特許第5890235号(P5890235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890235
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】ハードディスク用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20160308BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   G11B5/84 A
   G11B5/73
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-89682(P2012-89682)
(22)【出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-218764(P2013-218764A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100140464
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 匠
(72)【発明者】
【氏名】石田 元
(72)【発明者】
【氏名】迎 展彰
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆広
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−128020(JP,A)
【文献】 特開2011−134419(JP,A)
【文献】 特開2004−335068(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/046712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62−5/858
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解NiPめっき皮膜を有するハードディスク用基板の製造方法であって、
平滑化作用を有する添加剤を含有する第1の無電解NiPめっき浴に基板を浸漬して該基板の表面に、該表面よりも平均表面粗さが小さい前記無電解NiPめっき皮膜の下層を形成する第1のめっき工程と、
該第1のめっき工程により前記無電解NiPめっき皮膜の下層が形成された基板を、第2の無電解NiPめっき浴に浸漬して酸耐食性を有するめっき膜厚が4μm以上の前記無電解NiPめっき皮膜の上層を形成する第2のめっき工程と、を含むことを特徴とするハードディスク用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク用基板の製造方法として、機械加工されたアルミニウム又はアルミニウム合金の基板上に無電解NiPめっきを施して、基板表面にめっき皮膜を形成し、磁性皮膜の下地とすることが行われている(特許文献1を参照)。
【0003】
ここで、ハードディスク記録装置の高記録密度化のためには、記録/再生ヘッドの浮上高さをなるべく低くすることが必要である。したがって、無電解NiPめっきによるめっき皮膜を形成した後に、遊離砥粒を使用した研磨によりそのめっき皮膜の表面を平滑化する研磨工程が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-236476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無電解NiPめっきによるめっき皮膜の表面は非常に粗く、研磨工程に多大なる負荷が掛かっており、また、研磨代も多いことから、めっき皮膜の厚みも厚くしなければならず、生産性の悪化および環境負荷の増大を招いている。
【0006】
このような観点から、無電解NiPめっきによって形成されるめっき皮膜の表面をなるべく平滑なものとし、研磨工程による負荷を軽減することが望まれている。例えば、プリント基板等にめっき皮膜を形成する方法では、無電解めっき浴に有機硫黄系化合物等の光沢剤を添加することによって、平滑な表面を有するめっき皮膜を得ることが行われている。
【0007】
