(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記材料の性質が、透過係数を使用して、既知の材料係数を含む平面内に算出した係数を位置決めすることによって、厚さの関数として決定されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
前記X線放射源と前記検出器との間に材料が挿入されていないとき、前記X線放射源からの放射のエネルギースペクトルを測定する事前段階をさらに有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
前記検出器(2)が、CdTeもしくはCdZnTeもしくはCdMnTe、またはHgI2、またはAsGa、またはSi、またはTlBrの半導体から作られた検出器であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0074】
図1Aを参照して、本発明によるデバイスの例示的な実施形態を示す。このデバイスは、分析システム1であり、
- たとえば入射光子の最小線束が10
6 mm
-2 s
-1〜10
7 mm
-2 s
-1である放射200を放出する放射源1と、
- たとえばCdTeもしくはCdTe:Cl、またはCdTe:InもしくはCdZnTeなどの半導電性材料から作られたセンサ2、たとえば直接変換センサとを備え、このセンサは、2つの電極を備え、これらの電極の端子で、信号が、放射または光子とセンサ材料の間の相互作用、およびこの相互作用によって生成されるセンサの材料内での1群の電荷の生成を変換する。このセンサはたとえば、2つの対向する面上に2つの電極を備える平行六面体の形状とすることができ、これらの電極はたとえば、入射放射に対して垂直になるように構成される。
【0075】
使用できる別のタイプのセンサは、シンチレーションタイプのセンサまたは電離箱、通常、相互作用によって堆積されるエネルギーに比例する振幅を有する信号を出力することが可能である任意のタイプのセンサであり、好ましい検出器は半導体であり、特に周囲温度で動作する半導体、たとえばCdTe、CdZnTe、CdMnTe、HgI2、AsGa、Si、TlBrなどである。
【0076】
電子分析回路に接続されたそのようなセンサの1つの利点は、明確なエネルギー範囲に対応する信号を取得できることである。デバイスはまた、
- 電荷前置増幅器4と、
- 増幅器6と、
- アナログ/デジタル変換器8と、
- 手段4、6、および8によって成形およびデジタル化された信号を処理して放射スペクトルを形成する手段10と、
- 本発明に準拠する方法を使用するスペクトル処理手段12とを備える。アナログデジタル変換器の入力側には、たとえば特に信号の成形を可能にする遅延線回路に基づいて、他の処理手段を提供することもできる。
【0077】
放射スペクトルとは、検出されたパルスの振幅のヒストグラムであり、少なくとも2つのチャネルを含み、各チャネルは、明確な振幅範囲に対応する。パルスの振幅は、相互作用によって検出器内に堆積されるエネルギーに比例するため、そのようなスペクトルも、検出された相互作用のエネルギーのヒストグラムである。
【0078】
チャネルの数はNcに等しく、したがってNc≧2になる。各チャネルはパルスを含み、エネルギーはEi〜Ei+ΔEiである。ΔEiは、各チャネルに対して同一とすることができ、したがって、すべてのチャネルiに対してΔEi=ΔEであり、このときΔEは定数である。
【0079】
デバイスが使用されているとき、放射源と検出器の間に材料サンプル100が配置され、したがって材料サンプル100を特徴付けることができる。この材料サンプルは、試験材料と呼ぶこともできる。
【0080】
手段12は具体的には、スペクトルデータおよび本発明による方法を使用するためのデータ、たとえば透過スペクトルデータIおよびI
0、および/もしくは係数データμ(E)、または通過する材料の厚さを記憶および処理するようにプログラムされたコンピュータまたはマイクロコンピュータまたはコンピュータを備える。したがって、後述する透過係数α
1およびα
2を計算することができる。
【0081】
より正確には、中央演算処理装置16が、透過スペクトルデータIおよびI
0から開始して透過の関数としてデータを使用し、本発明による処理方法を実施するようにプログラムされる。
【0082】
これらの手段12はまた、放射線放出を誘発するように、そして検出器2を使用して1つまたはいくつかの測定を行うように、X線放射源1を制御することができる。
【0083】
これらの電子手段12を使用して、放射源および検出器が誘発されたことを同時に確認することができる。
【0084】
これらの手段12を使用して、
図7の平面のような平面内に推定された係数α
1およびα
2を位置決めし、試験材料の性質を導出することもできる。
【0085】
操作者は、手段12を使用して、これらの動作を実行するための1つまたはいくつかのパラメータを選択することができる。
【0086】
具体的には、操作者は、エネルギー帯域の数Nを選択することができ、ここでN≧2であり、ここから開始して、透過係数α
n、n≧2を計算することができる。各透過係数は、所与のエネルギー帯域内の透過関数に統計的大きさを適用することによって計算される。たとえば、この指標は、当該のエネルギー帯域内の透過関数の積分または平均とすることができる。
【0087】
N=2であるとき、これらのエネルギー帯域は、いわゆる低エネルギー区間およびいわゆる高エネルギー区間に対応し、第1の透過係数α
1は、低エネルギー帯域に対応すると判定され、第2の透過係数α
2は、高エネルギー帯域に対応すると判定される。
【0088】
測定スペクトルIおよびI
0、ならびに1つもしくはいくつかの透過関数、ならびに/または
図6および7に示すような表現を、画面または表示手段17上に表示することができる。操作者はまた、これらの表示手段を使用して、上述した係数を計算するために使用される低エネルギーおよび高エネルギー区間を画定または選択することができる。
【0089】
そのようなデバイスはまた、デジタル電子機器および関連処理、たとえば欧州特許第2071722号(特許文献2)に記載のようなエネルギースペクトルを処理およびデジタル化する回路に加えて、パルスを不等辺四辺形の形状にする遅延線を使用する。したがって、数msという測定時間内に256個のチャネル上で、分光測定を得ることができる。
【0090】
図1Bに示すこのデバイスは主に、
- 半導体検出器2に接続できる積分器タイプの電荷前置増幅回路20(抵抗14は、検出器2に付随する分極抵抗を示す)と、
- 前置増幅回路からの出力部に接続された遅延線エネルギー測定回路22(遅延線32、第1の利得34、減算器36、および第2の利得38を備える)と、
- エネルギー測定回路からの出力部に接続されたサンプラとを備える。
【0091】
このデバイスはまた同期回路52を備え、同期回路52は、
- 前置増幅回路20からの出力部に接続され、前置増幅回路の出力とこの出力の導関数の差を求める電流パルス測定回路56と、
- パルス測定回路56からの出力の関数として2値信号を形成する判別回路66とを備え、前記論理回路は、サンプラのサンプリング時間を制御する。
【0092】
この図では、参照符号1および100は、
図1Aの場合と同じ意味を有する。
【0093】
上述した手段12などの手段をこの回路と組み合わせて、本発明による方法を実施するデバイスを作製することができる。
【0094】
この回路の他の態様は、欧州特許第2071722号(特許文献2)に記載されている。
【0095】
さらに、
図15〜23Bを参照して後述する回路を使用することが好ましいはずである。この場合も、上述した手段12のような手段をこの回路と組み合わせて、本発明による方法を実施するデバイスを作製することができる。
【0096】
仏国特許第0956844号(特許文献3)または仏国特許第0958506号(特許文献4)に記載されている回路を使用することもできる。
【0097】
本発明によるデバイスを使用して、入射ビームのスペクトルI
0の測定を行うことができ、このスペクトルを、多数の取得にわたって平均して、光子の雑音の影響を最小にすることができる。このスペクトルI
0は、放射源と検出器の間に材料(試験材料または標準的な材料)がないときに検出器によって検出される放射スペクトルである。
【0098】
次いで、ビームの前に、分析すべき物体100(
