(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸素ガスを含有する酸素雰囲気側と水素ガスを含有する水素雰囲気側とを分離するガス分離構造体に使用され、セラミックス又は金属からなる第1部材とセラミックス又は金属からなる第2部材とを、ろう材を有する接合部によって接合した、固体酸化物形燃料電池用の接合体において、
前記接合部は、前記水素雰囲気側に前記ろう材からなる第1接合層を有するとともに、前記酸素雰囲気側に第2接合層を有し、
前記第2接合層の800℃における酸素拡散係数が、前記第1接合層の800℃における酸素拡散係数より小さく、
前記第2接合層における酸素拡散係数が、800℃において、3.48×10−18m2/s以下であることを特徴とする接合体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上述した従来技術では、大気ろう付けで、Ag中の大部分のGeやCrが、酸化物となって飛散して消耗するので、その後、固体酸化物形燃料電池の運転の際に、更にGeやCrが酸素と反応して消耗し、ろう材はほぼAgのみの組成となってしまう。
【0009】
そのため、固体酸化物形燃料電池の運転が続くと、ろう材中にボイドが発生し、ろう材が劣化するという問題があった。
本発明は、上述した課題を解決するためなされたものであり、ボイドが発生する雰囲気中で使用された場合でも、ボイドの発生を抑制して、ろう材の劣化を防止できる接合体及びその接合体を用いた固体酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、第1態様(接合体)として、酸素ガスを含有する酸素雰囲気側と水素ガスを含有する水素雰囲気側とを分離するガス分離構造体に使用され、セラミックス又は金属からなる第1部材とセラミックス又は金属からなる第2部材とを、ろう材を有する接合部によって接合した、接合体において、前記接合部は、前記水素雰囲気側に前記ろう材からなる第1接合層を有するとともに、前記酸素雰囲気側に第2接合層を有し、前記第2接合層
の800℃における酸素拡散係数が、前記第1接合層
の800℃における酸素拡散係数より小さ
く、前記第2接合層における酸素拡散係数が、800℃において、3.48×10−18m2/s以下であることを特徴とする。
【0011】
本態様の接合体では、第1部材と第2部材とが、水素雰囲気側の第1接合層と酸素雰囲気側の第2接合層とを有する接合部により接合されており、しかも、第2接合層の酸素拡散係数が第1接合層の酸素拡散係数より小さく設定されている。
【0012】
そのため、この接合体が例えば700℃以上のような高温で使用された場合に、水素雰囲気側より水素が第1接合層中に拡散したときでも、酸素雰囲気側より酸素が第2接合層中に拡散しにくく(従って、接合部中に拡散しにくく)なっている。よって、接合部中で水素と酸素が反応してボイド(H
2Oボイド)が発生することを抑制できるので、ボイドの発生よるろう材の劣化を防止できるという効果を奏する。
【0013】
ここで、酸素雰囲気側と水素雰囲気側とを比較すると、酸素雰囲気側は水素雰囲気側に比べて酸素分圧が高く、水素雰囲気側は酸素雰囲気側に比べて水素分圧が高い。
また、第2接合層における酸素拡散係数が、800℃において、3.48×10
−18m
2/s以下であ
る。
【0014】
本態様で
は、後述する実験例から明かな様に、上述の酸素拡散係数の場合には、ボイドの発生が極めて少ないという利点がある。
【0015】
(
2)本発明では、第
2態様として、前記第2接合層は、Niを主成分とし、Cr、Al、Siの少なくとも1種
を含む合金層であることを特徴とする。
上述のように、Niは酸素の移動を抑制する特性(即ち酸素の拡散バリアーの特性)があるが、例えば大気中でAgろう材を接合する条件等では酸化してその特性が低下する。それに対して、本態様では、第2接合層中に、Ni以外にCr、Al、Siを含んでおり、それらは合金化している。これにより、NiはNi金属の状態で存続するので、酸素の拡散バリアーの効果を維持することができる。
【0016】
(
3)本発明では、第
3態様として、前記第2接合層は、Cr、Al、Siの酸化物の少なくとも1種を含む酸化被膜を備えたことを特徴とする。
本第
3態様では、第2接合層は、上述した酸化被膜を備えている。この酸化被膜は酸素の拡散バリアーの特性を有するので、好適にボイドの発生を抑制することができる。
【0017】
なお、この酸化被膜を、第2接合層の酸素雰囲気側に設けることにより、ボイドの発生を好適に抑制できる。
