(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890334
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20160308BHJP
【FI】
H01F37/00 E
H01F37/00 F
H01F37/00 J
H01F37/00 M
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-19897(P2013-19897)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-154564(P2014-154564A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2014年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】平田 修一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 壮史
(72)【発明者】
【氏名】神川 義一
(72)【発明者】
【氏名】平澤 一雄
【審査官】
五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−166013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き線の巻回範囲の両側にフランジが設けられているとともに一方のフランジに2個のスリットが設けられているボビンと、
2本のリード部を有しており、平角線がエッジワイズにボビンに巻き回されているとともに樹脂でモールドされているコイルと、
前記2個のスリットの夫々を塞いでいる2個の小プレートであって、夫々の小プレートを夫々のリード部が貫通している2個の小プレートと、
を備えており、
前記2本のリード部は、夫々の平角線の幅広面が対向するように、平角線の断面の長辺側が折り曲げられてコイル端面から延びており、
各小プレートは、貫通しているリード部の先端側に小径部を有しコイル側に大径部を有する段差状に形成されており、前記小径部がスリット内に位置し前記大径部がスリットの周囲に当接しつつ、2本のリード部の並び方向において、前記小プレートと前記スリットの側面との間に予め定められた幅の隙間が設けられており、前記大径部の側面に対向する空間を含む前記フランジと前記コイルの間の空間に前記樹脂が充填されている、
ことを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
樹脂モールドに存在する樹脂射出成形時のゲート跡が、前記ボビンの両フランジの間に位置していることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルに関する。「リアクトル」は、コイルを利用した受動素子であり、「インダクタ」とも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車や電気自動車が本格的に実用化され、普及が拡大している。ハイブリッド自動車や電気自動車はモータを駆動源とするため、モータ用の電気回路にリアクトルを備えることが多い。リアクトルは、典型的には、電圧を昇圧したり降圧したりするコンバータ回路で用いられる。リアクトルの本体は、コアに巻き線(コイル)を巻いたものである。コアには、よくフェライトが用いられる。
【0003】
コイルを周囲から絶縁するため、コイル全体(あるいは一部)を樹脂でモールドすることがある。例えば特許文献1、2にそのようなリアクトルが開示されている。コイルに密着させるため、モールドは、樹脂の射出成形で製造されることが多い。
【0004】
特許文献1、2のリアクトルはボビンを有さないが、ボビンを用いたい場合がある。ボビンには、巻き線の巻回範囲の両側にフランジが設けられている。そして、一方のフランジには、コイルのリード部を引き出すためのスリットが設けられる。特許文献3には、そのようなスリット付きフランジを有するボビンが開示されている。なお、リード部とは、コイルの端から伸びている巻き線であってコイルの端子に相当する部分を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−060053号公報
【特許文献2】特開2011−100842号公報
【特許文献3】特開2009−054937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボビンを使用し、一対のフランジ間でコイルを樹脂でモールドする場合、すなわち、樹脂の射出成形にてコイルを覆う場合、溶融樹脂が漏れないように、リード部を引き出すフランジのスリットとリード部の隙間を密閉する必要がある。本明細書は、フランジのスリットとリード部の隙間を簡便な構造で埋めることができ、一対のフランジ間でコイルを樹脂でモールドする製造に適した形状のリアクトルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が対象とするリアクトルは、巻き線の巻回範囲の両側にフランジが設けられているとともに一方のフランジにスリッ
トが設けられているボビンと、リード部を有する巻線によってボビンに巻き回された形状に形成されているとともに樹脂でモールドされているコイルを備える。そして、本明細書が開示する技術は、フランジのスリッ
