(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、低膨張ガラスの各成分の含有量の範囲を規定する理由について説明する。特に断りのない限り、含有量(含有率)を表す数値は、mol%表示である。
【0022】
(SiO
2)
SiO
2は、ガラス網目を形成する必須成分である。SiO
2は、また、ガラスの耐久性、特に耐酸性を高める成分である。そのため、SiO
2の含有量が少なすぎるとガラスの耐酸性が不足する可能性がある。従って、SiO
2の含有量の下限は55%である。SiO
2の含有量の下限は60%であることが好ましく、63%であることがより好ましい。他方、SiO
2の含有量が多すぎるとガラスの熔解性が大幅に低下する可能性がある。従って、SiO
2の含有量の上限は75%である。SiO
2の含有量の上限は72%であることが好ましく、70%であることがより好ましい。SiO
2の含有量の範囲は、これらの上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0023】
(B
2O
3)
B
2O
3は、ガラス網目を形成する必須成分である。B
2O
3の含有量が少なすぎると失透温度が大幅に上昇するとともに、ガラスの熔解性が大幅に低下する可能性がある。また、ガラスの生産性に影響が出る可能性もある。従って、B
2O
3の含有量の下限は5%である。B
2O
3の含有量の下限は7%であることが好ましく、9%であることがより好ましい。他方、B
2O
3の含有量が多すぎるとガラスの耐久性が不足する可能性がある。従って、B
2O
3の含有量の上限は17%である。B
2O
3の含有量の上限は13%であることが好ましい。B
2O
3の含有量の範囲は、これらの上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0024】
(Al
2O
3)
Al
2O
3は、ガラス網目を形成する役割及びガラス網目を修飾する役割を果たす必須成分である。Al
2O
3の含有量が少なすぎると分相が生じる可能性がある。また、先に説明したように、Al
2O
3の含有量が少なすぎると、アルカリ金属の移動度が下がり、陽極接合性が大幅に悪化する可能性がある。従って、Al
2O
3の含有量の下限は5%である。Al
2O
3の含有量の下限は8%であることが好ましい。他方、Al
2O
3の含有量が多すぎると線膨張係数及び失透温度の大幅な上昇を招く可能性がある。従って、Al
2O
3の含有量の上限は15%である。Al
2O
3の含有量の上限は13%であることが好ましく、12%であることがより好ましい。Al
2O
3の含有量の範囲は、これらの上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0025】
なお、Al
2O
3は、mol%及び質量%のいずれで表示したとしても、Li
2Oよりも多く本発明の低膨張ガラスに含まれる。
【0026】
(アルカリ土類金属酸化物)
アルカリ土類金属酸化物、すなわち、MgO、CaO、SrO及びBaOは、ガラス網目を修飾する任意成分であり、ガラスの熔融性を向上させる成分である。アルカリ土類金属酸化物の含有量が多すぎると、線膨張係数の大幅な上昇を招く可能性がある。従って、MgOの含有量の上限は、例えば10%であり、好ましくは7%、より好ましくは5%である。CaOの含有量の上限は、例えば10%であり、好ましくは8%、より好ましくは7%である。SrOの含有量の上限は、例えば5%であり、好ましくは3%、より好ましくは2%である。BaOの含有量の上限は、例えば1%であり、好ましくは0.5%である。特に、BaOは、環境に対する負荷が大きいので、本実施形態の低膨張ガラスは、BaOを実質的に含んでいなくてもよい。
【0027】
「実質的に含まない」とは、例えば工業用原料により不可避的に混入する場合を除き、意図的に含ませないことを意味する。具体的には、0.1%未満、好ましくは0.01%未満の含有率を意味する。
【0028】