(
4)本発明では、第
4態様として、前記第2接合層におけるCrの含有量は、10〜30重量%であることを特徴とする。
【0018】
第2接合層におけるCrの含有量が10重量%未満であると、上述した酸化被膜を形成し難くなる。一方、Crの含有量が30重量%を上回ると、Ni以外の成分が多くなり過ぎ、固溶限を超えて酸素の拡散バリアーの効果が弱い第2相の析出物(即ち金属間化合物)の体積割合が増えるので、酸素の拡散バリアーとしての効果が弱まる。よって、(後述する実験例から明らかなように)このCr含有量の範囲が好適である。
【0019】
(
5)本発明では、第
5態様として、前記第2接合層におけるAlの含有量は、1〜10重量%であることを特徴とする。
第2接合層におけるAlの含有量が1重量%未満であると、上述した酸化被膜を形成し難くなる。一方、Alの含有量が10重量%を上回ると、Ni以外の成分が多くなり過ぎ、固溶限を超えて前記第2相の析出物の体積割合が増えるので、酸素の拡散バリアーとしての効果が弱まる。よって、(後述する実験例から明らかなように)このAl含有量の範囲が好適である。
【0020】
(
6)本発明では、第
6態様として、前記第2接合層におけるSiの含有量は、1〜10重量%であることを特徴とする。
第2接合層におけるSiの含有量が1重量%未満であると、上述した酸化被膜を形成し難くなる。一方、Siの含有量が10重量%を上回ると、Ni以外の成分が多くなり過ぎ、固溶限を超えて前記第2相の析出物の体積割合が増えるので、酸素の拡散バリアーとしての効果が弱まる。よって、(後述する実験例から明らかなように)このSi含有量の範囲が好適である。
【0021】
なお、他の態様として、前記接合部には、前記第1接合層及び前記第2接合層に加え、前記第2接合層より前記酸素雰囲気側に、前記第1部材と前記第2部材とに密着すると共に前記第2接合層よりも酸素拡散係数の小さい密着層を備
えていてもよい。
【0022】
本態様では、第2接合層に加えて(第2接合層よりも酸素拡散係数が小さい)密着層を備えているので、一層酸素の拡散を抑制できる。よって、一層ボイドの発生を防止できるという顕著な効果を奏する。
【0023】
(
7)本発明は、第
7態
様として、前記
第1〜第6態様のいずれ
かに記載の接合体を備えた
固体酸化物形燃料電池を特徴とする。
固体酸化物形燃料電池は、例えば500〜900℃の高温で使用されるので、その構造材料として、例えば上述した接合体を使用すると、ボイドの発生を好適に抑制することができる。
【0024】
(
8)本発明では、第
8態様として、前記接合体は、固体電解質体と金属部材とが接合されたものであることを特徴とする。
本態様は、接合体を例示したものである。この固体電解質体に、燃料極及び酸素極を設けることによって、後述する発電を行うセル本体であるセラミックス基板を構成できる。また、金属部材としては、セル本体に接合されている(水素雰囲気側と酸素雰囲気側とを分離する)セパレータが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための各種の形態(例)について説明する。
[実施形態]
<接合体の構成>
前記第1部材と第2部材との組み合わせとしては、セラミックス部材同士、セラミックス部材と金属部材、金属部材同士の組み合わせがある。
【0027】
前記セラミックス部材の材質は特に限定されず、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、炭化物系セラミックス及びケイ化物系セラミックス等が挙げられる。
酸化物系セラミックスとしては、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、チタニア等が挙げられる。また、2種以上の元素を含有する複合酸化物からなるセラミックスが挙げられる。窒化物系セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等が挙げられる。炭化物系セラミックスとしては、炭化ケイ素、炭化タングステン等が挙げられる。ケイ化物系セラミックスとしては、ケイ化モリブデン等が挙げられる。これらのセラミックスは、セラミックス接合体の用途によって選択することができる。
【0028】
前記金属部材としては、金属枠体等の金属板が挙げられ、用途に合わせて任意の金属を選択することができる。
この金属部材としては、その使用時の温度の範囲で劣化することなく、水素雰囲気側の水素含有ガスと酸素雰囲気側の酸素含有ガスとが混合しないように隔離できる金属を選択することができる。このような金属として、ステンレス鋼、ニッケル基合金及びクロム基合金を例示することができる。