トを塞ぐ小プレートを採用する。そして、その小プレートにコイルのリード部を貫通させ、その小プレートを、スリッ
トの周縁に当接させて塞ぐ。小プレートにはリード部に密着する孔を設けておくことで、リード部の周囲は小プレートが塞ぐ。そして、その小プレートをフランジのスリッ
トの周囲に密着させることで、スリッ
トとリード部の間の隙間を封止する。従って一対のフランジ間に樹脂を射出成形したときにリード部の周囲から樹脂が漏れることがない。
【0008】
なお、
スリットは一方のフランジに2個設けられており、夫々に小プレートが備えられ、各小プレートをリード部が貫通している。また、コイルは、平角線がエッジワイズに巻回されたものであり、リード部は、夫々の平角線の幅広面が対向するように、平角線の断面の長辺側が折り曲げられてコイル端面から延びている。また、樹脂モールドは、ボビンの両フランジ間でコイルを覆うが、コイルを完全に覆う必要はなく、一部でコイルが露出していてもよい。
【0009】
上記の小プレートは、コイル側からスリッ
トに当接す
る。樹脂の射出成形の際、ボビンとコイルは金型に入れられる。金型には、一対のフランジの間に対応するキャビティ面に樹脂を射出するゲートが設けられる。そして、そのゲートから樹脂が射出されると樹脂の圧力がコイル側から小プレートに加わる。小プレートがコイル側からスリッ
トに当接していることによって、樹脂の圧力で小プレートがスリッ
トの周縁に押し付けられるので、小プレートがスリッ
トに密着し樹脂が漏れ難くなる。なお、上記のごとく金型のゲートが一対のフランジ間に位置するので、完成後の樹脂モールドにおける樹脂射出成形時のゲート跡は、一対のフランジの間に位置する。
【0010】
小プレートは、さらに、リード部の先端側で小さくコイル側で大きい段差状に形成されており、段差がスリットに係合している。スリットと小プレートの間にクリアランス(隙間)が設けられている。別言すれば、段差を有する小プレートは、樹脂射出成形前は、スリットに嵌合した状態で予め定められた幅だけフランジ面内方向に移動可能であるのがよい。小プレートのそのような段差は、スリットに対するコイルのリード部の位置誤差を吸収することができる。なお、各小プレートは、貫通しているリード部の先端側に小径部を有しコイル側に大径部を有する段差状に形成されており、小径部がスリット内に位置し大径部がスリットの周囲に当接している。完成品のリアクトルでは、2本のリード部の並び方向において、大径部の側面
に対向する空間を含むフランジとコイルの間の空間に樹脂が充填されている。
【0011】
本発明のさらなる改良と詳細な構造は、発明の実施の形態で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】リアクトルの分解斜視図である(射出成形前)。
【
図3】
図2のIII−III矢視におけるスリット周辺の断面図である。
【
図5】変形例のリアクトルにおけるスリット周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して実施例のリアクトルを説明する。
図1に、射出成形前(コイルの一部表面に樹脂モールドを成形する前)のリアクトル2の分解斜視図を示し、
図2に射出成形前(コイルの一部表面に樹脂モールドを成形する前)のリアクトル2の斜視図を示す。なお、
図1と
図2ではX軸の向きが異なることに留意されたい。
図1ではコイルのリード部3aが図の左下から右上に向かって伸びているが、
図2ではリード部3aは図の右上から左下に向かって伸びている。
【0014】
リアクトル2は、例えば、電気自動車においてバッテリ電圧をモータ駆動に適した電圧まで昇圧するコンバータに用いられる。そのようなリアクトル2は、100[A]以上の電流許容値を有する大電流用であり、巻き線に平角線が用いられる。平角線は、断面が矩形の導線であり、電気抵抗が小さい。
【0015】
リアクトル2の構造を概説する。リアクトル2は、直列に接続されているとともに軸線が平行となるように配置された2連のコイル3と、コイル3に挿通されるボビン4と、ボビン4の筒の内側を通る一対のU字型のコア30を備える。
【0016】
ボビン4は、本体5とエンドプレート12で構成される。本体5は、2個の筒部6が、2連のコイル3に合わせて平行となるようにフランジ7から突出した構造を有する。フランジ7は、コイル巻回範囲の一方の端を規定するフランジに相当する。エンドプレート12は、コイル巻回範囲の他方の端を規定するフランジに相当する。コイルは平角線を略矩形に巻回した形状であり、筒部6も略矩形である。筒部6の矩形の四面の先端からはリブ6aが伸びており、本体5とエンドプレート12を組み合わせると、筒部6の先端のリブ6aがエンドプレート12の孔12aの切欠12cと嵌合し、両者が結合してボビン4が完成する。なお、一つの筒部に4つのリブが設けられており、エンドプレート12の一つの孔12aには4つの切欠が設けられているが、
図1では、図を見やすくするため、一つのリブと一つの切欠のみに符号「6a」、「12c」を付し、他のリブ/切欠には符号を省略した。ボビン4が完成すると、一対のフランジ(フランジ7とエンドプレート12)がコイル巻回範囲を規定する。一対のU字コア30は、ボビン4の両側から組み込まれる。
【0017】
