【文献】
RAO,Y.K. et al,CHEMICAL RESEARCH IN TOXICOLOGY,2011年,Vol.24,No.2,pp.238-245
【文献】
CHIANG,H-C. et al,PSYTOCHEMISTRY,1995年,Vol.39, No.3,pp.613-616
【文献】
SHI,H. et al,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2011年,Vol.133,pp.14944-14947 and Supprting Info
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0039】
先行研究は、ベニクスキノタケから単離された天然化合物であるアントロシンが、乳癌細胞の細胞増殖を有効に阻害することを実証した(Raoら、2011)。本発明は、化学的に合成したアントロシン(ベニクスキノタケに含まれる天然化合物)を提供すること、および化学的に合成したアントロシンのヒト非小細胞肺癌細胞の成長への影響を検討することを目的としている。
図4(A)に示した通り、化学的に合成したアントロシンの癌細胞成長阻害への有効性は、非小細胞肺癌細胞株(NSCLC)によって異なり、最も強力な阻害は、H1975およびH441細胞株で観察された。化学的に合成したアントロシンは、癌細胞の増殖に対して、顕著な阻害効果を有したが、正常ヒト気管支上皮細胞に対する細胞毒性を有しなかった。
【0040】
本発明は、さらに、H1975およびH441細胞株をモデルとして使用して、化学的に合成したアントロシンの細胞増殖への阻害効果が、アポトーシスの誘導と関連したかどうかを調査した。
図4(B)に示した通り、H1975およびH441細胞株を、アントロシンで48時間処理した後、アポトーシスの初期段階と最終段階での細胞総数の比は、用量依存的に著しく増加した。この結果は、化学的に合成したアントロシンが、ヒトNSCLC細胞のアポトーシスを実際に誘導することを示した。
【0041】
本発明は、さらに、遺伝子レベルで、アントロシンの癌細胞への効果を調査した。H441細胞を、5μMのアントロシンで12時間処理した後、アントロシンの遺伝子転写への影響を分析した。発現が3.5倍以上阻害された遺伝子のみを、標的遺伝子として、GeneSpringソフトウェアパッケージによって分析し、その結果を、樹形図を使用して示した(
図5)。この結果は、100超の遺伝子の発現が、アントロシンの処理によってかなり影響を受けることを示した。これらの遺伝子は、細胞増殖、炎症反応、転移、侵入、血管新生、および細胞周期調節に重要な役割を果たす。Table 1(表1)は、アントロシンの処理によって発現が大幅に抑制された遺伝子をまとめたものである。これらの遺伝子は、転写因子NF-kB、例えば、サイトカイン(IFI44、IFIT1、MX1)、炎症反応(NFkB1およびIFIT2)、幹細胞特性(CTNNBL1、SENP2、CEACAM1およびPOU5F2)、および薬剤耐性反応(ABCB5、ABCG2およびXAF1)などと関連する。前述のマイクロアレイ結果に基づいて、本発明は、さらに、炎症関連因子、幹細胞特性および薬剤耐性関連分子と関係がある、タンパク質の発現を調査した。
【0044】
アントロシンは、転移性の高いH441細胞の増殖を阻害した。用量を増やした場合、アントロシンは、カスパーゼ酵素3を顕著に活性化し、H441細胞のアポトーシスを誘導した(
図6)。加えて、アントロシンはまた、XIAP、NF-kB-p65、およびサイクリンD1を含めた炎症反応関連分子と関係があるタンパク質発現も、用量依存的に阻害した。
【0045】
本発明は、さらに、in vivoでのアントロシンの抗癌効果を調査した。ホタルルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質を発現しているH441-L2G細胞(6×10
5/100μl PBS)を、外側尾静脈を介して、静脈内注射により、非肥満型の糖尿病/重症複合免疫不全マウスに注入した。4週間の期間にわたって毎日、アントロシンの腹腔内注射(2つの群のマウス、低用量の5mg/kg/日および高用量の10mg/kg/日)を施し、腫瘍の成長を観察した。腫瘍の成長は、低用量のアントロシンを与えられたマウスの半数において、2週間後に阻害された。第3週に、これらのマウスのほとんどにおいて、腫瘍の成長が観察された(
図7(A)および
図7(B))。アントロシンで処理された群と対照群との間で体重の大きな差はなかった(
図7(C))。
【0046】
