(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890292
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】ベーン型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/344 20060101AFI20160308BHJP
F04C 27/00 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
F04C18/344 361C
F04C27/00 311
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-225908(P2012-225908)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-77402(P2014-77402A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 士津真
(72)【発明者】
【氏名】島口 博匡
【審査官】
佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−221967(JP,A)
【文献】
特開2009−250063(JP,A)
【文献】
特開2009−209702(JP,A)
【文献】
実開平04−109490(JP,U)
【文献】
実開平03−122286(JP,U)
【文献】
実開昭62−008443(JP,U)
【文献】
特開2006−044561(JP,A)
【文献】
特開2003−148531(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0087334(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
F04C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のハウジング(2)と、前記ハウジング(2)内に収容される圧縮機構(3)と、を備えるベーン型圧縮機(1)であって、
前記圧縮機構(3)は、内部に楕円形状のシリンダ室(25)を有するシリンダブロック(7)と、シリンダ室(25)内に回転自在に配置されるロータ(13)と、ロータ(13)に形成されるベーン溝(31)に出没自在に収容されるベーン(11)と、ベーン溝(31)に収容されて前記ベーン(11)を突出する方向に付勢するコイルスプリング(37)と、前記コイルスプリング(37)の内周に配置されるガイドピン(17)と、からなり、
前記ガイドピン(17)の挿入端(20)近傍の前記コイルスプリング(37)を密着巻部(44)としたことを特徴とするベーン型圧縮機(1)。
【請求項2】
請求項1記載のベーン型圧縮機(1)であって、
前記コイルスプリング(37)に形成される密着巻部(44)の一部を他の密着巻部(44)よりも縮径した縮径部(50)を設けたことを特徴とするベーン型圧縮機(1)。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のベーン型圧縮機(1)であって、
前記コイルスプリング(37)の伸縮方向における端面が、前記コイルスプリング(37)の伸縮方向に対して直交していることを特徴とするベーン型圧縮機(1)。
【請求項4】
円筒状のハウジング(2)と、前記ハウジング(2)内に収容される圧縮機構(3)と、を備えるベーン型圧縮機(1)であって、
前記圧縮機構(3)は、内部に楕円形状のシリンダ室(25)を有するシリンダブロック(7)と、シリンダ室(25)内に回転自在に配置されるロータ(13)と、ロータ(13)に形成されるベーン溝(31)に出没自在に収容されるベーン(11)と、ベーン溝(31)に収容されて前記ベーン(11)を突出する方向に付勢するコイルスプリング(37)と、前記コイルスプリング(37)の内周に配置されるガイドピン(17)と、からなり、
前記ガイドピン(17)と前記コイルスプリング(37)との摺動速度が最も早い箇所に密着巻部(44)を設けることを特徴とするベーン型圧縮機(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーン型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、一般的なベーン型圧縮機は、ベーン溝が形成されるロータと、ベーン溝に出没自在に配置されるベーンとを有している。ロータが回転することによって、ベーンがベーン溝から飛び出してベーン型圧縮機の内壁に当接し、ロータが回転することによって冷媒を圧縮している。また、ベーンをベーン溝から飛び出させるために圧縮した冷媒の一部をベーンの底部である背圧室に供給し、冷媒がベーンの底部を押圧することによりベーンをベーン溝から飛び出させていた。
【0003】
しかし、圧縮機の起動直後では、圧縮した冷媒を背圧室に十分に供給することができず、ロータが回転することによって生じる遠心力だけではベーンをベーン溝から飛び出させることができないという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2に示すように、ロータベーン溝内にコイルスプリングを配置し、遠心力に加えて、コイルスプリングによってベーンをベーン溝から押し出す方向に付勢するということが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−100602号公報
