(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890270
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】ドリルドロール及びロールプレス装置
(51)【国際特許分類】
F16C 13/00 20060101AFI20160308BHJP
H01M 4/139 20100101ALN20160308BHJP
【FI】
F16C13/00 C
!H01M4/139
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-161375(P2012-161375)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-20500(P2014-20500A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】多田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 修平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 将徳
【審査官】
上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−500697(JP,A)
【文献】
特開平07−024860(JP,A)
【文献】
特開平04−091912(JP,A)
【文献】
特開平02−303810(JP,A)
【文献】
特開平09−133125(JP,A)
【文献】
特開昭58−144194(JP,A)
【文献】
実開昭53−069661(JP,U)
【文献】
特開2005−288535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 13/00
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無垢ロールに熱媒流路用の穴が形成されたドリルドロールであって、
ロール胴部の表面近傍に設けられた軸方向に延びる多数の熱媒循環通路と、
ロール中心軸に沿って延びるように設けられた中心穴と、
前記熱媒循環通路の一端と前記中心穴とを接続する斜め穴とを有するドリルドロールにおいて、
前記斜め穴が前記ロール胴部の端面位置の半径方向の延長線上を跨いで配置されるように、前記斜め穴の一端を前記熱媒循環通路の一端と接続し、前記斜め穴の他端を前記熱媒循環通路の一端が位置する前記ロール胴部の端面側とは反対側の前記ロール胴部の端面位置の半径方向の延長線上を超えた位置で前記中心穴へ接続するようにしたことを特徴とするドリルドロール。
【請求項2】
請求項1において、前記斜め穴の前記中心穴への接続位置は、前記ロール胴部の端面位置の半径方向の延長線上を越えて、前記ロール胴部の端面位置からロール胴部面長に相当する長さ離れた位置までの範囲にあることを特徴とするドリルドロール。
【請求項3】
請求項1において、前記斜め穴の前記中心穴への接続位置は、前記ロール胴部の端面位置からロール胴部面長の0.3〜0.7倍に相当する長さ離れた位置にあることを特徴とするドリルドロール。
【請求項4】
対向する一対の加圧ロールを備えたロールプレス装置であって、前記一対の加圧ロールの一方又は双方に請求項1に記載のドリルドロールを用いたことを特徴とするロールプレス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルドロール及びロールプレス装置に係り、特に温間プレス加工に用いられるドリルドロール及びロールプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂、電極材等成形用のロールプレス装置では、温間プレス加工が行われる。そのためプレス加工を行うロールには昇温機構が設けられている。ロールを昇温するためには一般的にドリルドロールが用いられている。ドリルドロールは、無垢ロールに穴加工により形成した熱媒流路に、加熱した熱媒を循環することによりロールを内部から加熱昇温するものである。媒体としては、油、熱水、蒸気などが用いられる。ドリルドロールとしては、例えば、特許文献1に記載のものがある。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池用電極材料の圧縮加工等においては、材料の圧縮加工後の要求厚み精度は、例えば、±2μm程度と厳しく、近年さらに高精度化が望まれている(±1〜2μm)。そのため、圧縮時に材料からうける反力によるロールのたわみを、例えば、特許文献2に記載のように、ロールたわみ補正機構により補正することで、材料の巾方向の厚みばらつきを抑え、高精度に加工を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−24860号公報