生存率に関して、中央値は、対照群について28日であり、処理した群について、50日超であった。5mg/kg/日の低用量のアントロシンで処理したマウスの75%が、50日よりも長く生き続けた。実験の最終日(50日目)に、生存期間中央値は、少なくとも60%延びた(
図7(D))。
【0047】
アントロシンは、1つから3つのキラル中心を有し、それらは、アントロシンの様々な立体異性形態を与えることができる。本発明のアントロシンは、すべてのそのような異性体を含む。アントロシンは、肺腺癌細胞の増殖に対して、選択的な阻害効果を有する。アントロシンまたは医薬として許容されるその塩と医薬として許容される担体とを含む組成物の形態での、低用量のアントロシンは、低分子量なので、治療効果をもたらすのに十分である。本発明の医薬組成物は、癌細胞の成長および増殖を阻害するために使用することもできるし、癌、癌の症状、または癌になりやすい人の健康状態を治癒させる、回復する、緩和する、軽減する、変化させる、治療する、改善する、和らげる、またはそれらに影響を及ぼすために、患者(癌患者、癌の症状を有する患者、癌になりやすい患者)に投与することもできる。本明細書で使用する場合、「有効用量」は、アントロシンまたは医薬として許容されるその塩の有効用量、すなわち、治療応答または阻害効果を生じさせる量を指す。有効用量は、投与経路、賦形剤、および組成物に含まれる他の活性剤に応じて変わり得る。
【0048】
本明細書で使用する場合、「肺癌」は、肺細胞癌を指す。組織細胞の種類に基づき、肺癌は、小細胞肺癌(SCLC)と非小細胞肺癌(NSCLC)に分けることができ、後者が、最も一般的なタイプの肺癌である。NSCLCは、さらに、腺癌と扁平上皮癌に分けることができ、ほとんどのNSCLCは、腺癌である。肺癌のlつの特徴は、初期転移であり、初期転移は、早期の肺癌を患う患者の50%において、治療して5年後に起こる。現在のTNM病期分類システムは、肺癌の予後を正確に予測することができない。本明細書で使用する癌には、すべてのタイプの癌性増殖または発癌プロセス、転移組織、または細胞、組織もしくは臓器の癌化(病理組織学的特徴とは無関係)、または任意の侵入段階が含まれる。
【0049】
本発明のアントロシンは、化学的に合成される。1995年に、アントロシンがベニクスノキタケ中に存在することが初めて報告された(Chiangら、Phytochemistry(1995)39、613〜616)。それ以来、アントロシンに関する報告は、乳癌細胞の増殖を阻害するアントロシンの効果を証明したと報告した、2011年2月15日に発表されたもの(Raoら、Chemical Research Toxicology(2011)24、238〜245)以外存在しない。その他の報告は、全く見つけることができず、アントロシンの薬理活性に関する報告さえ見つけることができない。多分、アントロシンは、ベニクスノキタケ中に微量しか存在せず、ベニクスノキタケからアントロシンを単離することは困難であろう。
【0050】
本発明は、アントロシンが、正常細胞(正常ヒト気管支上皮細胞BEAS2B)に対して細胞毒性を示すことなく、ヒト非小細胞癌細胞の細胞増殖を有効に抑制することを開示する。さらに、アントロシンは、炎症反応関連タンパク質の発現を抑制すること、カスパーゼ-3酵素を活性化すること、ならびにXIAP、NF-kB-p65およびサイクリンD1の発現を抑制することにより、H441細胞の細胞増殖を阻害する。アントロシンは、in vivoでの腫瘍の成長も大幅に阻害する。ベニクスノキタケの中には、複数の天然化合物が存在するが、今までのところ、アントロシンが、唯一の化学的に合成できる天然化合物である。アントロシンは、ヒト非小細胞肺癌細胞の細胞増殖を有効に抑制することが、in vivoおよびin vitro実験により確証されている。
【0051】
本発明のアントロシンまたは医薬として許容されるその塩は、経口的に、非経口的に、吸入により、またはリザーバー設置により、同時または別々に投与することができる。本明細書で使用する場合、「非経口的」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜(腔)、胸骨内、髄腔内、病巣内、および頭蓋内、ならびに潅流法を指す。
【0052】