他方、適切な量のMgO及びCaOは、ガラスの熔融性を向上させる効果とともに、失透温度を下げる効果をもたらす。従って、MgOは、例えば1%以上、好ましくは2%以上含まれていてもよい。同様に、CaOは、例えば1%以上、好ましくは2.5%以上、より好ましくは3%以上含まれていてもよい。
【0029】
なお、CaO及びSrOは、アルカリ金属を強く束縛する能力を有する。そのため、これらの含有量が多すぎると、陽極接合性の大幅な低下を招く可能性がある。また、CaO及びSrOは線膨張係数を変化させる能力も大きいため、これらの含有量が多すぎると線膨張係数を所望の範囲に調整することが困難となる可能性がある。従って、CaO及びSrOの含有量の合計の上限は、例えば9%であり、好ましくは7%、より好ましくは6%である。
【0030】
(ZnO)
ZnOは、アルカリ土類金属酸化物と同様の効果を持つ任意成分であり、一般に、ガラス形成能を向上させる成分でもある。ZnOの含有量が多すぎると、失透温度が大幅に上昇する可能性がある。従って、ZnOの含有量の上限は6%であり、好ましくは2.5%である。
【0031】
なお、線膨張係数、熔融性及び陽極接合性等を考慮して、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの含有量の合計は、例えば5〜13%、好ましくは7〜13%、より好ましくは9〜11%の範囲に調整されていてもよい。
【0032】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの含有量の範囲は、それぞれ、上記した上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0033】
(アルカリ金属酸化物)
アルカリ金属酸化物は、陽極接合性を向上させる必須成分である。陽極接合の際には、アルカリ金属イオンが陰極へ移動することによって、界面においてガラス中の非架橋酸素イオンとシリコンとの共有結合が引き起こされる。また、アルカリ金属酸化物は、ガラス網目を修飾する成分であり、ガラス網目を適度に切断し、ガラスの熔融温度を下げ、ガラス融液の粘性を低く抑える効果がある。他方、アルカリ金属酸化物の含有量が多すぎると、線膨張係数及び誘電正接が大幅に上昇する可能性がある。
【0034】
ここで、全てのアルカリ金属酸化物が誘電正接を高める能力を等しく有しているわけではない。アルカリ金属酸化物の中でも、Li
2Oは、ガラスの誘電正接を高める能力が相対的に低い。従って、アルカリ金属酸化物として主にLi
2Oを使用すれば、優れた陽極接合性と低誘電正接とを兼ね備えたガラスを提供できる。Li
+は、陽極接合の際の移動度も高いので、必須のアルカリ金属酸化物としてのLi
2Oの使用は好ましい。
【0035】
具体的には、まず、アルカリ金属酸化物の含有量の合計を5%以下とする。併せて、Li
2Oの含有量を0.6〜4%の範囲に制限する。Li
2Oの含有量は、mol%で表示して、Li
2O以外のアルカリ金属酸化物の含有量の合計を上回っている。これらの条件を満たすことにより、優れた陽極接合性を確保できるとともに、誘電正接が高くなりすぎることを防止できる。
【0036】
また、アルカリ金属酸化物の含有量の合計は、3%以下であることが好ましい。Li
2Oの含有量の上限は、好ましくは3%であり、より好ましくは2%である。Li
2Oの含有量の下限は、好ましくは1%である。Li
2Oの含有量の範囲は、これらの上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0037】
Li
2O以外のアルカリ金属酸化物として、Na
2O及びK
2Oから選ばれる少なくとも1つが任意成分として含まれていてもよい。Na
2Oの含有量の上限は、例えば1%であり、好ましくは0.5%であり、より好ましくは0.25%である。K
2Oの含有量の上限は、例えば1%であり、好ましくは0.5%である。
【0038】
本実施形態の低膨張ガラスは、Na
2O及びK
2Oから選ばれる少なくとも1つを0.05%以上含んでいてもよい。Na
2Oの含有量及びK
2Oの含有量は、それぞれ、Li
2Oの含有量よりも少ない。Na
