特許第5890400号(P5890400)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人フロンティア株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890400
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】布帛および繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/277 20060101AFI20160308BHJP
   D06M 15/423 20060101ALI20160308BHJP
   D06M 13/46 20060101ALI20160308BHJP
   C08F 220/22 20060101ALI20160308BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20160308BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20160308BHJP
【FI】
   D06M15/277
   D06M15/423
   D06M13/46
   C08F220/22
   C08F220/28
   D06M101:32
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-512292(P2013-512292)
(86)(22)【出願日】2012年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2012060451
(87)【国際公開番号】WO2012147582
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2013年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-97358(P2011-97358)
(32)【優先日】2011年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】安光 玲
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/084530(WO,A1)
【文献】 特開2010−150693(JP,A)
【文献】 特開昭60−088178(JP,A)
【文献】 特開2005−330354(JP,A)
【文献】 特開2002−201568(JP,A)
【文献】 特開2010−255143(JP,A)
【文献】 特開平06−081271(JP,A)
【文献】 特開2006−152508(JP,A)
【文献】 特開2007−270374(JP,A)
【文献】 特開平05−059669(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123051(WO,A1)
【文献】 特開平03−103411(JP,A)
【文献】 特開2008−163474(JP,A)
【文献】 特開2003−041485(JP,A)
【文献】 特開2006−200082(JP,A)
【文献】 特開2012−214759(JP,A)
【文献】 特開平04−241171(JP,A)
【文献】 特開平05−033270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維を含む布帛であって、該布帛にフッ素含有高分子が付着しており、JIS L1018A法 滴下法による吸水性が60秒以下、かつAATCC118−1992による撥油性が4級以上であり、かつ前記有機繊維が単繊維繊度が4.0dtex以下のポリエステル繊維であり、かつ、前記フッ素含有高分子が、布帛に含まれる有機繊維の単繊維に皮膜状に付着しており、
かつ、日本化学繊維協会規格 JCFA TM−104 ダイヤペースト法による汚れの洗濯除去性が3級以上であり、
かつ、前記フッ素含有高分子において、パーフルオロオクタン酸またはパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が5ng/g以下であり、
かつ、前記フッ素含有高分子が、第4級アンモニウム塩とともに布帛に付着しており、
かつ、前記フッ素含有高分子が、メラミンバインダー樹脂とともに布帛に付着しており、
かつ、前記フッ素含有高分子が、
(a) 一般式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−[−(CH2)m−Z−]p−(CH2)n−Rf (I)
[式中、Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり、Yは、−O−または−NH−であり、Zは、直接結合、−S−または−SO−であり、Rfは、炭素数1〜12のフルオロアルキル基であり、mは1〜10、nは0〜10、pは0または1である。]
で示される含フッ素単量体
および
(b) 一般式:
CH2=C(X’)-C(=O)-O-(RO)q-H (II)
[式中、X’は、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子の一部または全部が水酸基で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキレン基であり、qは、1〜50の整数である。]
で示されるアルコキシ基含有単量体
を必須成分とするフッ素含有高分子であり、
かつ、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)にて、静菌活性値が2.2以上または殺菌活性値が0以上であり、
かつ、前記有機繊維が仮撚捲縮加工糸であり、
かつ、布帛が、密度が40コース/2.54cm以上かつ30ウエール/2.54cm以上の編物、または密度が経緯とも40本/2.54cm以上の織物であることを特徴とする布帛。
【請求項2】
