(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890394
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】三価クロムめっき液
(51)【国際特許分類】
C25D 3/06 20060101AFI20160308BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20160308BHJP
C25D 15/02 20060101ALI20160308BHJP
F16J 9/26 20060101ALI20160308BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
C25D3/06
C25D7/00 C
C25D15/02 J
F16J9/26 C
F16F9/32 N
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-507708(P2013-507708)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2012058300
(87)【国際公開番号】WO2012133613
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-77287(P2011-77287)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511082584
【氏名又は名称】株式会社クリタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(72)【発明者】
【氏名】品田 學
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正行
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−031119(JP,A)
【文献】
特開平09−095793(JP,A)
【文献】
特開昭55−031122(JP,A)
【文献】
特開昭62−120498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00 − 21/22
F16J 1/00 − 1/24
F16J 7/00 − 10/04
F16F 9/00 − 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価クロム化合物、pH緩衝剤(但し、塩化アルミニウムは除く)、アミノカルボン酸化合物、スルファミン酸塩化合物及びアミノカルボニル化合物を含有する水溶液からなり、アミノカルボニル化合物に対するスルファミン酸塩の配合量がモル比で0.4〜1.5である三価クロムめっき液。
【請求項2】
セラミック粒子を更に含有する請求項1に記載の三価クロムめっき液。
【請求項3】
セラミック粒子の凝集防止剤を更に含有する請求項2に記載の三価クロムめっき液。
【請求項4】
前記三価クロム化合物が、塩化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム及びリン酸クロムのうちの少なくとも一種である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液。
【請求項5】
前記pH緩衝剤が、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム又はホウ酸カリウムである請求項1ないし4のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液。
【請求項6】
前記アミノカルボン酸化合物が、グリシン又はアラニンである請求項1ないし5のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液。
【請求項7】
前記スルファミン酸塩化合物が、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸ナトリウム又はスルファミン酸カリウムである請求項1ないし6のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液。
【請求項8】
前記アミノカルボニル化合物が、尿素及びカルバミン酸のうちの少なくとも一種である請求項1ないし7のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液。
【請求項9】