【特許文献2】実公平8−538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に示すような従来の圧縮機では、圧縮機が動作することでベーンがベーン溝内で傾くことがあり、コイルスプリングの座屈を防止するガイドピンがコイルスプリングの内周に摺接し、特にガイドピンの先端部付近のコイルスプリングが破損するという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、コイルスプリングの破損を防止することのできるベーン型圧縮機の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明は、円筒状のハウジング2と、前記ハウジング2内に収容される圧縮機構3と、を備えるベーン型圧縮機1であって、前記圧縮機構3は、内部に楕円形状のシリンダ室25を有するシリンダブロック7と、シリンダ室25内に回転自在に配置されるロータ13と、ロータ13に形成されるベーン溝31に出没自在に収容されるベーン11と、ベーン溝31に収容されて前記ベーン11を突出する方向に付勢するコイルスプリング37と、前記コイルスプリング37の内周に配置されるガイドピン17と、からなり、前記ガイドピン17の挿入端20近傍の前記コイルスプリング37を密着巻部44としたことを特徴とする。
【0009】
また、前記コイルスプリング37に形成される密着巻部44の一部を他の密着巻部44よりも縮径した縮径部50を設けたことを特徴とする。
【0010】
さらに、前記コイルスプリング37の
伸縮方向における端面が、前記コイルスプリング37の
伸縮方向に対して直交
していることを特徴とする。
【0011】
また、上記の課題を解決するために、円筒状のハウジング2と、前記ハウジング2内に収容される圧縮機構3と、を備えるベーン型圧縮機1であって、前記圧縮機構3は、内部に楕円形状のシリンダ室25を有するシリンダブロック7と、シリンダ室25内に回転自在に配置されるロータ13と、ロータ13に形成されるベーン溝31に出没自在に収容されるベーン11と、ベーン溝31に収容されて前記ベーン11を突出する方向に付勢するコイルスプリング37と、前記コイルスプリング37の内周に配置されるガイドピン17と、からなり、前記ガイドピン17と前記コイルスプリング37との摺動速度が最も早い箇所に密着巻部44を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ガイドピン17の挿入端20近傍のコイルスプリング37を密着巻部44としたことにより、コイルスプリング37の内周がガイドピン17の挿入端20によって摩耗してしまっても、密着巻部44は剪断応力が発生しないので、密着巻部44の破損を防止することができる。
【0013】
また、密着巻部44に縮径部50を設けることにより、縮径部50が積極的にガイドピン17と摺接するため、コイルスプリング37の内周とガイドピン17とが接触することを防止することができる。
【0014】
さらに、コイルスプリング37の端部を加工することにより、コイルスプリング37をベーン11の後端部29に垂直に取り付けることができ、ガイドピン17との干渉を減らすことができるため、コイルスプリング37内周の摩耗量を減らすことができる。
【0015】
ガイドピン17とコイルスプリング37との摺動速度が最も早い箇所に密着巻部44を設けたことにより、上記効果と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明のコイルスプリング収縮時を示す圧縮機構の拡大断面図。
【
図3】本発明のコイルスプリング伸長時を示す圧縮機構の拡大断面図。
【
図4】(a)本発明のコイルスプリング収縮時を示す正面図、(b)本発明のコイルスプリング伸長時を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、ベーン型圧縮機1は、円筒状のハウジング2と、ハウジング2内に収容される圧縮機構3と、圧縮機構3に駆動力を伝達する電動モータ部4と、電動モータ部4を制御するインバータ部5と、を備えている。
【0019】
円筒状のハウジング2は、インバータ部5を収容するフロントハウジング2aと、圧縮機構3を収容するミドルハウジング2bと、電動モータ部4を収容するリアハウジング2cと、から構成されている。フロントハウジング2aとミドルハウジング2b間は、図示しないボルト等によって連結されている。また、ミドルハウジング2bとリアハウジング2c間もボルト等によって連結されている。
【0020】
フロントハウジング2aに収容されているインバータ部5は、後述する電動モータ部4の駆動を制御している。
【0021】
ミドルハウジング2bに収容される圧縮機構3は、内部に楕円形状を有するシリンダブロック7と、シリンダブロック7を狭持するように配置されるサイドブロック9と、シリンダブロック7の内側に回転自在に配置されるのロータ13と、ロータ13と一体に形成される駆動軸15と、複数枚配置される板状のベーン11と、ベーン11の後端部29側に配置されるコイルスプリング37と、コイルスプリング37の座屈を規制するガイドピン17と、を備えている。
【0022】
シリンダブロック7の内側にはシリンダ室25が形成されており、このシリンダ室25内にロータ13が回転自在に配置されている。このロータ13の中心には、駆動軸15が一体に連結されるとともに、駆動軸15の一端にはモータ軸23が連結されている。また、シリンダブロック7の両端部をサイドブロック9(フロントサイドブロック9a及びリアサイドブロック9b)によって狭持することで、シリンダ室25が密閉される。
【0023】
図2または