図1A、通常は手荷物、またはより一般には分析すべき材料のサンプル)が位置決めされ、選択された期間、たとえば数百μs〜数100ms、一般には10msまたは数十ms未満にわたって、この物体を透過する放射のスペクトルIが測定される。このスペクトルIは、平均してもしなくてもよいが、平均しないことが好ましい。
【0099】
このように行ったこれらの測定の一例を
図2に示し、
図2は、2つのスペクトルIおよびI
0を示す。
【0100】
通常、透過関数とは、所与のエネルギーに対して、または所与のエネルギー範囲にわたって、物体を透過する放射の強度と物体に入射する放射の強度を比較する関数である。
【0101】
この比較は、比によって行われることが好ましく、したがって透過関数は、所与のエネルギーにおける物体を透過する放射の強度とこの物体に入射する放射の強度の比を求めることによって得られる。
【0102】
したがって、I
0(E)が、エネルギーEに関して、1単位時間当たりの入射光子の数を示す場合、そしてIが、エネルギーEに関して、1単位時間当たりの物体を透過する光子の数を示す場合、透過関数は、I(E)およびI
0(E)から、これらの比を求めることによって得ることができる。
【0106】
μ(E)が、エネルギーEに関して、物体が作られた材料の線形減衰係数を示す場合、そしてlが、放射が通過する物体の厚さを示す場合、
I(E)=I
0(E)e
-μ(E)l
となることが知られている。
【0107】
さらに、物体が作られた材料の線形減衰係数の線形依存関数を得るには、前述した比の対数を使用して材料内の光子の透過を表せることが有利である。この場合、透過関数は、
【0110】
この関数は通常、減衰関数と呼ばれる。
【0111】
したがって、本出願では、透過関数という用語は、
- 所与のエネルギーで物体を透過する放射の強度と物体に入射する放射の強度の比から得られる関数、たとえば
【0113】
- または、前の段落内に記載した比の対数から得られる関数、たとえば
【0115】
を指し、この関数はまた、場合によっては減衰関数と呼ばれる。これは、本出願の残り全体にわたって使用する定義である。
【0116】
IおよびI
0はそれぞれ、物体を透過する放射の強度、および物体に入射する放射の強度を示すことに留意されたい。通常、IおよびI
0は、線束(1秒当たりの光子の数)であるが、本質的に、フルエンス率(1単位面積当たりの1秒当たりの光子の数)または所定の時間中に検出される光子の数ということもできる。
【0117】
IおよびI
0は同次であり、同じタイプの大きさを示す。Iは、材料と放射源の間に物体が存在する状態で検出器によって測定され、I
0は、材料がない状態で測定され、または放射源の放出パラメータが分かれば計算によって判定される。
【0118】
この説明では以下、IおよびI
0はそれぞれ、1単位時間当たりの物体を透過する光子の数、および1単位時間当たりの物体に入射する光子の数である。
【0119】
所与のエネルギーEで所与の線形減衰係数μ(E)を有する所与の材料に対して、透過関数のネイピア対数は、材料の厚さとともに線形に変動する。
【0120】
図3は、異なる厚さ(20mm、30mm、40mm、50mm)を有する単一の材料(デルリン)に対する透過関数を示す。異なる透過関数は、互いに比例することが分かる。
【0121】
図4は、同じ厚さ(40mm)を有する異なる材料の透過関数を示し、透過関数が2つの異なる材料(換言すれば、異なる性質を有する材料)を最もうまく判別できるエネルギー範囲を判定する。
【0122】
この図では、これらの関数はすべて、同じ全体的な形状を有するが、これらの材料の性質に応じて材料を区別できることが分かる。これらの関数は、高エネルギー範囲(70keV超)では互いに比例するが、これらの関数の形状は、低いエネルギー(70keVまたはさらには50keV未満)ではよりうまく区別することができる。
【0123】
したがって、透過関数の分析は、物体を特徴付ける手段である。
【0124】
この関数は、物体の署名、基準厚さに対する増倍率による物体の厚さの署名、およびこの曲線の形状を判定する物体の材料の署名を形成する。
【0125】
複数の測定で得られるこれらの結果の平均を求めることができ、それによって光子の雑音を低減させることができる。したがって、
図5Aは、異なる密度を有する3つのプラスチック材料、具体的にはテフロン(登録商標)(曲線I)、デルリン(曲線II)、およびポリエチレン(曲線III)に対して100回の測定から得られる平均を示す。
【0126】
デルリンの利点は、その特性(密度および原子数)が、頻繁に使用される爆発物の特性に類似していることである。
【0127】
一実施形態によれば、2つのエネルギー帯域(N=2)について、第1のいわゆる低エネルギー帯域(2つの値BE
minおよびBE
maxによって制限される。
図5B参照)と、第2のいわゆる高エネルギー帯域(2つの値HE
minおよびHE
maxによって制限される)とを用いて考慮することができる。
【0128】
より正確には、これらの2つの区間は、以下の基準の一方または両方によって識別することができる。これらの区間はそれぞれ比較的広く、幅は、5keV〜50keV、好ましくは15〜50keVである。低エネルギー区間と呼ばれる特に関連する第1の区間は、22〜40keVであり、第2のいわゆる高エネルギー区間は、50〜120keV、非常に有利には54〜112keVで選択することができる。
【0129】
どちらの区間にも、電子雑音タイプの外乱(低いエネルギーに影響を与える)がないことが好ましい。具体的には、特に高いエネルギーで、過剰に低い統計を有する区間が回避される。
【0130】
これらの区間は、透過関数に明白な歪みがないチャネルに制限されることが好ましく、したがってスペクトルの極端なチャネルを回避する。
【0131】
また、第1の区間では、透過関数は、互いに著しく異なる挙動を示し(低エネルギー)、第2の区間では、透過関数は、互いに対して比較的平行である(これは、高エネルギーの場合である)ことが好ましい。したがって、第1の区間は非常に感度がよく、換言すれば、材料の性質に応じて、および/または材料の厚さに応じて著しく変動し、第2の区間は、第1の区間ほど、材料の性質および/または材料の厚さの関数として変化しない。
【0132】
エネルギー変数に対する透過曲線の積分は、これらの2つの区間のそれぞれにおいて計算することができる。しかしながら、積分以外の統計的大きさ、たとえば平均値を使用することもできる。
【0133】
統計的大きさとして積分が選択される場合、2つの係数が計算され、それぞれ、これらの2つの区間内それぞれのエネルギーに対する透過関数の積分に等しい。
【0134】
たとえば透過関数をTR
PE200(E)と示すポリエチレンの場合、
【0139】
たとえばテフロンおよびデルリンに対して同じ係数を計算し、識別のために互いに比較することができる。
【0140】
2つの係数α1およびα2は、透過関数から計算され、これは、短い積分時間(数ms)で行うことができる。
【0141】
積分時間に対応する各測定に対して、座標(α1, α2)を有する点が平面内に表される場合、たとえば1000回の連続する測定に対して得られる結果は、
図6に示すように、同一の座標または非常に類似した座標を有する点の集まりとなる。
【0142】
特徴的な材料のいくつかの厚さに対して得られる結果を、常に(α1, α2)平面内で
図7に示し、材料の透過関数を分析してこれらの材料の性質および厚さを識別するこの方法の性能を実証する。
【0143】
単一の材料の場合、テフロンは直線I上に、デルリンは線II上に、そしてポリエチレンは線III上に、点の集まり(各点に対して1回の測定)が位置合わせされる。
【0144】
厚さ(mm単位で表す)の変動により、この集まりは、集まりに該当する直線に沿って動く。この集まりは、単一の材料および異なる厚さに対する座標(α
1, α
2)を有するすべての点に対応する。この集まりまたはこの集合の点は、単一の材料の場合、異なる測定を補間することによって判定することができ、それによって異なる厚さに対応する係数(α
1, α
2)を計算することができる。
【0145】
その結果、異なる標準的な材料を使用することができ、それぞれの標準的な材料に対して標準的な点の集合を判定することができ、標準的な点の各集合は、単一の標準的な材料の異なる厚さに対応する標準的な点(α
standardmaterial1, α
standardmaterial2)から判定される。座標(α
standardmaterial1, α
standardmaterial2)を有する標準的な点は、測定によって、または単一の標準的な材料の異なる厚さを用いたいくつかの測定の補間によって得ることができる。