請求項1に記載の布帛を用いてなる繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維を含む布帛であって、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性に優れる布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維などの有機繊維を含む布帛は、ユニフォーム、白衣、アパレルなどの各種衣料として広く用いられている。そして、かかる衣料の用途において、防汚技術として、従来、布帛に汚れが付着することを防止する方法や付着した汚れを洗濯により除去しやすくする方法などが提案されている。
【0003】
例えば、布帛を構成する繊維の表面をSR(soil release)処理剤で被覆し親水性を付与するSR処理方法では、繊維の表面が親水性となり、洗濯によって汚れを容易に除去することが可能となる。しかしながら、繊維にSR処理を施した場合、繊維に汚れが付着するのを防止することができないという問題があった。
【0004】
また、繊維の表面を撥油剤で被覆するSG(soil guard)処理方法では、繊維の表面に撥油性が付与され、繊維に汚れが付着するのを防止することが可能となる。しかしながら、繊維にSG処理を施した場合、汚れが付着し難くなるものの、繊維表面が撥水性になるため繊維の吸水力が低下し、洗濯を行ってもその汚れが落ち難くなるという問題があった。なお、皮脂等の油汚れにより汚染は雑菌の繁殖をまねき、臭いや変色等の原因ともなっている。
【0005】
また、親水基を有するフッ素系のSR剤と親水基を有さないフッ素系のSG剤とを併用するSG/SR処理も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、繊維にSG/SR処理を施した場合、SR剤によって繊維に親水性が付与され、SG剤によって繊維に撥油性が付与され、親水性と撥油性とは二律背反的な技術であるため、SG効果とSR効果とが互いに減殺されるという問題があった。
【0006】
他方、衣料用途などでは、着用快適性を高めるため布帛の吸水性を高めることも求められているが、吸水性と撥油性とは二律背反的な性質であるため、両方の性質を兼備した布帛はこれまであまり提案されていない。
【0007】
また、昨今では、かかるフッ素系化合物に生活環境、生物に影響を及ぼす可能性のある化合物、例えばパーフルオロオクタン酸(「PFOA」ということもある。)、パーフルオロオクタンスルホン酸(「PFOS」ということもある。)等が含まれていることが判明し、その削減が課題となっている。該化合物を含まないか、あるいはできるだけ含有量の少ないフッ素系撥水剤を使用した繊維製品が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−255143号公報
【特許文献2】特開平9−296371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、有機繊維を含む布帛であって、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性に優れ、好ましくは、さらに環境問題にも配慮するだけでなく抗菌性にも優れる布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、有機繊維を含む布帛に特定のフッ素系高分子を付与することにより、有機繊維を含む布帛であって、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性に優れ、さらに環境問題にも配慮するだけでなく抗菌性にも優れる布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明によれば「有機繊維を含む布帛であって、該布帛にフッ素含有高分子が付着しており、JIS L1018A法 滴下法による吸水性が60秒以下、かつAATCC118−1992による撥油性が4級以上であり、かつ前記有機繊維が単繊維繊度が4.0dtex以下のポリエステル繊維であり、かつ、前記フッ素含有高分子が、布帛に含まれる有機繊維の単繊維に皮膜状に付着しており、
かつ、日本化学繊維協会規格 JCFA TM−104 ダイヤペースト法による汚れの洗濯除去性が3級以上であり、
かつ、前記フッ素含有高分子において、パーフルオロオクタン酸またはパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が5ng/g以下であり、
かつ、前記フッ素含有高分子が、第4級アンモニウム塩とともに布帛に付着しており、
かつ、前記フッ素含有高分子が、メラミンバインダー樹脂とともに布帛に付着しており、
かつ、前記フッ素含有高分子が、
(a) 一般式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−[−(CH2)m−Z−]p−(CH2)n−Rf (I)
[式中、Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり、Yは、−O−または−NH−であり、Zは、直接結合、−S−または−SO−であり、Rfは、炭素数1〜12のフルオロアルキル基であり、mは1〜10、nは0〜10、pは0または1である。]
で示される含フッ素単量体
および
(b) 一般式:
CH2=C(X’)-C(=O)-O-(RO)q-H (II)
[式中、X’は、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子の一部または全部が水酸基で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキレン基であり、qは、1〜50の整数である。]
で示されるアルコキシ基含有単量体
を必須成分とするフッ素含有高分子であり、
かつ、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)にて、静菌活性値が2.2以上または殺菌活性値が0以上であり、
かつ、前記有機繊維が仮撚捲縮加工糸であり、