前記セラミック粒子が、20〜100mVのゼータ電位を有するものである請求項2に記載の三価クロムめっき液。
【請求項10】
前記凝集防止剤が、塩化アルミニウムである請求項3に記載の三価クロムめっき液。
【請求項11】
摺動部材のめっき液として用いられる請求項1ないし10のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液。
【請求項12】
摺動部材がピストンリング、ロール及びショックアブソーバから選ばれる請求項11に記載の三価クロムめっき液。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液を用いるクロムめっき方法。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれか一項に記載の三価クロムめっき液を用いて形成された皮膜を加熱処理するクロムめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三価のクロムを含有するクロムめっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、大気中で腐食せず光沢を失わないので、装飾めっきとして広く用いられている。また高い硬度と低い摩擦係数を有するので、耐摩耗性を要する機械部品等に広く用いられている。しかしこのめっきに用いられるめっき液には多量の六価クロムが用いられている。六価クロムは人体への影響が懸念されるので、その懸念の少ない三価クロムを用いためっき液の開発が望まれている。
【0003】
三価のクロムを用いためっき液として、例えば特許文献1には、塩化クロム六水和物、ホウ酸、グリシン、塩化アンモニウム及び塩化アルミニウム六水和物の組成のめっき液を用いることが記載されている。このめっき液は、良好なめっき表面を得ることができるという利点を有する。しかし、めっき液中の塩化アンモニウムが分解して塩素ガスが発生する可能性があるので、作業環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
【0004】
また、三価のクロムを用いて形成されためっき皮膜は、膜厚を大きくすることが容易でなく、厚いめっき皮膜が要求される工業用途では実用的なめっき液を供給できているとは言い難い。これを解決する目的で、特許文献2では、鏡面光沢を有する厚いクロムめっきを電析させるために、アンモニウム源としてスルファミン酸アンモニウムを使用することが記載されている。
【0005】
特許文献3では三価クロムによる化成処理皮膜の耐水性を維持させる目的で、三価のクロムの含有液に尿素を加えることが提案されている。
【0006】
更に特許文献4では、外観や析出状態を改善するために三価クロムめっき浴中に添加されている硫黄含有化合物の硫黄分が、クロムめっき皮膜中に析出することを抑制することを目的として、該めっき浴中にアミノカルボン酸類を添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/136223号パンフレット
【特許文献2】特開平9−95793号公報
【特許文献3】特開平6−173027号公報
【特許文献4】特開2010−189673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、皮膜特性の向上及び作業環境の改善を求めて、三価クロムめっき液について多くの提案がなされているが、さらなる改良が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、三価クロム化合物、pH緩衝剤
(但し、塩化アルミニウムは除く)、アミノカルボン酸化合物、スルファミン酸塩化合物及びアミノカルボニル化合物を含有する水溶液からな
り、アミノカルボニル化合物に対するスルファミン酸塩の配合量がモル比で0.4〜1.5である三価クロムめっき液を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工業的に満足し得る膜厚をもち、耐食性及び耐摩耗性等の皮膜特性に優れたクロムめっきを形成することのできる三価クロムめっき液が提供される。また、本発明によれば、液中成分の分解によるハロゲンガス等の有害ガスの発生が抑えられるため、長期保存性に優れ、作業環境の改善につながる三価クロムめっき液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の三価クロムめっき液は水を媒体とするものである。このめっき液には、三価クロム化合物、pH緩衝剤、アミノカルボン酸化合物、スルファミン酸塩化合物及びアミノカルボニル化合物が含有されている。