【0146】
したがって、2つの係数(α1, α2)を使用して、試験材料の性質および/または厚さを判定することができる。(α1, α2)平面におけるこの位置決め動作は、手段12を使用して自動的に行うことができる。たとえば、座標(α1, α2)を有する点に最も近い標準的な点の集合を判定することができる。これは、試験材料の性質を判定することができる。そのような材料の厚さを判定する必要もある場合、最も近い標準的な点を判定することができ、このとき試験材料の厚さは、最も近い標準的な点(α
standardmaterial1, α
standardmaterial2)に対応する厚さに等しいと見なされる。
【0147】
本発明による方法では、上述したように、I
0およびIの測定(または推定)が行われる。
【0148】
次いでシステムは、各エネルギーチャネルに対する透過関数TR(E)をリアルタイムで計算する。これは、
【0151】
したがって結果は、
図4に示すように、エネルギーの関数としてビームが通過する材料に対応する透過関数である。
【0152】
次のステップは、たとえば手段12、16、および17を使用してB、H帯域を選択し、次いで2つの係数α
1、α
2を計算することである。このとき、
図7を参照して上述したように、観察される材料の性質および厚さを判定することが可能である。
【0153】
図7のデータは、データ処理デバイス内に記憶することができる。
【0154】
2つの係数α
1、α
2はまた、そのようなデバイスによって、
図7の平面内に位置決めすることができる。換言すれば、方法全体を自動化することができる。
【0155】
一般に、測定される材料の性質および/または厚さは、測定される透過係数(α1, α2)の値と1対またはいくつかの対の標準的な透過係数(α1
standardmaterial, α2
standardmaterial)を比較することによって判定され、これらの対の標準的な透過係数(α1
standardmaterial, α2
standardmaterial)は、同じエネルギー帯域の場合、既知の性質および厚さを有する1つまたはいくつかの標準的な材料に対応する透過関数から得られると理解することができる。
【0156】
ここまで、透過関数TR(E)の2つのエネルギー帯域を区別し、各帯域を使用して透過係数αi、1≦i≦2を定義する一実施形態について説明してきた。しかしながら、本発明は、N個の透過係数αi、1≦i≦N、場合によってはN>2の判断に一般化することができ、各係数αiは、エネルギーに対する透過関数のスペクトルエネルギー帯域に該当する統計的大きさ、たとえば積分から判定される。
【0157】
次いで、この測定は、N個の次元を有する空間内で表すことができ、このときこの空間内の各軸は、透過係数α
iの値を表す。したがって、N個の次元を有するこの空間内には、各測定に対応する点が存在し、その座標は、(α
1, α
2, …, α
N)に等しい。
【0158】
未知の材料で判定される透過係数(α1, α2, …, αN)の各組は、既知の性質および厚さを有する1つまたはいくつかの標準的な材料で得られる標準的な透過係数(α
istandardmaterial, …, α
Nstandardmaterial)の1つまたはいくつかの組と比較することができる。
【0159】
標準的な透過係数の各組または標準的な組は、既知の性質および厚さを有する標準的な材料で透過関数TR(E)を判定することで得られる。換言すれば、それぞれの標準的な材料に対して透過関数が作られ、N個のエネルギー帯域が選択され、これらのエネルギー帯域のそれぞれにおいて指標αiが作られる。本質的に、試験材料の透過係数(α1, α2, …, αN)および標準的な透過係数(α
istandardmaterial, …, α
Nstandardmaterial)を判定するために使用されるエネルギー帯域および統計的大きさは同じであることが好ましいことが理解されるであろう。
【0160】
同じ性質を有するが厚さが異なる材料に対応するいくつかの標準的な組を補間することによって、所与の性質および厚さを有する標準的な材料に対して標準的な組を判定することも可能である。
【0161】
それぞれの標準的な材料に対する標準的な点の集合を画定することも可能なはずであり、各集合は、同じ標準的な材料に対応する標準的な組を含む。Nの値に応じて、この集合は、直線(たとえば、N=2の場合)、または3D表面(たとえば、N=3の場合)の形式とすることができる。
【0162】
未知の材料に対応する透過係数組(α1, α2, …, αN)が判定されたとき、この組(α1, α2, …, αN)と異なる標準的な組を比較することによって、前記未知の材料の性質および厚さを得ることができる。
【0163】
試験材料(α1, α2, …, αN)の各組は、たとえば組(α1, α2, …, αN)とそれぞれの標準的な材料の各標準的な組(α
istandardmaterial, …, α
Nstandardmaterial)の間の距離の測定を行うことによって、1つまたはいくつかの標準的な組(α
istandardmaterial, …, α
Nstandardmaterial)と比較することができる。このとき試験材料の性質および厚さは、最も近い座標を有する標準的な組によって表される標準的な材料の性質および厚さに対応する。
【0164】
たとえば、ユークリッド距離を使用することができる。
【0165】
材料の性質だけを判定することも可能なはずである。この場合、材料の性質は、最も近い標準的な組に対応する標準的な材料の性質、または標準的な点の最も近い集合の性質であると仮定する(標準的な組の集合は、同じ標準的な材料に対応する標準的な点の群に対応することを銘記されたい)。
【0166】
たとえばこの材料の性質が既知であると仮定する場合、材料の厚さだけを判定することも可能なはずである。この場合、この材料の厚さは、最も近い標準的な組に対応する標準的な材料の厚さと仮定する。
【0167】
本発明による方法の使用の一例は、
- 入射ビームのエネルギースペクトルの測定を行うステップと、
- 特徴付けるべき物体100を入射ビームの経路上に位置決めし、透過したビームのスペクトルを測定するステップと、
- エネルギー範囲全体にわたってすべてのチャネルで、物体の透過関数、たとえば
【0169】
を計算するステップと、
- 2つの透過係数を計算するステップであって、第1の係数α
1が、低エネルギーチャネル上の透過関数を合計することによって得られ、第2の透過係数α
2が、高エネルギーチャネル上の透過関数を合計することによって得られ、特に透過関数の歪み区間を回避するため、加算間隔が上述のように選択されることが好ましい、ステップと、
- これらの2つの係数を使用して、識別すべき物体の性質および厚さを識別するステップとを含む。
【0170】
本発明を使用すると、高速分析にかけられる非常に短い時間で材料の透過関数を分析することによって、材料を区別できるのに十分な数のエネルギーチャネル上で、たとえば数秒程度またはそれ以下の持続時間で、高輝度の放射下において高速分析を行うことができる。
【0171】
比較すると、導入部で述べた周知のシステムは、カウンタを伴う検出器を使用しており、したがって各検出器からくる光子を計数することが可能であるが、1つまたはいくつかの判定されたエネルギー帯域内で検出された光子を選択するには十分でない。本発明とは異なり、これらのシステムは、いかなる分光測定も行わないが、分光測定は、単一の検出器から開始してエネルギーの関数として透過関数を得るために使用できるため、材料の識別に非常に役立つことができる。
【0172】
測定が迅速に行われるとき、特に手荷物での測定に適用される場合、光子放射は高輝度であり、フルエンス率は通常、10
6 photons/mm
2/s〜10
7 photons/mm
2/sである。このタイプの適用では、測定時間は短く、通常、数十ms未満、またはさらには約10msである。
【0173】
したがって、重なり現象によって妨害されるスペクトルを検出および補正することが可能な信号処理方法を、優先的に使用することができる。
【0174】
本発明の範囲内で使用できるそのような方法を、
図8A〜14Bを参照して以下に示す。
【0175】
スペクトルSp
0を有する入射X線200から開始し、センサ2およびたとえば処理手段4〜12、または
図1Bのデバイスもしくは
図15〜20の1つによるデバイスを使用して、スペクトルSp
mesが測定される。露出時間、すなわちこのスペクトルを取得するのに必要な時間を、T
expoとする。
【0176】
