特許第5890473号(P5890473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890473
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】モータを制御するモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/12 20060101AFI20160308BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20160308BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20160308BHJP
【FI】
   G05D3/12 306Z
   G05B19/404 G
   G05B19/404 K
   H02P5/00 R
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-122690(P2014-122690)
(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-4316(P2016-4316A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2015年6月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】中邨 勉
【審査官】 青山 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−054001(JP,A)
【文献】 特開2004−234205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/00−3/20
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより駆動される可動部および該可動部により駆動される被駆動部を備えたモータ制御装置(10)において、
前記可動部の位置を検出する第一位置検出部(11)と、
前記被駆動部の位置を検出する第二位置検出部(12)と、
前記第一位置検出部が検出した第一位置検出値と前記第二位置検出部が検出した第二位置検出値との間の偏差を計算する偏差計算部(31)と、
第一駆動方向および該第一駆動方向とは反対の第二駆動方向において前記可動部が前記被駆動部に係合したときに前記偏差計算部により計算される偏差をそれぞれ第一初期偏差および第二初期偏差として保持する保持部(33)と、
前記可動部および前記被駆動部の間のバックラッシと前記可動部が前記被駆動部に係合することにより生じる弾性変形とを補正する補正量を計算する補正量計算部(34)と、を具備し、
該補正量計算部は、前記保持部により保持された前記第一初期偏差および前記第二初期偏差と、ゼロより大きくて1以下の所定の定数とに基づいて指令偏差を計算し、前記偏差計算部により計算された現在の偏差を前記指令偏差から減算して前記補正量を計算するようにし、
前記モータが反転した後の駆動方向が前記第一駆動方向である場合には、前記指令偏差は、第一初期偏差×定数+第二初期偏差×(1−定数)で表され、
前記モータが反転した後の駆動方向が前記第二駆動方向である場合には、前記指令偏差は、第一初期偏差×(1−定数)+第二初期偏差×定数で表されるようにした、モータ制御装置。
【請求項2】
前記定数が0.75から0.95の間の値であるようにした請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械および産業機械における送り軸および産業用ロボットのアームに連結されたモータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械および産業機械における送り軸および産業用ロボットのアーム等の軸(機械可動部)には、サーボモータが連結されている。サーボモータの回転はボールネジなどによりテーブルなどの直線運動に変換されたり、サーボモータの伝達速度が減速機により減速されたりしている。
【0003】
これらボールネジまたは減速機において或る位置への正方向における停止位置と、負方向における停止位置との間に差が存在する場合がある。一般に、このような差はバックラッシと呼ばれており、位置精度を低下させる原因になっている。
【0004】
図8A図8Cは、バックラッシを説明するための図である。図8Aには、図示しないモータにより移動する可動部WAと、可動部WAによって駆動される被駆動部WBとが示されている。可動部WAはその両端に突出部A1、A2を有しており、被駆動部WBはその中央に突起部Bを有している。従って、例えば可動部WAが右方向に移動すると、可動部WAの一方の突出部A1の内方端が被駆動部WBの突起部Bの一端に係合する。これにより、可動部WAおよび被駆動部WBが一体的に右方向に移動するようになる。
