(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。ただし本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0015】
1つの実施形態に係る培養軟骨組織材料は、生体吸収性高分子多孔体、及びこの生体吸収性高分子多孔体中に培養された「軟骨細胞」を有して構成されている。以下、それぞれについて説明する。なお、説明の中で「軟骨細胞に分化する幹細胞」のことを「軟骨細胞分化幹細胞」と記載することがある。
【0016】
生体吸収性高分子多孔体は細胞の播種時に多孔質体であり、そのときの孔径は180μm〜3500μmであり、平均孔径が350μm〜2000μmの連通した小孔構造を有し、気孔率が60%〜95%とされている。また、生体吸収性高分子多孔体の圧縮強度は0.05MPa〜1.0MPaとなるように構成されている。ここで、生体吸収性高分子多孔体の孔の孔径とは、10μmを下回るような液体のみを通す微小気孔は考慮に入れず、生体吸収性高分子多孔体全体において10μm以上の気孔の80%以上が孔径180μm〜3500μmであることを意味している。なお、「気孔率」は、使用された生体吸収性高分子の原料塊の重量に対する同体積の生体吸収性高分子多孔体の重量から算出された値である。
気孔率が60%よりも小さいと後述するような、軟骨細胞、又は軟骨細胞分化幹細胞の培養をするための効率が低くなり、95%を超えると生体吸収性高分子多孔体自体の強度が低下する。従って、気孔率は80%〜90%であることがさらに好ましい。また、孔径が180μmより小さいと軟骨細胞、又は軟骨細胞分化幹細胞を生体吸収性高分子多孔体内に導入することが困難となり、生体吸収性高分子多孔体の内部まで十分に軟骨細胞、又は軟骨細胞分化幹細胞を播種することができない。一方、孔径が3500μmよりも大きいと生体吸収性高分子多孔体自体の強度が低下してしまう。
また、平均孔径は540μm〜1200μmであることが好ましい。
【0017】
上記圧縮強度について、圧縮強度が0.05MPaよりも小さいと生体吸収性高分子多孔体が、軟骨細胞、又は軟骨細胞分化幹細胞の伸展応力で収縮してしまう。一方、1.0MPaを超える生体吸収性高分子多孔体を作製することは技術的に困難がある。なお、ここで「圧縮強度」とは直径10mm×高さ2mmの円柱状の試験体をクロスヘッドスピード1mm/分で圧縮させた際の圧縮破壊強度を意味する。
【0018】
生体吸収性高分子多孔体の全体としての形状は特に限定されることはないが、移植される損傷部位の形状に見合った形状とすることができる。ただし汎用的な生体吸収性高分子として立方体、直方体、半球、円板等、各種基本的な形状が準備されていてもよい。多孔体の最小部の厚さ(培養の際に上下方向となる大きさ)は好ましくは2.2mm〜100mm、さらに好ましくは3mm〜100mmである。厚さが100mmを超えると細胞を導入したり、長期間培養したりすることが難しくなる。
【0019】
生体吸収性高分子は、一定期間体内でその形態を維持でるものであれば特に限定することなく用いることができる。例えば、従来から用いられているポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、ポリアミノ酸、ポリオルソエステル及びそれらの共重合体中から選択される少なくとも一種を例示することができる。その中でもポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体が、米国食品医薬庁(FDA)から人体に無害な高分子として承認されていること及びその実績の面から最も好ましい。生体吸収性高分子材料の重量平均分子量は5000〜2000000であることが好ましく、より好ましくは10000〜500000である。
【0020】