適切な剤形を、本発明のアントロシンまたは医薬として許容されるその塩、および少なくとも1種の固体、液体または半固体の賦形剤または補助剤により製剤化することができる。剤形としては、これらに限定されないが、錠剤、カプセル剤、乳剤、水性懸濁剤、分散剤、および液剤が挙げられる。錠剤に一般的に使用される担体としては、ラクトースおよびトウモロコシデンプンが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も、一般に、錠剤に含まれる。カプセル剤に使用される希釈剤としては、ラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが挙げられる。剤形が、水性懸濁剤または乳剤であり、経口投与される場合、活性成分は、乳化剤または懸濁化剤と組み合わせた油相に懸濁または溶解させることができる。必要に応じて、特定の甘味料、着香料、および着色料を添加することができる。
【0053】
本発明のアントロシンまたは医薬として許容されるその塩は、適切な分散剤または湿潤剤(例えば、Tween 80)を使用する当分野で公知の技術によって、無菌注射剤組成物(例えば、水性または油性懸濁物)として製剤化することもできる。無菌注射剤は、無菌の注射用溶液または懸濁物を、非経口的使用に適した無毒な希釈剤または溶媒、例えば、1,3-ブタンジオールに添加することにより製剤化することができる。適切な担体および溶媒としては、マンニトール、水、リンガー溶液、および等張食塩溶液が挙げられる。加えて、無菌の固定油が、溶媒または懸濁媒として使用されることが多い(例えば、合成のモノグリセリドまたはジグリセリド)。脂肪酸、例えば、オレイン酸およびそのグリセリド誘導体も、無菌注射剤を製剤化するために使用することができる。脂肪酸は、天然の、医薬として許容される油、例えば、オリーブ油、ひまし油、特に、それらのポリオキシプロピレンエチルの形態である。これらの油性溶液または懸濁物は、長鎖アルコール希釈剤もしくは分散剤、カルボキシメチルセルロース、または類似の分散剤を含むこともできる。
【0054】
アントロシンまたは医薬として許容されるその塩は、当分野における周知の技術によって、吸入製剤に製剤化することもできる。例えば、塩溶液は、ベンジルアルコールもしくは他の適切な防腐剤、生物学的利用能を高めることが知られている吸収促進剤、フルオロカーボン、または当分野で公知の他の共溶媒もしくは分散剤を使用して製剤化することができる。
【0055】
医薬組成物に使用される担体は、「許容される」ものであり、活性成分に適合し(好ましくは、活性成分を安定させることができ)、患者に無害でなければならない。例えば、可溶化剤(例えば、シクロデキストリン(特定のよりいっそう溶けやすい複合体を形成するために、活性化合物の1種または複数の抽出物と共に))を、活性成分を移動させるための補助剤として使用することができる。担体の他の例としては、コロイド状シリカ、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、およびドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0056】
高用量の抗癌剤が患者に投与された場合、患者に有毒作用をもたらす傾向がある。したがって、本発明の医薬組成物は、癌細胞の増殖を抑制する有効量のアントロシンを含有し、ここで、アントロシンの有効量は、1mg/kg/日から50mg/kg/日、好ましくは5mg/kg/日から10mg/kg/日である。個々の患者に投与されるアントロシンの具体的な量は、摂取される特定化合物の生物活性、年齢、体重、健康状態、性別、投与の時間および経路、排泄率、医薬物質の組成、治療すべき病気の重症度などの因子によって決定される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図4】ヒト非小細胞肺癌細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導するために投与された、化学的に合成したアントロシンの用量依存的な効果を示す図である。パート(A)は、ヒト非小細胞肺癌細胞およびヒト気管支上皮細胞の増殖を阻害するために投与された、化学的に合成したアントロシンの用量依存的な効果を示すグラフである。パート(B)は、H1975細胞およびH441細胞における、化学合成アントロシン誘導アポトーシスを示す図である。
【
図5】パート(A)は、アントロシンで処理したH441細胞の遺伝子マッピングである。濃い灰色の領域は、標的遺伝子を表し、薄い灰色の領域は、標的遺伝子以外の遺伝子を表す。パート(B)は、STRING9.0ソフトウェアパッケージの使用により予測された、アントロシンにより影響を受けるH441細胞のシグナル伝達経路、および阻害可能な標的遺伝子を示す図である。
【