【特許文献2】特許第3937561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プレス加工における材料の巾方向の厚みばらつきの原因としては、圧縮時に材料からうける反力によるロールのたわみ以外に、ロールに生じるサーマルクラウンがある。ドリルドロールにおいては、加熱による温度斑が生じないように均一に加熱するようにしている。しかしながら、本発明者の検討によれば、従来のドリルドロールにおいては、ロールの昇温使用時に、サーマルクラウンが発生することが見出された。このサーマルクラウンは、凸方向のクラウンであり、加工材料に巾方向に均一荷重を与えることが出来ない等、悪影響を与えるものである。
【0006】
このサーマルクラウンに対しては、ロールたわみ補正機構による補正を簡易にするためにも、ロールたわみ補正機構によらないで主に対応すること、即ち、サーマルクラウンの発生を抑制することが望ましい。
【0007】
本発明の目的は、ロールの昇温使用時、サーマルクラウンの発生を抑制することができるドリルドロール及びロールプレス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱媒流路の配置を工夫してサーマルクラウンの原因となるロール端部内側の低温領域をなくすようにしたものである。
【0009】
具体的には、例えば、ロールに形成する斜めの熱媒流路をロール端面の外まで延長するようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドリルドロールの昇温使用時、サーマルクラウンの発生を抑制することができる。
【0011】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例のドリルドロールの内部構造の一部断面図。
【
図2】本発明の一実施例のドリルドロールの内部構造を説明する斜視図。
【
図3】ロール表面近傍における熱媒流路の配置の一例を説明する図。
【
図4】本発明の
参考例のドリルドロールの内部構造の一部断面図。
【
図5】本発明のドリルドロールが適用されるロールプレス装置の概略構成を一部断面して示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0014】
先ず、本発明に至った経緯について説明する。
【0015】
ドリルドロールでは、無垢の鍛造ロールに対して、ロールの中心軸に延びる中心穴と、ロール表面近傍の外周穴と、中心穴と外周穴をつなぐ斜め穴が設けられている。斜め穴については、加工性から、例えば、軸方向に対し40°±10°程度で加工しており、中心穴と斜め穴の連結部は、特許文献の
図1に記載のように、ロール中心を越えない程度となっている。
【0016】
本発明者等の検討によれば、このような構造のドリルドロールでは、ロール表面側にロールが均一に加熱されるように熱媒流路(外周穴)が形成されているが、ロール端部やロール軸部からの放熱により、ロール内部に温度斑が発生することが見出された。これにより、熱膨張の差がロールに発生し、サーマルクラウンの発生原因となる。この場合、ロール端面側の内周側(
図1に示すA部)の温度が低くなるために、ロール中央部の径が大きくなる凸クラウンとなる。
【0017】
そこで、本発明者等は、熱媒流路の配置を工夫することにより、ロール端部内側における温度が低下しないようにすることを考え、本発明に至ったものである。
【0018】
図1及び
図2は本実施例のドリルドロールの内部構造を示す図であり、
図3は熱媒流路の配置を示す図である。
【0019】
ドリルドロール1の内部には、ロール中心軸に沿って延びるように中心穴10、11が形成されている。中心穴10、11はシールリング(仕切り)6によって、図面の右側(中心穴10)と左側(中心穴11)に区画されている。中心穴10、11の内部には熱媒供給配管7が設けられている。
