【実施例】
【0038】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
実施例1は、第1のめっき工程と第2のめっき工程による上層の表面粗度の状態を観察するために実施したものである。
【0039】
<前処理工程>
基板である平均表面粗さRa=15nmの市販の3.5インチアルミニウムサブストレート(95mm-内径25mmφ)を、公知のリン酸ソーダと界面活性剤からなる脱脂液を用いて50℃、2分間脱脂処理した後に、硫酸とリン酸を含有する公知のエッチング液を使用して70℃、2分間エッチング処理した。
【0040】
さらに、硝酸で脱スマット処理を20℃で30秒間行い、公知のジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、1次ジンケート処理した。次いで、硝酸を用いて脱ジンケート処理を20℃で30秒間行った後に、20℃で30秒間、2次ジンケート処理を行った。
【0041】
<めっき条件>
(実施例1−1)
上記基板の表面に下層を形成する第1のめっき工程では、有機硫黄系化合物として2,2’-ジピリジルジスルフィド 1ppmを添加した公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiPめっき浴を用いて、85℃、90分間、めっき膜厚10μmのめっき処理を行った。無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。その結果、表面粗さの値は、2.3nmであった。
【0042】
そして、無電解NiPめっき皮膜の下層の表面を洗浄した後、上層を形成する第2のめっき工程では、有機硫黄系化合物を添加しない公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiPめっき浴を用いて、85℃、20分間、めっき膜厚2μmのめっき処理を行い、基板表面のトータルのめっき膜厚を12μmとした。
【0043】
(比較例1−1)
上記有機硫黄系化合物を添加しない公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiPめっき浴を用いて、85℃、120分間、めっき膜厚12μmのめっき処理を行った。すなわち、有機硫黄系化合物が未含有の酸耐食性を有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行った。
【0044】
(比較例1−2)
上記有機硫黄系化合物を1ppm添加した公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiP浴を用いて、85℃、120分間、めっき膜厚12μmのめっき処理を行った。すなわち、有機硫黄系化合物を含有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行った。
【0045】
(測定結果)
実施例1−1、比較例1−1、比較例1−2における無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。
【0046】
さらに、視覚的な確認のため、めっき皮膜の表面を光学顕微鏡により撮影した。また、酸耐食性は、実施例1−1、比較例1−1、比較例1−2における無電解NiPめっき皮膜を硝酸(濃度30%、温度40℃)に5分間浸漬させ、浸漬後の表面を光学顕微鏡により撮影し、視野内の腐食ピット個数をカウントすることにより、計測した。
【0047】
図1は、実施例1−1と比較例1−1、2の測定結果を示す図である。
実施例1−1では、めっき後の表面粗さRaは2.6nmであり、腐食ピット個数は1250(個/mm
2)であった。比較例1−1では、めっき後の表面粗さRaは14.8nmであり、腐食ピット個数は1125(個/mm
2)であった。そして、比較例1−2では、めっき後の表面粗さRaは2.1nmであり、腐食ピット個数は72875(個/mm
2)であった。
【0048】
比較例1−1の場合、めっき工程において、酸耐食性を有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行ったので、腐食ピット個数は実施例1よりも少ないが、有機硫黄系化合物が未含有であるので、表面粗さRaが実施例1−1よりも粗くなっており、
図1では、めっき皮膜の表面に複数の微細な凹凸を観察することができる。したがって、比較例1−1では、研磨工程に多大なる負荷が必要とされることが予想される。
【0049】
そして、比較例1−2の場合、めっき工程において、有機硫黄系化合物を含有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行ったので、表面粗さRaは実施例1−1よりも小さく、
図1では表面に凹凸を観察することはできない。しかしながら、実施例1−1と比較して腐食ピット個数が極めて多く、酸耐食性が低いことがわかる。したがって、研磨工程で腐食ピット等の欠陥の発生が予測され、また、洗浄工程でNiP皮膜中のNiが過度に溶出してハードディスク用基板のその後の工程に影響を与えることが予測される。