図6】アントロシンが、主に、カスパーゼ-3酵素経路の活性、ならびにXIAP、NF-kBおよびサイクリンD1発現の阻害によって、H441細胞の腫瘍形成を阻害することを示す図である。アントロシンのタンパク質発現に対する阻害効果を、相対的倍数として示す。β-アクチンタンパク質が、内部基準(ローディング対照)であった。3つの別個の実験が、同じような結果を示した。
【
図7】アントロシンが、in vivoで、肺腫瘍形成を阻害することを示す図である。H441-2G細胞(6×10
5/100μl PBS)を、外側尾静脈を介して、免疫不全マウスに静脈内注射した。アントロシンによる治療(5mg/kg/日の低用量および10mg/kg/日の高用量)を、4週間にわたって、担腫瘍マウスに毎日腹腔内注射することにより実施した。週1回観察し、データを、(A)VIS画像、(B)腫瘍の成長、(C)体重、および(D)生存曲線について記録した。
【0058】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、非限定的であり、本発明の種々の態様および特徴を代表するものにすぎない。
【0059】
(実施例)
(実施例1)
アントロシンの調製
別段の指定がない限り、すべての反応を、N
2保護および無水条件下で行った。すべての試薬は、試薬供給業者から商業的に入手可能であり、精製することなくそのまま使用した。試薬を、Purification of Laboratory Chemicals(Peerrinら、Pergamon Press: Oxford、1980)に記載されているガイドラインに従って精製した。テトラヒドロフラン(THF)およびトルエンを、精製のために、金属ナトリウムと共に還流し、DCMを、CaH
2還流により精製した。別段の指示がない限り、収率は、カラムクロマトグラフィーから得る。
【0060】
Qingdao Ocean Chemical Plantにより製造された薄膜クロマトグラフィーシリカゲルプレート(60F-254)を使用して、反応および試験を行った。Qingdao Marine Chemical Inc.によって製造された、200〜300メッシュのシリカゲルを、カラムクロマトグラフィー用に使用し、石油エーテルの沸点範囲は、60〜90℃であった。
【0061】
すべての赤外線データは、以下の装置、すなわちShimadzu IRPrestige 21により測定し;すべての核磁気共鳴を、以下の装置、すなわち、Bruker Advance 500(
1H:500 MHz、
13C:125MHz)により測定し、TMS、または重水素化溶媒中に残った非重水素化溶媒を、内部標準として使用した。
【0062】
アントロシンの反応経路を、
図2および
図3に示し、それは、以下のステップに従う。
【0063】
化合物Fの合成
【0064】
【化13】
【0065】
マグネシウム屑(0.49g、20mmol)とヨウ素の小片とを含有する、THF(3mL)中の混合物を、加熱して沸騰させた。以下の構造を有するグリニャール試薬を、その混合物にTHF溶液(10mL)中の(4-ブロモ-ブタ-1-イニル)トリメチルシランを滴下添加することにより調製し、室温で0.5時間撹拌し続けて、以下の構造、
【0066】
【化14】
【0067】
を有するグリニャール試薬を調製した。
【0068】
調製したグリニャール試薬を、-78℃で、THF溶液(40mL)中のCuBr・Me
2S(0.32g、1.56mmol)の混合物に添加した。次いで、THF溶液(27mL)中の、化合物H(0.95g、5.2mmol)の混合物を滴下添加した。2時間撹拌した後、飽和NH
4Cl水溶液(50mL)を添加して、反応をクエンチした。水性相を、EtOAc(40mL×2)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥し、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/100)により精製して、黄色の油性液体化合物Gを得た。
【0069】
THF溶液(60mL)中の化合物Gを、-78℃に冷却し、超原子価ヨウ素化合物(2.5g、7.3mmol)およびTBAF溶液(THF中1M、7.3mL、7.3mmol)を添加した。溶液を、-40℃で4時間撹拌し、飽和NH
4Cl水溶液(50mL)を添加して、反応をクエンチした。水性相をEtOAc(40mL×2)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥して、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/20)により精製して、1.01gの無色の油性液体を得た(2つのステップについて収率58%)。