【0005】
また、モータが反転して可動部WAが右方向から左方向に移動する場合には、図8Bに示されるように、可動部WAが左方向に移動する。そして、図8Cに示されるように、可動部WAの他方の突出部A2の内方端が被駆動部WBの突起部Bの他端に係合すると、可動部WAおよび被駆動部WBが一体的に左方向に移動するようになる。
【0006】
このように反転時には可動部WAが被駆動部WBに係合する前に、バックラッシと呼ばれる所定の移動量だけ移動する必要がある。図8Aおよび図8Cに示されるバックラッシCは位置精度を低下させる原因になりうる。このため、バックラッシCについての補正量を作成し、反転時にこの補正量をモータの位置指令に加算することが行われている。
【0007】
被駆動部WBの位置情報を得ることなしに、モータの位置情報に基づいて被駆動部WBの位置制御を行う機械はセミクローズド制御機である。このようなセミクローズド制御機においては、速度指令の反転後の移動指令にバックラッシ長を加算した、補正位置指令をモータに指令し、それにより、被駆動部WBを移動指令分だけ移動させている。
【0008】
また、モータの位置情報および被駆動部WBの位置情報の両方を把握することができる機械、すなわち、フルクローズド制御機では、被駆動部WBのセンサを備えているので、移動指令として所望値を与えれば十分である。このようなフルクローズド制御機においては、速度指令の反転時に、モータがバックラッシ長だけ移動した後で、被駆動部WBが移動開始するので、遅れが発生する。このため、フルクローズド制御機は、速度指令の反転後で、モータを加速させる速度指令補正機能を有しうる。
【0009】
これら二つの技術においては、適切なタイミングで適切な補正を行っており、補正の量および補正のタイミングは動作に先立って決定される。従って、これら二つの技術はフィードフォワード制御である。
【0010】
これに対し、特許文献1においては、バックラッシにおけるモータの位置を把握して、バックラッシ補正量を決定している。この場合にはバックラッシにおけるモータの現在の位置を用いてバックラッシ補正量が定まるので、特許文献1の技術はフィードバック制御である。特許文献1においては、可動部が被駆動部に係合したときの可動部と被駆動部との間の偏差を初期偏差としている。そして、可動部および被駆動部の現在の位置の間の偏差を初期偏差から減算して、補正量を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2014−054001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1においては、バックラッシを歯面間の単なる隙間として解釈されている。しかしながら、通常の機械においては、単なる隙間としてのバックラッシに加えて、可動部と被駆動部との間に作用する力により生じる弾性変形に基づくロストモーションが存在する。また、そのような弾性変形は、線形に変形する場合と非線形に変形する場合を含みうる。
【0013】
ロストモーションが弾性変形を含む場合、特許文献1において初期偏差を求めるときにバックラッシ端にかかる力の大きさと、モータ反転時に必要とされる力の大きさとが異なり、算出された補正量が要求される補正量とは異なる可能性がでてくる。
【0014】
補正量が過小の場合、ワークが加工不足になりがちである。補正量が過大な場合、ワークが過剰に加工されて切込みが生じる可能性がある。特に、補正量が過大の場合、ワークの加工面における切込みはキズのように見えるので、ワークが加工不良と判断される可能性が高く、たびたび問題視される。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、弾性変形を考慮することにより、過大な補正量が作成されるのを回避することのできるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、モータにより駆動される可動部および該可動部により駆動される被駆動部を備えたモータ制御装置において、前記可動部の位置を検出する第一位置検出部と、前記被駆動部の位置を検出する第二位置検出部と、前記第一位置検出部が検出した第一位置検出値と前記第二位置検出部が検出した第二位置検出値との間の偏差を計算する偏差計算部と、第一駆動方向および該第一駆動方向とは反対の第二駆動方向において前記可動部が前記被駆動部に係合したときに前記偏差計算部により計算される偏差をそれぞれ第一初期偏差および第二初期偏差として保持する保持部と、前記可動部および前記被駆動部の間のバックラッシと前記可動部が前記被駆動部に係合することにより生じる弾性変形とを補正する補正量を計算する補正量計算部と、を具備し、該補正量計算部は、前記保持部により保持された前記第一初期偏差および前記第二初期偏差と、ゼロより大きくて1以下の所定の定数とに基づいて指令偏差を計算し、前記偏差計算部により計算された現在の偏差を前記指令偏差から減算して前記補正量を計算するようにし、前記モータが反転した後の駆動方向が前記第一駆動方向である場合には、前記指令偏差は、第一初期偏差×定数+第二初期偏差×(1−定数)で表され、