そのようなスペクトルは、光子重なり現象から発生する外乱を含む。
【0177】
所与のエネルギーEにおける入射放射200の光子の数を、Sp
0(E)と示す。
【0178】
各光子が少なくとも1つの他の光子と重なる確率を、P
meanとする。
【0179】
このとき、エネルギーEで測定されるスペクトルは、以下の等式によって、入射スペクトルから導出することができる。
Sp
mes(E)=Sp
0(E)×(1-P
mean)+Emp(E)
【0180】
係数(1-P
mean)×Sp
0(E)は、重なっていないすべての光子を表す。
【0181】
項Emp(E)は、重なったスペクトルSp
0(換言すれば、「重なりスペクトル」)におけるすべての光子の、エネルギーEでの測定への寄与である。Emp(E)は、入射スペクトルSp
0、ならびに非常に近接した時点で、換言すれば、重なり状況で検出される光子に関して、センサ2および電子手段4〜10によって形成されるシステムの挙動に依存する。
【0182】
不動時間T
deadが定義される。これは、2つの相互作用(2つの事象)を分離する最小時間であり、この時間を下回ると、2つの事象のうちの1つだけが検出される。
【0183】
センサ上の2つの入射光子に対して、センサ2内の光子の相互作用時間t
1がセンサ2内の他の光子の相互作用時間t
2から、T
dead未満の持続時間だけ、時間的に分離される場合、換言すれば、|t
2-t
1|≦T
deadである場合、持続時間T
expoにわたって重なりが発生する。
【0184】
検出器2内の光子の到達は、持続時間T
expo全体にわたって等しく起こりうると仮定し、したがってこれらの2つの相互作用が重なる確率は、
P
0=2×T
m/T
expo
に等しい。
【0185】
逆に、
- 入射光子によって発生する相互作用が別の光子によって発生する相互作用と重ならない確率は、1-P
0であり、
- この同じ相互作用が別の光子の別の相互作用と重ならない確率は、独立した事象であるため、異なる事象の確率の積に等しい。
【0186】
したがって、入射光子によって発生する相互作用が別の光子によって発生する少なくとも1つの他の相互作用と重なる確率P
meanは、
P
mean=1-(1-P
0)
N-1
に等しく、上式で、Nは、検出された光子の数であり、換言すれば、入射スペクトル内で測定されたヒット数
【0189】
以下、エネルギーは離散化されるため、分光センサの第iのチャネル内に重なりをもたない、検出される光子のエネルギー範囲を、E
iと示す。すべての重なりが正確に2つの光子の重なりである近似を使用して、重なりスペクトルを推定する。
【0190】
この近似の限界について、以下に検討および議論する。
【0191】
重なり状況でセンサによって2つの光子が吸収されるとき、1つの事象だけが計数される。
【0192】
この態様についてよく理解するために、
図8は、実験的分析システム上で行われる測定を示し、より正確には電子回路による成形後のある時点で2つの粒子によって生成されるパルスを示す。
【0193】
タイムシフトが短い(第1の光子の相互作用時間t
1および他の光子の相互作用時間t
2が、不等式|t
2-t
1|≦T
deadを満たす)場合、1つの相互作用だけが計数され、タイムシフトが約T
deadを上回る場合、2つの光子に対応する2つの相互作用が計数される。
【0194】
さらに、単一の相互作用が計数されるとき、エネルギーは、これらの光子のうちの1つによって堆積されたエネルギーに対応するのではなく、異なるエネルギーに対応する。重なりスペクトルEmp(E)は、測定スペクトルSp
mes(E)のうち、重なりに起因する部分の推定に対応する。これは、重なり状況で2つの相互作用に対して計数された単一の事象が測定されるエネルギーを定量化することによって得られる。この重なりスペクトルの推定は、次の2つのステップで行われる。
- 第1のステップは、2つの光子による重なり関数をモデル化することである。
- これらの関数は、すべての可能なエネルギー対E
i、E
jにわたって合計され、ここで、1≦i≦Ncおよびj≦i≦Ncであり、Ncは、重なりスペクトルを推定するためのチャネルの数である。
【0195】
2つの光子による重なり関数、またはより正確には2つの光子によって発生した相互作用による重なり関数の最初の推定を行うために、1対の光子が検出器内にエネルギー(E
i、E
j)を堆積させるものと仮定する。
【0196】
2つの光子の到達時間間のシフトΔtの関数として測定されたエネルギーをこの対に関連付ける関数を、重なり関数と呼ぶ。
【0198】
換言すれば、重なり関数F
Ei,Ejは、エネルギーEiおよびEjによる2つの重なった相互作用間のタイムシフトと、この重なりに割り当てられるエネルギーとの間の関係を作る。
【0199】
この関数をモデル化するために使用される方法の一例を挙げる。これは、後に説明するように、シフトΔtの減少関数である。
【0200】
この関数は、Δt=0で最大値E
i+E
jに到達する。このときこれは、一致検出であり、したがって、相互作用した2つの光子は分離できないものであり、これらのエネルギーは加算される。
【0201】
この関数の最小値は、maximum(E
i, E
j)である。測定されるエネルギーは常に、検出器内に最も高いエネルギーを堆積させた光子によって堆積されるエネルギー以上、換言すれば、max(E
i, E
j)のままである。
【0202】
これを
図9に示す。
図9では、上の図は、最も高いエネルギーmax(E1, E2)を有する光子に対して測定されるエネルギーを示し、下の図は、最も低いエネルギーmin(E1, E2)を有する光子に対して測定されるエネルギーを示す。
【0203】
タイムシフトがない場合(一致検出の場合)、光子のエネルギーの和(すなわち、E
1+E
2=max(E
1, E
2)+min(E
1, E
2))に等しいエネルギーを有する事象が測定されるため、この測定は歪んでいる。
【0204】
不動時間以上のシフトの場合、2つの光子はそれぞれ、それ自体のエネルギーで測定される(最も高いエネルギーの光子はmax(E1, E2)であり、最も低いエネルギーの光子はmin(E
1, E
2)である)。
【0205】
中間のタイムシフトの場合、E
1+E
2間のエネルギー変数を有する事象が測定される。これは、間隔[0, T
dead]にわたって減少する連続関数であることが分かる。
【0206】
したがって、タイムシフトの関数として測定されるエネルギーのこの関数は、反転させることができる。F
-1と示すこの逆関数を使用して、次のように、最大値E
i+E
jと最小値max(E
i, E
j)の間のエネルギーと時間間隔を関連付ける。
【0208】
エネルギー範囲は離散化されるため、この逆関数F
-1EiEj(E
k)は、次のように判定される。
- 間隔[max(E
i, E
j), E
i+E
j]内にE
kが含まれる場合、F
-1EiEj(E
k)は、エネルギーE
iおよびE
jによる2つの相互作用間のタイムシフトであり、このシフトの結果、エネルギーE
kによる重なりが生じる。
- E
kが間隔[max(E
i, E
j), E
i+E
j]の範囲外である場合、F
-1EiEj(E
k)=0であり、可能な値の範囲外であるため、そのようなエネルギーを供給しうるタイムシフトはない。
【0209】
上記の関数Fの重みを考慮すると、この逆関数F
-1EiEj(E
k)は、エネルギーE
iおよびE
jによる2つの相互作用間の時間差を表し、したがってこれらの相互作用は、エネルギーE
kによる単一の相互作用と見なされる。
【0210】
この関数F
-1EiEj(E
k)は、線形になるように選択することができる。
【0211】
ここで、基本的な重なりスペクトルを計算することができる。
【0212】
エネルギーE
iを有する光子とエネルギーE
jを有する光子の間の重なりによって生成されるスペクトルを計算する。
【0213】
これは、エネルギー間隔[max(E
i, E
j), E
i+E
j]を、それぞれ分光センサのチャネル幅を有するエネルギーチャネルE
kに離散化することによって行われ、したがって、
【0215】
個のチャネルが得られる。上式で、ΔEは、各チャネルに対応するエネルギー範囲に対応し、この場合この範囲は、Nc個のチャネルのそれぞれに対して同一であると仮定する。kの各値に対して、エネルギーチャネルE
kに関連する時間間隔δt
i,j(k)は、以下の等式によって得られる。
δt
i,j(k)=F
EiEj-1(E
k+1)-F
EiEj-1(E
k)
【0216】
Sp
0(E
j)で示すエネルギーE
