(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材の表面に形成するカーボン粒子を小さくすると、基材との密着性は向上するが、成膜速度が遅いため、生産効率が低いという課題があった。一方、生産効率を向上させるために、カーボンの粒子径を大きくすると、燃料電池の出力の耐久性能が低下するという課題があった。そのほか、従来の燃料電池セパレータや、燃料電池においては、その小型化や、低コスト化、省資源化、製造の容易化、使い勝手の向上等が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、燃料電池用セパレータが提供される。この燃料電池用セパレータは、導電性の基材と、前記基材の上に形成された炭素膜とを備える。前記炭素膜は、前記基材の最も近い位置に形成された第1層と、前記基材から最も離れた位置に形成された第2層とを含む少なくとも2層からなり、前記第1層に含まれる炭素の粒子径は、19nm以下であって、前記炭素膜の他の層に含まれる炭素の粒子径よりも小さく、前記第2層に含まれる炭素の粒子径は、40nm以下である。
この形態によれば、第1層に含まれる炭素の粒子径が19nm以下なので、基材と炭素膜の第1層との密着性を向上させることができる。さらに、炭素膜の第2層に含まれる炭素の粒子径が40nm以下なので、炭素膜の全てを、炭素の粒子径が19nm以下となるように形成する場合に比べて、成膜速度を向上させることができ、燃料電池用セパレータの生産効率を向上させることができる。さらに、燃料電池の発電によって生成される腐食物質を含む水が、第2層を透過して基材まで浸透することを抑制することができる。この結果、腐食物質を含む水によって基材が腐食してしまうことを抑制することができ、燃料電池の出力の低下を抑制することができる。
【0007】
(2)上記形態の燃料電池用セパレータは、さらに、前記基材と、前記炭素膜との間に、前記基材及び前記炭素膜の両方の成分を含有する中間層を備えてもよい。
この形態によれば、中間層によって、基材と、炭素膜との密着性をさらに向上させることができる。
【0008】
(3)本発明の他の形態によれば、燃料電池が提供される。この燃料電池は、上記形態の燃料電池用セパレータを備える。
この形態によれば、基材と炭素膜の第1層との密着性を向上させることができるとともに、燃料電池の出力の低下を抑制することができる。
【0009】
(4)本発明の他の形態によれば、燃料電池用セパレータの製造方法が提供される。この燃料電池用セパレータの製造方法は、(a)導電性の基材を準備する工程と、(b)プラズマCVDによって、前記基材の上に炭素膜を形成する工程とを備える。前記工程(b)は、(b1)前記基材に最も近い層として、前記炭素膜の第1層を形成する工程と、(b2)前記基材から最も離れた層として、前記炭素膜の第2層を形成する工程とを含んでもよい。前記工程(b1)において前記第1層を形成する際の原料ガスの流量は、前記工程(b2)において前記第2層を形成する際の原料ガスの流量の1/2から1/50であってもよい。
この形態によれば、基材と炭素膜の第1層との密着性を向上させることができるとともに、燃料電池用セパレータの生産効率を向上させることができる。
【0010】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池の製造方法や、燃料電池を搭載する車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における燃料電池の概略構成を説明する説明図である。
【
図2】セパレータの断面の一部を拡大して示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるセパレータの製造方法の工程図である。
【
図4】炭素膜の第2層に含まれる炭素の粒子径と耐久試験後における抵抗値の増加量との関係をグラフ形式で示す説明図である。
【
図5】各サンプルの実験結果を表形式で示す説明図である。
【
図6】サンプル3の炭素膜の表面のSEM写真を示す説明図である。
【
図7】サンプル9の炭素膜の表面のSEM写真を示す説明図である。
【
図8】サンプル12の炭素膜の表面のSEM写真を示す説明図である。
【
図9】サンプル8の炭素膜の表面のSEM写真を示す説明図である。
【
図10】サンプル11の炭素膜の表面のSEM写真を示す説明図である。
【
図11】サンプル12の炭素膜の表面のSEM写真を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態を実施形態に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施形態:
B.実験例:
C.変形例:
【0013】
A.実施形態:
図1は、本発明の一実施形態における燃料電池10の概略構成を説明する説明図である。燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であり、複数の単セル14が積層されたスタック構造を有している。単セル14は、燃料電池10における発電を行う単位モジュールであり、水素ガスと空気に含まれる酸素との電気化学反応により発電を行う。各単セル14は、発電体20と、発電体20を挟持する一対のセパレータ100(アノード側セパレータ100anおよびカソード側セパレータ100ca)とを備えている。
【0014】
発電体20は、電解質膜21の各面に触媒電極層22(アノード22anおよびカソード22ca)が形成された膜電極接合体(MEAとも呼ばれる)23と、膜電極接合体23の両側に配置された一対のガス拡散層24(アノード側拡散層24anおよびカソード側拡散層24ca)とを備えている。
【0015】
電解質膜21は、固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。本実施形態では、電解質膜21として、ナフィオン膜(NRE212、ナフィオンは登録商標)が用いられている。ただし、電解質膜21としては、ナフィオン(登録商標)に限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)やフレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜が用いられてもよい。また、電解質膜21として、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等が用いられてもよく、PTFE、ポリイミド等の補強材を含む機械的特性を強化した複合高分子膜が用いられてもよい。
【0016】
触媒電極層22(アノード22anおよびカソード22ca)は、電解質膜21の両側にそれぞれ配置され、燃料電池に使用されたときに一方がアノード電極として機能し、他方がカソード電極として機能する。触媒電極層22は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(本実施形態では白金)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(本実施形態ではフッ素系樹脂)とを含んで構成されている。導電性の触媒担持担体としては、カーボン粒子の他に、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等が用いられてもよい。また、触媒金属としては、白金の他に、例えば、白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等が用いられてもよい。
【0017】
ガス拡散層24(アノード側拡散層24anおよびカソード側拡散層24ca)は、電極反応に用いられる反応ガス(アノードガスおよびカソードガス)を電解質膜21の面方向に沿って拡散させる層である。本実施形態では、ガス拡散層24として、カーボンペーパーが用いられている。なお、ガス拡散層24としては、カーボンペーパーの他に、例えば、カーボンクロス等の他のカーボン多孔質体、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体が用いられてもよい。
【0018】
セパレータ100(アノード側セパレータ100anおよびカソード側セパレータ100ca)は、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって形成されている。本実施形態では、セパレータ100は、チタンによって形成されている。ただし、セパレータ100は、例えば、チタン以外の他の金属部材によって形成されていてもよい。セパレータ100の詳細については、後述する。
【0019】
セパレータ100の表面には、ガスや液体が流通する流路を構成する凹凸形状が形成されている。具体的には、アノード側セパレータ100anは、アノード側拡散層24anとの間に、ガスや液体が流通可能なアノードガス流路AGCを有している。カソード側セパレータ100caは、カソード側拡散層24caとの間に、ガスや液体が流通可能なカソードガス流路CGCを有している。
【0020】
図2は、セパレータ100の断面の一部を拡大して示す説明図である。セパレータ100は、金属基材110と、金属基材110の上に形成された中間層112と、中間層112の上に形成された炭素膜120とを備えている。なお、炭素膜120は、中間層112の表面のうち、ガス拡散層24に接触する側に形成されている。
【0021】
金属基材110は、導電性の金属部材によって形成されており、本実施形態では、チタンによって形成されている。ただし、金属基材110は、ステンレス鋼等の他の金属によって形成されていてもよい。
【0022】