このような生体吸収性高分子を用いることにより、細胞懸濁液を生体吸収性高分子多孔体11の内部にまで適切に浸透させることができ、安定して無駄なく播種すべき細胞を多孔体中に導入して播種することが可能となる。そしてこれを培養することで培養軟骨組織材料を得ることができる。
【0021】
生体吸収性高分子を多孔体とする方法は特に限定されないが、例えば、有機溶媒に生体吸収性高分子材料が溶解された溶液にその有機溶媒には溶解せず且つ生体吸収性高分子材料を溶解しない液で溶解する、粒径が100μm〜2000μmの粒子状物質を略均一に混合し凍結する。その後に乾燥して有機溶媒を取り除くことによって粒子状物質を含有した孔径が5μm〜50μmの小孔構造を有する生体吸収性高分子多孔体を作製する。そして、この生体吸収性高分子多孔体をミル等で粉砕してから粒子状物質を生体吸収性高分子を溶解しない液で溶解して取り除いた後、篩にかけて100μm〜3000μmの平均粒径の顆粒状の生体吸収性高分子多孔体とし、これらの顆粒状の生体吸収性高分子多孔体物質を所定形状の容器内に入れて加圧し加熱する作製方法を挙げることができる。
【0022】
次に1つの実施形態に係る培養軟骨組織材料の作製方法S10(以下、「作製方法S10」と記載することがある。)について説明する。
【0023】
作製方法S10は、増幅培養工程S11、細胞懸濁液作製工程S12、組織再生材料作製工程S13、軟骨組織培養工程S14を備えている。以下、それぞれについて説明する。
【0024】
作製方法S10に先立って、細胞を採取しておく。採取される細胞は、軟骨細胞、又は軟骨細胞に分化する幹細胞である(「軟骨細胞分化幹細胞」と記載することがある。)。採取される軟骨細胞及び軟骨細胞分化幹細胞は、軟骨細胞であればこれを直接用いればよく、軟骨細胞分化幹細胞であれば、骨髄由来間葉系幹細胞、間葉系細胞及び滑膜細胞などの軟骨細胞に分化し得る又はそれらの修復を促進し得る能力を有する幹細胞であればよい。これには例えば、骨盤(腸骨)や手足の長管骨(大腿骨、脛骨)の骨髄及び/又は骨膜、滑膜、脂肪、歯槽骨等の骨髄、口蓋又は歯槽骨等の骨膜等から採取される細胞を挙げることができる。
これらを採取する方法は通常医科で行われている方法が特に限定されずに使用でき、中でも採取の際、皮膚、筋肉の剥離切開が最小ですむ簡易な手術で行うことが可能な腸骨等の骨髄、口蓋又は歯槽骨等の骨膜等を採取源とすることが好ましい。
【0025】
また、採取される軟骨細胞及び軟骨細胞分化幹細胞は最終的に治療対象者となる本人からの他、生死を問わない他人、又はウシ、ブタ、ウマ、トリ等の動物から採取することもできる。ただし他人や動物から採取する際には免疫拒絶反応が起こることを考慮して、最終工程において液体窒素による急凍結処理による脱細胞化等の脱抗原免疫化処理を行っておくことが必要である。このようなものによれば移植対象である本人への負担を減ずることができる。
【0026】
増幅培養工程S11は、上記のように採取された軟骨細胞又は軟骨細胞分化幹細胞を公知の方法で組織培養用の培養容器を用いて1週間〜2週間増幅培養させる工程である。培養に用いられる培地は、公知の培地を使用できるが、例えば自己血清、ウシ胎児血清を含有した細胞培養用のαMEM培地を好適に使用できる。このとき、間葉系幹細胞の場合には、特定の成長因子(例えばbFGF)を作用させると、高い多分化能力を保ったまま増殖され、軟骨の分化を促進させることができる。
【0027】
細胞懸濁液作製工程S12は、増幅培養工程S11で増幅培養された細胞を含む細胞懸濁液を作製する工程である。すなわち、軟骨分化用培養液に当該幹細胞を懸濁することにより細胞懸濁液を作製する。ここで用いられる培養液、軟骨分化用培養液は公知のものを用いることができる。作製される細胞懸濁液は、細胞密度が5×10
6cell/ml〜1×10
8cell/mlとされていることが好ましい。
【0028】