【0012】
めっき液に含まれる三価クロム化合物としては、クロムの価数が三価である水溶性化合物を特に制限なく用いることができる。そのような化合物としては、例えば塩化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム及びリン酸クロムなどの無機酸クロム、乳酸クロム、グルコン酸クロム、グリコール酸クロム、シュウ酸クロム、リンゴ酸クロム、マレイン酸クロム、マロン酸クロム、クエン酸クロム、酢酸クロム及び酒石酸クロムなどの有機酸クロムが挙げられる。これらの三価クロム化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。めっき液中における三価のクロムの濃度は、クロムめっきを首尾よく行い得る点から、好ましくは0.2〜1.4mol/リットル、更に好ましくは0.4〜1.2mol/リットルとする。
【0013】
めっき液に含まれるpH緩衝剤は、クロムめっきを行うときのpHを適切なものにして、クロムめっきを首尾よく行う目的で配合される。この目的に適したpH緩衝剤としては例えばホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。特にホウ酸、ホウ酸ナトリウム又はホウ酸カリウムを用いることが好ましい。これらの化合物は単独で用いることもでき、あるいは2種以上を組み合わせた緩衝系として用いることもできる。pH緩衝剤の配合量は、めっき液のpHを好ましくは0.5〜2.0、更に好ましくは0.8〜1.5に維持し得る量とすることができる。特にpH緩衝剤としてホウ酸を用いると、pH緩衝作用のほかに、還元によって生成する金属クロムの結晶が微細化するという利点がある。
【0014】
めっき液に含まれるアミノカルボン酸化合物は、めっき液中において三価のクロムと錯体を形成し、めっき液の安定化を図る目的や、クロムめっきを首尾よく行う目的で配合される。アミノカルボン酸化合物は、分子中に少なくとも1個のアミノ基と、少なくとも1個のカルボキシル基とを有する化合物である。アミノカルボン酸化合物の例としては、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びアルギニンなどが挙げられる。特にグリシン又はアラニンを用いることが好ましい。これらの化合物は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アミノカルボン酸化合物は、めっき液中の三価のクロム1molに対して、0.3〜2mol、特に0.5〜1.7mol配合されることが、安定したクロム錯体のめっき液が得られ、適正な電解めっきを行うことができる点から好ましい。同様の理由により、めっき液中のアミノカルボン酸化合物の濃度は、0.4〜1.7mol/リットル、特に0.5〜0.9mol/リットルとすることが好ましい。
【0015】
めっき液に含まれるスルファミン酸塩化合物は、めっき液において主として支持電解質としての役割を有し、めっき液の電気伝導度を所定のレベルに高める目的で配合される。またスルファミン酸塩化合物は、めっき液のpH緩衝作用も有しているので、先に述べたpH緩衝剤との併用でめっき液のpHが一層安定化する。更にスルファミン酸塩化合物は、三価のクロムが還元するときの触媒作用も有し、それによって金属クロムの結晶の微細化作用や、クロム皮膜の光沢作用が発現する。スルファミン酸塩としては、例えばスルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸ナトリウム又はスルファミン酸カリウムを用いることができる。これらの化合物は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。スルファミン酸塩は、めっき液中の三価のクロム1molに対して、0.3〜2.5mol、特に0.5〜2mol配合されることが好ましい。このような配合量にすることで、電解めっき時の電圧が下がり、めっき液の液温の上昇が抑制されて、めっき皮膜の特性に影響を及ぼす水酸化クロムの生成が抑制されるからである。またクロムめっきの表面調整作用の安定化及びめっき皮膜の析出の安定化を図ることができるからである。同様の理由により、めっき液中のスルファミン酸塩の濃度は、0.4〜2.1mol/リットル、特に0.8〜1.9mol/リットルとすることが好ましい。
【0016】