【0029】
ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430以外に、SUS434及びSUS405等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS403、SUS410及びSUS431等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS201、SUS301、SUS305等が挙げられる。更に、ニッケル基合金としては、インコネル600、インコネル718、インコロイ802等が挙げられる。クロム基合金としては、Ducrlloy CRF(94Cr5Fe1Y
2O
3)等が挙げられる。
【0030】
前記第1接合層のろう材としては、特に限定されず、例えばAg又はAu等を主成分とする各種のろう材を採用できる。例えばCr
2O
3を(例えば1〜5重量%)含有するAgろう材(Ag−Cr
2O
3ろう材)や、例えばPdを(例えば2〜30質量%、好ましくは3〜10質量%)含有するAgろう材(Ag−Pdろう材)を用いることができる。
【0031】
また、第2接合層の材質としては、前記第1接合層の材質(従って酸素拡散係数)に応じて適宜選択できるが、例えばNi、Pt、Auが挙げられる。このうち、Ni、Ptは、酸素の拡散バリアーの特性が大きく好適である。特に、Ptは、大気中でAgろう材を接合する条件で酸化が進まないので、酸素の拡散バリアーとして、一層好適である。
【0032】
前記酸化被膜を形成するCr、Al、Siの酸化物としては、例えばCr
2O
3、Al
2O
3、SiO
2が挙げられる。
前記密着層の材質としては、前記第2接合層の材質(従って酸素拡散係数)に応じて適宜選択できるが、例えばPt、酸化物ガラスが挙げられる。
<接合体が配置される雰囲気>
前記水素雰囲気側のガスとしては、例えば固体酸化物形燃料電池に用いられる燃料ガスが挙げられる。
【0033】
この燃料ガスとしては、水素、水素源となる炭化水素、水素と炭化水素との混合ガス、及びこれらのガスを所定温度の水中を通過させ加湿した燃料ガス、これらのガスに水蒸気を混合させた燃料ガス等が挙げられる。炭化水素は特に限定されず、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス化ガス等が挙げられる。更に、メタン、エタン、プロパン、ブタン及びペンタン等の炭素数が1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜4の飽和炭化水素、並びにエチレン及びプロピレン等の不飽和炭化水素を主成分とするものが好ましく、飽和炭化水素を主成分とするものが更に好ましい。これらの燃料ガスは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。また、50体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。
【0034】
前記酸素雰囲気側のガスとしては、例えば固体酸化物形燃料電池に用いられる支燃性ガスが挙げられる。
この支燃性ガスとしては、空気、酸素と他の気体との混合ガス等が挙げられる。また、この混合ガスには80体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスが含有されていてもよい。これらの支燃性ガスのうちでは安全であって、且つ安価であるため空気(約80体積%の窒素が含まれている。)が好ましい。
<固体酸化物形燃料電池の構成>
前記接合体が用いられる固体酸化物形燃料電池としては、燃料極、固体電解質体及び空気極がこの順に積層され、燃料極と空気極の間が隔離セパレータで分離される構造が挙げられる。なお、燃料極、固体電解質体及び空気極のいずれも支持体とすることができるが、燃料極支持型が製造が容易であるので好適である。
【0035】
また、固体酸化物形燃料電池の全体の構造としては、各種の構造のものがあり、複数の発電単位である発電層(セル)が金属製のセル間セパレータを介して積層されたものが挙げられる。この固体酸化物形燃料電池としては、各々のセルは基板状のセル本体を備え、各セルは、固体電解質体と固体電解質体の一面に設けられた燃料極と他面に設けられた空気極とを有するものが挙げられる。この場合、セル本体が第1部材に該当し、隔離セパレータが第2部材に相当する。
【0036】