ところが、一般的に硫黄を含有するめっき皮膜は、酸耐食性が低く、特に、研磨工程において強酸の研磨剤を使用するハードディスク用基板の製造方法においては、めっき皮膜の表面に腐食ピット等の欠陥が発生するおそれがあり、プリント基板等の技術をそのまま適用することはできない。また、さらには、めっき皮膜の酸耐食性が悪いと、強酸の洗浄時にも、めっき皮膜中のNiが優先的に過度に溶出してしまい、ハードディスク用基板のその後の工程に不具合を生じさせるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、無電解NiPめっきにより平滑なめっき皮膜の表面を得ることができ、酸耐食性も悪化することがないハードディスク用基板を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明のハードディスク用基板の製造方法は、無電解NiPめっき皮膜を有するハードディスク用基板の製造方法であって、平滑化作用を有する添加剤を含有する第1の無電解NiPめっき浴に基板を浸漬して該基板の表面に、該表面よりも平均表面粗さが小さい前記無電解NiPめっき皮膜の下層を形成する第1のめっき工程と、該第1のめっき工程により前記無電解NiPめっき皮膜の下層が形成された基板を、第2の無電解NiPめっき浴に浸漬して酸耐食性を有するめっき膜厚が4μm以上の前記無電解NiPめっき皮膜の上層を形成する第2のめっき工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記したハードディスク用基板の製造方法によれば、有機硫黄系化合物等の平滑化作用を有する添加剤を含有する第1の無電解NiPめっき浴に基板を浸漬して基板の表面に無電解NiPめっき皮膜の下層を形成するので、下層の表面粗さを小さくすることができ、下層の表面を平滑化することができる。
【0011】
そして、その無電解NiPめっき皮膜の下層が形成された基板を、酸耐食性を有する第2の無電解NiPめっき浴に浸漬して、下層の平滑化された表面に無電解NiPめっき皮膜の上層を形成するので、上層の表面粗さを小さくすることができ、上層の表面を平滑化することができる。そして、酸耐食性を有する上層によって下層の表面を被覆するため、研磨工程や洗浄工程における酸耐食性を悪化させることがない。
【0012】
したがって、研磨工程の負荷を低減でき、ハードディスク用基板の生産性を向上させることができる。そして、研磨工程から排出される研磨廃液を低減でき、また、研磨代を少なくすることができ、めっき皮膜の膜厚も薄くできることから、環境負荷の低減も可能となる。
【0013】
そして、上記した本発明のハードディスク用基板の製造方法によれば、無電解NiPめっき皮膜の上層のめっき膜厚を4μm以上とするので、研磨工程によって、無電解NiPめっき皮膜の上層に凹み欠陥であるピットが生じるのを抑制することができる。したがって、平滑なハードディスク用基板を得ることができ、無電解NiPめっき皮膜の上層に形成されたピットを起点に下層めっき皮膜の腐蝕が発生して酸耐食性の悪化するのを未然に防ぐことができる。また、本発明によれば、無電解NiPめっき皮膜の上層に形成されるピットの数を減らすことができるので、ハードディスク記録装置としたときに、記録容量の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1−1と比較例1−1、2の測定結果を示す図。
図2】実施例1−2の測定結果を示した図。
図3】実施例1−3の表面粗度の測定結果を示した図。
図4】実施例1−3のノジュールの径と高さの測定結果を示す図。
図5】実施例1−3のうねりの測定結果を示す図。
図6】実施例2−1〜実施例2−4と比較例2−1、2におけるピット個数の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施の形態について詳細に説明する。
ハードディスク用基板の製造方法は、アルミブランク材を研削して基板を形成する基板形成工程と、基板に無電解NiPめっきを施して基板表面に無電解NiPめっき皮膜を形成するめっき工程と、無電解NiPめっき皮膜が形成された基板表面を研磨し鏡面に仕上げる研磨工程と、研磨されためっき皮膜を洗浄する洗浄工程と、を含む。
【0016】
上記各工程の内、めっき工程は、(1)脱脂工程、(2)水洗、(3)エッチング処理、(4)水洗、(5)脱スマット処理、(6)水洗、(7)1次ジンケート処理、(8)水洗、(9)脱ジンケート処理、(10)水洗、(11)2次ジンケート処理、(12)水洗、(13)無電解NiPめっき、(14)水洗、(15)乾燥、(16)焼鈍を行うことができ、上記(13)無電解NiPめっきが第1のめっき工程と第2のめっき工程の2段階に分けて行うことができる。
【0017】
第1のめっき工程では、平滑化作用を有する添加剤を含有する第1の無電解NiPめっき浴に基板を浸漬して、基板表面に無電解NiPめっき皮膜の下層を形成する。この処理により、アルミブランク材の平均表面粗さよりも小さい平均表面粗さを有する無電解NiPめっき皮膜を形成することができる。なお、平滑化作用を有する添加剤には有機硫黄系化合物を用いることができる。
【0018】