2Oは、0.1%以上の比率で低膨張ガラスに含まれていてもよい。同様に、K
2Oは、0.1%以上の比率で低膨張ガラスに含まれていてもよい。後述する実施例から本発明者らが得た知見によれば、少量のNa
2O及び/又はK
2OがLi
2Oとともに低膨張ガラスに含まれていると、誘電正接の上昇を抑制しつつ、優れた陽極接合性を低膨張ガラスに付与できる。
【0039】
Na
2O及びK
2Oの含有量の範囲は、それぞれ、上記した上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0040】
別の観点から、Na
2O及びK
2Oから選ばれる少なくとも1つが低膨張ガラスに含まれているとき、Na
2O及びK
2Oの含有量の合計に対するLi
2Oの含有量の比率(Li
2O/(Na
2O+K
2O))は2よりも大きい値でありうる。これにより、上記した効果をより十分に享受できる。一例として、比率(Li
2O/(Na
2O+K
2O))の上限は80である。このとき、Li
2Oの含有量が4%、Na
2O又はK
2Oの含有量が0.05%である。
【0041】
当業者に知られているように、異種のアルカリイオンをガラス中に混合させることにより、ガラスの性質が加成性から大きくずれる。この現象は、「混合アルカリ効果」と呼ばれている。
【0042】
しかし、本発明者らは、少量のNa
2O及び/又はK
2OがLi
2Oとともに低膨張ガラスに含まれているときに誘電正接の上昇が加成性からずれる現象は、通常の混合アルカリ効果とは異なるものであり、高周波帯に特有の現象ではないかと考えている。その理由は次の通りである。
【0043】
一般に、混合アルカリ効果は、2種類のアルカリ成分の比率が1:1のときに顕著に現れる。しかし、後述する実施例から明らかなように、誘電正接の上昇を抑制する効果は、Li
2O:Na
2O=5:1のときに有利に得られている。また、混合アルカリ効果は、アルカリの移動に基づく現象であると考えられている。これに対し、1GHzの周波数において、ガラス中のアルカリは変形したり振動したりするだけなので、アルカリの移動とは無関係である。
【0044】
(SnO
2)
SnO
2は、清澄作用を有するので、例えば0.05%以上、好ましくは0.1%以上の比率で低膨張ガラスに含まれていてもよい。ただし、SnO
2の含有量が多すぎると失透及び分相が生じる可能性がある。従って、SnO
2の含有量の上限は、例えば1%であり、好ましくは0.2%である。SnO
2の含有量の範囲は、これらの上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0045】
(Fe
2O
3、TiO
2、CeO
2)
通常、Feは、Fe
2+又はFe
3+の状態でガラス中に存在する。Fe
3+はガラスの紫外線吸収特性を高める成分であり、Fe
2+は熱線吸収特性を高める成分である。従って、Feは必須ではないが、ガラスの光学特性を調整するための成分として使用してもよい。また、Feは、工業用原料により不可避的に混入する場合がある。Feは、Fe
2O
3で表示して、例えば0.01%以上、好ましくは0.5%以上の比率で低膨張ガラスに含まれていてもよい。しかし、Feが過剰に含まれていると、低膨張ガラスが過度に着色したり、低膨張ガラスの製造の困難性が高まったりする可能性がある。なぜなら、Feは、赤外線を良く吸収し、ガラス融液の温度の不均一さを増長する可能性があるからである。従って、Feの含有量の上限は、Fe
2O
3で表示して、例えば5.0%であり、2.0%であることが好ましく、より好ましくは1.0%である。
【0046】
本実施形態の低膨張ガラスを電子部品として使用する場合、レーザーでその低膨張ガラスを加工する可能性がある。この場合、低膨張ガラスには、レーザーを吸収する性質が要求される。微量のFeは、レーザーの吸収を助長し、レーザーを用いた加工、例えば孔開け加工を容易にする。同様の目的で、TiO
2及び/又はCeO
2が低膨張ガラスに含まれていてもよい。すなわち、本実施形態の低膨張ガラスは、Fe
2O
3、TiO
2及びCeO
