(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、配電線などで生じる高調波障害を抑制するために、配電系統に並列接続して高調波を抑制するアクティブフィルタが開発されている。アクティブフィルタは、インバータ回路と、直流電力を蓄えるコンデンサと、インバータ回路を制御するための制御回路とを備えており、配電線の高調波を打ち消すための高調波を生成して配電線に出力する(後述する
図1参照)。アクティブフィルタを制御する方法として、高調波補償ループで特定の高調波成分の補償を行う「特定高調波補償」と、基本波成分(正相成分)以外を一括で補償する「一括高調波補償」とが知られている。
【0003】
図11は、一括高調波補償を用いて制御を行うアクティブフィルタの制御回路の一例を説明するためのブロック図である。
【0004】
制御回路400は、配電線の交流電圧を検出した電圧信号と、配電線に接続されるアクティブフィルタの出力交流電流を検出した電流信号とを入力され、これに基づいてPWM信号を生成してインバータ回路に出力する。インバータ回路は、制御回路400から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング素子のスイッチングを行うことで、直流電力と交流電力とを変換する。以下では、配電系統が三相の場合について説明し、3つの相をU相、V相およびW相とする。
【0005】
制御回路400は、三相/二相変換部41、回転座標変換部42a、HPF42b,42c、乗算部43a,43b、DCバス電圧制御部44、静止座標変換部42d、二相/三相変換部46、電流制御部47、および、PWM信号生成部48を備えている。
【0006】
三相/二相変換部41は、配電線に設けられた電圧センサより入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。三相/二相変換部41は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電圧信号Vu,Vv,Vwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを生成する。
【0007】
三相/二相変換部41で行われる変換処理は、下記(1)式に示す行列式で表される。
【数1】
【0008】
回転座標変換部42aは、三相/二相変換部41から入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、回転座標系のd軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、電力系統の系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。回転座標変換部42aは、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、図示しない位相検出部が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqに変換する。
【0009】
回転座標変換部42aで行われる変換処理は、下記(2)式に示す行列式で表される。
【数2】
【0010】
HPF42bおよびHPF42cは、ハイパスフィルタであり、それぞれd軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqの直流成分だけを除去する。回転座標変換処理によって、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβの基本波の正相成分が、それぞれd軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqの直流成分に変換されている。HPF42bおよびHPF42cは、直流成分だけを遮断して交流成分を通過させることで、基本波の正相成分を除去しその他の成分(高調波成分や不平衡成分)を通過させる。d軸電圧信号Vdの直流成分を除去した信号およびq軸電圧信号Vqの直流成分を除去した信号が、それぞれ乗算部43a,43bで所定のゲイン(負の値)を乗算され、信号Xdおよび信号Xqとして静止座標変換部42dに入力される。なお、信号XdにはDCバス電圧制御部44から出力されたDCバス電圧補償信号が加算される。
【0011】
静止座標変換部42dは、信号Xdおよび信号Xqを、静止座標系の2つの信号Xα,Xβに変換するものであり、回転座標変換部42aとは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部42dは、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の信号Xd,Xqを、位相θに基づいて、静止座標系の信号Xα,Xβに変換する。
【0012】
静止座標変換部42dで行われる変換処理は、下記(3)式に示す行列式で表される。
【数3】
【0013】
二相/三相変換部46は、静止座標変換部42dから入力される信号Xα,Xβを、3つの電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*に変換するものである。二相/三相変換部46は、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部41とは逆の変換処理を行うものである。
【0014】
二相/三相変換部46で行われる変換処理は、下記(4)式に示す行列式で表される。
【数4】
【0015】
電流制御部47は、アクティブフィルタの出力交流電流を検出した電流信号Iu,Iv,Iwと電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*とのそれぞれの偏差を入力され、電流制御のための指令値信号Yu,Yv,Ywを生成して出力する。PWM信号生成部48は、電流制御部47より入力される指令値信号Yu,Yv,Ywに基づいてPWM信号を生成して出力する。
【0016】
電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*は、配電線の交流電圧から基本波の正相成分を除去した高調波成分および不平衡成分から生成されたものであり、これらの成分を打ち消すための目標値である。アクティブフィルタの出力交流電流が当該目標値になるようにフィードバック制御されるので、配電線の高調波が打ち消されて抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0029】
図1は、本発明に係るアクティブフィルタを説明するためのブロック図である。
【0030】