かつ、布帛が、密度が40コース/2.54cm以上かつ30ウエール/2.54cm以上の編物、または密度が経緯とも40本/2.54cm以上の織物であることを特徴とする布帛。」が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、前記の布帛を用いてなる繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機繊維を含む布帛であって、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性に優れ、さらには環境問題にも配慮するだけでなく抗菌性にも優れる布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の布帛は有機繊維を含む布帛であって、該布帛にフッ素含有高分子が付着しており、JIS L1018A法(滴下法)による吸水性が60秒以下(より好ましくは1〜30秒、特に好ましくは1〜10秒)であり、かつAATCC118−1992による撥油性が4級以上(より好ましくは5〜8級)である。吸水性が60秒よりも大きい場合は、着用快適性が損なわれるだけでなく、汚れの洗濯除去性も低下するおそれがあり好ましくない。また、AATCC118−1992による撥油性が4級未満の場合、繊維に汚れが付着しやすくなり好ましくない。なお、前記のような吸水性および撥油性は、布帛に後記のようなフッ素含有高分子を付着させることにより得ることができる。
【0019】
前記有機繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリアクリルニトリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等の合成繊維、レーヨン繊維などの再生繊維、綿繊維、ウール繊維、絹繊維などの天然繊維、これらを複合したものなどが例示される。なかでもポリエステル繊維が好ましい。
【0020】
前記ポリエステル繊維はジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステル樹脂には、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸であってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0021】
前記有機繊維の形状としては、短繊維でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよいが、吸水性を向上させるため長繊維であることが好ましい。さらには、通常の仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸や2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸であってもよい。特に、前記有機繊維が仮撚捲縮加工糸であると、布帛の吸水性がさらに向上し好ましい。
【0022】
その際、マルチフィラメントの単繊維繊度、総繊度、単糸数は、単繊維繊度0.0001〜10.0dtex、総繊度20〜500dtex、単糸数10〜200本の範囲であることが好ましい。特に、布帛の吸水性を向上させる上で単糸繊維繊度が4.0dtex以下(より好ましくは0.0001〜2.0dtex)であることが特に好ましい。
【0023】
また、前記有機繊維において、単糸繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、特開2004−52167号公報に記載のくびれ付扁平、十字形、六様形、あるいは中空形などの異型断面形状であってもよい。
【0024】
本発明の布帛において、1種類の繊維のみで構成されていてもよいが、例えば、綿繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維などとポリエステル繊維とを併用して構成されていてもよい。
【0025】
また、本発明の布帛において、布帛の組織としては特に限定されず、通常の織物組織、編物組織、不織布組織でよい。例えば、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示され、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なお、これらの織物や編物は常法により製造することができる。
【0026】
また、本発明の布帛において、布帛が、密度が40コース/2.54cm以上かつ30ウエール/2.54cm以上(より好ましくは40〜200コース/2.54cmかつ30〜200ウエール/2.54cm)の編物、または密度が経緯とも40本/2.54cm以上(より好ましくは経緯とも50〜200本/2.54cm)の織物であると、吸水性や撥油性が向上し好ましい。
【0027】
また、前記布帛には、通常の染色加工、減量加工、起毛加工、撥水加工、カレンダー加工、エンボス加工、蓄熱加工、吸汗加工、マイナスイオン加工などの後加工剤を、本発明の目的が損なわれない範囲内で適宜施してもよい。
【0028】
次に、本発明の布帛に付着させるフッ素含有高分子としては、パーフルオロオクタン酸(PFOA)および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の濃度が5ng/g以下であるフッ素系高分が好ましい。ここで、PFOAまたはPFOSの量は高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定することができる。また、PFOAまたはPFOSのいずれかのみが含有される場合には、その含有量が5ng/g以下であり、PFOAおよびPFOSの両方を含有する場合には、その合計含有量が5ng/g以下であることを意味する。
【0029】
このように、吸水性および撥油性に優れ、しかもPFOAまたはPFOSの濃度が5ng/g以下のフッ素含有高分子としては、国際公開WO2009/123051号パンフレットに記載されたものなどが好ましい。
【0030】
すなわち、
(a) 一般式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−[−(CH2)m−Z−]p−(CH2)n−Rf (I)
[式中、Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり、Yは、−O−または−NH−であり、Zは、直接結合、−S−または−SO−であり、Rfは、炭素数1〜12のフルオロアルキル基であり、mは1〜10、nは0〜10、pは0または1である。]
で示される含フッ素単量体
および
(b) 一般式:
CH2=C(X’)-C(=O)-O-(RO)q-H (II)