更に、各々のセルの燃料極及び空気極とセル間セパレータとは、それぞれ燃料極側集電体及び空気極側集電体により電気的に接続することができる。また、各々のセルは、燃料ガスの流路と、支燃性ガスである空気の流路とを隔離するための隔離セパレータを備える。更に、それぞれのセル間を電気的に絶縁するため、セラミック等の絶縁体からなる絶縁板が、積層方向の所定部分に配設されることもある。
【0037】
固体電解質体は、ZrO
2、BaCeO
3系酸化物、及びLaGaO
3系酸化物のうち、少なくとも一つからなることが好ましい。また、これらのうち、ZrO
2系酸化物を用いた固体電解質が特に好ましい。
【0038】
燃料極は、Ni及びYSZ等により形成することができる。この燃料極は、水素源となる燃料ガスと接触し、セルにおける負電極として機能する。
また、燃料極の形成に用いる材料も、Ni及びYSZに限定されず、固体酸化物形燃料電池の使用条件等により適宜選択することができる。この材料としては、例えば、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni及びFe等の金属が挙げられる。これらの金属は1種のみでもよいし、2種以上の金属の合金でもよい。
【0039】
また、これらの金属及び/又は合金と、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたジルコニア等のジルコニア系セラミック、セリア系セラミック及び酸化マンガン等のセラミックとの混合物(サーメットを含む。)が挙げられる。
【0040】
更に、Ni及びCu等の金属の酸化物と、上記セラミックのうちの少なくとも1種との混合物などが挙げられる。
空気極は、例えばLa
1-xSr
xMnO
3系複合酸化物等により形成することができる。この空気極は、酸素源となる支燃性ガスと接触し、セルにおける正電極として機能する。
【0041】
また、空気極の形成に用いる材料は、La
1-xSr
xMnO
3系複合酸化物に限定されず、固体酸化物形燃料電池1の使用条件等により適宜選択することができる。この材料としては、例えば、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru及びRh等の金属が挙げられる。これらの金属は1種のみでもよいし、2種以上の金属の合金でもよい。
【0042】
更に、La、Sr、Ce、Co及びMn等の酸化物(例えば、La
2O
3、SrO、Ce
2O
3、Co
2O
3、MnO
2及びFeO等)が挙げられる。
また、La、Sr、Ce、Co及びMn等のうちの少なくとも1種を含有する各種の複合酸化物(例えば、La
1-xSr
xFeO
3系複合酸化物、La
1-xSr
xCo
1-yFe
yO
3系複合酸化物、Pr
1-xBa
xCo
1-yFe
yO
3系複合酸化物及びSm
1-xSr
xCo
1-yFe
yO
3系複合酸化物等)が挙げられる。
【実施例1】
【0043】
以下に、本発明の接合体及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池の実施例について、具体的に説明する。
a)まず、本実施例の固体酸化物形燃料電池の構成について説明する。
【0044】
図1に示す様に、本実施例の固体酸化物形燃料電池1は、燃料ガス(例えば水素)と支燃性ガス(例えば空気)との供給を受けて発電を行う装置であり、この固体酸化物形燃料電池1は、発電の基本構成である発電層(即ち固体酸化物形燃料電池セル:以下単にセルと記す)3を複数層(ここでは例えば3層3a、3b、3c)積層したものである。
【0045】
前記セル3内には、
図2及び
図3に模式的に示す様に、発電を行う要部である基板状のセル本体5を備えており、セル本体5では、(例えば水素)に接する燃料極7と、酸素イオン導電性を有する固体電解質体9と、酸化ガス(例えば空気中の酸素)に接触する空気極11とが、この順に積層されている。
【0046】
尚、固体電解質体9と空気極11との間には、図示しないが、固体電解質体9と空気極11との間の反応を防止する反応防止層が形成されている。
また、本実施例では、燃料極7が支持基体となるいわゆる燃料極支持膜式のセル3を挙げているが、それに限定されるものではなく、例えば空気極支持膜式のセルや、固体電解質体が支持基体となる自立膜式のセルなどに適用することができる。
【0047】
更に、前記
図2及び
図3に詳しく示す様に、前記固体酸化物形燃料電池1では、セル3が、金属製のインターコネクタ(セル間セパレータ)13を介して、積層方向(両図の上下方向)に複数積層されている。