この平滑化作用を有する添加剤は、凹凸を有するアルミブランク材の凸部分に堆積し、無電解NiPめっきの成長を他の部分よりも遅らせることで、アルミブランク材の凹凸の影響を低減する作用により、平滑なめっき皮膜を得ることができると考えられる。
【0019】
第2のめっき工程では、第1のめっき工程により無電解NiPめっき皮膜の下層が形成された基板を、酸耐食性を有する第2の無電解NiPめっき浴に浸漬して、酸耐食性を有する無電解NiPめっき皮膜の上層を形成する。無電解NiPめっき皮膜の上層のめっき膜厚は、4μm以上とする。酸耐食性を有する無電解NiPめっき皮膜を形成するためには、有機硫黄系化合物を添加しないめっき浴を用いることができる。
【0020】
なお、酸耐食性を有するとは、従来使用されている無電解NiPめっき皮膜程度の酸耐食性を有していればよい。このためには有機硫黄系化合物をめっき浴に積極的に添加しないことが好ましいが、コンタミ程度で酸耐食性に影響を及ぼさない程度の混入であれば許容される。
【0021】
従来の無電解NiPめっきは、1回のめっき工程で単層の無電解NiPめっき皮膜を形成していたので、めっき膜厚が例えば10〜15μm程度であり、本実施の形態における無電解NiPめっき皮膜の上層と比較して膜厚が厚い。したがって、めっき析出初期にピンホールが発生しても、その後のめっき皮膜の成長により塞がれて、ピットとしてめっき皮膜表面に現れる可能性は低い。また、ボイドとしてめっき膜中に残留しても、アルミブランク材との界面の付近に存在しているので、研磨によりピットとしてめっき皮膜表面に現れる可能性は低い。
【0022】
一方、本実施の形態における無電解NiPめっきは、第1のめっき工程により下層を形成し、第2のめっき工程により上層を形成して、無電解NiPめっき皮膜を下層と上層の2層構造としている。
【0023】
しかし、上記の2層構造とする製造方法においては、下層を形成する第1のめっき工程から上層を形成する第2のめっき工程へ移行する間に、下層のめっき皮膜表面に酸化膜が形成され、上層の無電解NiPめっき時に酸化膜が形成された不活性な箇所の析出が遅れ、ピンホールやボイドが発生し、研磨後の基板表面にピット欠陥が多発する可能性がある。
【0024】
したがって、下層のめっき皮膜表面に酸化膜などの不活性な箇所が存在することによって、上層のめっき析出初期に下層との界面付近にピンホールやボイドが発生した場合に、ピンホールは、ピットとして上層のめっき皮膜表面に現れ、ボイドは、研磨によりピットとして上層のめっき皮膜表面に現れるおそれがある。特に、無電解NiPめっき皮膜の上層のめっき膜厚が4μm未満の場合には、無電解NiPめっき皮膜の上層にピットが多数発生し、そのピットを起点に下層めっき皮膜の腐蝕が発生して酸耐食性の悪化するおそれや、磁気記録層を形成した際にデータが記録できない箇所が増加して、ハードディスク記録装置としての記録容量が低下するおそれがある。
【0025】
そこで、本実施の形態では、無電解NiPめっき皮膜の上層のめっき膜厚を4μm以上の厚さとし、上層のめっき析出初期に下層との界面付近に発生した酸化膜起因のピンホールやボイドが上層のめっき皮膜の形成後や研磨により、ピットとして上層のめっき皮膜表面に現れるのを抑制している。したがって、平滑なハードディスク用基板を得ることができ、無電解NiPめっき皮膜の上層のピットを起点に下層めっき皮膜の腐蝕が発生して酸耐食性の悪化するのを未然に防ぐことができる。また、ハードディスク記録装置としたときに、記録容量の低下を防ぐことができる。
【0026】
第1及び第2の無電解NiPめっき浴には、ニッケルイオンの供給源として水溶性のニッケル塩が用いる。この水溶性のニッケル塩としては、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、などを用いることができる。めっき浴中における濃度としては、金属ニッケルとして1〜30g/Lであることが好ましい。
【0027】
錯化剤としては、ジカルボン酸またはそのアルカリ塩、例えば酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、グリコール酸、グルコン酸、シュウ酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、またはこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩を2種類以上用い、かつそのうち少なくとも1種類はオキシジカルボン酸であることが好ましい。錯化剤の濃度としては、0.01〜2.0mol/L であることが好ましい。
【0028】
