートン内へ引き込まれてロール表面に付着してしまうことを防止することができる。
【0015】
本発明で使用する巻き戻り防止膜の形成塗料としては、溶剤で希釈したポリエステル系塗料であって、紫外線硬化型の透明塗料(ワニス)が用いられる
【0016】
料を希釈する溶剤としては、酢酸エチルとイソプロピルアルコールを混合した混合溶剤が用いられる。両者の混合比率は、酢酸エチルが80〜60重量部、イソプロピルアルコールが20〜40重量部で、両者の合計が100重量部となる比率である。酢酸エチルの配合量が多過ぎると、印刷時に塗料が泡立ちやすくなり、イソプロピルアルコールの配合量が多過ぎると、塗料の溶解性が悪くなる。
【0017】
上記混合溶剤による塗料の希釈は、印刷速度によっても相違するが、塗料の濃度で90〜70重量%程度で、粘度ではザーンカップNo.3で18〜20秒となる粘度であることが好ましい。
【0018】
巻き戻り防止膜の形成に際しては、カートンを構成する紙面の凹凸を吸収しやすい肉厚の塗膜を形成するために、塗料にトリアセチレンセルロース等のレベリング剤を添加することが行われる。しかし、本発明によると、泡による表面の荒れのない肉厚の塗膜を形成することができると共に、塗膜がカートンを構成する紙面の凹凸を吸収しやすく、このようなレベリング剤の添加を省略しても、表面が平滑でラップフィルムに対する良好な密着性を発揮する巻き戻り防止膜を形成することができる。
【0019】
本発明により形成した巻き戻り防止膜によれば、ポリ塩化ビニリデンのラップフィルム、ポリエチレンのラップフィルム、ポリメチルペンテンのラップフィルムのいずれに対しても良好な巻き戻り防止効果を得ることができる。
【0020】
本発明のラップフィルムの巻き戻り防止膜の形成方法により巻き戻り防止膜を形成したカートンとカートンブランクの一例を図1及び図2で説明する。図2における一点鎖線は折りラインを示す。
【0021】
図1及び図2において、1は本体前面板、2は本体底面板、3は本体背面板、4は本体側面板である。図2にのみ示される5,6は、それぞれ本体側面板4の内側に宛われる本体内側片である。これらは、ラップフィルムを巻き取ったロール(図示されていない)を収納する本体を構成する。また、7は蓋上面板、8は蓋前面板、9は蓋側面板である。図2のみに示される10は、蓋側面板9の内側に宛われる蓋内側片である。これらは、上記本体に被さる蓋体を構成する。
【0022】
11は蓋前面板8に形成されたミシン目等の切り離しラインで、図1(a)に示されるように、この切り離しライン11に沿って蓋前面板8の下部を切り取ることで、カートンが開封されると同時に、残された蓋前面板8の下縁に切断歯12が露出される。
【0023】
ラップフィルムを使用する場合、カートンを開封し、蓋体を図1(b)に示されるように上方へ引き上げ、収納されているロールからラップフィルムを必要長さだけ引き出す。ラップフィルムをカートンから引き出した後、蓋体を閉じ、蓋前面板8と本体前面板1の間にラップフィルムを挟み付けながら、ラップフィルムに切断歯12を押し付ける。これにより、ラップフィルムを切断して、蓋前面板8より外方へ引き出されているラップフィルムをそのロールから分離することができる。
【0024】
13は巻き戻り防止膜で、上記切断後、ラップフィルムのロール側切断端部が引き込まれてロールに張り付いてしまうのを防止するためのもので、本例においては本体前面板1の上部に設けられている。このような位置に設けておくと、切断時にラップフィルムを蓋前面板8との間に挟み付けた時に、切断歯12よりロール側のラップフィルムを巻き戻り防止膜13へ密着させることができる。
【0025】
本発明に係る巻き戻り防止膜13は、カートンの適当な箇所に付設することで、カートンを手に持つ際の滑り止め用として用いることもできる。この滑り止め用として設ける場合、付設位置としては、引き出したラップフィルムを切断する際に指や手の平が添えられる箇所が好ましい。具体的には、本体底面板2、本体背面板3及び蓋前面板8のそれぞれの長さ方向中央部や、本体背面板3と蓋上面板7間のコーナー部、蓋上面板7と蓋前面板8間のコーナー部、本体背面板3及び蓋上面板7の長さ方向両端部を挙げることができる。また、巻き戻り防止膜13は、図1(b)に示されるような本体前面板1の上部中央部のみだけでなく、本体前面板1の上部全長に亘って設けることもできる。
【実施例】
【0026】
実施例1〜3、比較例1〜3
紫外線硬化型のポリエステル系ワニスを用いたグラビア印刷で巻き戻り防止膜の形成を行った。ポリエステル系ワニスは、酢酸エチルとイソプロピルアルコール(IPA)を混合した混合溶剤で濃度約70重量%に希釈した。酢酸エチルとIPAの配合比率は表1に記載の通りとした。
【0027】
まず、上記混合溶剤によるポリエステル系ワニスの希釈状態を観察し、ポリエステル系ワニスが十分溶解しているか否かを評価した。評価結果を表1に示す。表1の希釈状態の評価の欄における「○」はポリエステル系ワニスが十分溶解している場合を示し、「△」はポリエステル系ワニスの溶解状態がやや不十分な場合を示し、「×」はポリエステル系ワニスの溶解状態が明らかに不十分な場合を示す。
【0028】
次に、希釈状態の評価が「○」だった場合について、希釈したポリエステル系ワニスをグラビア印刷機のインク容器へ供給し、ポリエステル系ワニスの状態を目視観察しながらラップカートンブランクへの印刷を行い、ポリエステル系ワニスの泡発生状態を評価した。評価結果を表1に示す。表1の気泡状態の評価の欄における「○」は印刷開始後1時間経過後も泡の発生がほとんど認められなかった場合を示し、「×」は印刷開始後30分程度で泡の増大が認められた場合を示す。なお、気泡状態の評価が「○」の場合、印刷開始から1時間経過後の印刷で得られた巻き戻り防止膜でもラップフィルムに対する良好な密着性が得られたが、気泡状態の評価が「×」の場合、印刷開始から1時間経過後の印刷で得られた巻き戻り防止膜は表面が荒れており、評価が「○」の場合に比してラップフィルムへの密着力が劣っていた。
【0029】
なお、最初に希釈状態を評価し、希釈状態の評価が「○」とはならなかった場合については、均一な巻き戻り防止膜を得ることが困難であるとして、気泡状態の評価は行わなかった。
【0030】
【表1】
【符号の説明】
【0031】
1 本体前面板
2 本体底面板
3 本体背面板
4 本体側面板
5,6 本体内側片
7 蓋上面板
8 蓋前面板
9 蓋側面板
10 蓋内側片
11 切り離しライン
12 切断歯
13 巻き戻り防止膜
図1
図2