【0048】
このうち、
図2に示す様に、固体酸化物形燃料電池1の外周側(
図2の左右方向)には、燃料極7や空気極11等を気密して囲むように、四角形の筒状の枠部15が設けられており、この枠部15には、その一部を同図の上下方向に貫通するように、各セル3の燃料極7側の空間(燃料ガス流路)17に燃料ガスを供給する燃料ガス供給路19と、各燃料ガス流路17から発電後の燃料ガスを外部に排出する燃料ガス排出路21とが設けられている。
【0049】
同様に、
図3に示す様に、前記枠部15には、その一部を同図の上下方向に貫通するように、各セル3の空気流路23に空気を供給する空気供給路25と、各空気流路23から発電後の空気を外部に排出する空気排出路27とが設けられている。
【0050】
各セル3の燃料極7は、燃料極側集電体29により各セル間セパレータ13等に電気的に接続され、各空気極11は、空気極側集電体31によりAgろう材からなる接合層33を介して他のセル間セパレータ13等に電気的に接続されている。
【0051】
尚、最上部と最下部のインターコネクタを、それぞれ蓋体35、底部36と称し、最上部の空気極11は蓋体35に、最下部の燃料極7は底部36に、それぞれ電気的に接続されている。
【0052】
各セル3は、燃料ガス流路17と空気流路33とを隔離するための隔離セパレータ(セル内セパレータ)37を備えており、この隔離セパレータ37は、後に詳述する様に、接合部39によって、固体電解質体9(従ってセル本体5)の表面に接合されている。
【0053】
なお、隔離セパレータ37とセル本体5とが接合部39によって接合された基板状の接合体41が、本発明の接合体に該当する。
また、前記枠部15には、それぞれのセル3間を電気的に絶縁するため、絶縁体である四角形の枠状のセラミックフレーム43が、積層方向の所定部分に配設されており、さらに、強度を高めるために、四角形の枠状の金属フレーム45、47が、積層方向に配設されている。なお、それらは、Agろう材からなる接合層49、51、53、55、57によって、上下の部材と一体に接合されている。
【0054】
つまり、固体酸化物形燃料電池1の枠部15においては、
図2及び
図3の上方より、蓋体35、接合層49、金属フレーム45、接合層51、セラミックフレーム43、接合層53、隔離セパレータ37、接合層55、金属フレーム47、接合層57、セル間セパレータ13等の順で積層され、各部材は、その間のAgろう材からなる接合層49〜57により接合一体化されている。
【0055】
ここで、金属部材である前記セル間セパレータ13、蓋体35、底部36、金属フレーム45、47の材質としては、隔離セパレータ37と同様に、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等の耐熱合金を用いることができる。
【0056】
また、前記接合層33、49〜57を構成するAgろう材としては、Agろう材中に、Ni、Co、Cr、Ti、Ce、Sr、Mn、La、Sm、及びYの各元素の酸化物のうち、少なくとも1種を含むAgろう材を用いることができる。この酸化物としては、NiO、Co
3O
4、Cr
2O
3、TiO
2、CeO
2、Sr
2O
3、MnO
2、La
2O
3、Sm
2O
3、Y
2O
3などが挙げられる。
【0057】
更に、燃料極側集電体29の材質は、金属が好ましく、例えばNi又はNi基合金等により形成することができる。この燃料極側集電体29の形態は、弾性があるものが好ましく、多孔体、発泡体及び金属繊維からなるフェルト又はメッシュ等を挙げることができる。
【0058】
一方、空気極側集電体31の材質は、金属及び導電性セラミックを用いることができる。この金属としては、燃料極側集電体29と同様のものを用いることができるが、非弾性の緻密な板状体であってもかまわない。
【0059】
b)次に、本実施例の要部である接合体41について説明する。
図4に示す様に、接合体41は、中央に正方形の開口部61を有する四角枠状の隔離セパレータ37に、開口部61を覆って気密するように正方形の板状のセル本体5が接合されたものである。
【0060】
詳しくは、
図5に拡大して模式的に示す様に、接合体41は、セル本体5の上部において、固体電解質体9が露出する(平面形状が四角枠状の)露出部分63に、隔離セパレータ37の開口部61側の(平面形状が四角枠状の)縁部65が、(平面形状が四角枠状の)接合部39によって接合されたものである。
【0061】