炭素膜120は、中間層112の上に形成されており、セパレータ100の導電性及び耐食性を向上させる。炭素膜120は、プラズマCVDによって炭素粒子を蒸着させることによって形成されている。炭素膜120は、金属基材110の表面に形成された第1層121と、第1層121の表面に形成された第2層122とを含んでいる。後に詳述するように、第1層121に含まれる炭素の粒子径は、第2層に含まれる炭素の粒子径と異なっている。
【0023】
中間層112は、金属基材110及び炭素膜120の両方の成分を含有している。本実施形態では、中間層112は、炭化チタン(TiC)によって形成されている。中間層112は、金属基材110との密着性が良好であり、炭素膜120との密着性も良好である。したがって、本実施形態によれば、中間層112によって、金属基材110と、炭素膜120との密着性を向上させることができる。ただし、中間層112を省略して、金属基材110の上に直接、炭素膜120を形成してもよい。
【0024】
本実施形態では、第1層121に含まれる炭素の粒子径は、第2層122に含まれる炭素の粒子径よりも小さく、第1層121に含まれる炭素の粒子径は、19nm以下である。したがって、本実施形態によれば、第1層121に含まれる炭素の粒子は、金属基材110(中間層112が形成されている場合には、中間層112)の表面の微細な凹凸の隙間にも入り込みやすい。したがって、炭素膜120の第1層121と、金属基材110(中間層112が形成されている場合には、中間層112)との密着性を向上させることができる。
【0025】
さらに、本実施形態では、第2層122に含まれる炭素の粒子径は、40nm以下である。したがって、本実施形態によれば、炭素膜120の全てを、炭素の粒子径が19nm以下となるように形成する場合に比べて、成膜速度を向上させることができ、セパレータ100の生産効率を向上させることができる。さらに、本実施形態によれば、第2層122に含まれる炭素の粒子間の空隙が小さいため、燃料電池の発電によって生成される腐食物質を含む水が、第2層122を透過して金属基材110及び中間層112まで浸透することを抑制することができる。この結果、腐食物質を含む水によって金属基材110及び中間層112が腐食してしまうことを抑制することができ、燃料電池の出力の低下を抑制することができる。
【0026】
なお、本明細書において、「粒子径」とは、平均粒子径を意味し、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission-Scanning Electron Microscope)によって得られた像を、画像解析することによって平均粒子径を算出した。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態におけるセパレータ100の製造方法の工程図である。工程S100では、金属基材110を準備する。本実施形態では、チタン製の金属基材110を準備する。
【0028】
工程S102では、金属基材110の上に、中間層112を形成する。本実施形態では、チタン製の金属基材110の上に、中間層112として、炭化チタンの層を形成する。
【0029】
工程S104では、中間層112の上に、炭素膜120の第1層121を形成する。本実施形態では、炭化水素系のガスを用いたプラズマCVDによって、炭素膜120の第1層121を形成する。プラズマCVDの際には、炭素膜120の第1層121に含まれる炭素の粒子径が19nm以下となるように、ガスの流量を調整する。
【0030】
工程S106では、炭素膜120の第1層121の上に、炭素膜120の第2層を形成する。本実施形態では、炭化水素系のガスを用いたプラズマCVDによって、炭素膜120の第2層122を形成する。プラズマCVDの際には、炭素膜120の第2層122に含まれる炭素の粒子径が40nm以下となるように、ガスの流量を調整する。
【0031】
本実施形態では、工程S104において第1層121を形成する際の原料ガスの流量は、工程S106において第2層122を形成する際の原料ガスの流量の1/2から1/50の範囲内となるように設定されている。本実施形態のように、第1層121を形成する際の原料ガスの流量を、第2層122を形成する際の原料ガスの流量の1/2以下に設定すれば、第1層121の金属基材110(及び中間層112)への密着性を向上させることができ、第1層121を形成する際の原料ガスの流量を、第2層122を形成する際の原料ガスの流量の1/50以上に設定すれば、第1層121を形成するのに要する時間を短縮することができ、セパレータ100の生産効率を向上させることができる。
【0032】
B.実験例:
本実験例では、複数の燃料電池用セパレータのサンプルを作製し、各サンプルの抵抗値を測定した。そして、燃料電池用セパレータのサンプルを用いて燃料電池を作製し、所定時間発電を行なう耐久試験を行なった。耐久試験後に、各燃料電池用セパレータのサンプルの抵抗値を測定し、耐久試験後における抵抗値の増加量を測定した。