【0070】
IR(neat、cm
-1):3283、2960、2174、1750、1727、1434、1250、1220、1135、844、760、641;
【0071】
【数1】
【0072】
化合物Eの合成
【0073】
【化15】
【0074】
LiAlH
4(0.49g、12.9mmol)を、-40℃で、THF溶液(30mL)中の化合物F(1.07g、3.2mmol)に添加した。室温で4時間撹拌し、飽和酒石酸カリウムナトリウム溶液(20mL)を使用して、反応をクエンチした。水性相を、EtOAc(20mL×3)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥し、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/3)により精製して、0.86gの無色の油性液体を得た(収率87%)。
【0075】
IR(neat、cm
-1):2958、2920、2851、1261、1249、1034、841、796、668;
【0076】
【数2】
【0077】
化合物Dの合成
【0078】
【化16】
【0079】
KOH(0.76g、13.5mmol)を、室温で、THF/MeOH/H
2O溶液(20mL/10mL/2mL)中の化合物D(0.84g、2.7mmol)に添加した。反応系を、6時間還流し、0℃に冷却し、飽和NH
4Cl水溶液(20mL)を使用して、反応をクエンチした。水性相を、EtOAc(15mL×2)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥し、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/3)により精製して、0.6gの無色の油性液体を得た(収率95%)。
【0080】
IR(neat、cm
-1):3299、2954、2878、2115、1631、1464、1434、1379、1056、998、634;
【0081】
【数3】
【0082】
化合物Cの合成
【0083】
【化17】
【0084】
TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-1-イル)オキシフリーラジカル)(0.16g、1.03mmol)、およびBAIB(ヨードベンゼンジアセタート)(0.56g、1.74mmol)を、室温で、DCM溶液(14mL)中の化合物D(0.34g、1.45mmol)に添加した。反応系を12時間撹拌し、飽和Na
2S
2O
3水性溶液を使用して、反応をクエンチした。水性相をDCMで抽出して、有機相を合わせて、乾燥して、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/8)により精製して、無色の油性液体を得た。
【0085】
前のステップから得られた生成物を、tBuOH(8mL)およびリン酸緩衝溶液(pH=6.8、8mL)に溶解し、NaClO
2(1.05g、11.6mmol)および90%イソブチレン(4.3mL、36.3mmol)を、室温で添加した。反応系を15時間撹拌し、水性相を、EtOAc(6mL×3)で抽出した。有機相を合わせて、乾燥して、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/2)により精製して、0.185gの黄色の固体を得た(2つのステップについて51%)。
【0086】
IR(neat、cm
-1):3297、2962、2870、2118、1709、1460、1392、1370、1264、1229、1071、932、640;
【0087】
【数4】
【0088】
化合物Bの合成
【0089】
【化18】
(IPr)AuCl(18.6mg、0.03mmol)、ベンジルアルコール(93μL、0.9mmol)およびAgSbF
6(10.3mg、0.03mmol)を、室温で、DCM溶液(6mL)中の化合物C(74.5mg、0.3mmol)に添加した。反応系を1時間撹拌し、溶液を、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/10)により精製して、58mgの白色の固体を得た(収率54%)。
【0090】
IR(neat、cm
-1):3486、2949、2869、1778、1455、1357、1144、1086、967、740、698;
【0091】
【数5】
【0092】
化合物Aの合成
【0093】
【化19】
【0094】