【0050】
これら比較例1−1、2に対して、実施例1は、めっき後の表面粗さRaは小さく、平滑であり、また、腐食ピット個数も少なく、高い酸耐食性を有していることがわかる。
【0051】
(実施例1−2)
複数種類の有機硫黄系化合物を用意し、実施例1−1と同じめっき条件でめっき処理を行い、試料番号1〜6の試料を作製した。下記の表1は、添加した有機硫黄系化合物の名前、構造式、添加量を示した表である。
【0052】
【表1】
【0053】
そして、実施例1−1と同様に、無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。
【0054】
図2は、各試料及び比較例の表面粗度の測定結果を示した図である。
図2の比較例は、上記した比較例1−1である。比較例は、有機硫黄系化合物を添加していないので、表面粗度(Ra)が大きく(14.8nm)、試料番号1〜6の各試料に比べて表面が粗いことが分かる。一方、有機硫黄系化合物を添加している本実施例、すなわち、試料番号1〜6の各試料は、表面粗度(Ra)が小さく、比較例に比べて表面が平滑であることがわかる。そして、その中でも特に、試料番号2、4、5の試料は、表面粗度(Ra)が小さく、平滑化の効果が著しい。これは、有機硫黄系化合物に含まれる窒素が影響していると予想される。
【0055】
(実施例1−3)
上記した実施例1−2で平滑化効果の特に高かった有機硫黄系化合物、ジピリジルジスルフィド、チオ尿素、イソチアゾロンについて、それぞれ添加剤として用いて試料を作製した。そして、平滑性の指標となる、(1)表面粗度、(2)ノジュール高さ、(3)うねりを測定してその効果を確認した。
【0056】
(1)表面粗度の測定
各添加剤の添加量を0ppm〜1.5ppmの範囲で0.25ppmずつ変化させた試料を作製した。そして、実施例1−1と同様に、各試料の無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。下記の表2は、各試料の表面粗度の測定結果を示した表であり、
図3は、表2の結果をグラフ化した図である。
【0057】
【表2】
【0058】
表2及び
図3に示されるように、有機硫黄系化合物を添加していないもの(添加量=0.00ppm)に比べて、添加したもの(0.25ppm〜1.50ppm)は、例えばチオ尿素の場合、表面粗度が最大で1/3程度まで低くなっていることが分かる。
【0059】
(2)ノジュール高さ
実施例として、ジピリジルジスルフィドの添加量を1.0ppmとした試料と、チオ尿素の添加量を0.75ppmとした試料と、イソチアゾロンの添加量を0.5ppmとした試料を作製した。そして、超深度形状測定顕微鏡(キーエンス社製 VK-851)を用いて、ノジュール高さとノジュール径を測定した。比較例として、上記した比較例1−1のノジュール高さとノジュール径を測定した。
【0060】
下記の表3は、各実施例及び比較例のノジュール高さとノジュール径の測定結果を示した表であり、
図4は、測定結果の相関を示した図である。
【0061】
【表3】
【0062】
図4に示すように、有機硫黄系化合物を添加した各実施例は、有機硫黄系化合物を添加しなかった比較例と比べて、ノジュール径に対するノジュール高さが低減されていることが分かる。
【0063】
(3)うねりの測定
各添加剤の添加量を0ppm〜1.5ppmの範囲で0.25ppmずつ変化させた試料を作製した。そして、平坦度測定装置(KLA−Tencor社製Opti flat)を用いて、各試料の表面における波長5mmのうねり(Wa)を測定した。うねり(Wa)は、5mm以上の波長における、高さ(Z)の絶対値平均を算出したものであり、JISB0601に示される算術平均うねり(Wa)を基に算出した。下記の表4は、各試料の添加量に応じた表面のうねりの測定結果を示す表であり、
図5は、表4の結果をグラフ化した図である。
【0064】
【表4】
【0065】
表4及び
図5に示されるように、有機硫黄系化合物を添加していないもの(添加量=0.00ppm)に比べて、添加したもの(0.25ppm〜1.50ppm)の方が、うねりが低減し、より平滑な表面が得られることが分かった。
【0066】
以上より、(1)表面粗度、(2)ノジュール高さ、(3)うねりのすべての指標において、有機硫黄系化合物を添加しないものよりも、窒素を含有する有機硫黄系化合物を添加したものの方が、平滑化効果が高いことが分かった。これにより、研磨工程での負荷を低減でき、ハードディスク用基板の生産性を向上させることができると考えられる。
【0067】
[実施例2]
実施例2は、第1のめっき工程と第2のめっき工程によりめっきをした際に下層めっき表面の酸化膜起因で発生すると考えられるピットの発生状態を観察するために実施したものである。
【0068】
<前処理工程>