【0033】
図4は、炭素膜120の第2層122に含まれる炭素の粒子径と、耐久試験後における抵抗値の増加量との関係をグラフ形式で示す説明図である。なお、この実験例に用いられたサンプルにおける第1層121の炭素の粒子径は、10nm以下である。
【0034】
この
図4によれば、第2層122に含まれる炭素の粒子径が小さいほど、耐久試験後における抵抗値の増加量が小さくなることが理解できる。さらに、第2層122に含まれる炭素の粒子径が40nm以下であれば、抵抗値はほとんど増加せず、耐久試験後における抵抗値の増加量は、5[mΩ・m
2]以下になることが理解できる。この理由は、上述したように、第2層122に含まれる炭素の粒子径が40nm以下であれば、粒子間の空隙が小さいため、燃料電池の発電によって生成される腐食物質を含む水が、第2層122を透過して金属基材110及び中間層112まで浸透することを抑制することができるからである。この結果、腐食物質を含む水によって金属基材110及び中間層112が腐食してしまうことを抑制することができる。したがって、第2層122に含まれる炭素の粒子径は、40nm以下であることが好ましい。
【0035】
図5は、各サンプルの実験結果を表形式で示す説明図である。
図6から
図11は、各サンプルの炭素膜120の表面のSEM写真を示す説明図である。各図とサンプルとの対応関係は、以下のとおりである。
図6:サンプル3の第1層121の表面
図7:サンプル9の第1層121の表面
図8:サンプル12の第1層121の表面
図9:サンプル8の第2層122の表面
図10:サンプル11の第2層122の表面
図11:サンプル12の第2層122の表面
【0036】
図5の判定では、上記の耐久試験後における抵抗値の増加量が5[mΩ・m
2(mΩは、ミリオーム)]を超える場合には、耐久性が低いとして「B」と評価し、上記の耐久試験後における抵抗値の増加量が5[mΩ・m
2]以下である場合には、耐久性が高いとして「A」と評価した。
【0037】
サンプル1及びサンプル2によれば、炭素膜120が2層化されていない、すなわち、粒子径の小さい第1層121が形成されていない場合には、中間層112の有無に関わらず、抵抗値の増加量が大きく、耐久性が低いことが理解できる。
【0038】
サンプル3からサンプル5によれば、第1層121の炭素の粒子径が19nm以下であり、かつ、第2層122の炭素の粒子径が40nm以下であるため、耐久性が高いことが理解できる。
【0039】
サンプル6からサンプル8によれば、第1層121の炭素の粒子径が5nm以下であっても、第2層122の炭素の粒子径が40nmより大きいため、耐久性が低いことが理解できる。
【0040】
サンプル9からサンプル13によれば、第1層121の炭素の粒子径が10nm以下であり、かつ、第2層122の炭素の粒子径が30nm以下であるため、抵抗値の増加量が2[mΩ・m
2]以下となり、耐久性が非常に高いことが理解できる。
【0041】
なお、サンプル4からサンプル13によれば、第1層121を形成する際の原料ガスの流量が、第2層122を形成する際の原料ガスの流量の1/2から1/10である場合には、第1層121の炭素の粒子径が19nm以下になることが理解できる。
【0042】
以上より、第1層121の炭素の粒子径は、19nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがさらに好ましく、5nm以下であることが特に好ましい。また、第2層122の炭素の粒子径は、40nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0044】
・変形例1:
上記実施形態において、炭素膜120は、3つ以上の層によって構成されていてもよい。この場合には、炭素膜120を構成する3つ以上の層のうち、金属基材110の最も近い位置に形成された層に含まれる炭素の粒子径は、炭素膜120の他の層に含まれる炭素の粒子径よりも小さいことが好ましい。
【0045】
また、炭素膜120を構成する3つ以上の層のうち、金属基材110から最も離れた位置に形成された層に含まれる炭素の粒子径は、40nm以下であることが好ましく、金属基材110の最も近い位置に形成された層に含まれる炭素の粒子径は、19nm以下であることが好ましい。
【0046】
・変形例2:
上記実施形態において、金属基材110がチタンによって形成されている場合には、中間層112は、例えば、TiC
2によって形成されていてもよい。また、金属基材110がステンレス鋼(SUS)によって形成されている場合には、中間層112は、例えば、Fe
3C、Cr
23C
6によって形成されていてもよい。
【0047】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。