前記モータが反転した後の駆動方向が前記第二駆動方向である場合には、前記指令偏差は、第一初期偏差×(1−定数)+第二初期偏差×定数で表されるようにした、モータ制御装置が提供される。
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記定数が0.75から0.95の間の値であるようにした。
【発明の効果】
【0017】
1番目の発明においては、第一初期偏差および第二初期偏差と所定の定数とに基づいて計算した指令偏差から現在の偏差を減算して補正量を計算している。この場合には、弾性変形が考慮されるので、補正量が過大になることはない。このため、ワークが過大に加工されることはなく、ワークの表面に切込みが形成されることもない。従って、ワークが加工不良と判断される可能性を下げることができる。
2番目の発明においては、ワークが加工不良と判断される可能性を更に下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に基づくモータ制御装置の機能ブロック図である。
図2図1のボールネジ機構部を模式的に示す図である。
図3A】可動部が左方向に移動した場合における部分模式図である。
図3B】可動部が右方向に移動した場合における部分模式図である。
図4】本発明のモータ制御装置の動作の一部分を示すフローチャートである。
図5】本発明のモータ制御装置の動作の残りの部分を示すフローチャートである。
図6】第一弾性変形部および第二弾性変形部に相当するバネの変位と力との関係を示す図である。
図7】指令偏差の模式図である。
図8A】バックラッシを説明するための第一の図である。
図8B】バックラッシを説明するための第二の図である。
図8C】バックラッシを説明するための第三の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
【0020】
図1は本発明に基づくモータ制御装置の機能ブロック図である。図1に示されるように、モータMの出力軸に取付けられたボールネジ機構部のネジ51にナット52が螺合している。そしてナット52は、結合部材53を介してテーブル54に連結されている。モータMの位置はモータMに取付けられた第一位置検出器、例えばエンコーダ11により検出される。エンコーダ11は、連続した複数のモータMの位置に基づいて速度検出値DVも検出するものとする。さらに、テーブル54の位置はテーブル54に対して平行に配置された第二位置検出器、例えばスケール12により検出される。
【0021】
図2はボールネジ機構部を模式的に示す図である。図2においては、両端に突出部A1、A2を備えた可動部WAと、可動部WAの突出部A1、A2の間で摺動する係合部材Bとが主に示されている。そして、可動部WAの下面は、第一弾性変形部61を介して、モータMの位置を示すモータ位置部材63に連結されている。また、係合部材Bは第二弾性変形部62を介してテーブル54に連結されている。
【0022】
図3Aおよび図3Bは可動部がそれぞれ左方向および右方向に移動した場合における部分模式図である。モータ位置部材63が左方向に移動すると、第一弾性変形部材61が弾性変形することにより、可動部WAはモータ位置部材63よりもわずかながら遅れて左方向に移動する。
【0023】
そして、係合部材Bが可動部WAの突出部A1に係合すると、係合部材Bは可動部WAと一緒に移動するようになる。係合部材Bがさらに左方向に移動すると、第二弾性変形部材62が弾性変形することにより、テーブル54は係合部材Bよりも遅れて左方向に移動することとなる。なお、図3Bに示されるように、モータ位置部材63が右方向に移動する場合も概ね同様であるので説明を省略する。
【0024】
そして、図3Aに示されるように、係合部材Bが可動部WAの一方の突出部A1に係合したときには、係合部材Bと他方の突出部A2との間には、バックラッシCが存在している。バックラッシCは、三次元測定器などで可動部WAの移動距離を測定し、これをモータMの移動量と比較してその差を測定することにより求められる。あるいは、象限が切替わるときに生じる、いわゆる象限突起を測定することにより、バックラッシCを求めてもよい。
【0025】
ここで、図1図2とを比較して分かるように、図1の第一位置検出器(エンコーダ)11およびモータMは、図2において直線型検出器を兼ねた直線型アクチュエータ64に対応する。さらに、図1のネジ51およびナット52は、可動部WA、被駆動部WBおよび弾性変形可能な第一弾性変形部61に対応する。そして、図1の結合部材53は、弾性変形可能な第二弾性変形部62に対応する。以下においては、図1のボールネジ機構部が、図2に示された模式的なボールネジ機構部に置き換わったものとして説明することとする。