図6に、この接合体41の接合部39の近傍を拡大して模式的に示すが、接合体41は、金属製の第1部材である隔離セパレータ37と、セラミックスを主成分とする第2部材であるセル本体5(詳しくは固体電解質体9)との間において、セル3内の水素雰囲気側である燃料ガス流路17側にAgろう材からなる第1接合層67を備えるとともに、酸素雰囲気側である空気流路23側にNiからなる第2接合層69を備えている。
【0062】
特に、本実施例では、酸素雰囲気側の第2接合層69の酸素拡散係数が、水素雰囲気側の第1接合層67中の酸素拡散係数より小さく設定されている
具体的には、第1接合層67を構成するAgろう材として、例えばAg−Cr
2O
3(Cr
2O
3を4重量%含有)を用いており、この第1接合層67の固体酸化物形燃料電池1の運転温度(例えば800℃)における酸素拡散係数は、1.56×10
-8m
2/sである。
【0063】
一方、第2接合層69を構成するNiは、純Niであり、この第2接合層69の固体酸化物形燃料電池1の同様な運転温度(例えば800℃)における酸素拡散係数は、3.48×10
-18m
2/sである。
【0064】
特に、本実施例では、酸素雰囲気側の第2接合層69の酸素拡散係数が、水素雰囲気側の第1接合層67中の酸素拡散係数より小さく設定されていることが重要であり、この関係を満たす範囲内で、第1接合層67のろう材の材料、第2接合層69の材料(例えば金属材料)を適宜選択することができる。
【0065】
なお、下記の表1に、各材料の各温度(℃)における酸素拡散係数(m
2/s)を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
c)次に、固体酸化物形燃料電池1の製造方法について説明する。
まず、例えばSUS430からなる板材を打ち抜いて、セル間セパレータ13、隔離セパレータ37、金属フレーム45、47を製造した。
【0068】
また、マイカにより絶縁フレーム43を製造した。
更に、セル本体5を製造した。具体的には、燃料極7のグリーンシートの一方の表面(表面側)に、表面全体を覆うように、固体電解質体9の材料を印刷し、更に、この固体電解質体9の印刷層の上に、反応防止層の材料を印刷し、一旦焼成する。その後、反応防止層の表面に空気極13の材料を印刷し、焼成してセル本体5を製造した。
【0069】
次に、各セル本体5の周縁部の表面に、Agろう材を介して、隔離セパレータ37の内縁部が接するように配置し、ろう付け接合した。
具体的には、
図7(a)に示す様に、隔離セパレータ37の内縁部に沿って、接合部39の第1接合層67の形成位置に、四角枠状に(ペースト状の)Agろう材からなるろう材層71を形成した。同様に、セル本体5(詳しくは固体電解質体9の露出部分63)の周縁部に沿って、接合部39の第1接合層67の形成位置に、四角枠状に同じ(ペースト状の)Agろう材からなるろう材層73を形成した。
【0070】
次に、
図7(b)に示す様に、隔離セパレータ37とセル本体5とを近づけて、両ろう材層71、73を密着させた。具体的には、周知の様に、例えばセラミックスからなる耐熱性緩衝材(図示せず)の上に、前記密着させた隔離セパレータ37とセル本体5とを載置し、その上に重り(図示せず)を乗せて、所定の圧力(例えば500Pa以上)を加えた。
【0071】
その後、大気中で(例えば1000℃に)加熱した後に冷却して、第1接合層67を形成するとともに、この第1接合層67によって隔離セパレータ37とセル本体5とをろう付け接合して一体化した。
【0072】
なお、隔離セパレータ37の表面には、ろう付け時に酸化被膜が形成されるので、塩酸又は硫酸等により被膜の除去を行う。
次に、
図7(c)、(d)に示す様に、電解めっきによって、第1接合層67の露出する一方の側面(即ち酸素雰囲気側の側面:同図右側)に、Niからなるめっき層である第2接合層69を形成する。なお、水素雰囲気側の側面にはマスキングによって、めっき層を形成しないようにする。ここで、めっき条件は、例えば電解めっき液(硫酸ニッケル24%、酸化ニッケル4.5%、ホウ酸3%、イオン交換水(残部))、温度20℃、めっき時間30分である。
【0073】
これによって、隔離セパレータ37に接合部39によってセル本体5が接合された接合体41が得られた。
その後、枠部15を形成するように、金属フレーム45、セラミックフレーム43、セル本体5、金属フレーム47の順で重ね合わせ、更に、前記
図3の固体酸化物形燃料電池1の構成となるように、セル間セパレータ13、空気極側集電体31、燃料極側集電体29などを積層し、治具を用いて組み付けるとともに、接合箇所(即ち接合層33、49〜57を形成する部分)にAgろう材を配置した。