2からなる群より選ばれる少なくとも1つをレーザー吸収成分として含んでいてもよい。Feは清澄作用を有し、かつ極めて安価なので、レーザー吸収成分としてのFe
2O
3の使用は好ましい。
【0047】
例えば、535nm以下の特定の波長λのレーザーに対する低膨張ガラスの吸収係数が50cm
−1以下となるように、レーザー吸収成分(Fe
2O
3、TiO
2及びCeO
2)の含有量を調整することができる。吸収係数は、好ましくは3〜20cm
−1、より好ましくは3〜10cm
−1の範囲にある。
【0048】
低膨張ガラスを加工するためのレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの高調波、Nd:YVO
4レーザーの高調波、Nd:YLFレーザーの高調波が挙げられる。高調波は、例えば、第2高調波、第3高調波又は第4高調波である。これらのレーザーの第2高調波の波長は、532〜535nmの近傍にあり、第3高調波の波長は、355〜357nmの近傍にあり、第4高調波の波長は、266〜268nmの近傍にある。これらのレーザーを用いることによって、低膨張ガラスを安価に加工できる。
【0049】
上記の観点を考慮に入れて、TiO
2の含有量の下限は、例えば1%、好ましくは3%である。CeO
2の含有量の下限は、例えば0.2%、好ましくは0.5%である。ただし、これらが過剰に含まれていると失透及び分相が生じる可能性がある。従って、TiO
2の含有量の上限は、例えば30%であり、好ましくは20%、より好ましくは10%である。同様に、CeO
2の含有量の上限は、例えば10%、好ましくは5%、より好ましくは2%である。
【0050】
Fe
2O
3、TiO
2及びCeO
2の含有量の範囲は、それぞれ、上記した上限及び下限の任意の組み合わせで特定されうる。
【0051】
なお、Fe
2O
3、TiO
2及びCeO
2の1molあたりの吸収係数は、それぞれ、12.5cm
−1、1.0cm
−1及び5.9cm
−1である。Fe
2O
3、TiO
2及びCeO
2の含有量をそれぞれX、Y、Zとすると、これらの成分に基づく吸収係数は、「12.5X+Y+5.9Z」で表される。3<(12.5X+Y+5.9Z)<50を満たす(X+Y+Z)の最大値は30(mol%)であり、最小値は0.3(mol%)となる。
【0052】
本発明の低膨張ガラスは、実質的に上記した成分からなっていてもよい。また、本発明の低膨張ガラスは、上記した成分以外の成分を実質的に含まなくてもよい。さらに、本発明の低膨張ガラスは、上記した成分からなっていてもよい。
【0053】
(その他の成分)
低膨張ガラスを製造するために、一般に知られている清澄剤、例えば、NaCl等の塩化物、CaF
2等のフッ化物、亜ヒ酸、酸化アンチモン等を原料中に少量添加してもよい。清澄剤の成分は、誘電正接、接合強度等の特性に大きな影響を及ぼさない限り、低膨張ガラスに残留していてもよい。ただし、環境に対する負荷が大きい物質、例えば亜ヒ酸及び酸化アンチモンは、それぞれ、実質的に含まれていないことが好ましい。
【0054】
(誘電正接)
近年、半導体技術を駆使して作られるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)と呼ばれるデバイスの利用が、自動車、携帯電話、生化学分野等を中心に拡大している。加速度センサ、圧力センサ等が既に自動車等に適用されているほか、光導波路センサ、光スイッチングデバイス等の光MEMSについても応用範囲が広がっている。MEMSの構成部品の1つとして、本発明の低膨張ガラスは、電子基板、電気的絶縁基板、シリコン(シリコンウェーハ)を支持する台座等の用途に広く使用されうる。
【0055】
低膨張ガラスを用いたデバイスは、しばしば、高周波信号を取り扱う。従って、低膨張ガラスは、気温25℃及び周波数1GHzの測定条件において、0.0050未満の誘電正接を有していることが好ましい。誘電正接の下限は特に限定されないが、0.001未満の誘電正接は非現実的である。
【0056】
(失透温度)