jを有する光子の少なくとも1つが、エネルギーiを有する光子に対するF
-1EiEj(E
k)〜F
-1EiEj(E
k+1)の時間間隔内に入る確率を推定することができる。
【0218】
P
i,j(k)は、エネルギーE
iを有する光子がエネルギーE
jを有する光子に重なることが、重なり関数のエネルギーE
kに与える寄与である。
【0219】
換言すれば、エネルギーE
kに対応する各チャネル(k)に対して、P
i,j(k)は、このチャネル内で計数される事象が、対応するエネルギーE
iおよびE
jで、T
dead未満の持続時間によって時間的に分離される2つの相互作用の重なりに対応する確率を表す。P
i,jを重なりの確率と呼び、1≦i≦Ncおよび1≦j≦Ncまたはi≦j≦Ncで対(i, j)と同じ数の重なりの可能性P
i,jがある。
【0220】
次いで、各チャネルkに対して、各対iおよびjに対して事前に定義された重なりの可能性のすべてまたはいくつかを合計することによって、重なりスペクトルEmpが推定される。
【0221】
これは、対(E
i, E
j)のすべてまたはいくつかのループによって反復して行うことができる。分光センサのエネルギーチャネルの数をNcと示す場合、その結果得られるスペクトルは、Nc
2/2+Nc/2の基本的な重なりスペクトルの和である。
【0223】
実際には、目的は、2つの光子による不動時間T
deadおよび重なり関数を推定することである。それぞれの場合に、様々な可能な方法がある。
【0224】
不動時間T
deadは、第1に、
- 半導体2による粒子の吸収後、アナログ電子機器からの出力部でパルス形状をシミュレートし、次いでアナログ電子機器によって放出される信号をフィルタリングして処理し、
- 次いで2つの光子を分離できる2つの光子間の最小持続時間を推定することによって得ることができる。
【0225】
この第1の方法では、パルスのデジタル処理が不動時間に与える影響は無視される。
【0226】
変形形態として、実験的方法を使用して、パルス信号を実験的に分析する。
【0227】
第1の実験的方法によれば、
- 第1のステップは、手段4、6(アナログ電子機器)の出力部で信号を読み取ってから、スペクトルをデジタル化および構築することであり、
- 次のステップは、2つの光子を分離できる2つの光子を分離する最小持続時間を推定することである。
【0228】
第2の実験的方法によれば、スペクトル分析が行われる。
- 第1のステップは、入射線束(光子数/s)の関数として、測定された計数率を推定することであり、異なる計数率で異なるスペクトルが作られ、それによって放射線発生装置200の強度Iが変動する。理論上の計数率が、Iに比例すると仮定して計算される。基準値は、重なり現象が無視できるほどである(通常、入射光子に対する重なりの確率が1%未満)と見なされる最も低い線束に対して推定される。
- 次のステップは、システムに対するモデル、たとえば麻痺型という名で知られているモデル、
【0230】
- もしくは非麻痺型という名で知られているモデル、
【0232】
または当業者に関連すると見なされる任意の他の関数を選択することである。
【0233】
ここで、nは、理論上の計数率であり、換言すれば、いかなる重なりもない場合の計数率である。
【0234】
次のステップは、実験的計数率データに対してf(n)を調整することによって、不動時間を計算することである。
【0235】
いくつかのパルス処理およびスペクトル形成デバイスを使用して、不動時間を判定することもできる。この大きさもまた、本発明によって使用できる不動時間と見なすことができる。
【0236】
図10はこの原理を示し、次いで、本発明者らには好ましい麻痺型モデルにしたがって、調整が行われる。X線管からの電流I(mA単位)を使用して調整された異なる入射線束値に対して、計数測定(点で表す)の集合が作られる。次いで、麻痺型システムの計数率に対する式は、システムの不動時間T
deadを変動させることによって、実験データ上で調整される。次いでこの調整から、58nsという不動時間が得られる。
【0237】
重なり関数を考えると、粒子の吸収中に半導体2によって放出される出力パルス形状のシミュレーション、および処理電子機器によるこの信号のフィルタリングによって、推定を行うことができる。次いで、重なり関数は、E
iおよびE
jに対応する2つのパルスがシステムに印加されるときのシステムの応答をシミュレートし、これらの2つのパルス間の時間差Δtを変動させることによって推定される。次いで、2つのエネルギーパルスE
iおよびE
jの重なりから出力されるエネルギーEに対応する重なり関数F
EiEj(Δt)が、これらの2つの相互作用を分離する時間差Δtの関数として推定される。これらのパルスのデジタル処理は、無視することができる。この場合、このシミュレーションを使用して、
図1のブロック8への入力に対応するアナログ信号形状を推定することができる。そうでない場合、この処理は、
- アナログ電子機器の前置増幅器または増幅器をそれぞれ形成する手段4または6への入力部でパルス生成器を使用し、
- エネルギーE
iおよびE
jに対応する2つの生成されたパルスによって発生したエネルギーE
kを、時間差Δtの関数として測定することによって、実験的に行うことができる。
【0238】
最後に、別の方法は、いわゆる「アフィンモデル」である。測定されるエネルギーは、2つの光子の相互作用時間間のシフトとともに線形に減少するため、2つの光子によるアフィンタイプの重なり関数を適用できると仮定することができ、この関数は、測定されたエネルギーとタイムシフトΔtを線形に関係させる。本明細書には記載しない実験的研究中に、このモデルの有効性が検証された。
【0240】
次いで、2つの光子を分離する時間間隔と、F
-1EiEjと示すエネルギーを関連付ける、2つの光子による重なり関数の逆関数が、以下の式を使用して導出される。
【0242】
したがって、max(E
i, E
j)≦E(k)≦E
i+E
jになるようなE(k)の場合、F
-1EiEj(E
k)は、2つの相互作用E
iおよびE
jのタイムシフトに対応する。
【0243】
E(k)<max(E
i, E
j)またはE(k)>E
i+E
jになるようなエネルギーE(k)の場合、F
-1EiEjは定義されない。
【0244】
エネルギーチャネルE
kに関連する時間間隔は、以下の等式によって得られることが既に分かった。
δ
i,j(k)=F
EiEj-1(E
k+1)-F
EiEj-1(E
k)
【0248】
各チャネルkに対するエネルギー範囲ΔE
kが一定であり、ΔEに等しい場合、
【0250】
であり、したがって所与のiおよびjに対する定数である。換言すれば、この仮定によれば、kの値にかかわらず、δt
i,j(k)だけがiおよびjに依存する。
【0251】
関数δt
i,j(k)によって、2つのエネルギー相互作用E
iおよびE
jを分離する時間間隔差Δtの寸法が決まり、その重なりによって、検出されたエネルギー値E
kが得られる。これらの2つの相互作用間の時間差Δtが、
F
-1EiEj(k)≦Δt<F
-1EiEj(k)+δt
i,j(k)のような値であるとき、この重なりによって、検出されたエネルギーはE
kに等しくなる。
【0252】
時間差Δtが、前の等式によって定義された時間間隔内にない場合、たとえば
F
-1EiEj(k)+δt
i,j(k)≦Δt<F
-1EiEj(k)+δt
i,j(k)+δt
i,j(k+l)、
書きかえると、
F
-1EiEj(k+l)≦Δt<F
-1EiEj(k+l)+δt
i,j(k+1)
である場合、この重なりによって、検出されたエネルギーはE
k+1に等しくなる。
【0253】
したがって、間隔の幅δt
i,j(k)が時間差Δtを区切ることが分かり、その結果、この間隔内に含まれる差Δtによって時間的に分離されたエネルギーE
iおよびE
jによる2つの相互作用は重なっており、エネルギーE
kを有する単一の相互作用と見なされる。δt
i,j(k)はまた、時間差Δtを含む窓の幅を指すことができ、したがって、そのような差によって時間的に分離されたエネルギーE
iおよびE
jによる2つの相互作用は、エネルギーE
kによる単一の重なりと見なされる。
【0254】
(T
dead, Emp, 重なり関数)要素を使用する本発明による補正方法について、
図11を参照して次に説明する。
【0255】
この方法を使用すると、重なり現象によって劣化したスペクトル測定Sp
mesから補正スペクトルSp
corを導出することができる。
【0256】
しかしながら、入射スペクトルSp