アクティブフィルタAは、電力系統Bと負荷Lとを接続する配電線の高調波を打ち消すための高調波を生成して配電線に出力することで、高調波を抑制するものである。同図に示すように、アクティブフィルタAは、コンデンサ1、インバータ回路2、フィルタ回路3、制御回路4、電流センサ5、および電圧センサ6を備えている。同図においては、出力電流制御とDCバス電圧制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。また、DCバス電圧を検出する直流電圧センサなどの記載を省略している。また、アクティブフィルタAの構成は、これに限られず、例えば、インバータ回路2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。
【0031】
コンデンサ1は、直流電力を蓄えるものであり、後述するDCバス電圧制御によって、端子間電圧(DCバス電圧)を一定の電圧に保たれている。
【0032】
インバータ回路2は、直流電力と交流電力との変換を行なうものである。インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路4から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電力と交流電力との変換を行う。なお、インバータ回路2はこれに限定されず、例えば、マルチレベルインバータであってもよい。
【0033】
フィルタ回路3は、インバータ回路2のスイッチング素子のスイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えており、アクティブフィルタAから配電線に高周波成分が出力されることを抑制する。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。
【0034】
電流センサ5は、配電線に接続するアクティブフィルタAの出力線を流れる交流電流を検出するものである。検出された電流信号I(Iu,Iv,Iw)は、制御回路4に入力される。電圧センサ6は、配電線における交流電圧を検出するものである。検出された電圧信号V(Vu,Vv,Vw)は、制御回路4に入力される。
【0035】
制御回路4は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路4は、電流センサ5から入力される電流信号I、および、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいて、PWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。制御回路4は、アクティブフィルタAが出力する出力交流電圧の波形を指令するための指令値信号を各センサから入力される検出信号に基づいて生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。制御回路4は、指令値信号の波形を変化させてアクティブフィルタAの出力電圧の波形を変化させることで、出力交流電流を制御している。これにより、制御回路4は、各種フィードバック制御を行っている。
【0036】
図2は、制御回路4の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0037】
制御回路4は、三相/二相変換部41、基本波成分除去部42、乗算部43a,43b、DCバス電圧制御部44、静止座標変換部45、二相/三相変換部46、電流制御部47、およびPWM信号生成部48を備えている。
【0038】
三相/二相変換部41は、
図11に示す三相/二相変換部41と同じものであり、電圧センサ6より入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。三相/二相変換部41で行われる変換処理は、上記(1)式に示す行列式で表される。
【0039】
基本波成分除去部42は、三相/二相変換部41より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の正相成分を除去するものである。基本波成分除去部42は、本出願の発明者らが開発した、回転座標変換処理(dq変換処理)を改良した線形時不変の処理(以下では、「DQ−LTI変換処理」とする。)を利用したノッチフィルタを用いている。
【0040】
DQ−LTI変換処理は、回転座標変換(dq変換)を行ってから所定の処理を行った後に静止座標変換(逆dq変換)を行うのと等価の処理を行うことができ、かつ、線形性および時不変性を有する信号処理である。回転座標変換および静止座標変換は非線形時変の処理なので、これらを用いた制御系の設計に線形制御理論を用いることができないし、システム解析もできない。DQ−LTI変換処理は、この問題を解消するために開発されたものであり、回転座標変換を行ってから所定の処理を行った後に静止座標変換を行うのと等価の処理を、伝達関数の行列を用いた演算処理としたものである。
【0041】
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
【0042】
図3(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。
図3(a)に示す非線形時変の処理を、
図3(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
【0043】
図3(a)に示す回転座標変換は下記(5)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(6)式の行列式で表される。
【数5】
【0044】
したがって、
図3(a)に示す処理を、行列を用いて、
図4(a)のように表すことができる。
図4(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、
図3(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
【0045】
回転座標変換の行列は、下記(7)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
【数6】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数7】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0046】
【数8】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数9】
であることが、確認できる。
【0047】
また、静止座標変換の行列は、下記(8)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
