(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890451
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】石積み擁壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20160308BHJP
【FI】
E02D29/02 309
E02D29/02 303
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-36811(P2014-36811)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-198990(P2014-198990A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-52688(P2013-52688)
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000251026
【氏名又は名称】林 平八
(72)【発明者】
【氏名】林 平八
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
実開平07−031945(JP,U)
【文献】
特開平06−306831(JP,A)
【文献】
特開昭61−183521(JP,A)
【文献】
特開平05−118038(JP,A)
【文献】
特許第2983207(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02B 3/04〜 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横方向に並ぶ石と石との間、又は縦方向に重ねる石と石との間に袋状型枠に入れた、まだ固まる前のコンクリートを用い、このまだ固まる前のコンクリートは横方向又は縦方向に接する石の凹凸に合わせた形になり、噛み合わせ効果が働き、土圧に対して有効に働き又石と石との間隔より表面側が広い、くさび型になり、くさび効果が生じ前記と同様に土圧に対して有効に働き、更に、このまだ固まる前の袋状型枠の中のコンクリートにアンカーの一端を挿入して、定着し、他の端を背面土に横方向にアンカーとして設置して、背面の土圧及び上載荷重に安全に長期に耐えられるように構築することを特徴とする石積み擁壁の構築方法
【請求項2】
請求項1に於いて袋状型枠に入れたコンクリートが硬化の後又はコンクリートを吊上げて移動しても崩れない時に、コンクリートを袋状型枠と共に吊上げて移動し、袋状型枠を剥ぎ取り、コンクリートを元の位置に戻し設置することにより、袋状型枠の無いコンクリートを用いた、請求項1に記載の、石積み擁壁の構築方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は道路及び宅地造成地などで構築する石積み擁壁
の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石積みは古来より日本においてのみならず世界各地で構築されてきた代表的な構造物である。人類により構築された初期の構造物は、その主たる材料を自然、主として土壌から得ていた といわれている。しかし残念ながら自然に崩壊するものがある。特に高さの中間部すなわち胴の部分が張り出すものが多い。また地震により崩れる場合もある。このため丸に近い石よりも胴長の石を求めて来たが胴長のものは数が少なく築城の場合に使用されている。また当初予定していない荷重が加わると次第に、崩壊するものもある。この対策として近年機械技術の発達により、石に孔をあけ、ここに鉄筋を固定し、この鉄筋をアンカーとして用いる例がある。その一例として特許文献1のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−323434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献1のものは費用の増加が問題になる。石に削孔することはコンクリートより更に硬く、また削孔作業の安定も悪く作業能率も悪い。また石積み擁壁では石と石との噛み合わせが重要であるが、この作業を能率よく行うには、長年の経験と技量が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するために本願では、まだ固まる前のコンクリート又はモルタルを袋状型枠に入れて使用する方法を用いた。なお本願ではコンクリート又はモルタルを以下単にコンクリートと称する。