0は通常未知であり、このとき、前述した式に基づいて重なりの確率P
mean、重なりの確率P
i,j、または重なりスペクトルEmpを推定するのは不可能である。このとき、重なりの補正は、たとえば以下の式を使用して、重なりの平均確率P
mean、重なりの確率P
i,j、および重なりスペクトルEmpの反復推定に基づいて行われる。
P
mean=1-(1-P
0)
N-1
上式で、
【0261】
補正方法が反復式である場合、Sp
corは、第1の反復中の測定スペクトルSp
mesから開始して確立されると考えられるが、後の反復では、前回の反復中に得られる補正スペクトルSp
cor(n-1)から、補正スペクトルSp
cor(n)が得られる(1≦n≦N
itと仮定し、ここでN
itは反復数である)。たとえば、スペクトルSp
corは、第1の反復中はスペクトルSp
mesに等しくすることができ、連続する反復中は、Sp
corは、前回の反復中に補正されたスペクトルに等しくすることができる。
【0262】
単一の反復しかない場合、測定スペクトルSp
mesから開始してSp
corが確立され、たとえばSp
cor=Sp
mesである。
【0263】
この方法は、4つの入力変数を含む。
- 補正すべきスペクトルSp
mes(j)。これは実際には列ベクトルであり、その寸法はチャネル数(N
c)×1に等しい。
この(デジタル化された)スペクトルは、たとえば
図1Aもしくは1Bのデバイスまたは
図15〜20のデバイスを使用する測定によって得られた。
- 積分時間T
expo。これは、ms単位の実数であり、使用される放射源に応じたシステムの物理的データである。
- 電子センサシステムの不動時間T
dead。これは、ms単位の実数である。不動時間T
deadをどのように測定または推定できるかについては説明した。
- したがって反復して行われる重なりの補正に対する反復の数N
it。この数はたとえば、データ処理システムの操作者によって選択することができる。この数は、必ずしも事前に決定されるわけではない。次いでこの方法は、2回の連続する反復中に補正される2つのスペクトルを比較することによって、操作者によって、または収束基準に基づいて停止される。
【0264】
この方法は、出力部で、補正された重なりスペクトルSp
corを提供し、また寸法N
C×1を有するベクトルも提供する。
【0265】
この方法は、第1に、測定スペクトルから補正されるスペクトルの初期化(ステップS1)、たとえばSp
cor(0)=Sp
mesを含む。換言すれば、初期化中、測定スペクトルは、補正スペクトルで識別される。
【0266】
一実施形態によれば、次いで、反復補正がN
it回行われる。各反復中に、以下のステップが実施される。
- 重なりの平均確率の計算(関数f
0)(ステップS2)、
- 重なりスペクトルの推定(関数f
1)(ステップS3)、
- 補正スペクトルSp
corを提供するための重なりの補正(関数f
2)(ステップS4)。
【0267】
ステップS2は、3つの入力パラメータSp
cor(n-1)(上述のように開始されるベクトルである)、T
dead(実数)、T
expo(実数)から開始し、単一ステップの計算
【0271】
を行うことによって、実数Pを提供する。
【0272】
時間差間隔δt
i,jの幅で前に定義した関数を使用して判定される2つのパラメータ、具体的にはSp
cor(n-1)(ベクトル)および重なり関数P
i,jから開始して、ステップS3を使用し、単一のステップでも行われる計算を使用して、出力Emp(ベクトルである)を提供する。
【0277】
Sp
cor(n-1)については、上記で既に定義しており、δ
i,j(k)は、上記で示した関数であり、前述の方法の1つに従って、好ましくは等式(1)を使用して計算することができる。
【0278】
重なりの補正(ステップS4)は、ベクトルSp
mes(または2回以上反復した場合、Sp
cor(n-1))、実数P、およびS3で判定したベクトルEmpから行われる。この結果は、出力Sp
cor(n)である。計算は、単一のステップで行われる。
【0280】
したがって、ステップS4では、測定スペクトルから重なりスペクトルを引く。ステップS4は、補正スペクトルSp
corの重なりの平均確率P
meanに依存する係数による除算を含むことができ、この係数は、1-P
meanに等しくすることができる。この除算が行われない場合、スペクトルの形状は保たれるが、積分も保たれる。
【0281】
N
it回の反復が行われた場合、この方法は停止し、得られた最後のスペクトルSp
cor(N
it)は、必要な補正スペクトルと見なされる。そうでない場合、この方法は再び開始され、得られた最後のスペクトルSp
cor(n-1)を最初のスペクトルとして使用する。
【0282】
各反復において、特にP
i,j(k)およびEmp(k)の計算は、前回の反復(P
i,j(k)およびEmp(k)が測定スペクトルの関数として計算される第1の反復を除く)中に得られた補正スペクトルの関数として行われる。
【0283】
数N
itが大きければ大きいほど、結果はより正確になる。この数は、得られた実験結果に応じて、1〜100、好ましくは2〜10である。
【0284】
重なり関数を推定する方法は、2つの光子による重なりが大部分は3つ以上の光子による重なりに匹敵するという仮定に基づいている。この仮定は、特に低い線束(低い重なり率)に対して正当化される。
【0285】
入射光子に対して、唯一の光子による重なりの確率は、次のように書くことができる。
P
2=P
0×(1-P
0)
n×n
【0286】
重なりの平均確率は、次のように書くことができることに留意されたい。
P
mean=1-(1-P
0)
N-1
【0287】
光子センサと、それに続く処理電子機器とを結合するシステムの例を考える。ここで全不動時間、すなわち測定するためにセンサ内で吸収された2つの光子を分離する最小時間間隔は、62nsである。
【0288】
図12は、入射線束の関数として上記で定義したPおよびP
2の変動を示し、1画素および1秒当たりの光子の数として表す。
【0289】
2つの光子による重なりの確率(曲線II)は、低い線束の値に対する線束の増加関数である。
【0290】
次いで曲線IIは、最大に到達してから、5×10
7 photons/pixel/sを上回る非常に高い線束に対して、0の方を向いている。
【0291】
他方では、重なりの確率P(曲線I)は、線束の増加関数である。高い線束区間では、重なりの確率は1の方を向いており、すべての重なりは、3つ以上の光子による重なりである。
【0292】
図13は、2つの光子による重なりの確率と全体的な重なりの確率の比を示す。
【0293】
この曲線は、仮定が範囲[0〜5×10
5 photons/pixel/s]全体にわたって1%の範囲内で正確であることを示す。
【0294】
この曲線は、1×10
6 photons/pixel/sの線束に対して、7%の範囲内で正しいままである。
【0295】
2つの光子による重なりの仮定が正確である線束範囲は、システムの不動時間が低減するにつれて増加することに留意されたい。
【0296】
図14A〜14Bは、高速分析における本発明による重なり補正方法の性能を示す。
【0297】
図14Aは、異なる光子線束に対する測定スペクトルを示す。
- 曲線I: 3.62×10
5 photons/s/pixel、
- 曲線II: 7.24×10
5 photons/s/pixel、
- 曲線III: 1.448×10
6 photons/s/pixel、
- 曲線IV: 2.896×10
6 photons/s/pixel、
- 曲線V: 5.792×10
6 photons/s/pixel。
【0298】
図14Bは、3回の反復で補正後の同じスペクトルを示す(スペクトルI'は、スペクトルIの補正スペクトルであり、以下同様である)。
【0299】
これらの図は、最高約3×10
6 photons/s/pixelまでの補正が良好であり、約6×10
6 photons/s/pixelの線束を有する取得した補正スペクトルが劣化することを示すが、この結果はそれでもなお、許容することができる。
【0300】
完全な較正は、比較的簡単である。較正は、X線生成器の異なる強度に対して一連の完全な線束測定を使用して行うことができる。
【0301】
上述した本発明の特別な実施形態では、2つの光子による重なり関数の判断は、いかなる追加の較正も必要とせず、不動時間の知識だけに基づくモデルに基づいて行うことができる。
【0302】
したがって、本発明は、その入力がSp