めっき液に含まれるアミノカルボニル化合物は、分子中に少なくとも1個のカルボニル基と、少なくとも1個のアミノ基とを有する化合物である。アミノカルボニル化合物は、三価のクロムの還元速度を高める作用を有する。この理由は次のとおりであると考えられる。すなわち、三価のクロムが金属クロムに還元される過程では二価のクロムが生成する。二価のクロムは陰極上や電気二重層の中に吸着された状態で存在していると考えられる。三価のクロムから金属クロムへの還元は、二価のクロムの還元が律速段階になっている。本発明者の検討の結果、アミノカルボニル化合物は、二価のクロムが金属クロムに還元する速度を高める働きを有することが判明した。その結果、三価のクロムが金属クロムに還元する速度が高まったものと本発明者は考えている。
【0017】
また、アミノカルボニル化合物は、三価のクロムのオール化を抑制する作用も有する。三価のクロムが金属クロムに還元される過程では、加水分解とオール化の反応が陰極付近で生じ、金属クロムの電析が阻害されることがある。めっき液中にアミノカルボニル化合物が存在すると、該化合物が三価のクロムと錯体を形成する。この錯形成反応は、三価のクロムのオール化との競争反応になるので、三価のクロムのオール化を最小限に抑えることができる。このことによっても三価のクロムの還元速度が高まる。
【0018】
これらの有利な作用に加えて、アミノカルボニル化合物は、該化合物に含まれる窒素原子をめっき皮膜に供給して該めっき皮膜を硬質化したり、めっき液のpHを維持したりするpH緩衝剤としての作用も有する。
【0019】
特にアミノカルボニル化合物は、先に説明したスルファミン酸塩化合物と組み合わせて使用することによって顕著な効果を奏する。詳細には次のとおりである。本発明のめっき液においてスルファミン酸塩化合物を配合することの利点は成就したとおりであるところ、スルファミン酸塩化合物を用いることに起因してめっき皮膜の電着応力が増大する傾向にある。電着応力の増大はめっき皮膜にクラックを生じさせる原因となる。これに対して、スルファミン酸塩化合物とアミノカルボニル化合物とを共存させると、アミノカルボニル化合物によってクロムの結晶成長速度が速まるので、磁場の発達が阻害され、その結果、電着応力が低下する。これによってめっき皮膜にクラックが発生することが効果的に抑制される。かかる観点から、本発明で用いられるアミノカルボニル化合物に対するスルファミン酸塩の配合量はモル比で0.4〜1.5の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明において用いることのできるアミノカルボニル化合物としては、例えば尿素及びカルバミン酸などが挙げられる。これらの化合物は1種又は2種を組み合わせて用いることができる。特に尿素は、カルボニル基に対するα位の水素の酸性度が高いので、容易に水素を引き抜くことができるので好ましく用いられる。アミノカルボニル化合物は、めっき液中の三価のクロム1molに対して、0.5〜3.0mol、特に1.1〜2.2mol配合されることが、めっき時におけるめっき液中のクロム錯体の安定化、めっき皮膜の特性に影響を及ぼす水酸化クロムの生成の抑制、皮膜の緻密結晶化作用の促進などの点から好ましい。同様の理由により、めっき液中のアミノカルボニル化合物の濃度は、0.5〜4.4mol/リットル、特に0.8〜2.5mol/リットルとすることが好ましい。
【0021】
なお、先に述べた特許文献3にも、三価のクロムのめっき液に、アミノカルボニル化合物の一種である尿素を配合させることが記載されている。しかし、同文献において尿素を用いる理由は、尿素を分解させてアンモニアを生成させ、アンモニアによってめっき皮膜の耐水性を向上させることにある(特許文献3の〔0033〕)。したがって同文献に記載のめっき液には尿素自体は存在していないか、又は存在していたとしてもその量は微量であると考えられる。また、同文献はクロメート化成処理液に関するものであり、めっき液に関する本発明とは、尿素の役割が全く相違している。
【0022】
上述の各成分を有する本発明のめっき液によれば、三価のクロムが金属クロムに還元される速度が高まるので、工業的に満足し得る膜厚を有するめっき皮膜を容易に形成することができる。また、前記のアミノカルボニル化合物に由来する窒素原子がめっき皮膜中に取り込まれる結果、めっき皮膜の硬度が高まったり、耐食性や耐摩耗性等が高まったりするという有利な効果も奏される。更に、本発明のめっき液には、従来のめっき液に配合されていた成分である塩化アンモニウムを配合する必要がないので、塩化アンモニウムの分解に起因して生成する塩素ガスの発生を防止することができ、めっき作業の環境が改善される。この観点から、本発明のめっき液は、塩化アンモニウムを始めとするハロゲン化アンモニウムを含有していないことが好ましい。
【0023】