還元剤としては、次亜燐酸、または次亜燐酸ナトリウムや次亜燐酸カリウムなどの次亜燐酸塩を用いることが好ましい。還元剤の濃度としては、5〜80g/L であることが好ましい。
【0029】
第1のめっき工程では、下層となる無電解NiPめっき皮膜の表面を平滑にするため、平滑化作用を有する添加剤として、有機硫黄系化合物等の光沢剤を添加した第1の無電解NiPめっき浴を使用して無電解NiPめっきを行うことが好ましい。この処理により、アルミブランク材の平均表面粗さよりも小さい平均表面粗さを有する無電解NiPめっき皮膜を形成することができる。
【0030】
有機硫黄化合物としては、構造式に硫黄原子を含有すれば良く、例えば、チオ尿素、チオ硫酸ナトリウム、スルホン酸塩、イソチアゾロン系化合物、ラウリル硫酸ナトリウム、2,2’-ジピリジルジスルフィド、2,2’-ジチオジ安息香酸、ビスジスルフィドなどを用いることができ、これらは1種類を単独で又は2種類以上を併用して使用することができる。より好ましくは、有機硫黄系化合物には、窒素が含まれているものが良く、チオ尿素、イソチアゾロン系化合物、2,2’-ジピリジルジスルフィド、ビスジスルフィドが挙げられる。有機硫黄系化合物の添加量は、0.01〜20ppm、特に0.1〜5ppm であることが好ましく、少なすぎるとめっき皮膜の平滑効果が無く、多すぎてもそれ以上の効果が認められない。
【0031】
このような有機硫黄系化合物の光沢剤はCd、As、Tl等を含む光沢剤に比べて毒性が低く、実際の使用に適する場合が多い。
【0032】
第1の無電解NiPめっき浴には、さらに酸、アルカリ、塩などのpH調整剤、貯蔵中にめっき浴のカビ発生を防止するための防腐剤、pHの変動を抑制する緩衝剤、ピンホール発生を抑制するための界面活性剤、めっき浴の分解を抑制するための安定剤を含有させることが好ましい。
【0033】
第2のめっき工程では、有機硫黄系化合物を含有しない第2の無電解NiPめっき浴を使用して、無電解NiPめっきを行うことが好ましい。第2のめっき工程で形成される無電解NiPめっき皮膜の上層のめっき膜厚は、4μm以上とされる。第2の無電解NiPめっき浴は、ハードディスク用基板の製造において通常用いられているものであり、めっき工程後の研磨工程における酸耐食性を有している。更に、強酸の洗浄工程における酸耐食性をも有している。
【0034】
上記したハードディスク用基板の製造方法によれば、有機硫黄系化合物等の平滑化作用を有する添加剤を含有する第1の無電解NiPめっき浴に基板を浸漬して基板の表面に無電解NiPめっき皮膜の下層を形成するので、下層の表面粗さを小さくすることができ、下層の表面を平滑化することができる。
【0035】
そして、その無電解NiPめっき皮膜の下層が形成された基板を、酸耐食性を有する第2の無電解NiPめっき浴に浸漬して、下層の平滑化された表面に無電解NiPめっき皮膜の上層を形成するので、上層の表面粗さを小さくすることができ、上層の表面を平滑化することができる。そして、酸耐食性を有する上層によって下層の表面を被覆するため、研磨工程や洗浄工程における酸耐食性を悪化させることがない。
【0036】
したがって、平滑なハードディスク用基板を得ることができ、研磨工程の負荷を低減でき、ハードディスク用基板の生産性を向上させることができる。そして、研磨工程から排出される研磨廃液を低減でき、また、研磨代を少なくすることができ、めっき皮膜の膜厚も薄くできることから、環境負荷の低減も可能となる。
【0037】
そして、上記したハードディスク用基板の製造方法によれば、無電解NiPめっき皮膜の上層のめっき膜厚を4μm以上の厚さとしている。そのため、上層のめっき析出初期に下層との界面付近に発生したピンホールやボイドが、上層のめっき皮膜形成後や研磨により、ピットとして上層のめっき皮膜表面に現れるのを抑制することができる。したがって、平滑なハードディスク用基板を得ることができ、ピットから腐蝕が発生して酸耐食性の悪化するのを未然に防ぐことができる。また、ハードディスク記録装置としたときに、記録容量の低下を防ぐことができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
実施例1は、第1のめっき工程と第2のめっき工程による上層の表面粗度の状態を観察するために実施したものである。
【0039】
<前処理工程>
基板である平均表面粗さRa=15nmの市販の3.5インチアルミニウムサブストレート(95mm-内径25mmφ)を、公知のリン酸ソーダと界面活性剤からなる脱脂液を用いて50℃、2分間脱脂処理した後に、硫酸とリン酸を含有する公知のエッチング液を使用して70℃、2分間エッチング処理した。
【0040】