図3に示すように、シリンダ室25内に配置されるロータ13にはベーン溝31が設けられており、後述するベーン11が出没自在に収容されている。また、ベーン溝31には、ベーン11に突出圧力を付与するベーン背圧室33が形成されている。さらに、ベーン溝31の底部には、逃げ孔35が形成されており、後述するガイドピン17の一端が出没する。
【0024】
ベーン溝31に収容されるベーン11は、板状に形成されており、先端部27がシリンダブロック7の内壁39に沿って摺接することでシリンダ室25内で冷媒を圧縮している。また、ベーン11の後端部29には、ガイドピン圧入部41とコイルスプリング当接凹部43と、が形成されている。このコイルスプリング当接凹部43は、ベーン11の後端部から凹設して設けられており、コイルスプリング37一端部がコイルスプリング当接凹部43の底部に当接するとともに、コイルスプリング37の外径よりも大きく設けられている。コイルスプリング当接凹部43の底部には、後述するガイドピン17と同径の凹部が形成されてガイドピン17の圧入端18が圧入されるガイドピン圧入部41が形成されている。
【0025】
コイルスプリング37は、スプリング間が一定のピッチに形成されるコイル部45と、スプリング間のピッチが密着して形成される密着巻部44と、が形成されている。密着巻部44は、
図4に示すように、コイル部45と同じ外径に形成される密着コイル部47と、端部に向けて拡径するテーパ部49と、が形成されている。また、密着コイル部47の一部には、他の密着コイル部47よりも縮径された縮径部50が設けられている。
【0026】
この縮径部50の内径は、ガイドピン17の外径とほぼ同径に形成されて、縮径部50の内径とガイドピン17の外周とで摺接している。なお、密着巻部44は、ガイドピン17とコイルスプリング37との摺動速度が最も早い箇所に設けている。さらに、コイルスプリング37の両端部は、コイルスプリング37の長さ方向に対して、直交する方向、または垂直方向に加工している。
【0027】
コイルスプリング37の内周に配置されてコイルスプリング37を座屈を防止するガイドピン17は、一端側をガイドピン圧入部41に圧入する圧入端18と、他端側で逃げ孔35内を出没する挿入端20と、が構成されている。
【0028】
リアハウジング2cに収容される電動モータ部4は、コアにコイルを巻線した固定子19と、磁性材料によって形成されたモータロータ21と、駆動軸15と連結されているモータ軸23と、を備えている。
【0029】
固定子19は、リアハウジング2cの内周に沿って複数個配置されている。モータロータ21は、モータ軸23に圧入して連結されている。また、モータ軸23の一端側が駆動軸15に連結されている。
【0030】
次に、本実施例のベーン型圧縮機1の動作について説明する。
【0031】
まず、インバータ部5によって、電動モータ部4の駆動制御を行う。インバータ部5からの制御によって、固定子19に電流が流れることにより固定子19の周囲に磁力が発生し、この磁力によってモータロータ21が回転する。このモータロータ21が回転することにより、モータロータに連結されたモータ軸23が回転するとともに、モータ軸23に連結されている駆動軸15が回転する。
【0032】
駆動軸15が回転することにより、駆動軸15と一体に形成されたロータ13が回転し、ロータ13に形成されたベーン溝31からベーン11が遠心力とコイルスプリング37の付勢力によってベーン11が飛び出す。すなわち、
図2に示すコイルスプリング37が収縮した状態から
図3に示すコイルスプリング37が伸長した状態となる。
【0033】
ベーン11がベーン溝31から飛び出すことにより、ベーン11に圧入されたガイドピン17がコイルスプリング37の内周を移動するが、コイルスプリング37の密着巻部44に設けた縮径部50が、積極的にガイドピン17と摺接するため、ガイドピン17が傾くことを防止するとともに、ガイドピン17の先端部、つまり挿入端20付近のコイルスプリング37の破損を防いでいる。
【0034】
遠心力とコイルスプリング37の付勢力によってベーン溝31から飛び出したベーン11の先端部27とシリンダブロック7の内壁39との間で冷媒を圧縮し、図示しない吐出室へ圧縮した冷媒を吐出する。
【0035】
このように、ガイドピン17の挿入端20近傍のコイルスプリング37を密着巻部44としたことにより、コイルスプリング37の内周がガイドピン17の挿入端20によって摩耗してしまっても、密着巻部44は剪断応力が発生しないので、密着巻部44の破損を防止することができる。
【0036】
また、密着巻部44に縮径部50を設けることにより、縮径部50が積極的にガイドピン17と摺接するため、コイルスプリング37の内周とガイドピン17とが接触することを防止することができる。
【0037】
さらに、コイルスプリング37の端部を加工することにより、コイルスプリング37をベーン11の後端部29に垂直に取り付けることができ、ガイドピン17との干渉を減らすことができるため、コイルスプリング37の内周の摩耗量を減らすことができる。
【0038】
ガイドピン17とコイルスプリング37との摺動速度が最も早い箇所に密着巻部44を設けたことにより、上記効果と同様の効果を得ることができる。
【0039】
なお、本実施例のコイルスプリング37では、テーパ部49とコイル部45が連続して密着巻きとなっているが、必ずしも連続してテーパ部49とコイル部45を密着巻きとしなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ベーン型圧縮機に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ベーン型圧縮機
2 ハウジング
3 圧縮機構
11 ベーン
13 ロータ
17 ガイドピン
20 挿入端
25 シリンダ室
31 ベーン溝
37 コイルスプリング
44 密着巻部