本実施形態の低膨張ガラスは、上記した範囲の組成を有することにより、例えば950〜1150℃の範囲に失透温度を有する。失透温度が低い場合、ガラスを安定して製造できる。もちろん、失透温度が上記範囲に収まっていることは必須ではない。
【0057】
(平均線膨張係数)
本実施形態の低膨張ガラスは、25〜450℃の範囲で測定したときに、好ましくは、32×10
−7/℃〜40×10
−7/℃の範囲の平均線膨張係数を有している。この範囲内の平均線膨張係数を有していると、陽極接合後の残留応力の問題が生じにくく、ガラスとシリコンとの陽極接合の強度を確保しやすい。また、本実施形態の低膨張ガラスは、陽極接合以外の方法でシリコン等と接合した場合においても、反りや接合部の応力による破損を起こしにくい。また、本実施形態の低膨張ガラスは、表面にシリコン薄膜を形成し、薄膜トランジスタなどの回路をさらに形成した場合にも熱応力による問題を生じにくい。なお、平均線膨張係数は、示差熱膨張計によって25〜450℃の間の試料の伸び率を測定し、この伸び率を温度変化の値で割ることによって求めることができる。
【0058】
(化学強化)
本発明の低膨張ガラスは化学強化を行うことができ、本発明の低膨張ガラスに化学強化を施すことで本発明の強化ガラスを得ることができる。化学強化は、ガラス表面に含まれるアルカリ金属イオンをより半径の大きい一価の陽イオンで置換することにより、ガラス表面に圧縮応力層を形成する技術である。
【0059】
本発明の強化ガラスは、例えば、回路基板用材料として用いることができる。具体的には、強化ガラスに貫通孔を設け、一方の面をシリコンと接合し、他方の面からその貫通口を介してシリコンに銅、アルミ、銀などの金属を含む導電性の配線材料を配線する使用形態が考えられる。このような使用形態においては、金属は一般に線膨張係数が大きいため、本発明の低膨張ガラスと配線材料との熱応力差に起因する破損が生じるおそれがある。しかし、本発明の強化ガラスによれば、表面に形成された圧縮応力層により配線材料との熱応力差に起因する破損のおそれを低減することができる。また、本発明の強化ガラスを、例えばタッチパネルディスプレイのパネル部分のガラス基板として用いれば、強化ガラスの表面は圧縮応力層によって強化されているので、タッチパネルディスプレイの保護ガラスを不要にできる場合がある。
【0060】
本発明の低膨張ガラスに対する化学強化は、低膨張ガラスに含まれるアルカリ金属イオンよりもイオン半径の大きい一価の陽イオンを含む溶融塩に低膨張ガラスを接触させることにより行うことができる。これにより、本発明の低膨張ガラスに含まれるアルカリ金属イオンが、よりイオン半径の大きい一価の陽イオンで置換されて表面に圧縮応力層が形成される。具体的には、本発明の低膨張ガラスに含まれるリチウムイオン又はナトリウムイオンが、よりイオン半径の大きい一価の陽イオンで置換される。溶融塩としては、硝酸ナトリウム又は硝酸カリウムの溶融塩、あるいはこれらの混合塩を用いることができる。硝酸カリウムの溶融塩を用いることが、圧縮応力層に高い圧縮応力を付与する観点からは、好ましい。また、上記の使用形態で本発明の強化ガラスを用いる場合、予め貫通孔を形成した低膨張ガラスに対して化学強化を行うことが好ましい。ただし、化学強化を行った後に強化ガラスに貫通孔を形成するようにしてもよい。
【0061】
本発明の強化ガラスは、後述する50%破壊荷重が1500gf(グラムフォース)以上であることが好ましく、1700gf以上がより好ましく、1800gf以上がさらに好ましい。
【0062】
本発明の強化ガラスに形成される圧縮応力層の深さは5μm以上が好ましい。また最表面に付与される圧縮応力は200MPa以上が好ましい。
【0063】
本発明の低膨張ガラスに含まれうる上記成分と化学強化性との関係について以下に述べる。Al
2O
3の含有量が少なすぎるとアルカリ金属の移動度が下がり、化学強化性が低下する可能性がある。従って、Al
2O
3の含有量の下限は、上記の通り、5%であり、8%であることが好ましい。
【0064】
CaO及びSrOは、アルカリ金属を束縛する能力を有する。従って、これらの含有量が多すぎると、化学強化性が低下する可能性がある。従って、CaO及びSrOの含有量の合計の上限は上記の通り、例えば9%であり、好ましくは7%、より好ましくは6%である。