mesスペクトルのデータ、ならびにT
expoおよびT
deadデータだけであるという利点を有する高速補正方法を開示する。したがって、これにより、データ処理を実行する手段へ伝送すべきデータの数量を低減させる。
【0303】
そのようなスペクトル補正方法は、既に上述した手段12によって実施することができる。
【0304】
次いでこれらの手段は、スペクトルデータ、ならびに本発明による方法を実施するデータ、たとえばT
expoおよびT
deadデータを記憶および処理するようにプログラムされる。
【0305】
したがって、中央演算処理装置16は、たとえば
図11を参照して後述するような反復方法を使用して、重なりスペクトルを計算するように、そして記憶された測定スペクトルデータ(Sp
mes)と記憶された重なりスペクトルデータ(Emp)の差を求めることによって、補正スペクトル(Sp
cor)を計算または推定するようにプログラムすることができる。
【0306】
これらの手段12を使用して、実験的に、または上述のようなモデル化によって、不動時間T
dead、および/または重なり関数もしくはその逆関数δt
i,j(k)の推定を行うこともできる。
【0307】
操作者は、手段12を使用して、これらの動作を実行するように、1つまたはいくつかのパラメータを選択することができる。
【0308】
具体的には、操作者は、本発明による反復方法を実行するように、反復の数N
itを選択することができる。
【0309】
本発明による測定スペクトルSp
mesおよび補正スペクトルSp
cor、ならびに場合によっては重なりスペクトルEmpは、画面または表示手段17上に表示することができる。たとえば、操作者は、プルダウンメニューを使用して、本発明による処理のために行うべき反復の数を選択することができる。
【0310】
この場合も上述した重なりの問題に対処するために、本発明の範囲内で使用できるいくつかの回路について、次に説明する。
【0311】
そのようなデバイスは、高い線束の分光測定を可能にすることが有利であり、そのようなデバイスを使用すると、遅延線によって成形された多くのパルスの重なりの存在下でも、スペクトルの構築に使用される値を抽出することができる。そのようなデバイスは、
図8〜14を参照して上述した方法と組み合わせると有利である。
【0312】
図15は、そのような電離式の電磁放射分析検出デバイスを示す。この図では、参照番号1および100は、
図1Aと同じ意味を有する。このデバイスは、半導電性材料MのブロックおよびブロックMをHV高圧に接続する抵抗Rによって表す検出器2(たとえば、上述したタイプ)を備える。電子近接回路82は、静電容量C1、増幅器A1、静電容量C2、および抵抗Rpを含む電荷前置増幅器である。静電容量C1は、増幅器A1への入力部に設置され、静電容量C2および抵抗Rpは、増幅器A1の入力部と出力部の間で直列に取り付けられる。
【0313】
検出器内で光子の相互作用が検出されたとき、電荷前置増幅器からの出力部の電圧V
OUT(t)は、検出器2によって出力される検出器電流i(t)が存在する限り、
【0317】
に等しい。上式で、Qは、半導電性材料M内で相互作用する光子によって放出される電荷の量である(
図17の時間区間Za参照)。
【0318】
電荷前置増幅器からの出力部では、前置増幅器が放電するため、光子エネルギーに対応するデータは間欠的である。
【0319】
したがって、この電圧は、検出器電流が消えた後は可能な限り迅速に保存しなければならない(
図17の時間区間Zb参照)。同時に、電荷前置増幅器からの出力部の電圧が蓄積するため、電荷前置増幅器の弛緩が、高い計数率に対処する手段を提供しており、弛緩がなければ、前置増幅器はすぐに飽和するはずである(
図17の飽和電圧V
sat参照)。
【0320】
電子回路82によって出力される電圧V
OUT(t)は、電子処理回路83への入力電圧である。
【0321】
回路83は、電圧E(t)を出力する(
図10)。次いでADCは、E(t)をデジタル化して、
図20に見られる点に対応するデジタル化信号を与える。
【0322】
本質的に、本発明は、たとえば従来技術で上述したようなピーク検出器またはスイッチ能動積分器などの検出器における相互作用によって堆積されたエネルギーに比例する振幅を有するアナログパルスを出力することが可能な任意の他の電子処理回路83に適用することもできる。
【0323】
その上で、後述する電子処理回路83は、好ましい形態に対応する。
【0324】
電荷前置増幅器82からの出力部は、遅延線Lr、減衰器Att(利得は1未満)、減算器D、増幅器A2、およびアナログ/デジタル変換回路ADCから構成されたアセンブリに直接接続される。遅延線Lrは、減衰器Attと直列に取り付けられて遅延および伝送ブロックを形成し、遅延および伝送ブロックの第1の端子は、前置増幅器からの出力部に接続され、第2の端子は、減算器Dへの第1の入力部に接続され、減算器Dの第2の入力部は、前置増幅器からの出力部に直接接続される。
【0325】
前置増幅器から出力された信号V
OUT(t)は、遅延線Lrを通じて遅延され、この遅延は、V
OUT(t)信号の立上り時間より大きい。減算器Dは、電圧V
OUT(t)から、遅延および減衰された電圧V
OUT(t)を引き、増幅器A2は、この減算の結果得られる信号を増幅し、次いで増幅器A2を通じてアナログパルスE(t)を出力する。このパルスの大きさは、検出された光子によって堆積されるエネルギーに比例する。
【0326】
コンピュータは、所定のエネルギー閾値E
Sより大きいエネルギー値を識別するようにプログラムされるため、アナログ/デジタル変換器ADC34によって行われるデジタル化は、連続して行われる。このデジタル化の結果を
図20に示す。各アナログパルスは、
図20に点で表す一連のデジタル信号S(t)を組み合わせるデジタル化信号パルスに交換される。したがって、デジタル化パルスは、アナログデジタル変換器によってアナログパルスE(t)を処理することによって得られるすべてのデジタル信号S(t)を組み合わせる。
【0327】
デバイスはまた、アナログ/デジタル変換器ADCによって出力されるデジタル信号S(t)の処理を実行する回路85を備える。
【0328】
図18は、本発明の範囲内で動作する回路85の処理ユニットをはっきりと示す。
【0329】
図19は、
図18の回路に対する改善形態を示す。
【0330】
たとえば、回路85は、マイクロプロセッサもしくはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、または特定用途向け集積回路(ASIC)とすることができる。
【0331】
本発明の好ましい実施形態によれば、パルスを出力する回路は遅延線を使用し、この遅延線は、時間特性(立上り時間、立下り時間)が検出器の電極によって収集されるパルスに類似しているパルスを与えられることが有利である。
【0332】
したがって、遅延線回路を使用することで、正確な時間情報を与えることができる。
【0333】
図18は、回路85の処理ユニットを示す。コンピュータ85は、アナログ/デジタル変換器ADCによって出力されるデジタル化信号S(t)を読み取るユニット86と、読み取った2つの連続するデジタル信号S
L(t)間の時間変動率S'(t)を計算するユニット87と、ユニット87によって出力される時間変動率S'(t)と所定の変動閾値S1を比較するユニット88と、読み取ったデジタル信号が捕獲されるべきか否かを決定するユニット89とを備える。
【0334】
読取りユニット86は、アナログデジタル変換器ADCのサンプリング周波数に等しいことが好ましい読取り周波数f
Lで、アナログ/デジタル変換器ADCによって出力されるデジタル信号S(t)を読み取り、このとき読取りユニットとアナログデジタル変換器は、同じクロックによって同期される。
図21は、アナログ/デジタル変換器ADCによって出力されてアナログパルスE(t)の離散化を形成するデジタル信号の一例を示し、この離散化は、デジタル化信号パルスを生成する。
【0335】
アナログ/デジタル変換器ADCによって出力される信号は、たとえば1MHz〜1GHzの高い周波数(通常、数百MHz)で、連続してデジタル化される。
図21に示す時間τ1は、アナログパルスの立上り時間(検出器内の電荷遷移時間)に対応し、時間τ2は、アナログパルスの開始から減衰までの持続時間に対応する(したがってτ2は、使用される分析システムの不動時間に等しくすることができる)。
【0336】
読取りユニット86は、読取りデジタル信号S(t)
Lを出力する。時間変動率を計算するユニット87は、次いで、以下の等式(1)の形式で、変動率S'(t)を判定する。