[式中、X’は、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子の一部または全部が水酸基で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキレン基であり、qは、1〜50の整数である。]
で示されるアルコキシ基含有単量体
を必須成分とするフッ素含有高分子が好ましい。
【0031】
かかるフッ素含有高分子は、優れた撥油性と吸水性とを有しており、布帛に撥油性、汚れの洗濯除去性、および吸水性を付与することができる。
【0032】
含フッ素単量体(a)は、一般式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−[−(CH2)m−Z−]p−(CH2)n−Rf (I)
[式中、Xは、水素原子、メチル基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり、Yは、−O−または−NH−であり、Zは、直接結合、−S−または−SO−であり、Rfは、炭素数1〜12のフルオロアルキル基であり、mは1〜10、nは0〜10、pは0または1である。]
で示されるものである。一般式(I)において、pが0であることが好ましい。
【0033】
Xの好ましい例は水素原子である。
【0034】
含フッ素単量体(a)において、Rf基は一般にはパーフルオロアルキル基および/または部分的にフッ素化されたフルオロアルキル基である。Rf基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rf基の炭素数は炭素数1〜12(好ましくは1〜6)である。Rf基の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3) 2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3等である。
【0035】
mは1〜10、例えば2〜5,nは0〜10、例えば1〜6、特に好ましくは2〜5である。
【0036】
含フッ素単量体(a)は単独で使用することはもちろんのこと、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
含フッ素単量体(a)としては例えば、次のものが例示される。
【0038】
CH2=C(−X)−C(=O)−O−(CH2)m−S−(CH2)n−Rf
CH2=C(−X)−C(=O)−O−(CH2)m−SO2−(CH2)n−Rf
CH2=C(−X)−C(=O)−O−(CH2)n−Rf
CH2=C(−X)−C(=O)−NH−(CH2)n−Rf
[上記式中、Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり、Rfは、1〜6のフルオロアルキル基であり、mは1〜10、nは0〜10である。]
含フッ素単量体(a)の具体例としては、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−OCH2CH2N(C2H5)SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−OCH2CH2N(CH3)SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−OCH2CH(OCOCH3)CH2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−OCH2CH2N(C2H5)SO2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−OCH2CH2N(CH3)SO2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−OCH2CH(OCOCH3)CH2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)3−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
[上記式中、Rfは、1〜6のフルオロアルキル基である。]

アルコキシ基含有単量体(b)は、非フッ素単量体であり、一般式:
(b) 一般式:
CH2=C(X’)-C(=O)-O-(RO)q-H (II)
[式中、X’は、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子の一部または全部が水酸基で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキレン基であり、qは、1〜50の整数である。]
で示される化合物(アルキレングリコール(メタ)アクリレート)である。
【0040】
アルコキシ基含有単量体(b)において、qが1〜30、例えば2〜10、特に2〜5であることが好ましい。
【0041】
一般式(II)において、Rは、エチレンまたはプロピレン、特にエチレンであることが好ましい。一般式(II)中のRは2種類以上のアルキレンの組合せであってもよい。その場合、少なくともRのひとつはエチレンであることが好ましい。Rの組合せとしては、エチレン基/プロピレン基の組合せ、エチレン基/ブチレン基の組合せが挙げられる。
【0042】
アルコキシ基含有単量体(b)は、2種類以上の混合物であってもよい。
【0043】
アルコキシ基含有単量体(b)の具体例は、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)9-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)9-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)23-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)50-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)6-H