ナトリウム(23mg、1mmol)を、-78℃で液体アンモニア(3ml)に添加し、0.2時間撹拌した。次いで、THF溶液(2.4mL)中の化合物B(18mg、0.05mmol)を滴下添加した。反応系を0.6時間撹拌し、飽和NH
4Cl水溶液(2mL)を使用して、反応をクエンチした。水性相を、EtOAc(2mL×2)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥し、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、粗生成物を得た。
【0095】
粗生成物を、室温で、MeOH(2.5mL)に溶解し、5MのHCl溶液を、反応系に添加した(pH=2)。反応溶液を、50℃で3時間撹拌し、飽和NaHCO
3水溶液(2mL)を使用して、反応をクエンチした。水性相を、EtOAc(3mL×3)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥して、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/6)により精製して、57mgの白色の固体を得た(2つのステップについて収率71%)。
【0096】
IR(neat、cm
-1):3428、2958、2928、2854、1765、1746、1382、1261、1161、1055、802;
【0097】
【数6】
【0098】
天然産物アントロシンの合成
【0099】
【化20】
【0100】
-78℃で、NaHMDS(ビス(トリメチルシリル)アミド)THF中2M、33μL、0.066mmol)を、THF溶液(2mL)中の化合物A(11mg、0.044mmol)に滴下添加した。0℃で0.5時間撹拌し、二硫化炭素(8μL、0.132mmol)を添加した。室温で1時間撹拌し、次いで、MeI(19μL、0.308mmol)を添加した。反応溶液を2時間撹拌し、飽和NH
4Cl水溶液(2mL)を使用して、反応をクエンチした。水性相を、EtOAc(3mL×2)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥し、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/30)により精製し、油性生成物を得た。
【0101】
油性生成物を、室温で、トルエン(2mL)に溶解し、nBu
3SnH(23μL、0.088mmol)を添加した。混合物を、110℃に加熱し、次いで、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)(2mg)を添加した。反応系を1時間撹拌し、溶液を室温に冷却して、ロータリーエバポレーションにより濃縮し、カラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1/30)により精製して、8mgの天然産物アントロシンを得た(2つのステップについて収率78%)。
【0102】
IR(neat、cm
-1):2934、2854、1768、1457、1375、1368、1190、1121、1055、894;
【0103】
【数7】
【0104】
(実施例2)
アントロシンの生物学的活性の分析
(A)凍結細胞の活性化
凍結細胞を活性化するために、急速解凍は、細胞に害を与えて細胞死につながる氷晶の再結晶化を回避する鍵である。凍結細胞を活性化させた後、その凍結細胞が正常に戻る(例えば、モノクローナル抗体または他のタンパク質を生成する)までには数日かかるか、1代から2代の継代培養が必要となる。凍結細胞を急速解凍するために、凍結バイアルを、液体窒素またはドライアイス容器から取り出し、37℃の水浴に浸した。凍結バイアルを穏やかに振って、そのバイアルは3分で溶け、バイアルを70%アルコールで拭いて、バイアルを無菌の作業台に移した。解凍した細胞懸濁液を取り出し、成長培地(希釈率1:10〜1:15)で満たしたペトリ皿にゆっくり添加し、完全に混合し、CO
2インキュベーターの中にペトリ皿を入れた。翌日、成長培地を、新しい成長培地に取り替えた。
【0105】
(B)ヒト肺癌細胞株および培養
ヒト肺癌細胞株(CL1-0、CL1-5、H1975、H441、PC9、Α549)およびヒト気管支上皮細胞株(BEAS-2B)を、Taipei Medical Universityのthe Institute of Clinical Medicineから入手した。5%CO