S'(t)=[S(t)
L-S(t-dt)
L]/dt …(1)
したがって、変動率S'(t)は、読み取ったそれぞれの新しいパルスS
L(t)で、換言すれば、通常アナログデジタル変換器のサンプリング周波数に等しい読取り周波数で、計算することができる。
【0337】
図21は、一例として、ADC変換器によって出力されるデジタル信号が
図13に示す信号と一致しているときに時間変動率を計算するユニットによって出力されるデジタル信号を示す。
【0338】
ユニット87によって出力される変動率S'(t)は、比較ユニット88によって閾値S1と比較される。
【0339】
読み取ったデジタル化信号S
L(t)の各パルスの時点で、信号S'(t)は、信号S
L(t)の振幅の増加に対応する第1の部分と、読み取ったデジタル化信号S
L(t)の振幅の減衰に対応する第2の部分とを連続して記述する。
【0340】
この場合、第1の部分はS'(t)の正の値に対応するため、正の部分と呼ぶことができる。同様に、第2の部分はS
L(t)の負の値に対応するため、負の部分と呼ぶことができる。
【0341】
閾値S1は通常、所定の負の値に設定される。
【0342】
閾値S1の絶対値は、変動率S'(t)に影響を与える雑音BS'(t)の振幅より大きくなるように選択される。雑音BS
L(t)が読み取ったデジタル信号S
L(t)に影響を与えるため、変動率S'(t)の値は高い周波数の変動の影響を受け、この周波数の変動は、サンプリング周波数と同じ程度になる可能性がある。雑音BS'(t)の平均値は通常、ゼロである。閾値S1は負の値に設定され、したがってS1の絶対値は、最大雑音振幅BS'(t)より大きいだけでなく、
図22Aおよび22Bに見られるように、S'(t)がこの閾値に到達するとき、信号S
L(t)が極大にほぼ対応し、換言すれば、パルスの最大値に可能な限り近づくのに十分なほど低くなる。可能な限り近づくとは、同期クロックの数期間dtを意味する。閾値S1の調整ステップは実験的に行われ、閾値S1の値を更新できるように新しくすることができる。
【0343】
比較ユニット88によって出力される比較信号は、決定ユニット89を制御する。閾値S1を交差しない場合(すなわち、S1≦S'(t))、比較信号は、読み取った最後のデジタル信号が捕獲されないように、決定ユニットを制御する。閾値を交差する場合(すなわちS'(t)≦S1)、比較信号は、読み取った最後のパルスS
L(t)が捕獲されるように、決定ユニットを制御する。
【0344】
捕獲を行ったかどうかにかかわらず、別のデジタル信号が読み取られる。
【0345】
信号S'(t)の第1の部分(または正の部分)は、検出器内の光子の相互作用によって得られる光子電流パルスの画像に対応する。
【0346】
信号S'(t)の第2の部分(または負の部分)は同期に使用され、この負の部分を交差するとき、信号S
L(t
0)の対応する値は、スペクトルの形成のために保持され、t
0は、S'(t
0)が閾値S1を下回る時点に対応する。したがって、t
0は、t
0-δtでS'(t
0-dt)>S1、およびt
0でS'(t
0)≦S1になるような値であり、dtは、読取り回路同期クロックの期間である。
【0347】
本発明によるデバイスは、従来技術による回路によって得られる判別より、一致する相互作用をうまく判別できることが有利である。遅延線の下流側に存在する信号の経時的な変動に対処することには、この線の上流側に存在する信号の経時的な変動に対処することに比べて利点がある。遅延線のフィルタ効果が有用であり、遅延線からの出力部に存在する信号の信号対雑音比は、その線の入力部に存在するものより良好である。
【0348】
得られる時間情報は、より正確である。
【0349】
図19は、
図18に示す回路に対する改善形態を示す。この改善形態によれば、デバイスは、信号S'(t)の正の部分の持続時間を判定することが可能な手段を備える。S'(t)が値S1に到達したが、S'(t)の正の部分が所定の持続時間Tmを超過したとき、捕獲は行われない。このS'(t)の正の部分は、同じデジタル化アナログパルス中の信号S
L(t)の振幅の上昇中にすべての信号S'(t)が判定されたことを意味する。
【0350】
上述した回路86、87、88、および89とは別に、回路5は、信号比較ユニット90と、S'(t)の正の部分の持続時間を計数するユニット91と、この正の部分の持続時間を比較するユニット92とを備える。信号S'(t)は第1に、閾値S2と比較される。閾値S2は、その符号がS1とは逆になり、その絶対値が最大雑音振幅BS'(t)より大きくなるように選択される。閾値S2は、S1とは逆の値、換言すれば、絶対値は同じであるが逆の符号を有する値を有することができる。信号S'(t)がS2より大きいとき、比較器90は、パルス持続時間T
impの計数を制御する信号を出力し、そうでない場合、計数を行わない。
【0351】
パルス持続時間カウンタは、信号S'(t)がS2を下回るまで、読み取ったデジタル値S'(t)ごとに増分され、それにより、パルス持続時間T
impの計数を停止する。
【0352】
次いで、計数ユニット91によって出力されるパルスS'(t)の正の部分の持続時間T
impは、持続時間T
mの閾値と比較される。持続時間T
mは、電荷前置増幅器からの出力部における信号の立上り時間として選択されることが好ましい。パルス持続時間T
impがT
mより大きい場合、比較器92によって出力される信号は、S'(t)が閾値S1を交差する時点t
0に対応する信号S
L(t
0)を捕獲しないように、決定ユニット89を制御する。
【0353】
パルス持続時間T
impがT
m以下である場合、S'(t
0)≦S1およびS'(t
0-dt)>S1になる時点t
0に対応する信号S
L(t
0)が考慮される。上式で、δtは、読取り回路同期クロックの期間である。
【0354】
本発明によるデバイスは、高い線束の分光測定を許可することが有利であり、遅延線によって成形された多数のパルスの重なりの存在下でも、スペクトルの構築に使用される値を抽出することができる。
図22Aおよび22Bは、本発明のこの利点を示す。
図22Aは、多くの重なりの存在下で得られる電圧パルスを示し、
図22Bは、
図22Aに示す電圧の重なりの経時的な変動を示す。
【0355】
信号の経時的な変動によって閾値S1を交差することで(
図22B参照)、信号のスペクトル内で保存を誘発する時間マーカが得られる。経時的な変動が閾値S1を下回ると直ちに(
図22B参照)、信号の対応する値(
図22A参照)がマークされ、スペクトルを構築するために保存される。
【0356】
従来技術による方法とは異なり、パルスが重なっているときでも、正確な測定を抽出することが常に可能である。
【0357】
したがって、本発明によるデバイスは、パルス成形システムの性能を最大の計数率性能まで増大させることができる。
【0358】
図23Aおよび23Bは、
図19の本発明によるデバイスに対する改善形態から得られる利点を示す。
【0359】
信号の経時的な変動の正の部分の持続時間が基準時間T
mより長い場合、重なりが生じる。捕獲された信号S
L(t)に対応する検出されたエネルギー値はこのとき歪んでおり、エネルギースペクトル内に含まれてはならない。
【0360】
図23Aおよび23Bは、非常に短い時間内で検出器において2つの光子が相互作用する場合を示す。この場合、信号の経時的な変動は、閾値S1を交差せず、経時的な変動の正の部分の持続時間は、T
mより大きい。したがって、これらの2つの光子は、このスペクトルに対して選択されない。
【0361】
本発明による遅延線デバイスの不動時間は、検出器内で相互作用する光子のエネルギーを測定するのに必要な時間、換言すれば、遅延線によって課される遅延T
dである。本発明によるデバイス内で考慮すべき1つの条件は、遅延T
dが持続時間T
m以上であることである。
【0362】
詳細には、本発明は、たとえば旅行者の手荷物内の爆発物などを、この手荷物のX線透過関数の分析を使用して識別する材料分析技法の分野に関する。したがって、本発明はまた、ビーム200などのビームの経路上に手荷物を位置決めすること、およびたとえば
図1Aのデバイスを使用して透過した放射を検出することを含めて、手荷物内の材料の性質を識別し、または手荷物の内容を調査する方法に関する。次いで、本発明による方法を使用することで、何らかの爆発物が手荷物内に存在するか否かを識別することができる。したがって、本発明は、手荷物内の爆発性材料を識別するために空港内で使用されるシステムに適用することができる。