前記フッ素系高分子は、(c)架橋性単量体を含んでもよい。架橋性単量体(c)は、少なくとも2つの反応性基および/または炭素−炭素二重結合を有し、フッ素を含有しない化合物であってよい。架橋性単量体(c)は、少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を有する化合物、あるいは少なくとも1つの炭素−炭素二重結合および少なくとも1つの反応性基を有する化合物であってよい。反応性基の例は、ヒドロキシル基、エポキシ基、クロロメチル基、ブロックドイソシアネート、カルボキシル基、などである。
【0045】
架橋性単量体(c)が非フッ素架橋性単量体であることが好ましく、特に、ジ(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0046】
架橋性単量体(c)が、一般式:
CH2=C(X”)-C(=O)-O-(R”O)q-C(=O)-C(X”)=CH2 (III)
[式中、それぞれのX”は、水素原子またはメチル基であり;
R”は、水素原子の一部または全部が水酸基で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルキレン基であり、qは、1〜50の整数である。]
で示される化合物(アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート)であることが好ましい。R”の炭素数は、2〜10、例えば2〜6、特に2〜4である。R”は、エチレン基であることが好ましい。
【0047】
式(III)で示されるアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの具体例は次のとおりである。
【0048】
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-COC(CH3)=CH2
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)9-COCH=CH2
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)12-COCH=CH2
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-COCH=CH2
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)23-OOC(CH3)C=CH2
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)20-(CH2CH(CH3)O)5-COCH=CH2
架橋性単量体(c)の他の例としては、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブタジエン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが例示されるが、これらに限定されるものでない。
【0049】
架橋性単量体(c)のさらに他の例としては、グリセロール(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−イソシアナートエチルメタクリレートのようなイソシアネート基含有(メタ)アクリレートまたはメチルエチルケトオキシム等のブロック化剤でイソシアネート基がブロックされたそれらの(メタ)アクリレートなどが例示される。
【0050】
架橋性単量体(c)は、2種以上の混合物であってよい。
【0051】
前記フッ素系高分子は、(d)非架橋性単量体を含有してもよい。非架橋性単量体(d)はアルコキシ基含有単量体(b)以外の単量体、一般に非フッ素単量体である。非架橋性単量体(d)は、フッ素を含有せず、炭素-炭素二重結合を有する単量体であることが好ましい。非架橋性単量体(d)は、フッ素を含有しないビニル性単量体であることが好ましい。非架橋性単量体は、一般に、1つの炭素-炭素二重結合を有する化合物である。
【0052】
非架橋性単量体(d)としては、ブタジエン、クロロプレン、マレイン酸誘導体、塩化ビニルのようなハロゲン化ビニル、エチレン、塩化ビニリデンのようなハロゲン化ビニリデン、ビニルアルキルエーテル、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、などが例示されるが、これらに限定されるものでない。
【0053】
非架橋性単量体(d)は、アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルであってよい。アルキル基の炭素数は、1〜30、例えば、6〜30、例示すれば、10〜30であってよい。例えば、非架橋性単量体は一般式:
CH=CACOOA
[式中、Aは水素原子またはメチル基、AはC2n+1(n=1〜30)で示されるアルキル基である。]
で示されるアクリレート類であってよい。
【0054】
前記フッ素含有高分子は、含フッ素単量体(a)100重量部を含有する。含フッ素単量体(a)100重量部に対して、
アルコキシ基含有単量体(b)の量は、10〜400重量部、例えば25〜150重量部、特に100〜43重量部であり、
架橋性単量体(c)の量は、30重量部以下、例えば0.1〜20重量部、特に0.5〜10重量部であり、
非架橋性単量体(d)の量は、20重量部以下、例えば0.1〜15重量部、特に0.5〜10重量部であることが好ましい。
【0055】
前記フッ素含有高分子の重量平均分子量は、1000〜1000000、好ましくは5000〜500000であってよい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算で求めた値である。
【0056】
前記フッ素含有高分子の重合は、特に限定されず塊状重合、溶液重合、乳化重合、放射線重合などの種々重合方法を選択できる。例えば一般的には有機溶剤を用いた溶液重合や、水または有機溶剤と水を併用する乳化重合が選定される。重合後に水で希釈したり、乳化剤を加えて水に乳化することで処理液に調製される。
【0057】
前記フッ素含有高分子を布帛に付与する前のフッ素含有高分子の性状としては、重合(例えば、溶液重合または乳化重合)後、脱溶剤してから水を加えて、重合体を水に分散させたものが好ましい。
【0058】
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコールなどのグリコール類、エチルアルコール、イソプロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。