2の湿式インキュベーターにおいて、10%ウシ胎児血清、2mMのグルタミン、1100μg/mlのストレプトマイシンおよび100U/mlのペニシリンを補給した、DMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)およびRPMI基本培地で細胞を成長させて、維持した。
【0106】
(C)医薬による肺癌細胞の処理
肺癌細胞を、完全に発達した大きさの約80%に成長するまで、10%のウシ胎児血清を補給した培地で成長させた。古い培地溶液を流し出し、肺癌細胞を、PBS緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、10mlの血清非含有培地を添加した。実験の目的に従って、異なる医薬を添加し、すべての反応を、37℃のインキュベーターにおいて行った。
【0107】
(D)細胞毒性
ヒト肺癌細胞(CL1-0、CL1-5、H1975、H441、PC9、Α549)、およびヒト気管支上皮細胞(BEAS-2B)を、96ウェル培養プレートに(2000細胞/ウェル)播種し、100μlの完全なDMEMにおいて一晩中インキュベートした。50μlのアントロシン(0.5〜10μΜ)を含有する、等しい量の完全なDMEMのサンプルを、培養プレートの他のウェルに入れた。さらに、100μlの完全なDMEMのサンプルも、対照群としてウェルに入れた。2日後、各ウェルのヒト細胞の総数を、スルホローダミンB(蛍光性タンパク質染料)を使用して測定した。手短に述べると、ヒト細胞を、10%のトリクロロ酢酸で固定し、0.4%のスルホローダミンBにより染色した。20分間染色した後、ヒト細胞を、1%の酢酸で洗浄し、次いで、ヒト細胞と結合したスルホローダミンBを、10mMのトリス塩基に溶解した。光学密度を、マイクロタイタープレート検出器により、562nmで測定した。前述の方法も使用して、ヒトのCL1-0、CL1-5、H1975、H441、PC9、Α549およびBEAS-2B細胞のアントロシンへの感受性を決定した。
【0108】
(E)アポトーシス
アントロシンで処理した後、H441細胞を、トリプシン-エチレンジアミン四酢酸(トリプシン-EDTA)で処理し、培養液と共に集め、遠心分離して上清を除去し、4℃のリン酸緩衝溶液において洗浄した。1mlの氷冷75%エタノールを添加した後、H441細胞を、4℃で、一晩冷蔵庫に入れて固定させた。遠心分離後、H441細胞を1mlのPBSに懸濁させ、適切な量のリボヌクレアーゼA(RNアーゼA)を添加し、H441細胞を、反応のために、37℃で30分間放置した。最後に、40mg/mlのヨウ化プロピジウム(PI、Sigma Chemical Co.、カタログ番号p-4170)を添加し、H441細胞を、避光反応(dark reaction)のために、さらに30分間放置した。次いで、H441細胞を、35mmのナイロンメッシュを使用して集め、495nmの波長で励起させ、H441細胞の蛍光強度を、フローサイトメーターにより、637nmの波長で検出し、分析した。
【0109】
(F)生物発光イメージング(BLI)
ホタル蛍光遺伝子(ホタルルシフェラーゼ)を、遺伝子組換えにより、H441肺癌幹細胞に導入し、次いで、肺癌細胞(ホタル蛍光遺伝子を含有する)を、FACS(蛍光活性化セルソーター)により、H441肺癌幹細胞から単離し、免疫不全マウスの皮下に、または尾静脈を介して循環系に注入した。IVISイメージングシステム(IVIS(登録商標)Imaging System 200 Series、Xenogen)を、生物発光イメージングのために、本発明の実施形態において使用した。すべてのマウスに、腹腔内注射により、150mg/kgのD-ルシフェリンを導入し、マウスを、IVIS200の暗室に固定して10分後、IVIS200の高感度のCCDカメラを使用して、H441癌細胞内のホタル蛍光遺伝子により放たれた冷光を検出した。すべてのマウスを、120秒間撮像し、信号強度が飽和したとき、撮像時間を短縮した。すべてのマウスに麻酔(2%のイソフルランおよび98%の酸素ガス)を施し、撮像プロセス全体を通して意識を失わせた。IVI200のソフトウェアパッケージを使用して、腫瘍の大きさと、冷光により放たれた信号強度とを比較し、分析した。アントロシンのヒト肺癌細胞への阻害効果を、この生物発光イメージングシステムを使用して評価した。
【0110】
アントロシンは、ヒトNSCLC細胞の増殖を阻害する。
【0111】
先行研究は、天然のアントロシンが、乳癌細胞の細胞増殖を阻害することを実証した(Raoら、2011)。本発明は、さらに、化学的に合成されたアントロシンのNSCLC細胞の増殖への阻害効果を研究した。