組織再生材料作製工程S13は、細胞懸濁液作製工程S12で作製した細胞懸濁液を生体吸収性高分子多孔体に導入して細胞を播種し接着させ、組織再生材料を作製する工程である。組織再生材料は、細胞が播種された生体吸収性高分子を意味する。ここで用いられる生体吸収性高分子は上記したものでよい。
組織再生材料作製工程S13は、載置工程S131、細胞懸濁液導入工程S132、及び反転工程S133を有している。
図1、
図2に組織再生材料作製工程S13を説明する図を示した。
【0029】
載置工程S131は、
図1(a)に示したように、保持板1上に生体吸収性高分子多孔体11を載置する工程である。ここで保持板1は接触角が水に対して15°〜90°の樹脂板又はガラス板であることが好ましい。このような保持板1は、従来から細胞を静置培養する容器として用いられている、シャーレ、フラスコ、マルチウェル等に使用されているガラス材料や、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料を板状に加工して用いることができる。これらの材料は疎水性が高いことがあるので必要に応じて、生体吸収性高分子多孔体11を接触させる面を、プラズマ(コロナ放電)処理等の化学的な方法で極性基を導入し親水性を高め、接触角が水に対して15°〜90°となるようにしておくことが好ましい。また、接触させる面にセラミックス皮膜を形成させておいてもよい。接触させる面は平滑であることが好ましいが、高さ数百μmの溝や筋状突起等が設けられていてもよい。
【0030】
載置工程S131により保持板1の面に生体吸収性高分子多孔体11が載置された姿勢となり、次に細胞懸濁液導入工程S132で、
図1(b)に示したように生体吸収性高分子多孔体11に細胞懸濁液作製工程S12で作製した細胞懸濁液12が、例えば滴下や注入等の方法によって導入される。これにより、
図2(a)に示したように、細胞懸濁液12が生体吸収性高分子多孔体11内に浸透するとともに、生体吸収性高分子多孔体11が細胞懸濁液12により全体が満たされた状態となる。このとき、生体吸収性高分子多孔体11の体積に対して細胞懸濁液12の量が多すぎると、後述の反転工程S133が行い難くなったり、培養の効率が低下したりする傾向があるため、生体吸収性高分子多孔体11全体を浸し且つ生体吸収性高分子多孔体11から過剰に漏れ出ない量の細胞懸濁液を導入することが好ましい。
【0031】
次に、反転工程S133により、
図2(a)で示した状態から、保持板1が上、細胞懸濁液12が含まれた生体吸収性高分子多孔体11が下となるように反転させ、
図2(b)に示したような姿勢とする。すなわち、重力方向から見て保持板1が生体吸収性高分子多孔体11の上側となり、且つ保持板1の重さが生体吸収性高分子多孔体11に加わらない状態で気体中で静止させる。この状態で静止を維持し、導入された細胞を生体吸収性高分子多孔体11の孔の内壁に接着させて播種が完了する。これが組織再生材料10である。生体吸収性高分子多孔体に細胞を接着させるために気体中で静止させる時間は、生体吸収性高分子多孔体の材質や播種する細胞の種類により異なるが、一般的には20分〜300分である。
【0032】
また、本実施形態のように生体吸収性高分子多孔体11が下となるような姿勢で組織再生材料を作製する場合における生体吸収性高分子多孔体11の形状は、反転工程S133を経て、重力方向から見て保持板1が上側となり且つ保持板1の重さが生体吸収性高分子多孔体11に加わらない状態で気体中で静止させ細胞を播種することが可能であれば特に限定されない。ただし、そのときの生体吸収性高分子多孔体11の底面積(保持板1に接する面の面積)は、厚さに対して十分な大きさの面積を有する形状であることが好ましい。
具体的には、生体吸収性高分子多孔体の体積1cm
3〜50000cm
3の範囲において、底面積が0.5cm
2〜200cm
2であることが好ましい。0.5cm
2未満又は200cm
2を超えると保持板に吊り下げた状態で播種することが難しくなる。