更に本発明のめっき液にはセラミック粒子を配合することもできる。セラミック粒子は、金属クロムの電析過程においてめっき皮膜中に取り込まれる。セラミック粒子は、主として粒界や欠陥に存在し、それによってクラックの伝播が抑えられ、疲労や破壊、剥離が効果的に緩和される。また、表面に露出したセラミックス粒子は相手摺動面との摩擦や摩耗作用において粒子自身が摺動面として相手摺動面と接触作用し、耐摩耗及び耐焼付けの向上や油膜形成の助けとなる。セラミック粒子はその平均粒径が0.2〜12μm、特に0.4〜6.0μm、とりわけ0.5〜3.0μmであることが好ましい。セラミック粒子の平均粒径は、レーザー法粒度分布測定機(日機装社製MICROTRAC MT3000II)によって測定される。
【0024】
本発明のめっき液に配合されるセラミック粒子の平均粒径が前記の範囲内であると、めっき皮膜中に取り込まれたセラミック粒子の平均粒径が好ましくは0.2〜8.0μm、更に好ましくは0.3〜5.0μm、特に好ましくは0.5〜3.0μmとなり、先に述べた疲労や破壊、剥離が効果的に緩和される等の効果が一層顕著となる。めっき皮膜中のセラミック粒子の平均粒径は、レーザー顕微鏡(OLYMPUS社製 OLS1100)によって測定される。
【0025】
粒径に関連して、セラミック粒子はその形状が、相手摺動面との摩擦や摩耗作用の向上の点から、球状等の形状であることが好ましい。
【0026】
セラミック粒子としては、三価のクロムの還元に悪影響を及ぼさないものであればその種類に特に制限はない。めっき皮膜への取り込まれやすさの点からは、ゼータ電位が20〜100mV、特に40〜70mVであるものを用いることが好ましい。そのようなセラミック粒子としては例えば、Al
2O
3、Si
3N
4、AlN、Cr
3C
2、B
4C、TiC、WC、TiO
2、Cr
2O
3、CBN、Fe
3O
4などが挙げられる。これらのセラミック粒子は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。セラミック粒子のゼータ電位は例えば、Zetasizer Nano Series(Malvern Instruments Ltd.社製)によって測定される。
【0027】
セラミック粒子は、本発明のめっき液中に、10〜100g/リットル、特に20〜60g/リットルとなるように配合されることが、めっき液の流動性が好適になるので、めっき皮膜へのセラミック粒子の取り込み量が適正量となる観点から好ましい。
【0028】
セラミック粒子は一般に比重が大きいことから、めっき液中において沈降しやすいことがある。また、粒径によってはセラミック粒子どうしがめっき液中において凝集することもある。これらのことを防止する観点から、めっき液中にセラミック粒子を配合する場合には、これとともに、凝集防止剤として塩化アルミニウムを配合することが好ましい。また、各種の界面活性剤を配合することも好ましい。界面活性剤としては、モノアルキル硫酸塩及びアルキルポリオキシエチレン硫酸塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩及びジアルキルジメチルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び脂肪酸ソルビタンエステル等のノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0029】
これらの凝集防止剤のうち塩化アルミニウムは、セラミック粒子のゼータ電位をコントロールして粒子の分散性を向上させたり、粒子どうしの凝集を防止したりする有利な効果を発現する。また、セラミック粒子がめっき皮膜中へ均一に取り込まれやすくもなる。これらの効果を一層顕著なものとする観点から、塩化アルミニウムは、めっき液中の三価のクロム1molに対して、0.005〜0.5mol、特に0.01〜0.3mol配合されることが好ましい。同様の理由により、めっき液中の塩化アルミニウムの濃度は、0.02〜0.5mol/リットル、特に0.05〜0.3mol/リットルとすることが好ましい。
【0030】
本発明のめっき液には水溶性有機溶剤を配合することもできる。水溶性有機溶剤の配合によって、めっきわたりを効果的に防止できる。また、めっき液中に、先に述べたセラミック粒子が配合されている場合には、該粒子の分散性が向上する。これらの観点から、水溶性有機溶剤は、めっき液中の三価のクロム1molに対して、0.4〜2.1mol、特に0.6〜1.3mol配合されることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、エタノール、メタノール、及びn−プロパノールなどが挙げられる。