【0059】
乳化重合や重合後、乳化剤を加えて水に乳化する場合の乳化剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の一般的な各種乳化剤が使用できる。
【0060】
重合開始剤として、例えば過酸化物、アゾ化合物または過硫酸系の化合物を使用し得る。重合開始剤は、一般に、水溶性および/または油溶性である。
【0061】
油溶性重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2、4−ジメチル4−メトキシバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−イソブチロニトリル)、ベンゾイルパーオキシド、ジ−第三級−ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、過ピバル酸t−ブチル等が好ましく挙げられる。
【0062】
また、水溶性重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチルアミジン2塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]硫酸塩水和物、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩、過硫酸カリウム、過硫酸バリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が好ましく挙げられる。
【0063】
重合開始剤は、10時間半減期温度が40℃以上である有機過酸化物であることが好ましい。重合開始剤がt−ブチルパーオキシピバレートであることが特に好ましい。
【0064】
重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲で用いられる。
【0065】
また、分子量調節を目的として、連鎖移動剤、例えば、メルカプト基含有化合物を使用してもよく、その具体例として2−メルカプトエタノール、チオプロピオン酸、アルキルメルカプタンなどが挙げられる。メルカプト基含有化合物は単量体100重量部に対して、10重量部以下、0.01〜5重量部の範囲で用いられる。
【0066】
具体的には、前記フッ素含有高分子は、以下のようにして製造できる。
【0067】
溶液重合では、単量体を有機溶剤に溶解させ、窒素置換後、重合開始剤を添加して、例えば40〜120℃の範囲で1〜10時間、加熱撹拌する方法が採用される。重合開始剤は、一般に、油溶性重合開始剤であってよい。
【0068】
有機溶剤としては、単量体に不活性でこれらを溶解するものであり、例えば、アセトン、クロロホルム、HCHC225、イソプロピルアルコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、テトラクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタンなどが挙げられる。有機溶剤は単量体の合計100重量部に対して、50〜2000重量部、例えば、50〜1000重量部の範囲で用いられる。
【0069】
乳化重合では、単量体を乳化剤などの存在下、水中に乳化させ、窒素置換後、重合開始剤を添加し、40〜80℃の範囲で1〜10時間、撹拌して重合させる方法が採用される。重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルパーベンゾエート、1−ヒドロキシシクロヘキシルヒドロ過酸化物、3−カルボキシプロピオニル過酸化物、過酸化アセチル、アゾビスイソブチルアミジン−二塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性のものやアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどの油溶性のものが用いられる。重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲で用いられる。
【0070】
放置安定性の優れた重合体水分散液を得るためには、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な破砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化し、油溶性重合開始剤を用いて重合することが望ましい。また、乳化剤としてはアニオン性、カチオン性あるいはノニオン性の各種乳化剤を用いることができ、単量体100重量部に対して、0.5〜20重量部の範囲で用いられる。アニオン性および/またはノニオン性および/またはカチオン性の乳化剤を使用することが好ましい。単量体が完全に相溶しない場合は、これら単量体に充分に相溶させるような相溶化剤、例えば、水溶性有機溶剤や低分子量の単量体を添加することが好ましい。相溶化剤の添加により、乳化性および共重合性を向上させることが可能である。
【0071】
水溶性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エタノールなどが挙げられ、水100重量部に対して、1〜50重量部、例えば10〜40重量部の範囲で用いてよい。また、低分子量の単量体としては、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートなどが挙げられ、単量体の総量100重量部に対して、1〜50重量部、例えば10〜40重量部の範囲で用いてよい。
【0072】
前記フッ素含有高分子を含む処理液は、溶液、エマルションまたはエアゾールの形態であることが好ましい。処理液は、フッ素含有高分子および媒体(例えば、有機溶媒および水などの液状媒体)を含んでなる。処理液において、フッ素含有高分子の濃度は、例えば、0.01〜50重量%であってよい。
【0073】
ここで、前記処理液に第4級アンモニウム塩を含ませることによりフッ素含有高分子を第4級アンモニウム塩とともに布帛に付着させると、第4級アンモニウム塩のイオン効果により前記フッ素含有高分子のカチオン性が高くなる。その結果、布帛を構成する有機繊維がポリエステル繊維の場合、アニオン性に帯電するポリエステル繊維にフッ素含有高分子が付着しやすくなり、撥油性、汚れの洗濯除去性、および吸水性がさらに向上し好ましい。さらには、第4級アンモニウム塩は、通常、抗菌性を有するので、抗菌性が布帛に付加される。