まだ固まる前のコンクリートを単にコンクリートと称し、必要な時だけ、まだ固まる前のコンクリートとする。袋状型枠とは例えば土のうに土を詰める代りにコンクリートを詰めるか又は麻布、シート又はネットを風呂敷包みのように使用してこれでコンクリートを包みアルミ線、針金、紐又は留め具で止めて型枠として使用するものである。これらの大きさは任意であり例えば土のうであれば約50cm×60cmが一般的であるが、これより大きいコンテナバックや、また小さいものもある。更にこのまだ固まる前のコンクリートにアンカーボルト又は鉄筋を挿入しコンクリートの硬化後これらをアンカーとして使用する。この袋状型枠を使用する方法は石に削孔する必要がない利点の他に胴長の石を使用するのと同等の効果がある。また石積み擁壁では石と石との噛み合わせが重要であるが石と石との噛み合わせでなく、石と袋状型枠の中の、まだ固まる前のコンクリートとの噛み合わせになり石の凹凸の形に合った袋状型枠の中のコンクリートを容易に作ることができ作業能率が非常よくなる。
【0006】
これらについて図と共に説明する。
図6に於いて石1の2は凹部である。袋状型枠3の中のコンクリート4は、まだ固まる前の時点で石1の凹部2に合った形の凸部5を石1の凹部2に横から押し当て横圧するすることにより容易に作ることができる。凸部についても
図7に示すように石1に凸部6があり袋状型枠3の中の、まだ固まる前のコンクリート4を横圧すれば凹部7を容易に作ることができる。この
図6及び
図7に示したことを本願では噛み合わせ効果と称し特許請求の範囲の記載にも使用する。
【0007】
次にくさび効果について説明する。
図8に於いて左の石1及び右の石1をL1の間隔で設置する場合に袋状型枠3の中のまだ固まる前のコンクリート4を拡幅部L2すなわちL1より大きい寸法L2で設置すれば引っ張り力Tに対してくさび状になり、くさび効果が生じる。これを本願では、くさび効果と称し特許請求の範囲の記載にも使用する。
【0008】
次に袋状型枠について説明する。普通サイズの一般的な土のうの場合について説明する。
図9の(a)は元の状態で、この隅を破線の位置で縫って折り、重なる部分を接着して止める。これにより(b)のようになる。次に内と外を反転して重なった部分を見えなくして(c)のようにする。この後まだ固まる前のコンクリートを投入する。接着して止める目的は折り込んだ部分がコンクリートに挟み込まれることを防ぐ為である。麻布、シート又はネットを用いる場合は大型の茶碗状すなわちボウル状のものを用い、この上に麻布、シート又はネットを載せ、この中にまだ固まる前のコンクリートを入れ、コンクリートを包むように使用しアルミ線、針金、紐又は留め具で止める。麻布を風呂敷包みのように使用した場合の様子を
図13に示す。なお石の形状を本願では楕円形で示したが実際には例えば
図13の様である。これを模式的に楕円形で示した。石の間隔が外側の方が内側より広く、くさび効果が働いている。更に詳しく実施例1及び実施例2に示す。
【0009】
次に本願の石積み擁壁の外観について説明する。袋状型枠3の麻布、シート又はネットは時間と共に紫外線等により劣化し、部分的に、剥げ落ちる。これを避けるため、コンクリート4から袋状型枠3を撤去する方法がある。これはコンクリート4が硬化の後又はコンクリート4を吊上げて移動しても崩れない、できるだけ早い時、例えば気温20°C前後で6時間以内にコンクリート4を吊上げて移動して袋状型枠3を剥ぎ取り、元の位置に戻し設置する。コンクリート4が完全に硬化してからでは、作業にやや時間がかかる。麻布、シート又はネットの厚さ分だけ隙間が増加するが石1とコンクリート4との凹凸の噛み合わせ効果や、くさび効果の減少は無く、この石積み擁壁の安定は保持できる。更に詳しく実施例3に示す。
【発明の効果】
【0010】
石に削孔せず、まだ固まる前のコンクリートにアンカーを設置し背面土に定着する方法であり、費用は安く、同時に石と石との噛み合わせも、石と石との噛み合わせでなく、石とまだ固まる前のコンクリートとの噛み合わせであり、噛み合わせがよく、強度も増す。噛み合わせ効果については段落(0006)に、またくさび効果については段落(0007)に示した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】アンカーを用いる場合の石積みの1段目の平面図である。
【
図2】アンカーを用いる場合の石積みの側面図である。
【
図6】本件発明の噛み合わせ効果について石に凹部がある場合の説明図である。
【
図7】噛み合わせ効果について石に凸部がある場合の説明図である。
【
図10】アンカーを用いない場合の石積みの1段目の平面図である。