本体5のフランジ7には、コイルのリード部3aが通るスリット8が設けられている。リード部3aはスリット8を通るのであるが、スリット8とリード部3aとの間には小プレート9が配置される。小プレート9には、孔が設けられており、その孔にリード部3aが通される。次に小プレート9について詳しく説明する。
【0018】
図3に、
図2のIII−III矢視におけるスリット周辺の断面図を示す。ただし、2個のスリット8は同じ構造であるので、
図3には一方のスリットだけを描いてある。小プレート9はその周囲に段差が設けられており、その段差部分が、スリット8に設けられた段差と係合する。小プレート9は段差を境に小径部9aと大径部9bで構成され、大径部9bがコイル3に面し、小径部9aがコイルの反対側に位置する。小プレート9の孔はリード部3aと密に嵌合する大きさであり、小プレート9によりリード部3aの周囲が密封される。また、小プレート9の大径部9bがコイル側からスリット8の周縁に当接し、スリットを塞ぐ。従って、
図2に示す射出成形前のリアクトル2を金型に入れて一対のフランジ(フランジ7とエンドプレート12)の間に樹脂を射出する際、樹脂がスリット8とリード部3aの間から漏れることがない。射出成形時における溶融樹脂は、
図3において符号SPが示す空間に充填される。それゆえ、小プレート9にはコイル側から樹脂の圧力が加わる。樹脂の圧力は小プレート9の段差部をスリットの段差に押し当てる力となり、小プレート9とスリット周縁の密着度が高まる。このことによって、スリット8から樹脂が漏れることが防止される。
【0019】
また、
図3に示すように、小プレート9とスリット8の側面との間にはクリアランスCLが設けられる。クリアランスCLは、別言すれば、小プレート9がスリット8内で図のY方向にスライドすることができる余裕スペースである。また、矩形の小プレート9は、スリット8に嵌合したまま、図のZ方向に移動することもできる。即ち、小プレート9は、フランジ面内で二次元的に移動できる余地がある。小プレート9の、この二次元的な移動の余地によって、多数のリアクトルを製造するときのフランジ7に対するリード部3aの位置のばらつきが吸収される。
【0020】
図4に射出成形後のリアクトル2、即ち、完成品のリアクトルの斜視図を示す。コイル3は、一対のフランジ(フランジ7とエンドプレート12)の間で、樹脂でモールドされる。符号14aが、コイル3を覆う樹脂モールドを示している。ただし、樹脂モールド14aは、上方に窓15を有し、その窓からコイル3の一部が露出している。また、コイル3の下側も樹脂モールド14aから露出している。符号17は、ゲート跡である。ゲート跡とは、射出成形時にリアクトル2を金型に入れた際に、金型に設けられたゲート(樹脂射出孔)の開口に相当し、樹脂モールド14aに形成されるものである。
【0021】
樹脂モールド14aは、フランジ7の厚みのコイル側約半分までを覆っている。前述したように、フランジ7に形成されたリード部引き出し用のスリット8は、小プレート9により密封されているので、スリット8とリード部3aの間から樹脂が漏れることはない。
【0022】
リアクトル2では、フランジ7の外側(コイル3とは反対側)にてコア30も樹脂で覆われる。符号14bが、コアを覆う樹脂モールドを示している。樹脂モールド14bは、リアクトル2を筐体に固定するための固定リブ16を有する。樹脂モールド14bも射出成形によって製造される。
【0023】
以上説明したように、リアクトル2は、リード部3aとスリット8の間の隙間を埋める小プレート9を有する。実施例で説明した技術は、小プレート9を採用することによって、スリットを有するフランジを備えたボビンを採用するとともに、フランジ間を樹脂でモールドするリアクトルにおいて、射出成形時にスリットから樹脂が漏れない構造を提供する。
【0024】
図5を参照して小プレート9の変形例を説明する。
図5は、
図3に対応する断面図である。この変形例は、段差を有する小プレート9の代わりに、小プレート109を採用する。小プレート109は、リード部の先端方向に向かって先細りのテーパ状の側面を有する。また、小プレート109とともに用いられるフランジ107には、側面がテーパ状のスリット108が設けられている。コイル3をボビンに組み付ける際、リード部3aを小プレート109に通し、その小プレート109をテーパ部が対向するようにスリット108に嵌合する。スリット108に対するリード部3aの位置が多少ずれていても、小プレート109はテーパにガイドされ、小プレート109はスリット108に嵌合する。
【0025】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる
。実施例のリアクトルは、平行に並んだ2連のコイルを備える。本明細書が開示する技術は、2連のコイルに限られない。本明細書が開示する技術は、シンプルな1個のコイルを有するリアクトルに適用することも可能である。
【0026】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0027】
2:リアクトル
3:コイル
3a:リード部
4:ボビン
5:本体(ボビン)
6:筒部
7、107:フランジ
8、108:スリット
9、109:小プレート
9a:小径部
9b:大径部
12:エンドプレート(ボビン)
14a、14b:樹脂モールド
30:コア