【0031】
本発明のめっき液は、上述のとおりpH緩衝剤が含まれており、液のpHが好ましくは0.5〜2.0、更に好ましくは0.8〜1.5の範囲に保たれている。
【0032】
本発明のめっき液の媒体となる水としては、純水、イオン交換水、工業用水、水道水、蒸留水等が挙げられる。これらのうち、めっき液の保存安定性、皮膜特性に影響を及ぼさないことを前提として、経済性の面から、工業用水、水道水を使用することが好ましい。
【0033】
本発明のめっき液には自己潤滑性を有する粒子、スルホン酸基含有化合物又はその塩を必要により含有させることが出来る。
【0034】
自己潤滑性を有する粒子を併用することにより、めっき皮膜の耐摩耗性を一層向上させることができる。自己潤滑性を有する粒子としては、例えばグラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ素樹脂、窒化ボロンなどが挙げられる。自己潤滑性を有する粒子は、本めっき液中に、5〜70g/リットル、特に10〜50g/リットルである。
【0035】
スルホン酸基含有化合物又はその塩は、皮膜の微小亀裂密度を増大させる作用を有し、優れた耐食性を付与することができる。スルホン酸基含有化合物又はその塩としては、、スルホン酸及びジスルホン酸並びにこれらの塩が好ましい。スルホン酸及びジスルホン酸の具体例として、脂肪族スルホン酸(例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸等)、脂肪族ジスルホン酸(例えばメタンジスルホン酸、エタンジスルホン酸等)、芳香族スルホン酸(例えばベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等)、芳香族ジスルホン酸(例えばベンゼンジスルホン酸等)等が挙げられる。
スルホン酸基含有化合物又はその塩の濃度はスルホン酸基基準で0.02〜0.1mol/Lが好ましく、0.04〜0.07mol/Lがより好ましい。
【0036】
本発明のめっき液には、上記以外の成分として、必要により当該技術分野で通常用いられる光沢剤、表面調整剤、コロイダルシリカ等の公知の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲の添加量で含有させることができる。
【0037】
以上の各成分を含むめっき液を用いてクロムめっきを行う条件としては、めっき浴の温度を好ましくは30〜60℃、更に好ましくは40〜60℃に設定する。電流密度は好ましくは15〜60A/dm
2、更に好ましくは20〜40A/dm
2に設定する。陽極としては、黒鉛や各種の寸法安定化陽極(DSA)、例えばTi−Pt電極などを用い、陰極としては、めっきの対象物を用いることができる。
【0038】
上述の条件下に電解めっきによって形成されためっき皮膜においては、クロムは一般に非晶質となっている。非晶質のクロムのめっき皮膜はその硬度が結晶質のものに比較して低い傾向にある。そこで、電解めっきによって形成されためっき皮膜を熱処理することによって結晶化して、結晶質のクロムの皮膜とすることができる。熱処理の条件としては、大気下に150〜600℃、好ましくは200〜600℃、一層好ましくは200〜450℃とすることが好ましい。加熱時間は、温度がこの範囲であることを条件として、30〜60分とすることが好ましい。
【0039】
前記の条件下での電解めっきによって得られるめっき皮膜は、工業的に満足し得る膜厚をもつ。その膜厚は好ましくは3〜300μm、更に好ましくは5〜100μmである。また、前記の条件下での電解めっきによって得られるめっき皮膜は、耐摩耗性及び耐食性等の皮膜特性に優れる。したがって、本発明の三価クロムめっき液を用い、各種の部材、特にピストンリング、ロール、ショックアブソーバ等の摺動部材に対してめっきを施すことによって、これらの部材に必要な特性を付与することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0041】
〔実施例1ないし3並びに比較例1及び2〕
以下の表1に示す成分を水に添加して、同表に示す組成を有する三価のクロムのめっき液を調製した。得られためっき液を用い、同表に示す条件で電解めっきを行った。陽極としては高密度黒鉛板を用いた。陰極としてはS45Cみがき鋼板を用いた。
【0042】
〔比較例3〕
以下の表1に示す成分を水に添加して、同表に示す組成を有する六価のクロムのめっき液を調製した。得られためっき液を用い、同表に示す条件で電解めっきを行った。陰極は実施例1と同様のものを用いた。陽極としては鉛錫板を用いた。
【0043】