【0033】
ここで生体吸収性高分子多孔体11が比較的大きな孔を有していれば、細胞懸濁液12を生体吸収性高分子多孔体11の内部にまで適切に浸透させることができる。そして、最終的に細胞懸濁液を上記のように重力方向から見て保持板1が生体吸収性高分子多孔体11の上側となり、且つ保持板1の重さが生体吸収性高分子多孔体11に加わらない状態で気体中に静止させることにより、生体吸収性高分子多孔体11から細胞懸濁液12が漏れないように保持することができる。従って、細胞懸濁液12を安定して無駄なく導入して細胞を生体吸収性高分子多孔体中に播種することが可能となる。
【0034】
軟骨組織培養工程S14は、組織再生材料作製工程S13で作製された組織再生材料10から培養軟骨組織材料を作製する工程である。軟骨組織培養工程S14では、組織再生材料10に播種された細胞が軟骨細胞であればこれを培養して増幅させる。また、組織再生材料10に播種された細胞が軟骨細胞分化幹細胞であれば、これを軟骨細胞に分化して培養することにより軟骨細胞を増幅させる。
従って、培養軟骨組織材料は、上記したように、組織再生材料10から培養の過程を経た後における、生体吸収性高分子と、この生体吸収性高分子中に培養されて含まれる軟骨組織とにより構成されている。すなわち、本実施形態では、培養軟骨組織材料は、上記した組織再生材料についてここに含まれる軟骨細胞、軟骨細胞分化幹細胞から分化した軟骨細胞を培養することにより作製された材料である。
これら軟骨細胞の増幅・分化(培養)は公知の方法により行うことができる。例えば増殖培養液により増幅させることができる。また、増殖させた後に軟骨分化用培養液を用いて分化、培養することが可能である。
【0035】
次に他の実施形態に係る培養軟骨組織材料の作製方法S20(以下、「作製方法S20」と記載することがある。)を説明する。本実施形態のうち、上記した製造方法S10で説明したものと共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0036】
作製方法S20は、作製方法S10の組織再生材料作製工程S13の代わりに組織再生材料作製工程S23を備えている。当該組織再生材料作製工程S23は、仮載置工程S231、細胞懸濁液導入工程S232、挟持工程S233、及び保持工程S234を含んで構成されている。
図3、
図4に組織再生材料作製工程S23を説明する図を示した。
【0037】
仮載置工程S231は、
図3(a)のように撥水性が高い板状部材である仮載置板2に生体吸収性高分子多孔体11を載置する工程である。仮載置板2は接触角が水に対して90°より大きい樹脂板又はガラス板であることが好ましい。
【0038】
細胞懸濁液導入工程S232は、上記した細胞懸濁液導入工程S132と同様、生体吸収性高分子多孔体11に細胞懸濁液12が導入される。これにより、
図3(b)に示したように、細胞懸濁液12が浸透して生体吸収性高分子多孔体11全体に満たされた状態となる。
【0039】
挟持工程S233は、
図4(a)に示したように、細胞懸濁液で満たされた生体吸収性高分子多孔体11を仮載置板2との間に挟むように保持板1の面に生体吸収性高分子多孔体11を接触させる工程である。
【0040】
保持工程S234は、
図4(b)に示したように、生体吸収性高分子多孔体11を接触させた保持板1を引き上げ、生体吸収性高分子多孔体11を保持板1側に保持させ、仮載置板2から離脱させる工程である。これにより、生体吸収性高分子多孔体11は上記1つの実施形態と同様に、重力方向から見て保持板1が生体吸収性高分子多孔体11の上側となり、且つ保持板1の重さが生体吸収性高分子多孔体11に加わらない状態で気体中で静止させる。この状態で静止を維持し、導入された細胞を生体吸収性高分子多孔体11の内壁に接着させて播種が完了する。これが組織再生材料10とされる。