図4(A)に示す通り、化学的に合成されたアントロシンの癌細胞の増殖の阻害に関する有効性は、非小細胞肺癌細胞株(NSCLC)によって異なり、最も強力な阻害は、H1975細胞株およびH441細胞株において観察された。化学的に合成されたアントロシンは、癌細胞の増殖に対して顕著な阻害効果を有したが、正常ヒト気管支上皮細胞に対する細胞毒性を有しなかった。
【0112】
本発明者らは、化学的に合成されたアントロシンの肺癌細胞の増殖への阻害効果が、肺癌細胞におけるアポトーシスの誘導と関係しているかどうかを決定するために、H1975細胞およびH441細胞をさらに研究した。
図4(B)に示す通り、48時間のアントロシンの処理の結果、用量依存的に、アポトーシスの初期および後期段階において、細胞の数が増加した。これらの結果は、化学的に合成されたアントロシンが、ヒトNSCLC細胞のアポトーシスを誘導したという証拠を与えた。
【0113】
アントロシンは、H441細胞における炎症反応関連遺伝子の発現を阻害する。
【0114】
本発明は、さらに、遺伝子レベルで、アントロシンの癌細胞への効果を調査した。H441細胞を、5μMのアントロシンで、12時間処理した後、アントロシンの遺伝子転写への影響を分析した。発現が3.5倍以上阻害された遺伝子のみを、標的遺伝子として、GeneSpringソフトウェアパッケージによって分析し、その結果を、樹形図を使用して示した。STRING9.0ソフトウェアパッケージも、H441細胞のシグナル伝達経路、および阻害可能な標的遺伝子に対するアントロシンの影響を予測するために使用した(
図5)。この結果は、100超の遺伝子の発現が、アントロシンによってかなり影響を受けることを示した。これらの遺伝子は、細胞増殖、炎症反応、転移、侵入、血管新生、および細胞周期調節に重要な役割を果たす。Table 1(表1)は、アントロシンの処理によって発現が大幅に阻害された遺伝子をまとめたものである。これらの遺伝子は、転写因子NF-kB、例えば、サイトカイン(IFI44、IFIT1、MX1)、炎症反応(NFkB1およびIFIT2)、幹細胞特性(CTNNBL1、SENP2、CEACAM1およびPOU5F2)、および薬剤耐性反応(ABCB5、ABCG2およびXAF1)などと関連する。前述のマイクロアレイ結果に基づいて、本発明は、さらに、炎症反応、幹細胞特性および多剤耐性と関係がある、タンパク質の発現を調査した。
【0115】
アントロシンは、カスパーゼ-3酵素の活性化、ならびにXIAP、NF-kB-p65およびサイクリンD1発現の阻害により、H441細胞の細胞増殖を阻害する。
【0116】
アントロシンは、転移性の高いH441細胞の増殖を阻害した。用量を増やした場合、アントロシンは、カスパーゼ酵素3を顕著に活性化し、H441細胞のアポトーシスを誘導した(
図6)。加えて、アントロシンはまた、XIAP、NF-kB-p65、およびサイクリンD1を含めた炎症反応関連タンパク質の発現も、用量依存的に阻害した。
【0117】
アントロシンは、in vivoでの癌細胞の増殖を大幅に阻害する。
【0118】
本発明は、さらに、in vivoでのアントロシンの抗癌効果を調査した。ホタルルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質を発現しているH441-L2G細胞(6×10
5/100μl PBS)を、外側尾静脈を介して、静脈内注射により、非肥満型の糖尿病/重症複合免疫不全マウスに注入した。4週間の期間にわたって毎日、アントロシンの腹腔内注射(2つの群のマウス、低用量の5mg/kg/日および高用量の10mg/kg/日)を施し、腫瘍の成長を観察した。腫瘍の成長は、低用量のアントロシンを与えられたマウスの半数において、2週間後に阻害された。第3週に、これらのマウスのほとんどにおいて、腫瘍の成長が観察された(
図7(A)、
図7(B))。アントロシンで処理された群と対照群との間で体重の大きな差はなかった(
図7 (C))。
【0119】
生存率に関して、中央値は、対照群について28日であり、処理した群について、50日超であった。5mg/kg/日の低用量のアントロシンで処理したマウスの75%が、50日よりも長く生き続けた。実験の最終日(50日目)に、生存期間中央値は、少なくとも60%延びた(
図7(D))。
【0120】
本発明の好ましい実施形態を示し、説明してきたが、当業者により、特に、前述の教示に照らして、変更形態が作製され得るので、本発明は、それらに限定されないことが分かる。したがって、添付した特許請求の範囲は、そうした変更形態を含み、本発明の趣旨および範囲内にあるそれらの特徴を組み込むことを企図しているものである。