さらに、硝酸で脱スマット処理を20℃で30秒間行い、公知のジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、1次ジンケート処理した。次いで、硝酸を用いて脱ジンケート処理を20℃で30秒間行った後に、20℃で30秒間、2次ジンケート処理を行った。
【0041】
<めっき条件>
(実施例1−1)
上記基板の表面に下層を形成する第1のめっき工程では、有機硫黄系化合物として2,2’-ジピリジルジスルフィド 1ppmを添加した公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiPめっき浴を用いて、85℃、90分間、めっき膜厚10μmのめっき処理を行った。無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。その結果、表面粗さの値は、2.3nmであった。
【0042】
そして、無電解NiPめっき皮膜の下層の表面を洗浄した後、上層を形成する第2のめっき工程では、有機硫黄系化合物を添加しない公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiPめっき浴を用いて、85℃、20分間、めっき膜厚2μmのめっき処理を行い、基板表面のトータルのめっき膜厚を12μmとした。
【0043】
(比較例1−1)
上記有機硫黄系化合物を添加しない公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiPめっき浴を用いて、85℃、120分間、めっき膜厚12μmのめっき処理を行った。すなわち、有機硫黄系化合物が未含有の酸耐食性を有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行った。
【0044】
(比較例1−2)
上記有機硫黄系化合物を1ppm添加した公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解NiP浴を用いて、85℃、120分間、めっき膜厚12μmのめっき処理を行った。すなわち、有機硫黄系化合物を含有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行った。
【0045】
(測定結果)
実施例1−1、比較例1−1、比較例1−2における無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。
【0046】
さらに、視覚的な確認のため、めっき皮膜の表面を光学顕微鏡により撮影した。また、酸耐食性は、実施例1−1、比較例1−1、比較例1−2における無電解NiPめっき皮膜を硝酸(濃度30%、温度40℃)に5分間浸漬させ、浸漬後の表面を光学顕微鏡により撮影し、視野内の腐食ピット個数をカウントすることにより、計測した。
【0047】
図1は、実施例1−1と比較例1−1、2の測定結果を示す図である。
実施例1−1では、めっき後の表面粗さRaは2.6nmであり、腐食ピット個数は1250(個/mm)であった。比較例1−1では、めっき後の表面粗さRaは14.8nmであり、腐食ピット個数は1125(個/mm)であった。そして、比較例1−2では、めっき後の表面粗さRaは2.1nmであり、腐食ピット個数は72875(個/mm)であった。
【0048】
比較例1−1の場合、めっき工程において、酸耐食性を有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行ったので、腐食ピット個数は実施例1よりも少ないが、有機硫黄系化合物が未含有であるので、表面粗さRaが実施例1−1よりも粗くなっており、図1では、めっき皮膜の表面に複数の微細な凹凸を観察することができる。したがって、比較例1−1では、研磨工程に多大なる負荷が必要とされることが予想される。
【0049】
そして、比較例1−2の場合、めっき工程において、有機硫黄系化合物を含有する無電解NiPめっき浴を用いてめっき処理を行ったので、表面粗さRaは実施例1−1よりも小さく、図1では表面に凹凸を観察することはできない。しかしながら、実施例1−1と比較して腐食ピット個数が極めて多く、酸耐食性が低いことがわかる。したがって、研磨工程で腐食ピット等の欠陥の発生が予測され、また、洗浄工程でNiP皮膜中のNiが過度に溶出してハードディスク用基板のその後の工程に影響を与えることが予測される。
【0050】
これら比較例1−1、2に対して、実施例1は、めっき後の表面粗さRaは小さく、平滑であり、また、腐食ピット個数も少なく、高い酸耐食性を有していることがわかる。
【0051】
(実施例1−2)
複数種類の有機硫黄系化合物を用意し、実施例1−1と同じめっき条件でめっき処理を行い、試料番号1〜6の試料を作製した。下記の表1は、添加した有機硫黄系化合物の名前、構造式、添加量を示した表である。