【0065】
アルカリ金属酸化物は、化学強化性を向上させる成分である。アルカリ金属酸化物に由来するガラスに含まれるアルカリ金属イオンが、よりイオン半径の大きい一価の陽イオンと交換されることで表面に圧縮応力が付与され、ガラス強度を向上させる成分である。Li
+は化学強化の際に移動しやすいため、アルカリ金属酸化物の中でもLi
2Oを必須成分とすることが好ましい。アルカリ金属酸化物の含有量の合計及びLi
2Oの含有量が上記の条件を満たすことにより、化学強化性を確保することができる。化学強化性の向上の観点からは、Li
2Oの含有量は、1〜4%が好ましく、1.2〜3.5%がより好ましく、1.5〜3%がさらに好ましい。
【0066】
また、化学強化の際に交換されるナトリウムイオン、カリウムイオンの拡散速度を高め、圧縮応力層の深さを増やすことができるので、Li
2Oとともに他のアルカリ金属酸化物(Na
2O、K
2O)を含むことが好ましい。圧縮応力層の深さを増やす観点からは、Na
2O、K
2Oから選ばれる少なくとも一つを0.05%以上含むことが好ましい。
【0067】
一方で、ナトリウムイオンは、リチウムイオンよりもイオン半径が大きく、溶融塩中のカリウムイオンとの交換で発生するガラス表面の圧縮応力はリチウムイオンよりも小さい。またナトリウムイオンは、溶融塩中のナトリウムイオンとの交換では圧縮応力を発生させない。カリウムイオンのイオン半径はナトリウムイオンよりもさらに大きく、溶融塩中のカリウムイオンとの交換では圧縮応力を発生させない。カリウムイオンは、溶融塩中のナトリウムイオンとの交換では逆に圧縮応力を低下させ、場合によっては引っ張り応力を発生させてしまう。従って、十分な圧縮応力を発生させる観点からは、Li
2Oの比率がLi
2O/(Na
2O+K
2O)で2よりも大きいことが好ましく。Li
2Oと共存するアルカリ金属酸化物はK
2OよりもNa
2Oが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
表1の実施例1に示す組成が得られるように、ガラス原料である酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等を秤量及び混合してバッチを得た。得られたバッチを白金製るつぼに入れ、雰囲気温度を1400〜1650℃に設定した電気炉で加熱し、バッチを熔融させた。熔融ガラスをるつぼ内で適宜撹拌しながら、4〜5時間保持した。その後、カーボン製又はステンレス製の鋳型に熔融ガラスを流し込み、25℃まで徐冷した。これにより、実施例1のガラス試料を得た。同様の方法で、実施例2〜23及び比較例1〜9のガラス試料を得た。
【0070】
(失透温度)
実施例及び比較例のガラスの失透温度を以下の方法で測定した。1.0〜2.8mmの粒径に粉砕したガラスを白金ボートに入れ、温度勾配(900〜1400℃)のついた電気炉にて24時間加熱した。結晶の出現位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。結果を表1〜3に示す。なお、電気炉における温度は、予め測定して求めており、所定の場所に置かれたガラスは、その場所に対応した温度で加熱される。失透温度は、熔融ガラス中に結晶が生成し、成長しはじめる温度である。
【0071】
(平均線膨張係数の算出)
線膨張係数を測定するために、5.0mmの直径及び18.0mmの長さを有する円柱状の試験片を各ガラス試料から切り出した。示差熱膨張計を用いて各試験片の熱膨張率を測定し、25〜450℃の平均線膨張係数を計算した。結果を表1〜3に示す。
【0072】
(誘電正接の測定)
誘電正接を測定するために、1.4mm×1.4mm×80.0mmの寸法を有する角柱状の試験片を各ガラス試料から切り出した。ネットワークアナライザ(Agilent Technologies社製E8361A)及び空洞共振器を用いて、試験片の誘電正接(tanδ)を測定した。測定周波数は1GHz、測定温度は25℃、湿度は50%であった。結果を表1〜3に示す。
【0073】