【0020】
ロール温調装置(図示省略)から供給された加熱流体(熱媒体液)は、ロール1の一方の端部(図では左側)から、ロータリージョイント(図示省略)を介して熱媒供給配管7に供給され、中心穴10に導入される。加熱流体としては、例えば、油が用いられ、例えば、190℃程度に加熱されている。
【0021】
ドリルドロール1には、中心穴10からロール表面付近に向かう斜め穴4が形成されている。斜め穴4は、ロール表面付近に設けられた熱媒循環通路2の一端に接続しており、斜め穴4を介して中心穴10から熱媒循環通路2の一端に加熱流体が供給される。
【0022】
熱媒循環通路2は、
図2及び
図3に示すように、ロール表面付近に形成されている。加熱流体は、熱媒循環通路(第1の熱媒循環通路)2の一端から軸線方向に他端まで進み、連結管13によって隣の熱媒循環通路(第2の熱媒循環通路)2の一端に供給され、そして、第2の熱媒循環通路2内を軸線方向(第1の熱媒循環通路の流れとは反対方向)に進んだ後にもう一つの連結管13によってさらにその隣の熱媒循環通路(第3の熱媒循環通路)2の一端に供給され、第3の熱媒循環通路の軸線方向(第1の熱媒循環通路の流れと同じ方向)に進む。つまり、本実施例では、加熱流体が熱媒循環通路2の相隣り合うものの中をロールの軸線方向に1.5往復して流れるトリプルパス方式が採用されている。そして、このような3本の熱媒循環通路のセットがロール表面に複数セット(例えば、8セット)設けられている。熱媒循環通路2中を流れる加熱流体によってロール面上にある材料に熱が加えられ温間プレス加工が行われることになる。
【0023】
加熱流体は熱媒循環通路2を下流側へ流れていくうちにその温度がある程度低下するが、相隣り合う熱媒循環通路を折り返しながらロール軸方向に1.5往復することによって相隣り合う熱媒循環通路間において熱の授受がある程度行われ、加熱流体の温度低下はある程度補償される。従って、ロール軸方向の温度分布はほぼ均一になる。
【0024】
ドリルドロール1には、熱媒循環通路(第3の熱媒循環通路)2の一端から中心穴11に向かう斜め穴5が形成されており、斜め穴5を介して熱媒循環通路(第3の熱媒循環通路)2から中心穴11(シールリング6よりも手前側の中心穴)に加熱流体を戻す。
【0025】
中心穴11に戻された加熱流体は、ロータリージョイント(図示省略)を介してロール温調装置(図示省略)に戻される。
【0026】
本実施例では、斜め穴4の中心穴10への接続位置及び斜め穴5の中心穴11への接続位置がロール端面位置を超えるように形成している。言い換えれば、斜め穴がロール胴部の端面位置の半径方向の延長線上を跨いで配置されるように斜め穴を中心穴へ接続している。なお、斜め穴はロール端面から中心穴に向かって穿孔するので、加工性の観点からは、従来は、斜め穴4の中心穴10への接続位置及び斜め穴5の中心穴11への接続位置がロール端面位置を超えることはない。
【0027】
このように斜め穴を形成することにより、ロール端部内側付近を加熱流体が通過することになるので、ロール端部内側(
図1に示すA部)における温度低下を抑制することができる。その結果、凸方向のサーマルクラウンの発生を抑制することができる。
【0028】
即ち、熱媒循環通路2を流れる流体は、通路内を例えば約1.5m/minの高速で滞留なく循環することによりロール表面を均一に加熱する。ロールが均一に昇温後に生産開始となるが、ロールの熱はロール軸受装置、ハウジングにも伝達するので、ロール昇温時は、ロールのみならず、ロール軸受装置やハウジングの温度がある程度一定になってから生産開始となる。このように温度がある程度一定になった段階には、本実施例の斜め穴4及び5によりロール端部内側(
図1に示すA部)付近の温度も適度に昇温されており、ロールの軸方向における熱膨脹の差が生じにくくなっているので、温間プレス加工を開始する際には、ロールに凸方向のサーマルクラウンが発生することを抑制できる。
【0029】
特に、ロール径が大きく、ロール胴部面長短い程、本発明による効果は大きい。即ち、このような場合、従来の斜め穴のような配置では、ロール端面内側(ロールネック部)とロール中央部との温度差が大きくなるからである。
【0030】