【0052】
【表1】
【0053】
そして、実施例1−1と同様に、無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。
【0054】
図2は、各試料及び比較例の表面粗度の測定結果を示した図である。
図2の比較例は、上記した比較例1−1である。比較例は、有機硫黄系化合物を添加していないので、表面粗度(Ra)が大きく(14.8nm)、試料番号1〜6の各試料に比べて表面が粗いことが分かる。一方、有機硫黄系化合物を添加している本実施例、すなわち、試料番号1〜6の各試料は、表面粗度(Ra)が小さく、比較例に比べて表面が平滑であることがわかる。そして、その中でも特に、試料番号2、4、5の試料は、表面粗度(Ra)が小さく、平滑化の効果が著しい。これは、有機硫黄系化合物に含まれる窒素が影響していると予想される。
【0055】
(実施例1−3)
上記した実施例1−2で平滑化効果の特に高かった有機硫黄系化合物、ジピリジルジスルフィド、チオ尿素、イソチアゾロンについて、それぞれ添加剤として用いて試料を作製した。そして、平滑性の指標となる、(1)表面粗度、(2)ノジュール高さ、(3)うねりを測定してその効果を確認した。
【0056】
(1)表面粗度の測定
各添加剤の添加量を0ppm〜1.5ppmの範囲で0.25ppmずつ変化させた試料を作製した。そして、実施例1−1と同様に、各試料の無電解NiPめっき皮膜の表面粗さをVeeco社製 原子間力顕微鏡(AFM)により測定した(粗さは、10μm角による平均粗さRaとして示す)。下記の表2は、各試料の表面粗度の測定結果を示した表であり、図3は、表2の結果をグラフ化した図である。
【0057】
【表2】
【0058】
表2及び図3に示されるように、有機硫黄系化合物を添加していないもの(添加量=0.00ppm)に比べて、添加したもの(0.25ppm〜1.50ppm)は、例えばチオ尿素の場合、表面粗度が最大で1/3程度まで低くなっていることが分かる。
【0059】
(2)ノジュール高さ
実施例として、ジピリジルジスルフィドの添加量を1.0ppmとした試料と、チオ尿素の添加量を0.75ppmとした試料と、イソチアゾロンの添加量を0.5ppmとした試料を作製した。そして、超深度形状測定顕微鏡(キーエンス社製 VK-851)を用いて、ノジュール高さとノジュール径を測定した。比較例として、上記した比較例1−1のノジュール高さとノジュール径を測定した。
【0060】
下記の表3は、各実施例及び比較例のノジュール高さとノジュール径の測定結果を示した表であり、図4は、測定結果の相関を示した図である。
【0061】
【表3】
【0062】
図4に示すように、有機硫黄系化合物を添加した各実施例は、有機硫黄系化合物を添加しなかった比較例と比べて、ノジュール径に対するノジュール高さが低減されていることが分かる。
【0063】
(3)うねりの測定
各添加剤の添加量を0ppm〜1.5ppmの範囲で0.25ppmずつ変化させた試料を作製した。そして、平坦度測定装置(KLA−Tencor社製Opti flat)を用いて、各試料の表面における波長5mmのうねり(Wa)を測定した。うねり(Wa)は、5mm以上の波長における、高さ(Z)の絶対値平均を算出したものであり、JISB0601に示される算術平均うねり(Wa)を基に算出した。下記の表4は、各試料の添加量に応じた表面のうねりの測定結果を示す表であり、図5は、表4の結果をグラフ化した図である。
【0064】
【表4】
【0065】
表4及び図5に示されるように、有機硫黄系化合物を添加していないもの(添加量=0.00ppm)に比べて、添加したもの(0.25ppm〜1.50ppm)の方が、うねりが低減し、より平滑な表面が得られることが分かった。
【0066】
以上より、(1)表面粗度、(2)ノジュール高さ、(3)うねりのすべての指標において、有機硫黄系化合物を添加しないものよりも、窒素を含有する有機硫黄系化合物を添加したものの方が、平滑化効果が高いことが分かった。これにより、研磨工程での負荷を低減でき、ハードディスク用基板の生産性を向上させることができると考えられる。
【0067】
[実施例2]
実施例2は、第1のめっき工程と第2のめっき工程によりめっきをした際に下層めっき表面の酸化膜起因で発生すると考えられるピットの発生状態を観察するために実施したものである。
【0068】
<前処理工程>
平均表面粗さRa=15nmの市販の3.5インチアルミニウムサブストレートを、公知のリン酸ソーダと界面活性剤からなる脱脂液を用いて50℃、2分間脱脂処理した後に、硫酸とリン酸を含有する公知のエッチング液を使用して70℃、2分間エッチング処理をした。
【0069】