【数10】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数11】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0048】
【数12】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数13】
であることが、確認できる。
【0049】
上記(7)式および(8)式を用いて、
図4(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(9)式のように計算される。
【数14】
【0050】
上記(9)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、
図5に示すブロック線図になる。
図5に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
【数15】
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である。
【0051】
ここで、θ(t)=ω
0tとすると、θ(t)−θ(τ)=ω
0t−ω
0τ=ω
0(t−τ)=θ(t−τ)となるので、
図5に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω
0)が得られる。また、
図5に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω
0)の入出力特性になる。
【0052】
したがって、上記(9)式からさらに計算を進めると、
【数16】
と計算される。
【0053】
これにより、
図4(a)に示す処理を、
図4(b)に示す処理に変換することができる。
図4(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
【0054】
ハイパスフィルタの伝達関数は、時定数をTとすると、F(s)=Ts/(Ts+1)で表される。したがって、
図6に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからハイパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
HPFは、上記(10)式を用いて、下記(11)式のように算出される。
【数17】
【0055】
図7は、行列G
HPFの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
HPFの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、系統電圧の基本波の周波数(以下では、「中心周波数」とする。また、中心周波数に対応する角周波数を「中心角周波数」とする。)が60Hzの場合(すなわち、角周波数ω
0=120πの場合)のものであり、時定数Tを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0056】
同図(a)が示す振幅特性は中心周波数近辺で減衰しており、中心周波数での振幅特性は−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、遮断帯域が小さくなっている。同図(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、振幅特性のピークは−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、通過帯域が小さくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度遅らせて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度進めて通過させる。以下に、三相/二相変換後の2つの信号に対する伝達関数の行列G
HPFに示す処理を、
図8を参照して検討する。
【0057】
図8は、正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。同図(a)は正相分の信号を示しており、同図(b)は逆相分の信号を示している。
【0058】
同図(a)において、電圧信号Vu,Vv,Vwの基本波の正相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、時計回りの順番で並んで角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。前記正相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。
【0059】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が進んでいる。α軸信号に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない(
図7(a)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる(
図7(b)参照)。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図7(c)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。
【0060】
逆相分は相順が正相分とは逆方向になっている成分である。
図8(b)において、電圧信号Vu,Vv,Vwの基本波の逆相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、反時計回りの順番で並んで角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。前記逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、反時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。
【0061】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が遅れている。α軸信号に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。また、β軸信号に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでα軸信号が再現される。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図7(c)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでβ軸信号が再現される。