ここで仮載置板2は撥水性のある板、保持板1は親水性のある板により構成されているので、細胞懸濁液で満たされた生体吸収性高分子多孔体の上記したような保持、離脱が適切に行われる。
【0041】
本発明に係る培養軟骨組織材料は、1×10
7cell/cm
3〜1×10
9cell/cm
3の濃度の軟骨細胞と生体吸収性高分子との混合体であって、最小部の厚さが2.2mm〜100mm、軟骨組織と生体吸収性高分子との体積比が7:3〜9.5:0.5、グリコサミノグリカン産生量が単位細胞あたり0.001ng〜0.2ng、I型コラーゲンとII型コラーゲンとの含有比が10:90〜1:99であり、組織乾燥重量1mg当たり0.01mg〜0.65mgのII型コラーゲンを含む条件を備える培養軟骨組織材料である。このような1×10
7cell/cm
3〜1×10
9cell/cm
3の濃度の軟骨細胞は、生体内の軟骨と略同じ濃度であり、従来の軟骨組織再生のための材料と比較して多い。
【0042】
本発明に係る培養軟骨組織材料は、軟骨組織と生体吸収性高分子との体積比が7:3〜9.5:0.5である。軟骨組織から見て体積比が7:3よりも少ないと生体吸収性高分子の影響が大きくでるため、分解産物による影響や細胞数が少ないことから、体内の生着効率が低下する。一方、軟骨組織からみて体積比が9.5:0.5を超えると生体吸収性高分子が目的の形状を維持することができずに収縮した細胞塊を形成し、内部の細胞が壊死してしまう虞がある。
【0043】
本発明に係る培養軟骨組織材料は、グリコサミノグリカン産生量が単位細胞あたり0.001ng〜0.2ng、I型コラーゲンとII型コラーゲンとの含有比が10:90〜1:99であり、組織乾燥重量1mg当たり0.01mg〜0.65mgのII型コラーゲンを含む。これは生体内の軟骨と略同じである。
【0044】
以上のような培養軟骨組織材料により、体積の大きな軟骨組織材料とすることができ、これを患者に移植することによって体積の大きな軟骨欠損を修復することが可能となる。従って軟骨の損傷が大きい場合であっても、この軟骨組織材料を移植することによって短期間に軟骨を再生することができる。すなわち、生体吸収性高分子多孔体の大きさに対応する大きなバルク状の軟骨を作製し、これを損傷部位に移植することにより、大きな体積の軟骨を再生できる。また、バルク状の軟骨を砕いて粉状とし、移植箇所に適用しやすくして移植することも可能である。
【0045】
本発明に係る培養軟骨組織材料は、軟骨として用いる用途の他に、骨に関する疾患や事故により損傷した骨部分に移植し、体内において内軟骨性骨化によって骨の再生を行うために用いてもよい。この場合も生体吸収性高分子は時間とともに消滅する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例について説明する。
<実施例1>
実施例1は次のような過程を経て培養軟骨組織材料D1を作製し、移植工程により移植を行った。
(細胞採取工程及び増幅培養工程による細胞A1の準備)
ヒト滑膜から採取した組織をコラゲナーゼ処理した細胞を20%FBS、αMEM培地で有核細胞数1×10
4cell/mlの濃度で懸濁した後、直径10cmの培養皿へ10ml播種した。37℃にて5%炭酸ガス存在下で増殖培養した。3日目で培地を交換し、非接着細胞(造血系細胞)を除いた。以後3日に1回培地を交換した。bFGFは5日目から3ng/mlで培地に添加した。10日前後でほぼ集密的にまで増殖した。これらの培養皿をトリプシン(0.05%)+EDTA(0.2mM)で5分間インキュベートして、細胞を単離した。細胞数をCoulterカウンター(Z1シングル、コールター社製)で計測し、5000cell/cm
2の密度で細胞を播種した。この操作を繰り返して、ほぼ集密的(コンフルエント)になった二代目の継代培養皿から得た三代目の細胞を用いた。
これにより、ヒト滑膜から採取した間葉系幹細胞である細胞A1を得た。
【0047】