【0074】
かかる第4級アンモニウム塩としては、下記のものが好ましく用いられる。
【0075】
【化1】
【0076】
また、前記処理液にバインダー樹脂を含ませることによりフッ素含有高分子をバインダー樹脂とともに布帛に付着させると、フッ素含有高分子が繊維に強固に付着することにより、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性、抗菌性などの耐久性が向上し好ましい。
【0077】
その際、用いるバインダー樹脂としてはメラミンバインダー樹脂が好ましい。バインダー樹脂としてメラミンバインダー樹脂を用いるとメラミンバインダー樹脂の溶解パラメータSP値がポリエステル繊維に近いため、布帛を構成する有機繊維がポリエステル繊維の場合、ポリエステル繊維の単繊維にフッ素含有高分子が皮膜状に付着する。そして、その結果、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性、抗菌性などの耐久性が向上するだけでなく、布帛のソフト性も向上し好ましい。
【0078】
ここで、バインダー樹脂としてシリコーンバインダー樹脂を用いた場合、シリコーンバインダー樹脂が疎水性であるため布帛の吸水性が損なわれるおそれがある。また、バインダー樹脂としてイソシアネートバインダー樹脂を用いた場合、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性、抗菌性などの耐久性が低下するおそれがあり、また、シアンガスが発生するおそれもある。また、バインダー樹脂としてアクリルバインダー樹脂を用いた場合、アクリルバインダー樹脂は架橋性がないため、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性、抗菌性などの耐久性が低下するおそれがある。
【0079】
処理液を布帛に付着させる方法は、従来既知の方法を採用することができる。通常、処理液を有機溶剤または水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などのような既知の方法により、被処理物の表面に付着させ、乾燥する方法が採られる(表面処理)。フッ素含有高分子は、表面処理の場合に、布帛の重量に対するフッ素含有高分子の割合が0.01〜3.0重量%(より好ましくは0.5〜2.0重量%)であってよい。
【0080】
かくして得られた布帛は、吸水性が60秒以下であるので、着用快適性に優れるだけでなく、汚れの洗濯除去性にも優れる。また同時にAATCC118−1992による撥油性が4級以上と撥油性にも優れる。その際、ダイヤペースト法(日本化学繊維協会規格 JCFA TM−104)による汚れの洗濯除去性(防汚SR性)が3級以上であることが好ましい。
【0081】
また、前記のようにパーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が5ng/g以下のフッ素含有高分子が布帛に付着していると、環境問題に配慮したものとなる。
【0082】
さらには、フッ素含有高分子を第4級アンモニウム塩とともに布帛に付着させた場合には、撥油性、汚れの洗濯除去性、および吸水性がさらに向上するだけでなく、布帛に抗菌性も付加される。その際、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)にて、静菌活性値が2.2以上または殺菌活性値が0以上であることが好ましい。
【0083】
次に、本発明の繊維製品は前記布帛を含む繊維製品である。かかる繊維製品は前記布帛を含むので、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性に優れる。特に、前記のようなフッ素含有高分子を第4級アンモニウム塩とともに布帛に付着させた場合は、撥油性、汚れの洗濯除去性、および吸水性がさらに向上するだけでなく抗菌性にも優れる。かかる繊維製品には、シャツ、ユニフォーム、食品工場用白衣ユニフォーム、オフィスユニフォーム、化粧品販売員用ユニフォーム、アパレル衣料、スポーツ衣料、紳士衣料、婦人衣料、学生服などの衣料や、カーテン、枕カバー、カーシートなどが含まれる。もちろん、本発明の繊維製品がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【実施例】
【0084】
(1)PFOAまたはPFOSの量
次の条件で測定し、ng/gで表示した。
試料:布帛の場合は10gをメタノール溶液中にて常温で5時間浸漬抽出し分析した
装置:LC−MS/MSタンデム型質量分析計TSQ−7000(サーモエレクトロン)
高速液体クロマトグラフLC−10Avp(島津製作所)
カラム:Capcellpak C8 100mm×2mmi.d.(5μm)
移動層:A;0.5mmol/L酢酸アンモニウム
B;アセトニトリル
流速:0.2mL/min、試料注入量:3μL
CP温度:220℃、イオン化電圧:4.5kv、イオンマルチ:1300v
イオン化法:ESI−Negative
(2)抗菌性
有機繊維を含む布帛について、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)により静菌活性値および殺菌活性値を測定した。静菌活性値としては、2.2以上を合格(○)とし、2.2未満を不合格(×)とした。また、殺菌活性値としては、0以上を合格(○)とし、0未満を不合格(×)とした。
(3)撥油性
AATCC118−1992により撥油性を測定した。4級以上を合格とする。
(4)吸水性
JIS L1018A法(滴下法)による吸水性を測定した。60秒以下を合格とする。
(5)汚れの洗濯除去性
ダイヤペースト法(日本化学繊維協会規格 JCFA TM−104)に従って汚れの洗濯除去性(防汚SR性)を評価した。すなわち、水平に敷いたろ紙の上に試験片(前記L−0布または前記L−20布)を広げ、これに下記の汚れ成分を0.1mL付着させて、室温で一時間放置した。
(汚れ成分)
カーボンブラック 0.167質量部
流動パラフィン 0.625質量部
牛脂硬化油 0.208質量部
モーターオイル(Shell製) 100質量部