【
図11】アンカーを用いない場合の石積みの側面図である。
【
図12】アンカーを用いない場合及び用いる場合の石積みの1段目及び2段目の正面図である。
【
図13】麻布を使用した場合の状態を示す図面代用写真ある。
【
図14】麻布をコンクリートから取り除いた状態を示す図面代用写真できる。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
石積み擁壁を新しく設置する位置又は修繕して設置する位置を決め土砂を掘削し締め固める。1つ目の石1Aを設置し次に2つ目の石1Bを、袋状型枠3の中のコンクリート4の分あけて設置する。これを
図10に示す。
図10の左側の石1Aには凹部があり、次の石1Bには凸部がある場合である。袋状型枠3にまだ固まる前のコンクリート4を、1つ目の石
1Aと2つ目の石1Bとの間隔より大きくなるように詰め、1つ目の石1Aと2つ目の石1Bとの間に、押込むように挿入する。この作業を繰り返し1段目の工事をする。
図10のTは土圧に対する抵抗力を示し
図8の、くさび効果を示している。次に2段目の作業に入り1段目の石1Aと袋状型枠3のコンクリート4との両方の上に2段目の石1Cを設置する。この様子を
図12の正面図に示す。このあと1段目と同じ作業をする。3段目以降も同様の作業を行い袋状型枠3の中のコンクリート4の硬化後に土砂を埋め戻して石積み擁壁を完成する。これらの側面図を
図11に示す。これらの中の噛み合わせ効果は
図6及び
図7に示したものと同じである。また、くさび効果は
図8に示したものと同じである。
【実施例2】
【0013】
実施例1のコンクリート4にアンカーを設け背面に定着する場合である。実施例1と同様に石積み擁壁を新しく設置する位置又は修繕する位置を決め土砂を掘削し締め固め、1つ目の石1Aを設置し次に2つ目の石1Bを、袋状型枠3の中のコンクリート4の分あけて設置する。袋状型枠3にまだ固まる前のコンクリート4を、1つ目の石1Aと2つ目の石1Bとの間隔より大きくなるように詰め、このコンクリート4にアンカー8を設置し、背面土に定着する。コンクリート4にアンカーを定着する部分は具体的にはアンカーボルトにナットを用いたもの、異形鉄筋に半円形のフックを用いたもの、異形鉄筋に、かぎ形のフックを用いたものがある。背面土に定着する部分はアンカープレートとナットを用いたもの、既に固まったコンクリート塊を用いたものがある。土砂を1段目の石1の高さまで埋め戻し、転圧する。以後の作業は実施例1と同じである。2段目以降も同様の作業を行い袋状型枠3の中のコンクリート4の硬化後に土砂を埋め戻して石積み擁壁を完成する。これらを
図1の平面図及び
図2の側面図に示す。
図1及び
図2の場合はアンカー8にアンカーボルトを用いコンクリート4にナットで定着し、背面土にアンカープレートとナットで定着した場合である。アンカー8に異形鉄筋を用いコンクリート4の中に半円形のフックで定着し、背面土にコンクリート塊で定着した場合のアンカー8の様子を
図4に示す。実施例1と同じく、噛み合わせ効果は
図6及び
図7に示したものと同じであり、くさび効果は
図8に示したものと同じである。袋状型枠3に麻布を用いた様子を
図13に示す。この場合アンカーボルト8に短いアンカーボルトと高ナットを用い作業を容易にしている。留め具にはアルミ線を用いている。
【実施例3】
【0014】
実施例2に於いて袋状型枠3に入れたコンクリート4が硬化の後又はコンクリート4を吊上げて移動しても崩れない、できるだけ早い時、例えば気温20°C前後で6時間以内にコンクリート4を吊上げて移動して袋状型枠3を剥ぎ取り、元の位置に戻し設置する。高ナットにボルトを挿入して取り付けアンカーボルト8を延長しアンカープレート10を取り付ける。このあとは
実施例1又は実施例2と同じである。これにより、袋状型枠3の無いコンクリート4を用いた、石積み擁壁を作ることができる。袋状型枠3の麻布、シート又はネットが時間と共に紫外線等により劣化し、部分的に、剥げ落ちることが無く外観を損ねない。コンクリート4から袋状型枠3を剥ぎ取る前の状態を
図13に、取り外した後の状態を
図14に示す。この時アンカー8を当初短くし、後から高ナットにアンカーを延長して、作業を容易にしている。この作業を繰り返し実施するが、ある程度、数をまとめて実施すること、施工場所近くの仮小屋で実施すること、工場で作ること等がある。
【符号の説明】
【0015】
1 石
2 石の凹部
3 袋状型枠
4 コンクリート
5 コンクリートの凸部
6 石の凸部
7 コンクリートの凹部
8 アンカーボルト
9 ナット
10 アンカープレート
11 鉄筋
12 フック
13 コンクリート塊