平均表面粗さRa=15nmの市販の3.5インチアルミニウムサブストレートを、公知のリン酸ソーダと界面活性剤からなる脱脂液を用いて50℃、2分間脱脂処理した後に、硫酸とリン酸を含有する公知のエッチング液を使用して70℃、2分間エッチング処理をした。
【0069】
次いで、硝酸を用いて脱スマット処理を20℃で30秒間行い、公知のアルカリ性ジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、1次ジンケート処理をした。さらに、硝酸を用いて脱ジンケート処理を20℃で30秒間行った後に、1次ジンケートと同一のジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、2次ジンケート処理を行った。
【0070】
<めっき工程>
(実施例2−1)
有機硫黄系化合物を添加しない無電解Ni-Pめっき液を用いて、第1のめっき工程では85℃、120分間のめっき処理を行い、めっき膜厚が10μmの無電解NiPめっき皮膜の下層を形成した。そして、得られた無電解NiPめっき皮膜の下層の表面を純水で洗浄した後、更に有機硫黄系化合物を添加しない無電解Ni-Pめっき液を用いて、第2のめっき工程で85℃のめっき処理を行い、無電解NiPめっき皮膜の下層の上に、めっき膜厚が4μmの無電解NiPめっき皮膜の上層を形成した。すなわち、無電解NiPめっき皮膜の下層のめっき膜厚を10μm、上層のめっき膜厚を4μmとした。
【0071】
(実施例2−2)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚を5μmとした。
(実施例2−3)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚を6μmとした。
(実施例2−4)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚9μmとした。
【0072】
(比較例2−1)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚を3μmとした。
(比較例2−2)
有機硫黄系化合物を添加しない無電解Ni-Pめっき液を用いて、85℃、120分間のめっき処理を行い、めっき膜厚が10μmの単層の無電解NiPめっき皮膜を形成した。
【0073】
本発明は、無電解NiPめっき膜を2層構造にすることによって発生する上記のピットを解決するための製造方法である。このピットの発生原因は、上記の通り、下層のめっき皮膜表面に形成される酸化膜であり、下層の無電解NiPめっき皮膜の平滑性に依らないため、本実施例においては、模擬的な試験として、下層の無電解NiPめっき皮膜の形成には、平滑化作用を有する添加剤を含有しない無電解NiPめっき浴を用いた。
【0074】
<研磨工程>
上記実施例2−1〜4および比較例2−1、2にて得られた無電解NiPめっき皮膜の表面を、ウレタン製発泡研磨パッドと遊離砥粒を分散させた研磨液を用いて2段階で精密研磨加工することにより鏡面に仕上げた。その際、1段階目の研磨には、加工速度の速いアルミナ砥粒を分散させた研磨液を用い、2段階目の研磨には、更に粒径の小さなコロイダルシリカ砥粒を分散させた研磨液を用いた。これらの研磨方法を用いて、表面から1.6μmを研磨し、水洗、乾燥した。
【0075】
<測定結果>
上記研磨加工後の無電解NiPめっき皮膜の表面におけるピット個数の計測には、磁気ディスク表面検査装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、RS1390)を用いて、3.5インチハードディスク用基板の片側の基板表面における半径13.5mm〜47.2mmまでの全領域に存在する幅0.2μm以上のピットの個数を計測した。そして、表5および
図6に、その測定結果を示した。
【0076】
【表5】
【0077】
上層のめっき膜厚が3μmである比較例2−1の場合は、ピット個数が5.2(個/面)であり、上層めっき膜厚を4μm以上とした場合に比べて多くなっている。したがって、ハードディスクドライブに組み込んだ際の、書き込みエラー箇所が増加するものと考えられる。
【0078】
そして、めっき膜厚が10μmの単層である比較例2−2の場合、ピット個数が2.0(個/面)となっている。比較例2−2は、下地界面からの膜厚が厚い(10μm)ので、酸化膜に起因する欠陥以外が発生原因と考えられる。原因はこれに限定されないが、例えばめっき液中のコンタミに起因するものであると推測される。比較例2−2と実施例2−1〜4のピット個数を比較すると、ほぼ同じとなっている。したがって、実施例2−1〜4のピットは、下層表面に発生する酸化膜以外が発生原因と考えられる。以上のことから、無電解NiPめっき皮膜を上層と下層の2段階構造とした場合に発生する酸化膜起因のピットを抑制することができており、上層のめっき膜厚を4μm以上の厚さとすることによって、ピットの発生を抑制できたことがわかる。