次に、この試験片を、2槽式電気洗濯機を用いて15分間洗濯(浴比1:30、液温40℃、温水30Lに対する洗剤アタック(商品名、花王(株)製)の量25g)を入れ、濯ぎ、脱水を行なった後、風乾した。乾燥した試験片に残存するシミの状態を汚染用グレースケール(JIS L 0805:2005)により判定した。
【0085】
参考例
還流冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた100ml四つ口フラスコに含フッ素モノマー CH2=CHC(=O)O−CH2CH2C6F13を18.6g、ポリエチレングリコールアクリレート CH2=CHC(=O)O−(CH2CH2O)n−H(BLEMMER AE90、日油株式会社製、nの平均値は2、以下、AE90(b)と記す)を11.4g、2−メルカプトエタノールを0.3gとメチルエチルケトン(以下、MEKと記す)を45g仕込んで、30分間窒素バブリングした。窒素気流下で内温を50−65℃に昇温後、パーブチルPV(以下、PVと記す)を0.4g添加し、60から65℃で6時間反応させた。得られた溶液を減圧条件下にて約70℃でMEKを留去し、淡黄色ポリマー残渣を得た後、水を122.4g添加し、内温を約80℃で1hr以上保った後、冷却してフッ素系化合物の固形分濃度が約20重量%の水分散液を調整した。
【0086】
次いで、該水分散液5wt%(処理液重量対比)、メラミンバインダー樹脂0.5wt%(処理液重量対比)と触媒0.1wt%(処理液重量対比)、イオン交換水94.4wt%(処理液重量対比)で構成される処理液を得た。
【0087】
一方、経糸として、総繊度330dtex/96filの通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸、緯糸として、総繊度370dtex(16番手)の綿紡績糸を用い、綾織物(生機の経糸密度100本/2.54cm、生機の緯糸密度50本/2.54cm)を織成した。その後、80℃で精錬後、130℃30分間通常の染色加工を施し、乾燥を行い、布帛を得た。なお、該布帛に含まれるポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸の含有量は70重量%であった。
【0088】
次いで、該布帛を、前記処理液に含浸させ、絞り率100%となるように絞った後、130℃で5分乾燥し、さらに180℃で1分乾燥した。該布帛に対するフッ素含有高分子の割合は1重量%であった。
【0089】
得られた布帛において、初期(洗濯前)の吸水性(JIS L-1096 A法)は25秒であり、汚れの洗濯除去性は3−4級であり、撥油性(AATCC 118-1992)は5級と良好であった。また、フッ素含有化合物のパーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計量は5ng/g未満であった。また、静菌活性値は0.2、殺菌活性値が−2.0であり、抗菌性を有していなかった。また、得られた布帛の表面を電子顕微鏡で観察したところ、フッ素含有化合物が、布帛を構成する繊維の単繊維に皮膜状に付着していた。
【0090】
次いで、該布帛を用いてユニフォームを得て使用したところ、吸水性、汚れの洗濯除去性、撥油性に優れるものであった。
【0091】
[実施例
参考例において、処理液に下記の4級アンモニウム塩0.1%併用すること以外は参考例と同様にした。
【0092】
【化2】
【0093】
得られた布帛において、初期(洗濯前)の吸水性(JIS L-1096 A法)は8秒であり、汚れの洗濯除去性は4−5級であり、撥油性(AATCC 118-1992)は6級と極めて良好であった。また、フッ素含有化合物のパーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計量は5ng/g未満であった。また、静菌活性値は4.1、殺菌活性値が1.2であり、優れた抗菌性を有していた。また、得られた布帛の表面を電子顕微鏡で観察したところ、フッ素含有化合物が、布帛を構成する繊維の単繊維に皮膜状に付着していた。
【0094】
次いで、該布帛を用いてユニフォームを得て使用したところ、吸水性、汚れの洗濯除去性、撥油性、抗菌性に優れるものであった。
【0095】
[実施例
参考例において、処理液に下記の4級アンモニウム塩0.1%併用すること以外は参考例と同様にした。
【0096】
【化3】
【0097】
得られた布帛において、初期(洗濯前)の吸水性(JIS L-1096 A法)は8秒であり、汚れの洗濯除去性は4−5級であり、撥油性(AATCC 118-1992)は6級と極めて良好であった。また、フッ素含有化合物のパーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計量は5ng/g未満であった。また、静菌活性値は4.2、殺菌活性値が1.15であり、優れた抗菌性を有していた。また、得られた布帛の表面を電子顕微鏡で観察したところ、フッ素含有化合物が、布帛を構成する繊維の単繊維に皮膜状に付着していた。
【0098】
次いで、該布帛を用いてユニフォームを得て使用したところ、吸水性、汚れの洗濯除去性、撥油性、抗菌性に優れるものであった。
【0099】
[比較例1]
参考例において、処理液に含まれるフッ素含有化合物としてフッ素系撥水加工剤(日華化学NDN-7E、固形分濃度 20重量%)を用いる以外は参考例と同様に行った。該布帛に対するフッ素含有高分子の割合は1重量%であった。
【0100】
得られた布帛において、初期(洗濯前)の吸水性(JIS L-1096 A法)は380秒であり、汚れの洗濯除去性は1−2級であり、撥油性(AATCC 118-1992)は8級と、撥油性(AATCC 118-1992)は優れるものの、吸水性と汚れの洗濯除去性は悪いものであった。また、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計量は15ng/gであった。また、静菌活性値は0.1、殺菌活性値が−2.2であり、抗菌性を有していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、有機繊維を含む布帛であって、撥油性、汚れの洗濯除去性、吸水性に優れ、さらには環境問題にも配慮するだけでなく抗菌性にも優れる布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られ、その工業的価値は極めて大である。