(生体吸収性高分子多孔体B1の準備)
分子量250000のDL−乳酸/グリコール酸共重合体をジオキサンに溶解させた後、粒径500μm前後の塩化ナトリウムと混合して凍結乾燥し、粉砕して脱塩することで得られるパウダー状材料を圧縮加熱成型し、γ線滅菌することによって、平均孔径540μm、気孔率90%、圧縮強度0.2MPa、直径9mmで厚さ3mmの生体吸収性合成高分子からなる円盤ブロック状の多孔質体構造を有するポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ブロックの生体吸収性高分子多孔体B1を得た。
【0048】
(細胞懸濁液作製工程及び組織再生材料作製工程による組織再生材料C1の作製)
上記生体吸収性高分子多孔体B1の円盤状の底面をプラズマ処理ポリスチレン60mm培養皿(水に対する接触角70°)の上面に接触させ載置した。軟骨分化用培養液(αMEM、グルコース4.5mg/ml、10
−7Mデキサメサゾン、50μg/mlのアスコルビン酸−2−リン酸、10ng/mlのTGF−β、6.25μg/mlのインスリン、6.25μg/mlのトランスフェリン、6.25ng/mlのセレン酸、5.33μg/mlのリノレイン酸、1.25mg/mlのウシ血清アルブミン)に2×10
7cell/mlの密度で懸濁させた0.19mlの上記細胞A1を生体吸収性高分子多孔体B1に滴下して導入した。そして、培養皿を反転させ逆さまにした状態で37℃、湿度100%、5%CO
2条件下で100分間材料に細胞を接着させることで生体吸収性高分子多孔体B1に細胞A1を播種し組織再生材料C1を得た。
【0049】
(軟骨組織培養工程による培養軟骨組織材料D1の作製)
その後、軟骨分化細胞液で満たした50ml遠沈管に組織再生材料C1を入れて37℃にて3日間毎に培地を交換しながら4週間培養して培養軟骨組織材料D1を作製した。
得られた組織材料は直径8.8mm、厚さ2.8mmであった。また、病理組織学的に評価し、軟骨基質が多く沈着した成熟した軟骨組織である事を確認した。また、パパイン消化したサンプルをGAG定量キットおよびDNA定量キットで定量し、単位DNAあたりのグリコサミノグリカン量を算定し、別途細胞数とDNA量の関係を計測した結果より単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量を定量した。II型コラーゲン、I型コラーゲンはELISAにより定量し、同様に単位細胞あたりの数値として算出した。また、培養軟骨組織を顕微鏡下で観察して縦×横×高さを計測し、体積を算出した。以上の結果から、単位細胞あたりのグリコサミノグリカンは0.03ngであり、I型コラーゲンとII型コラーゲンの比が1:99であった。組織中の細胞密度は8×10
7cell/cm
3であった。
【0050】
(移植工程による移植及びその評価)
スキッドマウスの背部皮下に培養軟骨組織材料D1を移植し、4週間経過した後に移植体を回収し、病理組織学的に評価した。その結果、移植体は軟骨基質が多く沈着した成熟した軟骨組織であり、実施例1では異所性の軟骨を再生できることが確認できた。
【0051】
<実施例2>
実施例2は次のような過程を経て培養軟骨組織材料D2を作製し、移植工程により移植を行った。
(細胞採取工程及び増幅培養工程による細胞A2の準備)
ウサギ腸骨骨髄液を10%FBS、αMEM培地で有核細胞数1×10
4cell/mlの濃度で懸濁した後、直径10cmの培養皿へ10ml播種した。37℃にて5%炭酸ガス存在下で増殖培養した。3日目で培地を交換し、非接着細胞(造血系細胞)を除いた。以後3日に1回培地を交換した。bFGFは5日目から3ng/mlで培地に添加した。10日前後でほぼ集密的にまで増殖した。これらの培養皿をトリプシン(0.05%)+EDTA(0.2mM)で5分間インキュベートして、細胞を単離した。細胞数を血球計算板で計測し、5000cell/cm