(陽極接合電流の測定)
各ガラス試料から、50mm×50mmの広さの平坦な表面を有するガラス基板を切り出した。次に、ガラス基板と同じ寸法のシリコンウェーハをガラス基板に重ね合わせ、400℃に加熱したカーボン電極にガラス基板及びシリコンウェーハを接触させた。ガラス基板及びシリコンウェーハを十分に加熱した後、ガラス基板とシリコンウェーハとの間に1000Vの電圧を印加した(ガラス基板側が陰極)。そして、電圧の印加を開始してから5分が経過するまでの期間にガラス基板とシリコンウェーハとの間に流れた電流を測定した。ただし、電流値は、カーボン電極の寸法によって変化するので、得られた電流値を単位面積当たりの電流値に換算した。さらに、得られた電流値を単位時間当たりの電流値に換算した。結果を表1〜3に示す。
【0074】
測定された陽極接合電流は、陽極接合の強度を直接表しているわけではない。しかし、当業者は、しばしば、陽極接合性の指標として陽極接合電流を測定する。なぜなら、陽極接合電流が大きいことは、アルカリ金属の移動度が高いことを意味し、ひいては陽極接合を容易に実施できること及び高強度の陽極接合を形成できることを意味するからである。本発明者らの知見によれば、上記した条件で陽極接合電流を測定及び換算して得られた値が2μA/mm
2・min以下の場合に、接合速度が非常に遅かったり(陽極接合工程に時間がかかる)、接合不良が起きたりする。
【0075】
(化学強化)
表1、表2に示す実施例1、実施例8及び実施例23のガラス試料を130mm×70mm×0.7mmの形状に切り出した。切り出したこのガラス試料を、480℃の硝酸カリウムの溶融塩に8時間浸漬して化学強化を行い、強化ガラス試料を得た。
【0076】
強化ガラス試料及び化学強化を行っていないガラス試料について以下の方法で50%破壊荷重を測定した。温度25℃、湿度60%の環境下で、マイクロビッカース硬度計(株式会社アカシ製 MVK−G2)でダイヤモンド圧子(対面角136°の四角錐圧子)を用いてガラス試料表面の任意の5箇所について300gfの荷重を15秒間加え、四角形の圧痕跡をつけた。荷重を加えた試料ガラスについて、荷重を除いて5分間静置した。その後、圧痕跡の四角形の中心と四角形の頂点とを結ぶ線分の延長線上にクラックが発生していないか光学顕微鏡により観察した。5つの圧痕跡の各頂点についてクラックの有無を確認し、発生したクラックの数を全体の頂点の数20個で除して破壊確率Pを求めた。ガラス試料に加える荷重を、500gf、1000gf、2000gfに変更して同様にしてそれぞれの荷重に対するガラス試料の破壊確率Pを求めた。破壊確率P=50%を跨いで隣接する2つの荷重について、それぞれの破壊確率から線形補完により破壊確率Pが50%となる破壊荷重を求め、ガラス試料の50%破壊荷重とした。結果を表4に示す。
【0077】
また、実施例23について化学強化を行って得られた強化ガラス試料について、最表面の圧縮応力及び圧縮応力層の深さを折原製作所製表面応力計「FSM−6000」を用いて測定した。この測定結果を表4に併せて示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
表1〜3に示すように、アルカリ金属酸化物として主にLi
2Oを含む実施例1〜23は、いずれも低い誘電正接(0.0050未満)を示した。また、測定を行った限りにおいて、各実施例は、2μA/mm
2・min以上の陽極接合電流、32×10
−7/℃〜40×10
−7/℃の範囲の平均線膨張係数、及び十分に低い失透温度を示した。
【0083】
実施例8は、3%のLi
2Oを含み、0.0049の誘電正接を示した。比較例1は、1.5%のNa
2Oを含み、0.0057の誘電正接を示した。比較例2は、1.5%のK
2Oを含み、0.0059の誘電正接を示した。すなわち、実施例8は、比較例1及び2の2倍のモル量のアルカリ金属酸化物を含んでいるにも拘らず、比較例1及び2よりも小さい誘電正接を示した。このことは、ガラスの誘電正接が高くなりすぎるのを避けるために、アルカリ金属酸化物としてLi
2Oを有利に使用できることを示唆している。
【0084】