斜め穴の中心穴への接続位置は、ロール端面位置を越えて、ロール胴部面長の0〜1倍の位置(ロール端面位置〜ロール端面位置からロール胴部面長に相当する長さ離れた位置の範囲)に設けることが望ましい。特に、ロール端面位置を越えて、ロール胴部面長の0.3〜0.7倍程度の位置において斜め穴を中心穴に接続するのが望ましい。一般的なロール形状の場合、ロール胴部面長の0.3〜0.7倍程度の位置に接続位置を設けると、斜め穴を通過する加熱流体によりロール端部内側を偏りなく加熱昇温することができる。
【0031】
本発明の
参考例を
図4に示す。本
参考例では、サーマルクラウンの原因となるロール端部内側の低温領域をなくすために、ロール端面に形状を併せた環状部材100をロール端面に取り付けたものである。環状部材には熱媒循環通路2の一端に接続する熱媒流路40が設けられている。また、ロール軸部には環状部材100の熱媒流路40に接続する熱媒流路40が形成されている。この熱媒流路40が実施例1における斜め穴4に相当する働きをする。同様に熱媒流路50が実施例1における斜め穴5に相当する働きをする。
【0032】
本
参考例においてもロール端部内側の温度低下を抑制することができ、ロールを昇温して温間プレス加工する際に、サーマルクラウンの発生を抑制することができる。
【0033】
本
参考例では、斜め穴の加工の必要がないので穴加工が容易となる。但し、回転体であるロールに環状部材を取り付ける必要があり、部品点数が増加する。この点、上述の実施例では、穴加工が若干難しくなるが、別に部材を設ける必要がない。
【0034】
本
参考例では環状部材100を設けて熱媒流路を形成しているが、例えば、ロール胴部表面の端部に未硬化領域を設けて、
図4に示すような熱媒流路を形成するようにしても良い。即ち、ロール胴部表面は硬化処理が施されており、穿孔することはできないが、未硬化領域を設けることによりロール胴部においても穿孔作業を行うことができる。この場合、未硬化領域は、
図4に示すように、ロール胴部よりも径を小さくする。そして、熱媒循環通路2をロール軸方向にロール端部まで穿孔し、熱媒流路40をロール胴部の未硬化領域からロール半径方向に中心穴10まで穿孔するようにする。熱媒循環通路の端部は
図1に示すように、加工後、栓が取り付けられる。また、熱媒流路50も同様に形成する。
【0035】
このような場合にも、先の実施例と同様に、ロール端部内側の温度低下を抑制することができ、ロールを昇温して温間プレス加工する際に、サーマルクラウンの発生を抑制することができる。
【0036】
また、上述の
実施例及び参考例の効果をさらに向上させるため、ロール端面に加熱ヒータや断熱材を配置することにより、さらに、ロール端部内側における温度低下を抑制することができ、従って、サーマルクラウンの抑制効果を向上させることができ、高精度なドリルドロールを実現することができる。
【0037】
図5に、本発明のドリルドロールを用いたロールプレス装置の一例の概略構成を示す。
図5では、ロール温度調節機構の図示は省略している。
【0038】
ロールプレス装置は、上下に対向配置された一対の加圧ロール(上ロール1a,下ロール1b)と、それらのロール軸を支持する軸受部を内蔵した軸受箱14と、軸受箱14を保持するロールハウジング15とを備える。ロール軸両端に配置された軸受箱14とそれに対応するハウジング15の下部との間には、加圧ロール間の間隙調整と加圧調整を行うための例えば油圧シリンダーなどの加圧機構16が設けられている。また、ロールのたわみ補正を行うためにさらにロールたわみ補正機構を設けても良い。例えば、軸受箱14の外側にたわみ補正用の軸受箱(ベンダー軸受箱)を設け、ベンダー軸受箱に、上ロール1aと下ロール1bを離間させる方向に力を与える油圧シリンダーを設ける。
【0039】
そして、本実施例では、加圧ロールの上ロール1a及び/又は下ロール1bに、上述の実施例のドリルドロールが用いられる。これにより、高精度な温間プレス加工を行うことができる。なお、本実施例では、加圧ロールが上下配置されているが、例えば、一対の加圧ロール(第一ロールと第二ロール)を水平方向に配置したロールプレス装置にも本発明を同様に適用できる。
【0040】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…ドリルドロールロール、2…熱媒循環通路、4,5…斜め穴、6…シールリング(仕切り)、7…熱媒供給配管、10,11…中心穴、13…連結管、40,50…熱媒流路、100…環状部材。