【0062】
つまり、伝達関数の行列G
HPFは、基本波の逆相分信号を通過させ、正相分信号を遮断する。また、基本波以外の周波数の信号(高調波など)は、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合はそのまま通過し(
図7(a)参照)、(1,2)要素および(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合は減衰するので(
図7(b)、(c)参照)、ほぼそのまま通過する。したがって、伝達関数の行列G
HPFに示す処理は、中心周波数の正相分信号だけを除去するノッチフィルタ処理であることが確認できる。
【0063】
基本波成分除去部42は、三相/二相変換部41より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の正相成分を除去するものである。基本波成分除去部42は、α軸電圧信号Vαから基本波の正相成分を除去した信号Xαと、β軸電圧信号Vβから基本波の正相成分を除去した信号Xβとを出力する。基本波成分除去部42は、上記(11)式に示す、基本波の正相成分を除去するための伝達関数の行列G
HPFに表される処理を行う。つまり、下記(12)式に示す処理を行っている。角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数18】
【0064】
図2に戻って、DCバス電圧制御部44は、DCバス電圧を制御するものである。DCバス電圧制御部44は、図示しない直流電圧センサが検出したコンデンサ1の端子間電圧(DCバス電圧)を目標電圧に制御するためのDCバス電圧補償信号を生成する。静止座標変換部45は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、d軸成分に加算されるべきであるDCバス電圧補償信号を、α軸成分およびβ軸成分に加算できるように変換する。なお、q軸成分を「0」としている。
【0065】
基本波成分除去部42から出力された信号Xαは、乗算部43aで所定のゲインKvを乗算され、静止座標変換部45から出力されたDCバス電圧補償信号のα軸成分を加算されて、信号X’αとして二相/三相変換部46に入力される。また、基本波成分除去部42から出力された信号Xβは、乗算部43bで所定のゲインKvを乗算され、静止座標変換部45から出力されたDCバス電圧補償信号のβ軸成分を加算されて、信号X’βとして二相/三相変換部46に入力される。ゲインKvは、負の値であり、あらかじめ設計されている。なお、乗算部43aと乗算部43bとで、ゲインKvを同じ値としてもよいし、異なる値としてもよい。
【0066】
二相/三相変換部46は、
図11に示す二相/三相変換部46と同じものであり、入力される信号X’α,X’βを、3つの電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*に変換するものである。二相/三相変換部46で行われる変換処理は、上記(4)式に示す行列式においてXα,XβをX’α,X’βとした行列式で表される。
【0067】
電流制御部47は、電流センサ5が検出した電流信号I(Iu,Iv,Iw)と、二相/三相変換部46より出力される電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*とのそれぞれの偏差に基づいて、電流制御のための指令値信号Yu,Yv,Ywを生成するものである。電流制御部47は、電流信号Iu,Iv,Iwをそれぞれの電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*に一致させるためのフィードバック制御を行うためのものであり、例えば、デッドビート制御やP制御(比例制御)を行う。電流制御部47は、生成した指令値信号Yu,Yv,YwをPWM信号生成部48に出力する。
【0068】
PWM信号生成部48は、電流制御部47より入力される指令値信号Yu,Yv,Ywと、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号Pu,Pv,Pwを生成する。三角波比較法では、指令値信号Yu,Yv,Ywとキャリア信号とがそれぞれ比較され、例えば、指令値信号Yuがキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号Puとして生成される。生成されたPWM信号Pu,Pv,Pwおよびこれを反転させた信号が、インバータ回路2に出力される。
【0069】
二相/三相変換部46が出力する電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*は、配電線の交流電圧から基本波の正相成分を除去した高調波成分および不平衡成分より生成されたものであり、これらの成分を打ち消すための電流目標値である。アクティブフィルタAの各相の出力交流電流がそれぞれ当該電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*になるようにフィードバック制御されるので、アクティブフィルタAの出力交流電流は、配電線の高調波および不平衡成分を打ち消すことができる。したがって、配電線の高調波および不平衡成分を抑制することができる。
【0070】
本実施形態において、基本波成分除去部42は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系でフィルタリング処理を行っている。伝達関数の行列G
HPFは、回転座標変換を行ってからハイパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列である。したがって、伝達関数の行列G
HPFで表される処理を行う基本波成分除去部42は、
図11に示す回転座標変換部42a、静止座標変換部42d、およびHPF42b,42cと等価の処理を行っている。
【0071】
基本波成分除去部42で行われる処理は、伝達関数の行列G
HPFで示されるので、線形時不変の処理である。静止座標変換部45は静止座標変換処理を行うが、DCバス電圧制御部44によるDCバス電圧制御系と高調波補償制御系とは応答速度が異なるので、高調波補償制御系を設計する場合にDCバス電圧制御系を無視することができる。したがって、高調波補償制御系を線形時不変システムと考えることができるので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。このように、上記(11)式に示す伝達関数の行列G