【0026】
図1を参照すると、本発明に基づくモータ制御装置10は、可動部WAの位置指令値CPを周期的に作成する位置指令作成部20と、可動部WAの速度指令を作成する速度指令作成部24と、モータMのトルク指令を作成するトルク指令作成部26とを主に含んでいる。
【0027】
さらに、モータ制御装置10は、第一位置検出部11が検出した第一位置検出値DP1と第二位置検出部12が検出した第二位置検出値DP2との間の偏差ΔPを計算する偏差計算部31を含んでいる。また、モータ制御装置10は、可動部WAを任意の初期位置から第一駆動方向および該第一駆動方向とは反対の第二駆動方向に移動させたときに可動部WAの突出部A1、A2が被駆動部WBに係合したか否かを判定する判定部32を含んでいる。
【0028】
さらに、モータ制御装置10は、判定部32によって可動部WAが被駆動部WBに係合したことが判定されたときに偏差計算部31が計算した偏差ΔPを第一駆動方向または第二駆動方向に関連づけて初期偏差として保持する保持部33を含んでいる。なお、保持部33は、速度などの他の要素も保持できるものとする。さらに、モータ制御装置10は、可動部WAおよび被駆動部WBの間のバックラッシと可動部WAが被駆動部WBに係合することにより第一弾性変形部61および第二弾性変形部62の弾性変形とを補正するための補正量を計算する補正量計算部34を含んでいる。
【0029】
図4および図5は本発明のモータ制御装置の動作を示すフローチャートである。図4および図5に示される内容は所定の制御周期毎に繰返し行われるものとする。以下、図1から図5を参照して本発明のモータ制御装置の動作を説明する。
【0030】
はじめに、位置指令作成部20が位置指令値CPを作成する。そして、図4のステップS11、S12おいて第一位置検出部11および第二位置検出部12が可動部WAの第一位置検出値DP1および被駆動部WBの第二位置検出値DP2をそれぞれ検出する。
【0031】
そして、図4に示されるように、ステップS13において、偏差計算部31が第一位置検出値DP1および第二位置検出部DP2との間の偏差ΔPを計算する。偏差ΔPは保持部33に順次保持されるものとする。このとき、偏差ΔPには、駆動方向が関連づけられて保持されるものとする。
【0032】
次いで、ステップS14においては、駆動方向が第一駆動方向であるか否かが判定される。本願明細書においては、図2等における右方向が第一駆動方向であり、左方向が第二駆動方向であるものとする。駆動方向は、位置指令作成部20が出力する位置指令の差分の符号から容易に把握できる。
【0033】
駆動方向が第一駆動方向であると判定された場合には、ステップS15に進む。ステップS15においては、判定部32は、第一駆動方向において可動部WAの突出部A1が被駆動部WBに係合したか否かを判定する。そして、可動部WAの突出部A1が被駆動部WBに係合している場合には、ステップS16において、現在の偏差ΔPを第一初期偏差ΔP1として駆動方向と共に保持部33に保持する。
【0034】
例えば、判定部32は、モータMが駆動して一定時間経過後にテーブル54が一定速度で第一駆動方向に移動しているかまたは加速している場合に、可動部WAの突出部A1が被駆動部WBに係合したと判定する。これにより、第一初期偏差ΔP1は第一弾性変形部61および第二弾性変形部62の第一駆動方向における弾性変形を含むこととなる。なお、当然のことながら、他の手法で可動部WAの突出部A1が被駆動部WBに係合したと判定してもよい。
【0035】
これに対し、ステップS14において、駆動方向が第二駆動方向であると判定された場合には、ステップS17に進む。ステップS17においては、判定部32は、第二駆動方向において可動部WAの突出部A2が被駆動部WBに係合したか否かを判定する。この場合の判定手法は前述したのと概ね同様である。そして、可動部WAの突出部A2が被駆動部WBに係合している場合には、ステップS18において、現在の偏差ΔPを第二初期偏差ΔP2として駆動方向と共に保持部33に保持する。前述したのと同様に、第二初期偏差ΔP2は第一弾性変形部61および第二弾性変形部62の第二駆動方向における弾性変形を含む。
【0036】
そして、図5におけるステップS19においては、速度指令が反転した後で、可動部WAが被駆動部WBの反対側の突出部に係合したか否かが判定される。可動部WAが被駆動部WBの反対側の突出部に係合した場合には、補正する必要がないので処理を終了する。
【0037】
次いで、ステップS20においては、第一初期偏差ΔP1および第二初期偏差ΔP2の両方が保持部33に保持されているか否かが判定される。第一初期偏差ΔP1および第二初期偏差ΔP2のうちの一方または両方が保持されていない場合には、後述する指令偏差を計算することができない。従って、この場合には、処理を終了する。