次いで、硝酸を用いて脱スマット処理を20℃で30秒間行い、公知のアルカリ性ジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、1次ジンケート処理をした。さらに、硝酸を用いて脱ジンケート処理を20℃で30秒間行った後に、1次ジンケートと同一のジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、2次ジンケート処理を行った。
【0070】
<めっき工程>
(実施例2−1)
有機硫黄系化合物を添加しない無電解Ni-Pめっき液を用いて、第1のめっき工程では85℃、120分間のめっき処理を行い、めっき膜厚が10μmの無電解NiPめっき皮膜の下層を形成した。そして、得られた無電解NiPめっき皮膜の下層の表面を純水で洗浄した後、更に有機硫黄系化合物を添加しない無電解Ni-Pめっき液を用いて、第2のめっき工程で85℃のめっき処理を行い、無電解NiPめっき皮膜の下層の上に、めっき膜厚が4μmの無電解NiPめっき皮膜の上層を形成した。すなわち、無電解NiPめっき皮膜の下層のめっき膜厚を10μm、上層のめっき膜厚を4μmとした。
【0071】
(実施例2−2)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚を5μmとした。
(実施例2−3)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚を6μmとした。
(実施例2−4)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚9μmとした。
【0072】
(比較例2−1)
実施例2−1と同様の方法でめっき処理を行い、上層のめっき膜厚を3μmとした。
(比較例2−2)
有機硫黄系化合物を添加しない無電解Ni-Pめっき液を用いて、85℃、120分間のめっき処理を行い、めっき膜厚が10μmの単層の無電解NiPめっき皮膜を形成した。
【0073】
本発明は、無電解NiPめっき膜を2層構造にすることによって発生する上記のピットを解決するための製造方法である。このピットの発生原因は、上記の通り、下層のめっき皮膜表面に形成される酸化膜であり、下層の無電解NiPめっき皮膜の平滑性に依らないため、本実施例においては、模擬的な試験として、下層の無電解NiPめっき皮膜の形成には、平滑化作用を有する添加剤を含有しない無電解NiPめっき浴を用いた。
【0074】
<研磨工程>
上記実施例2−1〜4および比較例2−1、2にて得られた無電解NiPめっき皮膜の表面を、ウレタン製発泡研磨パッドと遊離砥粒を分散させた研磨液を用いて2段階で精密研磨加工することにより鏡面に仕上げた。その際、1段階目の研磨には、加工速度の速いアルミナ砥粒を分散させた研磨液を用い、2段階目の研磨には、更に粒径の小さなコロイダルシリカ砥粒を分散させた研磨液を用いた。これらの研磨方法を用いて、表面から1.6μmを研磨し、水洗、乾燥した。
【0075】
<測定結果>
上記研磨加工後の無電解NiPめっき皮膜の表面におけるピット個数の計測には、磁気ディスク表面検査装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、RS1390)を用いて、3.5インチハードディスク用基板の片側の基板表面における半径13.5mm〜47.2mmまでの全領域に存在する幅0.2μm以上のピットの個数を計測した。そして、表5および図6に、その測定結果を示した。
【0076】
【表5】
【0077】
上層のめっき膜厚が3μmである比較例2−1の場合は、ピット個数が5.2(個/面)であり、上層めっき膜厚を4μm以上とした場合に比べて多くなっている。したがって、ハードディスクドライブに組み込んだ際の、書き込みエラー箇所が増加するものと考えられる。
【0078】
そして、めっき膜厚が10μmの単層である比較例2−2の場合、ピット個数が2.0(個/面)となっている。比較例2−2は、下地界面からの膜厚が厚い(10μm)ので、酸化膜に起因する欠陥以外が発生原因と考えられる。原因はこれに限定されないが、例えばめっき液中のコンタミに起因するものであると推測される。比較例2−2と実施例2−1〜4のピット個数を比較すると、ほぼ同じとなっている。したがって、実施例2−1〜4のピットは、下層表面に発生する酸化膜以外が発生原因と考えられる。以上のことから、無電解NiPめっき皮膜を上層と下層の2段階構造とした場合に発生する酸化膜起因のピットを抑制することができており、上層のめっき膜厚を4μm以上の厚さとすることによって、ピットの発生を抑制できたことがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6