HPFを用いることで、回転座標変換を行ってからハイパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う非線形の処理を、線形時不変の多入出力系へ帰着させることができ、これによりシステム解析や制御系設計が容易になる。
【0072】
なお、本実施形態においては、伝達関数の行列の各要素の時定数が同一である場合について説明したが、要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。
【0073】
本実施形態においては、基本波成分除去部42で用いられる角周波数ω
0をあらかじめ設定しておく場合について説明したが、これに限られない。信号処理のサンプリング周期が固定サンプリング周期の場合、系統電圧の基本波の角周波数を周波数検出装置などで検出して、検出された角周波数を角周波数ω
0として用いるようにしてもよい。
【0074】
本実施形態においては、配電線の交流電圧に基づいて電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*を生成する場合について説明したが、これに限られない。配電線の交流電流に基づいて電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*を生成するようにしてもよい。この場合、電圧センサ6に代えて電流センサを配電線に設けて配電線を流れる交流電流を検出し、検出された電流信号Iu’,Iv’,Iw’を電圧信号Vu,Vv,Vwに代えて三相/二相変換部41に入力するようにすればよい。
【0075】
本実施形態においては、信号X’α,X’βを3つの電流目標値Iu
*,Iv
*,Iw
*に変換し、電流センサ5が検出した3つの電流信号Iu,Iv,Iwとの偏差に基づいて制御を行っているが、これに限られない。例えば、3つの電流信号Iu,Iv,Iwを三相/二相変換し、信号X’α,X’β(二相の電流目標値)との偏差に基づいて、αβ軸上で制御を行うようにしてもよい。
【0076】
上記実施形態においては、配電系統が三相の場合について説明したが、単相の場合も本発明を適用することができる。以下に、配電系統が単相の場合について説明する。
【0077】
図9および
図10は、単相の配電線の高調波を補償するアクティブフィルタおよびその制御回路の内部構成を説明するためのブロック図である。
図9において、
図1に係るアクティブフィルタAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。また、
図10において、
図2に係る制御回路4と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0078】
図9に示すアクティブフィルタA’は、単相の電力系統B’と負荷L’とを接続する配電線の高調波を打ち消すための高調波を生成して配電線に出力することで、高調波を抑制するものである。アクティブフィルタA’は、インバータ回路2’が図示しない2組4個のスイッチング素子を備えたPWM制御型の単相インバータを備えている点で、
図1に示すアクティブフィルタAと異なる。また、
図10に示す制御回路4’は、三相/二相変換部41および二相/三相変換部46を備えておらず、位相遅延部49を備えている点で、
図2に示す制御回路4と異なる。
【0079】
位相遅延部49は、電圧センサ6が検出した単相の電圧信号を入力され、当該電圧信号(α軸電圧信号Vα)とα軸電圧信号Vαの位相をπ/2遅らせたβ軸電圧信号Vβとを出力する。位相遅延部49は、入力された信号の位相をπ/2だけ遅らせるヒルベルト変換を行っている。理想的なヒルベルト変換は、下記(13)式に示す伝達関数H(ω)で表される。なお、ω
Sは標本化角周波数であり、jは虚数単位である。つまり、ヒルベルト変換とは、振幅特性は周波数によらず一定で、位相特性は正負の周波数領域でπ/2遅らせるフィルタ処理である。理想的なヒルベルト変換を実現することはできないので、例えばFIR(Finite impulse response)フィルタとして近似的に実現している。
【数19】
【0080】
なお、位相遅延部49はこれに限られず、入力された信号の位相をπ/2遅らせた信号を生成することができればよい。例えば、出願人が出願している特願2011−231445号に記載の複素係数フィルタを用いたり、同じく特願2012−030234号に記載の下記(14)式の伝達関数G
F(s)に示す処理を行うフィルタを用いるようにしてもよい。
G
F(s)=T・ω
0/{(T・s+1)
2+(T・ω
0)
2} ・・・ (14)
ω
0 :系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))
T :時定数
【0081】
基本波成分除去部42は、位相遅延部49より出力されるα軸電圧信号Vα(電圧センサ6が検出した単相の電圧信号)およびβ軸電圧信号Vβ(α軸電圧信号Vαの位相をπ/2遅らせた信号)とを入力され、上記(12)式に示す処理を行って、基本波の正相成分を除去した信号Xα,Xβを生成する。基本波成分除去部42から出力された信号Xαは、乗算部43aで所定のゲインKvを乗算され、静止座標変換部45から出力されたDCバス電圧補償信号のα軸成分を加算されて、電流目標値になる。電流制御部47’は、電流センサ5から入力される電流信号と前記電流目標値との偏差を入力され、電流制御のための指令値信号を生成して出力する。PWM信号生成部48’は、電流制御部47’より入力される指令値信号とキャリア信号とを比較することで、PWM信号を生成する。また、PWM信号生成部48’は、指令値信号を反転させた信号とキャリア信号との比較によりPWM信号を生成する。また、PWM信号生成部48’は、生成された2つのPWM信号を反転させた信号も生成し、これら4つの信号をインバータ回路2’に出力する。
【0082】
上述したように、三相の電圧信号から三相二相変換でα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを生成する代わりに、単相の電圧信号(α軸電圧信号Vα)の位相をπ/2遅らせることでβ軸電圧信号Vβを生成することで、三相の場合の処理方法を適用することができる。また、この場合でも、三相の場合と同様の効果を奏することができる。
【0083】
本発明に係るアクティブフィルタ、および、アクティブフィルタの制御回路は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るアクティブフィルタ、および、アクティブフィルタの制御回路の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。