【0074】
そして、このように組み付けた構成を、大気中で(例えば1000℃で)加熱した後に冷却して、ろう付け接合により一体化し、固体酸化物形燃料電池1を完成した。
なお、隔離セパレータ37とセル本体5とを接合するAgろう材(第1Agろう材)の溶融温度が、接合層33、49〜57のAgろう材(第2Agろう材)の溶融温度より高くなるように、その組成が選択されている。例えば第1Agろう材としては、上述の様に、Ag−4重量%Cr
2O
3を用い、第2Agろう材としては、Ag−5重量%Pdを用いることができる。
【0075】
d)次に、本実施例の効果について説明する。
本実施例では、接合体41は、金属製の第1部材である隔離セパレータ37と、セラミックスを主成分とする第2部材であるセル本体5とが、水素雰囲気側の第1接合層67と酸素雰囲気側の第2接合層69とを有する接合部39により接合されており、しかも、第2接合層69の酸素拡散係数が第1接合層67の酸素拡散係数より小さく設定されている。
【0076】
そのため、この接合体41が例えば400℃以上のような高温で使用された場合に、水素雰囲気側より酸素が第1接合層67中に拡散したときでも、酸素雰囲気側より酸素が第2接合層69中に拡散しにくく(従って、接合部39中に拡散しにくく)なっている。よって、接合部39中で水素と酸素が反応してボイドが発生することを抑制できるので、ボイドの発生よるろう材の劣化を防止できるという効果を奏する。
【0077】
特に、本実施例では、第2接合層69における酸素拡散係数が、例えば800℃において、3.48×10
-18m
2/sであるので、ボイドの発生が極めて少ないという利点がある。
【0078】
なお、前記第2接合層69の材料としては、Ni以外の例えばPt等の(第1接合層67より)酸素拡散係数が小さい材料を採用できる。
また、
図8に示す様に、第1接合層81における水素雰囲気側及び酸素雰囲気側に、電解めっきによって、Niからなるめっき層83、85を形成してもよい。ここでは、酸素雰囲気側のめっき層85が、第2接合層85である。
【実施例2】
【0079】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
図9(a)に示す様に、本実施例では、第1部材及び第2部材は、前記実施例1と同様な、隔離セパレータ91とセル本体93である。
【0080】
また、接合部95を構成する第1接合層97は、前記実施例1と同様なAgろう材から形成されており、第2接合層99は、Ni合金からなる。Ni合金としては、NiとCr、Al、Siのうち少なくとも1種の合金である、例えばNi−3Al、Ni−20Cr、Ni−3Siを採用できる。
【0081】
なお、第2接合層99におけるCrの含有量としては、10〜30重量%を採用できる。また、第2接合層99におけるAlの含有量としては、1〜10重量%を採用できる。或いは、第2接合層99におけるSiの含有量としては、1〜10重量%を採用できる。
【0082】
特に、第2接合層99が上述した組成の合金から構成されている場合に、第2接合層99が高温の酸素雰囲気に晒されると、例えば前記実施例1の様な固体酸化物形燃料電池に使用されると、Cr、Al、Siが酸化されることによって、Niの酸化が抑制される。
【0083】
また、この酸化によって、第2接合層99の酸化雰囲気側に、
図9(b)に示す様に、合金の組成に応じた酸化被膜101が形成される。例えば、Al
2O
3、Cr
2O
3、SiO
2からなる酸化被膜101が形成される。
【0084】
これらの酸化被膜101は、第1接合層97に比べて酸素拡散係数が小さいので(例えばAl
2O
3:800℃で1.14×10
-14m
2/s)、ボイドの発生を抑制できるという利点がある。
【0085】
つまり、金属状態のNiが酸素の拡散バリアーの効果を発揮するとともに、前記酸化被膜101も酸素の拡散バリアーの効果を発揮できるので、ボイドの発生を効果的に抑制できるという利点がある。
【0086】
なお、酸化被膜101は、上述の様に実際に高温での使用の際に形成されてもよいが、予め高温の酸化雰囲気に晒すことによって形成してもよい。或いは、例えば製造の際に(例えばろう付けの際に)形成してもよい。
【実施例3】
【0087】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
図9(c)に示す様に、本実施例では、第1部材及び第2部材は、前記実施例1と同様な、隔離セパレータ111とセル本体113である。
【0088】