2の密度で細胞を播種した。この操作を繰り返して、ほぼ集密的(コンフルエント)になった二代目の継代培養皿から得た三代目の細胞を用いた。
これにより、ウサギ腸骨骨髄液から採取した間葉系幹細胞である細胞A2を得た。
【0052】
(生体吸収性高分子多孔体B2の準備)
分子量250000のDL−乳酸/グリコール酸共重合体をジオキサンに溶解させた後、粒径500μm前後の塩化ナトリウムと混合して凍結乾燥し、粉砕して脱塩することで得られるパウダー状材料を圧縮加熱成型し、γ線滅菌することによって、孔のサイズが平均600μm、有孔率80%、圧縮強度0.6MPa、φ5.3mm×高さ2.5mmの生体吸収性合成高分子材料からなるブロック状の多孔質構造を有するポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ブロックの生体吸収性高分子多孔体B2を得た。
【0053】
(細胞懸濁液作製工程及び組織再生材料作製工程による組織再生材料C2の作製)
生体吸収性高分子多孔体B2の底面をプラズマ処理ポリスチレン60mm培養皿(水に対する接触角70°)の上面に接触させ載置した。軟骨分化用媒溶液(αMEM、グルコース4.5mg/ml、10
−7Mデキサメサゾン、50μg/mlのアスコルビン酸−2−リン酸、10ng/mlのTGF−β、6.25μg/mlのインスリン、6.25μg/mlのトランスフェリン、6.25ng/mlのセレン酸、5.33μg/mlのリノレイン酸、1.25mg/mlのウシ血清アルブミン)に2×10
7cell/mlの密度で懸濁させた0.15mlの細胞A2を生体吸収性高分子多孔体B2に滴下して導入した。培養皿を反転させ逆さまにした状態で37℃、湿度100%、5%CO
2条件下で100分間材料に細胞を接着させることで生体吸収性高分子多孔体B2に細胞A2を播種し組織再生材料C2を得た。
【0054】
(軟骨組織培養工程による培養軟骨組織材料D2の作製)
その後、軟骨分化細胞液で満たした50ml遠沈管に組織再生材料C2を入れて37℃にて3日間毎に培地を交換しながら4週間培養して培養軟骨組織材料D2を作製した。
得られた組織材料は直径φ5mm、厚さ2.3mmであった。
図5に得られた組織材料の拡大図を示した。
図5(a)が平面視、
図5(b)が断面である。また、組織を10%ホルマリン中性緩衝溶液で固定した後にパラフィン包埋し、ミクロトームにて厚さ5μmに切り出し、断面部をトルイジンブルー染色し、光学顕微鏡下にて観察し、トルイジンブルー染色にて赤紫色に染まるメタクロマジー(異調性)陽性の軟骨基質が多く沈着した成熟した軟骨組織である事を確認した。
図6(a)に顕微鏡下で観察した図を示した。
図6(b)は
図6(a)にVIで示した部分の拡大図である。また、パパイン消化したサンプルをGAG定量キットおよびDNA定量キットで定量し、単位DNAあたりのグリコサミノグリカン量を算定し、別途細胞数とDNA量の関係を計測した結果より単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量を定量した。II型コラーゲン、I型コラーゲンはELISAにより定量し、同様に単位細胞あたりの数値として算出した。また、培養軟骨組織を顕微鏡下で観察して縦×横×高さを計測し、体積を算出した。以上の結果から、単位細胞あたりのグリコサミノグリカンは0.03ngであり、I型コラーゲンとII型コラーゲンの比が1:99であった。組織中の細胞密度は8×10
7cell/cm
3であった。
【0055】
(移植工程による移植及びその評価)
ウサギ大腿骨の膝関節部にφ6×3mmの軟骨欠損を作製したモデルに対し、培養軟骨組織材料D2をはめ込み、移植後4週目の欠損部の治癒過程を病理組織学的に評価した。その結果、膝関節部に連続性のある軟骨組織が再生し、実施例2に係る治療方法は大腿骨の膝関節部位の軟骨の再生治療を可能とする治療方法であることが確認できた。