実施例11及び18は、アルカリ金属酸化物を除き、互いに同一の組成を有する。実施例11は、アルカリ金属酸化物として、1.5%のLi
2Oを含む。実施例18は、アルカリ金属酸化物として、1.25%のLi
2O及び0.25%のNa
2Oを含む。つまり、実施例11のアルカリ金属酸化物の含有量は、実施例18のアルカリ金属酸化物の含有量に等しい。それにも拘らず、実施例11の誘電正接は0.0034、実施例18の誘電正接は0.0032であり、実施例18の誘電正接は実施例11のそれよりも0.0002小さかった。このことは、少量のNa
2OがLi
2Oとともに低膨張ガラスに含まれていると、誘電正接の上昇を抑制しつつ、優れた陽極接合性を低膨張ガラスに付与できることを示唆している。同様の現象は、実施例1及び2の間でも見られた。また、少量のK
2Oを使用した場合にも同様の現象が現れると予測される。
【0085】
なお、この現象は、Na
2O及びK
2Oの含有量の合計に対するLi
2Oの含有量の比率(Li
2O/(Na
2O+K
2O))が2よりも大きいときに顕著に現れると予測される。例えば、実施例16の当該比率は2であり、実施例16の誘電正接は0.0034であり、実施例11の誘電正接に等しい。実施例16において、少量のK
2Oが適量のLi
2Oとともに含まれていることによって誘電正接の上昇を抑制する効果が現れているのかどうか、明らかではない。
【0086】
実施例11、13及び14は、Al
2O
3の含有量を除き、概ね同じ組成を有する。Al
2O
3の含有量の増加に伴い、陽極接合電流が増加した。このことは、Al
2O
3がアルカリ金属の移動度を高める機能を有していることを示唆している。
【0087】
比較例3は、1.5%のLi
2O及び1.5%のNa
2Oを含む。比較例4は、1.5%のLi
2O及び1.5%のK
2Oを含む。すなわち、比較例3及び4は、それぞれ、実施例8と同じモル量のアルカリ金属酸化物を含む。そして、比較例3は、0.0049の誘電正接を示した。この値は、実施例8の誘電正接に等しい。また、比較例4は、0.0052の誘電正接を示した。この値は、アルカリ金属酸化物としてK
2Oを単独で含む比較例2の誘電正接(0.0059)よりも小さい。
【0088】
上記の事実は、Na
2O又はK
2OをLi
2Oと併用した場合、Na
2O又はK
2Oを単独で使用した場合の誘電正接を基準として、より小さい誘電正接を得ることができることを示唆している。しかし、比較例3の平均線膨張係数は、実施例8の平均線膨張係数よりも大きかった。また、比較例3の失透温度は、実施例8の失透温度よりも低かった。さらに、比較例4の誘電正接は、好ましい誘電正接の基準値(0.0050)を上回っていた他、比較例3と同様に、大きい平均線膨張係数及び低い失透温度を示した。
【0089】
波長355nmにおける実施例1、2及び19〜22の吸収係数を測定したところ、それぞれ、1.39cm
−1、1.61cm
−1、8.77cm
−1、3.87cm
−1、3.93cm
−1及び6.46cm
−1であった。なお、吸収係数は、以下の方法に従って算出した。各ガラス試料から20mm×20mm×3mmの試験片を切り出した。それらの試験片を用いて、波長355nmにおける透過率及び反射率を測定した。測定された透過率、反射率及び試験片の厚さ(3mm)から吸収係数を算出した。
【0090】
表4に示すように、実施例1、実施例8及び実施例23のガラス試料に化学強化を行った強化ガラス試料は、化学強化を行っていないガラス試料に比べて50%破壊荷重がかなり大きな値を示した。また、Li
2Oの含有量が実施例1より多い実施例8のガラス試料に化学強化を行った強化ガラス試料の50%破壊荷重は、実施例1のガラス試料に化学強化を行った強化ガラス試料のそれよりも大きかった。このことは、低膨張ガラスに含まれるLi
2Oの含有量が多いほど強化ガラスの強度が高くなることを示唆している。また、実施例23の強化ガラス試料では、実施例8の強化ガラス試料では観測されなかった圧縮応力層深さが観測された。このことは、Na
2OをLi
2Oと共存させることで圧縮応力層が深くなったことを示唆している。