【0038】
第一初期偏差ΔP1および第二初期偏差ΔP2の両方が保持されている場合には、ステップS21に進んで、駆動方向が第一駆動方向であるか否かが判定される。駆動方向が第一駆動方向である場合には、ステップS22に進む。ステップS22においては、以下の式(1)に基づいて、補正量計算部34が指令偏差を算出する。
指令偏差←ΔP1・α+ΔP2・(1−α) (1)
式(1)および後述する式(2)において、αは0より大きくて1以下の定数である。定数αは操作者が実験等により予め定め、保持部33に保持されているのが好ましい。なお、算出された指令偏差は補正量計算部34が一時的に保持するものとする。
【0039】
これに対し、駆動方向が第二駆動方向である場合には、ステップS23に進む。ステップS23においては、以下の式(2)に基づいて、補正量計算部34が指令偏差を算出する。
指令偏差←ΔP1・(1−α)+ΔP2・α (2)
【0040】
次いで、ステップS24においては、補正量計算部34が補正量を以下の式(3)に基づいて算出する。
補正量=G×(指令偏差−現在偏差) (3)
なお、式(3)において、Gはゲインを示しており、現在の偏差はステップS13で算出された最新の偏差を意味する。そして、図4および図5に示される処理は所定の制御周期毎に繰返されるものとする。
【0041】
図1を再び参照すると、位置指令作成部20により作成された位置指令値CPから、第一位置検出部11により検出された第一位置検出値DP1が減算器21にて減算される。そして、補正量計算部34により作成された補正量は加算器22において位置指令CPに加算されて、速度指令作成部24に入力される。速度指令作成部24は速度指令値CVを作成する。
【0042】
さらに、第一位置検出部11により検出された速度検出値DVが、減算器25において速度指令値CVから減算されて、トルク指令作成部26に入力される。トルク指令作成部26により作成されたトルク指令値はモータMに入力されてモータMを駆動する。
【0043】
ここで、図6はバネの変位と力との関係を示す図である。このバネは第一弾性変形部61および第二弾性変形部62に相当する。図6に示されるように、第一弾性変形部61および第二弾性変形部62に対応するバネは、バネ定数の異なる二つのバネが直列で接続された構成を想定している。すなわち、力がゼロとF0との間においては、変位は比較的大きいものの、力がF0を越えると、変位はわずかにのみ変化する。
【0044】
従来技術においては、保持された初期偏差から現在の偏差を減算することにより、補正量を算出していた。例えば図6において初期偏差が保持されたときの力がF0よりも大きい場合には、変位もL0よりわずかながら大きくなる。そして、反転後にかかる力がF0より小さい場合には、実際の変位はL0よりもかなり小さくなるはずである。しかしながら、この場合には、L0よりもわずかに大きい変位で計算された補正量が使用されるので、補正量が過大になり、ワークに切込みが発生する可能性がある。
【0045】
これに対し、本発明においては、ステップS22、S23で説明した式(1)、(2)を用いて、第一初期偏差ΔP1および第二初期偏差ΔP2と所定の定数αとに基づいて指令偏差を計算している。そして、式(3)を用いて、指令偏差から現在の偏差を減算して補正量を計算している。指令偏差の模式図である図7に示されるように、指令偏差は第一方向における初期偏差ΔP1と第二方向における初期偏差ΔP2との合計をα:1−αに内分する内分点である。
【0046】
この場合には、第一弾性変形部61および第二弾性変形部62の弾性変形が考慮されるので、補正量が過大になることはない。このため、本発明においては、ワークが過大に加工されることはなく、ワークの表面に切込みが形成されることもない。このため、ワークが加工不良と判断される可能性を下げることができる。
【0047】
また、定数αは例えば0.75〜0.95の間の値であるのが好ましい。このような場合には、ワークが加工不良と判断される可能性を更に下げることができる。また、定数αが0.75またはその近傍である場合には、ワークの表面に切込みが生じる可能性を大幅に低下することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 モータ制御装置
11 エンコーダ(第一位置検出部)
12 スケール(第二位置検出部)
20 位置指令作成部
21 減算器
22 加算器
24 速度指令作成部
25 減算器
26 トルク指令作成部
31 偏差計算部
32 判定部
33 保持部
34 補正量計算部
51 ネジ
52 ナット
53 結合部材
54 テーブル
61 第一弾性変形部
62 第二弾性変形部
63 モータ位置部材
64 直線型アクチュエータ
WA 可動部
WB 被駆動部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C