また、接合部115を構成する第1接合層117及び第2接合層119は、前記実施例1と同様なAgろう材及びNiから形成されている。
特に本実施例では、第2接合層119の酸素雰囲気側に、酸化物ガラスからなる密着層120が形成されている。この密着層120は、第1接合層117より酸素拡散係数が小さいので、ボイドの発生を大きく抑制できるという利点がある。
【0089】
なお、この密着層120は、ガラスペーストをディスペンサーで塗布し、その後焼成することにより形成することができる。
【実施例4】
【0090】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例の接合体は、固体酸化物形燃料電池以外の装置に使用することができる。例えば、機械切削工具、インバーター用セラミックス基板(HV/EV車用パワーデバイス)、タービンローターのような装置に用いることができる。
【0091】
図9(d)に示す様に、本実施例では、第1部材及び第2部材として、例えばアルミナからなる板状のセラミックス部材121、123を用いている。
また、接合部125を構成する第1接合層127は、前記実施例1と同様なAgろう材から形成されており、第2接合層129は、第1接合層127より酸素拡散係数が小さな例えばNi又はPtから構成されている。
【0092】
本実施例においても、前記実施例1と同様な効果を奏する。
また、本実施例の変形例では、第1部材及び第2部材として、例えばステンレス鋼からなる板状の金属部材を用いることができる。
<実験例>
次に、本発明の効果を確認した実験例について説明する。
【0093】
本実験例では、
図10に示す実験装置を用いて、接合体の接合部におけるボイドの発生の有無を調べたものである。
図10に示す様に、この実験装置131は、円筒形状のステンレス鋼製の金属パイプ133の先端に、その開口部分を塞ぐように、円盤状のステンレス鋼製の板材135を接合したものである。
【0094】
この板材135の中心には、貫通孔137が開けられており、この貫通孔137を上方より塞ぐように、(前記実施例1と同様な固体電解質体からなる)セラミックス基板139が接合部141によって接合されている。
【0095】
つまり、接合部141は、金属パイプ133内の内部空間143から外側の外部空間145にガスが通過することを防止するように(気密するように)、貫通孔137の上部の開口部147の周囲を覆うように配置されている。
【0096】
なお、接合部141は、前記実施例1、2と同様に、水素雰囲気側の第1接合層149と酸素雰囲気側の第2接合層151とから構成されている。
そして、実験では、下記表2に示す様に、第1接合層149として、800℃での酸素拡散係数が1.56×10
-8m
2/sのAgろう材(詳しくはAg−4重量%Cr
2O
3)を用い、第2接合層151として、800℃での各酸素拡散係数を有する各種の材料を用いた。なお、表2に示す様に、Niに他の物質を所定量添加した場合の酸素拡散係数は、第2接合層と第2接合層の酸素側にできる酸化被膜までを含めたもので、Ni単体の3.48×10
-18m
2/sよりも小さい値となっている。
【0097】
実験条件は、温度を850℃に設定し、内部空間143に1気圧の水素を供給するとともに、外部空間145に1気圧の酸素を供給し、20時間及び200時間におけるボイドの発生状態(即ちAgろう材の劣化の状態)を調べた。
【0098】
その結果を、下記表2に記す。なお、表2の各耐久評価における×はボイドの発生を示し、○はボイドの発生がないことを示している。また、総合評価における×、△、○は、この順番で耐久性が優れていることを示している。
【0099】
【表2】
【0100】
※1:第2接合層と第2接合層の酸素側にできる酸化被膜までを含めた酸素拡散係数が、3.48×10
-18m
2/sより小さい値。
この表2から明らかな様に、第1接合層より第2接合層の方が酸素拡散係数の小さい材料を用いることにより、ボイドの発生を抑制できること、即ち耐久性に優れていることが分かる。
【0101】
また、NiにCrを10〜30重量%含む場合には、それ以外のCr含有量に比べて、耐久性が高いことが分かる。
同様に、NiにAlを1〜10重量%含む場合には、それ以外のAl含有量に比べて、耐久性が高いことが分かる。
【0102】
同様に、NiにSiを1〜10重量%含む場合には、それ以外のSi含有量に比べて、耐久性が高いことが分かる。
尚、本発明は前記実施例等になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。