得られためっき物におけるクロムめっき皮膜の厚みを以下の方法で測定した。また、めっき皮膜の表面の外観を目視観察して光沢の程度及びクラックの発生の有無を評価した。更に以下の方法で、めっき皮膜のビッカース硬度を測定し、耐摩耗性及び耐食性を以下の方法で評価した。更に実施例2及び3並びに比較例2については、めっき皮膜中のセラミック粒子の分散度を以下の方法で評価した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0044】
〔めっき皮膜の厚み〕
めっき皮膜の皮膜断面を、レーザー顕微鏡(OLYMPUS社製 LEXTO OLS1100)を用いて400倍の倍率で測定した。
【0045】
〔めっき皮膜のビッカース硬度〕
めっき皮膜の皮膜断面を、微小硬さ試験機(ミツトヨ製 HM−103)を用いて、荷重200gf×15secで測定した。
【0046】
〔めっき皮膜の耐摩耗性〕
科研式腐食摩耗試験機を用いてめっき皮膜の耐摩耗性を評価した。摩擦の相手となるライナー材として鋳鉄(JIS G 5501−1995に準拠したFC250)を用いた。摩擦試験器における接触荷重は39Nとした。摩擦速度は0.25m/sec、摩擦距離は5400m(=6時間)とした。腐食液として硫酸水溶液(pH=2.0)を用い、1.5ml/minで滴下した。腐食液温度は常温とした。めっき皮膜の摩耗量を測定し、その値を耐摩耗性の指標とした。
【0047】
〔めっき皮膜の耐食性〕
めっき物におけるめっき皮膜の面積が1cm
2となるようにし、該めっき物を所定のpHに調整された硫酸及び塩酸水溶液(容積1リットル)中に、ビニール製の釣糸で吊り下げた。水溶液の温度を70℃に保ち、水溶液を1時間にわたって攪拌した。その後、水溶液中に溶解したクロムの量をICP発光分析装置(島津製作所社製 ICPS−7510)によって測定し、耐食性の尺度とした。
【0048】
〔めっき皮膜中のセラミック粒子の分散度〕
ここでいう分散度とは、めっき皮膜の断面を観察したときに、単位面積あたりの観察視野に占めるセラミック粒子の面積率のことである。この面積率は次の方法で測定される。すなわち、めっき皮膜の縦断面を、レーザー顕微鏡(OLYMPUS社製 LEXTO OLS1100)を用いて、1000倍の倍率で観察する。そして、30μm四方の枠内に存在するセラミック粒子が占有する面積の比率を、同レーザー顕微鏡を用いて処理計測する。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例のめっき液を用いてクロムの電解めっきを行うと、比較例のめっき液を用いた場合に比べて同じめっき時間で厚いめっき皮膜を形成できることが判る。また、各実施例のめっき液を用いて得られためっき皮膜の表面外観は良好であり、光沢を有するものであることが判る。特に、実施例1ないし3と比較例3との対比から明らかなように、三価のクロムのめっき液を用いても、従来用いられていた六価のクロムのめっき液を用いた場合と同様又はそれ以上の性能を有するめっき皮膜が得られることが判る。
【0051】
また、スルファミン酸塩化合物及びアミノカルボニル化合物を含む各実施例のめっき液を用いると、得られためっき皮膜にクラックが生じていないことが判る。これに対してアミノカルボニル化合物を配合せず、スルファミン酸塩化合物だけを含む比較例1及び2にめっき液を用いると、得られためっき皮膜にクラックが生じてしまう。
【0052】
更に、実施例1と、実施例2及び3との対比から明らかなように、めっき液中にセラミック粒子を配合することで、めっき皮膜の耐摩耗性が一層向上することが判る。その上、セラミック粒子を配合しためっき液どうしを比較すると、実施例2及び3と比較例2とでは、実施例2及び3のめっき液を用いた方が、めっき皮膜の耐摩耗性が高いことが判る。この理由は、実施例2及び3では、めっき液中にスルファミン酸塩化合物及びアミノカルボニル化合物の双方が配合されているからであると考えられる。
【0053】
{実施例4}
実施例3で得られためっき物を大気下に400℃で1時間加熱処理を行った。実施例1〜3と同様にしてビッカース硬度を測定したところ1550であり、加熱処理前に比べて高い硬度のめっき皮膜が形成されていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、工業的に満足し得る膜厚をもち、耐食性及び耐摩耗性等の皮膜特性に優れたクロムめっきを形成することのできる三価クロムめっき液が提供される。また、本発明によれば、液中成分の分解によるハロゲンガス等の有害ガスの発生が抑えられるため、長期保存性に優れ、作業環境の改善につながる三価クロムめっき液が提供される。